ID物語

書きなぐりSF小説

第16話。2機の自動人形。3. シルビアさんのコントロール

2009-09-30 | Weblog
 (自動人形を単純にコントロールするだけなら難しくない。物を取ってこいなどの指令をコントローラに入力すればよい。人工知能が行動を組み立てて実施する。でも、意味のある一連の行動として思い通りに動かすのは、結構大変。興味が続かない人は、最初の便利ロボットの段階で終ってしまう。さらに、いったん動かせても、細かい動きの調整は根気のいる作業だ。シルビアさんは、機械好きなようで、シリーズBにプログラムしきれない部分をアンドレやイブにさせようとしているようだ。)

奈良。シリーズBにプログラムすればいいのではないのか?。

シルビア。シリーズBはあくまで航空機の側面があるので、素材を提供するまで。具体的な動きは自動人形に組み込む。

奈良。でも、任意性はあるだろう。

シルビア。全くの主観。どこまでが航空機の素直な反応で、どこからがやりすぎで不気味になるのかは、個々人で違うと思う。私なりのやり方でやっている。

奈良。伊勢の指導はどうだ?。

シルビア。学者的で理詰めで、堅苦しい感じがする。それでも、自動人形が伊勢さんの言うことなら喜んで聞いている。厳しく言われても、必死で耐えている。どこかに秘密があるみたい。

奈良。伊勢の支配を喜ばない自動人形は、いままで見たことがない。

シルビア。あなたを決して裏切らないのと同じ程度に不思議。

奈良。そういえば、アンドレもイブも、あなたや伊勢のコントロールが良かったと、いちいち私に報告に来る。同意してほしいらしい。

シルビア。そうでしょう?。これで安心、って表情しているので、何かあったの、と聞いたら、奈良さんのところに行ったって。で、何か言われたの?、と尋ねると、決まって、何も言わなかったと。

奈良。言葉かけ程度だ。こちらから行くこともあるけど、たいてい向こうからやってきて、何があったかをしゃべる。自動人形は優秀だから、アドバイスするのはよほどの時のみ。ふつうは軽く肩を抱いてやると、落ち着いて休息に入るか、探索に出かける。

シルビア。私も、それくらいはやっているのに。

奈良。そうしてやってくれ。大切なことらしい。

シルビア。ええ、気をつける。

 (伊勢は恒例になった衣裳買いに行く。ケイコの普段着と作戦用衣裳だ。志摩と鈴鹿とケイマを伴って。四郎と五郎はもちろん付いて行く。シルビアさんとアンドレとイブも付いてきた。)

シルビア。日本のデパートは独特の雰囲気。ごちゃごちゃしている。

鈴鹿。それがいいでしょ。

シルビア。ええ、活気があって良い。

イブ。服がいっぱい。

シルビア。あなたの衣裳も考えてみる。

イブ。うれしい。アンドレのは?。

シルビア。アンドレのも考えよう。

伊勢。二手に別れようか。

シルビア。ケイコのも見てみたいから、いっしょに行動する。

 (で、ぞろぞろと歩く。アンドレとイブは恋人の設定で選ぶ。かっこいいので、店員がはしゃいでしまい、ファッションショーみたいになった。やや日本風アレンジか効いている服を3組ほど買った。問題は、ドッペルゲンガー・ケイマのケイコ。ダークな感じのひらひら服などさすがにない。ちょっとべそかいている。)

ケイコ。かなり無茶な設定みたい。

シルビア。しかたないわね。最後の手段を使おうか。

伊勢。そうしましょう。

 (デパートでは普通の作戦着のみ買う。ケイマはファッションに関しては意外に趣味が渋い。ケイコはちょっとお茶目で派手好みのようだ。受け狙いのために、志摩の意見を取り入れる。
 もはやひいきとなってしまった秋葉原のオタクショップに行く。やはりここでも、アンドレとイブが取り囲まれてしまい、いくつかコスプレする。何着ても似合う。)

原田。かっこよすぎ。

シルビア。ちょっと「悔しい」。

鈴鹿。それ、英語になるの?。

シルビア。スラングになる。恥ずかしいから言わない。

 (とはいえ、蛇の道はヘビ。ドッペルゲンガーファンの店員もしっかりいる。眼光鋭く、ケイマとケイコを観察する。うまく色違いのふわふわドレスなどを手際よく作る。)

ケイコ。私がダークばっかり。

原田。私より頼もしい感じがするからよ。取り替えは効くから大丈夫。

ケイコ。それも面白いか。

 (伊勢から連絡があり、かなりの購入量になった、大丈夫かと。いつもは半額補助なので、おそるおそる総務に相談したら、あっさり9割負担できるとの回答。自動人形が脚光を浴びてきたので、情報収集部の営業予算も使ってよいからだと。図に乗って、A31の分もOKかと尋ねたら、どうぞどうぞの回答だったので、A31を引き連れて伊勢と合流する。自動人形、勢ぞろいだ、オタクショップに。)

アン。このお店、オタクっぽい。

店員1。あなたがアン。女性型アンドロイド。

 (おっと、初めてだったか、ここ。たちまちオタクどもが寄ってきて、次々にアンと握手している。)

