ID物語

書きなぐりSF小説

第10話。モノリスとピナクス。50. 航空部門4日目、観光旅行、午前

2009-06-30 | Weblog
 (普通ならバスをチャーターするところだが、モノリスとピナクスの移動メカを利用する。部門長が優秀な案内係と運転手を付けてくれた。厚待遇である。運転手は1人でモノリスを運転。助手席に案内係が座る。伊勢、志摩、関、虎之介、そしてエスが後席に。ピナクスは鈴鹿が運転。ジャックが助手席に座る。後席には私と亜有、リリとクィーンが座る。ソファ部からは前が見えないので、備え付けの大型モニターで見ることになる。)

案内係(男)。重点的にご覧になりたい場所がありますか?。

 (テレビ会議にて全員で協議に入る。やっぱり、お城かな、ということになり、案内係に告げる。
 モノリスとピナクスは街道を行く。若い連中は、ソファでくつろぐより、情報の多いコンソールを好むようだ。モノリスでは志摩、関、虎之介がモニターにかじりつき。ピナクスでも亜有がリリを連れてモニターで周りを見ている。)

伊勢。あの連中、モニター見ていて楽しいのかしら。

エス。いろいろ数字が出てくるから、面白いんじゃないですか。

伊勢。数字ねえ。速度とか距離とか。

エス。分析も可能。

伊勢。軍時代からのセンサーか。ID社のレパートリーも加わって、およそ考えられる限りの計測ができたはず。

エス。モノリスの評価も表示される。

伊勢。危険か危険でないかなど。ふむ、たしかに自動人形の評価には興味がある。

 (なんてことしてるから、エス以外、全員モニターにかじりつくことになった。
 一方のピナクス。)

奈良。モニターなんか見て、楽しいんだろうか。

クィーン。普通のカメラではなくて、ピナクスのセンサーの情報ですし、自動人形の頭脳による加工もされますから、よく分かるはずです。

奈良。なるほど。自動人形が外界をどう捉えているかはよく分かるか。それで、亜有がかじりついているんだ。リリは質問の答え役だな。

クィーン。そのようです。

 (湖岸の城に着く。モノリスとピナクスは迷ったが、正太郎とサクラの姿で連れて行く。本体は袋に入れて、前に抱えさす。幼稚園の通園みたいだ。仲がいいようで、お手手つないでいる。エスはリリに巻き付いて行く。大家族に見える。
 城は外見も立派だし、内装もすばらしい。ヨーロッパ旅行の楽しみの一つだ。美しく復元されている。案内係が自慢げに解説する。)

案内係。みなさんは日本からいらしたとのこと。日本にもこんな城がありますか?。

伊勢。ありますよ。でも、中は博物館みたいになっているか、保存されている場合はもっと地味。当時は輝いていたんでしょうけど、よほど傷まない限り、そのままにしている。

案内係。侘び、寂び、というやつ。

 (関と亜有が顔を見合わせる。そうだったか、そのような気もする、しないような気もする。たしかに、黄金色に再現しているのは、数えるほどしかない。)

関。朽ちて行く建物や装飾を、いつまでもそのまま大切にする性向はあるようです。

清水。西洋の建物でも、朽ち果てたものに対する同様の日本人の感情はあります。

案内係。そうですか。微妙です。

 (文化的なギャップというものだろう。どうしようもない。でも、歴史的重みは分かる。こちらが感激しているのが分かるらしく、詳しく解説してくれる。
 周りの訪問客を見てみるが、東洋人はこんな史跡にはほとんど来ないようだ。たまに日本人に会うくらい。だから、目立つこと。じろじろ見られる。派手な救護服の正太郎やエス付きのリリも拍車をかけている。
 城から湖をながめる。よい眺めだ。)

清水。ふーん、いい眺め。山も見える。

伊勢。霊峰。怖い感じ。

清水。近づかない方がいいかも。あの地形は氷河の跡かしら。

伊勢。どれどれ。そんな感じ。ええと、直近の氷河期の痕かな。

案内係。そう思います。

関。何か、学術的な見方。

芦屋。そうだな。彼女らにとっては単純に美しい景色ではないみたいだ。

関。うらやましいと言うか、ごめんこうむりたいと言うか。

芦屋。うん、図鑑なんかによくある、文字が記入された模式図が連想される。

関。あははは、地図か何かを見ているようなもの。

芦屋。おれたちで言うと、地図から作戦上の意味を読み取るようなものか。

関。おれたちって、まあ、そうだけど。もっとロマンチックな話がないかしら。

リリ。お二人、もう十分にロマンチックだわ。

関。リリ、突然現れて。びっくりしたじゃない。

リリ。さっきからいた。お二人がお二人の世界に入っていたから分からなかったのよ。

芦屋。それがロマンチックなの?。

リリ。いいえ、この出会いそのものがロマンチック。ああ、ロマンチックだわ。

関。出会えそうもない二人が出会った。それはそうね。運が悪けりゃ、敵対している。

リリ。奇跡よ。

関。ふふ、そう思うことにする。

 (リリは飽きたのか、気を利かせたのか、とててと行ってしまった。)

芦屋。変なアンドロイド。A31とは全く違う。

関。好奇心の向け方と解釈、表現のやり方。結構個性的。

芦屋。あの年代の女の子の関心を再現しているとか。

関。そういう趣向はあるでしょう。なぜそれっぽく見えるかの研究とか。

芦屋。奈良さんの領域か。動物行動学。

関。気味の悪いほどの的確な人選。今もジャックたちがかわいそうなくらい奈良さんに従おうとしている。

芦屋。ああ、そうだな。

関。虎之介は気味悪く思わないの?。

芦屋。もともと、A31は伊勢さんの暴走を押さえ込むための仕掛けと聞いたことがある。そのA31を操れるのが奈良さん。自動人形に対する特異な才能を見いだされた。だから、ここにいる。

関。伊勢さんを再び生かすために。

芦屋。そうだ。伊勢さんは強力すぎる。だから使い道がなかった。

関。それなのに、情報収集部では縦横に活躍している。部下の信頼も厚い。

芦屋。伊勢さんが自制しているのは、A31がいるから。伊勢さんにはA31への対抗手段が無い。

関。自動人形は生物化学戦対応の救護ロボット。毒も効かなければ、極限環境でも行動できる。攻撃者から避難してきた人を守ろうとする。自分が破壊されるのもいとわない。

芦屋。伊勢さんが最大限の攻撃をしても、とりあえずA31はしばらくは動く。ジャックたちも同様。

関。虎之介さんの関心は、むしろこの組み合わせをアレンジした人物。

芦屋。そのとおり。勘だが、何か意図がある。

関。大きな将来計画だったら、恐ろしいこと。清水さんは知っているのかな。

芦屋。さあて。でも、彼女の行動は何か感づいている感じ。

関。いつまでも情報収集部に来ている。調べ物を理由にして。そして、ことある毎に、こうして付いてくる。

芦屋。ああ、何かつかんでないとしたら、それこそ不思議だ。

 (志摩と鈴鹿は久しぶりの自由を楽しんでいる。仲がいいのだ、もともと。)

鈴鹿。志摩といると何となく落ち着く。

志摩。鈴鹿と歩くなんて久しぶり。

鈴鹿。しょっちゅうだわよ。大学なんかで。

志摩。そういえばそうだ。

鈴鹿。コンビを組んで1年。とりあえず、両人とも恋人はできない。

志摩。鈴鹿の好みは永田さんに奈良さん。

鈴鹿。両人とも遠い存在。どうしようもない。

志摩。級友にはめぼしい男はいない。

鈴鹿。がっかりよ。もう少し期待していたんだけど。

志摩。合コンなんか行かないの?。

鈴鹿。別に飢えてないわよ。

志摩。あっと言う間に時は過ぎる。命短し、恋せよ乙女。

鈴鹿。余計なお世話、と言いたいところだけど、実際、切実。

サクラ。どんな男の人が好みなの?。

鈴鹿。サクラ。なんであなたに相談しないといけないのよ。

サクラ。おぼれるものは藁をもつかむ。

志摩。それじゃサクラは藁になるよ。

鈴鹿。それに、おぼれてない。

サクラ。単なるたとえよ。

鈴鹿。もしかして、あんた、人間をバカにしてる?。

サクラ。してない。尊敬してる。

志摩。やっぱりバカにしているようだ。

鈴鹿。聞きしに勝る生意気な女。だれに似たのよ?。

サクラ。良くご存じの人物のはず。で、やっぱり永田さんがかわいい。

鈴鹿。正太郎を呼ぶ気なの?。

サクラ。へへっ、ばれたか。来なさい、正太郎。

志摩。命令している。

正太郎。来たよ。なんの用だい?。

サクラ。あなたは鈴鹿さんのお気に入りだって。

鈴鹿。どこをどういじれば、そういう結論が出るのよ。

サクラ。三段論法。

正太郎。三段論法なんか、どうでもいいよ。鈴鹿姉さん、きれいだね。

鈴鹿。ううむ。とめどもない意図を感じてしまう。

正太郎。うわさどおり、素直でない。

サクラ。根性が曲がっているともいう。

志摩。鈴鹿が怖くないの?。素手でも一撃で破壊されるよ。

サクラ。いちいち怖がってたら、街を歩けないわ。

鈴鹿。某人からくそまじめを取るとこうなるのか。

志摩。昨日みたいにくそまじめに戻った方がいいよ。

サクラ。そうした方がいいみたい。で、鈴鹿姉さん、どんな男の人が好みなの?。

鈴鹿。質問が変わっていない。

志摩。サクラは鈴鹿の恋のエンジェルを申し出ているんだ。相手してあげたら?。

鈴鹿。分かったわよ。くそまじめにしてよ。

サクラ。そうする。

鈴鹿。背が高くって、適度にいけメンで、優しくって、頭が適度によくって、体力があって、私より先に出てくれる。

サクラ。志摩さんそのものじゃない。

鈴鹿。そうだったか。

正太郎。ぼくはどうなの?。

鈴鹿。お子様。

正太郎。にべもない。

サクラ。お子様よ。その半ズボン、何とかしてよ。

正太郎。サクラだって、その本来なら恥ずかしいマイクロスカートが似合っている。

サクラ。暗にお子様だと言いたいわけ?。

志摩。もろに言っていると思う。

奈良。ええと、もういいか。古い修道院に行くそうだ。

鈴鹿。奈良さん…。それ、なんですか。

 (ジャック親子と、リリを見つけた正太郎とサクラが3体で並んでいるのだ。大家族の物見遊山だ。)

伊勢。家族旅行。近所の子供付き。

鈴鹿。で、引率の親戚のおじさん。

志摩。言い得て妙だね。

芦屋。何と言うか、独特の光景だ。

関。自動人形がお笑い化している。真面目な開発意図、深遠な計画の一部なのに。

清水。そう。情報収集部に来るとこうなる。

 (ぞろぞろと移動メカに乗り込む。修道院はすぐ近くだった。古いもので、博物館みたいになっている。)

志摩。何もない。建物と展示物だけ。

清水。でも、写真でみたものの確認になる。あちらは聖堂かな。

 (がらんとした聖堂に入る。壁には多分、国宝級の飾り。案内係が解説してくれる。窓からの光の具合が印象的で、往時の聖なる空間を思い起こさせる。でも、それはずっと昔のことらしい。)

伊勢。建築や歴史に詳しい人なら楽しめそう。

奈良。ああ。

 (自動人形はこういうのは全く分からない。きょろきょろ周囲を見回して、安全性を確認しているだけのようだ。アンなら美術品を形式的に分析してくれるのだが。)

正太郎。大切な建物のようです。良く保存されている。

サクラ。でも、私たちには意味は分からない。

奈良。たとえば、あちらは祭壇のようだが、なんの目的の製作物に見える?。

正太郎。祈りを捧げたり、感謝したりするもの。

サクラ。知識を検索するしかない。

奈良。それでも、人間が使うものとは認識できるだろう?。

正太郎。それ以外、考えられない。大切にされていることは分かる。

奈良。十分だ。

 (しばらくぶらぶらして、今度は川沿いの食堂に向かう。)

第10話。モノリスとピナクス。49. 航空部門4日目、朝

2009-06-29 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。改造しすぎて、とんでもない高性能の自動人形に生まれ変わった。いったい、誰がどう使うのか。)

志摩。お茶とコーヒー、どちらになさいますか。

部門長。お茶。

 (湖底。潜水調査船となった移動メカ型ピナクスの体内。ホテル風朝食だ。志摩と亜有が用意している。)

清水。はいどうぞ。

部門長。ありがとう。

関。水深80mだと、あまり朝の感じがしない。

志摩。水面のカメラのモニターでも点けてみる?。

関。気休めにはなるかも。

部門長。それより、浮上しよう。ピクニック気分を出す方が良いだろう。

 (ピナクスはゆっくりと、ほとんど水平のまま浮上を開始する。)

関。さすがロボット、乗り心地がよい。よくできている。

ピ。ありがとうございます。

 (5分もかけて浮上する。窓を開ける。すばらしい風景が飛び込んで来た。)

清水。わあ、すばらしい。日本では見られない風景。

部門長。ここは我が国でも屈指の観光地です。お気に召されたようで、うれしく思います。

 (関と亜有はおぼんごと朝食をかかえて、運転席へ移動。眺めを楽しむ。リリは何であんなのが面白いのか分からない、といった感じ。正直に志摩に問う。)

リリ。関さんと清水さん、うれしそう。何か面白い光景なの?。

志摩。そのとおり。光景を楽しんでいる。

リリ。そうなのか。べつに変わったことも無いのに。

志摩。うん、すぐに慣れると思う。思わぬ光景だったから楽しいんだ。

リリ。それなら分かる。分析したくなる。関心がある。

志摩。好奇心はあるんだね。分析してみてよ。

リリ。うん。

 (リリが風景を分析しだした。関と亜有が聞いている。質問も出た。同じ関心があることが分かって、リリは満足したようだ。)

リリ。よかった。よろこんでもらえて。こんなのお安いご用だわ。

志摩。リリは分析が得意なんだ。

リリ。センサーは人間より優れている部分がある。単純な分析なら任せて。

志摩。ああ、また頼むよ。

 (一方、湖岸のモノリス。私と伊勢は朝の散歩に出かけたのだが、寒いので早々に引き返して、朝食を取ることにした。ジャックとクィーンが付き合ってくれる。)

ジャック。麻薬取引の阻止に関係するなど、思ってもみませんでした。

奈良。こちらではほぼ技術開発専用か。

ジャック。そうです。

伊勢。犯罪の現場を見たら看過できない。どうしているのよ。

クィーン。警察に知らせるだけです。

奈良。普通はそうだな。純粋な救援活動はするのか。

ジャック。することはあります。事故的なもの。自動人形を修理するのは高価なので、推奨されていません。

伊勢。そりゃそうだわ。救援の対象になるくらい。情報収集部での使い方は、経済原理から言ったらめちゃくちゃよ。

奈良。維持費用を別に回した方が、よほど役立つ。

伊勢。あら、分かってらっしゃる。

ジャック。申し訳ありません。

伊勢。謝る必要なんかないわよ。使うこっちが悪いんですから。

主任。こほん。どういうわけか、自動人形の改良は推奨されています。しかも、増産が決まったと。

奈良。普通では理解不能。誰しもが隠された意図があると考えている。

伊勢。解説ありがと。そのとおり。何なのかしら。

奈良。さあ。いろいろ考えてはみるものの、荒唐無稽なものばかり。

主任。知能ロボットの反乱への対抗とか。

伊勢。そう。現状ではあり得ない。あったとしても、遠い遠い将来。

クィーン。それなのに私たちは研究目的で維持されている。

奈良。その通りだ。研究している以上、使ってもいい、と同等になる。

 (鈴鹿と虎之介が帰ってきた。)

鈴鹿。やっぱり寒かった。

芦屋。モノリスの空調はよくできている。

モ。ありがとうございます。

伊勢。どこまで行ってきたの?。

鈴鹿。クィーンが船を発見した丘。いい展望だった。

伊勢。ご苦労さん。

芦屋。ピナクスが浮上していたから、もうすぐ来ると思います。

主任。偶然、展望の良い丘に登ったんだ。

伊勢。そのようね。偶然。道案内、あったの?。

鈴鹿。もちろん。でも、このあたりのことは知らないから、偶然。

芦屋。おれたちが発見していなかったら、モノリスが警告出してたんだろうか?。

伊勢。さあ、微妙なところ。直接の脅威ではないから、見逃していた可能性は高い。

モ。見逃していたと思います。人間の判断が必要だから、結びつかなければアウト。

伊勢。非合法物質の反応が出たら、知らせてくれたんでしょ?。

モ。もちろんです。でも、検出は困難と思います。

 (鈴鹿と虎之介は、自分で朝食を用意して食べている。
 ピナクスがやってきた。どうするか協議し、いったん工場に帰ることにした。部門長は、そのまま本部に戻る。忙しいのだ。主任は発表会の準備に追われる。
 関はどうするのかと思ったら、あしたの発表会を見てから帰るという。自由行動するかと尋ねたら、いっしょに観光旅行したいとのこと。ジャック親子も連れて行くので、大所帯だ。)

