尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

岡真理『ガザとは何か』を読むー肺腑えぐる告発の書

2024年03月05日 22時26分53秒 |  〃  (国際問題)
 岡真理ガザとは何か』(大和書房、2023.12.31刊、1400円+税)を読んだ。講演の記録だから読みやすいけれど、内容が重いのでなかなか一気に読めない。それでも「読まなければならない」と思う多くの人々が手に取っている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル越境攻撃、それに対するイスラエルの全面的ガザ攻撃。その事態に対して、岡真理氏(早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授)の講演が10月20日に京都大学、10月23日に早稲田大学において緊急に実施された。その当時から非常に評判になって書籍化を望む声が高かったが、年末に早くも出版されたのである。

 この本は「イスラエルにもハマスにも問題がある」などと解説する本ではない。今回の事態を今回だけで見ていては本質を見誤るという前提に立ち、イスラエルの建国から説き起こし、特にガザの全面封鎖の国際法違反が告発されている。イスラエルによる占領が建国以来続いていて、パレスチナ側には抵抗する権利がある。確かにハマスには戦争犯罪にあたる行為があると書かれているが、それをもって「どっちもどっち」と考えてはならない。問題の本質はイスラエルの国家体制にある。その意味では「ガザとは何か」という書名になっているが、この本の正しい書名は「イスラエルとは何か」なのである。
(ガザ地区)
 パレスチナの抵抗権という視点から、今回の事態はイスラエルによるジェノサイドであると明確に認定している。それに加担する米欧諸国、追随する日本の姿勢も告発する。それとともに、自らも含む世界の無力、そして「見て見ぬ振り」が大きな犠牲をもたらした。そのことを厳しく指摘する。僕は「イスラエルとパレスチナ」という観点からは、この本に書かれていることは全く正しいと考える。ただいくつかの留保点もある。アラブ諸国は何をしているのだろうか。南アフリカは自らの経験から、イスラエルの「アパルトヘイト」(人種隔離政策)を鋭く告発している。それにも関わらず、近隣のアラブ諸国は何をしているのだろうか。
(ガザ拡大図)
 僕はその当時に書いた記事で「周辺アラブ諸国がともに立つことはない」と書いた。それはハマスとはムスリム同胞団だからである。エジプトのシーシ政権、シリアのアサド父子政権は成り立ちが全然違うけど、ムスリム同胞団が最大の政敵だという点では共通している。パレスチナ人一般の「抵抗権」は抽象的にはアラブ諸国が承認するだろう。だがガザ地区を支配する「ハマスとは何か」という問題も問わない限り、今回の事態の行く末を見通すことが出来ないと思う。
(岡真理氏)
 ところで日本の一般市民に何が出来るだろうか。ここでは「BDS運動」というものが紹介されている。「ボイコット、投資撤収、制裁」運動 (Boycott, Divestment, and Sanctions)の略語である。かつてアパルトヘイトを続ける南アフリカに対して、貿易、投資をしないというボイコット運動があった。日本企業は人権意識が低く、欧米企業が関与を控えた結果日本との貿易が増大した時期もあった。僕はその当時に抗議集会に参加したことがある。イスラエルとの関係においても同じような呼びかけがあるという。(Wikipediaに詳細な紹介がある。)日本政府や大企業は近年イスラエルとの「防衛協力」に積極的だが、そういう企業を批判する運動が必要だろう。(イスラエル内反体制派による文学、映画などは例外と考えている。)

 それと同時に、僕は長年ハンセン病問題冤罪問題を見て来て、マスコミが全く報じず「見て見ぬ振り」を続けるのはよく知っている。ハンセン病国賠訴訟や袴田事件再審開始などのトピックの時だけ、集中豪雨的報道が起こるのである。ガザの戦争も時間が経ち、今では報道も少なくなってきた。テレビニュースは「本日の大谷翔平」に長い時間を掛けるが、「本日のガザ」や「本日のウクライナ」はほとんど触れなくなってしまった。それはどんな問題でも似たような構図がある。絶望していても仕方ない。自分に出来ることを続けるしかないし、その出来ることの一つはこの本を買うことだ。それは著者や出版社への応援になる。そして僕が今やっているように、この本のことを発信することである。1500円ぐらいなんだから、一回何かを控えれば買えるはずじゃないか。
コメント
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