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1990年代的であることが教科書としての意義を損なう

2011-12-16 08:51:03 | 読書ノート
藤原和博, 宮台真司編著『よのなかのルール:人生の教科書』ちくま文庫, 筑摩書房, 2005.

  中学生・高校生から大学生を読者対象にして、日本社会のルールや仕組みを教えるという内容。1998年に出版された『人生の教科書[よのなか]』と1999年の『人生の教科書[ルール]』を合併して再編したものが、この文庫版である。

  扱われているトピックは次のとおり。人を殺してはいけない理由、法律や裁判の基本的な考え方、法律における大人と子どもの境界、接待をめぐる人間関係力学(そういえば接待は1990年代にジャーナリズムを賑わせた問題だった)、一商品における利益・材料費・人件費などの割合とそこからわかる経済の仕組み、部屋の配置からわかる西洋と日本の「ウチとソト」、キャリア形成、性転換、離婚手続き、クローニングの問題(これもやはり1990年代的なトピックだ)、監察医からみた自殺。これらに、藤原和博・宮台真司それぞれによるまえがきとあとがきが加わる。

  執筆者は10名を超え、内容は玉石混交である。少年法や離婚の法的手続き、クローニングについての項は、事実を整理して冷静に解説しており、現在でも意義のある資料となっている。ただし、客観的な記述に終始することが多く、中高生には面白くないだろう。一方で、エッセイ的な項はリバタリアン的価値観を匂わせたものが多く、こうした考え方に初めて出会う若者に衝撃を与えるかもしれない。僕も大学生のころには宮台真司の鋭い議論に関心したものだが、改めて読んでみると根拠を示さない決め打ちの連発にすぎず、今更ながら説得力が薄い主張であることがわかった。その学者然としない、生き方指南的なところが彼の魅力だったのだが、食うにも困るこの時代に「若者の自由な生き方」を訴えるその姿勢は高踏的すぎ、完全に時代とズレてしまったという印象である。もう一人の中心人物である藤原和博の文章はさっぱり面白くないのだが、僕が齢を取りすぎているせいかもしれない。中高生にはためになる知見が得られる可能性もある。

  10代向けに社会の仕組みを教えるという試みは評価する。だが、個人的には、全体を覆うリバタリアン的なトーンにあまり感心できなかった。また、接待や性転換だとかは、21世紀の大半の子どもにはどうでもいいトピックである。今これを作るなら、社会保障や雇用の仕組み、配偶者の見つけ方が重要なトピックになるだろう。そのような点で、「よのなかのルール」を教える教科書としては改訂が必要である。
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