「KOKOROBO(ココロボ)」
https://www.kokorobo.jp/
日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)
「COVID-19等による社会変動下に即した応急的遠隔対応型メンタルヘルスケアの基盤システム構築と実用化促進にむけた効果検証」
プロジェクト研究開発代表者 中込和幸(国立精神・神経医療研究センター)
コロナ下うつ病、重症化しやすく オンライン相談も活用を
コロナと病② 三村将・慶応義塾大学教授
2022年3月20日 日経
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は「心理的な感染症」、「社会的な感染症」という側面も持つ。
メンタルヘルスの専門医で、日本うつ病学会理事長の三村将・慶応義塾大学教授に、患者への影響や医療の行方などを聞いた。
コロナにかかってしまうのではないかという不安、外出に対する恐怖感、手洗いや消毒などに関する強迫観念や集団の中で
コロナに感染している人に対するバッシング、せきをした人に対する忌避感や偏見など、問題が複合的に起きて、
うつ病や不安症を発症したり、悪化したりするケースがある。
コロナ禍で病院に行くことを控える人も多いとみられ、正確な数の把握はできていないが
メンタルに不調をきたす人は確実に増えているだろう。慶応義塾大学病院では初診も再診も大きく減った。
ワクチンの普及などもあり、今は徐々に戻りつつあるがコロナ前の状況には遠い。
うつ病などの精神疾患の多くは継続して診察や投薬を続けていく必要がある病気だ。
ただ患者の中には重症化してしまってから来院する人も多い。
いったん重症化すると日常生活を送れるような元の状態に戻るまでに時間がかかってしまう。
問題のひとつは、先が見えないことにも関係している。いつ終わるか分からないという心理的な恐怖が大きい。
精神的に弱っている状況の人はもちろん、今まで問題なかった人たちにとっても大きなストレスとなっている。
こうした人たちへの心理的なサポートは喫緊の課題といえる。
メンタルヘルスに対する相談窓口を広げる取り組みは始まっている。日本医療研究開発機構(AMED)からの委託を受けて、
国立精神・神経医療研究センターや慶応義塾大学、杏林大学などが自治体と協力して立ち上げた「KOKOROBO(ココロボ)」という
オンラインサービスだ。人工知能(AI)を使ったチャットで、軽症から重症までを自動判定できる。
ココロボは、スマートフォンやパソコンで気軽に利用できる。
こうしたアプリは科学的な検証を積み重ねていく必要もあるが、うつ病対策や自殺対策などにも役立つ可能性があるだろう。
症状が重い人はビデオ通話を使ってカウンセラーとの面談ができるほか、場合によっては直接来院してもらって診察を受けることができる。
オンラインを活用するシステムは有用なツールだ。在宅勤務は今後も続き、出勤とリモートのバランスをとった働き方が定着していくだろう。
医療でも遠隔診療と対面診療の組み合わせが進んでいく可能性がある。
特に有用性を感じるのは遠隔地の人に対する診察だ。海外在住の日本人に対して
母国語でのメンタルヘルス相談などは大きなメリットを感じる。通院、来院が難しい人にとっては継続的な診察や治療が可能になる。
もう一つがセカンドオピニオンだ。慶応病院では精神科領域でもセカンドオピニオン外来があるが、
これはオンラインでもいいのではないかと考えている。ポストコロナを見据えて定着する可能性がある。
実は精神神経疾患にはオンラインがいちばん向いていると思う。例えば家にこもって出られないといった症状の場合は、
そもそも病院に行くことが難しい。そういう人たちにまずオンラインで話をして関係性をつくっていく。
その後で病院に来てもらうような進め方もできる。
ただ精神化領域での利用はあまり広がっていない。これは大きな問題だ。
アプリやウェブを活用した遠隔診療はやはり若い世代が中心で、高齢者には使いにくいという問題がある。
70代、80代といった世代ではスマホを使い慣れていない人も多い。
また社会的に孤立している人たちにはこうした情報が伝わりにくい。
特にコロナ禍で人と人とのつながりが希薄化しており、孤立、孤独を感じる人が増えている。
若い人や女性にそうした傾向が多い。社会的孤立はうつ病を発症するリスクが高いことも分かっている。
こうした影響は中長期的にボディーブローのように出てくるだろう。
コロナ禍でのメンタルヘルスの悪化を危惧するのは日本だけの問題ではない。
世界保健機関(WHO)もこの問題を重要視しており対策を話し合っている。
もはや各国の精神科医の共通認識だ。日本ではコロナ禍で女性の自殺者が増加したこともそうした問題を裏付けている。
長期にわたるコロナの影響は、後遺症のほか、心理的・社会的要因など多岐にわたる。
本人が気づかないだけで、大きなストレスを抱えてしまっている人も多い。
心身に不調を感じたのなら、我慢せず、専門家に相談する機会を持つことが大切だ。(聞き手は先端医療エディター 高田倫志)
欧米で先行、うつ病やPTSDなどで治療効果も確認
精神疾患の診療・治療は人と人との会話によるつながりが重要となるため、オンライン診療を活用しやすい領域とされる。
米精神医学会ではアクセス、コスト、有効性の観点から電子処方箋と組み合わせて使用を推奨している。
特にうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療に効果的という調査結果も報告しており、
コロナ禍を追い風に診療・治療のツールとして広がりつつある。また得られたデータをもとに新たな診断支援アプリなどを開発するなど、
研究と実証による技術革新の歯車が勢いよく回る。
同様の取り組みは英国やドイツ、中国でも進むが、日本はオンライン診療そのものが普及しておらず、
精神科領域での活用は限定的な事例にとどまる。
「医療の質が落ちる」「安全性や秘匿性に問題がある」「抗精神病薬の取り扱い懸念がある」という慎重意見も根強い。