第10話。モノリスとピナクス。47. 航空部門3日目午後、移動メカの最終調整。48. 夜のジョギング

2009-06-28 | Weblog
 (部門長と主任は協議に入ったらしく、来ない。それでも大所帯。私はジャック親子に囲まれている。隣接してジャックとクィーン。私の背は高い方だが、それでもこのスーパー夫婦に挟まれると小さく見える。シークレットサービスに囲まれた議員さんみたいだ。
 で、にこにこして、エスとリリが正面に座る。純エタノールを飲んでいる。)

リリ。ふー、面白かった。エスも飛べそう。

エス。やってみたいです。

奈良。空飛ぶニシキヘビ。

鈴鹿。奈良さん、満足げ。

志摩。ああ。でもって、こちらも大所帯。まずは伊勢さんとモノリスとピナクス。

 (大人のアンドロイド型だ。)

関。ものすごい美人。とても私がモデルとは思えない。

伊勢。たしかに、ちょっとやりすぎ。でも、関さんだってこんな感じよ。精悍で勇気のありそうなところなど、そっくり。

関。私より一回り背が高い。

ピ。170cmです。

伊勢。アンと同じくらい。でも、若干スマートかな。

関。それでも、頼もしく見える範囲。モノリスも同じくらいの背の高さ。

モ。合わせたそうです。だから、背が低くなりました。

伊勢。最大限、互換性があるように合わせたみたい。

芦屋。アーマーはあるんだろう?。

伊勢。あとで装着してみよう。感想を聞かせて。軽快な感じになったから。

 (で、残りはRPG 3人組。)

清水。全然目立ちません。

鈴鹿。他が目立ちすぎよ。

清水。結局、7人と5体のアンドロイドと1匹の機械ニシキヘビ。

 (湖へ移動する。部門長は社用車で付いて行く。運転手は鈴鹿。護衛を兼ねてだ。助手席にはジャックがいる。)

鈴鹿。部門長、何かご希望があればおっしゃってください。

部門長。これでいい。途中参加の男は君たちの仲間か。

鈴鹿。芦屋虎之介。私とIFFでの同期で、彼が最優秀。いまでもIFFに属していて、仕事の内容は知りません。日本ID社情報収集部に時々合流して、いっしょに調査をします。

部門長。そうか。思い出した。君たちはIFFのトップクラス。近年まれに見る優秀なクラスだったそうな。

鈴鹿。このクルマ、仕掛けがあるようです。

部門長。重役クラスの社用車。私もいつしか、こんなのに乗ることになった。

鈴鹿。それで私が運転手に。

部門長。ああ、よろしく頼む。

鈴鹿。任せてください。

 (モノリスは関が運転している。彼女の希望だ。主任が助手席にいて、いろいろ説明している。技術担当が二人。コンソールに座ってモノリスの動作をチェックしている。私とクィーンとリリはソファでくつろぐ。エスはピナクスにいる。)

リリ。モノリスって、いくつものメカの集合体。

モ。そうです。この移動メカもロボット。かなりの悪路も走行でき、水上や水中も移動できる。

リリ。私と同じ能力の移動体。

 (そういう考え方もあったか。
 ピナクスの方はうるさそうだ。運転は志摩でエスが助手席に陣取っている、伊勢と虎之介と亜有がモニタでピナクスの動作をいろいろ調べている。)

清水。ふむ。潜水機能が加わり、水上での速度がやけくそになった。

伊勢。普通の船としては限界に近い。

芦屋。もともと気密構造で水上動作可能だったから、方針は変わってない。

伊勢。設計はやり直したみたい。大改造。

清水。どこに向かっているんですか。着替えまで用意させられた。

志摩。湖のキャンプ場。冬場だったから、簡単に貸しきりできたらしい。

伊勢。このピナクスを水中に一晩潜らせるらしい。

清水。うわあ。まさに作戦用潜水艦。

志摩。艦内でいっしょに眠るのがいやだったら、途中で帰っていいよ。

清水。泊まりたい。

志摩。気が変わったら言って。

清水。そうする。水深は?。

虎之介。ええと…。最深で120m。でも、多分、湖底はどろどろ。

清水。いわゆるホバリングしないとだめか。ネッシーとかいるかな。

伊勢。あはは。さあ、行ってみないとね。

 (湖のキャンプ場に着いた。夏なら避暑で賑わいそうな感じのところだ。気温は低くなるが、湖面は凍結はしないのだと。外に出て、あたりを見回す。絶景だ。)

清水。ああ、来てよかった。

鈴鹿。半分仕事だけどね。

志摩。機械のデータ取りだけだから、ほとんど技術者任せ。

伊勢。そうよ、あんたたち、のんびりしていたらいい。

主任。調整は任せてください。個々のメカの調整は済んでいますから、ここでは船艇としての機能を調べるだけです。それから、一晩ピナクスを湖底近くに待機させるので、どちらに泊まるか決めておいてください。

 (潜航は初めてというので、一台づつ試す。モノリスからだ。主任と技術者が乗る。伊勢と関と虎之介が立ち会う。リリとエスも同行させた。
 砂浜から湖に入る。重いので、半分以上が水面下だ。ゆっくり動かしてみて、次第に速度を上げる。結構速い。)

関。巡洋艦級。速い。

 (速度を落として、いろんな動作をさせる。ロボットなりに曲芸みたいな動きもできる。次に潜水だ。簡単にズブズブと高速に潜って行く。でも、水中動作はいろいろできるのだが、それほど潜水艦として優れているわけではないようだ。)

伊勢。ま、まあ、本物の潜水艦じゃないから。

関。やっとほっとしました。何とか潜水調査船と言い張れるんじゃないかしら。

芦屋。そうだな。諸元を見たときはびっくりしたけど、これじゃまともな攻撃を受けたらひとたまりもない。

 (リリとエスは危険を感じないらしく、つまらない、といった感じでソファに座っている。湖底近くまで潜ってみたが、何も起こらない。当然だ。)

清水。さっきからずっと潜っていますけど、たしか、継続して潜航できる時間は30分ほど。

主任。そうですよ。シュノーケルで時々空気を取り入れながら走っているから、ずっと潜れるのです。水深20m程度まで浮上しないといけない。静かにしていたら、1日くらいは持ちますけど。海底近くで長時間観測するための空気取り入れホースは今夜試しますけど、こちらは届く範囲でうろうろするか、10km/h程度までしか動けない。

伊勢。自動人形だけなら、数年間待機できる。

主任。ええ。エネルギーで計算すれば10年程度。でも、自動人形自身、デリケートな装置ですから、そんなに放置すると、多分二度と動きません。我慢して一年程度かな。

 (チェックは終了したらしく、湖岸に戻る。次にピナクスで同じことをする。大丈夫。最後に、2台をいっしょに伴走させる。)

主任。これでおしまい。今夜の宿泊が成功したら、発表できます。

部門長。前夜祭と行くか。

 (バーベキューを用意してくれたらしい。ジャック親子とアンドロイド型も参加する。)

リリ。設計通りに動作した。

主任。その通りだ。よかった。

モ。よかったです。

ピ。ほっとしました。

伊勢。今後の予定は?。

部門長。今夜の試験が成功したら、明日1日置いて、あさってに発表会を工場の格納庫で行います。その後、どう運用するかを決める。

主任。明日の予定は。

部門長。ありません。観光旅行でもなさいますか。

伊勢。ありがたいです。

部門長。では、秘書課から案内役を一人付けましょう。

 (湖底近くでピナクスで一泊するメンバーをつのる。)

伊勢。何人分のベッドがあるのですか?。

主任。以前と同じ。3人分のみ。運転席と助手席はリクライニングは効く、ここに3人。後は雑魚寝。ベッドを出したら、ソファは使えない。コンソールの4人分の椅子は使える。普通に考えて、6人が限界でしょう。プラス、自動人形かな。

伊勢。どうしてもゆきたい人。

 (部門長と関が手を上げた。ちょっと躊躇して、亜有が手を上げる。)

部門長。ベッド部分にはカーテンがあるのか。

主任。あります。といっても、プライバシーがよいとはとても言えない。

伊勢。リリとエスは行きなさい。あと、どっちが役立つかな。

 (志摩と虎之介を見ながら伊勢がつぶやいている。)

リリ。志摩さん。だって、かっこいいんだもん。

 (虎之介が、何を!という表情しているので、リリの発言の後半には全く意味がないことをDTM手話で伝える。)

伊勢。じゃあ、志摩。あとは湖畔でモノリスに泊まる。

技術者1。私たちは帰ります。

部門長。鈴鹿さん。社用車で工場まで送ってください。そのクルマは便利なので、二人を降ろしたら、こちらに戻るように。

鈴鹿。はい。

 (高緯度で冬だから、夜は早い。上弦の月が輝き出した。水中のテスト開始だ。ピナクスが湖底に向かう。水深80mほどらしい。下は泥なので、5mほど浮いた状態で止まる。ホースを湖面に出して、空気を取り入れる。部門長はどっかとソファに持たれる。リリといっしょ。関と亜有はコンソールに座っている。志摩も運転席からコンソールに移動した。)

部門長。思ったよりずっと快適。

関。ええ。このままレジャー用としても売り出せそう。

清水。そうね。潜水調査船としては、極上の居住性。

 (リリは部門長と適当に話して、いい子している。エスは助手席で睡眠動作しているようだ。関と志摩と亜有は熱心に湖底や水中の探査をしている。探査能力を見ているようだ。)

清水。水面部にもセンサーがある。湖岸がよく見える。

関。水中はアクティブソナーと、観測装置か。さすがに測定機器の会社だけあって、充実。

部門長。そうです。当然、自動人形でない部分は売り出しを考えています。

関。それで巨額の開発費を投入。

 (関が部門長の横に移動。とにかく、嗅覚の鋭い女。)

部門長。我が社には調査船と観測装置の組み合わせはありましたし、2人用の潜水調査船もあります。でも、こんな感じの快適な調査船は初めて。

 (亜有もソファに移動。リリはこれ幸いと志摩のところに行ってしまった。)

清水。売れるといいですね。我が大学も海洋学部を持っているので、関心のある教授が多いのじゃないかしら。志摩くーん、どう?。

志摩。ああ、ちょっと没頭した。面白いよ、これ。海中の調査にはいいんじゃないかな。

部門長。そうか。お二人は大学生。

清水。志摩くんは海洋学部海洋生物学科に所属しています。だから、こうした装置には関心がある。

部門長。それはよかった。あなたも海洋学部。

清水。いいえ。大学は同じですけど、理学部数学科に所属してます。

関。数学の天才。びっくりするほどの知識。

部門長。それがなぜこんなところに。

 (この部門長、美女と美少女に挟まれてご満悦。亜有にしゃべらせて熱心に聞き入っている。やり手だ。で、言葉の端々から、DTMに接近してきた人物であることを知る。私にDTM手話で連絡が入ったので、事情を説明する。)

部門長。しばらく休学して、ID社本部で働きませんか?。

清水。いいお話。ぜひ聞かせてもらえますか。

部門長。じゃあ、コンソールに移動しましょう。資料があった方が話が早い。

 (志摩は追い出されるようにリリといっしょにソファに移る。)

関。突然の提案なのに、たじろぎもしない。

志摩。亜有にはああしたところがある。チャンスと見たら、素早く食いつく。ちっとも怖がらない。

リリ。亜有さん、勇気があります。

関。リリとは別の勇気。あてにしたらいいわ。

リリ。そうします。

 (関がすっと眠ってしまったので、ベッドの1つを展開して志摩とリリが運ぶ。ソファはまだ、半分空いている。リリは志摩といっしょで、うれしいようだ。エスもやってきた。)

志摩。美女二人に囲まれて、幸せだよ。

リリ。相変わらずうまいわね。でも私、発展途上のまま。

エス。こちらはヘビ。好き嫌いが激しい。

志摩。航空部門ではどうなんだい?。

エス。好きな人はとことんヘビが好きになるみたい。そうでないひとは全然だめ。全世界共通。

志摩。今の進行波ジェットの実力では、リリを飛ばすのが精一杯。改良は難航していると聞く。

リリ。開発費が削減されて、技術系の人はあきらめムードよ。現状のまま、応用先を探している。

志摩。そうか。リリのオートジャイロや、サクラの翼なんかは貴重な例なんだ。

 (話が終わったらしく、亜有が眠りたいと言い出した。ベッドを展開する。リリとエスが添い寝。部門長と志摩は運転席と助手席をリクライニングさせて眠る。
 一方のモノリス。)

主任。ピナクスの機能に異常なし。

伊勢。あったら大変。

主任。部門長が行ってしまって、ヒヤヒヤです。

伊勢。志摩とリリが付いているから大丈夫と思うけど。

主任。あれ、あの二人は?。

奈良。虎之介と鈴鹿は夜のジョギング。ジャックとクィーンを連れて。

主任。こちらも眠りましょうか。

 (私は助手席をリクライニングさせる。主任は運転席。月は沈んで、星空がまぶしい。火星が明るく輝いている。伊勢はコンソールで、モノリスの機能をチェックしているようだ。)

 (虎之介と鈴鹿は近辺をジョギング。虎之介は鈴鹿に半ば強制的に連れ出されたのだ。近くの小高い丘に駆け上がる。頂上は狭い。湖面がよく見える…、はず、月が出ていれば。ジャックとクィーンが付いてきている。)

芦屋。よりによって、真っ暗。

鈴鹿。クィーンの軍事センサーが役立つ程度よ。

芦屋。見つかったら、おもいっきり怪しい。

鈴鹿。自動人形に引率された、と言い張ればよい。

芦屋。そうするか。

 (満天の星。対岸は暗いけど、自動車の明かりや集落も見える。向こうの方は街らしい。星影が見える。)

芦屋。恋人同士なら雰囲気満点だ。

鈴鹿。あらごめんなさい、気が利かなくて。

芦屋。関は半ば仕事で来ている。今ごろ部門長からピナクスの開発意図について、さりげなーく、かつ、しつこーく聞いているはずだ。

鈴鹿。ありえそう。虎之介はあさってまでいるの?。

芦屋。そのつもりで来た。もう分かっていると思うが、関と同じ目的で来た。

鈴鹿。ばればれよ。そんなに気になるの?、自動人形の動向が。

芦屋。もちろん気になる。ただの計測器ではない。人工知能で統合され、心を持つ。

鈴鹿。信頼できる人の期待に応えようと努力する。

ジャック。その通りです。

クィーン。あなた方次第です。

鈴鹿。今は信頼されているみたい。

芦屋。ああ。

クィーン。船が移動しています。

鈴鹿。どれどれ。

 (鈴鹿は位置をクィーンに教えてもらって、アナライザーを向ける。虎之介もご同様。)

鈴鹿。ふむ。櫂で漕いでるの?。

芦屋。オーソレミオって感じ。

鈴鹿。関さんがあなたの太陽。

芦屋。太陽に向かっているわけだ。

ジャック。明かりをつけずに漕いでいます。怪しい。

クィーン。たしかに。光の方向に向かっているみたい。わずかに反射がある。

鈴鹿。ふむふむ。光の発信元が分かるかな?。

ジャック。20mほどの誤差で特定できますから、行けます。簡単に徒歩で行ける範囲。

鈴鹿。行ってみよー。

 (とうぜん、鈴鹿からは連絡があった。モノリスの白鳥型を飛ばして探査させる。ふむ、おもいっきり怪しい。暗闇の中を漕ぎ手が一人で漕いでいる。対岸はと、狭い砂浜。自動車がいて、2人いる。)

伊勢。志摩、湖底から追跡できる?。

志摩。できます。ゆっくり漕いでいる。

奈良。昼間ならちっとも怪しくない。

伊勢。うーん、微妙なところ。

志摩。怪しいですよ。どうやって近づいたらいいかな。

伊勢。鈴鹿が向かっている。虎之介といっしょ。ジャックとクィーンも。

志摩。言葉、分かるんですか?。

主任。ジャックとクィーンは分かりますから、心配ありません。

志摩。あ、そうか。じゃあ、リリも。

リリ。当然。

志摩。うわあ、いつからいたの?。

リリ。今さっき。だって、志摩さんが起きたんだもん。

志摩。とにかく、恐竜型を近づけます。

伊勢。そうしようか。

 (船に恐竜型が近づくが、当然、何も分からない。かえって、鈴鹿の方がよく分かる。)

鈴鹿。麻薬はっけーん。

部門長。直ちに警察に知らせろ。主任、現場に急行しろ。

主任。はいっ。

ジャック。警察には知らせました。ほんの20分で到着するはず。

芦屋。ついでに、武器も持っているみたい。

鈴鹿。船の方はどうなのよ。

ピ。持ってないようでした。

鈴鹿。芝居で近づこうか。

奈良。気をつけろ。

 (鈴鹿がふらふらと2人に近づく。英語でぶつぶつつぶやく。2人は現地の人らしく、英語は分からないようだ。突然現れた不審な女に動揺している。)

