(自動人形を単純にコントロールするだけなら難しくない。物を取ってこいなどの指令をコントローラに入力すればよい。人工知能が行動を組み立てて実施する。でも、意味のある一連の行動として思い通りに動かすのは、結構大変。興味が続かない人は、最初の便利ロボットの段階で終ってしまう。さらに、いったん動かせても、細かい動きの調整は根気のいる作業だ。シルビアさんは、機械好きなようで、シリーズBにプログラムしきれない部分をアンドレやイブにさせようとしているようだ。)
奈良。シリーズBにプログラムすればいいのではないのか?。
シルビア。シリーズBはあくまで航空機の側面があるので、素材を提供するまで。具体的な動きは自動人形に組み込む。
奈良。でも、任意性はあるだろう。
シルビア。全くの主観。どこまでが航空機の素直な反応で、どこからがやりすぎで不気味になるのかは、個々人で違うと思う。私なりのやり方でやっている。
奈良。伊勢の指導はどうだ?。
シルビア。学者的で理詰めで、堅苦しい感じがする。それでも、自動人形が伊勢さんの言うことなら喜んで聞いている。厳しく言われても、必死で耐えている。どこかに秘密があるみたい。
奈良。伊勢の支配を喜ばない自動人形は、いままで見たことがない。
シルビア。あなたを決して裏切らないのと同じ程度に不思議。
奈良。そういえば、アンドレもイブも、あなたや伊勢のコントロールが良かったと、いちいち私に報告に来る。同意してほしいらしい。
シルビア。そうでしょう?。これで安心、って表情しているので、何かあったの、と聞いたら、奈良さんのところに行ったって。で、何か言われたの?、と尋ねると、決まって、何も言わなかったと。
奈良。言葉かけ程度だ。こちらから行くこともあるけど、たいてい向こうからやってきて、何があったかをしゃべる。自動人形は優秀だから、アドバイスするのはよほどの時のみ。ふつうは軽く肩を抱いてやると、落ち着いて休息に入るか、探索に出かける。
シルビア。私も、それくらいはやっているのに。
奈良。そうしてやってくれ。大切なことらしい。
シルビア。ええ、気をつける。
(伊勢は恒例になった衣裳買いに行く。ケイコの普段着と作戦用衣裳だ。志摩と鈴鹿とケイマを伴って。四郎と五郎はもちろん付いて行く。シルビアさんとアンドレとイブも付いてきた。)
シルビア。日本のデパートは独特の雰囲気。ごちゃごちゃしている。
鈴鹿。それがいいでしょ。
シルビア。ええ、活気があって良い。
イブ。服がいっぱい。
シルビア。あなたの衣裳も考えてみる。
イブ。うれしい。アンドレのは?。
シルビア。アンドレのも考えよう。
伊勢。二手に別れようか。
シルビア。ケイコのも見てみたいから、いっしょに行動する。
(で、ぞろぞろと歩く。アンドレとイブは恋人の設定で選ぶ。かっこいいので、店員がはしゃいでしまい、ファッションショーみたいになった。やや日本風アレンジか効いている服を3組ほど買った。問題は、ドッペルゲンガー・ケイマのケイコ。ダークな感じのひらひら服などさすがにない。ちょっとべそかいている。)
ケイコ。かなり無茶な設定みたい。
シルビア。しかたないわね。最後の手段を使おうか。
伊勢。そうしましょう。
(デパートでは普通の作戦着のみ買う。ケイマはファッションに関しては意外に趣味が渋い。ケイコはちょっとお茶目で派手好みのようだ。受け狙いのために、志摩の意見を取り入れる。
もはやひいきとなってしまった秋葉原のオタクショップに行く。やはりここでも、アンドレとイブが取り囲まれてしまい、いくつかコスプレする。何着ても似合う。)
原田。かっこよすぎ。
シルビア。ちょっと「悔しい」。
鈴鹿。それ、英語になるの?。
シルビア。スラングになる。恥ずかしいから言わない。
