29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

投票しないことは不道徳でなく、さらにいえば正しいこともあるという

2025-03-02 11:10:12 | 読書ノート
ジェイソン・ブレナン『投票の倫理学:ちゃんと投票するってどういうこと?』 玉手慎太郎, 見崎史拓, 柴田龍人, 榊原清玄 訳, 勁草書房, 2025.

  政治学。投票率が高いことは本当にいいことなのか?政治についてわかってない人は投票しないほうがいいのではないか?という疑問を扱っている。結論は──訳者解説のフレーズを用いれば──「バカは選挙に行くな!」ということだ。議論は明快でわかりやすいが、常識に反するこの主張は読者を戸惑わせる。原著はThe Ethics of Voting(Princeton University Press, 2011)で、『アゲインスト・デモクラシー』より前の著作となる。

  著者によれば、投票は私的利益を目的としてはだめで、共通善を目的としなければならない。しかも、候補者の政策と共通善の関係は認識的に正当化されている──すなわち、論理的に正しいまたは科学的な裏付けがある──ことが条件である。投票者が共通善に益すると根拠なく思い込んでいる、あるいは誤解している(例えば特定の宗教観にもとづいた政策への支持)というのもだめで、かつまたよくわからないけれどもまぐれ当たりで正当な候補者を選んだというのもだめである。いずれの場合でも、共通善に資する候補者が選択されることに対して、不要なコストをかけさせることになるからである。共通善を正しく認識できないならば、投票しないほうが望ましいとする。

  投票の放棄は社会に対して不道徳な振る舞いなのだろうか。そうではない、と著者は言う。共通善への奉仕は、投票とは異なる方法でも行うことができる。ボランティア活動とまでいわずとも、「自分の仕事をすること」が十分な貢献になるはずである。票の売買も次の条件で正当化される。政策について無知な有権者や、誤った認識を持っている有権者の票を購入して、彼らを投票に行かせないというケースである。あるいは、彼らに共通善に資する候補者に投票するよう要請するケースである。さらに、優れた認識を持っているにもかかわらず投票に行こうとしない有権者を投票させるために票を買うということもありうる。

  以上。「共通善」という重要概念の内実については保留したままの議論となっている。共通善だとか公共善を目的とするという考え方は米国で伝統的な考え方ではない。政治とは私的利益がぶつかり合う場であり、それぞれの権力を分立させることによって均衡・調整がはかられるというのが『フェデラリスト』的世界観であった。そういう点で、さまざまな前提を置いて論理だけで議論をすすめる本書のアプローチは、政治思想を扱う本として特異な印象だった。確かに刺激的であるが、思考実験として読むべきだろう。
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デマ拡散のメカニズムについて、影響の程度については留保

2025-02-21 22:27:51 | 読書ノート
シナン・アラル 『デマの影響力:なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』夏目大訳, ダイヤモンド社, 2022.

  SNSを経由すると真偽不明の情報が(正しい情報より)なぜ広く拡散されるのか、を探る一般向け書籍である。著者はMIT所属の研究者であり、同時にIT企業も起ち上げている起業家でもある。それぞれで共通するのはデータ・サイエンティストであるということと、それを生業としていること。原書はThe Hype Machine : How Social Media Disrupts Our Elections, Our Economy, and Our Health--and How We Must Adapt (Crown Currency, 2020.)で、原題のハイプ・マシーンとは偽情報をまき散らす装置のこと。主にFacebookとTwitter(当時)が取り上げられている。

  2016年の米国大統領選挙に際し、ロシアの諜報機関を筆頭にさまざまな外国の団体が偽情報をインターネットに撒き散らした。そのメカニズムはどうなっているのか。第一にこの問いについて、偽情報を作成する側の意図と戦略、それを拡散するSNSのアルゴリズム、情報の受け手側の心理、これらをつなぎ合わせて詳細な説明を試みている。第二に、偽情報は大統領選に影響したのか、影響したならばどの程度かを問うている。程度の判定が難しいのは、もともと特定候補者を支持している人間がその対立候補者のスキャンダルについてのニュースを受け入れているという可能性があり、偽情報はもともとの支持不支持を変更するものではないかもしれないからだ。第二の問いについての著者の見解はやや曖昧で、状況証拠からみて影響はあるとするが、その程度は大きくないかもしれない、という書きぶりである。すなわち、偽情報の影響力を議論しているものの、結論を出していない。

  以上。偽情報拡散のメカニズムについてはくわしいが、影響の程度についてはさらなる研究の余地があるということだ。というわけで、邦題に惹かれて読んでみると肩透かしを食らう。ためになる内容ではあることは確かだが、学者らしい慎重な筆の進め方であり、600頁弱は冗長であると感じた。
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キャンセルカルチャーの原因は米国大学生のメンタルの弱さのせい

2025-02-18 21:08:36 | 読書ノート
グレッグ・ルキアノフ, ジョナサン・ハイト『傷つきやすいアメリカの大学生たち:大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』西川由紀子訳, 草思社, 2022.

