中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

注目の「アドラー心理学」

2017年04月17日 | 情報

アドラー心理学を研究している、駒澤大学文学部心理学科教授 八巻 秀教授の講演(17.3.12)をサマライズしました。

アルフレッド・アドラー(A.Adler 1870-1937)は、オーストリアの精神科医であり、
現代で「アドラー心理学」と呼ばれる学問領域を創始しています。
精神分析で有名なジークムント・フロイトは、皆さんもご存知でしょうが、
アドラーとフロイトは、一時期、共同研究もしていますので、同時代の精神医学の権威と理解して下さい。
しかし、現代では、フロイトよりも、アドラー心理学のほうが、ブームと言ってよいほど脚光を浴びています。
因みに、アドラー心理学を解説した「嫌われる勇気」(岸見一郎著、ダイヤモンド社刊)は、ベストセラーになっていますし、
日本アドラー心理学会からその内容にクレームがついた、テレビドラマ「嫌われる勇気」(フジテレビ系)が放映されているくらいです。

〇さて、アドラー心理学の正式名称は、「個人心理学」(Individual Psychology)であり、
わが国では「アドラー心理学」と呼ばれています。
「人はどうすれば、幸福になれるのか? いかに生きていけばよいのか? 」という問いについて、
「理論、思想、技法」という明白な考え方を提示しているのが特徴です。

人は困難な状況になると次の3つのどれかで思考しています。
①    かわいそうな自分・悪い自分
これには、被害者意識があり、自分を責める傾向が認められ、結果、閉じこもりや他者排除に現れる。
②    悪いあなた・あの人
これには、他者の責任を追及する、悪者探しをする傾向が認められ、結果、攻撃的、マスコミ的言動に現れる。
③   今、私にできることは?
これには、主体的、行動的、未来志向的な発想が認められ、自らの行動を重視し、貢献的思考が窺える。

この中で、③は、アドラー心理学ならでは考え方であり、原因論ではない考え方と云えます。
現代では、多くの人が、①や②の考え方(=原因論)に陥ってしまうようです。
つい①②になりがちな自分をいかに③にもっていくか?これが問題状況から抜け出すための大きなポイントです。
自らが、①や②に陥っていることを、意識・自覚すること、
そして、③の考えに切り替えていこうとすることが、「うつにならない勇気」になっていきます。

〇アドラーは、「うつ」についてどう考えていたか?
「うつ病の患者は、自分自身を責める。でも、心の奥では他者を責めている。」
すなわち、「うつ」になると、自分を責め(かわいそうな私)、他人も責めて(悪いあなた)、
「原因論の渦」に巻き込まれる、ということだ。
結果、うつの状態は、その人の「勇気」を増やす必要があることを意味している。

〇アドラー心理学での重要ワードの一つが「勇気Courage」です。
人々が真に幸福になる(=健康に建設的に暮らしていく)ための重要な鍵を握っているのは、「勇気」である。
「勇気」を辞書で確認すると、「いさましい意気、困難や危険を恐れない心」(デジタル大辞林)とあります。
しかし、アドラーが云う「勇気」ではない。
アドラーが云う「勇気」は、「その人の人生における流れを、有益Usefulな、建設的な
constructive方向へ向かわせるような、その人の内面を叙述したものである。
そして、「勇気」には、2つの要因があると。
①    活動;目標に向かう運動の元
②    共同体感覚;あらゆるものとの関わり
分かりやすく、言い換えると、
「うつにならない“勇気”を増やす3つの要素、すなわち、①対話主義、②貢献感、③楽観主義、である。」

〇うつにならない“勇気”を増やす3つの要素
1.対話主義
人と会話~対話をしながら、よい関係を作ろうとすること、です。
「勇気」がある人とは、他者に対して関心や好奇心を持つことができて、それを行為に移せる人。
では、ここで少し「勇気」を出してみましょう

問題は人間関係から起きます
人間の悩み・問題は、すべて「対人関係」の悩み・問題です。
因みに、この理論は、100年前だから、画期的です。
人間の感情や行動が発動するとき、必ず相手役がいて、それは対人関係上の問題を解決しようとする目的で、発動されています。
→相手の心を察する・分析するよりも、相手にかかわりながら考え、考えながら関わることが重要。

