ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。14. 怪しいトラック

2010-11-30 | Weblog
 (エレキは疑義のあるクルマを特定したらしい。小型トラックだ。遠巻きにしている。)

清水。ふむ。どうするか。

芦屋。取りあえず、近づこう。

 (虎之介がすすっとクルマに近づく。エレキと亜有が続く。止せばいいのに、運転席のドアをノックする。)

芦屋。もしもし、どなたかいませんか。

 (返事はない。虎之介が、回ってみると、人が近づいてきた。どうやら拳銃を所持しているようだ。)

男1。何だお前は。このトラックがどうかしたか。

芦屋。このトラックはあなたのもの。

男1。答える必要は無い。さっさとどきな。

芦屋。面白そうなトラックだ。

男1。この平凡な小型トラックのどこが面白い。

芦屋。荷台かな。何が入っているんだ。

男1。怪しい。お前、何だ。

男2。おーい、どうしたんだ。

男1。早くしやがれ。変なやつに絡まれている。

男2。出発しよう。

男1。あばよ。

芦屋。てめえっ、やっぱりお前のだな。嘘つきやがって。

男1。だから、どうでもいいだろう。

 (虎之介が漫才している間に、亜有は後部に近づく。)

エレキ。荷台に誰かいるようだ。

清水。もう少し証拠が欲しい。少なくとも、追跡する理由が。

 (手を出した。わざとらしい演技をする。)

清水。クロ、どこに行ったの?。ここにいるの?。クロー。

 (返事無し。なので、開ける。)

男3。何だ、お前。今、取り込み中だ。

清水。クロ、入らなかった?。

男3。クロってなんだ。

清水。黒猫。

男3。なもん、こねえよ。さっさと行きな。

清水。入ったと思ったんだけど。これくらいの猫。

男3。だから、こねえってっだろ。

清水。箱がある。あの中かな。

男3。聞いてないな。さっさと立ち去れ。

清水。ちょっと入っていいかな。

男3。バカやろ。だめだ。こらっ、手をかけるな。

清水。いいじゃない。猫を探すだけよ。

 (こともあろうに、男は亜有をおもいっきり払おうとする。とっさに避ける。男がバランスを崩した隙に、侵入。箱のふたを開ける。粉の入った袋。センサーが反応した。大量の非合法物質。)

男3。甘く見やがって、この女ー。

 (男は亜有をつかもうとするが、するりと抜けて、飛び出す。逃げようとしたら、拳銃を取り出して、一発発砲。当たらなかった。)

芦屋。何だ今の。銃の音か。あっ。

 (男が虎之介を思いっ切り突き飛ばす。トラックは急発進。逃げる。
 亜有と虎之介とエレキは、バイクに駆け寄って、追跡開始。私(奈良)に連絡があった。イチとレイをID社東京の屋上から飛ばす。
 一部始終を遠くから見ていた山田氏。不審に思いながらも、興味が勝ってしまったらしい。自分のバイクに乗って、さらに追いかける。)

男1。変装した査察官か何かだ。やばかった。

男3。物を見られた。見られただけだが。

男2。バイクが追いかけてくるぞ。

男1。なめやがって。あいつらどこにいる。

男2。連絡する。

 (山田氏がずっと後方から追いかけていると、6台のオートバイが追い抜いていった。そして、エレキとマグネのバイクに絡んできた。暴走族に擬装している。鉄パイプなどを振り回す。エレキとマグネは必死で逃げる。)

芦屋◎。うわあ、こんな仕掛けがあった。

清水◎。こいつら、プロ。

芦屋◎。当たり前だ。警察はどうした。

清水◎。さっき連絡したばかり。しばらくは凌がなきゃ。

 (山田氏、助けなきゃと思ったようだ。警笛を鳴らしなから、集団に突っ込む。)

男2。ありゃりゃ、増えたぞ、仲間か。

男3。見た感じは素人の助っ人だ。ヤンキーが族に絡まれたと勘違いして、助けに行った感じだ。

男2。厄介だな。けが人が出たら、根掘り葉掘り事情聴取される。

男1。逃げるぞ。

 (トラックは速度をぐんぐん上げる。エレキとマグネは集団を抜け出して、追跡する。猛烈な速度。擬装暴走族ははるか後方に取り残された。さすがに、山田氏のバイクは付いてくる。)

男3。追ってきやがる。なんてやつらだ。

男2。畜生、こっちが族を振り切ってしまった格好になる。

男1。しかたあるまい。このまま行くぞ。

 (クルマは料金所などお構いなしで、首都高を抜け、北へ向かう。イチとレイはすぐに追い付いた。クルマの屋根にマーキングする。警察のヘリがやってきた。引き継ぐ。こちらは追跡中止。普通の速度に戻す。山田氏が追い付いてきた。道路脇に停車する。)

山田。大丈夫か。

清水。山田さん、来てくださったの?。私、ふらふら。

山田。当たり前だ、あんなに暴走して。何があった。

芦屋。隠しても無駄なようだな。追跡していた。さっきの小型トラックを。警察が来たから、こちらは用済み。それで、停車した。

山田。追跡の引き継ぎをしたのか。さっきのヘリは警察か。

芦屋。その通り。

山田。何てこと。あなたたち警察か。いや、政府の調査隊か。

清水。言わぬが華。

山田。命懸けの追跡だった。ああ、ご配慮に甘えることにするよ。

 (連絡を受けた高速隊がやってきた。事情が伝わっていたらしく、簡単に説明するだけで、去っていった。)

山田。やはりあなたたち、政府関係者か。

清水。警察などとは常時連絡している。仕事は隠してない。

山田。企業の調査。時に怪しい行動の。それで、訓練しにきたのか。偶然、何か怪しい動きをつかんだ。それで、追いかけた。それにしても…。

 (安心したのか、亜有は道路脇にへたりこんでいる。エレキが慰めている。)

山田。ロボットが人間を慰めている。救護ロボットだから、当然か。

芦屋。いつものことだ。お嬢さんなのに付いてくるからこうなる。

山田。はは、気丈そうだな。顔色はいい。

 (山田氏は練習場までいっしょに走ってくれた。ワンボックスカーは、虎之介が運転してID社に帰る。ID社のバイクは、空中バイクが来るまで、借りることにした。)

第33話。夏立つ頃。13. 族

2010-11-29 | Weblog
 (いい天気。出かけたい人が多いようで、またもやバイクの集団に追い付かれた。でも、今度はちょっと怪しい連中。目立つ格好をしていたからか、ちょっと煽られた。相手にしなかったら、さっさと先に行ってしまった。)

エレキ。危なそうなやつら。

芦屋。相手にしない方がいい。

 (ところが、少し山道に入ったところで、さっきの集団が待っていた。道をふさがれ、止められてしまった。)

山田。何のつもりだ。

族1。珍しいバイクに乗っているな。

山田。あれか。I国からの輸入品らしい。

族1。競争してみないか。

山田。お前ら、走り屋か。遠慮する。怪我したくない。

族2。そいつ、山田司かな。

族3。こんなところに出るわけない。

山田。そんなこと、どうでもいい。通せ。ピクニックの途中だ。邪魔するな。

族1。へん、しっぽ巻いたか。

山田。ああ、その通りだ。分かったら、どいてくれ。

 (3台はゆっくり走り出す。しかし、粘着するやつら、後ろから寄ってくる。そして、鎖なんかを振り回す。当てるつもりはないようだ。威嚇しているだけ。
 山田氏、どうするのかと思ったら、するすると飛び出す。エレキとマグネはピンと来たらしい。同様に、さりげなくスピードを上げる。出力はこちらが上だ。集団をみるみる引き離す。)

清水(通信機でDTM手話)◎。虎之介、何よこれ。

芦屋◎。さあ、族どもの挨拶はよく知らん。

清水◎。後ろで怒っているみたい。無駄な警笛鳴らしている。

芦屋◎。あ、山田さん、スピード落とした。挑戦を受ける気だ。

清水◎。道路交通法違反よ。

芦屋◎。手遅れのようだ。

マグネ◎。向かってくる。しっかり掴まってください。

清水◎。やれやれ、巻き込まれたか。

 (当然、煽ってくる。逃げる。エレキもマグネも、こうした状況は自動人形として熟知している。撹乱するために、山田氏のバイクとうまく絡めて走る。
 相手方は、下手くそなやつも混じっているらしい、何台か脱落した。なので、ますます怒って絡んで来る。しばらく、追跡劇が続く。
 山田氏、この道路を熟知しているらしい、ちょっと飛び出たかと思うと、エレキとマグネに合図する。カーブしたところで、細い側道に入る。しばらく走って、停車。もちろん、相手は本道を通過してしまい、こっちには来ない。)

芦屋。撒いたのか。

山田。そのとおり。どうする、この先に絶景地がある。予定を変更して行ってみるか。

芦屋。そうしたい。

 (かなり細い道をゆっくり走る。そして、展望できる場所に出た。眼下に本道が見える。)

芦屋。バイクの音が聞こえる。

山田。さっきの集団らしい。捜索している。

清水。私たちを。

山田。そうかも。あるいは次の目標を見つけたか。

清水。このあたりが根拠地なのかな。

山田。この道路は、あの手の集団が出没するので有名だ。警察の取り締まりも頻繁に行われる。

芦屋。あっ、サイレンの音だ。確かに取り締まっている。

山田。今回は解散のはずだ。

清水。これを待ってたの?。

山田。そう言うことになる。

芦屋。戻るのか。

山田。けったくそ悪い。このまま進もう。住宅地から高速に入って、戻る。

 (途中、一部はほとんど道無き道になっている。そして、舗装道路に出た。高速道に入り、サービスエリアで停車。夕食にする。エレキとマグネはバイクの番。)

芦屋。ありがとうございました。いい訓練になった。

山田。よく付いてくる。ロボットを操縦しているのはあなた。

清水。私です。でも、前のオートバイに付いて行けとか、簡単な指令しかしていない。エレキとマグネが状況を判断して行動する。

山田。ロボットだ。だから、調整の必要があった。

清水。そうです。何だか、自信がもててきた。ありがとうございます。

山田。よかった。お役に立てたようで。それにしても、あなた、普通のお嬢さんじゃない。よかったら、どんな仕事をしているのか、教えてください。

 (亜有はID本部の名刺、虎之介は情報収集部の名刺を渡す。)

