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短い論考ながら専門用語が多く難しめ

2008-12-15 12:33:43 | 読書ノート
藤垣裕子『専門知と公共性:科学技術社会論の構築へ向けて』東京大学出版会, 2003.

「科学技術社会論」なる新たな領域の本。科学者が保証する専門知識と、薬品や食品における規制や自然を改変するような公共事業などに必要とされる知識に乖離があり、問題を生じさせているという。本書が提示する科学技術社会論は、科学者よりは社会のニーズの方に重きを置いて、両者を調整する議論である。まず、科学者共同体が持つ知識と社会が要求する知識がなぜ齟齬をきたすのかを分析し、次に、社会のニーズを最大限反映しつつもある程度の科学的知見も取り入れた合理的意思決定システムについてスケッチしている。

 科学的に不確定で、確実な知見が得られるのを待っていられない、短期の解決が要求される問題に直面したとき、どのような意思決定が必要となるだろうか? 本書では、当事者も参加させる意思決定システムが提案されている。このようなシステムは、非専門家に優しいように見える。専門家でない当事者が、意思決定を行う議論に参加して発言権を持つ。彼らが、現場の適切な情報(ローカル・ノレッジ)を提供できるならば、より妥当な決定が行われるかもしれない。

 ただし、その決定が誤りである可能性もあるわけで、その場合の責任も非専門家が一部持つのだろうか? このようなシステムは合意を取り付けるのに合理的であることは認めるが、責任の面で非専門家に厳しいことを要求しているようにも見える。似たような例として、今後の裁判員制度の推移は参考になるかもしれない。

 興味深い本である。しかし、ページ数は四六版で224ページと短いが、専門用語が多く一般の人には難しめだ。価格もこの量で3400円と高い。同様の内容を一般人(せめて学生)に説くレベルの書籍が上梓されることが期待される。
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