(とはいえ、蛇の道はヘビ。ドッペルゲンガーファンの店員もしっかりいる。眼光鋭く、ケイマとケイコを観察する。うまく色違いのふわふわドレスなどを手際よく作る。)
ケイコ。私がダークばっかり。
原田。私より頼もしい感じがするからよ。取り替えは効くから大丈夫。
ケイコ。それも面白いか。
(伊勢から連絡があり、かなりの購入量になった、大丈夫かと。いつもは半額補助なので、おそるおそる総務に相談したら、あっさり9割負担できるとの回答。自動人形が脚光を浴びてきたので、情報収集部の営業予算も使ってよいからだと。図に乗って、A31の分もOKかと尋ねたら、どうぞどうぞの回答だったので、A31を引き連れて伊勢と合流する。自動人形、勢ぞろいだ、オタクショップに。)
アン。このお店、オタクっぽい。
店員1。あなたがアン。女性型アンドロイド。
(おっと、初めてだったか、ここ。たちまちオタクどもが寄ってきて、次々にアンと握手している。)
アン。はい、そうです。私がアン。救護用に開発されたアンドロイド。得意技は、被災地での救護とアトラクション。
原田。それが仕事じゃない。
アン。それしか取り得はない。
店員1。実用ロボットだ。それがいいんですよ。
アン。みなさん、おもしろい格好なさっている。
原田。制服みたいなものよ。シンボルってやつ。
アン。私も制服着てみたい。
原田。着たんじゃなかったの?。
アン。まともなのしか着てない。
原田。あんた、どんなのを期待しているのよ。
アン。あんなの。
(と、わざわざポスターを指さす。ちょっと見では分からないが、成人向きのゲームのようだ。)
原田。あの…、あれは…、多分…。
(もう、オタクどもの視線をいっせいに浴びている。鈴鹿やアンドレがいるというのに。こいつ、やる。)
客1。あんなのだめだよ。アダルトゲームだ。それより、こっちの、派手な制服の方が似合いそうだ。おとなしめの表情しているから。
アン。じゃあ、そちらにする。
(やれやれ、助かった。オタクに感謝だ。彼らなりのイメージがあるのだろう。着替える。案の定、体形がよすぎる。)
客1。ぐっとくる。さすがID社だ。
客2。こんなに色っぽかったのか、あの制服。
(言っておくが、アンの体形は開発元のA国軍の技術の結晶だ。日本ID社が誇る精鋭オタクどもをもってしても、とても設計できまい。その証拠に、だれも改造など言い出さない。)
店員1。じゃあ、残りのネコと兄弟も。
(クロ以下、その他にされてしまっている。でも、さすがその筋の店員。びしっと決めてくる。歓声が上がる。こころなしか、黄色い声も混じっている。)
店員1。こちらは、ライバル校のいけ好かないアイドル。
(ケイマとケイコが悪役になっている。四郎と五郎はお付きの男子学生。でも、これがまたかわいく似合っている。本来なら、主役を食ってしまいそうなくらい。でも、相手はアン。)
アン。はっはっは。それで目立っているつもりか。
ケイコ。う、くくっ。これだけ工夫したというのに。
(アンドレとイブが先生役になって、アンドロイド学園物の完成。ケイマが唯一の人間。)
店員1。思いつきだが、われながら良くできている。さあさ、みなさんで記念撮影。
奈良。いいけど、これ、何の役に立つんだ。
伊勢。陽動作戦かな。
志摩。次回の展示会の出し物。
奈良。おっと忘れかけていた。これで行ってみようか。
(自動人形のブームが去るまで、ID社で展示会をするのだった。とすると、次回はアンドレも出られそう。
結局、オタクショップではそれと、ケイコのダークなふわふわドレスと白魔女服。帰りに、普段着の店に寄って、A31の服を買う。伊勢とケイマが選んでいる。鈴鹿と志摩は自分の服を探す。シルビアさんも、自分用の服を物色しているようだ。
