中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

ストレスチェック実施の注意点

2023年06月30日 | 情報

前回のマスコミ報道にもあるようにストレスチェック制度には、いろいろと問題点があります。

しかし、多々の問題点があるものの、一方で、制度には多くのメリットもありますので、
前向きな企業や、メンタルヘルス上の問題点を抱えている50人未満の事業場においては、
ストレスチェックの実施を推奨します。
そこで、以下にストレスチェック実施の注意点(安衛法第66条の10、安衛則第52条の9~19)を紹介します。

◎実施から実施後の事後処理まで、時間がかかりますのでスピーディに進めることが必要です。
油断すると、すぐ翌年の実施時期になってしまいます。

・ストレスチェック実施(則52条の9)➡「遅滞なく」(結果出力後速やかに)➡

・本人に結果通知(則52条の12)➡「遅滞なく」(おおむね1か月以内)➡

・本人から面接指導の申出(則52条の16)➡「遅滞なく」(おおむね1か月以内)➡

・医師による面接指導の実施(則52条の16)➡「遅滞なく」(おおむね1か月以内)➡

・医師からの意見聴取(則52条の19)
※緊急に就業上の措置を講ずべき必要がある場合には、可能な限り速やかに

・事後措置の実施(法66条の10)
※「改正安衛法に基づくストレスチェック制度について」を参照。参考通達;基発0501第3号(H27.4.1)

◎ストレスチェックの実施には、関与できる、または、関与できない人がいます。

・実施者(則52条の10、ストレスチェックの実施、面接指導の実施者です)
資格者は、①医師、②保健師、③研修を終了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理士
※個人情報を取り扱うため、人事権のある者はなれない。

・実施事務従事者((則52条の10、調査票の回収、データ入力等、実施者の補助)
※個人情報を取り扱うため、人事権のある者はなれない。

・ストレスチェック制度担当者(ストレスチェック指針、実施計画の立案、実施の進度管理)
※個人情報を取り扱わないので、人事権のある者でもなれる。主に人事労務部門の上級管理職が適当でしょう。

なお、小職としては、人事労務部門の上級管理職が責任をとることとすれば、実務は、実施者以外の業務を、
パソコンの扱いに秀でていて、やる気のある若手社員に任せる方法をお勧めします。
当該社員に相当の手当てを支給しても、外部に委託するより安価で短期間に完結させることが可能でしょう。

◎その他注意事項
なお、50人未満の事業場ですから、あくまでも努力義務です。できる範囲内でOKです。

(1) ストレスチェックの目的は、労働者の気づきの促進が目的です。

(2) ストレスチェックは、「1年以内に1回」の実施義務があります。
労働者にとってストレスチェックの受検は義務ではありません。
全ての労働者が受検することが望ましいとされています。
なお、定期健康診断は、全労働者に受診の義務があります。

(3) 制度が効果的に運用されるためには、労働者が自身の状況をありのままに答えることが重要です。
安心して答えられる環境とするためにも、労働者本人の同意がない限り、
事業者へのストレスチェック結果の提供は禁止されています。

(4) 面接の申出は、労働者の意向が尊重されます。申出を理由とする不利益取扱は禁止されています。

◎検査結果の集団分析(則52条の14、50人以上の事業場においても努力義務です)
・一定以上の規模の集団ごとに集計、分析するように努めます(検査指針)。
10人未満の集団の場合、個人が特定される恐れがあるので、分析できないことに留意する必要があります。

・分析の結果を勘案して、適切な措置を講じるように努めます。職場環境改善の手順です。
「判定図」から職場の仕事上のストレスの特徴を読み取る
➡職場巡視を実施して、実際の職場における問題点を調査する
➡職場の上司や労働者にヒアリングを行う
➡具体的な問題点のリストを作成する
➡改善対策の計画を立てる

◎ストレスチェック結果の記録と結果報告

(1)検査の結果の保存(則52条の11)

①労働者の同意がない場合⇒保存の事務が適切に行われるよう必要な措置
②労働者の同意がある場合⇒記録し、5年間保存(安衛則52条の13)

(2)面接指導の結果の保存(安衛則52条の18)
・記録し5年間保存

(3)検査及び面接指導結果の報告(安衛則52条の21)

