中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

安衛法改正の影響⑤

2019年06月28日 | 情報

以上のように産業医の職務が増えると、当然に産業医契約の見直しが必要になります。

〇見直しの前に、まず、以下を確認してください。
特に、5の「従業員は、産業医の名前を知っていますか?」は、その企業・事業場が
産業保健活動に取り組んでいるレベルを確認できる指標でもあります。

  1. 産業医と、契約していますか?
  2. その産業医は、資格を有していますか?
  3. 産業医と、契約書を取り交わしていますか?
  4. その契約書は、法令を遵守していますか?
  5. 従業員は、産業医の名前を知っていますか?
  6. 当該事業場に、相応しいい産業医ですか?

補足ですが、今や、名ばかり産業医なんて、論外ですよね。

〇50人以上の事業場なのですが、産業医がいません。どのように探せばよいでしょうか、なんていう質問も意外と多いですよね。
また、法令改正を機会に、新しい産業医と契約したいのですが、どのようにしたら良いでしょう、という質問もいただきます。
以下、探し方です。なお、6.が不可であるのは、従業員に要らぬ誤解を与える可能性があるからです。

1.都道府県医師会、郡市区医師会に相談する。
2.近隣の医療機関に相談する。
3.健診を依頼している機関に相談する。
4.医師を紹介する民間会社に相談する(有料)
5.同業他社や近隣の会社で選任している産業医を紹介してもらう。
6.経営者の主治医は、不可。

〇産業医契約の留意点です。
報酬を抑制するために、委嘱する業務を特定することは、安衛法違反になります。
因みに、安衛法違反を回避するには、残りの業務を委嘱す新たな産業医と契約しなければなりません。

○自社の業容、特長、成り立ち、及び今後の希望についてよく打合せして、
会社、産業医の双方が納得できる契約を締結してください。

○産業医の報酬を抑制する対策としては、例えば、
・職場巡視を、2か月に1回とする
・衛生委員会出席を除き、2か月、3か月に1回とし、密度を高める
・委嘱料を、基本料+出来高とする
・産業医面談をオンライン(テレビ電話)で行う
・保健師の採用を検討する
等があります。
なお、保健師の採用については、地域産業保健センター(概ね医師会単位に設置)に相談してください。

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少ない用量最適

2019年06月27日 | 情報

わが国では、すでに「抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神薬の処方の適正化」が平成26年10月1日から適用されます。

抗うつ薬の効果、少ない用量最適 日英チーム研究結果
2019年6月7日 朝日

抗うつ薬は、承認された用量の範囲内の少なめの量を飲むのが最も効果的とする研究結果を、日英などの国際チームがまとめた。
結果をもとに研究者は、少ない量から始めて副作用に注意しながら増やすことを勧める学会の治療指針の見直しが必要と指摘する。

英医学誌ランセットの関連誌で6日、発表した。
京都大の古川壽亮(としあき)教授(臨床疫学)や英オックスフォード大などのチームは、
副作用が少ないとされる新世代の抗うつ薬に関する77の論文を検証。
飲む量が増えるにつれ、薬の効果や服薬を中断する割合がどのように変わるのかを調べた。

いずれの薬も承認された用量内なら、低い用量でも高い効果を示した。
それ以上量を増やしても効果はさほど変わらない一方、副作用などにより薬をやめる人は、増えていた。

日本うつ病学会の治療指針は、症状が重い場合には、薬を低用量から始め
「有害作用に注意しながら可能な限り速やかに増量する」「十分な最終投与量を投与する」とある。
米国精神医学会の治療指針も、副作用が許す限り、最大限の用量を使うとある。

古川さんは「抗うつ薬が効かないなら量を増やすべきだと考えられてきたが、逆効果だと示された。
量を増やすより別の薬を試すべきで、治療指針の見直しが必要ではないか」と話している。

(参考1)論文サイト
http://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS22150366(19)

(参考2)小職解説:わが国は、抗精神病薬の投与薬剤数が諸外国と比べて多いことが指摘されてきました。
今回、これを是正するために、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神薬の処方の適正化が実施されました。

都道府県薬剤師会担当役員殿
日薬業発第174号 平成26年9月29日
日本薬剤師会 副会長 森 昌平

適切な向精神薬の使用の推進について

平素より、本会会務に格別のご高配を賜り、厚くお礼を申し上げます。
さて、向精神薬等の適正使用、過量服薬対策等については、
平成23年11月14日日薬業発第348号等でお知らせしてきたところです。

今般、適切な向精神薬の使用の推進のため、平成26年度診療報酬改定において見直された医科点数表
「抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神薬の処方の適正化」が10月1日から適用されます。