アン。はい、そうです。私がアン。救護用に開発されたアンドロイド。得意技は、被災地での救護とアトラクション。

原田。それが仕事じゃない。

アン。それしか取り得はない。

店員1。実用ロボットだ。それがいいんですよ。

アン。みなさん、おもしろい格好なさっている。

原田。制服みたいなものよ。シンボルってやつ。

アン。私も制服着てみたい。

原田。着たんじゃなかったの?。

アン。まともなのしか着てない。

原田。あんた、どんなのを期待しているのよ。

アン。あんなの。

 (と、わざわざポスターを指さす。ちょっと見では分からないが、成人向きのゲームのようだ。)

原田。あの…、あれは…、多分…。

 (もう、オタクどもの視線をいっせいに浴びている。鈴鹿やアンドレがいるというのに。こいつ、やる。)

客1。あんなのだめだよ。アダルトゲームだ。それより、こっちの、派手な制服の方が似合いそうだ。おとなしめの表情しているから。

アン。じゃあ、そちらにする。

 (やれやれ、助かった。オタクに感謝だ。彼らなりのイメージがあるのだろう。着替える。案の定、体形がよすぎる。)

客1。ぐっとくる。さすがID社だ。

客2。こんなに色っぽかったのか、あの制服。

 (言っておくが、アンの体形は開発元のA国軍の技術の結晶だ。日本ID社が誇る精鋭オタクどもをもってしても、とても設計できまい。その証拠に、だれも改造など言い出さない。)

店員1。じゃあ、残りのネコと兄弟も。

 (クロ以下、その他にされてしまっている。でも、さすがその筋の店員。びしっと決めてくる。歓声が上がる。こころなしか、黄色い声も混じっている。)

店員1。こちらは、ライバル校のいけ好かないアイドル。

 (ケイマとケイコが悪役になっている。四郎と五郎はお付きの男子学生。でも、これがまたかわいく似合っている。本来なら、主役を食ってしまいそうなくらい。でも、相手はアン。)

アン。はっはっは。それで目立っているつもりか。

ケイコ。う、くくっ。これだけ工夫したというのに。

 (アンドレとイブが先生役になって、アンドロイド学園物の完成。ケイマが唯一の人間。)

店員1。思いつきだが、われながら良くできている。さあさ、みなさんで記念撮影。

奈良。いいけど、これ、何の役に立つんだ。

伊勢。陽動作戦かな。

志摩。次回の展示会の出し物。

奈良。おっと忘れかけていた。これで行ってみようか。

 (自動人形のブームが去るまで、ID社で展示会をするのだった。とすると、次回はアンドレも出られそう。
 結局、オタクショップではそれと、ケイコのダークなふわふわドレスと白魔女服。帰りに、普段着の店に寄って、A31の服を買う。伊勢とケイマが選んでいる。鈴鹿と志摩は自分の服を探す。シルビアさんも、自分用の服を物色しているようだ。
 これも恒例のファッションショーを部内で開催する。もったいないので、社員を集めて、小ホールで実施。伊勢が音楽演奏する。1時間前にアナウンスしたというのに、結構、人が集まる。次回の展示会の準備担当の総務の人も来た。)

月野。あちらは、臨時の自動人形ですか。

奈良。そうです。Q国に配属されていたアンドレと、いっしょに行く予定のイブ。

月野。それこそ、このままファッションショーでもいい。身のこなしなどはなかなかのもの。

奈良。演技も考えてみます。

月野。ええ、ひとつよろしく。

 (交代するように、シルビアさんが話しかけてきた。)

シルビア。奈良さん、自動人形が生き生きしている。どうやって操縦したの?。

奈良。いや、操縦と言うか、ほとんど反応を彼らに任せている。

シルビア。任せるったって、自動人形は操作しないと意味のある行動は無理。

奈良。そのとおりだ。だから、人間にとって話が成立するように誘導している。

シルビア。じゃあ、自動人形にとっては、訳が分からないまま、周りを喜ばせるように行動している。

奈良。その表現でいい。

シルビア。なんてこと。楽しそうに見えるは、周りの人間が反応しているだけ。

奈良。そう表現する人もいる。でも、人間がうれしがると、自分もうれしい。だから、嫌がって行動してはいない。アンなどは実にうまく反応する。感心するほどだ。

 (シルビアさんはとんでもない世界に巻き込まれたと感じたらしい。)

シルビア。私、何かとてつもない計画に巻き込まれたみたい。

奈良。不安に感じるのか。

シルビア。ええ。ちょっとくらくらする。

奈良。ええと。私のように、自動人形を家畜と見なすか、伊勢のように機械と割りきるか。

シルビア。両方説明してください。

奈良。私にとっては、タロやクロはイヌやネコのように思える。行動が似ているというだけだが。

シルビア。奈良さんは獣医だった。

奈良。動物行動学が専門。自動人形は、周囲に反応し、人工知能の評価の高い行動を選択する。ちょうど、サーカスのクマが良くしてほしいと願って芸をするように。

シルビア。うん、理屈は分かりそう。

奈良。自動人形の行動の結果が満足できたかどうかは、正直に知らせる必要がある。こちらがうまく誘導して、毎回満足していると、彼らは次第に慕うようになる。そのように設定した。

シルビア。分かるけど、でも、何か恐ろしいことをしたように思う。

奈良。だから、伊勢のような機械的な見方が役に立つ。恐ろしくも何ともない。機械が設計通りの動作をしているだけだ。

シルビア。詳しく。

奈良。自動人形には高度なセンサーが付いている。各情報は統合され、人工知能がもっとも有効と判断した結論を出す。そして、行動のためのプログラムが選択され、順次実行される。その繰り返し。

