尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

トランプ政権の危険な核戦略

2018年02月15日 23時01分23秒 |  〃  (国際問題)
 2月2日に米国トランプ政権の「核態勢の見直し」(NPR=Nuclear Posture Review)が発表された。相手国からの核攻撃の抑止や反撃に止まらず、通常兵器による反撃にも核兵器を使用することを排除しないという驚くべき内容である。また爆発力を抑えた「小型核弾頭」などの開発を行うなど、「核兵器依存体制」というしかない。これじゃ冷戦時代の軍拡競争に逆戻りじゃないかと思うと、実際にトランプ政権は「世界は大国間の競争時代に戻った」と認識している。

 これほど間違った危険な政策が出てくるとは。いや、「間違った危険な政策」を最初に取ったのは、北朝鮮のキム・ジョンウン政権やロシアのプーチン政権の方だと言うがいるかもしれない。そうかもしれないが、世界「最強」の米軍が「戦略的忍耐」を行っている限り、言葉ではいくら脅し文句を並べても実際に核兵器を使用することはできない。「最初に核兵器を使用した」という歴史的汚名を残す指導者になりたい人はどんな独裁者にもいないだろう。

 核兵器を使用するハードルは非常に下がったと言えるだろう。アメリカが力の政策を取る限り、米国との緊張関係にある国はいつ核兵器で攻撃されないとも限らない。いや、自国の方からアメリカを攻撃しない限り、米国の核攻撃もないはずだから、米国の新政策は抑止力を増すことになるという考えもあるだろう。しかし、そういう風にはならない。自国が米国との緊張関係にある国は、トランプ大統領が「フェイクニュース」を信奉していることをよく知っている。いつでも「相手が先に攻撃した」とウソをついて、自国に小型核兵器を使用してくるか判らないと恐怖感を持つに違いない。

 米国政権に「信頼感」があれば、このような政策は必要ない。自分たちがガマンしても「ならず者国家」は自制しない、だからこっちもガマンするだけバカを見る、よって今後はこっちも自制しないという論理である。そう思われた側の国から見れば、アメリカは信頼できない、いつ何らかの理由をつけて核攻撃してくるか知れたものじゃないと思うに決まってる。「不信の連鎖」になるから、力の政策はかえって危険なのである。

 しかし、ここで僕が一番言いたいことはそういうことではない。核兵器は「根源的な悪」だということである。核兵器や化学兵器、生物兵器などの「大量破壊兵器」は、その本質から「反人道的な兵器」である。そして、中でも核兵器はその大量破壊性が際立ってる。あまりに強力なので、必ず「非戦闘員の殺傷」を目的とする残虐な戦争犯罪を引き起こすということである。「小型核兵器」なら戦時国際法をクリアーできるというもんじゃないだろう。国際法違反にならないレベルの「小型核兵器」なんてものがあるんなら、通常兵器で十分ではないのか。

 核兵器は国際法に違反する残虐な兵器である。そのことを日本国民なら全員判っているはずだ。だから、核兵器は使ってはならない。そのことを世界に訴えるのが日本の役割ではないのか。そういう根本的な原則の問題を置き去りにしていいのだろうか。ところが河野太郎外相はトランプ政権の新政策を「高く評価する」と宣言した。いくらアメリカに追随するしかない安倍政権としても、これは嘆かわしいというしかない。こういう時の言葉遣いにはいくつかのランクがあり、「支持する」「理解する」という言い方もある。しかし、「高く評価する」は最高ランクの支持表現である。

 原発や核燃料サイクルにあれほど厳しい対応をしてきた河野太郎氏が、こんな対応をするのか。安倍政権が2021年までは続くと見て、その後は石破、岸田には遅すぎ感が出てくる。そこでニューリーダーに名乗りを上げたい河野氏の思惑と、河野を持ち上げて他の有力者をけん制したい安倍首相の思惑と。そういうことが絡むんだろうが、河野太郎も単なる「総理の飼い犬」になってしまったのか。繰り返すが「核兵器は絶対悪」であるから、トランプ政権の政策は間違ってると声を挙げて行かないといけない。
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ジンバブエの「名誉革命」-ムガベ辞任をどう見るか

2017年11月22日 23時06分19秒 |  〃  (国際問題)
 世界最高齢の独裁者として知られていたジンバブエロバート・ムガベ大統領(1924.2.21~)がついに辞任を表明した。93歳だった。白人支配に対し独立運動を起こし、1980年に首相(当時は議院内閣制)、1987年からは大統領として独立後の37年間ずっと政治の実権を握っていた。ハイパーインフレで知られ、国内経済はとっくに破綻状態にあった。世界でも名高い圧政の独裁者だったが、まあ遠くない将来に自然的に終わりが来るだろうから放っておかれた感じだった。
 (ロバート・ムガベ)
 今回は国軍がクーデターを起こし、大統領と夫人を軟禁した。与党はムガベを党首から解任し辞任を迫っていた。ムガベはこの間大学の卒業式に出席するなど、一定の自由を得ていたけれど、事実上は軍に見放され辞任を避けられない状況だった。ジンバブエに大きな影響力を持つ南の大国、南アフリカも辞任に向け調停を進めていた。軍が弾圧に乗り出すことはないと確信した民衆は、反ムガベデモを行い、軍には感謝の意思を示した。この間、流血の事態は全く伝えられていない。一滴の血も流すことなく独裁者を辞任させたのだから、「ジンバブエの名誉革命」と言えるかもしれない。

 こうなった直接のきっかけは、11月6日にムナンガグワ第1副大統領を解任したこと。ムナンガクワも75歳だというが、長年のナンバー2として後継の最有力候補とされていた。しかし、近年41歳年下のグレース夫人が勢力を伸ばしてきた。もとは大統領府のタイピスト、秘書だったが、前妻の死亡後に結婚した。国会財政が破たんしているのにぜいたく好きで有名で、コンゴのダイヤモンド鉱山を私有したり、マレーシアに別荘を持っている。2009年には、カメラマンに対してダイヤの指輪をした手で暴行する事件を香港で起こした。世界的にひんしゅくの夫婦だったのである。

 欧米の主要国はムガベ大統領夫妻を入国禁止にしている国が多い。野党に対する弾圧、大統領選挙をめぐる不正疑惑などが問題視されてきた。安保理に制裁決議が出されたが、ロシアと中国の拒否権で実施されなかった。そんなムガベ夫妻を厚遇していたのが、なんと安倍政権。第2次安倍政権発足後、ムガベ大統領は3回来日し、特に2013年と2016年には夫妻で来日している。写真を検索すると、以下のようなものがすぐに見つかる。
 
 ジンバブエは、昔は「南ローデシア」と呼ばれていた。イギリスの植民地指導者、セシル・ローズにちなんだ名前から、独立後に改名した。昔の大王国の遺跡から「ジンバブエ」(石の家)と名付けられた。イギリスの植民地だったが、1965年に植民地政府のスミス首相が白人中心の国家「ローデシア共和国」の独立宣言を強行した。独立運動の経過は複雑なので今は省略するが、ムガベは中国の毛沢東思想の影響を受けていたとされる。選挙に勝って首相になったが、当初は穏健な経済運営を行い、識字率や乳幼児死亡率を改善して世界的に評価されていた。

 しかし、21世紀になってから白人農場主の土地を強制収容して黒人農民に配布する政策を進め、白人が大量に出国した。農業生産力は激減し、そこから経済悪化が進行した。通貨のジンバブエ・ドルは暴落に次ぐ暴落を記録し、2008年に1億ジンバブエ・ドル札が発行された後も、50億、500億、1000億ジンバブエ・ドル札と続き、ついに100兆ドル札まで発行される。インフレ率はほとんど計算不能で、物価が毎日2倍になるような状態だった。ほとんどジョークのような世界だが、結局どうなったか。

 2015年についにジンバブエ・ドルそのものが廃止になった。米ドルや南アフリカ・ランドをそのまま使うのである。それで独立国と言えるのかというありさまなのである。ちなみに、日本円も使えることになっている。法定通貨は、米ドル、南アフリカランド、ユーロ、英国ポンド、ボツワナ・プラ、人民元、インドルピー、豪ドル、日本円の9種類が指定されている。いや、ありえないでしょう。これは。

 そんな国家がどうして存立できていたか。国民の相当数が南アフリカやボツワナに出稼ぎに行く。そして、欧米諸国が経済制裁している間に進出してきた中国の援助。近年はさすがに中国もあまり援助してなかったという話もあるが、安保理で拒否権を使ってくれる中国(とロシア)は貴重である。中国も2015年の孔子平和賞をムガベに贈っている。これは劉暁波のノーベル平和賞に対抗して中国が作った賞で、今まで台湾の連戦、プーチン、カストロなんかに贈っていて、今年はカンボジアのフン・セン首相に決まったという。もらっても、どうも平和っていう名誉な感じがしない賞ではある。

 今回も解任されたムナンガグワは中国へ行ったという話もあるし、事前に軍首脳が中国を訪れていた。アメリカも事前に承知していたというし、南アフリカも知っていただろう。ある意味、米中でムガベ排除クーデタを仕組んだということなのかもしれない。そうなると、これは「北朝鮮問題」にも応用可能なのかという、非常に重大な問題につながるのだろうか。僕はそのことがすごく気にかかる。その意味でもアフリカ南部で起こった今回の事件は注目せざるを得ない。
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北朝鮮ミサイル問題、簡単に-北朝鮮問題⑧