これも恒例のファッションショーを部内で開催する。もったいないので、社員を集めて、小ホールで実施。伊勢が音楽演奏する。1時間前にアナウンスしたというのに、結構、人が集まる。次回の展示会の準備担当の総務の人も来た。)
月野。あちらは、臨時の自動人形ですか。
奈良。そうです。Q国に配属されていたアンドレと、いっしょに行く予定のイブ。
月野。それこそ、このままファッションショーでもいい。身のこなしなどはなかなかのもの。
奈良。演技も考えてみます。
月野。ええ、ひとつよろしく。
(交代するように、シルビアさんが話しかけてきた。)
シルビア。奈良さん、自動人形が生き生きしている。どうやって操縦したの?。
奈良。いや、操縦と言うか、ほとんど反応を彼らに任せている。
シルビア。任せるったって、自動人形は操作しないと意味のある行動は無理。
奈良。そのとおりだ。だから、人間にとって話が成立するように誘導している。
シルビア。じゃあ、自動人形にとっては、訳が分からないまま、周りを喜ばせるように行動している。
奈良。その表現でいい。
シルビア。なんてこと。楽しそうに見えるは、周りの人間が反応しているだけ。
奈良。そう表現する人もいる。でも、人間がうれしがると、自分もうれしい。だから、嫌がって行動してはいない。アンなどは実にうまく反応する。感心するほどだ。
(シルビアさんはとんでもない世界に巻き込まれたと感じたらしい。)
シルビア。私、何かとてつもない計画に巻き込まれたみたい。
奈良。不安に感じるのか。
シルビア。ええ。ちょっとくらくらする。
奈良。ええと。私のように、自動人形を家畜と見なすか、伊勢のように機械と割りきるか。
シルビア。両方説明してください。
奈良。私にとっては、タロやクロはイヌやネコのように思える。行動が似ているというだけだが。
シルビア。奈良さんは獣医だった。
奈良。動物行動学が専門。自動人形は、周囲に反応し、人工知能の評価の高い行動を選択する。ちょうど、サーカスのクマが良くしてほしいと願って芸をするように。
シルビア。うん、理屈は分かりそう。
奈良。自動人形の行動の結果が満足できたかどうかは、正直に知らせる必要がある。こちらがうまく誘導して、毎回満足していると、彼らは次第に慕うようになる。そのように設定した。
シルビア。分かるけど、でも、何か恐ろしいことをしたように思う。
奈良。だから、伊勢のような機械的な見方が役に立つ。恐ろしくも何ともない。機械が設計通りの動作をしているだけだ。
シルビア。詳しく。
奈良。自動人形には高度なセンサーが付いている。各情報は統合され、人工知能がもっとも有効と判断した結論を出す。そして、行動のためのプログラムが選択され、順次実行される。その繰り返し。
シルビア。でも、それでは単なるロボットで、機械的な感じがするはず。
奈良。学習機能はある。それとは別に、人間や家畜は喜怒哀楽を持つ。その係数が自動人形の中にもあって、人工知能の反応を修飾する。同じ場面に遭遇しても、履歴に加えて、怖かったり、怒ったりしていると行動が変わる。その再現だ。
シルビア。じゃあ、自動人形は感情を持っている。
奈良。そう考えても矛盾しないようにするのが開発目標だ。実際、感情に相当するしくみが入っている。単なる数値の列だが。
シルビア。でも、自動人形には意識はない。
奈良。人間の思考に相当するものはない。反応しているだけだ。感情も基礎的なもので、高度な社会性はない。相手が近づいたときに、自動人形が近づくか、遠ざけるかは自分で判断できる。つまり、敵味方は判断できる。でも、集団行動は人間が命じない限り、できない。
シルビア。理解には時間がかかりそう。
奈良。シルビアさんは自動人形の行動に不自然さを感じるか?。
シルビア。感じることもあるけど、気付かないことが多い。
奈良。我々の行動も、そのほとんどは知的な過程を踏んでいないと言われている。反射的か、せいぜい感情が絡んでいる程度。一日の大半は、そうやって過ごしているはずだ。