1年以内ごとに1回検査結果報告を労働基準監督署に報告
※報告書中の
・「在籍労働者」とは、「ストレスチェック対象労働者」を云う
1年以上使用かつ週所定労働時間が通常労働者の3/4以上➡健康診断と同じ
・「報告対象事業場」とは、「ストレスチェック実施義務事業場」を云う
法第13条第1項の事業場(産業医選任義務事業場)(安衛法附則)➡日雇い労働者、パートタイマー等の
臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数(S47.9.18基発第602号)

◎(基本情報)
〇「ストレスチェック指針」(心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに
面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針)

https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000346613.pdf

〇ストレスチェック制度に関する法令

https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000544659.pdf

〇労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(改訂 令和3年2月)

https://www.mhlw.go.jp/content/000533925.pdf

 

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やっと出ました

2023年06月29日 | 情報

◎ストレスチェックの問題点を指摘する、マスメディアの報道(毎日新聞 2023/6/20)が、やっと出ました。

なお、記事中にある「政府は機能させるべく制度の見直しを検討している。」は、その通りなのです。
すでに、当ブログでも指摘していますが、14次防にもストレスチェック制度の見直しについては、
まったく言及がありませんから。

いま現在、どうなっているかというと、まだ有識者や関係者からヒアリングをしている段階です。
厚労省の中に、「産業保健のあり方に関する検討会」が設置されています。その参考資料を参照してください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou_558547_00014.html

◎小職の感想としては、記事の狙いは良いのですが、自社のストレスチェックの実態を調査して記事にすれば、
もっと現実的な記事になるのではと考えます。
それとも、記事中にある「東京都内に住む40代の女性会社員が勤める企業」というのは、
毎日新聞のことなのでしょうか。

例えば、記事中に「職場の環境を改善することが努力義務とされているが、
同じ厚労省の調査で実施は5割弱にとどまっており、対応は追いついていない。」と嘆いています。
しかし、ストレスチェックが1次予防になるというエビデンスもないのに、
義務化して中小・零細な企業に、多額の出費を迫るのも問題でしょう。
「ストレスチェックが1次予防になるという」仮説を検証することが、優先課題でしょう。
奥山はるな記者、頑張ってください。


◎やりっぱなしの「ストレスチェック制度」 機能させる秘策とは
ストレスチェック 見直しなるか
毎日新聞 2023/6/20

多くの職場に義務づけられている「ストレスチェック制度」は、働く人や企業から「やりっぱなし」と指摘されている。ストレスが高いと判定されても、医師の面接指導にたどり着く人がわずかだからだ。スタートして7年が過ぎ、政府は機能させるべく制度の見直しを検討している。働く人はどうしたらよいのだろうか。

〇大半が面接に至らず

東京都内に住む40代の女性会社員が勤める企業では、ストレスチェックが毎年、実施されている。ただ、入社して20年近くになるこの女性は「ストレスが高い状態にあると判定されても、そもそも医師の面談を受ける心身の余裕はない」と漏らし、日常業務のストレス軽減につながっている実感を得たことがないという。

ストレスチェック制度は労働安全衛生法に基づき、50人以上の事業所で年に1回の実施が2015年12月から義務づけられている。実施は産業医や保健師が担い、労働者は「ひどく疲れた」「へとへとだ」といった心身や仕事の負担を確かめる項目に回答。結果を点数化して、ストレスの度合いを調べる。

心身のストレス反応が一定以上になると「高ストレス」と判定され、医師の面接指導を受けられる。企業側は面談の結果に基づき、業務の変更や労働時間の短縮、夜勤を減らすなどの措置を講じなければならない。

ところが、厚生労働省の21年度の調査では、9割超の職場に高ストレスと判定された人がいたのに、医師による面接指導を申し出た割合が「5%未満」の職場が76%と大半を占めた。

産業メンタルヘルスの第一人者で、厚労省の検討会委員として制度の創設に関わった医師の渡辺洋一郎氏(70)は「大まかに言うと、1000人がストレスチェックを受けると約100人が高ストレス者になるよう設計されているが、そのうち5人以下しか面接指導を受けない状態」と説明する。労働者自ら事業者に申し出るのがハードルとみられ、「申告によって不利益な扱いをすることは禁じられているが、メンタル不調を訴えると仕事の評価に響くと考える労働者は多いと思われる」と明かす。