2017年08月29日 21時00分32秒 |  〃  (国際問題)
 他のことを書きたいので、北朝鮮問題ミサイル発射問題を簡単に。29日の午前6時直前ごろに中距離弾道ミサイルが発射されたらしい。北海道南端をかすめて襟裳岬の東方1180キロの海上に落ちたという。あっという間に(6時5分から7分頃)に日本上空を通過していったのに、日本では「Jアラート」なるミサイル警戒警報を出して大騒ぎした。まあ予想されたことだが、無意味な空騒ぎだ。

 僕はこのブログで以下のように書いている。
・北朝鮮のミサイル実験はいずれ行われるだろう。作ったものは実験して確かめないと使えない。(中略)ミサイルだって、作った以上、実際に撃って確かめないと判らない技術的問題があるだろう。作ったら、発射実験はしてみたいに決まってる。
 だが、それがグアム島周辺海域かどうかは僕は疑問。標的地点を明かして、米軍に迎撃されたりすれば、米国技術の大宣伝になっちゃう。他に撃てば、元の標的が判らないんだから、作戦成功と言える。ということで、ミサイルや核兵器の実験はいつでもあり得るが、それで戦争にはなりにくい。(8.20)
・もし発射されたなら、それは「何ごともなく日本上空を通り過ぎて行く」可能性が圧倒的に高いはずである。(8.15)

 「ミサイル発射実験」はいつでも行われる可能性があるが、それはグアム島周辺ではない地点に向けて発射され、日本上空を通り過ぎて行くだろう。ということだから、書いた通りなんだけど、それは誇るほどのことでもなく、誰でも判ることだろう。僕だって判ってるんだから、もちろん米政府や米軍も、日本政府だってそうなると思っていたはずである。

 今さら驚いたリ怒ったりしているのは、そういうふりをしているんだろう。それは職責上やむを得ないかと思うけど、「かつてない暴挙」などと言うのはおかしい。日本領土をかすめるミサイル発射は今までもあり、今回が5度目だという。列島を横断した時もあるのに、今回は領土の真上は非常に少ない。「ある程度、日本へ配慮したコース」だったという方が正しいのではないかと思う。

 もちろん国連安保理決議違反のミサイル開発は認められないが、それはそれとして、北朝鮮がミサイルを開発しようと思ったら、発射の実験をもっと行わないといけない。それは位置的に日本の領土領海をかすめないでは、なかなか難しい。他のコースだと途中に島があるから、今回のような北太平洋方向に発射するという実験は今後も起こり得ると思っておく必要がある。

 それにしても、実は「日本上空」と書いたけど、多分「大気圏外」である。だから、「日本の領空」とはいいがたい。領空の定義は定まっていないけど、まあ大気圏内というのが多いと思う。宇宙にはアメリカやほかの各国の偵察衛星が飛んでいるが、日本を撮影しても「領空違反」ということはないだろう。実際、どうしようもないんだし。

 まあ、僕の考えでは、当面金正恩政権が核兵器やミサイルの開発を断念するのはありえない。だから、今後も発射実験や核実験は行われる。しかし、それは日本を標的にしたものではないし、日本に誤って墜落するということもない。だから、ミサイル防衛システムのPAC3などを配備したり、訓練を行ったりする必要もない。冷静に対処していかないと、アメリカの「北朝鮮危機ビジネス」に多額の税金をつぎ込むだけになってしまう。
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「核の傘」と核禁条約-北朝鮮問題⑦

2017年08月24日 21時21分09秒 |  〃  (国際問題)
 もう「北朝鮮問題」を少し離れてしまうけど、「核の傘」問題を考えてみたい。日本は日米安保条約で、日本防衛を米軍に頼っている(ことになっている)。日米安保の持つ意味は、時とともに変わってきたけど、米国は当初から核兵器を持っていて、日本は「戦力を保持しない」。その意味もどんどん変わってきたが、日本には核兵器がないことは今後も変わらないだろう。

 そこで、「中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発が進み、日本をめぐる安全保障環境が激変した」現在にあっては、米国の核兵器によって日本が守られているという「現状認識」が成立する。それをアメリカの「核の傘」と呼び、日本やヨーロッパ各国は「アメリカの核の傘のもとにある」と表現する。ところで、この現状認識は正しいのだろうかと僕は前から疑問だ。

 日本は「非核三原則」を持ち、核兵器を「もたず、つくらず、もちこませず」ということを原則としている。「もちこませず」というのは、米軍の核兵器であっても日本の領土領海内には持ち込ませないということである。それが本当のことかどうか、確認のしようがないが、今までに限りなく怪しいという情報はかなりあった。米軍はどこであれ、世界全体で核配備の状況は明らかにしないという方針なので、だからもちろん「日本国内にはないことになっている」けど、確認はしない。

 この状況を、「日本はアメリカの核の傘のもとにある」と言えるのだろうか?  「核の傘」というのは、核兵器があれば相手から核兵器で攻撃もされないだろう(核兵器で報復されるから)ということだ。でも、日本は非核三原則により日本国内には核兵器はない(ことになっている)じゃあ、日本は「核の傘」の下にないじゃないか。「核の傘」理論を信じているならば、日本は米軍の核兵器を日本国内に配備してもらわないとおかしくないか。「もちこませず」を非核三原則から抜けばいいわけだ。

 だが、現実問題として、日本に日米安保条約があるから核兵器で攻撃されないというのは正しい認識なのだろうか。 世界では第二次世界大戦終結以後にも、ずいぶんたくさんの戦争や武力衝突があった。核兵器を持っている国が関わることも多かったけど、核兵器は一回も使われていない。その代り、核兵器に劣らないぐらい破壊力の強い爆弾がいくつも開発されて使われた。

 核兵器はそのあまりにも凄まじい破壊エネルギーと後の時代にも及ぶ放射線の影響のために、実戦では使われない兵器になってしまった。だけど「象徴的な意味はある」と考えるかどうかは人さまざまかもしれないが。北朝鮮がミサイルに核兵器を搭載できる能力を開発したとしても、北朝鮮だって使えないだろう。北は何をするか判らない国だから、日本に対して核兵器の先制攻撃を行うに違いないと思い込んでいる人もいるかもしれないが、もう少しリアルな議論をしないといけない。

 前にも書いたけど、北朝鮮のミサイルが怖いと日米の合同演習を繰り返せば、ミサイルの前にオスプレイが墜落するかもしれない。確率的にはそっちの方がずいぶん高いだろう。北朝鮮が核兵器を実戦で使えるほどに開発するのはかなり大変だと思うし、仮にできても米軍を超えることなどはありえない。だから、その大切な核兵器を先制攻撃なんかで使ってしまうことはない。何しろ北側には米軍のミサイル防衛システムはないんだから、米軍の発射するミサイルを防ぐことはできない。米軍も核兵器なんか使う必要はなく、通常のミサイル攻撃で北朝鮮指導部を壊滅できる。

 だから、日本も「核の傘」神話を脱却する必要がある。北朝鮮は米中ロの核兵器保有国に囲まれている。中ロは米軍の核に対抗して自国の核兵器で北を守る意思はないだろうから、北は孤立して攻撃される恐怖を脱するために、核開発を進めたくなるだろう。だけど、このままではお互いにとってダメである。得るものがない。それは実際には機能していない「核の傘」神話に頼っているからだ

 むしろ率先して、日本が核兵器禁止条約に加盟するべきではないか。アジアでは東南アジア諸国は加盟している。日本が加盟しなければ、韓国や北朝鮮が加盟することはできない。むしろ、朝鮮半島が統一されても、統一韓国が「北の核」を引き継ぎかねない。日本が加盟する意味は非常に大きく、さまざまな意味があると思う。アメリカを「忖度」するのではなく、現実のリアルな認識として、今後数十年を見据えて考えていけば、国益的にも核禁条約への加盟は重要な意味を持つだろう。
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北朝鮮の人権問題-北朝鮮情勢⑥

2017年08月21日 22時58分03秒 |  〃  (国際問題)
 「北朝鮮問題」で残されたテーマをいくつか。今まで「北朝鮮の大量破壊兵器開発」を中心に書いてきた。それは大切な問題だが、それ以上に重大とも言えるのが、北朝鮮国内の人権状況である。それは何となく「怖い国」として知られていても、くわしいことはほとんど知らない人が多いだろう。

 国際人権組織「アムネスティ・インターナショナル」では全世界各国の人権状況をレポートしている。日本支部のサイトにも全世界の状況が掲載されている。そこの「朝鮮民主主義人民共和国」を見てみるとおおよそのことが判る。そこでは小項目として、「移動の自由」「海外派遣労働者の権利」「恣意的な逮捕と拘禁」「表現の自由」「強制失踪」などが挙げられている。

 一番最後の「強制失踪」は日本などの拉致問題を指す。海外派遣労働者の問題などは、僕を含めてほとんど意識していないのではないか。しかし、なんといっても深刻なのは、12万人近くの人々が政治犯収容所に拘禁されていたということだろう。人権問題が存在しない天国のような国は世界のどこにもないけど、北朝鮮の人権状況は世界最悪レベルだ。政府が崩壊したり、テロリスト勢力が力を持っているために人権状況が悪化している国は他にもいろいろある。だが、北朝鮮では「政府がそれなりに有効に支配している」ことが問題なのである。

 人権問題では、今までの歴史を見ると、大きな変動が起こるためには二つの前提がある。一つは「それが問題だと多くの人の共通認識がある」。もう一つは「人権が侵された被害者が外へ向かって声を挙げる」。例えば、「セクハラ」という問題は、ある時期までは「そういうものだ」と何となく思われていたが、「セクシャル・ハラスメント」という概念が出来ると、そうか、あの嫌な思いは「セクハラ」だったんだと自己認識できる。最近では「部活動での体罰」などもそう。そういうもんなんだと多くの人が何となく思っている場合には、それは問題として意識されない。