山田。何かの調査かな。

清水。虎之介の所属する情報収集部は、企業の技術動向を調査します。我が社の今後の企業戦略を決定するため。私は、たまたま本部から派遣されている。目的は、さっきのロボットたちの動きを監視するため。

山田。調査。現場の調査もある。

清水。普段は公式の発表資料から類推してますけど、本当かどうかの確認が必要。現場を調査することも多い。

山田。だから、さっきみたいな悪路を進むこともある、ということか。

清水。ええ。めったに無いけれど、仕事です。

山田。それで、度胸があるんだ。びっくりした。

清水。しがみついていただけ。

山田。はは、そんなことはない。勇敢ですよ。さて、どうしようかな。目的地はいっしょだけど、別行動で帰ります?。

清水。ええ、できれば。

山田。今日は楽しかった。いずれ機会があれば。

 (食事の続きをする。ところが、エレキから連絡あり。駐車場を探索していたら、非合法物質の雰囲気検知と。亜有と虎之介は、すっと席を立つ。山田氏に一礼して、レジで料金を払って、食堂を出る。料理は半分残したまま。怪しいと思った山田氏が、後から付ける。)

第33話。夏立つ頃。12. 山へ

2010-11-28 | Weblog
 (山田氏のアイデアで、弁当持って、近くの山にツーリング。自分のバイクを加えて3台だ。山田氏はID社のバイクに乗る。エレキは貸してくれたバイクを使う。虎之介はエレキのバイクに、亜有はマグネのバイクに乗る。山の中腹の展望台に着いた。関東平野が見渡せる。)

清水。ふわあ、いい気持ち。来てよかった。

芦屋。どうですか?、使い心地は。

山田。微妙。とてもいいけど、普通の乗り心地。耐久性がありそうだから、砂漠とかジャングルだったら欲しくなりそうだけど、普段使うにはとんでもない贅沢。

清水。信頼性は抜群です。

山田。それにお金を出す人向けだ。運動性能とか、乗り心地だけでは、選択肢から脱落する。

芦屋。普通の運動性能なら、エレキが乗っていたバイクの方が良さそうだ。

山田。はっきり言えば、そう。国産だけど、とてもいいマシン。ずっと安いし。

清水。安くは見えない。

芦屋。高級品だ。その我が社のバイクと比べてってこと。

山田。私のブログで紹介していいですか?。

清水。どうぞ。我が社の商品ですから。

山田。隠された、世界の銘品。ID社の観測用高級オートバイ。ひょっとして、そのロボットも商品。

清水。貸出契約で売られています。この型だと、初期費用20億円、年間維持費5億円。5年使うとして、ざっと45億円。燃料代は別ですけど、とても安いし、ふつうの食事でも良い。

山田。値段が付いていたのか。

清水。量産の見込みがあるので、5年後には1/10になります。

山田。それでも、航空機の値段だ。そのバイクがロボットの移動手段になるのかな。

清水。普段はクルマを使います。水陸両用のオフロードカー。この前、山越えで対応できなかったので、バイクを試している。

山田。なるほど。じゃあ、今後も時々使う。

清水。つなぎです。いま、新しいバイクを開発中。

山田。斬新な。空飛ぶバイクとか。…、冗談です。

清水。当たり。空中バイク。

山田。そんなものあるの?。乗ってみたい。

清水。人間は乗れません。あまりに危険。超小型のホバークラフト、地を這う航空機。

山田。タイヤが地面に接してない。

清水。そのあたりから検討している。でも、そう。空中に浮いても操縦できないといけない。だから、航空機。形も、ローターのない小型ヘリコプターの感じになるはず。

山田。残念。空飛ぶバイクだったらよかったのに、それじゃ空飛ぶスクータだ。ちょっと感じが違う。

芦屋。単に一人乗りのジェット機だったらある。超小型の。

清水。何よそれ。

芦屋。IQ(IFFと競合する地下軍事組織)の…。

清水。ごほん、ごほん、ごほん。

山田。ちょっと寒いかな、ここ。

清水。花粉か何かよ。失礼。

 (亜有が山田氏のバイクに乗りたいと言ってきたので、山田氏は自分が運転して、後席に亜有を乗せる。虎之介は、今度はマグネの後席に乗る。普通の国道を走る。普通にツーリングだ。)

山田。どうですか?、乗り心地は。お嬢さん。

清水。やっぱり、こっちの方がいい。乗る楽しみがある。

山田。はは。うん、質実剛健にも程がある。あちらを気に入る人も少数ならいそうだが。

 (こっちはゆっくり走っているので、途中で別のツーリングの団体に追い付かれた。お互い、少数派との認識があるらしい。停車して、挨拶。ID社のバイクに注目が集まった。停車したまま、乗ってみたりする。マニアがいるらしい。ID社のバイクを知っている人がいた。)

山田。へえ、一部では知られている。

旅行者1。そう。ごく一部だけど有名。数が少なくって、幻の単車。恐ろしく堅牢。

山田。価格も破格。

旅行者1。ID社は積極的に売る気がないらしい。競合他社からはあきれられている。一度でも乗った人は気に入るけど、値段を聞いて二の句が継げない。

山田。軽く1000万円を超えるらしい。

旅行者1。無理して買えなくは無い微妙な価格設定。買った人は必ず満足する。

山田。こんなに武骨なのに。

旅行者1。それがいいんですよ。どんな無理にも耐えてくれそうな感じ。頼りになる相棒。

山田。そう言えば、そんな感じだった。確かに、こころ惹かれる。

旅行者1。うわさといっしょ。普段は目立たないのに、ここぞと言うところでどこまでも応えてくれる。

山田。なんだか、気に入ってきた。だが、買えそうもない。

 (何人かがどうしても試乗したいというので、広場に移動。軽くそのあたりを乗り回してみる。気に入ったという人と、値段の割りには平凡という人と、両極端。
 気候がいいので、もう一走りしよう、ということになった。団体と別れて、別の山を目指す。今度は、虎之介がエレキの後席、亜有がマグネの後席。)

清水。どう?。慣れてきた?。

マグネ。もう大丈夫。あの山田という人、プロ中のプロのようだ。

清水。そうなの。人当たりは普通だったのに。

第33話。夏立つ頃。11. インストラクター、山田

2010-11-27 | Weblog
 (高速を出て、山手に向かう。ゴルフ場を転用した施設だ。平日の昼間なので、客は少ない。更衣室で着替えて、クラブハウス前に集合。虎之介は、いつものスーツに手袋とヘルメットを装着しただけ。自動人形は、救護服に特製ヘルメット。)

清水。ううむ、軍服着てなくても決まりすぎ。ライフル抱えたら、恐い。

芦屋。普段の姿だ。そっちは、やたらとかわいいレース服だな。

清水。絶対にこれがいいって、店員に押しきられた。

芦屋。似合っているし、身体に合ってそうだ。動きやすいだろう。

清水。その観点で選んだのかな。

芦屋。プロのようだ。要点を押さえてる。

 (頼んでもないのに係がやってきた。興味が湧いたらしい。)

山田。おはようございます。私はここのインストラクター、山田司です。何か、撮影のための練習とか。

清水。はじめまして。いいえ、この2機のロボットの訓練です。

山田。ロボット。ヘルメットかぶっているから、ほとんど分からない。こちらも。

芦屋。人間だ。

山田。失礼。なんか、通勤の格好。

芦屋。普通の服ではない。この姿で充分。

清水。こほん。練習です。

山田。いいか、たまにならこういう趣味も。

清水。で、何かご用件でも。

山田。珍しいバイクだ。

清水。我が社の。I国ID社製です。

山田。ID社。聞いたことないな。

清水。我が社は計測機の会社。このバイクは計測機の輸送手段。

山田。ジャングルの奥とかに運ぶ。

清水。そうです。測定しながら走ることもある。

山田。乗せてもらえませんか。

清水。なっ、いきなり。

芦屋。いいじゃないか。あなたは見たところ、プロかベテランのようだ。

山田。ええ、今は体力的に退いています。

芦屋。クラブハウスで見たトロフィーに山田ってあったような。

清水。そう言えば…、30ほどあったわ。スポンサー付きのレース。だから、プロよ。きっと有名な方。

山田。一部ではそうでした。過去形です。

清水。じゃあ、お願いします。私、この型のバイクに乗るの初めて。

芦屋。それでロボットの訓練するつもりだったのか。あきれたやつだ。

山田。はは、私にお任せください。

清水。あの、料金とか。

山田。サービスしますよ。これに乗れるんだったら。

清水。そうは行きません。ええと…、コースがいくつかあったわ。一日一人3万円のコースかな。2人と2機で12万円と。払います。

山田。じゃあ、飛びきり貸しきりの大サービスだ。って、良く覚えてますね。

芦屋。特技を使ったな。

清水。ええ。思い出した?。

芦屋。ああ。

山田。特殊な記憶力。持っている人がいるとは聞いています。レースで役立ちそう。

 (山田氏はバイクの点検。慣れたものだ。さっと乗って、キーを回し、だだだっと飛び出す。オフロードコースを愉快そうに走っている。)

芦屋。いきなり使いこなしている。ただ者ではない。

清水。あんなマイナーな機種を。あっと言う間に性能が分かったんだ。

 (帰ってきた。バイクを降りる。満面の笑みを浮かべている。気に入ったらしい。)

山田。すばらしい。こんなバイクがあったなんて。

清水。全然知られていません。世界に100台あるかないか。高価すぎて、競争力がない。普通は、セット売りの一部です。

山田。調査研究か何かの。

清水。そうです。

山田。いくらですか?。

清水。単体で買うと、たしか、1000万円は超えていた。

山田。やっぱり、その価格帯か。

芦屋。普通のバイクなら2~3台買える。それも、とびっきり上等なやつ。

山田。これは会社のバイク。

清水。そうです。取り置きの2台を借りてきた。長野本社から取り寄せ。

山田。そのロボットが使う。

清水。この子たちは救護ロボット。過酷な環境に突っ込むことがありうる。

山田。だから、このご大層なバイクを用意したのか。ロボットの運転を見せてください。

 (エレキとマグネを乗せる。一周してこいと指令。場内を一周する。)