鈴鹿(英語)。ういーっ。酔った酔った。あら、人間がいる。ハロー。よいお天気。

男1(ドイツ語)。変な女が来た。ハローとか言っている、アメリカ人か。

男2(ドイツ語)。ああ、そんな感じ。何で突然。怪しい。

芦屋(英語)。どっちへ行ってるんだよ。そっちじゃない。戻ってよ。って、足元がふらつく。

男1。もう一人現れた。両人とも酔っているみたい。

男2。ああ、おもいっきり迷惑。言葉も通じないだろうな。

男1。あの、もしもし、お嬢さん。言葉分かる?。

鈴鹿。あんた、なにいってんのよ、ちっとも分かんない。英語できるのあんた。

男1(たどたどしい英語)。こんばんは。こっちはいそがしい。あっち行ってくれ。

鈴鹿。忙しく見えない。なに暗闇でたたずんでいるのよ。

男2。なにいってんだ、その女。

男1。さあ、あまり意味のあることを言っているようではない。

 (で、鈴鹿と虎之介は2人の男にどんどん近づく。いくら何でも意図があることに気付いたようだ。)

男1(英語)。止まれ。銃を構えている。撃つぞ。

鈴鹿。怖ーい。この人。

芦屋。とにかく止まったら?。

鈴鹿。そのまぶしい懐中電灯、何とかしてよ。

男2。止まった。で、なにぶつぶつ言っているの?。

男1。よく分からない。とにかく、説得するしかないな。

 (明かりの当たってない虎之介が、持っていた石を投げて一人の男の頭にぶつける。そして、すぐに別の男の頭にも。2人とも倒れた。ジャックとクイーンが駆け寄って、状態を見る。軽い傷だ。手当てする。鈴鹿と虎之介が、懐中電灯を取り上げて、船に向かって照らす。
 船はちょっと怪しいと思ったのだが、何かの間違いと思ったようだ。そのまま近づいて来る。)

鈴鹿。クルマを調べる。

芦屋。そうしてくれ。

 (懐中電灯をジャックに渡して、鈴鹿はクルマの調査。後席に麻薬の包みがいくつかある。アナライザーは、ここからの雰囲気を捉えたのだ。海岸から10mほどに近づいた漕ぎ手が、合い言葉を発する。)

男3(ドイツ語)。山ーっ。

ジャック(ドイツ語)。川ーっ。

 (実際、合い言葉は間違っていたのだが、いつものことなので、漕ぎ手は全然気にしなかったようだ。海岸に乗り上げる。)

男3。疲れた。毎度のことだが。金を持ってきたぞ。ものを渡してくれ。

 (ジャックが包みを渡す。一つ足りない。)

男3。一つ足りない。どうしたんだ。

ジャック。調達できなかった。すまない。

男3。しょうがないな。じゃあ、これだけだ。

 (男は金を渡す。ジャックが数えている。)

男3。早くしろよ。あれ、おまえ、いつものCじゃないな。

ジャック。風邪を引いて来れない。

男3。やれやれ、間抜けなやつ。

ジャック。足りないぞ。だます気か。

男3。おいおい、言ったとおりだろうが。かまをかけるんじゃない。

ジャック。ボスはもう少しくれると言っていた。

男3。いいかげんにしろよ。おまえの小遣いなんて無いよ。ボスが怖かったら、言うことを聞いた方がいい。

ジャック。そうする。ありがとう、助かったよ。

男3。ボスによろしくな。

 (漕ぎ手は包みを受け取ると、さっさと沖に行った。主任が到着。事情を聞く。
 警察はほどなく到着。主任が事情を説明。何とか納得してくれたようだ。気を失っている2人を収監して1台のパトカーが去っていった。こちらもモノリスに合流。)

主任。モノリス移動メカ発進。船を追いかけるのだ。

 (社用車には私とクィーンを置いて、モノリスで出発。のんびりとした航行だ。船は街の明かりを頼りに漕いでいるようだ。
 結局、船は街の港の外れに到着。積荷を渡したところを警察が押さえた。おしまい。)

主任。戻りましょう。

 (湖底のピナクス車内で。)

部門長。クィーンが船を発見したのだな。

関。ええ。軍用視覚センサー。恐ろしい感度。

部門長。近赤外線も見える。全波長でピントが調整されている。

関。アナライザーってどんなの?。

志摩。これだよ。高性能の分析装置。

関。この前もこれ使ったんだ。単なるはったりじゃなかったんだ。

部門長。白鳥型も、もっと近づけば麻薬を検出していたはずです。

関。化学センサーか。そして、モノリスとピナクスの移動メカも同様。

ピ。もちろん、そうです。

関。少なくとも、軍事転用は可能。

部門長。ええ、大変な威力ですよ。悪用されたら大変。

関。それで志摩くんたちがいる。

志摩。うん。聞かされている目的はそこまで。

関。民間企業の調査部門だもんね。

部門長。失礼ですが、そちらも調査部門。

関。ええ。志摩くんたちと仕事は似ている。公務員として仮勧告できますけど。

部門長。それで、関連事項にご関心がある。

関。そのとおりです。麻薬そのものは管轄外ですけど、流通経路には関心がある。

部門長。なるほど。現場で志摩くんたちと出会うことも多い。

関。多いなんてもんじゃありません。何度もお世話になっています。

清水。小説なんかに出てくる私立探偵と警察の関係みたい。

部門長。そうですか。親しく話し合っていると思いましたよ。理由が分かりました。

リリ。私も協力したことあるのよ。活躍したんだから。

部門長。はは、リリがお役に立ちましたか。ありがたいことです。

関。自動人形の能力については関心があります。

部門長。自動人形は周りに反応しているだけ。使うには適切な指示が必要。事件解決に役立つなんて、大変なことです。

関。やはりそうですか。たとえばイヌも警察犬として役立つのは選び抜かれたエリートだけ。自動人形が日本ID社で活躍している理由は…。あのお2人。

部門長。奈良さんと伊勢さん。

関。やはり秘密はあの2人にある。

第10話。モノリスとピナクス。46. ロケット人間の最終調整

2009-06-27 | Weblog
 (ヘリコプターだとあっと言う間だ。ゆうゆう午前の実験に間に合った。
 せっかちな部門長と関は、そそくさと格納庫前にやってくる。ロケット人間の調整をする場所だ。)

奈良。関さん、遠いところようこそ。今からロケット人間の最終調整をするんですけど、見ますか?。

関。それは願ってもないこと。ぜひお願いします。

奈良。こちらが本フィニティ計画の責任者です。

主任。はじめまして。私が今回の技術設計主任です。あなたがピナクスのモデルですか。ピナクスが美人な訳が分かりましたよ。

関。はじめまして。関霞と言います。お上手ですこと。これが新モノリスの移動メカですか。鉄道の先頭車両みたいな形です。

主任。なにしろ水深200mまで潜れますから。

関。水深200m…。そういうの、潜水艦とかいいません?。

奈良。ああ、問題点その1だ。

関。その分だと、存分に驚かせてくれるみたい。

主任。私はモノリス、伊勢さんはピナクスに入ります。出発して一周したら、モニタの方が分かりやすいと思いますので、入ってきてください。

関。ええ、そうさせてください。ピナクスに入ることにします。

部門長。それじゃ私はモノリスに。

主任。かなりの発射音がしますので、少し離れてください。

関。以前のモノリスより大きい音ですか?。

主任。それよりはずっと小さい音だし、最大15秒しか続きません。進行波ジェットに引き継ぐので、すぐに静寂になります。

関。問題点その2。

奈良。ああ、そうだな。

関。で、まさか水中発射できるとか。

主任。よくご存じで。水深20mから空中に発射できます。ロケットは水中でも発火できますから。

関。問題点その3。

主任。嵐の海でも大丈夫ですよ。

関。ははーん。なんで奈良さんが困惑するのか分かりました。やりすぎ。主任さん、ロケット人間の追加の積載量は?。

主任。20kg。それ以上抱えると、飛べません。

関。完全武装には十分。速度と航続距離と最高高度は。

主任。最高時速700km。航続距離500km、空中給油可能。最高高度1万3000m。これらは設計目標で、今から試すんですけど。

関。空軍がびっくりしてスクランブルかけるとか。

主任。小さすぎて、レーダーでは変に見えます。もちろん、ステルス性はないから、ばっちり映りますけど。やけくそ性能の超マニアの模型飛行機ってところかな。

関。問題点、たくさん。なにこれ。最初のロケット人間と大違いじゃない。単なるこけおどしの変身おもちゃだったのが。

伊勢。あれこれいじっているうちにこうなっちゃったの。

関。あとで経緯をお聞きします。

伊勢。後でなくても簡単よ。進行波ジェットで飛ばせる自動人形はリリが限界。それで、リリ級のアンドロイドを想定してから本体部分、つまり翼の部分を作ったら、こうなった。

関。アンドロイドと本体って、分かりにくいです。

伊勢。元のロケット人間は、たたんだロケットを外せなかったけど、今回のは外せる。でも、リリの大きさのアンドロイドにモノリス本体は入らない。

関。だから、モノリス本体は翼の方に付けたと。そう言えば聞いたような。じゃあ、アンドロイド部分はただの操り人形。

伊勢。そのとおり。

関。で、離れた本体部分がさらに50kgの荷物を運ぶと。

主任。いいアイデアだ。考えてみます。すぐにできそう。

関。あわわわ、軍拡競争に手を貸してしまった。

奈良。もう、とことんやろう、との開発方針のようだ。

伊勢。白鳥型の積載量が50kgだから、事態は変わらないわ。効率は2倍になるけど。

関。大違いです。それに、白鳥型は遅いんでしょう?。

主任。時速300km。そのかわり、行動半径2000km。

関。効率は3倍。

伊勢。私としたことが、失礼。

関。よーく分かりました。じっくり見せていただきます。では、発進させてください。

 (場を取り仕切っている。主任と伊勢は大慌てで移動メカに駆け込み、ロケット人間を発進させる。ものの10秒もかからなかった。専用の扉が開いて発射台がロケット人間を繰り出し、あっと言う間にロケットに点火。轟音が鳴り響く。すぐに加速して進行波ロケットに引き継ぐ。この段階では、音もしなければ、煙も出ない。)

関。うわあ、素早い。あっと言う間に行ってしまった。

 (ロケット人間は場内を一周して戻ってくる。大気に対して静止はできないから、移動メカの上空を旋回している。かなりの低速度だ。風でもあったら静止できそうなくらい。)

関。要するに凧。

奈良。そうだ。じゃあ、移動メカに入ろう。

 (全員分散してモノリスとピナクスに入る。)

主任。編隊飛行させ、最高速度に挑戦してみます。

 (加速がまた速い。要するに軽いのだ。設定速度まで上げる。そして、今度はぐんぐん高度を上げて行く。)

主任。すばらしい。

 (急降下して。また低速度で旋回。それから、昨日、機構に無理がかかってしまったアクロバット飛行を試してみる。合格したみたいだ。)

主任。着陸させますので、外に出て実物を見てください。

 (主任と伊勢以外、格納庫の前で2機の着陸を待つ。器用に着地する。翼がたたまれ、ヘルメットも格納されて背嚢になる。)

関。これは何よー。

 (正太郎とサクラの姿に感激しているようだ。さすがにピナクスらは覚えていたらしい、気づいたサクラがたったったと関に寄ってきた。)

サクラ。この姿でお目にかかるのは初めてです。サクラと言います。私のモデルになった関霞さん。

正太郎。こちらも初めてお目にかかります。この関さんがサクラのモデル。

関。こっちはまさか、正太郎って言うんじゃないでしょうね。

正太郎。そうだよ、ぼくが正太郎。サクラとパートナー組んでる。

関。正太郎は半ズボン、じゃなくって、そう見えるデザインなのか。で、サクラは超ミニスカートに見える。誰の趣味よー。こんな格好、ほんの小さな頃しかしてなかったわよ。で、目の当たりにしても、やっぱり超絶美少女。

サクラ。うふふ。気に入ったようね。

主任。それじゃ、助走してロケットなしで飛び上がってくれ。

正太郎、サクラ。はい。

 (正太郎とサクラが翼を展開する。)

関。ちょまーっ。それなによー、その豹の格好は。正太郎は虎。

奈良。参考に送った写真が誤解されたらしい。アンドロイド部を支える部分のデザインだ。

関。虎之介の格好じゃない。永田さんと混乱している。

志摩。虎之介と永田さんは全然似てない。

関。似てないわよ。

芦屋。正太郎のモデルは永田さんなのか。

関。虎之介。おひさしぶり。元気してた?。って、そうじゃない。そうよ、新モノリスのモデルは永田さんよ。

鈴鹿。どうしよう。モデルを虎之介に変えようか。

正太郎。また変えるの?。

奈良。うーん。虎之介は正統派戦士。くそまじめな永田くんの方がずっと面白いのだが。

関。そーゆー基準で選んだんですか?。

鈴鹿。まあ、そういうこと。あきらめなさい。情報収集部の正体は知っているはず。

芦屋。ID社の誇る世界屈指のおちゃらけ集団。

関。すっかり忘れていた。

清水。支えの部分のデザインなんか、いくらでも変更が効きそう。何がいい?。

鈴鹿。関さん、どうぞ。

関。どうぞって。うーむ。特別に許可する。

志摩。永田町に虎ノ門が近いから?。

関。関係ないけど、それでいい。

 (成り行きを見ていた部門長が私に声をかける。)

部門長。奈良さん、えらくドタバタした集団ですな。それに加えて、あの伊勢。よくおまとめになっています。

奈良。はあ、とにかく連中、優秀ですから。ええと、普段、命令を下しているのは伊勢。なんとなく現場で指揮しているのは志摩。

部門長。要は、部下に志摩くんがいないと、情報収集部はバラバラ。

奈良。ええ、そうだと思います。

部門長。で、あなたは自動人形がいなければ、恐怖政治ができない。

奈良。人徳で最後まで引っ張るのは無理があるかと。

部門長。よろしい。ここにおられる間、ジャック親子をあなたに託します。存分にお使いください。

奈良。お心遣い、ありがとうございます。ああ、そう言えば、リリが高校生の兄を欲していました。何とかなりませんか。

部門長。何とかしましょう。リリのたっての願いとあらば。でも、優先度は低いです。

奈良。それで結構。ありがとうございます。

 (なんと、ここにいる間は、ジャック、クィーン、リリ、エスが私の支配下だと。背筋がゾクゾクっとしたと思ったら、案の定リリとエスがいる。事態を複雑化させるところなど、アンそっくりだ。)

リリ。へっへー、リリ、うれしい。奈良さんのコントロールだ。

エス。よろしくお願いします。必ずや役立つよう努力します。

奈良。ああ、お手柔らかに頼む。

ジャック。がんばります。

クィーン。がんばります。

奈良。普通でいい。

 (とはいえ、やはり慕ってくれるのはうれしい。なにせ、4体とも良くできた機体である。
 で、結局関からの要望は無く、正太郎は虎のままで行くことにした。2機とも、たたた、と走ってすぐにふわっと浮き、そのまま空中を加速して行く。)

関。子供が羽根付けて音もなく浮いたかと思うと、すーっと加速する。夢でも見ているよう。

鈴鹿。うらやましく思わない?。

関。うらやましい。翼をください。

リリ。私、あれ、欲しい。

奈良。翼のことか?。

部門長。考えておく。

 (結構、子煩悩なようだ。)

主任(通信機)。予備のがありますから、付けてみます?。

部門長。付くのか?。

主任。今すぐ。

部門長。設計段階から考えていたな。

主任。なにせ、設計したのは社内屈指のオタク集団。放っておくわけがありません。

部門長。よかろう。試してみよう。

 (手際のいいこと。この機会を待っていたらしい。主任が出てきて、担当とともに、リリに翼を付ける。リリは大喜び。)

鈴鹿。いいなあ、リリ。飛べるなんて。

リリ。わーい、わーい。

主任。訓練が必要なので、正太郎とサクラに引率させます。

 (正太郎とサクラが戻ってきた。内蔵の通信機でリリと必要なコードの情報交換をしているらしい。主任はモノリス移動メカに戻り、3機に発進を命じる。正太郎、サクラ、リリが続けて発進する。リリは最初は付いて行くのがやっとだったが、急速に慣れて行く。
 で、慣れてしまうとリリの本領発揮。正太郎とサクラがあっけに取られるような動作をしてみたりする。さすがに主任が心配し出した。)

主任(通信機)。リリ、性能の範囲内で操縦しろ。

リリ。分かってる。でも、楽しい。それに、今はテスト飛行でしょ?。ちょっと無理した方がいいんじゃないの?。

主任。任せる。

 (部門長がニコニコしている。どうやら、この冒険指向の特性が航空部門に合っているらしい。いろんな航空機を操縦させられたらしいリリは、主任にいろいろ提案してくる。
 翼部分の担当技師がつきっきりで、安全を確認している。逆に、正太郎たちがリリを真似しようとしている。)

