中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

メンタルヘルス対策に必要な就業規則

2013年10月31日 | 情報
9月27日にアップした「就業規則に規程がなくても」の続編です。

今回は、反対にメンタルヘルス対策上、最低限必要な就業規則の話しです。
結論から言うと、通常の就業規則に次の4点を追加すれば、最低レベルはクリアできるというのが今回の提案です。
①休職規程
②休職期間の積算
③主治医の診断書の提出
④復職後の処遇

①休職規程
休職規程は、殆どの企業において既に就業規則に盛り込まれていますので、何を今さらでしょうが、
調査結果によると全企業の10%弱においては、休職規程が定められていません。
従って、まず休職規程を定めていただかなければなりません。

②休職期間の積算
MH疾患者は、休職と復職を繰り返す傾向にありますが、休職期間満了の直前に復職すると休職期間がリセットされてしまいます。
これを悪用して、休職と復職を繰り返す従業員がいてもおかしくありません。
この現象を防ぐために、一定期間内に再休職する場合は、休職期間を積算することができるよう定めなければなりません。

③主治医の診断書の提出
主治医の診断書は、原則として従業員側が費用負担しますので、会社側が診断書の提出を求めるのであれば、
就業規則に診断書の提出義務と誰が費用負担するのか、明確にしておかなければなりません。

④復職後の処遇
休職前のパフォーマンスを回復して、原職に復帰できるのであれば何ら問題はありません。
しかし、このようなケースは、むしろ稀ではないかと考えています。
そこで、復職しても休職前のパフォーマンスを発揮できない場合は、休職前の処遇を適用するわけにはいきません。
試し出勤中の処遇をどうするのか、規定する必要があります。

MH問題と法律に関する問題の、第一人者である近畿大学法学部の三柴教授は、就業規則に新たな条文を加えることは、
加えるたびに会社の恥を晒すことになる、と仰っています。まさにその通りだと思います。
就業規則を完璧に整備しようと考えたら、岩波書店の六法全書くらいのボリュームになってしまうでしょう。
しかし、中小企業にはそこまで求められても対応できません。
ですから、せめて上記の4点を就業規則に追加すればよいでしょう。
あとは、下記の9月27日にアップした「就業規則に規程がなくても」を参照してください。

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慎重な対応が必要です・補足説明

2013年10月30日 | 情報
10月25日の「慎重な対応が必要です」において、言葉足らずで誤解を招きかねない表現がありましたので、
ここで補足説明をします。

10月25日の「慎重な対応が必要です」では、

>場合によっては、従業員の精神疾患の発症でも、会社が労災申請することも考えられます。
>ですから、精神疾患の発症で従業員が休職する場合でも、会社はなぜ精神疾患を発症したのか原因を追究しておく必要があります。
>これにより、従業員自身が労災申請したことにより、
>御社に労基署の調査が入っても、慌てる必要がなくなり冷静に対応することができます。

としましたが、確認するまでもなく、労災申請するのは、あくまでも被保険者(労災にあった労働者)自身でしなければなりません。
 
労災保険法第12条の8、2項
前項の保険給付(傷病補償年金及び介護補償給付を除く。)は、労働基準法第七十五条 から第七十七条 まで、
第七十九条及び第八十条に規定する災害補償の事由(略)が生じた場合に、
補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。

しかし、普通の労働者は労災の申請方法などは、全く分りませんので、労災であることが明らかであれば、
会社がその労働者名で代わりに必要書類を用意して、労災申請するのが通常です。
ところが、精神疾患を発症した場合は、これが私傷病なのか労災なのかを、会社は俄かに判断できません。
通常、多くの場合は会社が私傷病扱いしますので、当該労働者に何ら手を差し伸べないという状況になります。
ですから、労働者が「これは、労災じゃないか」と思っても、会社は協力してくれませんから、
自分自身で労災申請の手続きをしなければなりません。
これが、申請に対する労災支給決定率が、著しく低くなる原因となっているのです。

24年度認定率 39.0% 、23年度認定率 30.3%

しかし、以下のような状況の場合には、労働者任せにしないで、会社がある程度の助言をするのは、吝かではないと言いたかったのです。

>ここで注意したいのは、「4位 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした 51件」は、例え自社が惹起させた労災事故だとしても、
>派生的に起きた事案ですし、「10位 顧客や取引先からクレームを受けた 13件」などは、会社があえて秘匿する必要のない出来事です。

事実、労災保険法施行規則23条では、会社側に助力義務があることを定めています。

(事業主の助力等)
第二十三条  保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、
事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。
2  事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、
すみやかに証明をしなければならない。

(事業主の意見申出)
第二十三条の二  事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害又は通勤災害に関する保険給付の請求について、
所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる。
2  前項の意見の申出は、次に掲げる事項を記載した書面を所轄労働基準監督署長に提出することにより行うものとする。
一  労働保険番号
二  事業主の氏名又は名称及び住所又は所在地
三  業務災害又は通勤災害を被つた労働者の氏名及び生年月日
四  労働者の負傷若しくは発病又は死亡の年月日
五  事業主の意見
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教員の「残業」月95時間超