山田。乗りこなしている。そこまでだが。普通のロボットじゃない。

清水。A国軍が数年前に開発した。あまりに開発費が巨額になったので放棄した。それを我が社が買い取ったのです。

山田。なるほど。普通じゃないわけだ。

 (次に虎之介と亜有が乗る。虎之介は以前、同型に乗ったことがあるらしく、余裕で乗りこなしている。亜有は、何とか乗っている感じ。通勤には使えそうなレベルだ。)

山田。あなた、アマではない。時に使っている感じだ。

芦屋。そんなところだ。

山田。お嬢さんもよくやる。普通、こんな大型、乗ることすらできない。

芦屋。何とか乗っていた感じだ。ロボットの方がうまそうだな。

清水。しかたないわよ。普段、乗ってないもの。

山田。乗るにしたって、もっと軽快なマシンの方がいい。こいつは、その屈強な救護ロボットに似合うマシンだ。じゃあ、いくつか試してみるか。どうしたら訓練できるのかな。

清水。ええと、まず、虎之介さんに教えて、私がコツを聞いて、ロボットに指令します。

山田。要するに、人間、ロボット、ロボットの順だな。

清水。そうしてください。

 (山田氏、すっかり先生稼業が身に付いているようで、虎之介とエレキとマグネを上手に指導する。いろんな技を次々に伝授して行く。面白がって教えるので、あっと言う間に午前が過ぎた。)

第33話。夏立つ頃。10. 亜有と虎之介と

2010-11-26 | Weblog
 (第二機動隊本部にて。)

芦屋。暇だ。

清水。結構なこと。

芦屋。なんだか、お前とペアを組んでいるようだ。

清水。実際上、そうよ。何かご不満でも。

芦屋。いや、夢のような生活だと思ってな。

清水。なんてジジくさい言いよう。

芦屋。最初は、お互い警戒してたよな。今は信頼しきっている。

清水。うん。2年近くになる。最初は恐かった。今だから言える。

芦屋。はは。慣れたか?。

清水。全然慣れない。でも、平気にはなった。

芦屋。慣れると平気とはどう違うんだ?。

清水。そうね。扱い方が分かった、ってとこかな。

芦屋。おれが猛獣で、亜有は飼育係かっ。

関。そうよ。

芦屋。おわっ、聞いていたのか。

関。筒抜けよ。虎之介っ。

芦屋。は、はいっ。

関。あんたと亜有さんの関係がはっきり分かりました。

清水。ところで、関さん、いつ帰れるの?。

永田。7月に帰れる。

清水。まだ1カ月以上もある。

永田。人事に絡んでいるのだ。これでも早い。

清水。じゃあ、お気の毒に、新任の上司…。

永田。想像の範囲内だ。おれからはしゃべれない。

芦屋。次の担当がいいとは限らない。

関。誘導には引っかからないわよ。でも、そのとおり。良くなるとは限らない。

芦屋。何だか、次の展開が予想できる話だな。

永田。憶測はしないように。

清水。お二人ともお出かけ?。

永田。見たとおりだ。いつものつまらない仕事。

関。どこに行くかは言えない。

清水。そりゃそうか。

関。行ってきます。

芦屋。ああ、気をつけて。

 (出て行った。)

清水。さて、私もお出かけしようっと。

芦屋。自動人形の訓練か。

清水。そう。観察と。

芦屋。おれも行こうか。

清水。濡れ落ち葉。

芦屋。何か言ったか。

清水。エレキとマグネをバイクに乗せるのよ。虎之介はオートバイは?。

芦屋。必要な技能だ。

清水。要は自由自在に操れるってこと。ご指導、頼めるかしら。

芦屋。亜有が実演しようと思っていたのか。

清水。どうせ、自動人形には最初から組み込まれている。

芦屋。そんなの、基本技術だけだ。水くさいぞ。しっかり教え込んでやる。

 (郊外のオートバイ専用の練習場に行くのだ。2人は駐車場にエレキとマグネを連れて行く。小型のワンボックス車に長野本社から運んだ2台のオートバイが乗せられている。バイクはI国ID社製だ。一見するとツーリング用のオートバイだが、悪路も走れるように工夫されている。例によって、過酷な環境での計測機運搬用だ。)

芦屋。ヘルメットは買ったんだな。

清水。自動人形の予算で。自動人形のは作戦用の特注。私の分は普通のレース用の服。

芦屋。そうか。

清水。そうかって、あなたはそのスーツ姿で乗るの?。

芦屋。ああ、手袋とヘルメットして。

清水。手袋はサイバーグラブ(奈良註: 情報収集部用の特性手袋)、ヘルメットは一般用。工事現場の見学か通勤みたい。

芦屋。一般用ではない。服ともども、強化してある。

清水。悪趣味。

芦屋。本当に使う組み合わせ。おれの練習にもなる。

第33話。夏立つ頃。9. レース計画

2010-11-25 | Weblog
 (第二機動隊本部にて。亜有が永田らに、空中バイク計画について説明している。誤解の無いようにとの配慮だ。)

永田。空中バイク?。そんなもの存在するのか。

清水。ホバークラフトよ。超小型の。

関。また、進行波ジェットを使う。

清水。ターボシャフト型を開発するらしい。そちらは本部航空部門が作製。

関。機体はどこが作るのよ。

清水。E国ID社。

永田。どんな形だ。

清水。検討中だけど、少なくとも、一人の被災者を運べるのが条件。

永田。とすると、ローターのないオートジャイロみたいな形だな。

清水。さすが。どうして分かったの?。

関。他の形を想像するのが困難だからよ。感じは分かった。地を這うブレードなしヘリコプターだ。

永田。水陸両用にはできそうだ。障害物は超えられない。

関。蒸気ロケットがある。

永田。一瞬、飛び上がるのか。

関。激しい音はするけど。

清水。秘密も何もない。そうするらしい。バイク並みに軽いから可能。

永田。とんでもない移動装置だ。

関。各国の軍が腰を抜かすわ。いつできるのよ。

清水。一カ月後に、最初の2機をよこすらしい。

関。最初の、って何よ。

清水。使ってみないと、役立つかどうか分からないって。

永田。危険な乗り物のような気がする。

関。よほどロボット化しないと、人間では操縦できない。

永田。自動人形専用装置か。見てからだな。

関。ええ。今までいろいろ見てきたけど、結局、軍事的脅威には程遠いものばかり。

志摩。入るよ。いいかい?。

清水。どうぞ。

関。志摩さん。珍しい。

志摩。空中バイクの件だ。

関。今、話してたのよ。何か起こったの?。

志摩。F国ID社が横やりを入れてきたらしい。

清水。まあた?。ID社って、結構内部で鞘当てやってる。

志摩。伊勢さんが切れそうになった。

関。まあ、大変。

志摩。奈良さんが執り成して、1台ずつ発注。

永田。デザインの異なる2機か。何だか、A国軍のやり方だな。

志摩。でもって、F国がどっちが優れているのか確かめるので、レースをしろと言ってきた。

関。勝手にやってちょうだい。

志摩。それができる水準にまで自動人形を使っているのは、こことA国だけ。A国は独自開発するだろう。

関。つまり、日本国内でレースをすると。

志摩。うん。それで相談にきた。

関。なんで私たちが関与するのよ。

清水。つまり、知りたい性能を確かめるコースを作る。

関。そんなの、普通にレース場借りれば、…ん、オフロード性能か。

永田。その通りだ。水上や障害物超え。

関。林の中を突っ切るとか。雪上とか。

永田。ビルの中とか、炭鉱内部とか。

関。深い谷を越える。あるいは、崖から飛び降りる。

清水。じゃあ、北海道。残雪が残っているかも。支社に連絡する。

 (好きな技術者がいるらしい。山も海も川も含む、壮大なコースを送ってきたのである。本部とE国とF国のID社にコースを送り、対応した機体を開発してもらう。)

第33話。夏立つ頃。8. 空中バイク計画

2010-11-24 | Weblog
 (週明け。サイボーグ研の活動の認知度が高まり、見学者がひっきりなし。最近はポスドク級の応募者が多く、企業と違って勝手に乗り込んで来るので、やや迷惑。それでも、海原所長は丁寧に説明している。今日は6人もの希望者を相手にしている。
 また電話。係が星野さんに回す。報道だということで、大江山教授が相手している。)

芦屋。なんだか慌ただしいな。

火本。うん。すぐに下火になると思うけど。芦屋さんは何しに来たの?。

芦屋。虎之介でいい。お客さん扱いはやめてくれ。

火本。ごめん。オリヅル号のことかな。

芦屋。ズバリそうだ。トースター号に搭載するんだろう?。

火本。調査?、それとも意見を言いに来たの?。

芦屋。話を聞いてからだ。

火本。調査に役立つかどうか。

芦屋。ああ、その通り。勘がいいな。

火本。ぼくは調査は素人だ。意見が欲しい。

芦屋。なら、話が早い。

 (所長に了解を得て、火本が設計書を持ってくる。虎之介は真剣に眺めている。水本があきれている。)