シルビア。でも、それでは単なるロボットで、機械的な感じがするはず。

奈良。学習機能はある。それとは別に、人間や家畜は喜怒哀楽を持つ。その係数が自動人形の中にもあって、人工知能の反応を修飾する。同じ場面に遭遇しても、履歴に加えて、怖かったり、怒ったりしていると行動が変わる。その再現だ。

シルビア。じゃあ、自動人形は感情を持っている。

奈良。そう考えても矛盾しないようにするのが開発目標だ。実際、感情に相当するしくみが入っている。単なる数値の列だが。

シルビア。でも、自動人形には意識はない。

奈良。人間の思考に相当するものはない。反応しているだけだ。感情も基礎的なもので、高度な社会性はない。相手が近づいたときに、自動人形が近づくか、遠ざけるかは自分で判断できる。つまり、敵味方は判断できる。でも、集団行動は人間が命じない限り、できない。

シルビア。理解には時間がかかりそう。

奈良。シルビアさんは自動人形の行動に不自然さを感じるか?。

シルビア。感じることもあるけど、気付かないことが多い。

奈良。我々の行動も、そのほとんどは知的な過程を踏んでいないと言われている。反射的か、せいぜい感情が絡んでいる程度。一日の大半は、そうやって過ごしているはずだ。

シルビア。私たちも、ほぼ自動人形。

奈良。そのはず。意識下の部分。生命維持には十分。

シルビア。心理学だわ。難しそう。

奈良。自動人形は高度な機械だ。もはや誰一人として完全に理解してはいない。

シルビア。それが恐ろしく感じる原因か。

奈良。不気味に感じる点はもう一つ、軍事コードの存在。乗り物や武器を上手に使いこなす。そのためのプログラムが大量に残されている。プログラムといっても基本動作の動作手順の記述だけだから、感情も何もない。

シルビア。良い方向にも悪い方向にも働く。私も加担している。

奈良。チューニングは常に必要だ。世の中は変わる。付いて行けなくなって、動作が合わなくなり、役立たなくなったら、彼らの存在意義はない。廃棄される。

シルビア。何てこと。種の絶滅と同じ。

奈良。そういう風にも表現できる。今は無いが、将来ライバルが出てきたら、淘汰される可能性もある。

シルビア。そっちもあるか。まてよ、そうすると、人類と競合することもある。

奈良。昔からのSFのテーマだ。不気味なのは、現在の地球上には人類以外の知的生命がいないこと。考古学的には、我々と別系統の知的生命体がいた。同じ類人猿だけど。

シルビア。我々の祖先が絶滅させたかもしれない。

奈良。仮説だ。論証はまだのはず。

シルビア。そうか。そんなところまでつながっているんだ。

奈良。遠い過去の話、遠い未来の話だ。我々とは関係ない。

シルビア。でも、責任はある。

奈良。ふむ。そこまで考えているのなら、しばらく自動人形と付き合ってみればいい。コントローラなんか、いつでも放棄できる。知的興味だけでも、面白い対象だ。

シルビア。時に命懸けだけど。

奈良。前回もそうだったな。うん、何度も生死を分かち合った。

 (シルビアさんは、ちょっとあきれたみたいだ。でも、コントローラは私だけではない。伊勢もいるし、シモンさんもいる。いろいろ聞く気になったようだ。
 小ホールの舞台では、自動人形が買ってもらった服を披露している。屈託のない自動人形。楽しそうに見える。この感情は間違いないはずだ。)

第16話。2機の自動人形。2. 歓送迎会

2009-09-29 | Weblog
 (三郎(ワタリガラス型自動人形)は英語の特訓のために、本部に送ることとする。送別と歓迎の茶話会をすることにした。志摩とケイマが材料を買いに行こうとしたら、2機とも付いて行く、という。自分に合った仕事探しのつもりらしい。救護服のまま出かける。自動人形が着いたと知らせたら、鈴鹿たちも来るらしい。空中を2時間ほどで東京だ。
 いつもの近くのスーパーにて。)

ケイコ。E国とは品揃えが違う。見慣れない野菜がおいてある。

原田。データベースにはあるんでしょう?。

ケイコ。ええ。困らないけど、新鮮な感じ。イブはどう?。

イブ。同様。良い訓練になる。

 (うまくおしゃべりするように調整されているようだ。ドッペルゲンガーのイメージとは違い、ケイコはこまめに気付く。元の自動人形の性格らしい。)

ケイコ。肉料理なら、こちらの香辛料も買っておこうよ、志摩さん。

志摩。ああ、何かレシピがあるんなら、それに合わせよう。

ケイコ。任せて。たいていおいしいと思うはず。

 (イブはちょっとエリートっぽい。ケイコがこまめに働いているのは気にならないらしい。自分で、あれこれ思案しているようだ。それでも、世話好きなのは似ている。食前酒を提案してきた。パーティーの雰囲気を出したいらしい。
 いつものように、志摩とケイマと、そしてケイコが料理を作っている。イブは会場のしつらえだ。切り紙したりして、凝っている。だれか、モデルがいるようだ。
 シルビアさんたちが帰ってきた。)

シルビア(英語)。これが新しい自動人形。

 (救護服を来ているから、自動人形と分かるのだ。)

イブ。はじめまして。イブと言います。間違って日本に来ました。

シルビア。えっ、どういうこと?。

 (本来はY国本部に行く予定だったことを告げる。)