伊勢(通信機)。久しぶりでリリを見たけど、いい機体。本部航空部門が引っこ抜いたのもうなずける。

奈良。ああ、いい機体だ。果敢だ。

志摩。リリらしい動作だ。

清水。可愛がられた分、一所懸命にお返ししようとしている。

鈴鹿。東京にいるときも、そう感じた。

 (リリがいると仕事がはかどるらしい。リリがある程度満足したので、今度は主任からいろいろと性能調査の指令が飛ぶ。午前いっぱいかかって、必要なチェック項目を満たしたようだ。)

主任。ロケット人間の空中動作に関しては、確認は終了です。予定通り、午後からは湖に出かけましょう。

第10話。モノリスとピナクス。45. 3日目朝、関の訪問

2009-06-26 | Weblog
 (3日目の朝。早く目が覚めるのが習慣になってしまっている。散歩しはじめたが、寒いのでモノリスに入る。虎之介がいる。)

芦屋。おはようございます。

奈良。何しに来た。

芦屋。もちろん、新しいモノリスとピナクスを見に。強力になっています。

奈良。強力すぎるのが問題になりつつある。

芦屋。あからさまな攻撃兵器。

奈良。どう言い訳しようとも。

芦屋。移動メカだけなら、潜水調査船と言い張れる。

奈良。ああ、そうだな。

芦屋。問題は水中発射機能。

奈良。ロケット人間は積載量20kgで行動半径は短いが、小型で高速。白鳥型は低速だが、行動半径がやたら広くて積載量は50kg。少々の嵐でも関係なく発進できる。

芦屋。移動メカには原子力電池搭載可。

奈良。いわゆるハイブリッド車だから、簡単に改造できる。高出力が必要で、原子力電池は大きくなる。作ったとして、実用性は多分、ない。

芦屋。恐竜型と円盤型があるから、やたら機動力のある攻撃型にもなるし、巡航ミサイル発射型相当にもなる。

奈良。そう言えば、観測装置の発射機能はどうなったんだろう。

芦屋。さっき調べました。マッハ6のミサイル型は水中発射対応済み。巡航ミサイル型は未対応ですけど、どうにでもなりそう。

奈良。そんなことだと思った。魚雷型の観測装置はあったか。

芦屋。付属しているのは小型。通信機や自動人形の中継機能付きという以外は、単純な観測用。でも、有線で推進エネルギーを送るのでやたら速い。ID社のどう見ても魚雷型の観測器は簡単な改造で搭載可能。

奈良。普通に搭載可能ということ。数ある軍用潜水艦のリストに乗ること間違いなし。

芦屋。確実でしょう。

奈良。水上の速度は60km/hだったか。

芦屋。そうです。がんばりました。水中では半分程度。全力で走行すると、ほんの30分で蓄電器を使い果たして、シュノーケルで空気を取り入れる必要あり。

奈良。おまえと話していると、軍拡競争に手を貸しているようで悲しいよ。

芦屋。相手方も同様ですから、ご心配無く。

奈良。相手方…。

モ。機動性も抜群です。水中円舞できます。

奈良。とことん酔いそうだ。

モ。上下ひっくり返っても大丈夫なように家具等が設計されていますので、ご心配無く。

奈良。悪趣味。

芦屋。そうか。さすがに本部航空部門。知力の限りが尽くされている。

奈良。全くだ。

モ。ご満足いただけないのですか。

奈良。いや、あっぱれだ。優れている。満足している。心配しているのは、社会的位置付け。といっても、モノリスには理解不可能。

モ。そうです。みなさんの領域。役立つか、役立たないか。役立つ場合は、天使か悪魔か。

奈良。そう簡単に二分できないから悩んでいるのだ。

モ。人間は複雑です。

奈良。ええと、どう表現したらいいか。そうだな、喜ぶ人と悲しむ人がどちらも必ず出てくる状況。

モ。矛盾。すべての命題を否定できなくなる。

奈良。その通りだ。

芦屋。人工知能は強引に決めてしまうんだろう?。

モ。単にその状況下で良さそうな方が選ばれるだけです。考えてはいません。

 (堂々巡りになりそうなので、話題を変えることにした。)

奈良。ところで、まさか関が来るという話は無いんだろうな。

芦屋。来ます。本日午後から。永田は来ない。空港からタクシーに乗って。

奈良。我が国の税金だ。

芦屋。ヘリコプターよりよほどまし。

奈良。そうだった。

 (変な専用移動手段をチャーターするよりましか。誠実な女だ。部門長に連絡、VIP扱いが必要な人物と説明し、ID社から迎えるよう依頼する。若干永田と押し問答があったようだが、志摩を迎えに行かすことで決着。こちらの用事のついでならいいらしい。で、部門長じきじきにヘリコプターで迎えるのだと。午前の部に間に合ってしまう。
 空港にて。)

志摩。関さーん。こっち。

関。志摩さん。いったいどうしたの。

志摩。見たとおり。迎えに来たんだ。奈良さんからの依頼。永田さんにも事情を知らせてある。

関。心強い。そちらの方は。

志摩。紹介するよ。ID本部航空部門長だ。

部門長。お会いできて光栄です。ようこそ我が国にお越しくださいました。

関。はじめまして。関霞と申します。日本国財務省大臣官房専門情報調査課所属。でも、本日は調査扱いで、公式訪問ではありません。お引き立てして恐縮です。

部門長。大げさな理由はすぐに分かります。さあ、ヘリコプターが待っています。ご同行ください。志摩くん、荷物をお持ちして。

志摩。はい。

関。どうなっているの?。ヘリコプターだなんて。

志摩。部門長の言ったとおり。モノリスとピナクスが改造されて、大変な性能になったんだ。奈良さんが困惑していた。

関。そんなことだろうと思った。来て良かった。

 (関は通常の見学コースに申し込んでいたらしい。それで連絡がなかったのだ。
 ピナクスのモデルということは知っていたし、一人で堂々と乗り込んで来たので、部門長はちょっと関のことが気に入ったらしい。美人だし、ちょっとおっちょこちょいなところがあるのもポイントのようだ。
 関は部門長から新モノリスと新ピナクスの諸元の資料を渡される。さっさと見て行くが、やはり兵器転用可能な部分を食い入るように見つめている。部門長はDTM手話で志摩に関について質問している。)

第10話。モノリスとピナクス。44. アンドロイド版モノリスとピナクス

2009-06-25 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。その外観の改造方針が決まった。でも、欲張りすぎて年を越すことに。案の定、とんでもない高性能の自動人形に生まれ変わっていた。)

 (職員食堂で夕食。今度はアンドロイドのモノリスとピナクスを呼ぶ。救護服を着ている。色合いは移動メカといっしょ。つまり、明るい灰色が基調でモノリスは青と橙の縁取り、ピナクスは紫と緑。派手だ。顔も日本人風で美男子と美女。目立つことこの上ない。そして、両人とも性格は真面目そのもの。)

モ。通常、自動人形の救護服は男性が黄色系のはず。私のはなぜ白色系なんですか。

伊勢。あなた方の性別って、いつ変わるか分からないもん。いちいちデザイン変えると、誰がどれか分からなくなる。あきらめなさい。

ピ。私みたいに目覚めたら女になっているかも。うふふ。

モ。まったく。要は開発途上ってことか。しばらくは心配なさそうだが。

清水。設定年齢は25才前後。

伊勢。そうした。モデルと変えると考えが混乱するもの。

清水。誕生日ってあるんですか?。

伊勢。設定年齢に応じた?。

鈴鹿。モデルの誕生日は知らない。今度聞いておこうか。

モ。誕生日が何かに影響する。

伊勢。パーティーの口実になる。

モ。こほん。実用には見えないアーマーに武器。ショタコン向けロケット人間。勝手に想像したデザインの恐竜。デザインだおれの空飛ぶ円盤。何に利用されるのかさっぱり分からないキャンピングカー。私たちで遊んいませんか?、あなた方。

伊勢。あら、よく分かるわね。あなた方は平和の使者。真剣に作ったら怖いわよ。

ピ。もともと誇り高い騎馬隊だったのに、こちらに来た途端にブロックおもちゃにされ、今は科学戦隊ごっこ。

志摩。騎馬隊は今は実用でない。いきなり戦場に出てきたら、多分、滑稽。

鈴鹿。うん。交通警官か儀仗用。仕事は大切だけど、実用とは言い難い。

清水。日本ID社情報収集部はID社内でも世界屈指のおちゃらけ集団。配属されたのが運の尽きと思いなさい。

モ。その割には仕事は深刻。

ピ。政府関係者が震え上がっていました。

伊勢。でもって、図に乗って仕様を上乗せするもんだから、世界最強の自動人形になってしまった。どう落とし前をつけるつもりなんでしょう。

清水。なんでしょうって、伊勢さん、あなたど真ん中の当事者です。

奈良。一応、部門長には、情報収集部には装備過剰と伝えておいた。問題は、次の配属先になる。

清水。なんとかして配属元に戻す話はどうなったんですか。

奈良。話はする予定だが、困るだろう。ここまでいじってしまうと。

清水。無責任。

奈良。ああ、そうだな。困った。

伊勢。理屈を言わせてもらうと、自動人形の改造は推奨されている。今回は実稼働を踏まえた上での改造だから、原則を外れてはいない。

清水。ショタコンも。

鈴鹿。気にすることないわよ。美少女ともどもアニメなんかでは普通のパターン。進行波ジェットで飛ばすんだから、リリ級のアンドロイドはいずれにしろ必要だった。

清水。いずれにしろ理屈は付く。

志摩。自動人形の範囲でここまでできるのが分かったのは収穫じゃないかな。リリでも過剰装備と思ったけど、これ以上考えられない、というのも誰かがやる必要がある。

伊勢。本体がカセット状になっていたから、周辺機器として自由に考えられた。もう、こりごり、という気はするけど。

奈良。部門長は何か考えているようだし、まだ時間はある。役立つことは分かっているから、引き取り手は出てくるはずだ。

 (で、ウマ型のモノリスに私、ピナクスに伊勢がまたがって探索に付き合う。)

伊勢。便利だわ、これ。ウマ型を残しておいて正解だった。

奈良。ああ、遠くがよく見える。

モ。昼間のコーチはピナクスをえらく好んでいた。

ピ。私が生意気で無謀だって。

伊勢。物おじせず、実力があって、仕事ができる。軍馬として使いやすいって。

奈良。ずっと乗っていたな。モノリスも気に入らなかったわけではない。

モ。普通のポニーよりも速いはずです。

奈良。ちょっとやってみてくれ。

 (モノリスが全力で走り出す。速いので結構怖い。伊勢もピナクスに全力で走らせた。)

伊勢。怖いほど速力が出る。

奈良。これで山道を駆けるとか川渡りもできるから、大変な威力だ。

伊勢。ところで、家畜と言えば、排泄物はどうなるの?。

奈良。ええと、問題になるのはウマ型、白鳥型、竜型か。

モ。白鳥型と竜型はアンドロイドと同じ。吐きます。ウマ型はお尻に出口がある。でも、メカの形していますから、食べないと不自然、ということはありません。

奈良。なるほど、メカ型にも思わぬ利点がある。

伊勢。んでも、ウマが草を食べているしぐさって絵になるのに。

奈良。暇さえあれば草を食べている。それで出口がお尻にあるわけか。

ピ。どうします?。どっちでもやりますけど。

奈良、伊勢。喰わなくていい!。

モ、ピ。了解。

第10話。モノリスとピナクス。43. 騎馬隊

2009-06-24 | Weblog
 (午後。乗馬の専門家を呼んで、モノリスとピナクスの騎馬姿を見てもらう。いろいろ試してみるが、ほとんど欠陥が無いらしい。軍時代に徹底的にチューニングされていたようだ。自分もメカウマ型のモノリスに乗ってみる。)

コーチ。よくできている。

主任。違和感はありますか。

コーチ。ポニーにこの特性のものはないから、普通のウマから借りてきたみたいだ。温厚で優しい感じ。勇気もありそうだ。

モノリス。乗り心地はいかがですか。

コーチ。馬がしゃべった。

奈良。ロボットです。

コーチ。ああそうか。忘れるほど運動性が良い。じゃあ、首なんかにセンサーがある。

主任。そうです。これら自動人形はA国の軍で救護用として開発されました。

コーチ。軍馬か。でも、荒々しさがない。戦場では突進するんではなく、敵をかわしながら進みそうだ。

モノリス。ピナクスとともに突進させられたことはあります。ピナクスも怖かったそうです。回り込めばよいのに。

コーチ。やっぱり。賢いウマのようです。下手な騎手の言うことは聞かなさそう。会話できるのが利点かな。

 (ピナクスにも乗ってみる。こちらがオリジナルだ。)

コーチ。よく似てますけど、ピナクスの方がストレートな感じで分かりやすい。でも、よく考えて行動している。

志摩。よく分かる。

奈良。ああ、あそこまで感情が分かるのはさすがだ。私ならもっと時間がかかる。

志摩。奈良さんは獣医でした。

コーチ。その辺りを駆けてきます。モノリス、付いてこい。

 (モノリスにはロボ型が乗る。2騎が広い構内を駆けて行く。かなり速く走る。楽しそうだ。)

清水。私も乗ってみたい。

奈良。うーん、時間があるかな。

主任。いろんな人に慣れさせる必要はあるでしょう。軍時代にやったと思うけど、頼んでみますか。

 (ということで、コーチに頼んで、その場にいる全員をモノリスで順次試してみる。志摩や鈴鹿は経験あり。伊勢も似合っている。コーチはピナクスが気に入ったようで、ずっと乗っている。)

コーチ。慣れるまでちょっとかかったけど、元のウマがよほど優れていたらしい。いい子だ。

 (よしよししている。そういえば、とある雌ウマがモデルだったそうな。コーチに告げる。)

コーチ。その雌ウマの特性でしょう。生意気なんだけど、仕事はきちっとこなす。無謀なところがあるけど、考えることはできるし、従うべきところは従う。まだ若いウマだったようです。逆に、周囲を取り仕切るのはちょっと下手かもしれません。

 (ううむ、関にそっくりだ。もともとそうだったのか。だから、伊勢に直感が働いたのかも知れない。)

伊勢。ふうむ。関さんそっくり。ちょうどよかったわ。アンドロイドピナクスと合うもの。

コーチ。セキって誰です?。

伊勢。私たちの知り合い。日本人。政府の女Gメン。若くて美しくて切れ者。実行力抜群で怖いくらい。それ相応の実力はある。でも、ちょっと無謀でフォローが大変。それでも、仕事ができるから、だれも文句言わない。

コーチ。あははは、ピナクスにそっくり。そう、これくらいがいい。軍馬なら使いがいがある。

 (水槽に移動する。コーチも付いてきたので、メカウマ型から試す。)

コーチ。ウマって、水中で泳ぎましたか。

奈良。泳げないと思う。

コーチ。失礼ですがあなたは。

奈良。奈良治。日本ID社情報収集部の部長。獣医です。自動人形の世話をしているので、ここにます。

コーチ。それでさっきからウマに詳しい。

奈良。性格とか動きとか、良くできている。

コーチ。獣医の目から見てもそうですか。間違いなかったんだ。

奈良。水中の泳ぎは不自然ですけど。

コーチ。ええ、びっくりしました。

主任。ここからはウマ型は出てきません。どうされますか。

コーチ。じゃあ、私は帰ります。楽しいひとときをありがとうございました。レポートは明日夕までに仕上げてお送りします。

主任。いろいろ教えていただいてありがとうございました。

 (コーチはモノリスとピナクスのウマ型に手を振って帰った。)

主任。円盤型から試しましょう。

 (聞いてはいたが、見るのは初めて。水面下を器用に泳ぐ。少し潜ったり、反転したり。最大10分で空気を取り入れないといけないのはA31と同じ。)

奈良。墨、試せますか。

主任。どうなんだろう。聞いてみます。

 (最後にしてくれとのこと。まあ、当然か。
 白鳥型を試す。器用に潜る。本物の白鳥も潜れるはずだ。水中から直接飛び立つ。直接飛び立ちは白鳥のような大形の鳥にはできなかったはずだ。)

主任。航空機としても良くできていますから。大変な装置だ。使ったんでしょ。

奈良。ええ。音もなく上空で旋回し、隙を見て、相手方の潜水艦の甲板に設置された小型ミサイルを蹴っ飛ばして沈め、そのまま上昇して逃げました。担当の兵士はあっけに取られて、完全に見失ったみたいでした。暗めの月夜でした。

主任。ううむ。夜白鳥は飛ぶんですか。

奈良。ええと、渡りをするから、その場合には夜に飛んでいるはずです。でも、攻撃なんてとんでもない。渡りはどちらかというと、逃げる動作です。

主任。そうですよね。やはり機械だ。

 (竜型だ。器用に泳ぐ。恐ろしく速くも泳げる。そのように設計されたのだ。地上もポンポンと軽快に走る。)