2013年10月29日 | 情報
メンタルヘルス疾患の多い業種は、IT関連と公務員、それに教員と云われています。
実は、公務員、教員に関するデータは、公になっていないのですが、それを裏付けるような調査結果が発表されました。

教員の「残業」月95時間超 10年で14時間増える(朝日、13.10.17)

全日本教職員組合(全教)は17日、幼稚園・小中高校などの教職員の勤務実態調査の結果を公表した。
教員の時間外勤務は1カ月平均で72時間56分、自宅に持ち帰った仕事の時間も含めると同95時間32分にのぼった。
「改善のための人員増などが急務だ」と訴えている。
全国の教職員6879人(うち教員5880人)の昨年10月の実態を調べた。
持ち帰りも含めた時間外勤務は、前回調査の2002年より月平均で14時間33分延びたという。
土日勤務が特に増えており、全教は「土曜授業」や週末出勤による残務処理の増加などが背景にあるとみている。

「月100時間以上」約2割 教員の時間外勤務(読売、13.10.26)
全日本教職員組合(全教)が公立小中高校などの教員を対象に行った勤務時間に関する調査で、
「学校で正規の勤務時間外に働いた時間」が1か月間に100時間以上の教員は約2割に上ることがわかった。
土日曜に働く時間も多く、全教では、「土曜授業が広がったことや、個人情報の管理が厳しくなり、
自宅で仕事ができなくなったことも影響したのではないか」と分析している。
調査は昨年10月に39都道府県の教員を対象に行い、計5880人が回答した。
その結果を分析したところ、学校での勤務時間外労働が1か月間に100時間以上だったのは21.3%、
80時間以上は14.5%で、60時間以上は21.6%だった。
勤務時間外労働の平均は72時間56分で、このうち土日曜は16時間14分だった。
学校別では、中学校が91時間43分と最も多く、部活動の顧問を務める教員が多いためとみられる。
また、土曜授業を実施する自治体が増えているためか、週末の勤務時間外労働が増加傾向にあるという。
全教の担当者は、「教員の長時間労働を減らすためにも、勤務時間外の手当を整備するよう国に求めていきたい」と話している。

詳細は、以下を参照してください。
http://www.zenkyo.biz/modules/common/download.php?path=../../upload/1382436124.pdf&name=HP勤務実態調査2012概要.pdf
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慎重な対応が必要です(具体例)

2013年10月28日 | 情報
前回の提言を具体的に見てみましょう。それには、典型的な裁判例として、東芝事件がありますので、
(独)労働者健康福祉機構が発行している機関誌「産業保健21」の第74号から転載します。
私傷病休職期間満了後の解雇が労基法19条違反で無効とされた事案です。

東芝(うつ病・解雇)事件(安西法律事務所 弁護士 木村恵子氏)
東京高裁平成23年2月23日判決(労判1022号5頁)
東京地裁平成20年4月22日判決(労判965号5頁)

本判決は、うつ病により約3年間私傷病休職をしていた原告が、休職期間満了により解雇となったところ、
うつ病発症は業務に起因するから当該解雇は労働基準法(以下、「労基法」という)19条の解雇制限により無効である等として、
雇用契約上の地位を有することの確認等を求めた事案の控訴審判決である。
本判決は、1審に続き、原告のうつ病発症に業務起因性を認め解雇を無効と判断した。
昨今、メンタルヘルス不調による休職者も多いことから、実務上、参考になる判例であろう。
なお、本判決は種々の争点について判断しているが、紙幅の関係から、本稿では、解雇の有効性について述べることとする。

1.事案の概要
1)当事者等
(1)訴えた側 訴えた(原告、以下「X」という)のは、平成2年4月に被告(以下、「Y」という)に入社、
平成12年10月からはリーダーとして勤務していたが、「抑うつ状態」により欠勤、その後休職となり、
平成16年9月9日、休職期間満了により解雇(以下、「本件解雇」という)となった女性従業員である。
(2)訴えられた側 訴えられた(被告(Y))のは、電気機械器具製造を業とする大手企業である。
2)Xの請求の根拠
(1)雇用既契約上の地位確認及び賃金支払い請求
 Xは、業務上過度の精神的負担を負ったことから精神疾患を発症し、現在も療養中であるから、労基法19条により、
本件解雇は無効であり、Xは、現在も、労働契約上の権利を有する地位にあり、これに基づく賃金請求権も有する。
(2)安全配慮義務違反について
 Yは、Xの健康状態を認識していた以上、業務内容の軽減等をとるべきであったのに怠ったことから、安全配慮義務違反がある。

3)事実関係の概要 (裁判で認定された事実関係)
 平成12年10月、Yの深谷工場では、「M 2ライン立ち上げプロジェクト」が始まり、同プロジェクトにおいて、
Xは初めて某工程のリーダーとなった。同年12月13日、Xは、頭痛、不眠等によりHクリニックを受診し、神経症と診断された。
平成13年1月からは、同プロジェクトにトラブルが生じ、Xは、同年3月以降、土日もトラブル対応に連続して出勤するようになった。
平成13年4月の組織変更にともない、Xは、従来の業務に加えて、別に二つの業務を担当することとなったが、
Xは、一方の業務は経験がなくボリュームがあるため、他方の業務の担当を断ったところ聞き入れられなかった。
Xは、この頃より、激しい頭痛に見舞われ欠勤するようになり、同年8月には、周囲からみても元気がなく見え、
Xの上司であるA課長も「大丈夫か。」と声をかけた。その後、Xは、一月ほど有給休暇を取得した後、同年10月9日、
「抑うつ状態」の診断書を提出して長期欠勤に入り、その後休職となった。
Yが、Xの休職期間満了に先立ち主治医に意見を求めたところ、主治医の意見は「今後も長期的な治療が必要」とのことであった。
Xも「職場復帰はできない。」旨、主張していた。そこで、Yは平成16年9月9日付けで本件解雇をした。
同年9月8日、Xは、熊谷労基署長に対し、休業補償給付等の労災申請をした。
なお、Xの平成12年12月から平成13年4月の法定時間外労働時間数の平均は、月69時間54分であった。

2. 1審判決要旨
(1)解雇の有効性について
 労基法19条の「業務上の疾病かどうかは、労働災害補償制度における「業務上」の疾病かどうかと判断を同じくすると解される。」
したがって、労基法19条1項の「業務上」の疾病とは、「当該業務と相当因果関係のあるものをいい、
その発症が、当該業務に内在する危険が現実化したと認められることを要する」。
 Xの時間外労働時間数は、疫学的研究で有意差が見られたレベルを超えており、
業務内容も、新規性、繁忙かつ切迫したスケジュール等、Xに肉体的・精神的負荷を生じさせたものということができ、
他方で業務以外にXにうつ病を発症させる要因があったことを認めるに足りる証拠はないとして、
Xのうつ病発症に業務起因性を認め、本件解雇は業務上疾病の療養中になされたものであり、
労基法19条に反し無効であるとし、XがYの雇用契約上の地位にあることおよび賃金支払い義務を認めた。
(2)安全配慮義務違反
 Yは、Xの自覚症状の変化に気づき必要な措置を講じる機会があったのに、これをしなかったことから、
平成14年4月のうつ病発症から同年8月までのうつ病症状の増悪は、安全配慮義務違反である。

3. 本判決の要旨

本判決も、労基法19条1項の「業務上」の疾病とは、当該業務と相当因果関係にあるものをいうとし、
Xに個体側の脆弱性を認めつつも、これが発病の原因として業務よりも重い意味を持ったとまで認めることはできないとして、
Xのうつ病発症に業務起因性を認め、本件解雇を労基法19条に反し無効と判断し、Yの賃金支払い義務を認めた。
また、安全配慮義務違反についても、1審同様、Yの損害賠償義務を認めた。







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慎重な対応が必要です

2013年10月25日 | 情報
情報の鮮度が少し落ちましたが、平成24年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」が
発表されています。詳細は、以下を参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034xn0.html

その中で、関心を持って読んだのが、精神障害の出来事別決定及び支給決定件数一覧でした。
具体的な出来事別支給決定件数の上位は、以下のとおりです。
なお、具体的な出来事とは、平成23年12月26日付け基発第1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の
別表1に基づいて分類しています。

1位 特別な出来事  84件
2位 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった  59件
3位 (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた  55件
4位 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした 51件
5位 (重度の)病気やケガをした 45件
6位 上司とのトラブルがあった 35件  
7位 1か月に80時間以上の時間外労働を行った 32件
8位 セクシャルハラスメントを受けた 24件
9位 2週間以上にわたって連続勤務を行った 17件
10位 顧客や取引先からクレームを受けた 13件

通常、精神疾患の場合、企業は、起きた事案について労災か私傷病かは俄かに判断できませんから、私傷病として取扱います。
当然に、安衛則97条に基づく「労働者私傷病報告」を労基署に提出する必要はありません。
こうしたことから、なぜ、従業員が精神疾患を発症したのかを、深く問わない場合が散見されます。
なお、推測ですが、上述の支給決定件数は、ほぼ全数について従業員自身が労災申請して、支給が決定したものと考えます。

ここで注意したいのは、「4位 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした 51件」は、例え自社が惹起させた労災事故だとしても、
派生的に起きた事案ですし、「10位 顧客や取引先からクレームを受けた 13件」などは、会社があえて秘匿する必要のない出来事です。
場合によっては、従業員の精神疾患の発症でも、会社が労災申請することも考えられます。
ですから、精神疾患の発症で従業員が休職する場合でも、会社はなぜ精神疾患を発症したのか原因を追究しておく必要があります。
これにより、従業員自身が労災申請したことにより、
御社に労基署の調査が入っても、慌てる必要がなくなり冷静に対応することができます。

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