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ミステリ感想-『道具屋殺人事件』愛川晶

2011年08月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
亮子の夫は落語家・寿笑亭福の助。彼と出会うまで落語と大喜利の区別もつかなかった亮子も、最近では噺家の女房らしくなってきた。
師匠の山桜亭馬春が脳血栓で倒れて以来、寿笑亭福遊に師事している福の助だが、前座の口演の最中に血染めのナイフが高座で見つかり、大騒動になったことを馬春に相談したところ……。
落語を演じて謎を解く! 紅梅亭シリーズ第一弾。


~収録作品~
道具屋殺人事件
らくだのサゲ
勘定板の亀吉


~感想~
大変な労作である。話の流れはだいたい型にはまっていて、亮子が厄介事に巻き込まれる→福の助も落語関係の難問に悩まされる→馬春がヒントを与える→福の助が落語の新解釈や新機軸の語り方を披露し、同時に妻の悩みも解決する。というパターンなのだが、型にはめることは往々にして楽をするために行うはずが、かえって手間のかかる作業になっているのがまず面白い。
亮子の巻き込まれる事件も殺人から弟子の意地っ張りまで大小取り揃えて、内容もいかにもミステリらしく手が込んでいる。さらに落語上の無理難題まで持ち上がるのに、それらをまとめて落語を演じることだけで解決してしまうのだから恐ろしい。
落語を題材にしたミステリといえば、大倉崇裕の作品も思い浮かぶが(北村……薫……?)、大倉作品は芸の道に邁進するばかりに人の道を踏み外した落語家たちが多く描かれ、殺伐とした雰囲気が漂いがちだが、こちらの愛川作品は扱っている事件こそ殺人やら行方不明やらと大倉作品よりも大きいのに、多少性格の悪い人物はいても、人の道はそうそう外れず、芸に熱心な江戸っ子たちが洒脱に会話しているおかげで、からっとした空気が流れているのも好感の持てるところ。
落語に詳しくない亮子を中心人物に据えることで、専門用語を細かに解説し、作中で言及された落語のほとんどは概要を語ってくれるのも気が利いている。
シリーズ開幕の作品だけに、強引で煩雑なところも多々あるが、シリーズを重ねるごとに洗練され、より凝った仕掛けとなっていくそうなので、今後も楽しみである。


11.7.28
評価:★★★ 6
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