主任。聞いていましたが、恐ろしい動物です。

奈良。地球最強。でも、オオカミやトラなどがいたら、絶滅に追い込まれると思います。

主任。現在の地球環境なら、という前提ででしょう?。

奈良。そう。恐竜は繁栄した。

主任。こんな水中動作もできる恐竜はいたんですか?。

奈良。いくらなんでも知りません。だから、モノリスはかなり創作が入っているようです。

主任。創作ロボットとしては良くできている。水中の稼働時間も長い。

奈良。ええ。4時間。

主任。大活躍だった。

奈良。そうです。海事に関しては。

 (単体の最後はロボ型だ。まず、防具をつけたまま潜らせる。それでも何とか泳いでいる。よせばいいのに、ポーズを付ける。)

清水。あははは。覚えているんだ。

主任。その分だと、これをやらせたんですね。

奈良。そうです。大受けでした。

 (防具を外す。タロたちと同じだ。救護服を付けたまま、器用に泳ぐ。)

主任。じゃあ、モノリス移動メカに入りましょう。水槽に浸けてみます。

 (主任が運転席、助手席に伊勢が座って、水槽に設けられたスロープから水中に入る。大丈夫だった。なんとか旋回できるほど水槽は大きい。主任が性能をチェックしている。
 ロケット人間を水中発射してみる。最初だけだが、かなり音はする。)

主任。期待通りの性能。ロケット人間を着水させて、水中動作させてみます。

 (要は、着水時に進行波ジェットが大丈夫かを見るのだ。水面付近ですっと滑空して、着水。あっと言う間だった。翼をたたんで正太郎が水中を泳ぐ。何とか普通に泳いでいる。水中で翼を展開して、ロケットに点火。空中に出て、ジェットに引き継ぐ。主任が感激している。)

主任。やった。できた。自分で見ても信じられない。よくやってくれた、みんな。

伊勢。大変な動作。波浪中でもできるんですか。

主任。シミュレーションではあらしの中でも大丈夫です。出たとたんに大波にさらわれないよう、ねらいをつけて海面に出ないといけませんが、今のセンサー系で大丈夫。ロケットが燃え尽きるまでに十分に上空に出ているはずです。

 (水中発射をメカごとに試す。よく設計されている。十分だ。やれやれ、過剰装備もいいところ。できすぎで、あとで問題になりそうだ。)

主任。これで終りかな。

奈良。ええ。

 (最後に円盤型の墨と煙を試した。こけおどしだが良くできている。)

主任。明日、ロケット人間の航空機としての最終調整と、午後から湖に出かけて、移動メカの水上と水中の動作の確認をします。あさって、部門長に来てもらっておしまい。

伊勢。うまく行きそう。さすがです。

主任。何とかなりそうです。

 (といいつつ。あきらかにほっとしている。実働したわけだ。狙い通りに。)

第10話。モノリスとピナクス。42. 正太郎とサクラ

2009-06-23 | Weblog
 (翌日。自動人形の調整に入る。早急に必要なのは、正太郎とサクラ。いきなり墜落とか空中分解はいかにもまずい。主任が担当の技術陣を連れて、滑走路の片隅に出る。昨日は移動メカから発射するのみだったが、地上から垂直に発射する場合に床を焦がすおそれがあるからだ。志摩、鈴鹿、亜有のRPG 3人組は単なる見学。)

伊勢。水中発射もあるから発進はロケットになったと。

主任。ええ、少々走る場所があったら、揚力が出るんですけど。それが無い場合の対策です。

 (ロケット人間には翼の付け根近くに進行波ジェットが2基着いているのだが、垂直発進はそのままでは無理らしい。ロケットは小型のもので左右に3基ずつ。発進には1基ずつ使う。わずか15秒程度で燃料を使い果たす。ただし、取り替えは一瞬。飛行は速いが、追加の積載量は20kgで、行動半径は狭い。最高速度700km/h。高度1万メートルは軽く飛ぶらしい。航続距離は500km。大したものだ。
 対する白鳥型は遅いと言っても300km/h、行動半径2000kmで積載量50kg。一応羽ばたけるので、低速時の揚力などは有利。隠密行動にも適する。何にせよ、空中動作は鳥が一枚上手だ。
 ロケット人間を出し、走って揚力をつけて発進させる。ほんの5mも走れば済むみたいだ。)

伊勢。主翼だけだから、凧のようなもの。

主任。そうです。ジェットの向きで方向を変える。危険なので、人間では使えません。リリクラスの自動人形専用。

 (主任はモノリスの移動メカに入ってコンソールから指令を飛ばす。伊勢はピナクスの移動メカに入った。いろんな姿勢で飛ばして、データを取っているようだ。見ていると、急旋回させたり失速させたりと、かなり無理もさせている。ちょっと休憩させる。)

正太郎。ふう。目が回りそうだった。

サクラ。あら、あの程度で目が回るの?。まだまだね。

正太郎。サクラこそ、あしもとふらふらじゃないか?。無理するなよ。

サクラ。無理なんかしてません。この意地っ張り。

正太郎。やれやれ、どっちのことを言ってるんだ。

伊勢。ストップ。君たち、威勢よすぎ。もう、けんかになったらどうするのよ。

奈良。注文通りに性格が調整されている。

清水。怖いほど。

伊勢。次は連係動作よ。失敗したら、地上に被害が及ぶ可能性あり。しっかりしてよ。

正太郎。分かりました。

サクラ。ちゃんと正太郎に合わせてあげるから心配いらないわ。

正太郎。付いてくるんだぞ。

サクラ。フォローするのはこっちよ。

伊勢。まあた、あんたたち。どっちがフォローでもいいから、目的を達成してちょうだい。空中衝突なんかしたら、承知しないわよ。

正太郎、サクラ。はい。

 (ラグビーボールみたいのやら、フリスビーみたいなのやらを使って空中でキャッチボールする。事前のけんかしそうなやり取りとは別世界で、みごとに協調している。現実の永田と関とそっくりだ。)

清水。似ている。あの2人と。

奈良。ああ、送った資料が詳しく分析されたみたいだ。

 (正太郎の翼が破壊されたとのシミュレーションでも、サクラが正太郎を抱きかかえて茂みにうまく着地する。そして、2機ともすぐに行動できた。すばらしい。でも、案の定、そのあとでけんかしている。)

正太郎。あのな、もっとうまくつかんでくれ。姿勢制御が難しかったぞ。

サクラ。あなたが暴れようとするからよ。さっさとこっちに身を任すのよ。

正太郎。おまえをだっこしろと言うのか。

サクラ。おげー、変な表現するなっ。だーれがだっこしてほしいもんですか。

伊勢。もうやめっ。空中でけんかしなかったことはほめてあげる。奈良さんっ、この尾ひれ、なんとかならないの?。

奈良。何となく面白いが、だめかなあ。

伊勢。うむむ、あまりにベタベタでも気味悪いか。

清水。タロとジロで飽きた。

鈴鹿。うん、微調整するくらいにしてよ。

 (けっきょく、正太郎のほうが先にあきれて折れる設定にした。現実もそうだろう。関はとても頭の切り替えが速い。くよくよなんかしない。正義感が勝ってしまうのだ。サクラはもともとそうなっていたようだ。)

伊勢。性格に気を取られていたけど、航空機としての性能はどうなんですか。

主任。自分で言うのも気恥ずかしいけど、よくできています。ステルス性はないけど、小さいし、ちょこまか動くから相手にとっては厄介でしょう。低速度でふわふわふと飛べるし、十分に高速も出るし、高空にも耐える。すばらしい航空機です。

志摩。ロケットが必要なのは水中発射とか垂直発射とか。

主任。そうです。必要なのは走るほどの速度。少し強い風が吹く程度でもOKなんですけど、揚力が必要。進行波ジェットだけでは垂直に上昇できません。

志摩。垂直に上昇できるのは3回まで。

主任。そうなります。入れ替えは簡単なので、ロケットが手に入れば、どこでも交換できます。

清水。もともと実用性の低いびっくりメカが、とんでもない性能になった。

主任。前回役立ったように、考え方は優れていました。シミュレーションしましたけど、この姿でも救出可能です。

 (この前とは、移動メカから約3km離れたトラックがミサイル攻撃を受けたときに、運転手を引き出して、第二波のミサイル攻撃をかわした時のことだ。速度が必要だったのだ。)

伊勢。強度は大丈夫ですか?。

主任。やはり実測してみるものです。若干改良します。時間はかかりません。

 (明日、もう一度飛ばしてみることになった。)

主任。午後からはウマ型とロボ型を調整します。

 (昼食。モノリス本体を小脇に抱えた正太郎と、同じくピナクス本体を小脇に抱えたサクラといっしょに食堂に行く。)

清水。翼なしか。これだけでも役立ちそう。

志摩。本体はリュックかなんかに入れた方が安全。

伊勢、背中でなく、前方に抱えさせた方がいい。袋を考えてみる。

鈴鹿。リリとうまくやれるかな。

奈良。呼んでみよう。

 (ほんの3分ほどして、リリが来た。)

リリ。こんにちは。モノリスとピナクスの新しい姿。誰の趣味よ。

伊勢。正太郎は清水さん趣味。サクラはオタク任せ。

リリ。正太郎、かわいい。サクラはいつもいっしょなの?。

サクラ。そうよ。生意気だけど、かわいい。

正太郎。おれ、凛々しくしているつもり。かわいいのか。

サクラ。そうよ。かわいいわよ。ネコみたいな虎の子って感じ。

リリ。タツノオトシゴみたいな子どもドラゴンとも表現できる。

 (女二人で男一人を攻撃している。ありがちなパターン。)

正太郎。ふん、俺の活躍を見て驚くな。

サクラ。はいはい、わかったわかった。大丈夫よ、わたしが付いているから。

リリ。面白い仲ね。で、呼ばれたのは何の用?。

奈良。正太郎とサクラの感想を聞きたかったのだ。

リリ。そうね。仕事仲間。自分たちではしかたなく付き合っているんだけど、周りから見ると抜群のコンビ。うらやましい。私もパートナー欲しいな。

サクラ。へっへーん、残念でした。正太郎とはペア組まされているの。

奈良。最初は、正太郎はリリの弟の予定だったのだ。自動人形の増産の話の前だから、現実性は無かったけど。

リリ。お兄さんの方がいい。私はかわいい妹。

清水。高校生のお兄さんか。

鈴鹿。ちょっと両親が若い感じがするけど、いいか。

リリ。私は今は一人っ子の役。

奈良。そうだな。希望は部門長に伝えておく。

リリ。ありがとう。

 (自動人形で仲が悪いというのは見たことがない。まだ、数が多くないからだろう。リリとサクラと正太郎もうまくやっている。連係動作となると、また話は別だが。)

第10話。モノリスとピナクス。41. 改造されたモノリスとピナクス

2009-06-22 | Weblog
 (飛行機を乗り継いでID本部のあるヨーロッパの小国、Y国に到着。空港に、例の航空部門の技術主任とエスとリリが来ていた。)

主任。お久しぶりです。フィニティ計画を任されてしまいました。ようこそお越しくださいました。

伊勢。お迎え、ありがとうございます。その分ですと、あまり歓迎されていない。

主任。滅相もない。でも、たしかに、よく分からない部分がありました。勝手にこちらで決定した事項が多いので、満足していただけるかどうか。

 (口調で分かる。伊勢を怖がっている。たしかに、逆らうとろくなことはない。)

リリ。お久しぶり。ご活躍のようね。ああ、私も東京にいたかった。存分に暴れられたのに。

 (などといいなから、ヘビ付きの南アジア風少女がにじり寄ってくる。案の定、するする、っとエスが先に駆けつけて私の腕に飛び込んだ。左右の頬を軽く合せてあいさつする。ちょっとなでてやる。)

エス(会話装置)。お久しぶりです。楽しい自動人形を開発されたそうで、楽しみです。

 (うむ。何しろ小さめといえ、体長2m、体重20kgの色彩豊かなニシキヘビだ。それほど大きくない空港。それほど大きくない到着ロビー。軽く悲鳴をあげるおばあさん、目をむくおじさん、母親にしがみついている男の子。原因は一つだ。
 エスは満足したらしく、私を降りて鈴鹿に巻き付く。大切にしてもらったことを覚えているのだ。鈴鹿もちょっと頬寄せている。)

リリ。あーっ、エス。抜け駆けずるい。

 (などと理由をつけて、リリも私をかるく抱く。そして見上げる。撫でて欲しいわけだ。妙なことを言わない先に。少し肩を抱く。でも、無駄だった。)

リリ。パパ。寂しかった。周りの人はとても親切だったけど、世界に一人のパパを待ちこがれていたの。

奈良。パパってだれ。あっちの大きな影は気のせいか。

リリ。あれは育ててくれたお父さん。私を生んだわけじゃない。

 (私が生んだわけではないのだが。主任と他の4人、あきれて、ただ成り行きを見守っている。こいつらは。でも、ほんの10秒だった。しがみついていたのは。すっと離れて、当然のように志摩の腕を握る。)

リリ。志摩兄ちゃん。お久しぶり。相変わらずかっこいい。リリのお気に入りよ。

 (志摩はちょっと照れている。当然、鈴鹿がにらみつけている。亜有がちょっと笑っている。)

清水。いつもながら、演技が長いわ。もういい?。エス、リリ。満足したら、出発よ。

エス、リリ。はーい。

 (ジャックとクィーンが来て、荷物を運んでくれる。人間でも可能な範囲だが、それでも怪力だ。ID社のロゴ付きの小型バスに移動する。)

伊勢。大魔術団とか言われません?。

主任。よくご存じで。よりによって、自動人形の中でも屈指の特徴ある集団らしいです。世話係は2人なんですけど、かなりのストレスみたい。部門長のお気に入りだし、優秀さも世界屈指で活躍してくれるから、手放す予定もなし。加えて、一部オタク集団には気に入られていて、衣裳は派手だわ、動きは日々改良されるは、手に負えません。

伊勢。今はおとなしそう。服は救護服だし。

主任。くれぐれも粗相がないようにと、部門長から厳命があったようで、このかたちにやっと落ち着いてくれたのです。

奈良。予定は?。

主任。本日は休日だから、本社は休み。直接工場へ行っていただきます。本日はモノリスとピナクスの外観のチェックのみ。明日から調整です。調整が終わったら、部門長が工場に来るはずです。

鈴鹿。亜有、あのビルがID本部。簡単な修理部門とか以外は事務部門がほとんどを占めている。

清水。あそこで、一年前に情報収集部が結成された。

鈴鹿。そうよ。会議室で。

 (クルマは高速に乗り、郊外にあるID本部航空部門の工場を目指す。しばらくすると、青い空、気高い霊峰、すばらしい光景が現れてきた。)

清水。自然が豊かだわ。

鈴鹿。そう。でも、結構史跡もあるみたい。

 (工場に着く。どういうわけか、20人くらいの集団が待ち構えている。)

主任。あれほど言ったのに。オタクどもです。目当ては…。

伊勢。当然、RPG 3人組み。

清水。ええーっ、私たちですか?。

主任。そうですよ。日本で評判とか言うので、見に来たみたいです。

清水。評判と行っても、オタク文化圏内のみ。中核はほんの50人程度。世間には全く認知されていない。

主任。それじゃ、猛烈に誤解されています。日本で人気のアイドルの扱いです。

 (日本のおくてなオタクと違い、クルマを降りたら、鈴鹿も亜有も握手を求められる。志摩なんか、女性ファンが近づいて、心なしかうっとりされている。リリがにらみつける。もう、どうにでもしてくれ、の感じになりつつあった。主任がまとめてくれた。)

主任。じゃあ、モノリスとピナクスの確認に同行させましょう。よろしいでしょうか。

伊勢。断れないようね。いいでしょう。専門技術集団だし、何か欠陥でも指摘してくれたらもうけもの。

主任。その点は信頼できます。彼らの機械を見る目はまた一興ですよ。

 (格納庫に移動する。モノリスとピナクスがいた…。そのはずだ。色はしっかり、そのまま。)

清水。外見が丸まっている。

 (どちらかというと、新幹線とかの鉄道の感じだ。ごついし、めちゃくちゃ重そう。)

伊勢。日本の公道を走れるんですか?。

主任。走れます。異様ですけど。

清水。まさか、潜れるとか。

主任。さすがです。水深200mまでOK。水深20mまで浮上して、円盤型、ロケット人間、白鳥型を空中に発射できます。水中では蓄電器を使用。シュノーケルで燃料電池を動かして充電できます。

清水。そういうの、潜水艦というはずです。どなたの趣味ですか。

主任。部門長です。

伊勢。やっぱり。ちょっとドジった。任せすぎた。奈良さん…。

奈良。ああ、攻撃兵器だ。どう言い訳しようとも。困ったな。部門長と対策を協議しよう。

主任。どれからでもいいですけど、円盤型から見ましょうか。発進お願いします。

 (屋根から円盤型がわずかな空気音とともに発進する。オタクどもがほーっとうなっている。4本づつの腕と足が出て着地。手を振って挨拶などをする。)