  米国大学事情を伝える一般向けの書籍。キャンセルカルチャーが吹き荒れた2010年代の大学生のメンタリティを分析する。著者のうちジョナサン・ハイトは邦訳もあってよく知られた心理学者である。もう一人のグレッグ・ルキアノフは、弁護士でかつFoundation for Individual Rights and Expression なる団体の長も務めているとのこと。原著はThe Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (Penguin, 2018)である。

  米国の2010年代の大学生は、冒険を避け、自分の感情を絶対視し、人間は善人と悪人に分かれるという単純な世界観を持っている。彼らは少々気に障る程度の発言に対しても暴力的な加害であるとみなし、発言者を黙らせるために物理的暴力も辞さない(彼らの中では「正当防衛」である)。なぜこのようになってしまったのか。原因は六つあるという。第一に、米国で蔓延する政治の二極化が大学に侵入してきたことがある。第二にスマホが普及して、若者の不安症とうつ病を増加させているためである。スマホ依存は現実世界での対人能力を低下させ(単純に学習機会が減るから)、特に女の子の方に問題をもたらしやすいという。

  第三に、子どもが犯罪に巻き込まれることがないよう社会が防衛的になってしまったことがある。大人が子どもの監視を徹底するようになり、子どもが失敗や適度な危険から学ぶことが無くなってしまった。第四に、屋外での遊びが減少したため、子どもの間で起こったトラブルの自力解決を学ぶ機会が無くなったことがある。その一方で、大人など上位者への告げ口で相手を罰する行動が広まった。第五に大学が官僚主義に陥り、訴訟などの面倒を避けたいこともあってお客様化した学生の要求を受け容れやくなっていることがある。第六に、正義の解釈をめぐって論争がある中、2010年前後は機会の平等よりも結果の平等に注目させる事件が相次ぎ、その波がキャンパスまで押し寄せたということもある。

  著者らは最後に、大学は異論がぶつかり合う環境を保つべきだとして、大学の管理者には圧力に屈しないよう呼び掛けている。また、親に対しては過保護な育児に陥らないよう呼び掛けている。大学は物理的に安全であるべきであるけれども、思想や感情の面において安全であることを約束するものではない、と。

  以上。こういうのを読むと「日本では~」と考えしまうが、今のところこのようにはなっていない。キャンセルされた大学教員の例もあるが、原因は大学生からの突き上げではなく、研究者間でのトラブルだったり、団体からの圧力だったりである。Woke化した日本の大学生もおそらくそこそこいるのだろうけれども、目立ってはいない。米国の大学は日本の大学より質が高いということになっているけれども、本当なのか。
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最近の住宅価格高騰の理由と対策、ただし議論は南関東中心

2025-02-13 10:23:24 | 読書ノート
野澤千絵『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中公新書ラクレ), 中央公論, 2024.

  住宅供給の動向を論じて、近い将来を予測する。前半は全国の動向を伝えているが、後半は駅レベルでの住居価格の分析で、完全に南関東に限った話となっている。著者の前著──『老いる家 崩れる街』『老いた家 衰えぬ街』──をこのブログで紹介したことがある。

  20世紀末、駅から遠い郊外エリアは、通勤する夫と専業主婦の居住・子育て用エリアとして、戸建て中心に開発されてきた。一方、近年増えてきた共働き夫婦にとっては、夫婦ともに通勤することもあって、駅に近い集合住宅のほうが望ましい。もっと言えば、職場のあるビジネス街に近いほうがよりよい。しかし、駅に近いエリアにある住宅はどこも高価で、若い夫婦には手の届かないものとっている。それはなぜか。一つは駅近物件の需要の高まりが価格を押し上げているという理由がある。加えて、南関東ではすでに再開発の波が一巡したため、駅近辺の物件の供給が落ちているという理由もある。