 どんな問題も、最初に声を挙げておかしいと訴える人がいる。冤罪問題なども、無実の罪に問われた人が、「私は無実です」と訴えるところから救援運動が始まる。無実なんだったら、やってないというに決まってると思うかもしれない。でも今までの冤罪問題を見ると、無罪主張をしない人もいるのである。近年では「富山冤罪事件」などが代表。無実の人が有罪となり、服役して出所した後に、真犯人が現れ自白した。真犯人は有罪となり、冤罪の人は再審で無罪となった。

 だけど、なんで裁判の段階で無罪の主張をしなかったのだろう。それは様々の原因が指摘されているが、警察も検察も真実の追及を怠り、脅迫的な取り調べを行い、もう誰も信じられなくなったということが大きいと思う。僕が70年代頃に世界の問題に関心を持った時に、韓国やソ連の政治犯の問題は大きく取り上げられていた。そのとき、中国や北朝鮮の政治犯は知らなかった。では、それらの国にはいないのかというと、実際は声を挙げられる状況にはなかったのだと今になれば判る。

 中国は「改革開放」を経て外国との往来も相当に自由になり、今も情報統制は厳しいが、それでも自由を求めて闘っている人々の存在を知ることができた。でも、北朝鮮の場合はそのような「自由を求めて闘う人」(フリーダム・ファイター)の存在は知らない。今まで一人もいない。厳しい弾圧が自由な市民活動をまったく許さない段階にあると思われる。それでも少しづつ外国状況などは伝わるもので、中国の延辺朝鮮族自治州などを通して、ある程度韓国の情報も伝わっているかもしれない。

 でも、「自国には問題がある」「正義を求めて声を挙げることで改善できる」という発想が許されない社会では、まず「世の中はそんなもの」と思う。問題設定そのものがないので、ではどうするという発想も出てこない。そういう「無実だけど、諦めてしまって無罪主張ができない」段階に、現在の北朝鮮社会はあると思われる。じゃあ、どうすればいいのか、僕にははっきり言って判らない。

 政府に圧力をかければ解決できるという幻想は持てない。「止まない雨はない」と僕は信じているが、まだまだこの苦難は続くだろう。外部から戦争を仕掛けて政権を打倒すればいいと思う人もいるだろうが、それはさらなる悲劇をもたらすだけだ。日本人拉致被害者がどれだけ存在しているか、僕には全くわからないけど、そのような人々を含めて政治犯収容所は解放される前に「処置」されかねない。ぞれでも、と僕は思う。朝鮮労働党の様々な犯罪行為(拉致問題や金正男暗殺事件などを含め)は、やがて統一されたのちに「国際法廷」で裁かれるべきだと。カンボジアやボスニアのような国際法廷が必要だと思う。
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戦争にはならないはずだが-北朝鮮問題⑤

2017年08月20日 23時03分41秒 |  〃  (国際問題)
 家族がケガをして家事が忙しい。映画なんかに行ける時間もないから、その間に国際情勢を書いちゃおうかと思ったけど、時間と気持ちに余裕がない。まとまったことを調べて書くゆとりがないから、残された問題をさっさと書いてしまいたい。要するに、多くの人の最大関心事は「戦争になるのか」ということだろう。冷静に分析すれば「戦争になる可能性は限りなく低い」ということである。

 かつて、1981年6月7日に、イスラエルがイラクの原子炉を爆撃したことがある。当時のイラク・フセイン政権が原子力発電所を建設することに対し、イスラエルはアラブ諸国の核開発につながる国家的危機とみなし「自衛権」の発動として空爆を実施した。イスラエルはイラクと国境を接していないから、ヨルダンとサウジアラビアの領空を侵犯していった。この事態に対し、国連安保理はイスラエルを非難する決議を採択した。イラク戦争でフセイン政権が崩壊した今となっては「昔話」かもしれないが。

 北朝鮮とすれば、この事態が一番避けたい事態である。そのような空爆が国際法違反かどうかは別にして、サッサと核やミサイルの開発基地を米軍がたたいてしまえば、北朝鮮問題は終わるとも言える。でもそうならないように相手も考えている。地下に作ったり、中朝国境の奥深いようなところなどに作ってるという話だ。この間のミサイル発射も国内のあちこちでやっている。もうすでに90年代の危機において、そのような「限定的空爆は不可能」とされている。

 米軍が時々あちこちを空爆、あるいはミサイル攻撃するニュースが聞かれるが、アフガニスタンとかスーダンとかシリアなどは、米軍に対する反撃能力がない。だが、北朝鮮には反撃能力がある。何も長距離ミサイルは必要なく、韓国にある米軍基地、あるいは韓国軍を攻撃することは今すぐできる。そのような攻撃能力を米軍側がすべて先制攻撃することは不可能である。

 米軍だって戦争したいわけではないだろう。世界のどこでも戦争してないんなら、「軍の存在価値」のために戦争を望む軍人がいないとも言えないが、中東の米軍はいまもなお戦争に関わっている。「二正面作戦」なんか愚の骨頂だ。軍人だから、命令されれば戦うと答えるだろうが、戦略的には本格的攻撃作戦は不可だろう。

 中国も習近平体制二期目の党大会を秋に控え、米朝軍事衝突がいま起きては困るだろう。北朝鮮がどんなに困り者であっても、習近平時代に朝鮮半島全域が米国の勢力圏に入ることは絶対に阻止したい。もし起こったら「外交的失点」とみなされかねない。習近平政権はもしかしたら3期目が絶対ないとはいえないかもしれないが、とりあえず2期目の最後の年、次の次の党大会が開かれる2022年までは戦争を望まない。その年は2022年北京冬季五輪の年でもある。

 韓国は北崩壊を引き受ける余裕がないし、もちろん北朝鮮指導部も本格戦争になったら今度は米軍に負けて体制変換が起きると判っているだろう。米国は北朝鮮のミサイル危機をきっかけに、韓国や日本に対ミサイル防空システムを売りつけている。常識で考えれば、米国もいま「北朝鮮問題」が消滅してしまえば大損になるから、早期の北朝鮮崩壊は望んでいないはずだ。

 という風に関連国がすべて戦争が起きないことで利益を得るんだから、常識では戦争にならない。でも…はあり得る。今までの歴史を振り返れば、第一次世界大戦、日中戦争、ヴェトナム戦争、イラク戦争…。こんなはずじゃなかったのに」の連続で、いつの間にか大戦争になっていた。関係者がみな「なんでこうなるの?」と思うような展開になってしまった。

 そういうことは今回も起こり得る。それは朝鮮半島だけではない。インド・パキスタン、イエメン、ロシアとウクライナなどでもあり得るだろう。ヴェトナム戦争では、後に謀略と判った「トンキン湾事件」という「米軍が攻撃された」と報道された事件が大軍派遣のきっかけとなった。本当の偶発事件か、もしくはどこかの国の陰謀か、とにかくなんらかの「米軍に対する攻撃」が起これば、トランプ大統領は、あるいはほかのどの大統領であれ、直ちに反撃を命じるだろう。

 そういう偶発事件が起こらないようにすることが大切だ。もし起こっても、周辺国の努力で「単なる偶発事件」レベルに留めるようにする。そういうことが大切だ。今までも38度線周辺では、何度かそのような「偶発事件」は起きたことがある。だから、今度起きても大事態にはしないようにできるはずだ。

 だけど、北朝鮮のミサイル実験はいずれ行われるだろう。作ったものは実験して確かめないと使えない。新薬だって、自動運転車だって、実験だけでOKにはならない。治験や公道での実験を経ないと、使い物になるかどうかが判らない。ミサイルだって、作った以上、実際に撃って確かめないと判らない技術的問題があるだろう。作ったら、発射実験はしてみたいに決まってる

 だが、それがグアム島周辺海域かどうかは僕は疑問。標的地点を明かして、米軍に迎撃されたりすれば、米国技術の大宣伝になっちゃう。他に撃てば、元の標的が判らないんだから、作戦成功と言える。ということで、ミサイルや核兵器の実験はいつでもあり得るが、それで戦争にはなりにくい。じゃあ、現状維持かというと、そういうことになる。つまらない結論だけど、このような状況がしばらく続くのだと思っている。
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中国は北朝鮮を抑えられるのか-北朝鮮情勢④

2017年08月18日 23時45分26秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカのトランプ大統領は、当初は北朝鮮問題への対処を中国に期待するようなことを言っていた。選挙戦中は中国を不公正な貿易をしていると非難していたのに、当選したら「北朝鮮問題で頑張っているいいヤツ」みたいないい方に変わった。(ところで、あの有名な「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」帽も中国製だというから笑える。)そこで「100日」の期限を設けたが、それはも過ぎてトランプも苛立っているらしい。でも100日で解決するわけがないじゃないか

 それでも安保理決議による「経済制裁」を中国はかつてより厳しく実施し始めているという。それで本当に北朝鮮を抑制することができるのだろうか。それは難しいというのが僕の判断である。もちろん中国が厳格に経済制裁を実施することになれば、経済的に北朝鮮は大きな影響を受けることだろう。しかし、それが核兵器や長距離弾道ミサイルの開発をやめさせる効果を持つかどうか。

 もともと朝鮮労働党は、戦前来の社会主義運動の「統一戦線」のようにして成立した。北朝鮮の建国は1948年9月9日である。大韓民国はそれに先立って、1948年8月15日に建国を宣言した。一概には言えないけど、この日付で判るように、「分断」には北以上に南の責任も大きい。それに、この段階では「北朝鮮労働党」と言っていたのである。その後、1949年6月30日に「南朝鮮労働党」と合併して現在の「朝鮮労働党」が成立した。現在の北朝鮮で一党独裁体制を敷く政党である。