シルビア。私たちも、ほぼ自動人形。
奈良。そのはず。意識下の部分。生命維持には十分。
シルビア。心理学だわ。難しそう。
奈良。自動人形は高度な機械だ。もはや誰一人として完全に理解してはいない。
シルビア。それが恐ろしく感じる原因か。
奈良。不気味に感じる点はもう一つ、軍事コードの存在。乗り物や武器を上手に使いこなす。そのためのプログラムが大量に残されている。プログラムといっても基本動作の動作手順の記述だけだから、感情も何もない。
シルビア。良い方向にも悪い方向にも働く。私も加担している。
奈良。チューニングは常に必要だ。世の中は変わる。付いて行けなくなって、動作が合わなくなり、役立たなくなったら、彼らの存在意義はない。廃棄される。
シルビア。何てこと。種の絶滅と同じ。
奈良。そういう風にも表現できる。今は無いが、将来ライバルが出てきたら、淘汰される可能性もある。
シルビア。そっちもあるか。まてよ、そうすると、人類と競合することもある。
奈良。昔からのSFのテーマだ。不気味なのは、現在の地球上には人類以外の知的生命がいないこと。考古学的には、我々と別系統の知的生命体がいた。同じ類人猿だけど。
シルビア。我々の祖先が絶滅させたかもしれない。
奈良。仮説だ。論証はまだのはず。
シルビア。そうか。そんなところまでつながっているんだ。
奈良。遠い過去の話、遠い未来の話だ。我々とは関係ない。
シルビア。でも、責任はある。
奈良。ふむ。そこまで考えているのなら、しばらく自動人形と付き合ってみればいい。コントローラなんか、いつでも放棄できる。知的興味だけでも、面白い対象だ。
シルビア。時に命懸けだけど。
奈良。前回もそうだったな。うん、何度も生死を分かち合った。
(シルビアさんは、ちょっとあきれたみたいだ。でも、コントローラは私だけではない。伊勢もいるし、シモンさんもいる。いろいろ聞く気になったようだ。
小ホールの舞台では、自動人形が買ってもらった服を披露している。屈託のない自動人形。楽しそうに見える。この感情は間違いないはずだ。)
奈良。シリーズBにプログラムすればいいのではないのか?。
シルビア。シリーズBはあくまで航空機の側面があるので、素材を提供するまで。具体的な動きは自動人形に組み込む。
奈良。でも、任意性はあるだろう。
シルビア。全くの主観。どこまでが航空機の素直な反応で、どこからがやりすぎで不気味になるのかは、個々人で違うと思う。私なりのやり方でやっている。
奈良。伊勢の指導はどうだ?。
シルビア。学者的で理詰めで、堅苦しい感じがする。それでも、自動人形が伊勢さんの言うことなら喜んで聞いている。厳しく言われても、必死で耐えている。どこかに秘密があるみたい。
奈良。伊勢の支配を喜ばない自動人形は、いままで見たことがない。
シルビア。あなたを決して裏切らないのと同じ程度に不思議。
奈良。そういえば、アンドレもイブも、あなたや伊勢のコントロールが良かったと、いちいち私に報告に来る。同意してほしいらしい。
シルビア。そうでしょう?。これで安心、って表情しているので、何かあったの、と聞いたら、奈良さんのところに行ったって。で、何か言われたの?、と尋ねると、決まって、何も言わなかったと。
奈良。言葉かけ程度だ。こちらから行くこともあるけど、たいてい向こうからやってきて、何があったかをしゃべる。自動人形は優秀だから、アドバイスするのはよほどの時のみ。ふつうは軽く肩を抱いてやると、落ち着いて休息に入るか、探索に出かける。
シルビア。私も、それくらいはやっているのに。
奈良。そうしてやってくれ。大切なことらしい。
シルビア。ええ、気をつける。