シルビア。これも何かの「因縁」ってわけね。

鈴鹿。それ、英語になるの?。

シルビア。運命ならあるわよ。ふーむ、アンドレと似合いそう。ペア組ませてみるか。

鈴鹿。それがいいかも。相性が合えばいいわね。

伊勢。鈴鹿さん。あなたでしょう、とんだいたずらしてくれたわね。

鈴鹿。えっ、何のこと?。

伊勢。しらばっくれて。もうすぐ分かるわよ。

 (志摩とケイマとケイコが入ってきた。志摩が食前酒を持っている。)

志摩。お待たせ。まずは食前酒から。

鈴鹿。おわっ、本当にやっちゃったんだ。

伊勢。ははーん、思い当たる節があるということ。

鈴鹿。冗談と思っていた。どうしたら、日本で受けるかの相談を受けたの。驚かすためだから、当日まで秘密にしておいてくれって。

シルビア。似ているどころではない。この自動人形、人間みたい。

ケイコ?。私、ケイコって言います。本当に生きている自動人形。だって、ドッペルゲンガーですもの。

シルビア。日本語でしゃべっている。当然か。何て言っているの?。

 (鈴鹿が翻訳する。シルビアさんが驚いて、触ったりする。)

シルビア。肌の感覚まですべすべで人間そっくり。髪の毛も生きているみたいにきれい。

ケイコ?。ありがとう、シルビアさん。

原田?。シルビアさん、私の分身が気に入った?。

シルビア。ケイマさん、いつの間に英語が達者に…。あんたたち、なんてことするのよ。E国風冗談ねっ。

 (もうお分かりだろう。ケイマとケイコで服を取り替えたのだ。)

鈴鹿。もう分かったから、服を元に戻してよ。頭がくらくらする。

ケイコ。その効果を狙ったはず。うまくいったみたい。うん、元に戻す。ケイマ、行こう。

原田。うん。

 (着替えに行った。シルビアさんは、この手の冗談は分かるようで、怒ってはいない。)

シルビア。肝が冷えたわ。自動人形が生命を宿すと、あんなに怖いなんて。

鈴鹿。それにしても、良くできてる。遠くからだと見分けがつかないほど。

伊勢。リリ型に近い。分子シンセサイザーは作るとして、進行波ジェットが使えるかどうかね。

シルビア。分子シンセサイザーって何。

鈴鹿。手品の小道具よ。アームウォーマー型で、発光物質などを発射して威嚇する。本来は鎮静剤を飛ばして、暴れる被救護者を2mほど先からおとなしくさせるもの。

シルビア。そうか。イブなら直接押さえ込めるけど、ケイコは吹っ飛ばされる可能性がある。進行波ジェットの方は、飛ぶの?。

鈴鹿。飛ぶ自動人形はいくつかあるけど、大人の大きさになると重くて、乗り物にしないと飛ばせない。ケイコは翼を付けて飛ばせるかどうか、ぎりぎりの線。ちなみに、危険なので人間は装着できない。

シルビア。自動人形をジェット機にする。シリーズBと逆。

鈴鹿。そう表現できるか。折り畳める凧を背負って、進行波ジェットで推進する。ものすごく静かだし、時速300kmほどは出る。

シルビア。うらやましい。飛べるなんて。

伊勢。まだ決まったわけではない。設計を交渉してみる。ほとんど追加の装備ができないのは明らか。

シルビア。自動小銃くらいまでか。それでも、たいへんな威力。

 (進行波ジェットは何とか使えるらしく、翼は2週間後に、アームウォーマー型分子シンセサイザーとともにやってくることになる。
 ケイマとケイコが帰ってきた。ちゃんとそれぞれの服を着て。で、さっそく鏡ごっこなどをして、周囲を笑わせている。全然ドッペルゲンガーの雰囲気ではない。)

伊勢。あきれた。楽しんでいる。

奈良。ふつう、嫌がりそうなものだが。

志摩。影武者の意味もあるのかな。

鈴鹿。そこまでは考えてなかったと思う。一瞬笑ったら終り、程度でしょう。

伊勢。鈴鹿とイブも似てなくもない。

志摩。少なくとも背の高さは似ている。並んでみてよ。

 (鈴鹿とイブが並ぶ。ほぼ同じ高さだ。でも、髪の色も、顔の感じも、違う。体形は救護服のために分かりにくい。ちなみに、シルビアさんは、鈴鹿よりも少し背が低い。)

鈴鹿。待ってて、イブにもスーツを着せてみる。

 (鈴鹿の部屋にイブを連れて行ったようだ。でも、戻ってきた格好は、スーツではない。ホットパンツに、短いサファリシャツを来ている。ボディラインが丸見えだ。)

原田。鈴鹿さん、抜群のスタイル。ほれぼれする。

志摩。イブはアンを大きくしたみたい。

原田。そうなの?。目の毒になるくらい色っぽい。でも、色っぽすぎもしない、絶妙の線。芸術品。

奈良。アンに対抗して作った感じ。

アン。私より、色っぽい。

伊勢。ここまできたら、比較なんてできないわよ。イブ、そのままでアンドレと並んでみてよ。

原田。うわあ、お似合い。アメリカンヒーローとはまた違った、Q国風ヒーローとヒロイン。

シルビア。うまく作ってある。本人たちは、互いに気に入っているのかな?。

 (好きというほどでもないが、嫌いではないみたい。ふつうに接近している。自動人形で、仲たがいしているのは、芝居以外では見たことないが。)