水本。虎之介さん、こういうことなら分かるんだ。

芦屋。引っかかる言い方だな。だがそうだ。なぜか、直感が働く。

水本。そりゃ勉強しているからよ。この分野に関して。

火本。亜有さんと逆だ。彼女は安全保障なんて関心が無かったのに、今は一所懸命。

芦屋。堅牢で量産に向いた感じだ。よくできている。

火本。うん、模型飛行機では実績のある企業の設計だから。でも、まだまだ課題は多い。ロボットと言い張れるくらいの仕掛けにしなくちゃ。

芦屋。目的はなんだ。

火本。目標という意味ならシリーズEが目標。地質や植生の調査など。具体的に何に使うかはまだ決めていない。技術的限界が明らかになってないから。

芦屋。すでに引き合いがあるそうだな。

水本。そうなのよ。何に使うのかしら、こんな未完成品。

芦屋。性能調査と市場調査に決まっている。虎視眈々と狙われているんだ。

火本。トースター号なんか、いきなり5台の注文が入った。メーカーは、発注者の意見を聞いて、オーダーメイド生産するらしい。

芦屋。商売しに来てるんだから、いいのか。

火本。こちらの研究に差し支えなければ、構わない。とりあえずのデータはあるから、図面上での改造が始まっている。

芦屋。開発目標は自走車だったな。

火本。そう。多少、目や手足が衰えても、安全に操縦できるクルマ。

芦屋。人間のうっかりミスを防いでくれる。

水本。そこまでできたら、満点に近い。とりあえずは、センサー系を充実させて、人間の感覚をサポートする。

芦屋。大企業がやってそうだ。

水本。うん。激しい競争の渦中にいる。モグ班は真剣。

芦屋。あのポスターはなんだ。自動二輪を作るのか。

火本。オフロードバイク。検討中。

芦屋。さては鈴鹿だな。

火本。何で分かったの?。

芦屋。エレキとマグネの機動力を高めたいとか言ってた。こんなところに仕掛けするとは、あんにゃろ。

水本。自分が使いたいみたいよ。それに、自動人形用なら、モグみたいに他動人形として作ればいいじゃない。

芦屋。他動人形は量産できない。一品もので、極めて高価だ。

火本。マウンテンバイクでいいのに。

水本。芸がないわよ。A31と同じ。

芦屋。しかも、重すぎて、進行波ジェットでは飛べない。

火本。映画にはホバークラフトみたいな空中バイクが出てくる。

芦屋。フィクションだ。

水本。自動人形なら操縦できそう。

芦屋。お前ら、何考えている。

レイ。聞いちゃった。伊勢さんに相談してくる。

芦屋。行っちまった。どんなのができ上がるんだ。

水本。楽しみ。

火本。ここ、いいな。何でも夢がかなう。

 (もちろん、伊勢はルンルンで設計をはじめた。奇怪な機械のスケッチを描いている。)

奈良。何だそれは。

伊勢。空中バイク。エレキとマグネ用の。

奈良。そんなもの、存在するのか。

伊勢。単車をホバークラフトにするのよ。

奈良。安定しない。危なそうだ。

伊勢。だから、自動人形専用の地を這う航空機よ。火本くんのアイデアらしい。虎之介と話しているうちに思いついたんだって。

奈良。最強のタッグだ。

伊勢。ときどき、虎之介をサイボーグ研に行かせた方がいいみたい。

奈良。で、どこに発注するんだ。

伊勢。真剣に考えてくれるところ。本部航空部門はどうかな。

 (E国ID社が反応した。A31の空飛ぶ自転車をG国に奪われて、カチンと来ていたらしい。さすがに、今回はG国はだんまり。1カ月後に最初のバージョンをよこすと。)

第33話。夏立つ頃。7. 怒りの関

2010-11-23 | Weblog
 (伊勢と交代するように、モグに加藤氏がやってきた。)

高橋。おとつい昨日は慌てていて気付かなかったけど、奈良さんも伊勢さんも、2人とも変。

加藤。そうですね。

高橋。あんたっ、あんたが言えるのか。

加藤。失礼しました。

高橋。こいつとは漫才できそう。

加藤。ありがとうございます。

高橋。あなたはどう思う?。二人のこと。

加藤。奈良さんと伊勢さん。いいコンビだ。どちらかというと、伊勢さんが奈良さんを接近させて、利用している感じ。

高橋。地位的には逆。

加藤。ですけど、情報収集部結成時の人選は上がやって、奈良さんは了承しただけ。むろん、伊勢さんにも情報が行ってたのだから、彼女も選べる立場にいた。

高橋。魔女を受け入れてくれる上司だと、ピンと来た。

加藤。そして、現実に大活躍している。見たとおり。

高橋。奈良部長。平凡に見えるのに。

加藤。なんたって、国際企業の部長。度胸があるし、動かしているお金も天文学的。そして、万が一、部下が逆らっても、実力行使の手段を持っている。

高橋。今はアンだ。

加藤。その通り。自分の力が2倍になる。

高橋。最初から狙っていたのか。

加藤。聞いたところでは、利用方法がなかなか見いだせなかった自動人形を、家畜の飼育に役立てられないかと引き取ったのが最初らしい。

高橋。奈良さんは獣医さんだった。馬のエサを用意させたり、畜舎を掃除させたり。なんとなく分かる。

加藤。普通の機械じゃなくて、動物の調子が分析できる。

高橋。なるほど。そう仕込まれたんだ。

加藤。もともと救護ロボットだから、人間を扱うために、慎重に調整されていた。そこに、奈良さんの知識が加わった。当時の改良は決定的だった。さっき、アンが奈良さんの行動を心配した。

高橋。会場には武器を持った連中がいる。そこに、自分の主人がのこのこと出かける。何とかしなくちゃ。

加藤。誰かを付けないといけない。クロじゃ威嚇にならない。ジロでもいいけど、付いてきた感じを出すには女性の方がいい。万一の時、逃げ道を指示して従う確率が高い。

高橋。こっちに逃げて、お願い。なんちゃって。

加藤。自動人形は、いざというとき、とんでもない勇気を見せるらしい。アンは見かけ通り屈強。判断力は人間には負けるけど、人間のように混乱はしない。

高橋。ところで、もうそろそろ時間じゃないの?。

加藤。だから、呼びに来たんです。

高橋。あんた。全然役立ってない。

加藤。お粗末さまでした。

 (個々の計画の説明に入った。エクササイザーの紹介では、学生も子供も大喜び。
 トースター号にはエレキとマグネを乗せ、土本が運転。運動性能をデモしたあと、走りながらオリヅル号を発射。ステージ上では水本がプロポを持ってオリヅル号を操縦する。練習していたらしい。ふわふわとよく飛ぶこと。そして、走っているトースター号ではマグネが立って、オリヅル号をキャッチ。拍手が沸く。
 小休憩に入る。)

関。オリヅル号だって。

永田。カメの六郎と対抗させたんだろう。ロケット点火時は派手な音と光が出るけど、あとは滑空したままだ。

関。グライダーって、意外に自由に操縦できる。

永田。ああ。水本がうまいんだろうけど、設計も大したものだ。

関。スパイどもがびっくりしていた。

永田。今は単なる模型飛行機だけど、あれだけでも使い方しだいでは大変なことになる。垂直発射で、発射準備の時間はゼロ。時速200kmくらいは軽く出るだろう。

関。その上、センサーを付けてある程度の自律飛行を目指している。必要なら、途中で着陸して、また飛び立つ。

永田。巡航グライダー。発案はおれたちか。

関。軍拡競争に加担。あーあ。何でこうなるのよ。

永田。ん、会場がざわついてきたぞ。

関。人気役者が出るからよ。高橋小鹿さん。

永田。聞いたことがあるようなないような。

関。ここでは大変な人気。関東ではさっぱり受けないから、放映されないだけ。

永田。どんな劇なんだ。

関。くれぐれもストーリで怒り出さないようにと釘を刺された。

永田。ふむ、楽しみだな。

 (スクリーンに背景が映し出され、そこにステージ上の人物がスーパーインポーズされるという仕掛けだ。短い劇なのに、場面が数回変わるので、工夫されたのだ。
 大阪の人はうるさい。場面でいちいち反応する。小鹿氏が出てきただけで、やんやの拍手。最後に小鹿氏扮する怪盗が派手に去ると、歓声が湧いて、しばらく続いた。)

永田。たしかにとんでもないストーリーだな。ん、関、どうした。

関。許さん、あの怪盗。

永田。歌の前座だよ。

関。まねする奴が出たら、どうするのよ。

永田。そんなやつは、エレキとマグネでお縄ちょうだいだ。

関。苦しんだ人はどうなるのよ。

永田。単なる事故だ。

関。だめ、そんなことじゃ。何も解決していないじゃない。

永田。もしもーし。

関。御曹司を落ちぶれさせて、納得させようなんて、とんでもないことだわ。

永田。だから、単なる人情もの。

関。納得できん。だれよ、あの話を書いたの。

永田。なるほど、関東で受けないわけだ。ひょっとしたら、放映禁止になるかも。

関。抗議にいきましょう。楽屋に。

永田。自動拳銃持って?。

関。あなた、誰の味方なのよ。

永田。あっ、また出てきた。今度は綺麗な着物着て。

関。ごまかす気ね。

永田。まあ待て。歌を聴いてからだ。

 (小鹿氏が歌う。背景では、自動人形と火本らが演奏し、六郎と鈴鹿、志摩、虎之介が踊っている。歌い終わったら、大変な拍手。)

永田。ほら、受けている。民衆にアピールするんだ。

関。くく、ここではあれでいいのか。

永田。後で誰かに感想を聞いてみよう。

 (もちろん、あれはおとぎ話のようなもので、現実ではない。どこかの事件を参考にしたようではあるが、そちらはちゃんと解決している。といった感じだった。話が面白くて、グロさがなければ、内容は気にならないようだ。
 机を並べて、チャリティーのために、自動人形が色紙に絵とサインを書く。小鹿氏は参加しないけど、後ろに立ってくださった。ファンからのサイン要求には、当然、応じる。
 スタッフをねぎらって、解散。翌日も同様に事が進んだ。トースター号は、その場で小鹿氏に納入。東京に帰る。)

第33話。夏立つ頃。6. 大阪会場の展示会

2010-11-22 | Weblog
 (翌日。本番当日。朝9時。航空管制システムを含む機器の調整のあと、小鹿氏は、五郎に抱えられて、蒸気ロケットの体験。最初は怖がっていたけど、さすがにプロで、余裕の表情ができるようになった。六郎といっしょに飛び上がって、巨大スクリーンの後ろに隠れ、着替えて出てくることにした。
 次に、寸劇の最終稽古。じっくり、1時間もかけて調整する。その後、音楽の試奏をする。お昼になった。開場する。展示会は午後3時から2時間の予定。
 ステージ脇のモグ内にて。)

