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「主婦」こそが理想の市民かもしれないという逆説

2012-10-31 22:44:47 | 読書ノート
ロビン・ルブラン『バイシクル・シティズン:「政治」を拒否する日本の主婦』尾内隆之訳, 勁草書房, 2012.

  フェミニズム的観点からのシティズンシップ論。著者は日本の政治を専門とする米国の学者だが、大上段に構えた政治論を展開するのではなく、一見非政治的な日常生活から日本の政治状況を切り取ってみせる。1990年代初頭に練馬の主婦たちの中に入って観察し、彼女らの論理を再構成し、批評するという内容である。

  本書での主婦をめぐる議論は次のようである。職業的アイデンティティなどの外部にある者として「主婦」というラベルがあり、世間的にはネガティブに評価され、また主婦自身もそのように感じている。主婦は、家庭という私的な世界に引きこもった非政治的な存在として一般的にはイメージされる。このような見方に対して、著者は次のように評価を逆転させる。「主婦」ラベルは、生活水準に基づいた分断を回避させ、女性の連帯をもたらすメリットもある。また、多くの主婦たちはPTAなどのボランティアを積極的に担い、公共活動を担うアクターとして社会貢献している。彼女らの非政治性は、私的利害と遠いという点でクリーンである。もっとも、その非政治性が実際の政治参入において弊害をもたらしているという指摘もあるけれども。

  政治というのはそもそも利害を戦わせるものなのだが、主婦というのはそうした利害を超越することで倫理的優位に立つ存在だというわけである。その限界を十分認識しつつも、しばしば「現在抑圧されており、将来解放されるべき存在」と描かれる主婦像に、肯定的な意義を付与したところが面白い。主婦にメリットが無ければ、日本の若い女学生たちの多くが主婦になることを希望しないだろうしね。一点だけ、四六版で値段が税込4000円を越えるのは高いと感じる。
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