(伊勢は恒例になった衣裳買いに行く。ケイコの普段着と作戦用衣裳だ。志摩と鈴鹿とケイマを伴って。四郎と五郎はもちろん付いて行く。シルビアさんとアンドレとイブも付いてきた。)
シルビア。日本のデパートは独特の雰囲気。ごちゃごちゃしている。
鈴鹿。それがいいでしょ。
シルビア。ええ、活気があって良い。
イブ。服がいっぱい。
シルビア。あなたの衣裳も考えてみる。
イブ。うれしい。アンドレのは?。
シルビア。アンドレのも考えよう。
伊勢。二手に別れようか。
シルビア。ケイコのも見てみたいから、いっしょに行動する。
(で、ぞろぞろと歩く。アンドレとイブは恋人の設定で選ぶ。かっこいいので、店員がはしゃいでしまい、ファッションショーみたいになった。やや日本風アレンジか効いている服を3組ほど買った。問題は、ドッペルゲンガー・ケイマのケイコ。ダークな感じのひらひら服などさすがにない。ちょっとべそかいている。)
ケイコ。かなり無茶な設定みたい。
シルビア。しかたないわね。最後の手段を使おうか。
伊勢。そうしましょう。
(デパートでは普通の作戦着のみ買う。ケイマはファッションに関しては意外に趣味が渋い。ケイコはちょっとお茶目で派手好みのようだ。受け狙いのために、志摩の意見を取り入れる。
もはやひいきとなってしまった秋葉原のオタクショップに行く。やはりここでも、アンドレとイブが取り囲まれてしまい、いくつかコスプレする。何着ても似合う。)
原田。かっこよすぎ。
シルビア。ちょっと「悔しい」。
鈴鹿。それ、英語になるの?。
シルビア。スラングになる。恥ずかしいから言わない。
(とはいえ、蛇の道はヘビ。ドッペルゲンガーファンの店員もしっかりいる。眼光鋭く、ケイマとケイコを観察する。うまく色違いのふわふわドレスなどを手際よく作る。)
ケイコ。私がダークばっかり。
原田。私より頼もしい感じがするからよ。取り替えは効くから大丈夫。
ケイコ。それも面白いか。
(伊勢から連絡があり、かなりの購入量になった、大丈夫かと。いつもは半額補助なので、おそるおそる総務に相談したら、あっさり9割負担できるとの回答。自動人形が脚光を浴びてきたので、情報収集部の営業予算も使ってよいからだと。図に乗って、A31の分もOKかと尋ねたら、どうぞどうぞの回答だったので、A31を引き連れて伊勢と合流する。自動人形、勢ぞろいだ、オタクショップに。)
アン。このお店、オタクっぽい。
店員1。あなたがアン。女性型アンドロイド。
(おっと、初めてだったか、ここ。たちまちオタクどもが寄ってきて、次々にアンと握手している。)
アン。はい、そうです。私がアン。救護用に開発されたアンドロイド。得意技は、被災地での救護とアトラクション。
原田。それが仕事じゃない。
アン。それしか取り得はない。
店員1。実用ロボットだ。それがいいんですよ。
アン。みなさん、おもしろい格好なさっている。
原田。制服みたいなものよ。シンボルってやつ。
アン。私も制服着てみたい。
原田。着たんじゃなかったの?。
アン。まともなのしか着てない。
原田。あんた、どんなのを期待しているのよ。
アン。あんなの。
(と、わざわざポスターを指さす。ちょっと見では分からないが、成人向きのゲームのようだ。)
原田。あの…、あれは…、多分…。
(もう、オタクどもの視線をいっせいに浴びている。鈴鹿やアンドレがいるというのに。こいつ、やる。)
客1。あんなのだめだよ。アダルトゲームだ。それより、こっちの、派手な制服の方が似合いそうだ。おとなしめの表情しているから。
アン。じゃあ、そちらにする。
(やれやれ、助かった。オタクに感謝だ。彼らなりのイメージがあるのだろう。着替える。案の定、体形がよすぎる。)
客1。ぐっとくる。さすがID社だ。
客2。こんなに色っぽかったのか、あの制服。