高橋。妙な連中がいる。

海原。後席の連中は外国や企業のスパイどもじゃ。自動人形とサイボーグ研の動きを探りに来た。

高橋。国際スパイ。

海原。そして、産業スパイ。本物。

高橋。我が国も。

海原。当然じゃの。主催格の通商産業省だけでなく、外務省や軍も来ているだろう。

高橋。武器を持って。

海原。そうだとの、もっぱらのうわさじゃ。

高橋。ははーん、だから鈴鹿さんたちがいる。変だと思った。

海原。分かるのか。

高橋。用心棒。自警団といったらいいか。何かあったら闘う気だ。私たちのために。

海原。そうらしい。まだ見たことはないがの。

高橋。あの男2人はプロかな。やけにそれっぽい。

海原。志摩と虎之介。隠してはいない。軍事訓練を受けておる。鈴鹿と同期。

高橋。統率している奈良と、軍曹格の伊勢。まだ何かある。

海原。一つは明らかじゃろう。自動人形そのもの。奈良部長の号令一下、およそ何でもする。どんな過酷な任務であろうと。

高橋。やはりそうか。伊勢さんは。

海原。高度の機密じゃ。決して明かしてはいけない。国際問題になる。

高橋。やっぱり。秘密兵器を駆使する、悪魔の女。

海原。じゃろうな。自動人形が飛べるようになったのも、これほど自由に跳び回れるのも、すべてあ奴の仕掛けじゃ。

高橋。そうなの、天才なんだ。

海原。あれに対抗できるのは、清水くんしかいない。

高橋。彼女は本部から派遣されている。こちらの監視をすると共に、手に負えなかったら通報するんだ。隠密。

海原。そんなところじゃろう。清水くんも自動人形使いじゃ。

高橋。それで、志摩くんたちに混じっていても平気なんだ。前の方は、猫山さんファンかしら。それにしては、ちょっと若いかな。

海原。猫山ファンと鈴鹿ファンが入り交じっているのじゃろ。

高橋。鈴鹿ファンなんかいるの?。

海原。全国に推定50人。ねちっこいオタクファンじゃ。

高橋。熱心なこと。

海原。あと大勢は、子鹿ファンじゃな。

高橋。ええ。よかった。誰も来なかったら、どうしようかと思っていた。だって、宣伝してすぐだもの。あっちは高校生風なのと親子連れ。自動人形とサイボーグ目当て。

海原。親子連れは、イチとレイと六郎目当てじゃろう。テレビの幼児番組に出ている。

高橋。知ってる。一部の層にはよく知られている。ここに来れば、体操専用のロボットじゃないことが分かる。

 (資料映像が流れ出す。体操の画面が出たら、あちこちで小さな子供が合わせて体操している。アニメのテーマ曲も出した。会場は次第に学生優位になり、それらしい雰囲気が出てきた。
 展示会の開始。いつものように、自動人形が前半、サイボーグ研が後半。
 技術解説のあと、モグが動き出す。屋根からイチとレイが発進。A31はステージから発進。狭い展示会場を派手に飛び回る。エレキとマグネと五郎と六郎は蒸気ロケットで参加。
 着陸して、楽器を持ち、数曲合奏する。人間組が加わり、歌は鈴鹿。伊勢や鈴鹿への声援が飛ぶ。曲はすべて猫山氏の作曲だ。
 小休憩に入る。ふたたび、モグ内にて。)

高橋。よかったわ。かっこよくって。声援も飛んでいた。

鈴鹿。一部から。でも、大変なプレッシャー。早く子鹿さんを出せ、って雰囲気。

高橋。本番の興行でも、最初から出るわけではない。

鈴鹿。それか。待ちわびている。

高橋。いつもより楽だわ。こんな雰囲気もいい。リラックスして出演できる。

鈴鹿。これでもお遊びか。大変。

高橋。そっちは今がメインだからよ。最後は任せなさい。

鈴鹿。よろしくお願いします。

 (後半が始まった。大江山教授が解説する。さすがに、うまく解説する。小鹿氏目当てで来た連中も、ついでに観ている。もちろん、メカ好きな連中は喰い入るように見つめている。女性も少なからずいる。小鹿氏が目を丸くしている。)

高橋。この内容で、観客が乗っている。何てこと。

伊勢。びっくりしました?。

高橋。あなたは科学者。面白いの?。

伊勢。もちろん。あれもできる、これもできる。夢が広がる。

高橋。あなた、なぜ機械好きなのよ。

伊勢。必要だから。花を育てたり、小麦を伸ばしたり。

高橋。畑を守るのは本来、女の仕事。男どもは狩に出かけている。女にも生物学は必要。そして、ある一線を超えると、移植ごてでは無理。

伊勢。ええ、鍬や鎌ではとても無理。機械が助けてくれる。

高橋。コンピュータまで駆使して。

伊勢。何でも使う。機械でも、化学物質でも、自動人形でも。

高橋。魔女。

伊勢。あはは、そうなのかも。…、失礼。

高橋。本物は初めて見た。

伊勢。なぜかしら。私を魔女とか悪魔とか言う。不公平だわ。

高橋。神に従わないものは、みんなそう言われるのよ。

伊勢。別に逆らってない。

高橋。どこかしら一途すぎるのよ。どこで運命が別れるのか、知らないけど。

伊勢。今は突っ走るしかない。

奈良。伊勢、会場の反応が面白い。回ってみないか。

伊勢。行ってみようか。

高橋。あなた、アンを連れて。不気味な人。

奈良。ん、アン、付いてきたのか。

アン。心配だから。

奈良。そうか。なるほど。

高橋。なるほどじゃない。操縦しているのは誰よ。

奈良。私。

高橋。付いて来させたんじゃないの?。

奈良。別に、頼んでない。

アン。頼まれてない。

高橋。うう、頭が混乱してきた。奈良さんがロボットを操縦していて、ロボットが付いてきて、勝手に付いてきたような口ぶりで、ロボットが否定しない。

伊勢。理屈はつけられるんだけど、一般的に言って、深く考えると混乱する。今の状況は、アンが付いていった方がいいと判断して、付いてきたのよ。

高橋。不気味。

伊勢。この程度で不気味と思っていたら、身が持たない。失礼、会場を見てきます。

 (伊勢といっしょに学生が多い会場を巡回する。今は火本が解説している。画面に表示された映像やグラフを熱心に見ているのが多い。)

第33話。夏立つ頃。5. 衣装合わせ

2010-11-21 | Weblog
 (2台のトースター号と旧車両にてデパートに行く。旧車両にて。)

芦屋。トースター号が売れた。あっと言う間に。信じられん。

伊勢。あら、かっこいいクルマよ。さすが自動車メーカーだわ。マニアの琴線に触れるみたい。

芦屋。我が社のクルマが負けている。

伊勢。あらあ、我が社って言ってくれるの?。ありがと。

芦屋。いつのまにか、社員並みだ。

伊勢。そろそろ営業でもしてみるか。

芦屋。おれが営業…。破談ばかりだろう。

伊勢。そんなことないわよ。正直に性能をぺらぺらしゃべりそう。いざとなったら、必死で勉強しそうだし。

芦屋。志摩…、負けんぞ。

伊勢。その意気よ。

 (トースター0号にて。)

志摩。ふぁっくしょん。…、失礼。

猫山。うわさだな。誰だ。

志摩。虎之介あたりかな。どうせ、差し障りのない話。

猫山。君たちはどういう仲なんだ。

志摩。同期です。同じ訓練を受けた。虎之介と鈴鹿と私。

猫山。清水くんは違う。

志摩。彼女は普通のお嬢さんです。大学のクラブで知り合った。

猫山。見たまんまだ。

志摩。でも、今は仲間。いっしょに行動している。

猫山。ID社の総本部の所属だった。Y国の。

志摩。優秀なのは引っこ抜かれる。亜有がいい例だ。途方もない頭脳と、まともな性格の持ち主。

猫山。分かる。何かあったんだ。あんな商売しているなんて。

志摩。おれには分かりません。

猫山。それでいい。ところで、自動人形って何者なのだ。ロボットだろう?。あまりにスムーズに動作している。

志摩。普通は、あんなにうまく動作しないようです。単に指示を淡々とこなすだけ。ここには奈良さんと伊勢さんがいるから、まるで…。

猫山。まるでペットか家畜みたいに動いている。見慣れたけど、考えてみれば不気味だ。

志摩。魂を持ったような。

猫山。はは、引っかからんぞ。でも、そう表現しても良いくらいだ。

志摩。一般の人が描くより、はるかに複雑にできたロボット。

猫山。あれだ。いつの世にも、時代をはるかに超越した機械が存在する。そして、それを使いこなしてしまう人がいる。いいテーマだ。サイボーグ研にも希有な頭脳が結集している。

志摩。このクルマのことですか?。

猫山。それもある。だが、それよりも、さっきのロケット付きグライダーで分かる。技術者が驚いていた。それでいて、誰でも分かる。

志摩。火本と水本の仕事だ。

猫山。あの2人は面白そうだ。

 (デパートに着く。小鹿氏は鈴鹿や伊勢と楽しく話している。どちらとも話しやすいらしい。港氏が慎重に服を選んでは、松武氏に確認を求めている。松武氏は意見は言うけど、判断は港氏に任せている。)

高橋。いつも専門家に相談しているんだけど、今回はあの東京から来た人。

伊勢。松武さん。着物のことが分かるのかな。ちょっと聞いてくる。

高橋。行っちゃった。律儀な人。

鈴鹿。伊勢さんでしょう?。心配りができる。

高橋。疲れないのかな。

鈴鹿。私には真似できそうにない。

伊勢。歌舞伎とかには詳しいんだって。

高橋。時代考証ってやつか。

伊勢。ええ。それと、東京風のアレンジと。

高橋。ふーん。港先生、どうするのかな。

 (港氏は、松武氏の意見を聞いて、取り入れるべきところは取り入れているようだ。次々に舞台衣装を決めて行く。)

土本。費用はどうなるのかな。

清水。聞いてくる。

 (亜有は総務の星野さんに相談。)