 1950年6月25日に北朝鮮は韓国に侵攻して「朝鮮戦争」を起こす。それは「祖国解放戦争」であり、南朝鮮人民は歓呼して人民軍を迎え、南の「かいらい政権」を倒すはずだった。でも実際はそうならなかった。一時は韓国軍をプサン周辺に追い詰めるが、マッカーサーが「国連軍」を率いて仁川上陸作戦を成功させると、北朝鮮軍は一挙に敗走する。北朝鮮軍が鴨緑江沿いにまで追い詰められたとき、建国間もない中華人民共和国が「人民義勇軍」を投入した。そこで持ち直した北朝鮮軍と国連軍は38度線をはさんでこう着状態になり、1953年に休戦協定が結ばれた。

 この朝鮮戦争については、ソ連崩壊後に研究が進み、金日成の提案を毛沢東とスターリンが承認して始まったことが証明された。当時の「社会主義陣営」ではソ連のスターリンが権威的に支配していたが、中国革命後に東アジアの革命に関しては中国共産党の権威を認めていた。(地上軍を派遣した中国だけでなく、ソ連の空軍も参加していたことが判っている。)こういう経過を見れば、北朝鮮という国が今もあるのは、「中朝の血の絆」によると言われるのも理由があることになる。

 このような経過を表面的に見れば、北朝鮮は「反日」「反米」の国だということになる。日本の帝国主義支配を金日成が打ち破り、アメリカの介入も金日成が退けた。(それに類する誇大妄想的プロパガンダを国内向けには行っている。)北朝鮮の金日成主席が唱えた「主体(チュチェ)思想」は帝国主義的支配を受けた世界の多くの民族に訴える部分がある。(「主体思想」とは「人間が全ての事の主人であり、全てを決める」という、「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した」ものである。おいおい、マジかよという感じだが。金日成はだから人類史上の偉人になる。)

 しかし、現実に「主体思想」の持っていた意味はちょっと違うと思う。それは朝鮮労働党内部で、金日成派(満州派)の支配を確立し、個人崇拝を完成させるためのレトリックである。朝鮮労働党の歴史は、他の共産圏の支配政党と同じく、暗く陰惨な弾圧と粛清の歴史である。まず、南朝鮮労働党派が「アメリカのスパイ」として粛清され、さらに「ソ連派」「中国派」「国内パルチザン派(甲山派)と次々に粛清されていった。そこら辺をあまり詳しく書く必要もないと思う。ソ連や中国の党内抗争以上に知られていないだろうが、北朝鮮こそ最も陰惨な党内抗争が行われてきたのである。

 それは金日成後継をめぐり、金正日が勝利していく過程でもあっただろう。今はもう「三代目襲名」の時代だから、金正日後継なんか当然すぎる感じだが、70年代後半までは「社会主義国家で権力が世襲されるなんておかしなことが起こるわけがない」と多くの人が思っていた。まさかまさかの連続で、し烈な抗争を経て金正日が後継者となった。その時に「外国党」の影響を受ける勢力は淘汰されていった。「主体思想」の真の意味は、「ソ連や中国は後継問題でガタガタ言うな」だろう。

 表面的には中国やロシアとの友好関係を言うかもしれないが、戦時中の日本のような国家である北朝鮮指導部に「聞く耳」があるとは思えない。昔は中国の「残置諜者」(スリーパー)がいたと思うが、時代が変わってどこまで影響力があるだろうか。ただ「脱北者」が延辺朝鮮族自治州にたくさん流れ込んでいる。中国が北朝鮮の内部事情を相当詳細に承知しているのは確かだろう。だが、朝鮮党中央にはっきりした影響力を持っているかは疑問だ。

 中国は北朝鮮の早期の崩壊を望んでいないアメリカのトランプ政権との完全な関係悪化も望んでいない。経済制裁をテコにもう少し影響力を発揮しようとしている。でも、それは「聞き流す」という対応をされるのではないか。公然とした対立関係になることは双方が望んでいないと思うが、もうお互いに信頼関係は無くなっているだろう。そういう関係で何ができるか。あまり期待はできないという風に僕は思う。よく「北朝鮮は崩壊する」という人がいるが、そんなことを言う人が出てきてからもずっと続いている。追い詰められ孤立しても、まだまだ「大量破壊兵器の開発に賭ける」のではないか。
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北朝鮮の「成功体験」と「失敗体験」-北朝鮮問題③

2017年08月17日 21時17分20秒 |  〃  (国際問題)
 北朝鮮指導部、というか「部」と呼べるものがあるのかどうか、「首領様」がいるだけかもしれないけど、一体何を考えてアメリカに対する挑発的言動を繰り広げているのだろうか。世界の多くの人々は、軍事力では間違いなく世界最強である米軍をいたずらに挑発する「北」が理解できない。

 そのあたりの問題は、僕は以下のように考えている。北朝鮮としては、「敵」に対し宥和的に出た時に獲得できたものよりも、「敵」に対し挑発的に行動した時に獲得できたものの方が大きい。そういう風に世界を認識しているんじゃないか。もちろんその際の「世界を見る目」は、朝鮮労働党の独裁、もっと言えば「金王朝」の永続という観点から考えたものである。

 中国指導部は北朝鮮に経済の「改革開放」を求めてきたとされる。経済状態の改善という観点、あるいは「民生向上」という意味では、むろんいずれの時点下でもっと「開放」が避けられないだろう。中国は自国の「成功体験」から「改革開放」を勧めてくる。でも「分断国家」である北朝鮮としては、南の韓国と同じような経済体制を取り、同じように世界との自由な往来を認めてしまえば、そもそも「北朝鮮の存在意味」がなくなってしまうではないか。

 もちろんそれで良くて、北が経済改革を進めて行って、やがてそれが緩やかな連携から「統一」へと進んで行ければ一番いい。世界の大部分の人はそれでいいと思うけど、北朝鮮指導部だけはそれを認められないだろう。韓国主導の「統一」を認めないならば、改革開放にも限度があるのは当然だと思っているだろう。何とか生き延びるためには、むしろ「鎖国」「軍事大国化」の方が効果的と思っているだろう。それが歴史的に確認されていると認識しているんじゃないか。

 初代の金日成主席の時代には、フィクションではあれ「建国の父」としての正当性を有していた(と思われていた)。(金日成の抗日戦争は、現実にパルチザン活動はあったけれど、それが「祖国を解放した」わけではない。現実は「満州国」からソ連に逃れ、ソ連軍とともに北朝鮮に乗り込んでいったわけで、祖国解放神話のほとんどは後の時代に作られたフィクションである。)

 だが、金正日(キム・ジョンイル)、金正恩(キム・ジョンウン)の時代には、「革命の血」を受け継ぐというだけではダメで、やはり「実績」がいるんだと思う。そして、金正日時代には、金大中を受け入れて初の南北首脳会談が開かれた。限定的ではあれ、開城工業団地や金剛山への韓国からの観光事業などが行われたのだから、北朝鮮も韓国からの資金が欲しいことは欲しかったんだろう。でもそれらの事業は限定的に過ぎ、北朝鮮に大きなインパクトを与えなかった。

 2002年には日本の小泉首相を受け入れ、過去の拉致問題を「盲動主義」があったと認め、被害者の日本訪問を認めた。大量破壊兵器の開発を中止する「日朝ピョンヤン宣言」も出された。それに対して日本は経済援助を与えることになったはずだが、実際にはそうならなかった。拉致事件被害者の死亡報告が異常に多いことに日本中が衝撃を受け、北朝鮮への非難が沸騰した。それは理解できるけれど、北側からすれば、「譲歩したのに制裁された」非常に苦い教訓になってるんじゃないか。

 一方、1994年にIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れをめぐって「朝鮮半島危機」が起こり、クリントン政権による空爆が計画された時点では、最終的に「米朝枠組み合意」が結ばれた。北側はNPT条約に留まり、プルトニウムが生産できる黒鉛炉などは軽水炉に置き換え、その間は重油を提供する。使用済み核燃料は廃棄するというもので、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が作られた。だがその後も北朝鮮の核開発は止まず、結局KEDOは2005年末に清算された。

 これは国際社会から見ると「失敗体験」以外の何物でもない。「瀬戸際外交」の結果、口先で核兵器開発断念を約束し、NPT(核不拡散条約)にも留まることになった。だけど、現実には「重油」だけタダ取りされたようなものである。でもそれを逆に見れば、「瀬戸際外交」こそが自分では失うものなく得るものだけがあったという「成功体験」をもたらした

 この過去20年ほどの経過を見てみれば、自分の側から譲歩して行っても、かえって非難され、さらなる譲歩を求められるだけである。一方、北側の大量破壊兵器開発が本気であることを示せば示すほど、一番の「敵」であるアメリカも本気で対応せざるを得ない。アメリカ国民は外国への関心などたいして持ってないし、ヨーロッパや中東情勢の方が遥かに重大な関心があるだろう。でもこの間の「挑発」の繰り返しによって、米国民の関心も急速に高まっているらしい。

 やはり今の挑発路線こそが効果的だ、成果を挙げているとキム・ジョンウン政権は見ているだろう。そして、その挑発路線によって、例えば日本の自衛隊はアメリカの地上配備型イージスシステム「イージスアショア」ってのを導入する方針だという。このような「対北朝鮮ミサイルビジネス」はぼう大な利権を産む。今さらミサイル開発をやめられては困る人々がたくさんいるということである。こうやって、事実上の相互依存関係が出来ていき、それぞれ挑発を繰り返すことにより、世界的な注目を浴びる。北朝鮮も米国トランプ大統領も、今回の事態で「得点」を得ている。
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「北のミサイル」より「オスプレイ」が危ない-北朝鮮問題②