清水。いくら見ても不気味。こちらもちょっと丸まったみたい。

主任。軽く水中を潜航できます。空中の航続時間と積載量はどうにもなりませんでした。空中の活動ははったりです。かといって、水中も地上も中途半端。もともとのコンセプトに無理がある。

奈良。活躍はしてくれました。

主任。ええ、貴重なデータでした。役立つという意味では、使えると思います。

 (次はロケット人間だ。発射時には爆音がする。でも、音が違う。本物のロケットのようだ。そして、翼を持った少年と少女が垂直に飛び上がる。ロケットは停止し、進行波ジェットに引き継がれ、音もなく格納庫内を旋回。台形の翼は差し渡し3m弱もある。)

全員。おおおーっ。

 (こちらに来たかと思うと、本当にうまく着地する。ヘルメットをしている。そして、なぜかモノリスは救護服の上から虎の衣裳、ピナクスは豹の衣裳をしている。)

奈良。虎と豹はなんですか。

主任。アンドロイド部を空中で支える部分です。

伊勢。送った写真が悪かったみたい。

 (思い出した。虎之介と関が仮装している姿を模倣したのだ。
 翼がたたまれる。ヘルメットも収納され、ちょっと大きめの背嚢になる。降りたアンドロイドは、背嚢になった本体を外す。現れたのは、13才の設定の正太郎とサクラ。)

鈴鹿。うわー。もろにショタコン、ロリコン趣味。

 (正太郎(モノリスの他動人形)もサクラ(同ピナクス)も救護服なのだが、色合いを工夫していて、一見半ズボンと超ミニスカートに見える。オタクどもの視線が変わった。完全に日常を離れた雰囲気。)

主任。頭脳がない以外は、リリとほぼ同じ能力を持ちます。

 (本体は本体で、自力で多少移動できるようだ。少々不気味。通常はアンドロイド部がかつぐことになる。アンドロイド部は本体でないことを強調するために、やや無表情にしている。髪の毛は金属光沢があって銀色なのだが、正太郎はわずかな青、サクラはわずかな紫に着色されている。リリとは大違いだ。
 担いだまま本体から翼とヘルメットを展開するとロケット人間のできあがり。そのまま移動メカに戻す。
 次は白鳥メカ。これは無難だった。メカ白鳥は普通に発進し、普通に着陸。ぺたぺたと少々歩いて、また飛び立つ。)

清水。なんだかほっとします。

伊勢。積載量が増えていたはず。

主任。試しますか。

 (荷物室を抱えさせる。カタパルトで発進。なんかあれだ、赤ちゃんを運んでいるコウノトリ。)

伊勢。コウノトリの方が良かったかな。

主任。その意見はありました。でも、水中に潜るので、白鳥しかないか、との現在の結論です。

 (恐竜型を試す。これは従来と変わらない。しかし、オタクどもは動きに見入っている。たしかによくできている。)

奈良。騎馬型発進。

 (移動メカからウマ型とロボ型が現れ、騎乗する。楯は無く、その代わり頑丈そうな小手をしている。刀ではなく、短くなった砲と大型の拳銃みたいなのを備えている。擲弾筒らしい。一応、消火剤発射器と消火弾発射器のようだ。あたりを一周する。ロボ型が降りる。わざわざ砲と筒を構えて、お決まりのポーズをする。
 顔を覆っていたヘルメットを脱ぐ。現れたのは、元のモノリスというより永田の面影のある精悍な美男子と、関の面影のある精悍な美女。)

モ。少しごぶさたしていました。いかがですか。

ピ。再びお会いできました。うれしいです。

 (うむ。着ぐるみはどてらになるかと思ったら、オタクどもの入念な調整らしい。やたらかっこよくできている。着ぐるみは簡単に外れ、銃や馬具とともにケースに入れ、ウマ型に装着する。残ったのは通常の救護服を着た男女。モノリスとピナクスだ。うーむ、救護班というより、警備に見える。ジャックとクイーンとはまた違う、機動班の感じ。
 オタクどもの要望により、再び防具とヘルメットを装着。覚えたてのポーズをいくつも披露する。)

清水。うわー、できすぎ。すさまじい完成度。

伊勢。おちゃらけ部分は。実用部分の調整はまだ。でも、たしかにいまでもほぼ完成。

主任。満足していただけましたか。

伊勢。ええ。大丈夫。明日からは微調整で済みそうです。

主任。では、移動メカの中をチェックしてください。

 (モノリスの中に入る。デザインは調整されているが、機能はほぼ同じ。快適だ。十分に潜水調査船として使えそう。オタクどもも招き入れる。さすがに機械を大切にするやつら、丁寧に扱っている。こういうところは好感が持てる。)

 (後は伊勢と主任に任せ、久しぶりにジャック親子と探索に出かける。主任がカートを用意してくれた。冷える。氷点下だろう。でも、沈みかけの三日月が出ていて星空がきれいだ。)

ジャック。よく来ていただきました。みなさんと活躍した頃を思い出します。

クィーン。懐かしいです。

 (人間のような懐かしい感覚はないから、こちらに合せてくれているのだ。応えないといけない。)

奈良。ああ、日本では事件解決で大活躍だった。こちらでは宇宙開発に専念しているのか。

ジャック。リリたちとともに、航空機全般の調整に使われています。モノリスとピナクスの調整にも、参考として利用されました。

奈良。移動メカ内の配置とか、ウマ型の調整とか。

ジャック。そうです。私もクィーンもリリもウマ型に乗れます。

リリ。エスもね。さっそうと手綱を引いて、面白いんだから。奈良さんもぜひ見たらいい。

 (ふむ。たしか本物のウマは大型のヘビを見るとパニックになったはずだ。たしかに面白そうだ。)

奈良。ああ、面白そうだ。興味ある。

リリ。へへっ。奈良さんはいい。いちいち答えてくれるもん。私ってうるさいの?。

奈良。うるさいけど、リリはそれがいいんだ。やめる必要は無い。

リリ。鈴鹿さんや伊勢さんが慕っている理由が分かる。

奈良。どう関係するの?。鈴鹿や伊勢はうるさくない。

リリ。でも、どぎつい冗談をかますでしょ。時々なんてもんではなく、しょっちゅう。

奈良。そうだ。この前もえげつなかったな。男を魅了するフェロモンの開発だったか。

リリ。そんなのあるの?。リリ、欲しい。使ってみたい人、いるもん。

奈良。志摩なら残念、効かなかった。もともと、フェロモンがあるというのはうそくさい。

リリ。何だ。あったらリリの分子シンセサイザーのレパートリーに入れてもらったのに。男をイチコロ。ふふ、面白そう。

 (放っておくといつまでもしゃべる。発言の後半はまるで意味がない。喜ばせてくれているだけだ。でも、そう考えるとけなげだ。)

奈良。久しぶりだが、やっぱりリリには魅力がある。いい機体だ。あえてよかったよ。

リリ。リリも。また事件で活躍したい。ここの生活も面白くていいけど。

 (時差の関係で相当に眠い。戻ったら、すぐに眠りそうだ。)

第10話。モノリスとピナクス。40. ID本部航空部門へ

2009-06-21 | Weblog
 (正月中旬の日曜の朝。情報収集部の4人と亜有は空港に集合。ID本部に向かうためだ。
 モノリスとピナクスは、先週にはID社の輸送系で着いていて、できるところから改造されている。
 亜有は海外旅行は何度目かなので、慣れたもの。鈴鹿と談笑している。)

清水。鈴鹿さんも海外旅行の経験がある。

鈴鹿。ことごとく仕事だったけど。でも、休暇はある。街には出られる。

清水。そうか。何となく分かる。じゃ、奈良さんたちも。

奈良。私と伊勢は軍の経験もあるが、学会出張とか会議とかが多いんじゃないか。

伊勢。つもり積もって、いっぱい行ったわ。

清水。私もそうなるのかなあ。

鈴鹿。そうしてよ、亜有。純粋の数学者になってよ。

清水。それにはよほどの運と能力が必要。私には夢の夢。

志摩。厳しいんだ。

清水。それに…。のし上がるには、結構政治家にならないといけないみたい。それもつらい。

鈴鹿。何を言っているのよ。私からみれば贅沢な悩み。それは分かるでしょ。

清水。ごめんなさい。気に触ったかしら。

志摩。清貧に徹する道もある。

清水。そうね。実践している人はいる。見るからに哀れ。でも、本人はきっと幸せ。

伊勢。最初からしんみりしてしまった。ええと、何かいいことあったっけ。

奈良。まず、一部を除いて食べ物がうまい。

清水。うん、ひどい目に遭ったことある。そう、それは楽しみ。

奈良。次に、なぜか心意気が日本人と合う。

伊勢。結果的にはね。くそまじめで豪快で、文化的背景は全く違うのに。

清水。それも楽しみ。

奈良。文化的施設がいっぱい。歴史のある国々。

清水。国宝級の美術品が拝めそう。コンサートに行けるかしら。

伊勢。頼んでみる。ご自慢の楽団の定期公演。うわあ、贅沢。

志摩。亜有は豊かな生活しているんだ。

清水。おかげさまで。平和な世の中を楽しんでいる。

鈴鹿。うん。私も。よかった。

 (で、私(奈良)と伊勢はビジネスクラス。亜有と志摩と鈴鹿はエコノミークラス。うむ、会社も階級世界だ。)

清水。でも、こっちの方が映画はシアター気分だもんね。

鈴鹿。そうよ。映画って、こうしてぎゅうぎゅう詰めで楽しむもの。あっち行ったら、途中で眠っちゃう。

志摩。プログラムは、と。メインの一本目はE国のお笑い映画。楽しめそう。

鈴鹿。ふん、志摩はお笑いファンだからね。どうせ笑うかどうか躊躇する、えげつないギャグが続出するんでしょうが。

志摩。うん。A国なら上映禁止だ。

清水。そこまでは行かないと思うけど。沈黙はすると思う。

鈴鹿。いや、抗議の嵐。スクリーンに腐った卵とかトマトとか投げつけられそう。

 (そのA国のアニメが始まった。お子様向けらしい。あれだ、ネズミの出てくるやつ。)

鈴鹿。けっこうえげつないじゃない。

志摩。そりゃあ、チャップリンを世に出した国だもの。

清水。でも、理不尽さは無い。

志摩。そう、不気味さが無い。合理的。

清水。日本のアニメはどうなんだろう。

鈴鹿。さあ、全部は知らないけど、少なくとも理解不能で神秘な部分があるとは言っていた。

清水。誰が?。

鈴鹿。友達。詳しくは、まだ言えない。

清水。いいわよ。だいたい想像できる。私にとっての虎之介さんのようなもの。

志摩。そう思っておいて。

第10話。モノリスとピナクス。39. 乗用車炎上

2009-06-20 | Weblog
警官1。無事にすみました。よかった。

クロ(会話装置)。蛇行している車が来た。

 (見ると、公園の前の道路をこちらに向かってふらふら蛇行して来るクルマがいる。)

警官1。飲酒運転でしょう。何でよりによって、わんさか警察官のいるところに。

 (当然、3人ほど警察官が飛び出して制止しようとする。ところが、バカな運転手で、振り切ろうとして、逆にアクセルを踏んだみたいだ、あるいはブレーキと踏み間違えたか。)

警官1。無謀だ。

 (飛び出した警官はうまく逃げたが、クルマの方は道路脇の地下鉄の入り口に激突、炎上してしまった。)

奈良。A31、モノリス、ピナクス、炎上したクルマに急行せよ。生存者を救出。

 (自動人形たちは現場に駆けつける。モノリスとピナクスがドアをこじ開け、乗員を引っ張り出す。タロたちが次々に状態を確認し、駆けつけてきた警察官に知らせる。幸い、ショックで気を失っているだけだった。もちろん、直ちに交通を遮断。誰かが消火器を持ってきて鎮火。さすがに警察、手際がよい。救急車の到着を待つ。)

警官1。戦闘ロボが役立った。あのままだったら焼死していたかもしれない。

伊勢。初めてです、こんなこと。

警官1。ロボットがとっさに判断したように見えましたが、それでいいんですか?。

奈良。その通りです。視覚情報などから人工知能が動作のプログラムを決定して実行する。一瞬で決まってしまいます。

警官1。みごとだった。まるでおとぎ話を見ているようだった。

 (モノリスとピナクスとA31を呼び寄せる。幸い、モノリスとピナクスには障害は無いようだ。ほっとしていたら、わらわらと警察官が集まってきた。)

警官4。大したものだ。ロボットが人を救出した。

警官5。そのロボットは救出用。

奈良。ここにいるのは、みな救護用に開発されたロボットです。必要に応じて、救出などの動作もします。

警官4。あなたが操縦したのですか?。

奈良。指令を与えれば、自動的に目標を達成する動作を開始します。

警官5。駆けつけて救出せよ、と命じただけ。

奈良。ほぼその通りです。動作を確実にするために、もう少し詳しいのですが、基本的にはそれだけ。現場では、ロボット自身が状況を判断して行動します。

警官4。自律ロボット。

奈良。あくまで、瞬間瞬間の動作に関して。行動目標を与えないと、何もできません。

警官5。要は、意志はない。その意味では人間が動かしている。

奈良。そうなります。イヌに命令するのと感じは同じです。

警官1。主人の命令を実行しようとする。なるほど。よくできたロボット。それで抱いているのですか。

 (気付いたら、モノリスとピナクスの肩を抱いていた。)

伊勢。大切な大切なロボットですもの。ね、奈良さん。

奈良。ああ、そうだ。

 (ほとんどの人が爆笑した。あまりに私がかわいがっているので。例外は、亜有と安藤さん。)

警官1。なんて勇敢でけなげなロボットたち。

清水。そうですよ。いくら耐火性のある防具をまとっていたとは言え、炎上しているクルマに突入した。怖かったんじゃないかしら。

モ。大丈夫です。ご期待に添えたようで、私は満足しています。

ピ。あの人たち、助かってよかった。なによりです。

 (もともと自動人形はヒトの琴線に触れる言い方をするのだが、さすがに第一線で活躍している警察官、自分たちの活動と重なったらしく、ちょっと感動している。)

警官4。おれたちにできるお返しがあるかな。

警官5。胴上げしたら喜ぶのかな。

奈良。みなさんが喜ぶと、ロボットも喜びます。よかったら、胴上げしてやってください。

 (モノリスとピナクスを一体ずつ胴上げする。降りたモノリスとピナクスは、習ったばかりの勝利のポーズを何度もする。)

警官1。ロボットがうれしがっている、と考えていいんですか?。

奈良。そうです。ストレートにそう感じたとおり、ロボットも感じているはずです。

伊勢。正確に言うと、周囲の人間が喜んでいるので、反応しているだけ。でも…。

警官1。私たちも、その反応で相手が喜んでいるかどうかを判断するしかない。うまくできている。

 (それからというもの、何人かの人はA31とモノリスとピナクスに気軽に声をかけてくれるようになった。自動人形は、そういう心意気はすぐに分かるので、会釈したりする。よく考えると相手は機械なので、多少不気味なはずだが、何となく私と伊勢の説明に納得してくれたようだ。
 翌日はとどこおりなくキャンペーンは終わった。けまりは用意したのだが、みんなで羽根突きに熱中してしまい、出番はなかった。安藤さんと数人の警察官は別れを惜しんでくれた。モノリスたちといっしょに、A31もポーズを取ったのは言うまでもない。)

第10話。モノリスとピナクス。38. 交通安全キャンペーン

2009-06-19 | Weblog
 (黒い石盤のような自動人形、モノリスとピナクス。その外観の改造方針が決まった。でも、欲張りすぎて年を越すことに。それとは別に、関の紹介で、地元警察の年始の交通安全キャンペーンに参加することになった。)

 (正月5日。正月気分を引き締めるために、地元の警察が公園の一角で交通安全キャンペーンをやっている。そこに、A31とモノリスとピナクスが参加することになったのだ。本来は、いつも警察の施設を利用している永田と関が行く予定だったのだが、両人とも財務省の行事で地方へ行っている。そこで、美女の関の代替ということでアンが指名されたのだ。晴れ着をもらったアンは大はりきり。タロとジロにも紋付羽織袴を着せる。クロも紋付袴の格好。大型ネコだから、似合ったりする。亜有も晴れ着にて参加。羽根突きとけまりによる大道芸と、書き初めによるチャリティーの予定。
 自動人形にはコントロールする人間が必要なので、伊勢と私も付いて行く。私はと言うと、あれだ、またもや大名サンバのかっこうをさせられている。伊勢は普通に着物?。でも、さっそく亜有に指摘される。)