シルビア。奈良さん、イブをアンドレといっしょにQ国に連れて帰ることはできないの?。

奈良。できるだろうけど、コントローラがどういうかだな。

シルビア。シモンさんか。持て余しそう。彼は、普段は機械の調整をしている現場の技術者で日常業務に忙しい。私がやってみようか。コントローラになるにはどうしたらいいの?。

奈良。興味があるのなら、しばらくコントロールしてみるか。適正があるかどうかはすぐに分かる。2週間もあれば十分。

シルビア。じゃあ、2週間、日本にいられるように申告してみます。ここ、情報収集部で試してみます。いいでしょうか。

奈良。もちろんOKだ。

 (申請はすぐに通り、シルビアさんは日本でコントローラの練習をすることになった。操縦するのはアンドレとイブ。直接の指導は伊勢がする。シモンさんにも知らせておいた。
 恒例の探索に付き合う。大所帯だ。A31に三羽烏にアンドレにイブにケイコ。アンドレとイブが手をつないで先頭に立っている。ちょっとだけ親しみの係数を上げたのだ。)

原田。ふはあ、ちょっと恋人っぽい。

鈴鹿。友達同士くらいの感じにも見えるけど。シルビアさん、どう見える?。

シルビア。恋人ったって、いろいろだから。そうね。夫婦でもあの程度の人もいるし、それほど親しくなくても、気が合えば手をつなぐことはある。

鈴鹿。日本と同程度か。あとは協調動作。

奈良。そちらの方の調整が必要。タロとジロの共同作業程度なら、すでにプログラムは高度な水準に達していて、移行は簡単。しかし、志摩と鈴鹿のように、たがいに別行動で補完するのは大変難しい。

シルビア。作戦で有効な程度。奈良さん、できる範囲でがんばってもらえますか。

奈良。そうだな。私としても興味ある。やってみるよ。

シルビア。ありがとうございます。

 (三郎にとっては、最後の東京ID社の探索だ。なごり惜しんでくれた。E国でも活躍してくれるだろう。今後は、ケイコが四郎と五郎を支配する。)

第16話。2機の自動人形。1. プロローグ

2009-09-28 | Weblog
伊勢。奈良さんっ、これはいったいどういうことですか。

奈良。私も知らん。どうなっているんだ。

原田。どうしたの?。

伊勢。三郎と交換で来るはずのE国の自動人形が来たのよ。

原田。女性型アンドロイド。コード名B04。ちょっと早く来た。

伊勢。箱は2つ。コード名08Bというのも来ている。ただでさえ、A31、三羽烏、アンドレがいるのに、もうたくさん。

 (なぜアンドレがいるかといえば、仕事を終えたシルビアさんがQ国仕様シリーズBでゆっくりと日本旅行中なのだ。鈴鹿とジロが付いていっている。今は熊本ID社から、阿蘇山に行っているはずだ。)

原田。08Bは男なの?、女なの?、動物なの?。

伊勢。最新女性型アンドロイド。E国で3カ月間調整されたらしい。本来は本部に返すものが、なぜかこちらに。

奈良。どうしよう、そのまま転送するか。

原田。見てみたい。せっかくの20億円の機械。それに、女性型は今はアンだけ。アンも女性が増えて喜ぶかも。

アン。会ってみたい。

奈良。そうだな。見るくらいはいいか。

伊勢。原田さん。誘導がうまい。奈良さんの弱点をうまく突く。

 (他人のことが言えるのか。ともかく、見るくらいはいいか、ってことで、起しに行く。
 最初にB04の箱を開ける。あっ、と3人の声が上がる。悪趣味。)

伊勢。なにこれー。悪趣味の極み。誰がこんな改造したのよ。

奈良。E国風ジョークのつもりらしい。

原田。私のドッペルゲンガー。カラスに対抗するつもりだったのか。

 (顔も髪型も身長も、ほとんどケイマにそっくり。黒い髪の毛がわずかに赤く光沢しているのが違い。救護服は着ている。
 08Bはアンより大きくて、鈴鹿ほどある。08Aと一転して普通に見える。顔は英国風のまま。当然か。)

奈良。起きよ。B04。08B。

ケイコ。内部動作確認、異常なし。周囲に脅威認めず、安全です。はじめまして。コード名B04、愛称はケイコ。以後よろしく。

イブ。はじめまして。コード名08B、愛称はイブ。よろしく。

 (イブも日本語でしゃべっている。
 それにしても、B04の愛称がケイコ(Keiko: 圭子)とは念入り。ふむ、絶対に誰かの陰謀だ。3人とも驚いたということは、残りは1人しかいない。
 ケイコの救護服は明るい灰色に、わずかに赤みのある黒の縁取り。立ってみると、ケイマよりもややがっしりとした感じに見える。顔形やスタイルはどこか違うし、声も3度ほど低い。しかし、一卵性双生児ほどの違いだ。親しくない人が遠くから見たら、区別はつかないだろう。
 かたや、イブ(Eve)はアンとそっくりの体形で一回り大きくした感じ。救護服は明るい灰色に、深い緑の縁取り。ID社初の女性型アンドロイドだから愛称をイブにしたようだ。
 2機の自動人形が左右からにじり寄ってくる。女性の外見はしているが、元は軍事用アンドロイドだ。ちょっと怖い。軽く肩を抱くと、すぐに離れた。)