2017年08月15日 23時13分14秒 |  〃  (国際問題)
 「北朝鮮のミサイル」というと、今にも頭上に落ちてくるんじゃないかと本気だか何だか異様に心配する人がいる。そう心配していたら、交通事故にあう確率の方がずっと高いに決まってるんだから、おちおち外出もできない。じゃあ自宅に引きこもっていたとしても、隕石が落ちてくるかもしれない。一体、隕石が自宅に落ちる確率とミサイルが自宅に落ちる確率はどっちが高いだろうか

 まあ、それでも「万が一」ということは否定できないというようなことを言う人もいる。万が一というか、億が一というか、それは無論ないとは言えない。それは以下のような場合である。
①「日本が直接ミサイルの目標になる
②「日本上空を通るミサイルが途中で空中分解する
③「一段目のロケットの切り離しが遅れて、日本の領海内に落ちる

 ①はありえないが、それは後で考える。②と③も考えにくいだろう。技術的な確かさを担保できない場合は、なんだかんだ理由を付けて発射を見送るに決まってる。恩恵的に自分たちが実験を中止するならメンツは保てる。でも4発発射すると豪語して、多少着水地点がずれる程度ならともかく、大きな失敗を起こしてしまえば内外の信用失墜は計り知れない。(③の一段目ロケットが日本の領土内に落下した場合、その確率は非常に低いだろうが、直撃されたら大被害を出すのは間違いない。)

 だから、もし発射されたなら、それは「何ごともなく日本上空を通り過ぎて行く」可能性が圧倒的に高いはずである。ただ問題があるとすれば、日本海で米艦による迎撃作戦が行われて、それが中途半端に「成功」してバラバラになった部品が日本領土に落下するという事態である。もし迎撃作戦を行う場合は太平洋でやってもらいたいもんだと思う。

 日本政府は「国民の生命を守る」と意気込んで、ミサイル発射とともに避難するようなことを言っているわけだけど、それは無理だろうって。数分で通り過ぎて行くというのに。大地震による大津波は、何十分かの余裕があるとされる。集中豪雨による土砂崩れの場合でも、完全に避難するのは難しいではないか。「ミサイル発射で避難」って、一体マジメに国民の避難を求めているのか。

 日本国民の生命を守るというなら、どうして日本政府はオスプレイの訓練を認めているんだろうか? オスプレイ(垂直離着陸機V22=オスプレイは猛禽類のミサゴを意味する英語)だって、米軍の正式装備品なんだから、そうむやみに事故ばかり起こすというもんでもないだろう。でも今までの経緯から、相当の事故歴があるのは間違いない。昨年は沖縄で、つい最近はオーストラリアで事故が落ちた。ミサイルが来るなどと騒ぐ前に、オスプレイ事故対策の方もやらないとおかしい。

 もちろん、ミサイルやオスプレイよりも、大地震や集中豪雨の方がはるかに危険。さらに、住んでいる場所にもよるけど、日本国民大多数という意味では、事故や事件や災害で死ぬよりも、ガンや心臓病や脳血管障害や肝臓や腎臓などの疾病で亡くなる場合が多いに決まってる。ミサイルを心配する前に、自分の生活習慣を見直さないと生命を守れないという人の方が圧倒的に多いだろう。

 日本周辺で「大陸間弾道ミサイル」を持っている国は北朝鮮だけではない。ロシアも中国も持ってる。もちろんアメリカ軍にも装備されている。米軍は「日本を守る」側かもしれないけど、反中国的なことを言う人はかなりいるんだから、どうして北朝鮮のミサイルだけ心配するんだろうか。中ロは安保理常任理事国だから、「一応理性的に行動する」とあまり理由なく前提にしてるんだろうか。

 それに対して「北朝鮮は何をするか判らない恐ろしい国」ということなんだと思う。昔の「キューバ危機」の際は、キューバにソ連の核ミサイルが持ち込まれた。それにアメリカは猛反発したけど、米軍のミサイルはキューバに展開可能なんだから、アメリカは「自分でやっても、やられるのは嫌」という意識なんだと思うしかない。北朝鮮の場合も、その気になれば米軍はずっと前から北を攻撃可能である。それにいら立つ北側が自分で大量破壊兵器を開発してしまった。

 それは国際的に認められないけれど、一応「防衛的反応」として理解は可能なんじゃないだろうか。それは「容認できる」ということではなく、「道筋を理解はできる」ということである。これは大きく違うし、ちゃんと弁別しないといけない。だから「北朝鮮が日本をむやみやたらに攻撃する」という事態も起きない。そりゃあ、ものすごくたくさんの核兵器と長距離弾道ミサイルが余るぐらいあれば、「行き掛けの駄賃」的にやたらに発射する誘惑にかられるかもしれない。

 でも、北朝鮮は国力的に米軍に対抗できる軍事力を持つことはできない。「やられたら、やり返せるぞ」「核兵器も持ったんだぞ」を抑止力にできると思ってるけど、米軍を完全に撃破することはできない。確かに「大量破壊兵器」を開発はしてるけど、それは現在も将来も「米軍の先制攻撃に対する抑止力」以上のものにはならない。「虎の子」のミサイルを日本なんかに撃ち込んで、「自滅」するわけがないじゃないか。攻撃力を持ってるのは米軍なんだから、米軍を攻撃する方が優先である。

 つまり、北朝鮮は「恐ろしい国」かもしれないけど、「何をするか判らない」というわけではない。「拉致問題」もあって、日本では北朝鮮は日本を敵国としていると思っている人が多いのかもしれない。だが、「拉致」も韓国への浸透を狙った作戦の一環だった。(キム・ヒョンヒは日本人のパスポートを持ち日本人に成りすました。)非人道的で許しがたい出来事だが、独裁者からすれば「理解可能な作戦」だということになるだろう。むやみに「北のミサイルが怖い」なんて思ってるだけだと、国際問題の理解がずれてしまうのではないだろうか。
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「北朝鮮危機」か、「トランプ危機」か-北朝鮮情勢①

2017年08月14日 23時31分05秒 |  〃  (国際問題)
 「北朝鮮」=朝鮮民主主義人民共和国=Democratic People's Republic of Korea (D.P.R.K)をめぐる情勢が緊迫している。前から一度考えたいと思っていたけど、この機会に少しまとめておきたい。「かの国」に関しては様々な観点があり得るが、まず名前の問題。ここでは、とりあえず「北朝鮮」と表記したい。正式国名は長すぎるし、自称にしても「民主主義」はどうなんだ的な問題がある。それ以上にマスコミがほぼ「北朝鮮情勢」と書くから、脳内にそうインプットされてしまった。

 さて、「北朝鮮の挑発的行動」というものが今年に入ってどんどんエスカレートしている。というか、核実験に関しては今年に入ってからはないんだけど。(2016年は2回あった。)2016年9月が6回目の実験。当時のアメリカはオバマ政権だった。トランプ政権になってからは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験が続いている。これはどういう意味があるのだろうか。

 8月10日には、ついにグアム島周辺向け4発のミサイル発射実験の作戦計画を発表した。日本の島根県、広島県、高知県の上空を通ると明言され、日本でも大騒動になっている。もちろん、この3県しか通らずに飛ぶことはできない。何故だか愛媛県が抜かされてしまったけど、愛媛県の上空も飛ばないといけない。グアム島は1998年の米西戦争でスペインからアメリカに譲渡された島で、現在はアメリカ合衆国の準州。島の3分の1を米軍基地が占めている。

 ところで、なんだか「グアム島攻撃」を予告したかのような騒ぎだけど、もちろんそんなことはない。戦争になっていないのに、国連加盟国が他の加盟国を攻撃したら、すぐに国連安保理で大問題になる。安保理決議で「大量破壊兵器の開発」は禁止されているから、発射予告もおかしい。だけど、今回の事態は「ミサイル発射実験」の予告であり、日本の「存続危機事態」にはならない

 今回の「予告」に対して、トランプ大統領もかつてなく激しい言葉で応酬を繰り広げている。北のマスコミ論調とトランプのツイッターだけ見れば、もう「戦争前夜」と思えてくる。こういう事態は4月頃にもあった、当時は米韓合同演習があり、米艦も周辺海域に派遣されていた。気の早い向きは攻撃も近いと触れ回っていた。そういう時は株価も大きく下げてしまう。今回もそうだけど、裏で様々な憶測が飛び交うが、表面的な言葉だけで判断しないように注意しないといけない。

 4月に関しては、僕は「トランプ危機」だったと判断している。トランプ政権は前任のオバマ政権の政策を完全否定することにエネルギーを注いでいる。医療保険問題やパリ協定だけでなく、北朝鮮問題でもオバマ時代の「戦略的忍耐」を批判して、何の効果もなかったと言った。確かにオバマ政権時代を通して、「北朝鮮の挑発」に歯止めをかけることはできなかった。でもアメリカはイラク戦争やアフガン戦争を抱えていて、東アジアで新しい方針を打ち出す余裕はなかった。

 基本的にはそれは今も同じなんだと思うが、トランプ大統領は自分への批判を回避するために新しい戦争を起こすかもしれない。皆が心配しているのはそういうことで、トランプ政権の思惑に基づいて北攻撃が起こらないとは誰も断言できないだろう。アメリカと言えども、北朝鮮の軍事施設をすべて先制攻撃することは難しく、非常に重大な人的、経済的打撃がアメリカそのものにおよびかねない。だから、自分は民主的に選出されたリーダーだと信じていたら、普通は北朝鮮攻撃に踏み切れない。