  最近では、駅前にタワマンが建つようになった。駅前の再開発には土地取得や既存の建物の解体などにかなりの費用がかかる。資材の高騰もある。このため、容積率を法の限度いっぱいまで使う(逸脱しているケースもあるらしい)高層建築として費用の回収をはかることになる。低層階にはテナントを入れるが、高層階を分譲のタワマンにする。分譲マンションにすれば、かかった費用を短期的に回収できるらしい。このマンションを、富裕層または外国人が投資目的で購入する。その結果、もともと普通の勤労者では購入できない価格だったのが、さらに吊り上がることになる。人手不足は将来も続くと予想されているのに、耐用年数の過ぎたタワマンの解体に誰が金を払うのか。著者は、このような疑問も寄せている。

  とはいえ、高齢化が進みすぎたゆえに遺産相続した者が放出するだろう土地・物件が多いエリアも予想できるという。後半は、南関東のどのエリアがそうなのかを土地の固有名を挙げて指摘している。

  以上。まとめれば、共働きの若い夫婦の「子育てしながら」というニーズと住宅供給が完全にミスマッチをおこしているものの、人口減少で将来の供給は増えるはずだということだ。後半の、土地の固有名が出てくるところは不動産関係者ならば血眼になって読むだろう。
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米国オルタナ右翼はカウンターカルチャーの末裔である、と

2025-02-12 11:18:45 | 読書ノート
アンジェラ・ネイグル『普通の奴らは皆殺し : インターネット文化戦争 : オルタナ右翼、トランプ主義者、リベラル思想の研究』 大橋完太郎訳, 清義明監修・注釈, Type Slowly, 2025.

  米国のオルタナ右翼(Alt-Right)の起源と思想を検討する内容。固有名詞(特に人物名)が大量に出てくるが、頁下部に詳細な注釈が付いており理解を助けてくれる。原書はKill All Normies: Online Culture Wars from 4chan and Tumblr to Trump and the Alt-Right (Zero Books, 2017.)である。2016年の米国大統領選挙におけるトランプ勝利に至るまでの、ネット言説の動向を詳しく伝えている。著者はテキサス出身の白人女性でフェミニストである。Type Slowlyは2024年設立の出版社であるとのこと。

  著者の見立てによれば、オルタナ右翼はキリスト教を信奉する伝統的な保守主義者とはまったく違っている。オルタナ右翼は1960年代の対抗文化の系譜にあり、価値相対主義的で、境界を設定するような振る舞いにたいして「侵犯」──破壊、あざけり、ニヒリズム──で答えることを信条とする。2000年代までのインターネット言説では、支配的な文化(大企業的あるいはエリート的な文化)からのリベラルな解放が夢想されていた。しかし、抑圧やタブーの存在を嫌うネット文化は、4chan(米国における2ちゃんねる)を舞台として、他者への配慮を(敢えて)欠如させた直截的な物言いを人目に付くものとした。オルタナ右翼は、オタク文化と親和的で、自由恋愛市場から疎外された男性たちをひきつけているとする。彼らは揃って反フェミニストである。同時期、リベラル側は、アイデンティ政治に傾倒することで特定表現の禁止や発言者のキャンセルといった活動に走った。これが抑圧的に見え、自由を志向するオルタナ右翼と激突することになった。リベラル側はこの間、仏頂面で問答無用の抑圧的な態度に終始し、楽しげに議論する態度を示したオルタナ右翼と比べて魅力を失っていったという。

  以上。あくまでもオルタナ右翼の研究であり、普通の保守主義者であると思われるトランプ支持層の大半は捉えていない。だが、ネットで影響力を発揮したトランプ支持派の先兵部隊として、彼らがどのような経緯で影響力を持つようになったのかがよく分かる内容となっている。4chanに記された、さまざまな女性ライターに対する下品な書込みに対してはうんざりさせられる。ひとつひとつ書込みの内容が酷いというだけでなく、いちいちこれを採りあげて読者に読ませる必要があるのかという著者に対する疑問が起こるのだが、ネット言説の下劣さを示すには必要だったということなのだろう。2ちゃんねるもこんな感じだったんだっけ。
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なぜ現世代は将来世代のために行動すべきか、説得する

2025-02-01 08:54:05 | 読書ノート
ウィリアム・マッカスキル『見えない未来を変える「いま」:〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』千葉敏生訳, みすず書房, 2024.

