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19世紀のマイナー作曲家の記録を求めての探索誌

2017-01-10 22:24:32 | 読書ノート
安田寛『バイエルの謎:日本文化になった教則本』音楽之友社, 2012.


  日本では定番のピアノ教則本『バイエル』。その作者の謎につつまれた生涯を明らかにしようと、音楽史家の著者がそのゆかりの地をまわって文献探しをするという探訪記である。残念ながら僕はピアノのレッスンとは縁の無いような階級の育ちであるため、著者の感動を共有できる知識も教養もない。だが、図書館情報学者としては図書館およびアーカイブの訪問記として楽しめた。なお2016年に新潮文庫版が発行されている。

  著者は、日本に輸入されたバイエルの英語初版、現地ドイツ語での初版、それらの発行を知らせる新刊目録、バイエルの戸籍や洗礼簿、などなどを求めて、米国の大学図書館やオーストリアの国立図書館、ドイツの小都市の音楽出版社の書庫や公立図書館、文書館を次々と訪ねてまわっている。数年にわたる調査の甲斐あって、著者はある程度のバイエルの生涯をイメージできるほどになる。その矢先にどんでん返しがある。グーグルによる過去記録の電子化によって、バイエルの詳細なバイオグラフィーが記された1863年の訃報記事がネットで簡単に手に入るようになっていたのだった。

  こうしたバイエルの人物情報探しのほか、バイエルが日本でなぜ広く受容されたのかについての考察や、バイエル教則本についての著者流の解釈、また調査を進める著者自身の心情や人間関係までも伝えており、複数の主題を持つ内容となっている。著者の歩みを辿って謎解きに付き合う楽しみを提供できるよう書かれているのである。僕のような人間にとっても面白い本なのだが、ピアノのお稽古をやるような中流家庭に育った人ならばもっと楽しめるんだろうなあ。
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