清水。半分補助するって。出さなければ、社で使い回しする。

土本。他に役立つのかな。

清水。アンにはぴったり。

土本。そうだった。どうしようかな。手放したら後悔しそう。買う方向で考える。

 (小鹿氏とエレキとマグネ以外は町人の設定なので、普通の値段。小鹿氏は自分のコレクションを利用。お役人役のエレキとマグネは紋付羽織袴で、やや高価だ。ID社のロゴを紋にする。もともとベンゼンの構造式を図案化したものなので、亀甲紋に近い。似合っている。)

高橋。こんなものかな。上出来。

イチ。飛べるかな、この格好で。

レイ。伊勢さん、どうかな。

伊勢。あとでいつものように強化する。

高橋。いいわね、この子たち、飛べて。私も飛んでみたいな。

 (痛いところを突いてきた。関係者は知らんぷりを決め込む。しかし、加藤氏がバラしてしまった。)

加藤。飛べますよ。自動人形が被災者を助ける際に、ロケットを使う。

高橋。飛べるの?。

加藤。ロケットを装備したアンドロイド型の自動人形に掴まって飛ぶんです。うまく支えてくれる。

高橋。なんで今まで黙ってたのよ。

海原。危険じゃ。いちかばちかの救出劇で使う。

高橋。でも、この子たちは救護班。日頃から訓練している。

海原。それと安全は別次元の問題じゃ。その場にいた方がより危険な場合に限って…。

高橋。決めた。そのロケットを使って、笑いながら立ち去って、歌の会場に移動。

奈良。蒸気ロケットは1回に数十秒しか使えません。着陸できないヘリコプターに飛び乗るとか、そんな用途。

高橋。どれくらいの高さまで使えるの?。

奈良。そっ、それは…。

高橋。そのうろたえ様だと、軽く50mは飛べる。

鈴鹿。理論上は、その10倍ほどは飛べる。実用上は、その半分以下。

高橋。摩天楼もひとっ飛びじゃない。ビル火災とかで役立つはず。なぜ普及してないのよ。

海原。ただでさえ危険な仕掛け。それに、自動人形しか扱えぬ。人間は装備できないのじゃ。

高橋。そんな…。あなたたち、サイボーグを作るんでしょうが。さっさと救護ロケットの付いたサイボーグを作るのよ。

火本。ケイコ型の目標が決まった。

水本。一つのアイデアよ。蒸気ロケット技術は、ID社から買わないといけない。安くはないはず。

高橋。人命がかかっている。私、スポンサーになろうか。いくらよ。

 (星野さんを呼ぶ。本当の開発費は10億円ほどらしい。でも、今や技術の蓄積はあるから、役立つ改良ならはるかに安い価格で提供できるらしい。)

高橋。要するに、ギャンブル代。

星野。ありていにいうと。突拍子も無い開発ですから。

高橋。よし、乗った。

星野。大江山教授などと協議して、正式の見積もりを取りますから、それからお考えください。

高橋。必要な仁義ね。分かった。待つ。

 (もちろん、小鹿氏の厚意による資金援助では全然足りない。大江山教授は、またも資金集めに奔走することになるのである。)

火本。プロトタイプなんてもんじゃない。最初から実用狙いだ。

海原。光陰矢のごとし。急いだ方がいい。5年など、あっと言う間じゃ。

火本。大学院に入るなり、真剣勝負。

海原。あきらめい。しっかりやるのじゃ。

火本。はい。

 (衣装を持って、ホテルに帰る。)

第33話。夏立つ頃。4. トースター1号

2010-11-20 | Weblog
 (午後2時。高橋小鹿氏とその門下の主だった連中、会社のスタッフなどが来た。東京からも、大江山教授とサイボーグ研のメンバーが来た。永田と関もいっしょ。フルメンバー勢ぞろい。互いに紹介して行く。大江山教授、さっそく小鹿氏をよいしょする。)

大江山。あなたが有名な高橋小鹿さん。お会いできてうれしいです。

高橋。帝都の大学の教授なんて、初めて見ました。こちらこそ、光栄ですわ。

大江山。プロの芸が見られるなんて、最高です。

高橋。おほほ、ほめすぎですわ。単なる上方の芸。庶民の娯楽に過ぎません。

大江山。こちらの研究も、世の中に広まらなければ意味がない。

高橋。さすがですわ。楽しみに拝聴いたします。

 (予想通り、全然かみ合ってない。ライバル意識もろ出しだ。とにかく、小鹿氏はVIPだ。まずは、展示会のリハーサルを一通りやって、見てもらうことにした。といっても、技術解説は簡単に済ませる。自動人形と、サイボーグ研のデモンストレーションだ。海原博士が小鹿氏に説明する。)

高橋。すばらしい。サーカスを見ているよう。

海原。左様。技術の誇示です。

高橋。どんな方が来られるのかしら。

海原。東京でやったときは、技術に関心のある高校生や大学生が多かった。もちろん、関係する企業や、外国からの調査団もいた。

高橋。技術動向を見に。

海原。少しでも情報をつかんで、出し抜こうとする連中。

高橋。生き馬の目を抜く。さすがお江戸。

海原。ここでも同じじゃ。

高橋。受けなきゃ意味ありません。そうね、ちょっと気取りすぎかしら。

海原。挨拶じゃ。思いっ切り気取るのじゃ。仁義に六方、何でもあり。

高橋。あらあ、先生とは意見が合いそう。楽しみ。

 (小鹿氏の歌は、即席で港氏が作詞、猫山氏が曲をさっさと作ってしまった。自動人形総出の上に、火本が透明ピアノ、水本が電子バイオリン、亜有が普通のバイオリン、土本が三味線。猫山氏が自ら指揮して、合わせてみる。小鹿氏、さすがにプロ。歌手ではないので音量とか音質はまずまずなのに、聞かせどころはばっちり。)

加藤。芸人の歌だ。下手なりにサービスたっぷり。

海原。これまたはっきりした物言いじゃの。

加藤。猫山さんは、こんなのが大好きなんですよ。プロの歌手だったらしかり飛ばしているところだけど、ほら、ニコニコして楽しんでいる。

海原。芸術は難解だぞい。

加藤。お客のウケが楽しみだ。どう反応するか。

 (ID社でも、東京から来た連中はムスッとしているけど、大阪支社から来た若い技術者などはやんやの拍手している。子鹿ー、などと声援が飛んだりする。
 寸劇の練習。港氏が脂汗かいて、必死になって指導。と言うのも、子鹿氏以外は全員素人。団員を使うと、費用が発生するからだ。自動人形がきちんと動くまで、コントローラも付きっ切りだ。ほんの5分の劇なのに、入念に位置や動作を指定して行く。
 配役は、情けない御曹司が火本、自主を説得する女友達が水本と土本、大番頭が海原博士。たまたま事故現場に通りがかってレスキューするのがA31。事件後、瓦版を読んでひどい奴だとうわさするのが鈴鹿、亜有、虎之介。怪盗一味が小鹿氏とイチとレイ。怪盗捕縛に情熱を上げている幕府の役人がエレキとマグネ。私(奈良)が怪盗のおかげて破産してしまった問屋の主人。といっても、舞台でうなだれているだけ。志摩が状況を説明する。
 息子は反省もせぬまま、貧相な芸人に身をやつして全国行脚に。どこが人情かというと、先妻に先立たれていた私が、以前に求婚されたのに先伸ばししていた伊勢とめでたく結ばれて、ささやかながらも幸せな庶民生活を送ることになるのだと。うむ、あからさまに取って付けたような陳腐なプロットだ。こんなの受けるのか。)

芦屋。くさい芝居。

志摩。それがいいんだ。誰でもどこで泣けばいいか、すぐに分かる。

清水。関東ならさんざんよ。何も解決してないし、旦那も破産して、ちっともハッピーじゃないじゃない。怪盗なんか最悪。事故に便乗して、自分は私腹を肥やし、義賊に祀り立てられる。見ていて、むかつく。

志摩。単なるお芝居だよ。

清水。でも、受けてるみたい。拍手が来たもん。

芦屋。一部の連中、というか、地元の社員らしい。

清水。加藤さんや猫山さんまで、ストーリは全然気にしてないみたい。

志摩。確かに、気にし出したら大変だ。

清水。関さん、思わず発砲したりして。

芦屋。永田といっしょに、殴り込みに行きそうだ。まあだから、エレキとマグネを出して、お上を執り成しているんだろうけど

清水。いずれ捕まって、裁きを受けるという伏線か。つじつま合わせ。

志摩。それで納得した方がいいよ。腹が立たずに済む。

清水。ふむ。巧妙だわ。

志摩。大阪なりの庶民の知恵だろう。

清水。あなた、うまく言う。

伊勢。みんな来てー、衣装合わせに行くって。

清水。今から。

志摩。今しかないよ。

 (小鹿氏は、すっかりトースター1号が気に入ってしまったらしい。鈴鹿に運転させてご満悦。いくらかと聞いている。これは模型の0号と違って、高価だ。実費でも1000万円はする。それに、乗り心地は普通の乗用車ベースの0号と違って、いかにも武骨。オフロード性能はあるけど。大江山教授が相手している。)

大江山。ですから、高橋さん、これは試作中のクルマです。オフロード用だから、乗り心地も武骨。

高橋。どうしても売れないと。

大江山。お売りできますけど、ご満足いただけるか。

高橋。鈴鹿さん、このクルマ、どうなの?。

鈴鹿。完成しているように見える。乗り心地もジープみたいで快適。好きな人は、病みつきになりそう。大江山教授、これをベースに、ロボットカーにするって意味でしょう?。

大江山。その意味では完成品だ。モグ班が自慢していた。

高橋。それ見なさい。これが気に入った。買う。

大江山。高価です。金に糸目をつけずに作った。

高橋。いくらなのよ。

大江山。実費だけで1000万円。売価はもう少し高いはず。

高橋。ロールスロイスより、ずっと安い。

大江山。当然ですよ。あんな途方もない高級車。乗ったことないけど。

高橋。私には分かる。丹精込めた一品よ。そうでしょ、鈴鹿さん。

鈴鹿。ええ。こいつは役立ってくれそう。

高橋。アフターサービスはあるんでしょ?。

大江山。我が国の名だたる大自動車メーカーの作品です。その点は安心。

高橋。じゃあ、言うこと無し。買う。話をつけてちょうだい。

大江山。モグ班に連絡します。

高橋。話が決まるまで、乗っていていいでしょ?。

大江山。今回の展示会の用事以外はご自由に。

高橋。決まりだわ。鈴鹿さん、デパートに行こう。

鈴鹿。出発します。

 (猫山氏は1号を見ても、0号の方がいいと判断したようで、こちらもご満悦で乗っている。志摩が運転している。)