伊勢。ケイコ、あなたは三郎と呼ばれる自動人形と交換で来るはず。それなのに、あなたが先に来た。何か事情を知ってる?。

ケイコ。知らせは無かったんですか?。

伊勢。あったけど、とにかく送るとしか書いてなかった。

ケイコ。事情は知りません。私が起こされたのは久しぶり。呼んでいただいて、ありがとうございます。

原田。久しぶりって、3か月ぶりとか。

 (1年ほども置いておかれたそうだ。他に男性型が3機もいるし、小型なので、なかなか活躍させてもらえなかったのだと。知らないうちに改造され、起きたら日本だった、ということだ。)

原田。自動人形に時間の感覚は無かったんだっけ。

奈良。周りの動きに反応するだけだ。1日で起きても、1年後でも関係ない。周囲の人間の感情には反応するから、人間側が知っていれば、感じが変わるだろう。

原田。なんだか、哀れ。カラス型の方が活躍すると考えられたのか。

ケイコ。大切にしてください。必ずや役立ってみせます。

原田。うん。大丈夫。何とかなる。

 (さすがにイブはつい最近まで訓練されていたようだ。)

イブ。ここは、本部ではない。日本ID東京支社、情報収集部の控え室。間違って送られたんだ。

奈良。そのようだな。

イブ。自動人形なんか、どうでもいいことの証左。

奈良。単純な間違いではないか。自動人形を日本に送れと言われた人が、たまたま2つのそれらしい箱を見た。あれ、単数と複数を間違えて言われたかな、なんて。

イブ。真剣なら20億円の機械を行方不明にするわけない。甘く見られたんだ。

奈良。まあ、そう怒るな。どうする、本部に直行したいか。

イブ。たぶん、これは日本を見て来いとの天の導き。しばらくいさせてください。必ずや役立ってみせます。

 (妙な発言。わざと教え込まれていたのか。伊勢も、そう直感したようだが、ここはイブの心意気を酌んで、しばらく預かることにした。一ヶ月ほどの予定で。本部に一報を入れておく。)

第15話。自動人形、アンドレ。19. シルビア、来日3日目、夕、接待

2009-09-27 | Weblog
 (しばらくすると鈴鹿は落ち着いてきた。シリーズBは長野本社と東京支社にパイロットが飛行させる。整備車等も引き上げた。指揮室の電源はほどなく復旧したが、回線は低速の無線のまま。ハイテクの故障はたちが悪い。
 予定通り、都内の料亭に向かう。永田は帰ってしまい、代りに代議員が2名来た。軍の幹部は2名。事務方3名。軍のパイロットは体調が優れない、という理由で来ない。当方は、ID社東京支社長、シリーズBに詳しい技術者1名、パイロット1名、情報収集部4人、シルビアさんとケイマ、アンドレとA31。関はコンパニオンに化けている。ID社東京支社長にはシルビアさんの派手な悪ふざけを知らせておいた。
 ID社東京支社長があいさつし、代議員向けに技術者がシリーズBの解説を行う。質問答え係と称して、伊勢と鈴鹿を代議員に近づける。軍幹部にはシルビアさんとケイマ。事務方トップには化けた関とアンが接近する。うむ、いつのまにか、女スパイだらけだ。事務方トップが営業と話したいというので、志摩を差し向ける。なにやら、具体的な金額について話しているようだ。
 関がやってきた。)

関(変装中)。奈良さん、指揮室の停電は偶然ではないんでしょう?。

奈良。たしかにグッドタイミングだったな。この説明でいいか。

関。十分。軍を相手にするなんて、度胸のあること。

奈良。向こうは窮してミサイル巡洋艦を丸腰のシリーズBに差し向けようとしたのだ。多少の細工は許して欲しい。

関。おかげで、とんだ国際的な恥になった。いざというときに停電して、緊急回路も働かない指揮室なんて、情けない。

奈良。そうだな。

関。でも、たしかに、民間企業の4人にタイミング良く沈められる指揮室も情けない。それに、有事でもないし、この程度のいたずらなら、軍内部の足の引っ張り合いでもやりそう。

奈良。軍の内情は知らん。

関。面白がっている部署もあるでしょう。あの指揮官、癖があるので有名だそうよ。そうか、そちらの線もあるか。みなさんの手際としても、ちょっと鮮やかすぎるもん。普通、もっと派手にやるわよね。伊勢さんとか使って。

 (なんだか、勝手に解釈して行ってしまった。たしかに、こちらが緊急回路を壊したわけではない。もともと壊れていたのだ。ほぼ交代に、我が社の誇るパイロットがやってきた。)

パ1。シリーズBは売れそうですか?。

奈良。まだわからん。あそこにいる私の部下が探っている最中だ。

パ1。あちらのパイロットとはお知り合い。

奈良。この前、Q国旅行した際に知り合ったばかりだ。Q国ID本社の総務部にいた女性だ。Q国空軍の経歴がある。

パ1。どうりで、根っからのファイターだ。まともに戦闘機とけんかしていた。大した度胸。私なら怖くてできない。

奈良。あなたは計測機会社のパイロットだから、けんかの強さは要求されていない。

パ1。それじゃあ、この事態を予想して彼女を選んだんだ。

奈良。ヨーロッパ本部の判断だ。ちょっと経緯があって、観光案内もできる。

パ1。なるほど。万一に対応できて、腕がよくて、観光もできる。適材。

 (今度はシルビアさんがやってきた。)