 でもトランプ大統領がどういう行動を取るか、誰もまだ完全には予測できない。そこで、「北朝鮮の挑発」が続いている。どこまで行けば、アメリカが本気で交渉してくるかを測っているんだと思う。オバマ政権はまず北側が核開発の中止などを打ち出さない限り相手にしないと思われた。トランプ政権は北の挑発に乗ってくれる。それが北朝鮮のねらいで、トランプ政権はうまくはまってしまった。

 戦争の危機が近づけば近づくほど、世界の各国、特に中国は本気で調停しないといけない。もし本当に戦争になってしまえば、最終的には北朝鮮の現体制は崩壊せざるを得ない。それは北朝鮮当局を含め、誰もが判っている。だから、北朝鮮は「瀬戸際外交」を繰り返してアメリカを交渉に引きずり出さないといけない。韓国とだけ和平しても意味がなく、アメリカ軍を撤退させない限り、北朝鮮の心配は終わらない。もっともっと「挑発」は続くだろう。そうじゃないとアメリカが出てこない。

 でも、ここまで核兵器やICBMの開発を進めてしまえば、日本軍の歴史などを思いおこしても途中で止められるのだろうか。開発をやめると言っても信じられる人はいないのではないか。この核兵器やミサイルの技術を欲しい国は世界にものすごくたくさんあるだろう。「北朝鮮問題」の最大の焦点は、アメリカとの戦争や日本に被害が及ぶかなどではない。北朝鮮が開発した大量破壊兵器の「すぐれた技術」が世界中に拡散されてしまうことである。それをどうやって止められるのだろうか。
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サウジアラビアの皇太子交代問題

2017年06月23日 23時13分12秒 |  〃  (国際問題)
 サウジアラビアサルマン国王(1935~)が、6月21日に王位継承順位第一位の皇太子を変更した。それまでのムハンマド・ナエフ(1959~、内務相)を解任し、自身の子どもである国防相ムハンマド・サルマン(1985~)を皇太子に昇格させた。これは中東の将来に大きな影響を与えると思われる事件だから、簡単に考えておきたい。欧米のニュースと違い、よく判らない人も多いだろうから。
  (左が新皇太子、右がサルマン国王)
 サウジアラビア(英語国名 Kingdom of Saudi Arabia)は、非常に重要な国である。何しろイスラム教の聖地メッカを支配する国であり、原油埋蔵量世界一という国なのだから。本来アラブの大国と言えばエジプトなんだろうけど、経済・政治の混乱が続いている。「G20」にアラブ諸国を代表して参加しているのはサウジアラビアである。

 経済的にも重要だし、政治的にも重要。スンナ派イスラム教国の精神的支柱の役割を自負し、シーア派のイランとの対立が目立っている。最近起こったカタールとの断交問題も、ムハンマド・サルマン新皇太子(国防相)が主導していると言われる。だけど、世界中でこれほど不思議な国はない。いまだに議会もない絶対王政の国で、コーランを憲法と定めた政教一致の国である。国会にあたる諮問評議会というものが出来ているが、選挙ではなく議員は国王の任命。ちょっとすごい国である。

 今年サルマン国王が来日した時のことを覚えている人も多いだろう。御付きの男性陣がそろって来日し、銀座あたりで高級品を買いまくる「特需」があったとか、期待ほどでもなかったとか…。とにかく、今もそんな国があるのが不思議だけど、これは永遠に続くのだろうか。アラビアにおいては残るのかもしれないが、世界史的な常識ではやがてアラビア半島にも議会制民主主義が誕生するのではないだろうか。そういうことも遠望するとき、皇太子交代問題はどういう意味を持つのか。
 
 サウジアラビア王国という国は、まだ若い国である。初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード(1876~1953)が、1932年に建国した。日本の元号で言えば昭和8年。5・15事件が起きた年である。サウード家は一時は非常に衰微して、20世紀初頭には映画「アラビアのロレンス」に出てくるハシーム家の方が有力だった。だけど、その後イブン・サウードのもとで勢力を伸ばしていく。そしてほぼ半島全域を支配して王国を建国したわけである。日本の戦国時代みたいなものである。

 この初代イブン・サウード国王はとにかく凄い人物で、身長は2メートル、奴隷もいた時代で子どもの数は数えきれないという。記録が明確な「正妻」にあたるのは4人で、その他の女性が産んだ子供を含めて、男子52人、女子37人がいたという。このうち36人の男子が王位継承権を持っていたという。2代サウード、3代ファイサル、4代ハリド、5代ファハド、6代アブドラと、すべて初代イブン・サウードの子どもである。そして、今の国王サルマンもまたイブン・サウードの子ども。まだ残っていたのかという感じだけど、計算すれば59歳の時の子だから驚くほどではない。まだ下の子もいる。

 制度が整う前の、国王に統治能力が厳しく要求される時期の王国では、「兄弟相続」になることはよくある。日本の天皇家系図を見ても、大昔は兄弟相続に時代が長かった。実質的に新王朝の創始者にあたる桓武天皇の場合、自身の弟の皇太子を死に追いやり(その弟は「怨霊」となり桓武天皇を苦しめることになる)、自分の子どもを皇太子に立てる。しかし、桓武天皇の子どもも相次いで兄弟で皇位についている。サウジアラビアもそのような王国初期段階にあると言える。

 ところで、5代国王ファハドと現国王サルマンは、母が同じである。スデイリ族の族長の娘で、8人の子ども(7人の男子)を産んだ。この7人は「スデイリ・セブン」と呼ばれ、80年代以後のサウジ政界の中心となってきた。サルマン国王の兄、スルタン(1928~2011)、ナーイフ(1934~2012)はスデイリ・セブンの一員で、サルマン以前に皇太子になっていた。しかし。アブドラ国王が2015年まで存命だったので、王位継承以前に亡くなってしまったのである。

 そこで弟のサルマンが即位することになるが、1935年生まれだから、2017年現在82歳である。もう初代国王の子ども世代で王位を継ぐ時代ではないだろう。そこで、サルマン国王の皇太子だったムハンマド・ナーイフは、孫世代から選ばれた。サルマン国王の兄、サルマン以前の皇太子ナーイフの子どもである。つまり、サルマンは兄が即位前に死亡したので王位につけたが、その兄の子を皇太子に立てたわけである。そして、即位して4年後に自身の子どもに交代させた。

 なんだか大昔の王位をめぐる物語を見ているような感じがする。だけど、これは果たしてサウジ王家内で反発を生まないだろうか。王族34人でつくる「忠誠委員会」では、31人が交代に賛成したという。つまり満場一致ではない。年齢も59歳の皇太子から、32歳の若手になるというのは急速な若返りが過ぎると受け取る人もいるのではないだろうか。常識で考えて、王族内部で隠微な嫉妬のようなものがあると思う方が自然だろう

 その新皇太子が主導しているイラン強硬策。そのもとで、サウジ・イランの代理戦争の様相を対し始めているのが、イエメン内戦である。もう細かく書く余裕がないが、日本ではほとんど報道されないイエメン内戦は泥沼化している。サウジアラビアはイエメンを実質的に支配するフーシ派(シーア派に近いとされる)を排除するために、公然たる介入を行っている。しかし、それはうまく行かず、すでに民間人死者が1万人を超えたとも言う。このイエメン内戦のゆくえは、アメリカのベトナム戦争ソ連のアフガン戦争のような重大な影響を持つ可能性がある。

 国内で絶対的支持がなく、力量のほどを示して見せる必要がある若い新皇太子が、外交・軍事を統括する。当然、強硬策を取る誘惑にかられると思う。そこに落とし穴があるかもしれない。その時、サウジ王政に大きな変化が起きる可能性もないとは言えない。また、オマーン、バーレーン、クウェート、カタールなど他の王族支配の国への影響も大きい。サウジアラビアの皇太子交代問題は、今後の中東情勢に小さくない影響を与えていく可能性が高いだろう。
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トランプ政権、中国、カタール問題-国際情勢の激変

2017年06月11日 18時25分01秒 |  〃  (国際問題)
 5月末からのほんのわずかの間にも、国際情勢は激変した。日本で「伊勢志摩サミット」が開催されたのはおよそ1年前だけど、その場に出席した7か国の首脳も4名が変わった。オバマが退任するのは判っていたし、オランド(仏大統領)の再選が難しいのも判っていた。でも、イギリスのキャメロン首相がEU離脱の国民投票に敗れて退陣し、米国大統領にドナルド・トランプが当選するのは予想外だろう。(他にイタリアのレンツィ首相が改憲に失敗して退陣し、ジェンティローニに代わった。)

 こうなると2018年にカナダで開催予定のサミットにも新しい指導者が出てくるかもしれない。来年も同じだろうと言えるのは、マクロン仏大統領だけだ。一番可能性が高いのはイギリスのメイ首相だろうが、自分で仕掛けた(やらなくてもいい)総選挙で敗北し、下院の過半数を失った。メイ首相に対する保守党内の人心は回復できないほど離れてしまったかもしれない。

 イギリスはともかく、問題はやはりトランプ大統領である。FBIのコミ―前長官証言を受けて、とめどなく求心力を失っていく可能性がある。ひょっとすると来年のサミット参加者はペンスかもしれない。そのぐらいは予想しておいても言い過ぎではないだろう。先ごろ、トランプ大統領はパリ協定離脱駐イスラエル大使館のエルサレム移動の先送りを発表した。

 後者の問題は、4月16日に「アメリカのイスラエル大使館問題」として書いておいた。エルサレムに当面移さないのはいいけれど、どうもまたトランプ政権内で権力の暗闘があるようだ。娘婿のクシュナーらの「国際派」が求めていたとされるパリ協定残留はならなかった。同時にクシュナーにも「ロシア接触疑惑」が報道された。これは何か関連性があるのだろうか。

