中小規模の企業は、複数の事業所を擁していることはレアケースですので、「転勤」は日常的な事案ではありません。
ですから、新規に市場を開拓する等で「転勤・異動」の必要が出た場合には、細心の注意、対応、配慮が必要になります。
当該企業では、会社側の不慣れも手伝って、一人での赴任やリモートでの勤務等、
会社側の十分なサポートが得られない条件での勤務が考えられます。
「転勤・異動」がメンタルヘルス対策上、重要なファクターとなることは、
当ブログでも再三再四、注意喚起してきました。
◎直近の「就業構造基本調査」(総務省統計局)によると、転勤者は年間60万人程度いるそうです。
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
一般的には、「東亜ペイント事件」(最二小昭61.7.14判)等の判例が、企業の配転命令権の根拠となって、
労働契約書や就業規則と相俟って、わが国の労働者は会社の転勤辞令には逆らうことができないことになっています。
ですから総合職であれば、北は北海道から、南は沖縄まで、辞令一本で単身赴任であろうと、
家族ともども引っ越しを伴う異動であろうと、会社は従業員を自由に動かしてきました。
◎ところがこうした考え方に、大きな影響を与える法令が施行されました。
「育児・介護休業法」と「男女雇用機会均等法」です。
転勤への配慮等に関して具体的に規定され、例えば、「育児・介護休業法」第26 条では、
育児・介護をしている労働者に対する転勤への配慮義務を定めています。
(労働者の配置に関する配慮)
第26条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、
その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが
困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
◎「転勤」問題が注目される背景は、上述の法令施行のほかに
人材多様化戦略「ダイバーシティ経営」を実施する企業において、
異動を含む人事管理のあり方を見直す必要性に迫られたことがあります。
中小規模の企業・事業所にとっては、そこまでのプレッシャーはないのかもしれませんが、
新型コロナまん延以降の労働環境は大きく変わろうとしています。
「人的経営」が注目を浴びています。
メンタルヘルス対策は、企業の活力を保持・増進する上で重要な課題です。
◎検討の参考資料としては少し古くなりますが、「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」
(厚生労働省・平成29.3.30公表)があります。