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封印されて知名度が高まるという、意図せざる結果に

2017-08-15 22:05:28 | 読書ノート
安藤健二『封印作品の謎:テレビアニメ・特撮編』彩図社文庫, 彩図社, 2016.

  ある種のゴシップ・ジャーナリズム。テレビで再放送されることのない・DVD化もされない、1960年代から70年代にかけての子供向け映像作品を取り上げて、当事者へのインタビューを重ねてその理由を探ってゆくという内容。この文庫版は2004年から2008年にかけて発行された『封印作品』シリーズの再編集版である。著者は執筆当時フリーで、現在はハフィントンポストの記者であるとのこと。

  俎上にのせられているのは『ウルトラセブン』のスペル星人の回、『怪奇大作戦』の「狂鬼人間」の回、映画『ノストラダムスの大予言』、『サンダーマスク』、日テレ版の『ドラえもん』の五作品。円谷プロの二作品はかなり有名な封印作品だが、その理由がポリティカルコレクトネス絡みであることもよく知られており、あまり意外な知見はない(個人的にはポリコレネタ自体が食傷気味)。面白かったのは残りの三作品で、山師みたいなのが絡んできたために、最終的には著作権をめぐるトラブルとなって日の目を見ることができなくなっているらしい。

  日テレ版の『ドラえもん』の章は、関係者間の作品に対するコンセプトの違いが浮彫りなっていて特に秀逸である。アニメ制作者側は、原作では甘えん坊で依存心の強い「のび太」を、テレビ版ではもう少し活発で、自立心のある男の子として描こうとしたという。原作者の藤本弘は当然これを気に入らず、またターゲットとした小学生男子にもまったく受けずに、日テレ版は放映開始半年で早々と打ち切られる。1979年からのテレ朝版によって、ようやく現在まで続くあの「ドラえもん」のイメージ──僕にとっては大山のぶ代によるお母さん的な──が造られることになったという。

  なお、本書はあくまでも娯楽作品である。表現の自由や著作権について真剣に考えるようなものではない。『ミッキーマウスはなぜ消されたか』(河出文庫, 2011)もそうだったが、タブーといってもそれほど世間を揺るがすような際どいところにはタッチしていないので、気楽に読めるだろう。
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