企業はストレスチェックの結果を受け、職場の環境を改善することが努力義務とされているが、同じ厚労省の調査で実施は5割弱にとどまっており、対応は追いついていない。さらに従業員が50人未満の事業所でストレスチェックの実施は努力義務に過ぎない。

ストレスチェックの実施を請け負う民間企業「アドバンテッジリスクマネジメント」が今年3月、中小企業の経営者ら106人に調査すると、55%が「ストレスチェックが十分に機能していない」と回答。うち30%が「専門知識のあるスタッフがおらず対策が限られる」と答えた。同社の担当者は「ストレスチェックがやりっぱなしになっている可能性がある」と指摘する。

こうした状況に渡辺氏は「高ストレスと判定されたら、まずは医師の面接指導を受けてほしい」とし、「企業と労働者の双方に誤解がある」と言う。21年度の厚労省の調査では、労働者の50%が「ストレスチェックを実施したことで自身のストレスを意識するようになった」と回答。企業側も53%が「セルフケアへの関心度の高まり」、27%が「メンタルヘルスに理解ある風土の醸成」を実感していた。

〇「環境改善と一体で」

こうした調査を引き合いに、渡辺氏は「職場の環境改善に熱心な企業ほど、医師の面接指導を受ける労働者が多い印象がある」と述べ、企業が主体的に環境改善に乗り出す重要性を強調する。さらに「職場のメンタルヘルス対策は、直接的な売り上げや利益が見えづらいが、適切に取り組めば、社員が不調になるリスクを減らし、企業の生産性向上につながる」と指摘する。

そんな中、自民党の「働き方改革推進プロジェクトチーム」は5月18日、実施対象を現行の50人以上の事業所よりも拡大し、パート労働者ら非正規も含めるよう求める提言をまとめた。産業医確保に負担感のある中小企業には、地域や業種ごとに取り組む方策も示した。さらに、職場環境改善も含めた一体的な制度への見直しを求めた。提言を受け、政府は今後、50人未満の事業所への義務化などを中心に検討を進める見通しだ。(奥山はるな)

◎ストレスチェックの数値が高いと上司にばれる?
2022/10/27 読売

従業員50人以上の会社に義務付けられている「ストレスチェック」。高ストレスと出たら会社や上司に知られてしまうのではないかと疑問に思ったことはありませんか。心の健康診断でもあるストレスチェックの結果はどんなふうに扱われているのでしょうか。ストレスチェックのサービスを提供している会社で聞いてみました。

労働安全衛生法の改正で、ストレスチェックが義務付けられたのは2015年12月。従業員各自に、仕事やプライベート、現在の精神状態など多岐にわたる設問について回答してもらい、ストレス状態を数値で表し、従業員の健康管理に役立ててもらうというものです。

私の個人情報は誰に流れていく?

読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、自分の所属する派遣会社からストレスチェックの用紙が届いたという女性から素朴な疑問が寄せられました。

「私は仕事もプライベートでもストレスがたまっているので受けてみたいのですが、私の個人情報が誰に流れていくのか不安です。高ストレスとなった場合、派遣会社や派遣先に私の個人情報が開示されるのですか?」(トピ主「にゃお」さん)

高ストレスと出た場合、派遣先の上司は結果を見ることがあるのか、今後の仕事に影響はないのかと不安に思っている様子です。

「まだまだ制度をよくご存じない方も多いのですね」と話すのは、企業の従業員健康管理サービスを受託している「ドクタートラスト」(東京・渋谷)の保健師、根本裕美子さん。根本さんは、同社の「ストレスチェック研究所」のコンサルタントとして、さまざまな企業の相談にのっています。

根本さんによると、ストレスチェックの実施に携わる人(産業医など専門職や担当者)が、受検した社員の同意なしに一人一人のストレスチェックの結果を企業に知らせることは法律で禁じられています。個人の結果は、まずは、本人にだけ通知します。セルフケアとして本人の自己管理に役立ててもらうためです。

法律と指針でプライバシーは保護

「からだの健康診断のデータは、法令で決まっている範囲で会社に通知されますが、ストレスチェックの結果は本人が同意しない限り、会社には通知されない仕組みです。同意した場合でも、厚生労働省の指針で『就業上の措置に必要な範囲を超えて、当該労働者の上司や同僚に検査結果を共有してはならない』と規定されています。それだけ、心の状態についての情報は、評価につながることが危惧されますし、機微に触れることでもあるのでしょう。もちろん不利益な取り扱いは禁止ですし、プライバシー保護も行わなければならないのです」と根本さん。