 「パリ協定離脱」によって、トランプ政権に国際的なリーダーになる意欲がないことがはっきりした。「国内派」が当面勝利し、米国内のトランプ支持層のみに向けた政権運営になるかもしれない。「朝鮮半島危機」は終わったも同然で、世界は「中国の存在感」を認めつつある。折から中国とロシアを中心にした「上海協力機構」に、インドとパキスタンの参加が発表された。日本でも安倍政権が「一帯一路」(シルクロード経済ベルト)への協力を表明している。

 もちろん、もともと協力しないなどとは言ってないわけで、先ごろ開かれた一帯一路首脳会議にも二階幹事長などが出席した。だが、二階氏は自民党では有力者だけど、政権の有力閣僚ではない。つまり日本は有力閣僚を送らなかったわけだが、6月7日に安倍首相が直々に「条件がそろえば協力したい」と表明したのである。これはトランプ政権の弱体化やパリ協定離脱を受けて、微妙に意思表明したのではないかと思う。今後、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への日本の参加もありうるのではないか。注視していく必要がある。

 ところで、今も完全には理解できず、今後の行く末も予想できないのが、「カタール断交問題」である。6月6日に、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、イエメンの中東5か国が、カタールと国交を断絶した。その後、モルディブ、モーリシャス、モーリタニアも続いた。もともとエジプトのシーシ政権は政敵のムスリム同胞団を支持してきたカタールと対立していた。「中東の盟主」を自任するサウジアラビアも、イラン問題などでカタールと対立していた。

 だけど、同じ湾岸のスンナ派イスラム教の国として、一気に国交を断絶するのはどう見ても理解しがたい。これは5月末のトランプ大統領の最初の外遊先にサウジアラビアを選んだことに関係があるとも言われている。そこでどのような話が出たのか不明だが、イラン問題が大きな影を落としているのは間違いない。カタールは半島国家で、物流はサウジアラビアに大きく依存しているので、市民生活にも大きな影響が出始めていると言われる。

 カタールは小国なりに衛星放送「アル・ジャジーラ」を持ち、独自の存在感を示してきた。2022年のサッカー・ワールドカップの招致にも成功し、豊富な天然ガスの資金を利用した独自外交が周辺国をイラつかせることはあっただろう。先の国を見れば判るように、クウェートやオマーンは断交に参加していない。サウジアラビアの資金援助に大きく依存する国が断交同盟に参加した感が強い。トルコのエルドアン大統領はカタール支援を打ち出し、イランも支援している。

 中東の政治秩序を激変させる可能性があり、サウジアラビアの愚策とも思われるのだが、今後の展望は見通せない。どうもよく判らない。中東でテロが少なかったイランでも、ISによるテロがよりによって国会とホメイニ廟で起こるという衝撃的事件も起こった。どうなっていくか全く見通せない中東情勢にも目を離せない。カタール問題は、単に大使の一時帰国などではなく、国交断絶にまで踏み切ったわけだから、そうそう簡単に解決はできないのではないだろうか。
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東アジアに「5年間の五輪平和」を!

2017年05月25日 21時04分36秒 |  〃  (国際問題)
 いつもはあんまり「新聞の社説」みたいなことは書きたくないんだけど、今後書きたいことにも絡むので一回書いておきたい。もう僕は安倍首相や菅官房長官は一日も早く辞めて欲しいという気分だけど、(まあそれはずっと前からだが、特に昨今の状況は堪えがたい)、客観的にはしばらく安倍政権が続くんだろう。そして、少なくとも本人の主観においては、安倍内閣は2021年まで続くらしい

 2020年には東京五輪が「大成功」し、同時に「自衛隊を明記」した憲法改正が実現するというのが、首相の野望なんだろう。ところで、そういうシナリオがぶっ飛んでしまう可能性がある。それはトランプ政権によって作られた「朝鮮半島有事」である。もっと簡単に言えば、トランプ政権が自己に迫る弾劾危機から目をそらさせるために、東アジアで安易に軍事行動を起こしてしまうことである。

 アジアではなく、中東を初の外国訪問に選んだように、トランプのホンネは「アジアには関心がない」のだと思う。だから、選挙中は日本や中国を経済問題で敵視し、政権についたら「北朝鮮問題」を一度は大騒ぎした挙句、その後は手のひらを返したように「中国まかせ」にしている。だけど、こんがらかった中東和平をトランプが仲裁できるはずもなく、何も打ち出せないまま「口先介入」をするしかなくなるはずだ。そうすると、ほとんどよく知らない東アジアで「北朝鮮征伐」を絶対に始めないとまでは言えない。

 安倍首相は「五輪の政治利用」が大好きらしい。なんでも五輪を錦の御旗にすれば、強引に押し通せると思ってるらしい。だけど、4月に一部で「米軍の北朝鮮攻撃」が騒がれたときも、日本政府は公式的には特に反応しなかった。どうなってるんだろ。日本は「平和主義」を憲法で表明している国だ、などと安倍首相に通じそうもない論理をここで持ち出すつもりはない。

 いま「朝鮮半島で軍事衝突が起こればどうなるか」を判らないのだろうか。それは開催まで一年を切った、そして軍事境界線近くで行われる「ピョンチャン(平昌)冬季オリンピック」が中止になるということではないか。そして、それはピョンチャン五輪の2年後の東京五輪の開催も危うくなるということを意味する。いや、電撃作戦ですぐに片付くなどという人もいるかもしれないけど、そんなことを言って始まったイラク戦争がどうなったか。難民問題や経済的混乱なども加わり、数年間の混乱が東アジア一帯で続くことを覚悟しなければならない。

 まあ、もともと僕は東京五輪反対論者である。だけど、それは東京都民自身が「迷惑」でしかない現在の「大規模五輪」を民主的方法によって返上すればいいという論である。(過大な経済負担が生じない規模の、世界的なスポーツ大会になったなら、僕も東京で五輪を開くことに反対しないけど。)当然のことながら、日本が戦争に巻き込まれかねない状況になって、世界から「東京では五輪が開催できない」と言われて中止になるということを望むわけではない

 安倍首相はそのことをどこまで意識しているのか。むしろ「北朝鮮危機」が持続した方が「自衛隊憲法明記論」が支持されると思ってやしないか。まず首相自身が明確に「東アジアに平和を」と発信しないといけない2022年北京冬季五輪まで、東アジアで五輪開催が続く。少なくともこの間は東アジアに混乱は起こさせないという強い決意が関連諸国の首脳だけでなく、それぞれの国民にも求められている。首相にならうわけではないが、僕もそういう「五輪の政治利用」ならいいんじゃないかと思う。

 安倍内閣になってから開催できなくなっている「日中韓首脳会議」を可能な限り早期に開くべきだ。それは最初に五輪を開く韓国で開けばいい。習近平も安倍晋三も、今すぐ韓国新大統領ムン・ジェイン(文在虎)にあって、「朝鮮半島問題の平和解決」と「五輪成功のための協力」を呼びかけるべきではないか。それ以外の議題は後でいい。お互いにあれも言いたい、これも言いたいということがあるだろうけど、とりあえず1年以内に迫ったピョンチャン五輪を皆で成功させよう、それだけ合意できればいいじゃないか。それで三か国のムードもかなり変わるだろうと思う。

 一体全体、日本人というのもよく判らない。冬の間はテレビでちょくちょくフィギュアスケートをやっている。それなのに、昨今は「北朝鮮の挑発」だとか、「韓国は」「中国は」といったことばかり言ってる人が多い。じゃあ、ピョンチャン冬季五輪、北京冬季五輪は見ないのか。それとも五輪開催地を知らないのか。「羽生結弦が2連覇する姿を見たくないのか」「高梨沙羅が一回もメダルを取れない悲運の選手になっていいのか」…「ごくフツーの日本人」に聞いてみたい気がする。今こそ、「東アジアに5年間の五輪平和を」と多くの日本人が声を挙げるべきじゃないのか。
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アメリカによる「懲罰戦争」と国際法

2017年04月17日 23時14分13秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカによるシリア攻撃を先に「国際法違反」と書いた。「集団的自衛権」の行使じゃないことははっきりしてるし(アメリカの単独行動だから)、アメリカが攻撃されたわけでもないので「個別自衛権」の発動にもならない。だけど、違法と自ら認めてしまうわけにもいかないから、「化学兵器がアメリカに使われる恐れがある」から「自衛権の行使だ」と言い続けるしかない。

 それはともかく、「国際法違反の侵略戦争」だとアメリカを非難している人もかなりいるけれど、それはどうなんだろうか。まあ、国際法違反の武力行使は全部「侵略戦争」だとも考えられる。「侵略」という言葉の定義次第だとも言える。ただ地上軍を送らず、アサド政権打倒をも目指していない(現段階では)ことを考えると、通常の考え方で言う「侵略」とは少し違っている。

 アメリカが攻撃したのは、政権の本拠地から遠い軍事基地に限られ、直ちに政権打倒を目指していないことはロシアに対しても明確になっていると思う。じゃあ、何なんだというと、まさに「懲罰的軍事行動」というようなもんだろう。(もちろん、それは「侵略」だとも言えるが。)歴史的に考えると、アメリカのパナマ侵攻作戦とか、グレナダ侵攻。あるいは1979年の中国による「ベトナム懲罰戦争」(中越戦争)もあるだろう。まあトランプが習近平に「国際的前例は中越戦争だ」とは説明していないだろうけれど。

