対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

自己表出はアブダクションである9

2024-04-10 | ノート
吉本は3)の段階が可能になった背景として、
1器官的・生理的な次元の発達(自然としての人間存在の発達)と2意識の次元の強化・発達(自己を対象化する能力の発達)を挙げている。すなわち、有節音声を発することによって脳髄や神経系の構造が整っていく過程と並行して、音声が意識に反作用を及ぼし心的な構造が強化していった過程を想定している。
そして、次のように述べている。
(引用はじめ)
あるところまで意識は強い構造をもつようになったとき、現実的な対象にたいする反射なしに、自発的に有節音声を発することができるようになり、それによって逆に対象の像を指示できるようになる。このようにして有節音声は言語としての条件をすべて具えるにいたるのである。有節音声が言語化されていく過程は人間の意識がその本質力のみちをひらかれる過程にほかならない、といえる。
(引用おわり)ゴシックは引用者  ここまで8と重なる

有節音声は逆の対応づけによって発せられていることが明記されている。
対象→有節音声
が、逆転して
有節音声→対象(像)
になることが指摘されている(ここで「逆」を「左右」で強調すれば、右脳から左脳への信号が逆転して、左脳から右脳へと通じるようになったのである)。
自己表出は『言語の本質』で指摘されている「思考バイアス」の特徴を示している。本家の自己表出もアブダクションといってよいだろう。

言語の発生と進化の過程を整理しておこう。
まず、脳髄と神経系の構造の発達がある。次に、これと並行して、心的な構造の強化がある。有節音声の「反射」から「象徴」への変化によって、指示表出は対象を直接ではなく、対象像を媒介して、対象を指すようになった。言語の発生とともに、対象との一義的な関係をもたなくなる一方で、類似するさまざまな対象を類概念として包括できるようになった。それは人間の特異な心的構造を強化していったのである。

特異な心的構造の一つをあげれば、推論の可能性だろう。まず、アブダクション推論が端緒の自己表出として可能になった。次にディダクション(演繹)、その次にインダクション(帰納)が可能になっていったと思われる。

自己表出の導入を確認しておこう。
(引用はじめ)
この人間が何かを言わねばならないまでにいたった現実的な与件と、その与件にうながされて自発的に言語を表出することとのあいだに存在する千里の径庭を言語の自己表出(Selbstausdrückung)として想定することができる。自己表出は現実的な与件にうながされた現実的な意識の体験が累積してもはや意識の内部に幻想の可能性として想定できるにいたったもので、これが人間の言語の現実離脱の水準をきめるとともに、ある時代の言語の水準の上昇度を示す尺度となることができる。
(引用おわり)ゴシックは本文
自己表出は「与件にうながされて自発的に表出する」ものとして、また「幻想の可能性」として想定されている。幻想とは非現実的な心的現象である。自己表出は言語の現実離脱の水準を決定して、人間の本質力を拡大していくものとして想定されていたのである。
言語の発生と進化の模式図を再び提示して考察を終わることにしよう。


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