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ミステリ感想-『変調二人羽織』連城三紀彦

2015年04月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
鶴が東京を飛んだ夜、声を失った噺家は引退公演で二人羽織のまま刺された。だが衆人環視のなか誰も彼に近づけたはずはなく……変調二人羽織
箸にも棒にもかからない短編を売りつけに来る名前も知らない男。今度の作品は画期的な密室トリックだという……ある東京の扉
明治、亭主に呼び戻される女。昭和、アメリカから帰国した男。車夫と運転手は、彼女と彼が拳銃を隠し持っていることに気づき……六花の印
「きのうの晩、あなた、わたしを殺そうとしなかった?」妻はそう言うが夫に心当たりはない……メビウスの環
夫婦が住む山荘を訪れた悪魔のような女。静かな暮らしを取り戻すため殺人を決意するが……依子の日記


~感想~
歴史的傑作「戻り川心中」で衝撃のデビューを飾った作者だが、もとは雑誌「幻影城」に投じた「変調二人羽織」で新人賞を射止めたのがデビューのきっかけ。立て続けに「ある東京の扉」、「六花の印」と発表していき、つまり本書は連城三紀彦の実質的な処女短編集である。
もう冒頭の「変調二人羽織」からして我々がよく知る連城三紀彦そのもの。格調高すぎてたまに何言ってるのか理解できない文体、ただの一言で真逆に反転する構図、きわめて魅力的な謎と予想だにしないどんでん返しと、処女作から混じりっけなしの連城三紀彦である。
しかも本書は亡父の「ミステリはどれを読んでも犯人がすぐわかってしまうので退屈だ」というぼやきへの回答として、犯人が容易にわからないことを重点に置き書かれているため、真相はどれもこれも明かされてみるまで予測不可能。こんなことを言えるほど作品を読んでいないが、ここまで連城がミステリを念頭に描いたものは珍しいのではなかろうか。

どれもこれも傑作なのだが一編挙げると「六花の印」が超傑作。文庫版ではページをまたぐといきなり時代が変わっていたりとはじめは面食らうが、終わってみればとんでもない趣向を凝らしとんでもない伏線を張ってとんでもない結末を迎え、目を剥くこと請け合い。まったく連城は傑作短編をいくつ書けば気が済むのだ。


15.4.11
評価:★★★★ 8
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