第33話。夏立つ頃。3. オリヅル

2010-11-19 | Weblog
 (伊勢は着物のままロボットが飛び立てるか、確認する。空中サーフボードも、空飛ぶ自転車も、蒸気ロケットも低速なら差し支えないようだ。)

鈴鹿。狭い場所で、よく平気で飛んでる。

芦屋。ああ、よくできている。

鈴鹿。イチとレイはいいけど、この前、マグネたちはすぐに山越えができなかったのよ。

芦屋。作戦のことか?。シリーズBなどを使えばいい。これ以上機動力が向上したら、恐怖のシステムだ。

鈴鹿。そうね。あら、トースター号が2台ある。完成したんだ。

芦屋。見てみるか。

 (全員で近づいて、見てみる。開発を間近で見ていた火本が得意げに解説する。)

火本。これから改良するんだけど、よくできているよ。さすがに自動車メーカーの作。

鈴鹿。車高がこっちの実物大模型よりずっと高い。

火本。オフロード用だから。ドアが無いから、乗りにくい。

鈴鹿。乗っていいかな。

火本。どうぞ。

 (鈴鹿は乗って、装備を見たり、揺すったりする。)

鈴鹿。見かけよりずっと実用の感じ。

火本。渾身の作らしい。

鈴鹿。「ORIZURU(折鶴)」って何かな。

火本。ええと…。あーっ、ボタン押しちゃだめ。

 (車体後部からグライダーが上向きにシュワっと放出され、すぐにロケットが点火し轟音が響き渡る。くるっと半回転して翼が展開。水平飛行に移り、前にどんどん進んで行く。ロケットはほどなく停止し、そのままグライダー飛行。たまたま近くを飛行中のイチが回り込んで、キャッチする。)

鈴鹿。ブレッド・アンド・バタフライのことか。折鶴が飛んでいるイメージなんだ。

火本。そう。よかった、壊れないで。

 (イチがオリヅルを持ったまま、器用に着陸する。)

水本。まだプロトタイプなのよ。

火本。うん。この間、やっとまともに飛んだばかり。まだちゃんと着陸できない。

芦屋。垂直発射できる小型グライダー。よくできている。操縦できるのか。

火本。もちろん。操縦系は付いている。模型飛行機レベルだけど。

芦屋。妨害には弱い。

火本。そんなのまだ考えてないよ。すぐに解析できて、簡単に妨害できると思う。

水本。搭載する装置のこともあるし、設計すら確定していない。あくまで、アイデアのための模型。

清水。こけおどしには充分よ。今回の目玉の一つだわ。

土本。鶴と亀。発案は海原所長かな?。

火本。そうだよ。着陸時のために長い足を付ける予定。

清水。うまく考える。メカカメにメカツル。

伊勢。明日、観客の前で飛ばすの?。

火本。ちょっと恐い。録画しておこう。

伊勢。どこかにぶち当たらずに、着陸さえできれば、いいじゃない。練習しなさいよ。ロケットはいくつ準備したの?。

火本。20セットだけど、簡単に作れるらしい。

伊勢。操縦は運転席から。

水本。まだそこまで自動化できてない。プロポで私が操縦する。

伊勢。どんなのかな。

火本。やってみよう。水本、オリヅルの操縦頼む。鈴鹿さん、時速20kmほどで場内を回って。

鈴鹿。うん。オーケー。

 (火本が乗り込んで、鈴鹿が運転。出発。火本がオリヅルを発射、水本が操作する。滑空して、一周したところで、火本がキャッチ。戻ってきた。)

伊勢。なるほど。これだけでもいいくらい。練習したのはここまで。

火本。これができるまででも大変だった。先は長い。

清水。もう十分に技術突破しているような気がする。

水本。うん。三郎班はハード的には上出来と判断している。システムとして充実させる作業に入っている。

火本。本来なら、簡単な指令で、いまの動きができないといけない。自動化を進めるんだ。

芦屋。今のままでも、十分に威力がある。使い様だ。

水本。まあた作戦のこと考えている。

火本。大切なことだよ。参考になる。

 (音を聞いてモグから出てきた連中も、機材を組み立てていたID社のスタッフも一様に驚いている。サイボーグ研をアピールするには十分なようだ。)

第33話。夏立つ頃。2. セッティング

2010-11-18 | Weblog
 (展示会場は、ホテルから歩いて行ける。早朝から、舞台セットの組み立て。総務が急がせたのだ。大御所は午後から来る。港氏があせっている。陣容の把握に努めているのだ。加藤氏は落ち着いた顔して、次々に指令して行く。結構厳しい。伊勢が必死で踏ん張っている。)

土本。加藤さんって、落ち着いているのか慌てているのか、さっぱり分からない。

清水。慌てているみたい。必死の感じ。というか、律儀だから、港先生に合わせているのよ。

土本。いい人なんだ。

清水。日本を代表する作曲家、猫山園太の懐刀よ。ただ者ではない。

土本。猫山園太って、有名。お笑いのお芝居に付き合ってくださるのかしら。

清水。さあ。多分、小鹿氏とは話はまったくすれ違うでしょう。お互いに芸能だから、バカにはしないでしょうけど。

土本。クラシックって、芸能だったかしら。

清水。西洋の芸能。技芸、アートよ。

土本。チントンシャンとはずいぶん違うような気がする。

清水。猫山さんの作品には、日本の楽器がよく出てくる。通俗楽器が、たちまちにしてクラシックに色取りを添える。

土本。すごい。ただ者ではない。

清水。そうよ。あ、加藤さんが三味線弾き出した。器用。

 (普通に聞いたらうまいと思うのだが、プロの演奏を知っている港氏には不評のようだ。お互い、必死になっているから、けんか腰。)

港。音が鳴っているだけだ。

加藤。すみません。素人です。

港。ギターじゃないぞ。困ったな。こっちにも三味線弾きはいるけど、頑固な芸人だ。猫山氏の音楽など、理解しっこない。

加藤。猫に小判。

港。微妙にずれてるな。

加藤。誰かー、三味線弾けませんかー?。

港。何やってんだ、お前。

土本。弾けるよ。やってみようか。

 (土本が加藤氏から三味線を受け取る。小唄の一節らしい。かなりうまい。)

港。ずっといい。プロ級ではないけど、合いの手くらいならごまかせそうだ。

加藤。やってくれるかな。曲のさびの部分で弾く。

土本。やってみる。

水本。すごい、土本さん。流派とかあるんでしょう?。

土本。あるけど、私のはめちゃくちゃ。だって大学のサークルだもの。

港。じゃあ、我流か。

加藤。音はいいような気がする。

港。いいよ。器用なんだ。かえっていいかも。

 (しばらくしたら、猫山氏とスタイリストの松武氏がやってきた。東京から大あわてできたらしい。いい人たちだ。)

猫山。はじめまして。あなたが港さん。有名ですよ。

港。まさか。この界隈だけです。そちらは全国区。こんな技芸に付き合ってくださって、恐縮です。

猫山。皮肉ですかな。精一杯がんばりますぞ。

港。お手柔らかに。

 (猫山氏は加藤氏から事情を聞いている。土本に三味線を弾かせてみる。ちょっと考えている。と思ったら、モグに入ってしまった。曲のアイデアが湧いたらしい。勝手知ったるモグのモニタにすっ飛んでいったのだ。慌てて加藤氏が入る。港氏も興味が湧いたらしく、モグに入る。こちらからは、サポートに志摩をモグに入れる。)

松武。じゃあ、持ってきた衣裳を合わせてみますか。

 (とりあえず、A31とU4(イチ、レイ、エレキ、マグネ)にあり合わせの和服を着せる。A31は町人風。エレキとマグネはお役人風。イチとレイは町人風に擬装した少年・少女忍者だ。)

松武。我ながら良くできている。すばらしい。

水本。びっくり。マグネなんか、決まりすぎている。

松武。あとの配役は、まだみたいなので、持ってきませんでした。

伊勢。どうするの?。

松武。大阪で調達します。

伊勢。デパートとか。

松武。一報を入れてある。…、おや、そこに新しい美人がいる。

伊勢。目ざといこと。ほら、あなた、土本さん。

土本。え、私?。土本五香と言います。大学院生。火本くんと同じ大学の。

松武。不思議だ。どこかで会ったような。デジャヴってやつか。

伊勢。あはは。私もそう思った。似てるんですよ。アンに、体形が。

松武。なあんだ。それだけか。アン、来てくれるか。

土本。また並ぶの?。やだな、超絶美人ロボットにかないっこない。

アン。そんなことない。美人同士。

松武。うむむ、できすぎ。顔は全く違うけど。

土本。もういいかな。

松武。ふむ。

 (水本の時といっしょ。近づいたと思うと、いきなり髪をつかむ。)

土本。きゃーっ。あんたっ、何するのよー。

アン。落ち着いて。あなたは美女になる。

松武。その通り。小野小町もびっくり。なんか、ここ、美女ばっかり。

アン。例外もいる。

松武。そっ、それは…。

レイ。誰のことを言ってるのかな。

清水。ふん。悪かったわね。

松武。あのね、男性受けするあなたたちが言うセリフではない。

土本。あの、私の髪、離してくださいます?。

松武。失礼。見とれてしまった。

土本。全然見てなかったけど。

松武。でき上がり想像図ですよ。すばらしくなる。保証付き。カツラ付けてくれる?。

土本。演技ならいい。

松武。もちろん、演技です。来てくれたお客に一時の夢を売る。あなたが。

土本。できるのならうれしいわ。やってみる。

 (松武氏も打ち合わせのために、モグに入っていった。展示会場は、屋根付きの小さめの競技場のような形をしている。前回と同じく、巨大スクリーンを設置し、その前に舞台をしつらえる。)