一方で、せっかく従業員に受検の機会を与えるのだから、職場の問題点の洗い出しや労務環境の改善に役立てたいという企業側の要望もあります。そこで、厚労省が推奨しているのが、「集団分析」です。

10人以上の集団を作れば、個人のストレスチェック結果を匿名で集計して分析を行うことで、企業側はストレス度が多い集団を把握できます。また、その集団のストレスの要因について分析することができます。企業の衛生委員会で話し合えば、10人の人数を5人などに引き下げることもできます。匿名での集計なので、部署ごとの高ストレス者の割合や、全社的な男女別、年代別の割合などを出すことができるそうです。

根本さんは、「全国平均や業種で集団分析結果を比較することはもちろんですが、ドクタートラストでは、高ストレス判定と結びつきが強い設問の回答傾向などを確認することもできます。例えば、判定と結びつきが強い設問には、『職場の同僚とどのくらい気軽に話せるか』や『失敗しても挽回するチャンスがあるか』などの項目があります」と話します。

同社では、ストレスチェックの受託サービスを開始した2015年度から集団分析を行っていて、16年度に334社だった集団分析の委託企業が21年度には940社に増えました。その中には、部署ごとの分析をした結果、高ストレスが多い部署で、従業員の勤務表を見直し、“隠れ残業”を一掃した企業もあります。

「最近では、年1回ではなく、年2回の受検を実施される企業も増えています。従業員のメンタルヘルスを積極的に守ろうとする表れかもしれません」と根本さん。

ストレスチェックが企業に義務づけられるようになって7年。初めて受検する人に戸惑いがあるのは当然ですが、個人のプライバシーを守りつつも労働環境の改善につながるような事例が増えるといいですね。(読売新聞メディア局 永原香代子)

 

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新入社員でプロジェクトマネジャー

2023年06月28日 | 情報

小職の感想ですが、精神障害の労災認定基準には、疑問が多いです。
具体的に私論を述べれば、基準を引き下げるべきと考えます。

◎中部電力の新入社員自殺 名古屋高裁が労災認める 控訴審で遺族側が「逆転勝訴」
"上司から人格や人間性を否定する発言があった"
23.4.25 CBCテレビ

13年前、中部電力の新入社員が自殺したのは上司によるパワハラなどが原因だとして、
遺族が労災を認めなかった決定を取り消すよう求めた裁判の控訴審で、
名古屋高裁は、遺族側の逆転勝訴を言い渡しました。

訴状などによりますと、2010年10月、中部電力三重支店の新入社員だった鈴木陽介さん(当時26歳)が
精神障害を発症し自殺しました。

津労働基準監督署は労災を認めませんでしたが、遺族は上司のパワハラなどが原因だとして
国に労災を認めるよう求める訴えを起こしました。

おととし10月に一審の名古屋地裁は訴えを棄却し、遺族が控訴していました。

これを受けた、4月25日の控訴審判決で、名古屋高裁の長谷川恭弘裁判長は
上司から人格や人間性を否定する発言があったと認めたほか、
業務内容も新入社員にしては難易度の高いものだったと指摘して一審判決を取り消し、
労災認定されるとの決定を言い渡しました。

鈴木さんの母親は会見で「本当によかったです」とコメントした一方、
中部電力は「当該訴訟の当事者ではないのでコメントは差し控えます」と話しています。

 

◎「新人ゆえの負荷」加味し労災認定
毎日新聞 2023/6/15

中部電力に勤めていた鈴木陽介さん(当時26歳)は入社して7カ月後に自殺した。
手帳には「理非なきときは鼓を鳴らし攻めて可なり」と書き残してあった。
正義のために抗議の声を上げるという意味とみられ、中国の思想家・孔子の一節を用いた言葉だった。
自身の名前を重ね、「鈴木陽介なきときは」とも記してあった。
「遺書のようだ」と感じた母は、過重な労働とパワハラがあったことを証明すると決めた。
死後12年6カ月を経て、今年4月25日に鈴木さんの労災はようやく認められた。

自殺から12年

 鈴木さんは2010年4月に入社し、三重支店に配属された。法人営業のグループで、技術サポートを担当。
本来なら新入社員として会社から教育を受ける立場だったが
肩書は「主担当」でプロジェクトマネジャーのような任務を担当させられていたばかりか、
複数の業務も言い渡されていたという。