シルビア。奈良さん、指揮室を停電させたんですか?。あっちで話題になっていました。なぜ絶妙のタイミングで停電したのかなって。

奈良。ええと、きっかけは作った。でも、実のところ自滅に近い。我が軍の施設管理がずさん。

シルビア。余計なことを。

奈良。まあな。鈴鹿と志摩に巡洋艦を攻撃させても良かった。伊勢も本部を同時攻撃するだろう。

シルビア。鈴鹿さんはふらふらだった。

奈良。本当にそう思うか?。

シルビア。ふーん。たしかに冷静に私に付いてきた。すぐに判断していたから、成り行きをじっと観察していたんだ。シリーズBの高度な操縦もアンドレにさせたらおしまいだし。

奈良。その感想が真実に近いと思う。

シルビア。日本ID社情報収集部。うわさ通りの怪物組織。

奈良。そんな評判があるの?。

シルビア。ID社の防衛にかかわる部門では有名。わたしは、ここに来る直前に知った。

奈良。ここではせいぜい小競り合いしか起きない。

シルビア。そのように誘導している。今回も、停電がもっとも穏便。けが人が最小。

奈良。後始末の手間が省けるという点は大きい。

シルビア。あきれた。やる気だったの?。

奈良。今となっては、想像の域をでない。あんな思いつき作戦で、指揮室が機能停止するとは、たしかに予想外だった。

シルビア。じゃあ、第2波、第3波を考えていた。

奈良。準備はしていた。無駄になった。

シルビア。起動しなくて、本当によかった。命がいくつあっても足らない。

奈良。ああ、こちらもほっとしている。シルビアさんがあそこで止めてくれたので、助かったよ。

シルビア。2人とも、慌ててくれたから助かった。冷静に対応されていたら、ひどいことになるかも知れなかった。

奈良。今にも空中で戦闘機を解体しそうな勢いだったからな。

シルビア。ふん、せっかく手加減してやったのに、つけあがるからよ。

奈良。そんなことだと思った。いずれにせよ、2機の戦闘機はボロボロ。シリーズBをなめたらどうなるかは思い知ったはずだ。

シルビア。パイロットは優秀だった。ただ、こちらが空飛ぶロボットだってことを全然分かってなかったみたい。

奈良。そりゃそうだろう。常識外れの航空機だ。見た目はジェット機だし。

シルビア。日本のアニメ(註: UFOロボ グレンダイザー)みたいに、身長20mの戦闘ロボの格好していたら、警戒したかな。

奈良。誰でも分かる。

 (結局、この時は価格で折り合いが付かず、政府系の航空技術研究所にも一機あるし、ということで、シリーズBの新規購入はなかった。もっとも、しばらく後、Q国を初めとする世界的な購入ラッシュで、雰囲気が変わり、慌てて4機の政府関連への納入があった。普通に機動性のあるジェット機として使われるのみであったが。)

 第15話、終了。

第15話。自動人形、アンドレ。18. シルビア、来日3日目、空中戦

2009-09-26 | Weblog
 (早朝、軍の基地にシリーズBを着陸させる。駐機場にはID社の燃料輸送車やら整備車がいる。整備士たちは慣れたものだ。基地の作戦指揮室に、シリーズBのモニタを設置する。観測用飛行船をID社東京屋上から演習空域に飛ばす。打ち合わせ通り、志摩とタロ、伊勢と三羽烏に待機させる。永田と関は、作戦指揮室に待機するとのこと。ケイマは私と同行。クロとアンといっしょ。)

原田。じゃあ、伊勢さんたちは、移動司令部で一連の動きをモニタしている。

奈良。軍の管制室には入れないから、しかたがない。ID社独自の観測網を使う。

原田。単に観測機器の試乗会なのに大げさ。

奈良。それというのも、戦闘機といっしょに飛ぶからだ。相手は血気盛んな軍人。何をされるか分からない。

原田。考えすぎと思うけど。

奈良。そうだな。そうあってほしい。

 (基地は朝から解放されて、一般客が入って来ている。もちろん、立ち入り禁止区域は厳重。滑走路脇の進入路の一本が見学コースになっているだけだ。それでも、演出で、和やかな雰囲気を出そうとしている。司令部は、当然、立ち入り禁止区域にあるから、身体検査されてしまった。私とケイマのLS砲と通信機は一時預かりになった。ところが、どういうわけか、アナライザーは素通りした。計測機会社だと説明したかららしい。だから、DTM手話で通信はできるしIDセンサーも十分に使える。時空間計も通った。アンとクロも身体検査され、同じくLS砲は一時預かりたが、アナライザーの主要部分と通信機は埋め込み。この部分の詳細は極秘。通信機能は、普段は普通の帯域の電波を使うが、検出されにくい極秘回線もある。いざとなったら、そちらを使うはずだ。
 指揮室そのものに入れるわけではない。翻訳者ブースみたいな感じの、記者席に座るのだ。窓から指揮室の一部が見える。当然、極秘の部分は見えなくされているだろう。報道機関向けの部屋だから、電源や通常のインターネットや電話は使える。
 アンが興味深そうに窓から指揮室を見ているので、私が近づくと、シリーズBのモニターの設置を手伝っていた軍の技術者の一人が寄ってきた。)

