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図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

生産的な人たちの図書館利用を可視化するインタビュー集

2017-12-01 11:57:27 | 読書ノート
岡部晋典『才能を引き出した情報空間:トップランナーの図書館活用術』勉誠出版, 2017.

  献本御礼。というか、もらっておいてお礼の連絡もせず四カ月も放置していてすいません。以前、著者と会う機会があったときに本書の企画を聞かせてもらったことがあるのだが、同席した知人は「図書館の理解者による図書館礼賛本じゃないの?」とその意義に否定的だった、著者を目の前にして。僕らのように量的研究をやっていると「個人のエピソード」に対して懐疑的になってしまうというところはある。だが、著者による終章によれば、このような質的調査に挑んだのは「敢えて」とのこと。

  読んでみると単純な図書館礼賛本ではないことがわかる。結果として図書館を肯定する発言は多くなっているものの、まずは著者の言う「トップランナー」たちがどのように知的な経験を積んできたか、キャリアを形成する上でどのように情報収集してきたかを明るみにするというコンセプトが先行し、そのうえで図書館との関わりを浮き彫りにするというインタビューの構えとなっている。なので、インタビュイーにはキャリア形成において図書館が特に重要というわけではない人もいた。もちろん、図書館の話は多いのだが。

  読み物としても面白い。「貧しい生まれで本が買えず図書館で勉強して出世し今や財界の大立者」的な図書館界の王道サクセスストーリーは全然無い。インタビューの前半では、少年期のサブカル歴を披露して大盛り上がりするというパターンがあって、ロキノンの2万字インタビューを思い出した、「子どもの頃はちょっと変わってたんだ。友達がいなくてルー・リードを聴いて孤独を癒した」みたいな。後半は、仕事やプロジェクトを遂行するうえでどう図書館を使ったか、あるいは遂行する上で図書館はこうあってほしいという話となる。それぞれ興味深く、これはエピソードの勝利だろう。「トップランナー」たちも半分は僕が全然見聞きしたことの無かった人で、よく探してきたなと思う。

  著者の博識さは図書館情報学の専門の枠を超える。今後活躍していくだろう要注目の研究者である。会った際の印象では饒舌で言葉がポンポンでてくるし、しゃべりも上手い。いち図書館情報学者としては、現在空位となっている「ポスト糸賀雅児」の座を彼が埋めることを期待している。

  
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