 アメリカだけでなく、ロシアも近隣の(自分の方からは)「勢力園」だと考えているところでは、軍事行動を繰り返しているウクライナ東部の親ロシア勢力には間違いなく軍事援助をしていると思う。またジョージア(グルジア)のアブハジア自治州は事実上「独立」状態にあるが、ロシアの軍事援助がある。それに内戦中のシリアでアサド政権に対して、ロシアが全面的に軍事支援をしていることも「国際法違反」に近い。(アサド政権が「正統政権」であるのは確かだから、必ず違反だとは非難できない。)

 しかし、シリアはアメリカの勢力圏ではない。本気でアサド政権打倒まで考えるならば、地上軍を投入してロシアと全面対決する決心がいる。2013年の化学兵器問題の時には、オバマ政権でそこまで行われる可能性があった。中東に関して「より深刻な危機」だったのである。だが、今回は地上軍の投入を考えているとは思えない。ただ、問題によっては「懲罰的軍事行動」を辞さないということなのである。だから、その軍事行動の対象に「北朝鮮」がなってもおかしくない。アメリカから見て「超えてはならないライン」を超えると、懲罰的軍事行動の可能性があるということなのである。

 そして、そこにこそ今回のシリア攻撃の一番の問題点がある。ツイッターによる「トランプ砲」では、友好国であれ民間企業であれ、どこが標的になるか判らない。だから友好国首脳であっても、トランプ政権を「忖度」して「戦々恐々」にならざるを得ない。一方、今回の攻撃で反米国では「いつ難癖を付けられて攻撃されるかもしれない」という「恐怖」を植え付けられたのは間違いないだろう。単に「北朝鮮」に止まらず、ベネズエラとかエクアドル(ウィキリークスのアサンジをロンドンの大使館で匿っている)、あるいは内戦の続くイエメンなども標的にされる可能性があるのではないか。

 ところで、このシリア攻撃に限らず、それをもたらした化学兵器問題なども、本来は国連安保理で討議して結論を出すべきものだろう。だけど、ロシアが拒否権を使うから何も決定できない。それはアメリカや中国に関しても同様だ。中国は南シナ海での「海洋進出」問題で、国際司法裁判所の判決に従っていない。初めから従う気がないから、国際司法裁判所で自国の主張をしていない。こういう風に、「大国は何をしてもいい」制度はおかしいではないか。

 そう思うけれど、拒否権をなくす安保理改革はできない。それこそ拒否権を行使されるから。それに拒否権がないと、国連に入っている必要がないと脱退しかねない。そもそも国際的平和機関から、自分の言い分が通らないから脱退するという先例を最初に作ったのは、日本じゃないかと世界中から言われてしまうのがオチだ。そういう日本のような国を出しては無意味だから、あえて国際連合では拒否権という仕組みを作ったわけである。だから拒否権は当面やむを得ない。

 だから、アメリカかロシアか中国が味方に付いてくれれば、何も決まらないことになる。(イギリスフランスもあるけど、イギリスは通常アメリカと同じ判断に立つし、フランスはアフリカの自国勢力圏以外には軍事的行動をしない。フランスがアフリカ中部でイスラム過激派に軍事行動を起こすのは問題もあるけど、アメリカもロシアも中国も支持してしまうから問題にならない。)

 それは国連や国際司法裁判所は、軍事的執行機関がないんだから、他国への強制力を持たない以上どうしようもない。法律は作れても、警察がないのと同じである。では「常設の国連軍」を作ればいいのか。その問題は昔から議論はされるけれど、誰もそのためにお金を出さないだろう。自国に反するような行動を取るかもしれない「常設国連軍」に資金と人員を提供する大国はないだろう。それにそういう組織が、あまりにも強大な力を持ってしまうのも、いいことばかりではないはずだ。

 それでも議論の場としての安保理がある限り、詭弁でも何か言わないといけない。それは「ないよりはまし」だと思うしかない。だが、強大国に踏みにじられる側の国、あるいは国家を形成できない少数民族には、この仕組みは納得できないだろう。どうすればいいのか、誰にも答えはない。
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アメリカのイスラエル大使館問題

2017年04月16日 21時45分51秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカによるシリア攻撃問題から連動して、一番気にかかる問題は「イスラエル大使館問題」である。世の中には、そうではない、4月中にも「北朝鮮攻撃」がありうると心配(または期待?)している輩がかなりいるらしいけど、アメリカ(及び北朝鮮と中国)の対応を観察していると、決してすぐには武力攻撃にはならないだろうことが様々暗示されているように思う。もっとも、僕もトランプ大統領がどういう行動を取るか、完全に予測できると思っているわけではないのだが…。

 トランプ氏は大統領選挙中に、中国を為替操作国に認定すると言ってきた。しかし、最近になってこの認定はしないと決定された。トランプ政権にとって、雇用の拡大が「一丁目一番地」の政策である。下院議員の任期は2年しかない。それに合わせて上院の3分の1も改選されるから、経済問題の実績を上げることは急務である。(もっとも、経済指標そのものを信用できないとして、「オルタナティヴ・ファクト」を主張するのかもしれないが。)そうすると、中国といたずらに対立を深めるのではなく、「取引」の関係に引き込むことが重要になる。中国を反発させるだけでは、経済政策がうまくいかない。

 そういうファクターも大きいと思うけど、そもそもトランプ政権がロシアと中国をそれぞれ相手に回していくことは不可能だろう。シリア問題でロシアと対立している現時点で、中国を無視する(メンツをつぶす)形で北朝鮮問題に武力行使という選択をできるとは思えない。そういった問題はまた別に詳しく考えたいと思うが、一番重大だと思うことは、先に書いたようにトランプ政権内で、バノンの影響力が失墜してクシュナーの影響力が大きくなっているという問題である。

 クシュナーは「敬虔なユダヤ教徒」とされ、そのためイバンカ・トランプは結婚に際してユダヤ教に改宗したという。ユダヤ人にも様々なタイプがあるが、クシュナーは「正統派」に属するというから、イスラエルが絶対だと考えられる。中東情勢に対して、アジアへの関心は少ないと考えておいた方がいい。だから、アジアでは何もしないというわけでもないだろうが、トランプ政権にとっては「イスラエル大使館問題」の方が重大なのではないだろうか。

 このイスラエル大使館問題というのは、日本ではあまり知らない人も多いかと思うので、少し紹介しておきたい。そもそも世界地図なんかでは、「イスラエルの首都はエルサレム」と書いてある。一応そういうことになっているわけだけど、国際的にはエルサレムを首都とは公言しないルールになっている。アメリカの大使館も、日本をはじめ世界各国の大使館もエルサレムではなく、テルアビブにある。

 エルサレムの国際的地位はまだ未決着なのである。そもそも…とイスラエル建国からアラブとの何回かの中東戦争を全部書いていると終わらなくなるから、ここでは省略する。とにかく、アラブ諸国の中にはイスラエルの存在をそもそも認めていない国が多い。エジプトとヨルダンが例外的に国交を持っているだけである。将来できるはずの「パレスチナ国家」は本来「東エルサレム」を首都とすることを予定している。エルサレムはユダヤ教だけでなく、キリスト教やイスラム教にとっても「聖地」であり、イスラエルだけのものではない。アメリカがエルサレムを「首都」と扱うことは、サウジアラビアやイラク、エジプトなど「親米国」の国民感情に計り知れない悪影響を与える。もうそれははっきりしている。

 ところで、トランプ氏は選挙戦中に「イスラエルにある大使館をエルサレムに移す」と公約してしまっているのである。この問題は複雑で、そもそも米国議会は「エルサレム大使館法」を1995年に通している。クリントン政権時代である。ではアメリカの大使館はエルサレムにあるのかというと、今もテルアビブにあるままである。それは何故かというと、ビル・クリントンは大統領令を発してこの法律の効力を差し止めたからである。それをブッシュもオバマも踏襲してきた。

 ただし、その大統領令は効力が半年しかないのである。だから、この20年以上アメリカ大統領は半年ごとに、エルサレム大使館法の効力を差し止めてきたわけである。トランプが公約したのは、この「大統領令を発しない」ということなのである。オバマ大統領による大統領令は、昨年12月に出たということだから、6月には切れてしまう。5月中には判断しないといけない。クシュナーらにとっては、この問題こそ一番の関心事ではないかと僕は判断しているわけである。

 じゃあ、どうなるか。この「エルサレム大使館問題」は、「一つの中国問題」と同じく、安易に手を触れてはならない問題だと思う。ある種の「フィクション」を皆で尊重していくしかないんだと思う。そういう現実をトランプ政権が理解できるか。日本の小泉首相のように、選挙戦中(もっとも自民党総裁選だけど)の発言にとらわれて、靖国神社参拝を続けて中国との首脳会談が出来なくなってしまった人もいる。トランプがどう判断するかは、非常に注目される。

 僕が思うに、「IS壊滅作戦を優先させる」という名目で、「わたしは公約を守る男だが、この公約の実現はわたしの政権の二期目に延期する」とか言って、事実上先送りしてしまうのが「最善」ではないだろうか。あるいは、大統領令で差し止めはしないけど、大使館はテルアビブに置いたままにするということもあり得るだろうか。でも、それは「違法」になってしまうから、問題だろう。もし本当にエルサレムに移したら、親米政権が倒れかねないほどの問題である。まさに「テロリストに塩を送る」行為である。(「塩を送る」は日本でしか通用しないが。)

 他にも様々な問題が山積しているわけだが、外交的にはこの問題をどうするかの調整は、かなり時間がかかると思う。中国問題と違って、公約は順守するべきだという意見も政権内に強いと思うからである。そうなると、北朝鮮問題どころか、世界の他の地域に関わることはかなり難しいのではないかというのが、僕の今の時点の観測なんだけど。
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