鈴木さんは社内で「誠実で仕事に関して責任感が強い」と評判だったが、10年10月末に自殺した。
死後、適応障害を発症していたと認定されている。
母親の吉田典子さん(61)は鈴木さんのメールの履歴や知人の証言を集めながら、上司によるパワハラがあったと確信
過重業務とパワハラによって適応障害になったとして13年8月に津労働基準監督署に労災申請した。

しかし、労基署は業務による強い心理的負荷は認められないとして、不支給を決定。
国の労働保険審査会に再審査を求めたが、認められなかった。

吉田さんは諦めず、17年6月、労基署の処分を国が取り消し労災を認めるよう名古屋地裁に提訴した。
地裁判決では業務と自殺の因果関係が認められず、判決を不服として控訴した名古屋高裁で今年4月に
ようやく認められ、判決も確定した

高裁判決は「主担当」に任命された際の周囲のフォロー体制などを精査し、「入社後わずか半年程度の新入社員で
ありながら、難しい案件を主担当として行わなければならない状況を十分に考慮した指導や支援が適切に行われて
いなかった」と指摘。上司から「お前なんか要らん」「そんなもんできひんのに大卒なのか」などと中傷され、
「業務指導の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するものと評価し得る」と認定した。

新入社員が未経験の業務を担当させられたという点に着目した判決だ」。
鈴木さん側の代理人、森弘典弁護士は評価する。
「その上で、業務の難易度や、指導がない状況を踏まえ、業務による心理的負荷を検討している」と従来よりも
幅広い観点で判断しているとする。

森弁護士が評価するのは、現行の精神障害の労災認定の運用より踏み込んでいるからだ。
厚生労働省が作成する認定基準では、労働者が経験した仕事によるストレス(業務による心理的負荷)の程度を、
「強」「中」「弱」で評価する。その際、職種や職場における立場・職責、年齢、経験などが類似する人を
「同種の労働者」と仮定し、心理的負荷を評価する。

年齢や経験なども加味すれば新入社員という点も考慮されるはずがだが、実際の運用ではそうなっていないという。
森弁護士は「労災が認められなかった後に遺族らが起こす訴訟では、大方が『平均的な労働者にとって一般的に
精神障害を発症させるに足る程度の負荷か』という『平均的労働者基準説』に立って判断されることが多い」と解説する。

この説は解釈に幅があり、裁判によっては新入社員という点を考慮しないケースもあるため、
「平均的でないとされ、労災が認められない実態があった」と裁判が長期化してきた背景を語る。

高裁判決は、「平均的労働者基準説」に立ちつつ、新入社員ゆえの業務の難易度の他、指導や支援のなさを
「業務による心理的負荷」と因果関係があると判断した点で一歩進んだ判決だったのだ。

認定見直しへ
厚労省は今夏にも12年ぶりに精神障害の労災認定基準を見直す方針だ。
業務経験のない新卒者のケースを「同種の労働者」の例として明示することで解釈の幅を狭め、
新入社員ゆえの労災を分かりやすくする。

吉田さんは「私と同じように子どもを亡くしたご遺族は、立証の難しさと闘っていると思う」と
改正の行方を見つめている。(宇田川はるか)

 

(参考)地裁の判決記事です。

中電社員自殺、労災認めず 地裁「パワハラ証拠なし」
共同 21.10.12

中部電力の三重支店に勤務していた鈴木陽介さん=当時(26)=が自殺したのは、
上司の暴言などパワーハラスメントや過重業務が原因として、母親吉田典子さん(59)が、
労災を認めなかった津労働基準監督署の処分取り消しを国に求めた訴訟で名古屋地裁は11日、請求を棄却した。
母親側は控訴する方針。

井上泰人裁判長は判決理由で、「おまえなんていらない」「こんなんで大卒か」と上司が
発言したとする吉田さん側の主張に対し、裏付ける証拠がないと指摘。
「上司が日常的に業務指導を逸脱した言動をしたとは認められない」と述べた。

その上で「業務も他の新入社員に比べて過大ではなかった」として、業務と精神障害発症に因果関係はないと判断した。

判決によると、陽介さんは2010年4月に入社。三重支店に配属されたが、精神障害を発症し同10月に自殺した。
吉田さんが13年に労災申請したが、津労基署は認定しなかった。

