中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

「転勤」について

2023年05月31日 | 情報

中小規模の企業は、複数の事業所を擁していることはレアケースですので、「転勤」は日常的な事案ではありません。
ですから、新規に市場を開拓する等で「転勤・異動」の必要が出た場合には、細心の注意、対応、配慮が必要になります。
当該企業では、会社側の不慣れも手伝って、一人での赴任やリモートでの勤務等、
会社側の十分なサポートが得られない条件での勤務が考えられます。
「転勤・異動」がメンタルヘルス対策上、重要なファクターとなることは、
当ブログでも再三再四、注意喚起してきました。

◎直近の「就業構造基本調査」(総務省統計局)によると、転勤者は年間60万人程度いるそうです。

https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html

一般的には、「東亜ペイント事件」(最二小昭61.7.14判)等の判例が、企業の配転命令権の根拠となって、
労働契約書や就業規則と相俟って、わが国の労働者は会社の転勤辞令には逆らうことができないことになっています。
ですから総合職であれば、北は北海道から、南は沖縄まで、辞令一本で単身赴任であろうと、
家族ともども引っ越しを伴う異動であろうと、会社は従業員を自由に動かしてきました。

◎ところがこうした考え方に、大きな影響を与える法令が施行されました。
「育児・介護休業法」と「男女雇用機会均等法」です。
転勤への配慮等に関して具体的に規定され、例えば、「育児・介護休業法」第26 条では、
育児・介護をしている労働者に対する転勤への配慮義務を定めています。

 (労働者の配置に関する配慮)
第26条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、
その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが
困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

 ◎「転勤」問題が注目される背景は、上述の法令施行のほかに
人材多様化戦略「ダイバーシティ経営」を実施する企業において、
異動を含む人事管理のあり方を見直す必要性に迫られたことがあります。
中小規模の企業・事業所にとっては、そこまでのプレッシャーはないのかもしれませんが、
新型コロナまん延以降の労働環境は大きく変わろうとしています。
「人的経営」が注目を浴びています。
メンタルヘルス対策は、企業の活力を保持・増進する上で重要な課題です。

 ◎検討の参考資料としては少し古くなりますが、「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」
(厚生労働省・平成29.3.30公表)があります。

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11903000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Shokugyoukateiryouritsuka/0000160191.pdf

 

 

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労働組合の役割

2023年05月30日 | 情報

当該従業員は、㈱吉野家に従業員組合がある(多分)のにもかかわらず、
労働組合「東京管理職ユニオン」に解決を依頼しているようです。
当該従業員は、管理職だから従業員組合には加入できなかったということでしょうか。

また、記事中に「就業規則や社内規定に明記し」とありますので、従業員組合の関与は当然なのですが、
当該従業員組合の問題意識のレベルや、どの程度の関与だったのか、関心があります。

何を言いたいのか?
「労働組合は、労働者のメンタルヘルス対策に、もっと関与してほしい」ということです。
有体に申し上げれば、組合は、組合費に見合う便宜、メリットを組合員に提供する義務があるはずです。


吉野家、上司が無断で部下の自己評価を書き換え…50代社員に解決金
2023/05/25 読売

牛丼チェーンの「吉野家」(東京)が、本社に勤務する50歳代の男性社員について、
人事評価の書き換えを認めて謝罪し、解決金を支払っていたことがわかった。
男性が加入する労働組合「東京管理職ユニオン」が24日、東京都内で記者会見して明らかにした。
組合側が団体交渉を申し入れて、今月11日付で和解したという。

組合によると、男性は2021年10月、人事評価の自己評価欄に7段階で上から4番目の「B」と記入したところ、
上司に無断で一つ低い「C」に書き換えられた。
上司から他の社員の前で罵倒されたり、背中をたたかれたりする被害も受けたという。
男性は抑うつ状態と診断され、同年11月から休職している。

組合側と吉野家が結んだ和解協定書では、吉野家が人事評価の書き換えや語気の強い発言があったことを
認めて男性に謝罪。人権侵害や差別の禁止を就業規則や社内規定に明記し、
ハラスメントに関する社内教育など再発防止策を講じることも盛り込まれた。

男性は、「私のようにつらい思いをしている人は多くいるはずだ。
今回の和解を通じて業界全体が変わってほしい」と話した。吉野家は取材に対し「回答は差し控える」としている。


吉野家、パワハラ巡り謝罪
23.5.25 共同通信,

労働組合「東京管理職ユニオン」は24日、牛丼チェーン吉野家の職場でパワーハラスメントがあり、
同社が被害者に謝罪し和解したと発表した。
同社は和解協定で全従業員への研修などを誓約。労組は(小職註;当該労組は、従業員組合ではなく、
労働組合「東京管理職ユニオン」を指す)
「こうした協定は珍しく、再発防止につながる」と評価している。

労組によると、被害を受けたのは2012年に正社員として入社した50代男性。
19年5月以降、チームリーダーから暴言を浴び、所属長に人事評価を改ざんされるなど不当な扱いを受け、
体調を崩して休職した。

男性は職場復帰を断念し、今月末で退社するという。
記者会見で、ハラスメントが起きた際に「企業は隠し事をせず、真実の解明をしてほしい」と訴えた。

 

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「産後うつ」父親も

2023年05月29日 | 情報

メンタルヘルス問題について、日経新聞は新聞媒体では抜きんでた存在です。参考になる記事が多いです。

「産後うつ」父親も 男性の育休を考える9選
23.5.22 日経

4月から、従業員が1000人を超える企業は男性の育休の取得状況を公表することが義務付けられました。
少子化対策や女性活躍のために重要な取り組みですが、日本は先進国の中でも男性の育児参加が遅れています。
慣れない育児をきっかけにメンタルヘルスに不調をきたすケースもあるようです。
男性の育休を考える記事を選びました。(内容や肩書などは掲載当時のものです)

