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資本主義の発展には、はじめに植民地(での収奪)ありき

2015-08-07 08:39:57 | 読書ノート
K.ポメランツ『大分岐:中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成』川北稔監訳, 名古屋大学出版会, 2015.

  18世紀を焦点とした世界経済史。西欧の経済的優位をもたらした原因は、植民地と石炭であると説く。他方、中国や日本は18世紀までは西欧と同程度かそれ以上に豊かな社会だったが、人口増加の結果として資源の制約に直面したために、経済停滞に陥ったという。イギリスは植民地と石炭によってそうした制約から解放されていたからこそ、人口増加と同時に経済成長が可能になったという。

  基本的な主張は上記の通りで、あとは18世紀中国(特に長江下流と広東)の豊かさを示す細かい論証に費やされる。たまにインド、日本、東欧が言及される。こうした論証は通説への反論のためである。例えば、制度学派(ノース)の、権力の介入によって東洋では資本蓄積が妨げられたという説などが俎上に載せられ、その介入は西欧ほどでないようだし、仮に頻繁だったとしても当時の西欧に見劣りするほどに経済発展が妨げられたわけではなかったと反論する。このほかジョーンズやブローデルが検討されるが、彼らの議論についてあらかじめ知識が無いと、面白く読むのは難しいかもしれない。

  いずれにせよ、文化や制度の違いはあったが、各国それぞれの経路を辿って18世紀に至るまでそれなりに発展したということである。そして通常ならば、土地や資源の制約──田畑で食糧を作るか商品作物を作るかの選択や、燃料や建築資材としての木材の枯渇など──のために人口増をまかないきれなくなるという、マルサス的ジレンマに陥る段階が来る。18世紀後半からの中国と日本はそうだった。しかし、イギリスだけ(西欧全体ではないことに注意)は、燃料を石炭に頼ることができ、また砂糖や綿花の生産を新大陸の奴隷労働に頼ることができた(さらにそれらが蓄積された資本の投資先になった)。この違いが、産業社会へのブレイクスルーとなったのだという。

  以上。専門書であり気軽に読めるものではないが、チャレンジする価値はある。個人的にはまったく知らない上に特に興味も無かったけれども、18世紀の中国の庶民生活とその生活水準が理解できたのがタナボタ知識だった。江戸後期の社会についても、別のなにかの本で持続可能なエコ社会などという評価を聴いたことがあったが、本書に従うとよくあるマルサス的限界にぶち当たった停滞した社会だったということになって、それほどに誇れるようなものではないことがわかる。なお、原書はThe great divergence (Princeton University Press, 2000.)である。
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