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スリリングなフランス科学アカデミーの栄枯盛衰史

2012-11-30 11:21:15 | 読書ノート
隠岐さや香『科学アカデミーと「有用な科学」:フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ』名古屋大学出版会, 2011.

  科学史。特に、17世紀初頭から18世紀の革命に至る時期のフランスにおける科学者団体「科学アカデミー」を扱っている。この時期は大学がまだ科学の主導権を握っていない時期であり、科学研究は職業的な活動になっておらず、余暇に行われるものだったという。本書では王政によって庇護された科学アカデミーが、そうした研究者にわずかながらも一定の収入を与え、時代を追うに連れて徐々に権威も付与していった様子が描かれる。ところが、王政の諮問機関的な役割を獲得するにつれて、反体制派の憎しみも買うようになり、最終的には革命で廃止されることになる。革命の中で、メンバーだったラヴォワジェはギロチンにかけられ、コンドルセは獄死する。

  この大まかの流れの中で詳細に論じられているのは、科学アカデミーが漸進的ながらも絶対王政の体制の中で地位を獲得してゆく過程である。その変化は細かい検討によって明らかになってゆくのだが、著者はポイントを整理して、見通しよく議論しているのでわかりやすい。メンバーが「科学が有用である」と言う時の適用対象や文脈を見極めたり、または権力との関係の変化や政府からの諮問の内容の変化を辿ってみたりと、かなり繊細な検証過程を経てその地位の変遷を跡付けている。その帰結として、革命政府のアカデミーに対する扱いやコンドルセの遺著からわかるように、科学を理解しない・関心がない一般大衆と、科学の活動との関係が重要な課題として残ったというわけである。

  偉人による発明や発見の歴史ではなく、権力や大衆との関係も視野に入れた社会史になっている点で単なる「科学史」の枠を超えている。サントリー学芸賞受賞にふさわしい作品である。
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