吉田さんは判決後に記者会見し「まだ闘いは続く。
一体何があったのか、せめて事実だけは(息子に)明らかにしてあげたい」と話した。

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労災認定されていますので、

2023年06月27日 | 情報

労災認定されていますので、報道にあるような学校側の対応は当然のことですが、
紛争の長期化を避けるために認諾した」としたものの、退職強要の慰謝料など約3600万円の
損害賠償、退職扱い後の賃金支払いの請求については引き続き、争う姿勢とあるのは、理解に苦しみます。
記事にはない事情があるのですね。

研修で「腐ったミカン」と退職迫った追手門学院、元職員の地位確認受け入れ
2023/06/18 読売

学校法人「追手門学院」の職員研修で「腐ったミカン」と言われて退職を迫られたなどとして、
元職員の男性ら3人が学院側に損害賠償などを求めた訴訟で、学院側は15日、地裁の非公開手続きで、
2人の地位確認請求を受け入れる「認諾」をした。もう1人についても4月に認諾しており、
原告全員の職員の身分が確認された

訴えによると、3人は40~50歳代。2016年の研修で外部講師から
「あなたのような腐ったミカンは置いてはおけない」と退職を求められ、学院幹部からも退職を迫られ、
うつ病を発症して休職。それぞれ20、21年に退職扱いとされ、22、23年に労災認定を受けた。

学院側は書面で「紛争の長期化を避けるために認諾した」と説明。退職強要の慰謝料など約3600万円の
損害賠償、退職扱い後の賃金支払いの請求については引き続き、争う姿勢を示している。


「腐ったミカン」退職迫られた元職員 学校法人が復職請求受け入れ
毎日新聞 2023/6/15

学校法人「追手門学院」(大阪市)の研修で外部講師から「腐ったミカン」などと言われたことで
うつ病を発症したとして労災認定を受けた40~50代の元職員3人が、法人から退職を強要されたとして、
今も職員の地位にあることの確認を求めた大阪地裁の訴訟で、
法人側は15日までに請求を受け入れる「認諾」の手続きを取った。

原告3人は2020年8月~21年7月に退職扱いとされていた。認諾によって復職となったが、
うつ病の療養のため休職を続けるという。

 

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軽視すると大変です/特別指導

2023年06月26日 | 情報

「「過労死等ゼロ」緊急対策を踏まえたメンタルヘルス対策の推進について」の
一部改正について(令和4年3月31日)(/基発0331第33号/雇均発0331第5号/)

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6632&dataType=1&pageNo=1

特別指導の実施

  • 精神障害による複数業務要因災害として支給決定がなされた事業場
  • 傘下事業場において3年程度の期間に、精神障害に関する労災支給決定が2件以上行われた場合には、
    当該企業の本社事業場

に対してメンタルヘルス対策に係る特別指導を実施することとする。

上記の精神障害に関する労災支給決定に自殺(未遂を含む。)に係るものが含まれる場合には、
当該企業の本社事業場に対して、衛生管理特別指導事業場(安衛法第79条第1項の規定に基づく
安全衛生改善計画に係る平成29年3月31日付け基発0331第76号「今後における安全衛生改善計画の運用について」に
おいて定める)に指定し、メンタルヘルス対策に係る取組の改善について指示するとともに、
全社的な改善について指導すること。

安全衛生改善計画指導要綱

https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-58/hor1-58-17-1-2.html

3項 指定期間等
指定期間は、原則として、指定した年度の4月1日から翌年3月31日までの1年間とする。
なお、指定事業場に対する指導の結果、改善計画に基づいて措置すべき事項が完了していない場合には、
さらに1年間継続して指定を行うものとする。

◎違法な長時間労働が認められる等の事業場に対するメンタルヘルス対策の指導

時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超える等の事業場に対する監督指導等においては、
ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策に関する法令の遵守状況の確認を行うとともに、
違法な長時間労働や過労死等が認められた場合には、産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策の
専門家(メンタルヘルス対策促進員)による訪問指導の受入れについて、強く勧奨を行う。

◎パワーハラスメント防止に向けた周知啓発の徹底

◎長時間労働等によりハイリスクな状況にある労働者を見逃さない取組

労働者の健康を保持するため必要があると認めるときには、事業者に対して、
長時間労働者全員への医師による臨時の健康診断として問診(緊急の面接)を実施するよう指示。

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