(言っておくが、アンの体形は開発元のA国軍の技術の結晶だ。日本ID社が誇る精鋭オタクどもをもってしても、とても設計できまい。その証拠に、だれも改造など言い出さない。)
店員1。じゃあ、残りのネコと兄弟も。
(クロ以下、その他にされてしまっている。でも、さすがその筋の店員。びしっと決めてくる。歓声が上がる。こころなしか、黄色い声も混じっている。)
店員1。こちらは、ライバル校のいけ好かないアイドル。
(ケイマとケイコが悪役になっている。四郎と五郎はお付きの男子学生。でも、これがまたかわいく似合っている。本来なら、主役を食ってしまいそうなくらい。でも、相手はアン。)
アン。はっはっは。それで目立っているつもりか。
ケイコ。う、くくっ。これだけ工夫したというのに。
(アンドレとイブが先生役になって、アンドロイド学園物の完成。ケイマが唯一の人間。)
店員1。思いつきだが、われながら良くできている。さあさ、みなさんで記念撮影。
奈良。いいけど、これ、何の役に立つんだ。
伊勢。陽動作戦かな。
志摩。次回の展示会の出し物。
奈良。おっと忘れかけていた。これで行ってみようか。
(自動人形のブームが去るまで、ID社で展示会をするのだった。とすると、次回はアンドレも出られそう。
結局、オタクショップではそれと、ケイコのダークなふわふわドレスと白魔女服。帰りに、普段着の店に寄って、A31の服を買う。伊勢とケイマが選んでいる。鈴鹿と志摩は自分の服を探す。シルビアさんも、自分用の服を物色しているようだ。
これも恒例のファッションショーを部内で開催する。もったいないので、社員を集めて、小ホールで実施。伊勢が音楽演奏する。1時間前にアナウンスしたというのに、結構、人が集まる。次回の展示会の準備担当の総務の人も来た。)
月野。あちらは、臨時の自動人形ですか。
奈良。そうです。Q国に配属されていたアンドレと、いっしょに行く予定のイブ。
月野。それこそ、このままファッションショーでもいい。身のこなしなどはなかなかのもの。
奈良。演技も考えてみます。
月野。ええ、ひとつよろしく。
(交代するように、シルビアさんが話しかけてきた。)
シルビア。奈良さん、自動人形が生き生きしている。どうやって操縦したの?。
奈良。いや、操縦と言うか、ほとんど反応を彼らに任せている。
シルビア。任せるったって、自動人形は操作しないと意味のある行動は無理。
奈良。そのとおりだ。だから、人間にとって話が成立するように誘導している。
シルビア。じゃあ、自動人形にとっては、訳が分からないまま、周りを喜ばせるように行動している。
奈良。その表現でいい。
シルビア。なんてこと。楽しそうに見えるは、周りの人間が反応しているだけ。
奈良。そう表現する人もいる。でも、人間がうれしがると、自分もうれしい。だから、嫌がって行動してはいない。アンなどは実にうまく反応する。感心するほどだ。
(シルビアさんはとんでもない世界に巻き込まれたと感じたらしい。)
シルビア。私、何かとてつもない計画に巻き込まれたみたい。
奈良。不安に感じるのか。
シルビア。ええ。ちょっとくらくらする。
奈良。ええと。私のように、自動人形を家畜と見なすか、伊勢のように機械と割りきるか。
シルビア。両方説明してください。
奈良。私にとっては、タロやクロはイヌやネコのように思える。行動が似ているというだけだが。
シルビア。奈良さんは獣医だった。
奈良。動物行動学が専門。自動人形は、周囲に反応し、人工知能の評価の高い行動を選択する。ちょうど、サーカスのクマが良くしてほしいと願って芸をするように。
シルビア。うん、理屈は分かりそう。
奈良。自動人形の行動の結果が満足できたかどうかは、正直に知らせる必要がある。こちらがうまく誘導して、毎回満足していると、彼らは次第に慕うようになる。そのように設定した。
