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性表現の忌避感情は階級差別を起源とするとのこと

2017-10-16 14:16:12 | 読書ノート
白田秀彰『性表現規制の文化史』亜紀書房, 2017.

  カバーが漫画家の山本直樹のイラストで、そこからなんとなく日本でのエロ表現規制についての本だと思い込んでいたのだが、読んでみると古代ギリシアまでさかのぼるかなり射程の広い議論が展開されていた。著者は法政大学の先生である。わかりやすくて面白い良書である。

  そもそもなぜ性表現は規制されるべきなのか。著者はヨーロッパの歴史を検討して、性道徳を身に付けているかどうかを階級の分断線とする、上流階級の視線が起源だと考える。財産の相続にとって父系の保証が重要だったため、上流階級には規範に従った性行動が求められた。一方、庶民はそうでないために「性が乱れている」とみなされた。こうした見方とキリスト教の純血主義が合体してブルジョワ市民にも受け継がれ、性が忌避されるべきものとして隠蔽されるようになった。

  しかし近代に至ると、下層階級にも「主体性」を認めるようになって、「性の自己決定権」なる概念が普及し、ポルノグラフィが許されるようになる。その解法は20世紀後半を通じて進んだ。ただし、青少年にはそのような決定権が無いとみなされているがために、子どもによるポルノグラフィへの接触は禁じられたままとなっている。

  以上が大ざっぱな流れ。日本の話は最後の章にまとめられているが、あまり立ち入ったものではない。個人的な疑問としては、たとえば日本の『桃太郎』が、「桃を食べて元気になったおじいさんとおばあさんから生まれた…」という話から、性的知識を抜きにしてわかるようにした「桃から生まれた…」というように早い段階で改作されているわけで、規制をヨーロッパ起源の話にしていいのかというのがある。全体的に、持説をきちんとした論証で裏付けるようなものではなく、まずは議論を提起することを目的とした書籍、と考えた方がいいだろう。
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