具体的には、1回の処方において、3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬
又は4種類以上の抗精神病薬を投与した場合、
原則的に、①精神科継続外来支援・指導料は算定できないこととし、
②処方せん料、処方料、薬剤料については減算する、というものです。

医科における関連事項ではありますが、適切な向精神薬の使用の推進に向けたこれら施策の状況も踏まえ、
残薬確認や他の医療機関での処方、服薬状況等の確認、また医師への情報提供や疑義照会など、
過量服薬対策の観点からも薬局における業務の一層の充実が図られるよう、ご高配のほどよろしくお願い申し上げます。

 

 

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長時間労働が原因 

2019年06月26日 | 情報

当事案も、安全配慮義務に違反があったと判断されました。
理由は、病院側は男性の状況を把握していたにも関わらず対策をしなかった、ということでした。
別項で、安全配慮義務のハードルがどんどん高くなっていますとしていますが、
当事案は、ハードルがそれほど高くないのですから、会社側敗訴は判決を待つまでもないことでしょう。

臨床検査技師の自殺、長時間労働が原因 札幌地裁支部
2019年6月13日 朝日

小樽掖済(えきさい)会病院(北海道小樽市)の臨床検査技師の男性(当時34)が2015年12月に自殺したのは
長時間労働によるうつ病が原因だとして、男性の遺族が病院側に約1億2千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、
札幌地裁小樽支部であった。梶川匡志裁判長は長時間労働が自殺につながったことを認めた

一方、小樽労働基準監督署が16年11月、男性の労災を認定し、遺族補償年金などを支給
さらに病院側は今年1月、裁判とは別に、損害賠償の名目で約1億円を遺族側に支払った。
判決は、未払い賃金や慰謝料などで1億円の損害賠償を認めたが、すでに遺族側に支払われた支給額によって打ち消されるため、
裁判での請求は棄却した。

判決によると、男性は15年6月ごろから、
病院の新築移転に伴って導入される電子カルテのシステムの構築などを任され、残業が常態化。
うつ病を発症し、同年12月に病院の屋上から飛び降りて自殺した。

判決は、自殺直前の1カ月間の時間外労働を約160時間と認定
病院側は男性の状況を把握していたにも関わらず対策をしなかったとして、安全配慮義務に違反があったと判断した。

男性の妻は判決後、「病院が誠意ある態度を一度でも見せてくれていたら、
私たち遺族が救われる部分も多少なりともあったかもしれません。
この社会から長時間労働やその末の過労死、過労自死がなくなることを切に願います」とコメントした。

病院を運営する日本海員掖済会は「改めて亡くなられた元職員のご冥福をお祈りする。
判決がまだ届いておらずコメントは差し控えます」との談話を出した。

検査技師自殺で病院の責任認める
06月12日 NHK

4年前、小樽市の病院に勤務していた男性が自殺したのは長時間労働でうつ病になったことが原因だとして
遺族が病院側を訴えた裁判で、札幌地方裁判所小樽支部は病院側の責任を認める判決を言い渡しました。

小樽市の「小樽掖済会病院」に勤務し、平成27年に自殺した当時34歳の臨床検査技師の男性の両親や妻などは、
自殺は長時間労働でうつ病になったことが原因だとして病院を運営する医療法人に
損害賠償などとして1億2000万円あまりを求めました。

 判決で札幌地方裁判所小樽支部の梶川匡志裁判長は、
「自殺直前の1か月の残業時間はおよそ160時間に及んだ。
病院側は残業時間を把握し業務を軽減するなどの対策をとれたのに行わなかった」などとして、病院側の責任を認めました。
ただ、ことし1月に病院側から遺族に対して1億円300万円あまりが支払われているとして訴え自体は退けました。

判決のあとの記者会見で男性の65歳の父親は、「慣れない業務で息子が追い詰められていったと思うとやりきれない。
医療機関には、職員が幸せに働けないと患者さんも幸せにすることはできないということを改めて分かってほしい」と話していました。

 一方、病院を運営する医療法人は、
「改めて亡くなられた元職員のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族のみなさまに哀悼の意を表します。
判決が届いていないのでコメントは差し控えます」としています。

(参考)過労認識で雇用側に注意義務 技師自殺訴訟で札幌高裁判断
2013/11/22 日経・共同

従業員が過労の末に精神疾患となって自殺した場合、
疾患を具体的に認識していなくても雇用主に勤務時間の短縮といった注意義務があるかどうかが争われた訴訟の控訴審判決が21日、
札幌高裁であった。岡本岳裁判長は「従業員の長時間労働の実態を認識できる限り義務を負う。
疾患を発症したとの具体的な認識は必要ない」との判断を示した。