シルビア。分かるけど、でも、何か恐ろしいことをしたように思う。
奈良。だから、伊勢のような機械的な見方が役に立つ。恐ろしくも何ともない。機械が設計通りの動作をしているだけだ。
シルビア。詳しく。
奈良。自動人形には高度なセンサーが付いている。各情報は統合され、人工知能がもっとも有効と判断した結論を出す。そして、行動のためのプログラムが選択され、順次実行される。その繰り返し。
シルビア。でも、それでは単なるロボットで、機械的な感じがするはず。
奈良。学習機能はある。それとは別に、人間や家畜は喜怒哀楽を持つ。その係数が自動人形の中にもあって、人工知能の反応を修飾する。同じ場面に遭遇しても、履歴に加えて、怖かったり、怒ったりしていると行動が変わる。その再現だ。
シルビア。じゃあ、自動人形は感情を持っている。
奈良。そう考えても矛盾しないようにするのが開発目標だ。実際、感情に相当するしくみが入っている。単なる数値の列だが。
シルビア。でも、自動人形には意識はない。
奈良。人間の思考に相当するものはない。反応しているだけだ。感情も基礎的なもので、高度な社会性はない。相手が近づいたときに、自動人形が近づくか、遠ざけるかは自分で判断できる。つまり、敵味方は判断できる。でも、集団行動は人間が命じない限り、できない。
シルビア。理解には時間がかかりそう。
奈良。シルビアさんは自動人形の行動に不自然さを感じるか?。
シルビア。感じることもあるけど、気付かないことが多い。
奈良。我々の行動も、そのほとんどは知的な過程を踏んでいないと言われている。反射的か、せいぜい感情が絡んでいる程度。一日の大半は、そうやって過ごしているはずだ。
シルビア。私たちも、ほぼ自動人形。
奈良。そのはず。意識下の部分。生命維持には十分。
シルビア。心理学だわ。難しそう。
奈良。自動人形は高度な機械だ。もはや誰一人として完全に理解してはいない。
シルビア。それが恐ろしく感じる原因か。
奈良。不気味に感じる点はもう一つ、軍事コードの存在。乗り物や武器を上手に使いこなす。そのためのプログラムが大量に残されている。プログラムといっても基本動作の動作手順の記述だけだから、感情も何もない。
シルビア。良い方向にも悪い方向にも働く。私も加担している。
奈良。チューニングは常に必要だ。世の中は変わる。付いて行けなくなって、動作が合わなくなり、役立たなくなったら、彼らの存在意義はない。廃棄される。
シルビア。何てこと。種の絶滅と同じ。
奈良。そういう風にも表現できる。今は無いが、将来ライバルが出てきたら、淘汰される可能性もある。
シルビア。そっちもあるか。まてよ、そうすると、人類と競合することもある。
奈良。昔からのSFのテーマだ。不気味なのは、現在の地球上には人類以外の知的生命がいないこと。考古学的には、我々と別系統の知的生命体がいた。同じ類人猿だけど。
シルビア。我々の祖先が絶滅させたかもしれない。
奈良。仮説だ。論証はまだのはず。
シルビア。そうか。そんなところまでつながっているんだ。
奈良。遠い過去の話、遠い未来の話だ。我々とは関係ない。
シルビア。でも、責任はある。
奈良。ふむ。そこまで考えているのなら、しばらく自動人形と付き合ってみればいい。コントローラなんか、いつでも放棄できる。知的興味だけでも、面白い対象だ。
シルビア。時に命懸けだけど。
奈良。前回もそうだったな。うん、何度も生死を分かち合った。
(シルビアさんは、ちょっとあきれたみたいだ。でも、コントローラは私だけではない。伊勢もいるし、シモンさんもいる。いろいろ聞く気になったようだ。
小ホールの舞台では、自動人形が買ってもらった服を披露している。屈託のない自動人形。楽しそうに見える。この感情は間違いないはずだ。)