「取るだけ育休」も
日本は海外に比べて家事や育児の分担が女性に偏っています。
内閣府の2020年版「男女共同参画白書」によると、6歳未満の子どもを持つ日本の夫の家事・育児関連時間は
1日当たり平均1時間23分でした。スウェーデン(3時間21分)や米国(3時間7分)、ドイツ(3時間)の半分以下です。
実際に育休をとっても家事や育児の分担が進まない「取るだけ育休」も指摘されています。

男性もうつ、自治体は相談窓口
男性の育児参加が増える中で、「父親の産後うつ」に注目が集まっています。
慣れない育児、睡眠不足や孤立感などが要因とされています。
国立成育医療研究センターによると、子どもが生まれてから1年以内にメンタルヘルスの不調を抱える割合は
父親も母親と同程度だそうです。男性は育児に関する相談相手が少ないとされ、自治体などは相談窓口を設けています。

・パパ育休「とるだけ」を防ぐには 家事・育児の予習肝心

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD1492W0U2A211C2000000/

・男らしさ競う「マッチョな職場」はつらいよ

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD270QG0X20C23A2000000/

・なぜ「共育て」が難しいのか 日本に課される2つの改革

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK07BZV0X00C23A4000000/

・男性育休25%→63%、どう後押し 「取得が当然の権利」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC0216A0S3A400C2000000/

・男性の育休は増えるの? 4月から取得状況の公表義務化

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD150RL0V10C23A3000000/

・父親の「産後うつ」孤立させず予防 完璧目指さないで

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD085KB0Y3A500C2000000/

・育休パパの気づきと悩み、大切な体験と仕事観の変化

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC140MT0U2A211C2000000/

・「産後パパ育休」上手に取るには 菅野百合弁護士に聞く

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC090M30Z01C22A0000000/

・産後パパ育休スタート 働きたい妻を支える活用術

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD031Y20T01C22A0000000/

 

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(プラス情報)「最低賃金」-運営方針における位置づけを大幅に格上げ

2023年05月28日 | 情報

都道府県労働局が発している行政運営方針に注目してください。

全国労働局の行政運営方針をすべてチェックしたわけではありませんが、
今年度は「最低賃金」を重点施策として取り上げています。
特に、千葉県は、最低賃金を「最重点施策」として位置付けています。

御社の賃金規則、正規従業員以外の時間当たりの賃金等を再チェックしてください。

◎千葉労働局 令和5年度行政運営方針

https://jsite.mhlw.go.jp/chibaroudoukyoku/content/contents/001434627.pdf

令和5年度 ;最重点施策

  最低賃金・賃金の引上げに向けた支援と個人の主体的なキャリア形成の促進等

令和4年度 

 第4 誰もが働きやすい職場づくり
   3 最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進

◎東京労働局 令和5年度行政運営方針

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyoroudoukyoku/content/contents/001435052.pdf

令和5年度  第3 最低賃金・賃金の引上げに向けた支援の推進等

令和4年度  第5 誰もが働きやすい職場づくり
                    3 最低賃金・賃金の引上げに向けた生産性向上等の推進

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「よいこと」はひとつもありません

2023年05月24日 | 情報

パワハラで労災(今回は、公務災害)が認定されれば、次は民事損害賠償責任の問題になります。
今回の事案では、公務災害ですから事情は異なりますが、「550万円」です。
それに、当該企業(行政)の実害は、「550万円」では済まないのです。
会社(行政)にとって「よいこと」はひとつもありません。

三重・亀山市職員、パワハラで市提訴 上司から叱責「腹を切れ」
毎日新聞 2023/4/27

三重県亀山市の40代男性職員が上司から「腹を切れ」「依願退職した方が身のためではないか」と叱責されるなど
パワーハラスメントで精神的苦痛を受けたとして、市に550万円の損害賠償を求め津地裁に提訴したことが27日、分かった。

訴状によると、男性は2018年4月、同市の関支所下水道課に異動した。
経験のない業務を命じられ複数の同僚の前で大声で叱られたり、
残業代申請を認めず無給の時間外労働をさせられたりしたと主張している。提訴は11日付。
男性は19年12月、うつ病と診断され、20年2月から休職したが、昨年に職場復帰。同8月に公務災害と認定された。(共同)

「腹を切れ」と罵倒、「辞表を添付しろ」と無給の時間外労働…パワハラで亀山市職員提訴
2023/04/29 読売

三重県亀山市役所の40歳代の男性職員が、上司から繰り返されるパワーハラスメントで精神的苦痛を受け、
休職を余儀なくされたなどとして、市を相手取り、550万円の慰謝料などの支払いを求め、津地裁に提訴した。
提訴は11日付。

訴状などによると、男性は2018年4月、同市の関支所下水道課に異動。
同課の課長(当時)らから、複数の職員の前で「腹を切れ」と罵倒されたり、
「辞表を添付しなければ、決裁は見ない」と言われたりして無給の時間外労働を強いられた上、うつ病を患ったとしている。

男性が受けた行為に関し、昨年8月、地方公務員災害補償基金県支部が公務災害と認定。
同10月には、暴言を繰り返すパワハラをしたなどとして、市は元課長ら2人を減給10分の1(3か月)の
懲戒処分とした。

今回の提訴に、市は「顧問弁護士と相談しながら適切に対応したい」としている。

 

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