清水。伊勢さん、なんですか、そのさりげなーい足元のスリットは。アンまで。

伊勢。だって、普通の着物じゃ走れないもの。さしものアンだってずっこけるわよ。婦警さんのスカートが短いのと原理は同じ。

清水。原理は同じって…。

アン。これなら走れる。救護ができる。

清水。ま、まあ、漫画に出てきたミニ着物よりはましか。

 (でもって、人間3人と自動人形4+2体で現地に行く。待っていたのは、人の良さそうな警察官。)

警官1(男性)。お待ち申しておりました。私、地区警察の交通部の安藤と申します。今日と明日の二日間、みなさんの案内役を仰せつかりました。よろしくお願いします。

奈良。よろしくお願いします。

警官1。みなさまの日頃からの警察活動へのご協力に関しましては、上司から重々聞いております。大変な活躍をなさっているとのこと、ご苦労様です。

伊勢。あの、そんなに固くならなくても。当方は私企業の調査部門。こちらこそ、最前線で活躍なさっているみなさまにはいつもご厄介になっています。ありがとうございます。

警官1。こちらこそ、ご負担をかけているそうです。ありがとうございます。ええと、そちらが自律ロボットですか。普通に話できる。

奈良。事実と単純な喜怒哀楽に関しては。しかし、人間のような思考は無いので、複雑な質問をすると、分からないと言うか、またはとんちんかんな答えをします。

タロ。タロと申します。よろしくお願いします。良いお天気です。

警官1。はは、良いお天気です。同感です。

アン。私はアンと言います。安藤さん、リラックスして。子供が逃げて行きますよ。

警官1。ええ、努力します。

 (ジロとクロもあいさつ。クロには会話装置を付けている。安藤さんは律儀に答える。とことん真面目な警察官らしい。)

警官1。あの、そちらの戦闘ロボ風の格好のもロボット。

伊勢。ややこしい話してすが、戦闘ロボ風ロボットです。

モ。モノリスと申します。よろしくお願いします。

ピ。ピナクスと申します。よろしくお願いします。

警官1。はは、着ぐるみとかでは無くて、本物のロボット。

伊勢。戦闘能力などまるでなし。普通の本物のロボットです。

警官1。その楯は本物。

奈良。一応頑丈にはできているみたいです。ここにいるロボットは、みな救護用ロボットです。楯は落下物を避けたりするためのもの。

警官1。で、その大砲みたいなのは水鉄砲とか。

伊勢。よくお分かり。消火液などの発射器です。

警官1。出初め式にぴったり。

伊勢。基本的に飾りと思います。役立ったことない。一応使えないと、会社から開発費用が出ない。

警官1。いろいろ事情がおありのようで。わかりました。でも、子供には受けそうです。

伊勢。明らかに受け狙い。私たちも興味があります。

警官1。そうか。ポーズができたら最高。

奈良。やってみてくれるか。

 (モノリスとピナクスは、2台で示し合わせたように、勝利のポーズを取る。)

警官1。真に迫っています。

伊勢。開発者は日本のアニメファンみたい。事情通によると、いちいちパロディに見えるそうで。

警官1。私、僭越ながら事情通です。

伊勢。あら、じゃあ、ご指導よろしくお願いします。

警官1。まかせてください。ああ、よかった。つまらない仕事だと思ったけど、思わぬ収穫。幸運だった。はりきってやってみます。

 (どうやら、この安藤さん、かなりのマニアらしく、さっそくモノリスとピナクスにポーズを教えて喜んでいる。自動人形も自動人形で、他人が喜ぶと自分もうれしいから、一生懸命修得しようとする。結局、暇を見つけては教え込まれたため、50ポーズほども訓練されてしまった。)

伊勢。よかったですわ。さすがに、事情通。以前のポーズがおもちゃに見えます。

警官1。そうですね。格好はよかったけど、やはり、間のとり方とかは写真では分からない。そのあたりの詰めが弱かったようです。

 (ううむ、ここまで来るととても付いて行けない。で、亜有の方はとっくに離れて、A31とグループ羽根突きを楽しんでいる。クロも両前足で羽子板を駆使している。)

警官2(女性)。面白そう。ねえ、私も加えてくれる?。

警官3(女性)。私も。

 (なんてことやっているから、タロとジロはしっしっし、と追い出されてしまった。)

タロ。見ているだけになりました。

奈良。本来、女性の遊びだからな。

ジロ。あれは、音がいいんですか?。

奈良。縁起物だ。たしか、羽根が飛んでいるのに意味があったはずだ。

タロ。つまり、お祝いのための行動と。

奈良。そうだ。

 (いちいちキャーキャー言って羽根突きするので、目立つこと。道ゆく人を吸引して、キャンペーンは大にぎわい。でも、さすがに30分も羽根突きすると疲れる。休憩に入った。)

清水。ふうーっ。結構な運動量。さすがに警察官、敏捷だわ体力あるわ、まだまだやる気だったみたい。

伊勢。ご苦労さん。後は自動人形でできる。ちょっと休ませたら書道。

 (標語は予定通り、アドリブ無し。パネルから標語を選んで、A31に書かせる。標語にはちゃっかり財務省用のも入っている。しかし、指名する人は少ないだろうから、練習がてら書いて貼り付ける。次に、キャンペーンに因んだ標語を書いて、ストックしておく。すぐに持って帰りたい人のためだ。クロも器用に筆を操る。ネコ字に見えるように、工夫している。
 墨が乾いたら亜有が丸めて客に渡す。料金を受け取ってベルを鳴らす。その度に、モノリスとピナクスがポーズを取るのだ。通りかかった子供らがきゃっきゃ言って喜んでいる。)

伊勢。意外にタロとジロが人気ある。和風の名前だからか。

奈良。クロは商売関係のリクエストが多いようだ。

伊勢。招き猫。

 (最初、クロは「黒猫」と署名した後に、足形のようなサインを筆で入れていたのだが、アイデアマンがいて、即席でネコの足形のゴム判を作ってしまい、朱肉で押すことにした。これが受けたようで、「商売繁盛」「千客万来」「開運招福」「金運上昇」などというのがよく売れる。しかし、チャリティーとは言え、警察が商売繁盛、金運上昇だけなのも変なので、交通安全の文言を入れることにした。)

警官1。ふー、なんとかつじつまが合う。交通安全で金運上昇。

伊勢。大切なことです。そのとおりですよ。

警官1。そうか、たしかに。街の人々の財産を守っているんでした。

 (視察に来た署長にもそのように説明したようだ。何とか納得してもらったようだ。
 結局、もう一回羽根突きして、書道して交通安全キャンペーン一日目が終り。)

第10話。モノリスとピナクス。37. 付属水族館、5日目、早朝の攻防

2009-06-18 | Weblog
 (午前1時。クロが亜有をゆすり起こす。動きがある、というのだ。)

クロ。着替えた方がいい。

清水。そうする。

 (亜有はスーツに着替え、モニターを見る。潜水艦が浮上しはじめたようだ。)

清水。でも、変。これ、アクティブソナーじゃないの?。なぜ相手方が無防備に浮上するのよ。

クロ。周波数拡散技術を使っている。相手にはごく弱い雑音としか分からない。周知の技術のはずだが、そんな高度な仕掛け、こちらが持ってないとなめているのだろう。

清水。奈良さんには知らせたの?。

クロ。伊勢さんにも知らせた。それにIFFと、永田経由で軍にも知らせた。駆けつけるはずだ。浮上したら、海上保安庁にも知らせる。まだ沖の方で待機してくれている。

志摩(通信機)。亜有、起きた?。

清水。コンソールの前に座っている。

志摩。クロもいるね。

クロ。ああ、付いている。

志摩。そちらも白鳥メカを飛ばしてくれ。航続距離が長いから、上空で旋回させる。ピナクス本体は、竜型に設置。

清水。ものものしい。

志摩。相手が悪い。先方の準備は完璧のはずだ。

 (伊勢と鈴鹿と、私(奈良)とアンとジロも待機する。伊勢は当然のように分子シンセサイザーを持っている。)

志摩。潜水艦が浮上した。ボートを用意している。竜型のモノリスとピナクス、水中で待機。

清水。白鳥型からの画像。

志摩。ゴムボートに5人か。武器は分かる?、白鳥型モノリス。

モ。各人が自動小銃と拳銃と擲弾を所持。ボートに設置の機関銃。対戦車砲2基。時限爆弾6個。

志摩。念入り。

清水。攻撃する。どこへ。

志摩。こっちへ出発したみたい。月が出ていて見え見えなのに、まっすぐやってくる。少しでも本格的な攻撃をしてきたらおしまい。逃げるしかない。

清水。怖い。

志摩。そこにいたら大丈夫。ピナクスは頑丈にできている。

清水。頑丈って、それじゃ、防弾なの?。冗談じゃない、何考えているのよー。

志摩。亜有。頼むから、文句は後からにしてくれ。外からは誰もいないように見せかけてくれ。

清水。今、そうなっている。

志摩。危なくなったら、必ずクロが反応して守ってくれる。A31を信頼して。

清水。他の選択肢は無いみたい。A31の実力に賭けてみる。

志摩。その意気だ。ロボはウマ型にまたがらせて、移動メカのそばに配置。

 (伊勢と鈴鹿は付属施設の南、海から見ると左に隣接する松林に潜む。私とアンとジロは付属施設の影からうかがう。騎馬隊は海から見ると移動メカの後方に位置している。
 潜水艦は小型だが、しっかり軍事用のようである。甲板に2人出て、2機の小型のミサイルを設置した。突撃班が失敗したら、モノリスとピナクスを破壊するのだろう。冗談じゃない。)

伊勢(通信機)。向こうは決死の覚悟みたい。まともにやり合ったら負け。しかたがないから、こちらから攻撃します。

奈良。そうしてくれ。鎮静剤を使うのか。

伊勢。そう。志摩、白鳥型モノリスから鎮静剤を落下させて、潜水艦の中の人を眠らせて。甲板に2人いるから、潜航はできないはず。

志摩。やりました。

伊勢。じゃあ、白鳥型2機でミサイルを蹴っ飛ばして、水中に沈めて。

 (白鳥型の進行波ジェットは空気音しかしない。背後からふわっと近づき、白鳥型2機でミサイルを台ごと沈める。白鳥型は急上昇、ちょっと見えたかもしれないが、見失ったようで、甲板上の2人は何もできず、ただぼうぜんとしている。潜水艦は浮上したまま沈黙したようだ。)

清水。鎮静剤って、対テロ用。用意してたの?。

志摩。相手が潜水艦だから、いくら何でもこちらの分は悪い。できる範囲で準備した。

 (連絡は途絶えたはずだが、極度に緊張しているのか、ボートは海岸にどんどん近づく。)

伊勢。引き返してくれない。戦闘になる。

奈良。ああ、覚悟がいるな。

清水。覚悟がいるって、こちらはほとんど丸腰じゃない。どうするのよ。

志摩。センサー群はこちらが圧倒的優位。相手の行動は丸見え。直接対面したら不利だけど、今の状況は五分五分。

清水。志摩くん、人が変わった…。

 (ボートはちょうどモノリスとピナクスの間の海岸に乗り上げた。逃げも隠れもしない、堂々たる攻撃態勢。こちらはこそこそ隠れている。
 で、何をするのかと思ったら、2人が自動小銃抱えて、時限爆弾を3個持って、それぞれモノリスとピナクスに近づく。爆破する気だ。)

伊勢(通信機)。八つ当たり。

奈良。ああ、作戦も何も、めちゃくちゃだ。腹いせとしか表現のしようがない。

 (2人は、ボートに爆風や破片の被害が及ばないように、モノリスとピナクスの背後に回って爆弾を置く。
 伊勢がまず、林から見える位置に現れたピナクス側の一人に、一瞬心不全を起こさせる氷の針を発射した。男は音もなく崩れる。ウマを降りたロボ型ピナクスが生存確認し、気がつく前に鎮静剤を投与。眠ってもらう。時限爆弾は幸い、簡単に解除できるタイプのものだった。ピナクスが解除する。ピナクスは自動小銃などの武器を取り上げ、鈴鹿に渡す。鈴鹿は武装した。
 モノリスの方は、男がさらに回り込んだところで伊勢の射程範囲に入ったので、同じ処置をする。志摩は、後方の出口から出て、同じく武装。モノリスには私が入る。これで、攻撃能力もかなり接近した。)

奈良。伊勢、ボートが見える位置に移動してくれ。

伊勢。もう移動した。待機する。

奈良。ああ。

 (ボートに残った3人はちょっと談笑していたようだが、ちっとも2人が戻ってこないのに気付いたようだ。)

班長。2台の車両を破壊する。構えろ。

 (残りの2人が対戦車砲を構えてねらいをつける。間抜けなことに、班長らしき人物は立ったまま。伊勢の格好の餌食になった。同じく薬剤の氷の針を発射。班長は、すっと倒れる。
 ごとっと音がしたので、2人が振り向いた瞬間、竜型のモノリスとピナクスが水中から飛び出て、対戦車砲を引き剥がす。わずかな月明かりで恐竜ロボだ。2人ともへなへなと腰が抜けてしまったようだ。志摩と鈴鹿がかけつけて、武器を取り上げる。抵抗しなかった。
 アンは班長が生存していることを確認し、自暴自棄な動きを防ぐために鎮静剤を打った。
 3人を武装解除し、武器はアンドロイドに付けさせる。ボートを完全に陸に揚げ、残りの2人を運んでボート内に寝かせる。)

清水。アンが完全武装している。

 (亜有が泣きそうな声でつぶやいた。アンドロイドたちは、突撃銃に軍用拳銃、手榴弾を身に付け、当然のように捕虜をにらんでいる。こちらに敵対しているからだ。
 永田と関がヘリコプターでやってきた。万一のため、亜有とクロはピナクスに残す。私は外に出て、永田を迎える。永田も関も、結果にびっくりしているようだ。沖では海上保安庁の船が潜水艦に近づいたが、早々に軍を呼んでしまったようだ。それ以上近づかない。)

永田。これは…。

関。丸腰の人間が軍隊の攻撃をかわしたのか。

永田。そう見える。

関。A31が武装している。見たくなかった光景。

永田。志摩と鈴鹿も。あれが本来の姿なんだ。いつも見ているのは仮の姿。

関。鈴鹿さん…。遠い人に見える。

永田。ああ、軍事組織の人間。おれたちも。

奈良。警察は呼んだのか。

永田。呼んだ。数分で来る。その前に、みなさんの武装解除をした方が良さそうだ。

 (志摩と鈴鹿は武器を永田と関に渡す。A31はそのまま武器を外して置く。
 警察は5分で到着した。攻撃してきた5人を保護する。
 またもやヘリコプターの音に気付いてかけつけた所長が、いぶかしげに警察と永田らを見ている。)

所長。ご苦労さんです。ええと、財務省の…。

永田。永田です。いつもご協力、ありがとうございます。また、会議室を借りたいのですが、かまいませんでしょうか。

所長。今すぐ鍵を開けます。

 (全員会議室に集合。所長は気の毒だがロックアウト。
 永田には軍から潜水艦を制圧したとの知らせが入ったようだ。それを聞いた関が、あまりの事態にショックを受けたらしく、ふらふらになっている。鈴鹿とアンがソファに座らせて介抱している。心なしか、永田も少し震えている。こちらの実力が分かってきたらしい。)

永田。どうぞお座りください。初めからご説明をお願いします。

 (概要を言ってから、詳しく話す。永田は調書のためのメモを取っているのだが、少し震えているらしく、時々聞き返してくる。)

永田。相手はモノリスとピナクスを破壊しようとした。

奈良。そう見えます。時限爆弾、対戦車砲、艦上の2基のミサイル。

永田。一つで十分だ。なぜ、そんなに執念深く。

伊勢。全く分かりません。先日の件と関連あるのなら分かります。

永田。先日の貨物船炎上との関連はあるそうです。潜水艦から証拠が見つかったようです。詳しくはまだ聞いていません。

 (結局、永田から分かったのはそれだけだった。)

伊勢。じゃあ、腹いせ。たまたま海上で見たモノリスとピナクスを攻撃対象とした。あの班長みたいな人、きっと戦闘へりをよこした指揮官です。責任を取らされた。何でもいいから攻撃目標が必要だった。

永田。これじゃ、こちらがわざわざ罠を仕掛けたように見えます。

伊勢。飛び込んで来たのは先方。こちらはほとんど丸腰。罠なんて余裕は無い。

永田。失礼しました。

 (混乱しているようだ。
 結局、何とか納得できたらしく、聴取は終了。館長にあいさつして、関を連れて、さっさと帰ってしまった。
 部屋に戻る。A31と竜型のモノリスとピナクスと、そして亜有がいた。)

清水。なぜ志摩くんは潜水艦がこちらを攻撃してくると考えたんですか?。単にいただけでしょう?。

奈良。志摩が過去の記録を見たら、あの場所に潜水艦が現れたのは発見した直前。海上保安庁は密輸事件の直後なので、にらみを利かせていた。侵入するには潜水艦が良い。潜水艦は例外なく攻撃兵器だ。

