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科学者の不正行為についての古典、三たびの刊行

2015-12-07 11:13:14 | 読書ノート
ウイリアム・ブロード, ニコラス・ウェイド『背信の科学者たち:論文捏造はなぜ繰り返されるのか』牧野賢治訳, 講談社, 2014.

  科学者による研究上の不正行為(近年では「ミスコンダクト」という)についてのジャーナリスト二人による報告。原書はBetrayers of the Truth (Simon & Schuste)で、出版は1983年と30年以上前である。最初の邦訳は1988年に化学同人社から。その後、原書9章を削除した講談社ブルーバックス版が2006年に発行されしばらく絶版になっていた。2014年版はそれを元に訳者解説を大幅に書き加えたものである。もちろん、2014年の再刊にはSTAP細胞騒ぎが背景にある。

  内容は、誠実で理性的な社会と理想化されがちな科学者社会(しかし、本当にそういうイメージがあるのだろうか?)だが、実際は権力や出世欲・名誉欲を動機とした欺瞞・不正に満ちているというものである。その証明として、他人の業績の盗用やデータ捏造など過去の事例をこれでもか並べてくれており、この点が本書の面白いところだろう。ピアレビューも査読も追試もミスコンダクト対策として機能していない著者はいうのだが、それらに替わる解決策は提示されていない。文学部にいる僕なんかは、STAP細胞騒ぎを横目で見て、トンデモ学説をきちんと排除できる理系分野は素晴らしいと感心したのだが、本書が必要とされるということはまだ不十分だということなのだろうか。

  もはや古典と呼べる本であるが、新たに読む場合は注意が必要な点もある。データを偽造したとして第10章の半分を使って非難されているシリル・バートだが、近年では名誉回復の動きもあるようだ1)。一方、同じ章で正義の側として扱われているスティーヴン・ジェイ・グールドは、社会生物学論争で科学より政治を優先する立場を採ったとして、その信用は少々落ちている。再刊の際、このあたりについても訳者には解説で言及してほしかったな。なお、著者のウェイドは『宗教を生みだす本能』を書いている。面白い本だが、そこではデータの裏付けのない想像がけっこう展開されている。

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1) shorebird / 書評:安藤寿康『遺伝子の不都合な真実』(2013-11-21)
  http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20131121
  Wall Street Journal / "IQは遺伝子に組み込まれているのか-双子の研究で学界も変化"(2012-6-25)
  http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-466702.html
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