  倫理学。著者の唱える「長期主義」なる概念を解説している。長期主義とは「長期的な未来にプラスの影響を及ぼすことは現代の主な道徳的優先事項のひとつである」という考え方である(p.325)。具体的には、未来の人類の厚生のために、地球温暖化対策といった環境保護や化石燃料などの資源保護、動物福祉(これが肉食忌避のヴィーガニズムにつながる)などを求めることになる。ただし、本書はそうした具体的な問題についてはわずかにとどめ、長期主義の論理について詳しく説明する内容となっている。原書はWhat We Owe the Future (Basic Books, 2022.)。このブログは前著『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房, 2018.)についても過去に言及している。

  長期主義は、哺乳類の平均的な存続期間が100万年程度であることから、人類もそのくらい存続するだろうと仮定して議論を進める。現在の人類は誕生して30万年ほどでまだ望ましい価値観を身に着けていない。まずは誤った倫理観が支配的になるのをしりぞけることが重要である。その際、価値の固定化をもたらす可能性のある脅威として人工知能が警戒される。続いて、人類の絶滅や回復不能な文明の崩壊をもたらすとして、パンデミックや核戦争ほかいくつかの可能性が挙げられる。そうしたあからさまな崩壊だけでなく、科学技術の発展が滞ることによる停滞の可能性も挙げられている。収穫逓減の法則にしたがって、科学技術への投資量を増やしてもかつてより大きな発見・発明は難しくなっている。今後ますますそうなってゆくだろうが、人類はそこまでの投資に耐えられないかもしれないとのことだ。将来の状態をどう評価するかについては、幸福度の高さ、苦痛の少なさを基準とする。厚生の観点からは、野生動物は絶滅したほうが地球における生命全体の幸福度は高まるらしい。最後に、未来のためには、個人がちまちま買い物袋の再利用などを心がけるよりも、環境保護団体に寄付したほうがマシだと断言する。また、反出生主義とは異なり、長期主義は子どもを持つことを支持するという。

  以上。長期主義の大まかな方向性が一般の人にもわかりやすく説明されている。未解決の論点もあるが、きちんとそれが示されている点が優れているところでもある。奴隷制廃止がどのように進展したかなどの小ネタも楽しい。ただまあ、焼肉図書館研究会の会員としては、肉食者として将来糾弾の対象になるんだろうなあと予想されて、動物福祉の箇所は気持ちよく読めなかった。
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ジョン・B.トンプソン『ブック・ウォーズ』邦訳が出るらしい

2025-01-25 08:53:28 | 読書ノート
みすず書房さまから『ブック・ウォーズ』(久保美代子訳, 2025)をご恵贈いただきました。どうもありがとうございます。邦訳は写真の右書籍。左書籍は原書ペーパーバック版で、このブログでは2024-1-82024-1-9のエントリで言及した。

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短期的な学力よりも非認知能力の向上が長期的に重要とのこと

2025-01-23 12:09:15 | 読書ノート
中室牧子 『科学的根拠(エビデンス)で子育て:教育経済学の最前線』ダイヤモンド社, 2024.

  教育経済学の視点からさまざまな実証研究をレビューしてまとめた育児本。『「学力」の経済学』(Discover21, 2015.)の続編にあたる。教師の力量が重要だという点や、その後の教育段階よりも幼児教育の投資効率がよいという主張は前著を踏襲している。本書は、学齢期における学力の高さだけでなく、社会に出た後の厚生──所得が高い、あるいは問題行動が少ないなど──への育児・教育の影響に関心が移っている点が異なる。

  収入を高める方法には、スポーツをする、リーダーとなる経験をもつ、忍耐力・自制心・やり抜く力の三種の非認知能力を高める、これら三つがあるとのこと。そして、それら非認知能力が向上するかどうかは学校の先生に影響されるという。もちろん家庭の影響もあって、親が子どもとそれなりの時間を過ごし、「質の高い」コミュニケーションをとることもまた効果があるらしい。兄弟のうち第一子のほうが成績がよいという世界的にみられる傾向は、親から関心を向けられた時間やコミュニケーションの量が第二子以下より多いという理由で説明できるとする。

  以上のほか、進学校で成績下位になるよりはそれより劣る学校で成績上位になったほうがよいという議論や、男女別学のメリット・デメリット、幼児教育の質の測定問題、タブレット端末を用いた教育には効果がないかまたは学力を低下させる傾向があること、習熟度別の指導が効果的であること、などについて論じられている。祖父母との関わりを多くすると、コミュニケーション能力は高まるけれども肥満になりやすいという指摘もある。

  興味深い内容である。だが、このように合理的≒正しい育児が提示され、また今後も提示され続けるだろうと思うと、育児中の親やこれから親になる若い人は大変だ。昔のような、ほったらかしだったり、親の気分で子どもにあたるような雑な子育てはもはやできない。場合によっては社会的制裁を受けるかもしれない。親は子どもの人生のプロデューサーにならざるをえなくなっている。そういうプレッシャーもまた少子化を促しているはずだ。とはいえ昔の野蛮な育児に戻るわけにもいかない。そういう時代になってしまったということなのだろう。
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図書館蔵書のマイナーすぎるか新しすぎるトピックについて取り上げる洋書

2025-01-21 14:48:20 | 読書ノート
Becky Albitz, Christine Avery, and Diane Zabel, editors. Rethinking Collection Development and Management Libraries Unlimited, 2014.