ここで、「オープンダイアローグ」の考え方を説明します。
因みに、最近では画期的な考え方です。
・新しい精神医療の手法であるオープンダイアローグでは、
①    コミュニケーションが成立(他者に関心を持つようになる=モノローグからダイアローグに変容)すれば、人は社会化される。
②    ダイアローグ(対話)は健常。モノローグ(独り言)は病的。
という「対話主義」の思想がある。その背景には、家族療法やアドラー心理学の考え方が存しています。

アドラーが「オープンダイアローグ」を予言することばです。
「結局のところ、我々には、対人関係の問題以外の問題はないように思える。
その問題は、人が他者に関心を持っている時に限って、解決可能なのである。」

3つの魔法の言葉―声掛けの、勇気が高まる「基本言葉」です。
「・ありがとう ・うれしい ・助かる」
さて、この言葉を発する場面を日常(友人・家族・職場関係)の中で、積極的に見つけて、「声」に出して使っていくことが、大切です。
照れや相手の反応にめげずに、「自然に」「あたりまえに」交わせるようになるまで、使ってみましょう。

〇うつにならない“勇気”を増やす3つの要素
2.貢献感
自分のためだけでなく、人のために何かをしていくこと
水谷 修氏(夜回り先生)の考えを紹介します
自分病(=かわいそうな私)→自分はこんなに不幸だ。自分は悲劇のヒロインだ~と思い込んでいる病。
このような人に同情してはだめだ。

自分病の人の話を聞いてしまっては、ダメです。かわいそうには共感しないことです。
巻き込まれない(同情しない)こと、その人が病から抜け出すには、「人のために何かすること」が大切です。
補足です。結果がわからない、ではどうすればよいか?「貢献」であると結果がわからない、
だから、「貢献」ではなく、「貢献感」であると。

アドラー心理学の特長として、「課題の分離」があり、断る勇気、話し合って分担することがあげられます。
アドラーも同じことを言っています。
うつ病の患者にアドラーが云ったセリフです。
「もしも私の処方に従えば、14日で治るだろう。毎日、どうすれば誰かを喜ばすことができるかを、考えるようにしなさい。」
→うつの患者の関心が、他者に向いて、他者に貢献していこうとすること(=貢献感のアップ)によって、
その人の「勇気」を増やすことができる、とアドラーは考えていた。

〇うつにならない“勇気”を増やす3つの要素
3.楽観主義
どんなときでも「今、自分に何ができるか」を考えようとすること
―アドラー心理学の基本です。
「その人が悲観的では、その人を取り巻く物事は何も解決しない。だから、なにはともあれ、人は楽観的であるべきである。」

アドラーは、例として、イソップの童話「二匹のカエル」を、弟子たちに紹介していたそうです。
『二匹の蛙がミルクの入った壺のふちのところで飛び跳ねていました。突然、ミルク壺に落ちてしまいました。
一匹の蛙は、ああもう駄目だ、と叫んで諦めてしまいました。
そしてガーガー泣いて何もしないでじっとしているうちに結局溺れて死んでしまいました。
もう一匹の蛙も同じように落ちたのですが、しかし何とかしようと思ってもがいて足を蹴って一生懸命泳ぎました。
すると足の下が固まりました。ミルクがチーズになったのです。それで、ピョンとその上に乗って外に飛び出せました。
私たちができることはそういうことなのです。』(岸見一郎氏著『アドラー心理学入門』より引用)

日常生活にアドラー心理学を適用・実践していく、ということは、
このような「どんな時でも、必ず私にできることがある」と思う「楽観主義」を取り入れていく、ということでもある。
アドラー曰く「すべての人は、必要なあらゆることを、することができる」
また、アドラーの一番弟子である、ルドルフ・ドライカースは云っています。
「植物に”水“が必要であるように、人間には”勇気“が必要である。」と

最後に、アドラーが「幸せになるための第一歩」について一言
「不健全な人は、相手を操作し、変えようとする。
健全な人は、相手を変えようとせず、自分が変わっていこうとする。
問題は、何が与えられたかではなく、与えられたものを、どう使いこなすかだ。」

参考文献
・「嫌われる勇気」岸見一郎、古賀史健著 (ダイヤモンド社)
・「幸せになる勇気」岸見一郎、古賀史健著 (ダイヤモンド社)
・「スッキリわかる!アドラー心理学」八巻 秀著(ナツメ社)
・「アドラー心理学入門」岸見一郎著 (ベスト新書)
・「アドラー臨床心理学入門」鈴木義也、八巻 秀、深沢孝之著(アルテ社)
・「オープンダイアローグとは何か」斉藤環著(医学書院)

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする