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中高年ならば少しばかり太っていたほうが長寿だ、と

2015-12-18 09:22:24 | 読書ノート
村上宣寛『あざむかれる知性:本や論文はどこまで正しいか』ちくま新書, 筑摩書房, 2015.

  コンセプトのわかり難い本で、最初の60頁ほどはSTAP細胞をまくらにした科学論、残りの150頁ほどは、ダイエット、長寿、仕事の採用、幸福感に関する現段階での科学的結論を紹介するもの。全体に通底するのは「システマティック・レビュー」による検証だが、背景に隠れてしまっており、主題的にはまとまりがなく感じられる。まえがきによれば、他の出版社で出版するつもりだったのにそこでは意図が理解されずボツにされたという。しかし、提供されている情報はとても興味深い。

  システマティック・レビューとは複数の科学論文をメタ分析してより正確で総合的な結論を得る手法。本書は、上記の4つの領域におけるレビューを読んで紹介するというもので、著者本人がレビューしているわけではない。その中身は「ダイエットの成否はカロリー摂取に尽きる。タンパク質は無関係」「睡眠時間7時間の人がもっとも長寿」「仕事のできる人とは一般知能の高い人だからそういう人を選ぶべし。面接は無駄というより有害」「ポジティブ心理学は疑似科学」などである。因果関係の判定で示された数値を挙げながら、ぶっきらぼうに断言してゆく著者の書きぶりが小気味良い。

  ただし、この情報量で新書だと、説明が端折られすぎていてそこが不満である。初期人類は肉食よりも草食だったとか、水生類人猿説だとかが唐突に出てきたりするのが、あまり深められることなく次のトピックに進んでしまう。また、レビューに使われているメタ分析の方法についてももう少し詳しく書いてほしかった。採用の話は、著者の前著とあまり変わっていないような気がする。とまあ問題はあるのだが、手っ取り早く最新の科学的知見が得られるというメリットは大きい。
  
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