ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。7. 怒りの関

2010-11-23 | Weblog
 (伊勢と交代するように、モグに加藤氏がやってきた。)

高橋。おとつい昨日は慌てていて気付かなかったけど、奈良さんも伊勢さんも、2人とも変。

加藤。そうですね。

高橋。あんたっ、あんたが言えるのか。

加藤。失礼しました。

高橋。こいつとは漫才できそう。

加藤。ありがとうございます。

高橋。あなたはどう思う?。二人のこと。

加藤。奈良さんと伊勢さん。いいコンビだ。どちらかというと、伊勢さんが奈良さんを接近させて、利用している感じ。

高橋。地位的には逆。

加藤。ですけど、情報収集部結成時の人選は上がやって、奈良さんは了承しただけ。むろん、伊勢さんにも情報が行ってたのだから、彼女も選べる立場にいた。

高橋。魔女を受け入れてくれる上司だと、ピンと来た。

加藤。そして、現実に大活躍している。見たとおり。

高橋。奈良部長。平凡に見えるのに。

加藤。なんたって、国際企業の部長。度胸があるし、動かしているお金も天文学的。そして、万が一、部下が逆らっても、実力行使の手段を持っている。

高橋。今はアンだ。

加藤。その通り。自分の力が2倍になる。

高橋。最初から狙っていたのか。

加藤。聞いたところでは、利用方法がなかなか見いだせなかった自動人形を、家畜の飼育に役立てられないかと引き取ったのが最初らしい。

高橋。奈良さんは獣医さんだった。馬のエサを用意させたり、畜舎を掃除させたり。なんとなく分かる。

加藤。普通の機械じゃなくて、動物の調子が分析できる。

高橋。なるほど。そう仕込まれたんだ。

加藤。もともと救護ロボットだから、人間を扱うために、慎重に調整されていた。そこに、奈良さんの知識が加わった。当時の改良は決定的だった。さっき、アンが奈良さんの行動を心配した。

高橋。会場には武器を持った連中がいる。そこに、自分の主人がのこのこと出かける。何とかしなくちゃ。

加藤。誰かを付けないといけない。クロじゃ威嚇にならない。ジロでもいいけど、付いてきた感じを出すには女性の方がいい。万一の時、逃げ道を指示して従う確率が高い。

高橋。こっちに逃げて、お願い。なんちゃって。

加藤。自動人形は、いざというとき、とんでもない勇気を見せるらしい。アンは見かけ通り屈強。判断力は人間には負けるけど、人間のように混乱はしない。

高橋。ところで、もうそろそろ時間じゃないの?。

加藤。だから、呼びに来たんです。

高橋。あんた。全然役立ってない。

加藤。お粗末さまでした。

 (個々の計画の説明に入った。エクササイザーの紹介では、学生も子供も大喜び。
 トースター号にはエレキとマグネを乗せ、土本が運転。運動性能をデモしたあと、走りながらオリヅル号を発射。ステージ上では水本がプロポを持ってオリヅル号を操縦する。練習していたらしい。ふわふわとよく飛ぶこと。そして、走っているトースター号ではマグネが立って、オリヅル号をキャッチ。拍手が沸く。
 小休憩に入る。)

関。オリヅル号だって。

永田。カメの六郎と対抗させたんだろう。ロケット点火時は派手な音と光が出るけど、あとは滑空したままだ。

関。グライダーって、意外に自由に操縦できる。

永田。ああ。水本がうまいんだろうけど、設計も大したものだ。

関。スパイどもがびっくりしていた。

永田。今は単なる模型飛行機だけど、あれだけでも使い方しだいでは大変なことになる。垂直発射で、発射準備の時間はゼロ。時速200kmくらいは軽く出るだろう。

関。その上、センサーを付けてある程度の自律飛行を目指している。必要なら、途中で着陸して、また飛び立つ。

永田。巡航グライダー。発案はおれたちか。

関。軍拡競争に加担。あーあ。何でこうなるのよ。

永田。ん、会場がざわついてきたぞ。

関。人気役者が出るからよ。高橋小鹿さん。

永田。聞いたことがあるようなないような。

関。ここでは大変な人気。関東ではさっぱり受けないから、放映されないだけ。

永田。どんな劇なんだ。

関。くれぐれもストーリで怒り出さないようにと釘を刺された。

永田。ふむ、楽しみだな。

 (スクリーンに背景が映し出され、そこにステージ上の人物がスーパーインポーズされるという仕掛けだ。短い劇なのに、場面が数回変わるので、工夫されたのだ。
 大阪の人はうるさい。場面でいちいち反応する。小鹿氏が出てきただけで、やんやの拍手。最後に小鹿氏扮する怪盗が派手に去ると、歓声が湧いて、しばらく続いた。)

永田。たしかにとんでもないストーリーだな。ん、関、どうした。

関。許さん、あの怪盗。

永田。歌の前座だよ。

関。まねする奴が出たら、どうするのよ。

永田。そんなやつは、エレキとマグネでお縄ちょうだいだ。

関。苦しんだ人はどうなるのよ。

永田。単なる事故だ。

関。だめ、そんなことじゃ。何も解決していないじゃない。

永田。もしもーし。

関。御曹司を落ちぶれさせて、納得させようなんて、とんでもないことだわ。

永田。だから、単なる人情もの。

関。納得できん。だれよ、あの話を書いたの。

永田。なるほど、関東で受けないわけだ。ひょっとしたら、放映禁止になるかも。

関。抗議にいきましょう。楽屋に。

永田。自動拳銃持って?。

関。あなた、誰の味方なのよ。

永田。あっ、また出てきた。今度は綺麗な着物着て。

関。ごまかす気ね。

永田。まあ待て。歌を聴いてからだ。

 (小鹿氏が歌う。背景では、自動人形と火本らが演奏し、六郎と鈴鹿、志摩、虎之介が踊っている。歌い終わったら、大変な拍手。)

永田。ほら、受けている。民衆にアピールするんだ。

関。くく、ここではあれでいいのか。

永田。後で誰かに感想を聞いてみよう。

 (もちろん、あれはおとぎ話のようなもので、現実ではない。どこかの事件を参考にしたようではあるが、そちらはちゃんと解決している。といった感じだった。話が面白くて、グロさがなければ、内容は気にならないようだ。
 机を並べて、チャリティーのために、自動人形が色紙に絵とサインを書く。小鹿氏は参加しないけど、後ろに立ってくださった。ファンからのサイン要求には、当然、応じる。
 スタッフをねぎらって、解散。翌日も同様に事が進んだ。トースター号は、その場で小鹿氏に納入。東京に帰る。)