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安保法関連のあれこれを支持派の学者が解説する

2016-07-15 23:08:23 | 読書ノート
細谷雄一『安保論争』ちくま新書, 筑摩書房, 2016.

  昨年の安保法まわりの議論を、国政政治学者である著者が賛成派の視点から解説したもの。雑誌に執筆した記事をまとめたもので、日本の安全保障環境の変化、総力戦から先進国の街中で突如起こるテロという形への戦争スタイルの変化、集団的自衛権容認論が1950年代からあったこと、新たに制定された安保法も自衛隊の運用が抑制的であること、などが語られている。昨年は『歴史認識とは何か』という著作において、孤立主義を批判する形で安保法の必要性を訴えていたが、直接賛意を示した本書の方が著者の考えがわかりやすい。

  個人的には二つの指摘が印象に残った。一つは「力の空白」が紛争を呼び込むということで、中立を掲げながら二度もドイツに蹂躙されたベルギー、大日本帝国崩壊後の朝鮮・中国・ベトナム、米軍撤退後のフィリピン、米国との関係をこじれさせて尖閣諸島問題や竹島問題を悪化させた民主党政権などが例に挙げられている。軍事的な弱さは周辺国の野心を刺激するために危険であり、十分な軍事力無しに話合いを訴えても対等な交渉などさせてもらえないというのが歴史の教えだという。もう一つは、海外の紛争に無関心で自国の安全だけを求める態度に対して、それは日本の進むべき道を誤らせるナショナリズムであり、太平洋戦争の失敗と同じ轍を踏むものだと批判している。国際情勢をきちんと理解するべきで、国内の政治闘争のために外交を利用するべきではない、とも。

  リベラル系メディアに対する苦言もある。ただ、彼らは先週末の参議院議員選挙で「護憲」をさんざん煽っていたのに、自民党の勝利を許してしまった。この結果を見る限りでは、その影響力はかなり落ちている気がする。僕が大学生の頃は、メディアには議題設定機能があるので選挙を左右できると習ったものだ。ところが今回、メディアの設定した争点は有権者にとっては争点ではなかったわけだ。そうすると、いったいどこで政治的見識を高めるような「公的な議論」をすればよいのだろうか。僕には本書の内容がいたって常識的に見える。このため本書と無関係なところで感慨を持ってしまった。

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