SZに乗っていると、色々なヒトから声をかけられたものだった。
「あー、懐かしい。昔、憧れたなあ」とか、「僕は昔、ナナハンのカタナに乗っててねえ、カタナ狩りなんて言葉、知ってる?」とか、「これって初期型ですよね?もしかして完全にノーマルですか?」とか、「このまま後10年、この状態だったらすっごい金額になるよ」とか。
過激な改造車が目立つ中、僕のSZはコンディション維持にしかお金を遣わなかった。
さて、映画「キリン」の影響で、今後GSX1100Sの価格は上がり続ける事だろう。
そうでなくても中古市場で割高なオートバイだもの。
2011、春。
僕はSZを手放す事にした。僕がオートバイに求めるもの、そのベクトルとSZのベクトルは必ずしも一致したものではないと、判断・決定したから。
個人売買に際し、僕は2つの条件を付けた。
このカタナの輸出先、つまりフルパワーモデルかどうか解らない事(神戸ユニコーンでも解らなかったが、マフラが一番抜けの良いワンホール型でこれは非常に貴重な部品であると言われた)。カタナはカタナでもこれは壊れた時、必ず困る「SZ」であることを理解した上で・・・・・、
「必ずライダー自身が見学に来る事」「必ず試乗する事」
車検は通ったが、あんなものはオートバイの程度を保証する事にはならんわ。
(そして僕はオートバイ屋じゃない)
四半世紀も昔のオートバイに対し、「理解」の上でお金を払って頂きたかったから。
結果から言うと「即決」だった。
購入者は友人も含め3人でやって来た。そのうち1人は同じSZに乗って来た。
ご本人はかなり僕のSZを気に入ったようだった。
「本当に、完っ全にオリジナルですね。こんなキレイはSZ初めて見ました。細かいところまで手が入れてあって、あなたの人柄が出ているみたい」(ちょっと照れるなぁ)
試乗は、その彼にしてもらう、と。
「信用している友人だから彼がOKだと言えばOKです」と。
お金を頂き・・・・・帰り、初めて購入者はSZにまたがった。
彼の目は、まるで宝物を手にした小学生の目のように、輝いている。
その時、僕は思った・・・・・「もう、本当に、SZは僕のものじゃなくなったんだな・・・・・」
でも彼の嬉しそうな瞳に、僕は僕自身が喜びを感じていることに気が付いた。
彼らはこれから「湾岸」を通って帰るそうだ。
「カタナで湾岸を走る」事が夢だったと言っていた。
短い時間の中で伝え切れなかった事が一つあった。
僕は、そのSZを、・・・・・今はもうあなたのSZを、僕は「LUMINOUS」と呼んでいたんだ。