マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

『ボラード病』吉村萬壱

2015-02-12 | book
福島の原発の事故からもうすぐ4年、
たった4年で過去に追いやられようとしています。
あったことをまるで無かったかのように、
誰も責任をとらず再稼働を言い募るというおぞましい事態が進行しています。

この小説『ボラード病』は
あくまで小説で、架空の町「海塚市」の物語ですが、
福島かもしれないし、日本の地方都市のどこかかもしれません。

海塚市には大災害があったけれど、復興を果たしたとして、
人々は町に戻っています。
学校では「ふるさと海塚」を讃える教育が行われ
たえず「海塚」の歌を唄い皆で海塚を愛する気持ちを確かめあいます。
海塚産の野菜や果物は一番美味しく魚は新鮮です。
町では「絆」が絶えず強調されます。
表だって反抗的な言辞や態度を示す者はある日どこかに連れていかれて消えてしまいます。


主人公は母と二人で暮らしている小学生。
母は地元のスーパーで食料品を買うのですが娘には決して食べさせません。
娘には寄付をしていると言うのですが、実際には捨てている事を娘は知っています。
災害から8年経って、クラスの友達が急に何人も入院し次々亡くなります。
葬儀で、遺族や町の人々は、
「○○は海塚の風になった、海塚の自然に帰った、私たちの心の中に生きている、」と言うのです。


母の苦しみと娘の苦しみと、
それぞれの苦しみが頂点に達するかと思う時、
娘はある日、ボランティア活動の中で、ふっと楽になったことを発見します。
なんだ、こんなに楽に息ができる、と。
明るくなった主人公の顔を見て母が言うのです。
「同調したのね」

物語の底から慟哭が聞こえます。

日本の小説と翻訳ものの海外の小説と半々くらいに読んでいますが、
大抵の日本の小説は毒が無くて生ぬるく感じます。
でもこの小説には毒があります。
毒は大切です。

静かに忍び寄るファシズムの不気味な姿が浮かび上がってきて、
苦しくて、悲しくて、怖ろしくて凄い小説でした。
*ボラードとは港などで、船を繋ぐ紐などをひっかけて結びつけるための、
 鉄などで出来たキノコ型の杭のようなモノのこと。

ボラード病2014・文芸春秋
   吉村萬壱 著(1961年生まれ、2003年芥川賞受賞)


              



コメント (1)
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