第33話。夏立つ頃。1. プロローグ

2010-11-17 | Weblog
 (志摩たちは、自動人形の展示会のリハーサル前日夕に大阪入りした。新車両と旧車両に乗って。来たのは志摩、虎之介、亜有、火本、水本、海原博士、A31。なぜか土本(五香)もいたりする。大江山教授やサイボーグ研の選抜メンバーは、永田や関とともにID社のバスで本番前日夕に大阪にやってくる手はずだ。
 私(奈良)たちと落ち合うつもりだったのだが、私たちは小鹿氏の家に招かれている。この有名喜劇俳優のコントと歌が加わるとの連絡を受けて、志摩たちは作戦会議をする。クラシック作曲家、猫山園太氏の懐刀、若手音楽プロデューサの加藤元理氏も合流した。)

清水。急な展開。何が何だか分からない。

加藤。喜劇俳優の高橋小鹿さんが加わっただけだよ。

清水。あなたが一番大変じゃない。港清門って、シナリオライター、知っているの?。

加藤。知らないけど、シナリオライターなる人物と打ち合わせたことは何度もある。

志摩。高橋子鹿は、ここでは有名。ゆめゆめおろそかにはできない。

 (志摩はお笑いのファンで、業界に詳しいのだ。)

加藤。承知した。

志摩。港清門は劇団の専属ライター。この人の書いたものだけをやっているわけじゃないけど、9割方は書いてる。劇団率いる小鹿さんの信頼が厚いんだ。

加藤。もちろんプロだよ。それも上級の。将来は近松門左衛門に例えられるかもしれない。

清水。そんなに大変な人なの?。

加藤。知っているのは、さっきもらったプロットだけ。とてもいい。いわゆる世話物だ。独特の浪花節の人情のパンチが効いている。そう、この業界は人気がすべて。歴史に残る前に、大衆に受けないとどうしようも無い。

清水。そりゃそうか。厳しいわね。

加藤。厳しいよ。ぼくだって…。

芦屋。「ぼく」はいいから、おれたちは何をすればいいんだ。

加藤。進行はこちらに任せてくれればいい。芦屋さんはだな…。

清水。それは、明日決まってから詳しく言って。

加藤。ええと、何の話だったか。

アン。港さんのお話がとってもいいって事。

加藤。そう。こんな浪花節、関東じゃ絶対に受けない。ここ、大阪だから拍手喝采。

清水。ご当地ものなの?。

加藤。関東の人が理解できないだけだ。ぼくも。

クロ(会話装置)。「ぼく」はいいから、どんな話なんだ。

加藤。時は享保、1720年代。将軍吉宗の時代。所はもちろん、ここ大坂。船場の成金問屋の一人息子が酔って悲惨な事故を起こす。

清水。もう、どうしようもない情けない男。

加藤。よく分かる。その通り。事件に巻き込まれた側は大変な悲しみと怒り。でも、その息子は自覚が無いどころか、自分の降って湧いた災難に戸惑うだけ。

清水。そこで、大岡裁き。

加藤。それは江戸だよ。でも、そのとおり。江戸ではお上だけど、大坂では民衆が裁く。

志摩。ええと、大坂は幕府の直轄領。そんな勝手なことは…。

加藤。ちっちっち、それは大江戸の発想だよ。こちらでは、そうはならない。

清水。ええと、ねずみ小僧のようなのが出てくるとか。

加藤。それが子鹿先生の役。かっこいい。

清水。犯罪は犯罪よ。

加藤。当然。裁きが待っている。それが一層、大衆にアピールするんだ。

清水。反社会的劇。

加藤。あのね、単に音楽のネタだよ。売春宿の話と、どっちがいい?。

清水。どっちもだめ。

加藤。あなた、バイオリンが弾けるのと、弾けないのとどっちがいい。

清水。言うわね、あんた。

加藤。要は、港先生の話なんか、どうでもいいんだ。音楽さえ楽しめれば。

清水。言い切ったわね。

加藤。向こうもこっちの音楽なんか気に留めてない。何なら、確認すればいい。

芦屋。芸術はどうにも分からん。いいぜ、とことん付き合ってやる。

加藤。頼む。お願いだ。やってくれ。

清水。心配しないで。必ず成功させる。

クロ。まとまったようだな。

水本。どうなることかと思った。

火本。何となく分かる。

清水。あなたたちも音楽してるから。

火本。不思議な感覚。理性では理解できない。

水本。うん。何となく不本意。

清水。でも、確かにそれ言ってたら、クラシックなんかできない。

志摩。そんな危ないのがあるのか。

加藤。お上の逆鱗に触れて、上演禁止になった音楽は数知れず。政治的、宗教的、退廃的、なんでもござれ。

志摩。どぎついギャグといっしょだ。

加藤。その理解で良い。

清水。よくないと思うけど、まあ、いいか。

土本。ふわわー、もう寝ようよ。

加藤。それでは。

 (さっさと出ていった。)

土本。変なやつ。

水本。でしょう?。芸術家ってあんなのかな。

清水。あれは作者がデフォルメしているのよ。

土本。そうとも言い切れない。学者にだって変なのいる。

火本。あれとか、それとか、あんなのとか。

海原。禁句じゃ。

水本。バカかそうでないかはすぐに分かる。こっちも眠ろう。

火本。うん。

 (部屋に別れて休む。海原博士にはジロを付ける。残りのA31は亜有といっしょだ。私たちとは翌朝会うことになる。)

第32話。アクロニム。24. アクロニム

2010-11-16 | Weblog
 (もちろん、かわいそうな港先生はすっ飛んで来た。こちらはID社の総務と海原所長にメールを入れる。総務からは30分後にOKの返事が来た。海原所長はどうぞご勝手に、の感じ。すでに大阪入りしている加藤氏には連絡が付いた。用件をいうと、いいっすよとのこと。何がいいのかよく分からなかったが、その後しばらく港氏と電話で相談していたから、何とかするのだろう。
 緊急に告知したいとのことで、衣裳は手許にないから、私が絵を描くことになった。小鹿氏を中心に、イチ、レイ、エレキ、マグネがポーズしている。港氏は、すぐにアイデアが湧くらしく、ちょっと人情味のある小話をすぐに作ってしまった。明日、これに動作を付けてみるとのこと。表題をつけて、ホームページに出す。臨時のメールマガジンも発行した。)

高橋。うふふ。魂が入った自動人形。江戸時代にもあったかも。

港。絡繰り人形は実在する。京都や江戸でさかんに作られたはず。ここにいるロボットと同じ、立って歩いて、仕事をしてくれる。

高橋。だから不自然に感じないのか。

港。自動人形は大衆の娯楽のために作られた。何か面白いことをしてくれるという期待が自然に湧く。人間に危害を与えるという発想が無い。

高橋。人形浄瑠璃。

港。そう。人形が演技する。その動力をゼンマイにした。

高橋。この子たちの動力はハイカラだけど。

港。燃料電池ですか。アルコールというのがいい。お酒と同じかな。

伊勢。エチルアルコールですから、物質としては全く同じ。

高橋。焼酎とかでも動くの?。

イチ。本当は燃料用アルコールがいいけど、焼酎でも動く。

高橋。おほほ、正直なこと。おいしいの?。

イチ。多分、同じ。でも、酔いません。

高橋。燃料だものね。明日は別の自動人形も来るのかしら。

奈良。はい。A31、つまり、黒猫と女性が1機ずつ、男性2機。

高橋。写真ある?。

奈良。ええと、インターネットは。

高橋。そのテレビに映せるはず。

 (A31を映す。)

高橋。こっちはお人形さんみたい。

港。今いるのは、フィギュアと呼ばれるものに近い。

高橋。A31は4機の総称なの?。

奈良。そうです。初めて製作された4機。クロ、アン、タロ、ジロ。いつもチームを組んでいるのでA31と名付けられた。自動人形、3人と1匹の意味。私と出会う、ずっと前から。

高橋。この子たちは。

奈良。寄せ集めなので、総称名はまだ。イチがF国、レイがC国、エレキがA国、マグネがB国から来た。

高橋。国際色豊か。五郎と六郎は。

奈良。この2機は他動人形と言って、他の自動人形の配下で動く。頭脳がないのです。

高橋。あら、そうなの。よく動いているのに。

奈良。普段はいいのですが、通信が途絶えると、とたんに判断ができなくなる。だから、主に留守番や輸送に使う。

高橋。じゃあ、こっちの4機か。チーム名と。

イチ。ぼくたちのチーム名を考えてくれるの?。

高橋。そうよ。余計だったかしら。

伊勢。光栄なこと。

高橋。例ならいっぱいあるわ。ビートルズとかベンチャーズとか。

港。それはロックバンドの名前です。

高橋。いいじゃない。ロックバンドで諜報部員のアニメがあったわ。

港。ジ・インポッシブルズ。アメリカの子供向けアニメですよ。日本語名、スーパースリー。

高橋。インターナショナル・レスキュー

港。それは国際救助隊。サンダーバードです。

高橋。そうだったの?。でも、こっちの方が本物っぽい。

鈴鹿。確かに、世界の名だたる大国のノウハウが詰まった救護ロボットチーム。こんな豪華な部隊、二度と組めそうにない。

高橋。じゃあ、4カ国連合救護隊。

鈴鹿。U4R。ユナイテッド・フォー・レスキュー・ロボッツ。

奈良。U4RRかな。

高橋。U4でいいわよ。決めた。言いやすいし。

レイ。決めた、って、これからそう呼ばれるの?。

高橋。そうよ。

鈴鹿。じゃあ、明後日はチームU4のお披露目公演だ。

高橋。張り切って行きましょー。

 (伊勢と顔を見合わせる。ノリノリになってくださるのはありがたいけど、大丈夫だろうか…。)

 第32話。アクロニム。終了。