小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『リピート』乾くるみ

2008年04月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
もし、現在の記憶を持ったまま10ヶ月前の自分に戻れるとしたら?
この夢のような「リピート」に誘われ、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ十人の男女。ところが彼らは一人、また一人と不審な死を遂げていき……。


~感想~
SFファンという人種は理由や哲学がなければ納得しないのだろうか。

と愚痴ってみたのは、SFファンが口をそろえて「SF要素に哲学がない」だの「理由がない」だのと難癖をつけていたのが、どうも解らないのだ。
たしかに今作に登場するSF要素は完全に説明放棄である。なぜ起きるのかどういう原理なのか厳密な設定はどうなのか。そういったことは全く語られない。
だが今作はSFミステリとして最高の結実を見せた傑作である。
哲学や理由はないが、SF要素を最大に活かした、とびきりの謎がとびきりの真相をはらんでいる、SFミステリでしかなしえない境地にたどりついているのだ。
この作者ならではの、登場人物を突き放す結末の黒さと、ラストに語り手がつぶやく一言に誰もが「お前絶対そんなこと思ってねーだろ」と言いたくなるだろう、とってつけたような乾いた(それゆえに鋭く光る)感慨。見え隠れしつつ最後に慄然と立ち上がる主題もまたいい。
こんな面白い「小説」のSF部分にのみ的を絞って難癖つけるのはどうにも……。
まあ、ミステリバカという人種はフェアプレイや浪漫がなければ納得しないので、人のことはとやかく言えないのだが。


08.4.18
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『レイクサイド』東野圭吾

2008年04月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
湖畔の別荘に4組の親子が集まる勉強合宿。そこに現れた愛人を妻が殺したという。親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不穏な影がちらつく。


~感想~
中編ばりの分量にふさわしい中編なみの内容。どうしてわざわざ映画にしたのだろうか?
それはともかく事件はいたってシンプル。2時間ドラマさながらにありがちの展開でありがちに事件が進み、ちょっと意外な真相が見えたと思ったけど、そんなことは全然無かったぜ! といううんざりの着地で終わる。
中編ばりの分量ならきっちり終われと思うか、中編ならではの物語と納得するか、これが長編でなくてよかったと胸をなでおろすかは読者にゆだねたい。
身も蓋もなく言えば、いかにも東野圭吾らしいサクッと読めて後になんにも残らない作品でした。


08.4.10
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『山魔の如き嗤うもの』三津田信三

2008年04月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。次々と起こる凄惨な殺人事件は六地蔵にまつわる奇妙な童唄の見立てなのか。
消失と惨劇の忌み山。そこで刀城言耶が見たものとは……。


~感想~
首切りトリックの金字塔的作品『首無の如き祟るもの』の次作として全く恥じることのない堂々たる傑作。

驚くべきは解決編で、真相が二転三転しながらも、その真相を支える枠組みは全く変わっていないこと。ただひとつの矛盾はあるが、それさえなければ枠組みは同じままで真相だけが変幻していくという、まさに怪異さながらの技巧。
前作『首無』や『厭魅』『凶鳥』のような一発トリックではないが(その3作と比べると落ちるだけで、ネタ自体は大きい)事件を形作るその精緻な構図は前3作をも上回る。
また今作はこれまでの設定資料を読むような、細かすぎて疲れも覚える舞台設定を「忌み山」というひとつの象徴に集約させたことで、非常にすっきりとした読みやすい物語に仕上がっている。このあたりはただでさえ高かった作家としての腕がさらに向上していることの表れだろうか。
横溝作品をドラマ以外で知らない僕でさえにやりとするような正史の意匠の数々といい、怪異譚としての側面も満足至極。
これだけの傑作を次々と放つ、三津田信三の如き騙るもの、まさに恐るべし。


08.4.28
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『クライマーズ・ハイ』横山秀夫

2008年04月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故が発生した。
難攻不落の衝立岩への登攀を予定していた地元紙の遊軍記者・悠木は全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。
組織の相剋、親子の葛藤、同僚の残した謎めいた言葉、そして悠木の決断は。


~感想~
傑作。
その一言だけを書き、あとは読んでもらえばいいのだが、いちおう蛇足をつらねたい。
作者は元記者であり、実際に御巣鷹山の事故にも遭遇している。横山秀夫がこの事故を題材にした時点で、もう傑作に仕上がることは約束されている。
未曽有の事件にいやおうなく巻き込まれた地元紙の描写はいわずもがな、なじみのない業界の日常(と呼ぶには異常事態だが)をただ描いているだけだが、それが実に面白い。こんなにも引き込まれる物語は久々だった。
記者たちの戦いを描くだけでも十分なところに、後日譚となる登山では微妙な親子関係を描き、時の流れまで感じさせてくれる。
厳密に言わなくてもまるでミステリではないが、作者はジャンルにかかわらず小説家として一流であることを示した。すべての本読みに自信をもっておすすめしたい。


08.4.8
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『ホームズのいない町』蒼井上鷹

2008年04月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
そんじょそこらにホームズのような名探偵はいない。登場人物が不完全な推理をし合い、勝手に誤解して、おかしな展開に…。様々な“つながり”が隠された傑作ミステリー。短編7編と関連する掌編を収録。
※コピペ


~感想~
またもや口に合わない作品集。

つまりこの作者は連作が下手というわけではなく、この作者の連作が僕とは相容れないものなのだろう。そう納得するしかないほど、周囲の評判はよい作品である。
単に相性が悪いだけの作品にあれこれ言ってもしかたないが、それにしても謎の小粒さとトリックのつまらなさ、挿入される掌編の退屈さはやはり楽しみどころが見当たらない。どう楽しめばいいのか見当もつかないのだ。
登場人物の連関も、ただやってみただけで物語に深さを与えるでもなし。物語自体も面白くなし。こうもハズレが続くともう食指が伸びなくなってしまう。


08.4.3
評価:★☆ 3
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映画感想―『LOFT』

2008年04月21日 | 映画感想

~あらすじ~
スランプに陥った女流作家・春名礼子は担当編集者・木島の勧めで、東京郊外の緑に囲まれた洋館に引越す。やがて彼女は、大学教授の吉岡が向かいの建物にミイラ化した1000年前の女性を極秘に保管していることを知るのだったが…。


~感想~
馬鹿ホラーここにきわまる。

監督から「実力の半分しか出さないように」と厳命されたとしか思えないほど酷い棒読みで繰り広げられる、ホラーの名を借りた喜劇である。
中谷美紀も豊川悦司も本当はもっとできる子のはずなのに。西島秀俊も……いや西島はどうだろう。
映像表現はとにかく美麗なのだが、脚本がはちゃめちゃで、怖がらせようとしているらしい場面で苦笑とツッコミばかり沸き起こってしまう。
特にクライマックスのミイラに説教する豊川悦司には悶絶。しかもミイラは説教に負けて成仏してしまうのだ。千年生きてきたくせにどんだけメンタル弱いんだお前は。
ラストシーンも豊川渾身の池落ちを含め、もはやただの一発ギャグにしか思えない。落ちたときの擬音は「ズコーー!」がぴったり。
また配役も明らかに失敗で、亡霊役の安達祐美がとにかくかわいい。あんな小柄で童顔じゃ、泥だらけで突然ぬっと現れても絶対怖くないって。馬乗りで首絞められても巴投げするって。

物語をホラーとして成立させるには、映像美よりも大切なものがあることを教えてくれる作品でしょう。


評価:0 なし
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