清水。つまり、自動小銃の密輸と関係がある。

奈良。そう考えるのが自然。偶然、たまたま、他の用事で海上保安庁の警戒網をあえてかいくぐる、とは考えにくい。

清水。相手にしてみれば、突然何者かが現れ、密輸を邪魔された。ドジを懲らしめるために派遣した攻撃へりは、何と2機とも撃墜。乗員は全員逮捕。

奈良。相手にとっては最悪の結果だ。逃げるか、報復するか。

清水。責任を追及された指揮官は報復することで命乞いをする。

奈良。そんなところだろう。かわいそうに。

清水。それでターゲットを探す。手がかりは少ない。たまたま近くの海上に目立つバスのようなものが2台浮いていた。密輸の発見者かもしれない。

奈良。我々が割り出された。インターネットで調べたら、いま水族館にいる。そう、確実な攻撃目標。言い訳になる。しかし、地上も海上も監視状態。

清水。だから、潜水艦を使った。よくそんなもの用意できた。

奈良。大きな相手だ、ということは分かる。向こうにしても、戦争を開始するのは望まないだろう。どこかで手を打たないといけない。民間企業の車両だ。破壊されても泣くのはその会社だけ。政府も何が起こったのか分からないから事件はうやむや。

清水。あとはさっきの出来事で分かるか。指揮官自ら、勇敢に乗り込んだ。潜水艦では、失敗したときのために、指揮官とその部下を巻き添えにしてでもつじつまを合わせるためのミサイルを用意した。

奈良。推理だけど、そんな感じかな。いきなりミサイル攻撃されていたら、モノリスとピナクスは大破。

清水。私の命も危なかった。とんでもないやつら。人の命をどうとも思ってない。

奈良。相手はこちらが想像する以上に必死だった。周到な軍事攻撃。

清水。奈良さん…。4人で軍隊の攻撃を沈黙させた。あなたがたはいったい何者なの。

奈良。相手はこちらを完全になめていた。相手の実力も分からず、しゃにむに真正面から飛び込んで来たのだ。精神的にまったく余裕は無かったみたいだ。

清水。伊勢さんの攻撃は初めて見た。正確無比。

奈良。今は明かせないが、あれには仕掛けがある。伊勢は射撃の名人ではない。

清水。じゃあ、まだ志摩さんたちには私の知らない秘密がある。

奈良。軍事に関することなら、まだたくさん。

清水。死者は出なかった。

奈良。偶然だ。成り行きによっては、志摩と鈴鹿が3人を射殺していた。

清水。何てこと。

奈良。もちろん、両人とも今の結果にほっとしているだろう。

清水。まかり間違えば、アンが射殺していた可能性もある。

奈良。ああ、そのとおりだ。こちらを守るために。

清水。悪夢。

アン。今回は威嚇しただけ。相手は興奮していて、こちらの言うことをことごとく誤解しそうだった。お互いの立場を分かりやすく示威する必要があった。

清水。ええ、理屈は分かります。アン、もう二度と武装しないで。

アン。あなた方次第。

清水。そう。その通り。私の力が及ばなかった。何もできなかった。いまでもあなた方には軽い武装させているようなもの。そんな必要のない世の中にしないといけない。

アン。期待していい?。

清水。努力する。

アン。期待する。

 (自動人形が寄り添ってきた。怖かったらしい。亜有も分かったらしく、アンとクロを呼んで慰めている。)

清水。すまないことをした。つらかったでしょう。

アン。期待にこたえるまで。

清水。無理しないで、今は。

アン。そうする。

 (しばらく、亜有はアンとクロを抱いていた。こちらも同様。でも5分もしたら自動人形は落ち着いたらしく、休むと言い出した。こちらもそうさせてもらう。亜有はどうするのかと思ったら、再びピナクスの移動メカに行った。気丈だ。不思議な勇気がある。)

 (この一連の事件に関しての後日談はない。向こうにして見れば、ヘリ2機を失い、潜水艦が沿岸警備隊に拿捕される、という平時にはほとんどあり得ない展開。責任者の指揮官は逮捕。さて、これ以上攻撃するか、といったところだろう。ここまできたら偶然ではない。何かからくりがあると考えるはずだ。その通り。考えてもらおう。
 相変わらず虎之介とは連絡が取れず、永田も関も一切しゃべらない。永田の上司とIFFの上司からはねぎらいの連絡を受けたから、悪い方向には行かなかったのだと思う。)

第10話。モノリスとピナクス。36. 付属水族館、4日目夕、打ち上げパーティー

2009-06-17 | Weblog
館長。みなさん、よくやってくれました。自律ロボットのショーは事故もなく終了。観客動員数も倍増。すべてみなさんのおかげです。ささやかな料理を用意しましたので、楽しんでください。ロボットの管理者である奈良治氏にあいさつと乾杯の音頭をしていただきます。どうぞ。

奈良。ご指名ありがとうございます。私が志摩たちの上司、そして自律ロボット、つまり自動人形の管理者の奈良治です。短い時間でしたが、いろいろお世話になりました。部下たちも自動人形も存分に楽しんだようです。ありがとうございました。それでは、乾杯。

全員。乾杯。

 (ビールが出ている。志摩たちもやれやれ、という感じで一口飲んだようだ。自動人形も付き合う。話しかけられると適当に相手している。混迷するような質問はあまりないようだ。自動人形たちはリラックスしている。モノリスとピナクスはロボ型のみが来ている。)

館長。ご苦労様でした。楽しく仕上がりました。ありがとうございました。

伊勢。こちらこそ、楽しみました。ありがとうございます。

奈良。自動人形の訓練の場を提供いただきまして、ありがとうございます。ショーでは部下たちと自動人形はがんばってくれました。何か粗相はなかったでしょうか。

館長。特になかったと報告を受けています。無事終わったようです。訓練の方はいかがでしたか。

伊勢。十分にデータが取れました。満足しています。

 (館長は志摩のところに行く。)

館長。志摩くん、研究の方はどうだった?。

志摩。思い通りのデータは取れました。新発見はなかったように思います。

館長。どちらかというと、方法論の開拓だな。レポートを期待しているよ。

志摩。すぐに取りかかります。

館長。鈴鹿さん、清水さん、協力ありがとう。良かったよ。

鈴鹿。楽しませていただきました。ありがとうございます。

清水。魚といっしょに泳げてうれしいでした。

館長。慣れてくると、魚もなんとなく楽しんでいるように見えました。分かりましたか。

志摩。何回かやっていると、うまくこちらに合せてくれたような気がしました。

館長。それでいいでしょう。よかった。では。

 (館長は忙しいらしく、飼育係をねぎらったら、そそくさと会場から消えてしまった。)

鈴鹿。くたくた。

志摩。ご同様。

清水。二人ともよくあれだけ泳げるわね。私はもう当分ごめんなさいです。

鈴鹿。でも、楽しかったでしょ。

清水。それはまあ、そうだけど。

志摩。また潜りたいだとは思うだろ?。

清水。ええ、何度でも。

鈴鹿。良かったんじゃない。

清水。良かった。悪いけど、私先に眠る。

志摩。ああ、おやすみ。

清水。おやすみなさい。

 (で、なぜか亜有は付属施設の部屋から着替えなどを持って、駐車場のピナクスに入ったのである。もうアロマの香りは抜けている。シャワーを浴びて、パジャマに着替えて、ベッドを出して横になる。一度、キャンピングカーというのに泊まってみたかったらしい。)

清水。ふうん、極楽。よくできている、ピナクス。

ピ。ありがとうございます。今夜はここにお泊まりですか?。

清水。そうしたいから来たの。いい?。

ピ。奈良さんには知らせておきます。伊勢さんにも。

清水。ええ。その方が良さそう。

 (しばらくしたら、クロが入ってきた。)

クロ(会話装置)。邪魔するぞ。

清水。クロ、どうかしたの?。

クロ。護衛に来た。伊勢さんの要請だ。

清水。それは頼もしいこと。よろしく頼むわ。

クロ。まかせろ。

 (ピナクスが移動をはじめた。)

清水。何なの?。動いているの?。

クロ。ピナクスが海岸に移動している。モノリスも移動している。あちらには志摩とタロが中にいる。

清水。何よ、何かの前触れなの?。

クロ。IFFの警戒度が上昇している。念のためだ。

清水。海からの攻撃をかわすため。

クロ。モノリスとピナクスの迎撃能力は無に近い。観測用だ。

志摩(通信機)。亜有。ピナクスにいたんだね。モニターを点けっぱなしにしておいて。念のためだ。

清水。志摩くん。何があったの?。

志摩。昨日、この沖でジロとピナクスを潜らせたら、潜水艦がいた。それだけ。

清水。またフライング。でも、たしかに潜水艦は不気味。

志摩。なにせ、一昨日の早朝のことがあるから、用心しているんだ。

清水。昨晩はどうしたのよ。

志摩。モノリスとピナクスはこの位置にいた。早朝に引き上げた。

清水。そうだったの。ごくろうさん。

志摩。亜有は眠ってくれていいよ。この2台は観測するだけ。IFFが警戒している。大丈夫だ。おれもモノリスとタロにまかせて眠るつもりだ。

清水。うん。そうする。

 (亜有は眠る前にモニターをチェックすることにした。まずは、可視光と赤外線のカメラが稼働している。対岸の明かりも見える。光学アレイ付きだ。さらに、水中の様子が分かる。何かの観測装置が海中に出ているようだ。ピナクスのすべてのメカは、すぐに出動できるようだが、作戦中は通常のことのようだ。クロは大あくびしている。とりあえずの脅威は無い、ということだ。
 ゆっくりと湾内の様子を見て行く。少し出口の方向の、やたら水深の深い地点の海上に、海上保安庁の船がいる。明らかに湾内の動きを伺っている。他には目立ったものは無いようだ。
 水中は、ソナーの映像らしく、10秒くらいことに画像が更新される。5kmほど沖までが観測されているようだ。魚群か何かは映っている。ピナクスの人工知能は、異常とは判断していないようだ。
 亜有もピナクスとクロにまかせて眠ることにする。)

第10話。モノリスとピナクス。35. 付属水族館、4日目午後、販売コーナー

2009-06-16 | Weblog
 (この友人は、午後1番の演技を見たらしい。伊勢の姿の良さにびっくりしたようだ。ショーのあとの販売コーナーにて。)

友人11。鈴鹿さんの横にいた極上美人はだれ?。

志摩。伊勢さん。おれの上司。

友人11。おまえ、美女に囲まれすぎ。美少女ゲームの主人公みたいだ。

志摩。よく言われるよ。自動人形のアンはどう見えた?。

友人11。アンって言うのか。アンドロイドだから。安易だな。

志摩。それ、洒落のつもり?。

友人11。洒落ではない。美人マネキンだった。遠くから見ると、ぞっとするほど美しい。

志摩。そのように作られたそうだ。近づくと安心するようにできている。

友人11。おまえこそ駄洒落王か。

志摩。安心だからアン。語呂合わせになる。一家に一台、アンで安心です。

鈴鹿。さっきから二人で何くだらないこと言ってるのよ。なにか買う気があるの?。長谷川くん。

友人11。アンって買えるのか。

鈴鹿。今は商品ではない。未完成。調整中。それに、めちゃくちゃ高価。いくらだと思う?。

友人11。値段があるのか。そうだな、200万円ならめちゃ売れそう。2000万円くらいかな。

鈴鹿。彼女の着ている救護服だけでもずっと高価よ。

友人11。じゃあ、2億円とか。

鈴鹿。製作費だけで、ざっとその10倍はする。

友人11。誘拐したくなるな。

鈴鹿。撃退されるのが関の山。邪悪な心は自動人形にはすぐに分かる。それに、誘拐しても、売り先がないわよ。すぐに足がつく。

友人11。自分で大切に使う。

鈴鹿。維持費も目をむくほど高価。

友人11。じゃあ、なんでID社にいるの?。

鈴鹿。知らない。研究のためと聞いている。毎年大損の厄介者。なぜID社が維持しているのか、世界七不思議の一つ。

友人11。意地になって維持している。

鈴鹿。志摩っ、このおじさん何とかしてよ。

アン。意地になって維持されているアンでっす。アンで安心、ばっちりゆん。

鈴鹿。…。

アン。材料費と加工費だけなら2000万円。ただし、100万台一括購入時。買ってみる?。

友人11。20兆円か。買いたい、という国が出てきたらどうするの?。

鈴鹿。革命が起きない保証がない限り、受注しない。

友人11。つまりは自動車並みに売れれば、個人でも何とか買える値段になるわけだ。で、何ができるの?。

アン。料理に洗濯、買い物、お掃除、話し相手。

友人11。メイドさんか。

アン。機械修理に救命救急、運転手兼用心棒にネコ語通訳。責任はあなた持ち。

友人11。便利じゃないか。早く完成させてよ。

アン。人を雇えばよほど安い。かわいい娘もいっぱい。わざわざ自律ロボット買うことなし。

志摩。たしかに。殊勝に買ってくれる人探すか。

鈴鹿。うん。いいかも。ボーナスわんさか出るかもしれない。維持費でがんがん稼げそう。

友人11。つまり、いつまでたっても、人間にも機械にも勝てない。

アン。そういうこと。ID社の当初の開発目標はとっくに断念。なのに意地で維持されている。それどころか、最近増産が決まった。大きな謎。

友人11。そりゃ謎だ。どうなっているの?。

鈴鹿。だから知らないって。

志摩。増産の理由だけだったら簡単。こうして使っている部署がいくつかあるから、壊れることもある。維持したいなら、毎年数台は作る必要がある。事故で数機が一度に失われる可能性もある。

鈴鹿。大損の増産。冗談じゃないわ。

志摩。そう考える人が多い。一度も自動人形を見ていない人には全く理解できないと思う。

友人11。それでショーやっているのか。

志摩。直接の理由じゃないけど、そうした意図はあると思う。使えば使うほど維持費がかさむから損。なのに、いくら使ってもストップがかかったことはない。社内の倫理規定とかに従うだけで、用途にも制限がない。

友人11。たしかに大きな謎だ。概要は分かるのか。

志摩。関心あるの?。なら、インターネットですべてが分かる。基本設計図もあるはず。

友人11。おわー、それ見りゃ作れるのか。

志摩。設備と技術さえあれば。

友人11。でも、顔とかスタイルは出てないんだろう。

鈴鹿。そんなもの、お好み次第よ。アンだって、顔がA国人風から日本人風に変えられた。

友人11。うん。記念にポスターいただくよ。

アン。一枚1700円。

友人11。A31のポスターとモノリスとピナクスのポスター、1枚ずつ。

アン。まいどありー。

鈴鹿。作るつもりだったのかしら。

志摩。なんだかやる気満々だった。

アン。そろそろ次の興行時間。行きましょう。

志摩。そうか。そうしよう。

 (次第に人数が増え、最後は観客を入れ替えて、結局2回分の公演となった。満足した人は多かったようだ。ニコニコした表情の親子が多かった。クロがジロに抱かれて、腹話術で発言。)

クロ(ジロ)。終わったようだな。

志摩。さすがに疲れた。はりきりすぎたか。自動人形は大丈夫か。

クロ(ジロ)。何ともない。休む必要はある。いろいろ水中訓練できて楽しかった。プログラム組んだのはあの人か。

志摩。そうらしい。

 (クロを抱えたジロが飼育係のところに行く。)

クロ(ジロ)。楽しいプログラムを組んでくれてありがとう。楽しかった。そちらは楽しめたか。

飼育係1。ネコがしゃべっている。

飼育係2。楽しかった。水中を泳ぐネコなんて珍しい。よしよしさせてくれる?。

クロ(ジロ)。かまわないが、もみくちゃにしないでくれ。

飼育係2。安心して。ほら、よしよし。

 (クロも甘える動作をする。)

クロ(ジロ)。うれしいぞ。

飼育係2。泳いでいる魚を食べたくなった?。

クロ(ジロ)。なったが、我慢した。エネルギー源としては効率が悪いこともある。

飼育係2。じゃあ、魚を獲ったことがあるんだ。

クロ(ジロ)。何度もある。ネコらしい動作をしつけられているから、魚には目がない。

飼育係2。そうらしい目つきをしていたかも。

クロ(ジロ)。よく観察したな。そのとおりだ。匂いがよい。

飼育係1。ロボット。センサーが付いている。

クロ(ジロ)。その通りだ。化学センサー。水中でも機能する優れものだ。

飼育係1。さかな並み。

クロ(ジロ)。そうだな。

館長。それでは、水族館の食堂に移動してください。準備できしだいパーティーをします。

クロ(ジロ)。ジロ、行こうか。

飼育係1。勝手に来て勝手に行ってしまった。それに代表者気取り。生意気。

飼育係2。ネコって、そんな感じもする。よくできている。

飼育係1。要するに、お礼に来た。

飼育係2。そうみたい。ネコなりのお礼。恥ずかしがり屋のようよ。