  米国図書館員による蔵書構築と蔵書管理についての29の論考を集めたアンソロジー。館種については特に断り書きはないけれども、一つのトピック(例えば除籍など)について大学図書館での場合と公共図書館で場合で別の章を充てており、学校図書館の話は少々という構成である。前任校にいたときに入手したのだが異動の際に読まないまま後任者の蔵書になってしまった。最近になってまた読みたくなったので再び買った。

  第一部は資料の評価についてで、電子書籍やデータベースの評価、除籍などを各章で扱っている。第二部は資料購入についてで、需要主導型購入(DDA)、電子学術雑誌のバンドル買い(big dealと表現されている)、リースすなわち又貸し、電子書籍、自主出版物とかストリーミングビデオを資料とするならばどうするか、等が議論されている。DDAは日本でも大きく注目されたけれども、選択できるのは限られたごく一部のタイトルだけで、利用の多いタイトルはリストに入っていないようだ。又貸しについては公共図書館だけかと思いきや、大学図書館も導入していることがあるとのこと。第三部は目録作成や資料共有についてで、DDC以外の分類、大学図書館で見られるディスカバリーサービス、コンソーシアム、フローティング・コレクション等が扱われている。第四部は保存についてで、特別コレクション、災害時の対応、資料のデジタル化を各章のトピックとなっている。

  本書が発行された2014年は米国で電子書籍のシェアの伸びが頭打ちになった時期で、この後は勢いを失う。本書にはその辺の雰囲気がまだ反映されておらず、一部論考は電子資料に前のめりになっているように見える。だが、すでにサービス上の問題点も指摘されている。個人向けの電子書籍カタログにはあるタイトルが、図書館向けの電子書籍カタログに提供されないことがあることだ。これは出版社が許諾しないからなのだが、図書館利用者にはあまり理解されていない。日本においても市販の電子書籍タイトルすべてが図書館でも提供されると誤解して電子図書館サービスの導入が進んでいるように見える。ここはちゃんと説明しておいたほうがいいと思う。個人向けと図書館向けのタイトル数は大きく異なる。2020年代前半の状況を調べたところ、市販電子書籍のおおよそ1/10が図書館向けに提供されているだけである。売れ筋の最新刊は入らないという状況は今後も大きく変わらないと個人的には思う。

  話が脱線してしまったが、オーソドックスな蔵書管理本とは異なった、痒いところに手が届く論文集として「使える」内容である。「デユーイを殺した男」と称される人物(要はDDC反対派の分類専門家)も出てくる。
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電子書籍前夜の米国出版産業について数値データで伝える

2025-01-10 10:38:49 | 読書ノート
Albert N. Greco The Book Publishing Industry, 2nd Ed. Lawrence Erlbaum Associates, 2005.

  米国出版産業の概説書で、第二版は電子書籍前夜(というかKindle前夜)までの動向を多くの数値データを用いて伝えている。2013年に第三版が発行されているのに気付かず、不覚にも第二版を入手して読んでしまった。著者は米国の経営学者である。

  主に商業出版を扱っているが、学術出版や教科書についても触れられている。米国の出版・流通プロセスについて簡単に説明した後、代表的な出版社、業務、編集プロセス、出版社によるコンテンツの獲得、マーケティング、消費の動向、表現の自由と著作権、将来について説明するという章構成になっている。1990年代から2000年代半ばにかけて、紙の本の売上は伸びているが、読者は高齢層に偏っており今後の減少が見込まれる。返品が増加してきている。Barnes & NobleやBorders(この版の時点ではつぶれていない)のような超大型チェーンが栄える一方で、独立系書店は苦境に立たされている。このほか、日本人にはよくわからないブッククラブの経営および運営や、新刊をどう宣伝するのか、などの情報がある。出版に占める図書館購入のシェアは8%ぐらいで微減しつつあるとのこと。

  以上。トピックはThompsonのMerchants of Cultureと重なるが、あちらで数字が示されていなかったところを補ったという印象である。というか、このGreco著の方が先に出版されているわけで、Thompson著はこれに出版のメカニズムというかロジックについての説明を補完したというのが正しい理解だろう。
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