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くだけた装いにしては難しい日本の年金制度擁護論

2017-03-17 19:53:21 | 読書ノート
権丈善一『ちょっと気になる社会保障:知識補給増補版』勁草書房, 2017.

  日本の社会保障論。特に年金が中心に論じられる入門書で、初版は2016年発行である。著者は慶應義塾大学の先生でシリーズ『再分配政策の政治経済学』(慶應義塾大学出版会)で知られている。少し前にベストセラーになった細野真宏『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』(扶桑社新書, 2009)に理論と知識を提供していた学者である。

 「年金は破綻しない」という主張が基本線にある。要は年金制度擁護論であり、年金破綻論や抜本的改革論に対する反論が企図されている。積立方式でも賦課方式でも結果に大して違いはない、年金は生活保護と違うものであり額が生活保護より少なくても妥当である、世代間格差は少々気にすべき問題ではあるもののが深刻に考えすぎるべきではない、などなど。全体の1/3が「知識補給」なるコラムとなっており、分かり難い論点について突っ込んで解説している。文中での批判の矛先はマスコミや政治家であって、同じ領域の学者の名を挙げない。個人的にはここにどうも「藁人形論法ぽさ」を感じてしまうのだが、同業者に気を遣ったのか、それとも入門書では不要だと考えたのかどっちなのだろう。

  で肝心な点だが、入門書として十分機能しているかというと微妙である。社会保障の意義の話に限っては理解しやすい説明となっているのだが、日本の年金制度の持続可能性の話はけっこう細かい。提示された個々の結論について説明がいちおうあるものの「もっと詳しい議論は主著の『再分配政策の政治経済学』を読んでください」というパターンで終わることが多く、消化不良気味となる。図表も豊富だが、ややこしくて意味のわからないものもある。簡単に説明することが難しいテーマだとは思うが、もう少し「下りてきてほしい」というのが率直な感想である。
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