訴訟は、北海道函館市の「函館新都市病院」に臨床検査技師として勤務し、2009年に自殺した女性(当時22)の両親が、
病院を経営する医療法人「雄心会」(函館市)に計約9400万円の賠償を求めていた。
岡本裁判長は、雄心会側の対応に問題はなかったとして請求を棄却した12年8月の一審札幌地裁判決を変更し、
計約5800万円の賠償を命じた。

判決理由で岡本裁判長は「難易度が高い超音波検査の技法を習得するため、
女性は自殺前の1カ月間、自習時間を含め約96時間の時間外労働をしていた」と認定。
その上で「雄心会は、自習時間の削減や超音波検査に当たる心理的負担を軽くするといった措置を講じるべきだった」と結論付けた。

 

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安衛法改正の影響④

2019年06月25日 | 情報

〇産業医の職務を具体的に見てみましょう。(安衛則第14条、第15条)
(ウ)のストレスチェック制度は、平26年の法改正で加わっています。
(カ)の上記以外の労働者の健康管理には、平29年の通達で、「治療と仕事の両立支援」が加わりました。
そして、平30年に(イ)の長時間労働者に対する面接指導及びその結果に基づく措置が加わりました。
冒頭で、産業医の業務が質量ともに増大していることがご理解いただけるのではないでしょうか。

・次の事項で、医学に関する専門的知識を必要とするもの(注;即ち、事務的な業務は、対象ではありません。)
また、イとウについては、具体的措置を、産業医以外の他医師に委ねることができます。

ア 健康診断の実施及びその結果に基づく措置
イ 長時間労働者に対する面接指導及びその結果に基づく措置(H17,H30法改正)
ウ ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導、その結果に基づく措置(平26法改正)
エ 作業環境の維持管理
オ 作業の管理
カ 上記以外の労働者の健康管理
キ 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進のための措置
ク 衛生教育
ケ 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置

加えて、事業者に対する勧告等〔安衛則第14条第3項、第4項〕、
定期巡視〔安衛則第15条第1項〕、衛生委員会への出席(法18条第2項)等もあります。

〇即ち、産業医の業務が、第二次産業中心から、第三次産業中心に移行していますし、
 職業病対策中心から、過重労働対策、メンタルヘルス対策中心に変化してきているのです。

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安衛法改正の影響③

2019年06月24日 | 情報

〇産業医とはなにか。日本医師会HPよりの確認です。

①  産業医とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。
(補足:ですから、診療をするわけではありません。)
②  労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられています。
③  産業医となるためには、事業場において労働者の健康管理等を行う産業医の専門性を確保するため、
医師であることに加え、専門的医学知識について法律で定める一定の要件を備えなければなりません。

〇参考情報です。厚労省、日本医師会調べでは、
医師数は、約32万人、
登録産業医は、約10万人(‘20年推測値)、
実働産業医は、推定で3万人、となっています。 

注:この実働産業医が推定で3万人ということに、注目してください。

〇そこで、「産業医になるには」ですが、安衛則第14条第2項に規定されています。

1.労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が
行うものを修了した者(日本医師会認定産業医)
2.産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって
厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
3.労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
4.学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常勤勤務する者に限る。)の職にあり、
又はあった者
5.前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

注:殆どの産業医は、1.に規定されている「日本医師会認定産業医」です。
2.に該当するのは、産業医科大学を卒業した「本もの」の産業医です。卒業生全員が産業医になるわけではありませんが、
毎年の卒業生は約1000人程度です。
なお、5.に該当する者は、現在いないそうです。

〇産業医研修の研修科目の範囲、履修方法及び時間はどうなっているのか。

平成21年厚生労働省告示第136号において、研修科目とその範囲は下表のとおりで、
講義40時間以上、実習10時間以上が必要とされています。

研修科目

範     囲

労働衛生一般

労働衛生概論 労働衛生管理体制 労働衛生関連法令 産業医の役割と職務

健康管理

健康情報とその評価 健康診断及び面接指導
  並びにこれらの事後措置 治療と職業生活(現在は、仕事)との両立支援(H29追加) 健康管理の事例

メンタルヘルス

メンタルヘルスケア ストレスマネジメント 
  カウンセリング

作業環境管理

作業環境測定と評価 管理濃度と許容濃度 
  生物学的モニタリング 作業環境改善

作業管理

労働生理 安全管理 有害業務管理 作業管理の事例

健康の保持増進対策

健康測定 健康づくり 健康教育 保健指導

 

 

 

 

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