ID物語

書きなぐりSF小説

第32話。アクロニム。18. 朝食

2010-11-10 | Weblog
 (早朝、目が醒める。外はまだ暗いようだ。五郎が運転席で当直してくれている。)

五郎。おはようございます。

奈良。おはよう。異常はあったか。

五郎。異常は検知されません。探索しましょうか。

奈良。したいのか。

五郎。できれば。

奈良。イチと六郎に行かせよう。それでいいか。

五郎。了解。

 (イチは上空に出発。六郎は周囲の地上と水中を観測する。朝もやと言うか、雲が出て来ているので、イチはまず、高空に出るらしい。モニタで追いかける。)

鈴鹿。ずいぶん高空に出る。

奈良。鈴鹿。起きてたのか。

鈴鹿。今起きたばかり。キキの時も感じたけど、よく訓練されている。

奈良。イチはF国ID社にいた機体だ。どちらのノウハウかな。

 (調べると、どうやらB国でのプログラムが動作しているらしい。キキとその兄弟のためにプログラムされたものだ。)

鈴鹿。飛行機に乗せられたんだ。

奈良。そうだろうな。こんなところで経験が活きている。Y国でリリたちが活躍し始めたころから、各国でいろいろな場面に駆り出されたようだ。

鈴鹿。その成果が自律パラメータ。

奈良。まだ正しい方向かどうか、分からない。

鈴鹿。ここでは成功している。

奈良。人間が使われている。耐えきれるかどうかだ。

鈴鹿。成功しているうちはいいけど、失敗するとフォローが大変。

奈良。そのとおり。

鈴鹿。亜有はうまく使っているように見える。予想が付くのかな。

奈良。ある状況での人間の行動パターンを知っていれば。今のところ、納得できる動作ばかりだ。

鈴鹿。ふーん。

 (興味が湧いてきたようだ。たまたま、近くにいたレイを捕まえて、こんな場合どうするとか聞いている。鈴鹿が話し込んでいるので、朝食を作ろうとしたら、伊勢が先にキッチンに立っていた。)

伊勢。あら、ちょっと待ってて。朝食の用意しているから。

奈良。めずらし。

伊勢。一人暮らしだから、毎日やっているわよ。

奈良。野暮な質問だった。失礼。

 (ソファに座る。狭い車内、キッチンはすぐそこ。伊勢がふと見せる女性的な仕草。ちょっと見とれていたら、たちまち鈴鹿とレイに絡まれてしまった。)

レイ。奈良さーん、そんなことしてていいの?。

鈴鹿。危ない視線。私の時は不安そうに見ていただけなのに。

レイ。成り行きによっては、恋人になっていたのかな。

鈴鹿。もう無理だけど、何かの偶然でそうなっていたかも。

 (ふと、鈴鹿の言葉で、伊勢との出会いを思い出した。そう、変わった女だった。研究者の冷徹な目だった。今、目の前にいる伊勢は、別人のようだ。でも、どこかに共通点がある。本人だから当たり前か。)

レイ。またまたまたっ。何ぼーっとしているの。

鈴鹿。こりゃだめだ。よほど気に入っているんだ。

レイ。ねえ、どこが魅力的なの?。参考にしたいから聞かせて。

奈良。全部…。かな。

鈴鹿。こりゃ大変。奥さんや娘さんには聞かせられない。

奈良。別に構わない。

伊勢。全部な訳ないわよ。研究者同士で、通じるものがあるのよ。学問に対する真摯な態度。努力しなければ、たちまち崩れてしまう。

レイ。それを、魅力一杯の美しい女性がやっている。

鈴鹿。うらやましい。そんな純愛のような出会い。

伊勢。ほらほら、食事ができたわよ。

 (なぜか5人分ある、いや、3人分プラス2機分か。イチも加わって食事する。私ですら、伊勢の手料理は初めてというのに。)

奈良。いただきます。

イチ。おいしい。

伊勢。あなた、いい子。

レイ。すかさずサービスするわね。でも、おいしい。

鈴鹿。ロボットに分かるのか。

伊勢。誰かが調整したんでしょう。

イチ。校正するから、誰か感想を言ってよ。

奈良。トーストの焼き具合がいい。サラダの野菜の切れ具合がいい。ハムエッグも絶妙な焼き加減。

鈴鹿。私は全部だめって聞こえる。

奈良。言ってない。

伊勢。食材の選択は志摩と亜有なのよね。ちょっと悔しい。

イチ。食材選びは一番大事だけど、アレンジと見た目も大切。

レイ。あんた、どこまでもわざとらしい。

イチ。レイもちゃんとほめろよ。

レイ。新婚の味ってとこかな。

 (私と伊勢の顔が赤くなる。)

イチ。子沢山の味だよ。

レイ。3人の子供ってか。

イチ。8機と3端末と、あとたくさん。

伊勢。奈良さーん、これが私たちの子供。

奈良。一人を除いて。

レイ。さしずめ、奈良さんがゼウス神。

鈴鹿。じゃあ、伊勢さんが…、やべ。

伊勢。私がヘラ。

イチ。本場ではへーラーと発音するらしい。

伊勢。同じだわよっ。

イチ。ゼウスは女にだらしなかったはずだ。

伊勢。それは作者よ。

鈴鹿。言っちゃだめよ。

奈良。あくまで、物語上だ。

レイ。話がずれたわ。

鈴鹿。自動人形が言ってる。

伊勢。あんたたち、私と奈良さんを両親と思っているの?。

イチ。ちょっと違う。

伊勢。そりゃそうだ。

レイ。よくしてくれる人。親子に匹敵する。

伊勢。どこが。

奈良。何となく分かる。動物では、単に親しい仲と親子は明らかに行動が違う。

鈴鹿。どのように。

奈良。表現しにくいな。具体的な行動を見れば直ちに分かる。人間も動物だから、見ればすぐに分かる。ああ、これかと誰でも思い当たるはず。

鈴鹿。多分…、それが私には足りないんだ。

イチ。今は十分なはずだ。

鈴鹿。うん、いやほど分かる。

伊勢。何よ、しんみりして。さあさ、さっさと朝食を摂りなさい。

鈴鹿。うん。

 (この手の話題になると、鈴鹿は急にしんみりとなる。でも、立ち直るのも早かった。)

鈴鹿。フィールドは決まった?。

伊勢。ええ。背の高い木をロープで結んで、三角形でメッシュを作る。そこからぶら下がるの。

鈴鹿。イチとレイが。

伊勢。交代で。空中からアナライザーで観察。

鈴鹿。そんなので分かるの?。

伊勢。分かるかどうかから研究課題よ。

奈良。ついでに、地上をエレキ、マグネのどちらかと歩く。地表部の様子を観察する。

鈴鹿。ダニも。

奈良。参考データにはなるかな。直接の課題ではない。

鈴鹿。私もいっしょに行っていい?。

奈良。ご自由に。