技術1。こちらはロボット。

アン。はい。そうです。ID社の救護ロボット。アンといいます。

技術1。すごい。ちゃんとあいさつできるんだ。

奈良。ええ。単にあなたの発言に反応しただけですけど。

技術1。それでも大したものです。あちらの装置に関心があるのかな。

奈良。そうです。複雑そうな装置には反応する。通常の反応です。

技術1。おもしろそうだ。相手していいですか?。

奈良。どうぞ。

 (ご親切にも、指揮室の機能について解説している。この人、根っからの技術者のようで、秘密も何もかも、ペラペラとしゃべっている。こっちは聞こえないふり。アンもアンで、適当に反応しているように見せかけて、しっかり機能を探っている。適度に愛想を振りまきながら。うむ、策士だ。
 クロはというと、さりげなーくドアから出て、司令部内の探索。人の気配がしたら、ささっと身を隠す。当然、監視カメラは厳重だから、少しは映っているはずだが、なぜか騒ぎにならない。スパイネコが暗躍しているというのに。大丈夫か、この基地。
 伊勢は、機器の調整が終わったので、三羽烏を率いて基地内の探索。三郎を飛ばして主要な装備を探らせる。四郎と五郎は、展示の航空機やら、見える位置の機器の機能を探っている。解放部分には親子連れも多く、目立たない。
 クロは指揮室の通信回線を発見。もちろん、ねじでがっちり固定されているが、万一に備えて緩めておく。電力線も予備回路も含めて確認。何と、予備回路は機能していないと。我が国の防衛は大丈夫か。
 そうこうしているうちに、ID社東京支社長が入ってきて、試乗会の準備OK。永田と関もさりげなく配置する。お偉方や招かれた企業の人々が控え室から入ってくる。シルビアさんは、入ってきた中年女性から話しかけられて、説明している。あとで聞いたら、Q国大使館の調査員らしい。どこからか情報をかぎつけたようだ。軍事ではなくて、民間産業の交流の部門。様子見らしいが、当然、Q国軍にも情報は流れるだろう。もう二人、怪しいのがいて、アンの分析と総合すると、A国のスパイらしい。A国の戦闘機とシリーズBがいっしょに飛ぶからだ。動向を調査する必要があるみたいだ。
 まず、指揮室の説明が軍からあった。次に、ID支社長のあいさつと、社員の紹介。その次に、当方の技術者からシリーズBの概要の説明が続く。特に質問はないようだ。分かったというより、聞き流していたらしい。軍の担当者から本日のプログラムについて、解説があった。
 パイロットの紹介。シルビアさんは精悍な感じがある。鈴鹿はいつもの調子で、一見頼りなさそう。飛行時間の紹介で、素人であることが明らか。我が軍のパイロットは頼もしそうな屈強な若者と経験を積んだらしき人。両人ともあきらかに強者であることが分かる。鈴鹿の経歴を聞いてあきれていたが、さすがにQ国空軍のパイロットの経歴を持つシルビアさんには注目せざるを得なかったようだ。普通に握手している。アンドレとジロの紹介もあった。)

ID社長。それでは、関東平野を一巡りしてみます。

 (案の定、鈴鹿の方には誰も乗りたがらないので、支社長が搭乗を申し出た。しかたなく、ちょっと目下の者が乗る。
 シリーズBの二機が相次いで出発する。速度を上げて、東京湾を一周し、次に、ゆっくりと関東平野をめぐる。当然、航空機としては静かだし、小型なのに揺れも少ない。モニターもしっかりしたものだ。制服組は目を見張っている。さすがに、計測目的、なんて言葉が聞こえる。
 私は指揮室脇のブースに残っている。こちらではシリーズBを追跡している。やはり、防空上、どのように見えるかに関心があるようだ。ずいぶん真剣にモニターを見ている。
 午前の部が終わり、全員が戻る。支社長はあいさつして帰った。何事もなく、ほっとしたようだ。
 軽く昼食を摂る。)

シルビア。制服組は、シリーズBの性能に驚嘆していた。何か新しい動作をする度に、ため息が漏れていた。購入したがっている感じ。あとは、ふつうの行政の方のようで、景色を眺めるだけだった。

奈良。満足してもらえたようだな。

シルビア。ええ、いい機体。楽だわ。鈴鹿さんの方はどう?。

鈴鹿。こっちは航空機ファンの人だったようで、いろいろと質問してきた。アンドレが説明していた。喜んでもらえたみたい。

原田。売れるかな。

奈良。ああ。一機売れるかどうかだろうけど。

 (昼休み。許可を得て、相手となる2機の戦闘機を見に行く。アンドレに分析させる。事前の情報どおり、2基の模擬ミサイルが付いている。弾頭が付いていないだけで、ふつうに追尾する。機関砲もちゃんと空砲になっている。)

シルビア。紳士協定は守られているみたい。よかった。

奈良。でないと、死闘になる。ほっとしたよ。

シルビア。でも、当たると痛い。使用される可能性はあるから、用心しないと。

 (シリーズBに近づく。整備している人は真剣だ。ありがたいことだ。シルビアさんがあいさつしている。鈴鹿も。
 午後、まずコースの解説がある。最初はシルビアさんがQ国仕様機で三宅島空港に着陸する予定だったのだが、それでは当たり前でつまらない、というので、鈴鹿が日本仕様機で着陸することにする。鈴鹿が島の空港から飛び立ったら、こちらから戦闘機2機とシルビアさんのシリーズBが合流して、4機でアクロバット飛行する。その模様は、巡洋艦のカメラで中継される。
 鈴鹿らが乗り込むまで、シリーズBのビデオが上映された。ロボット腕で機械を組み立てる場面もあった。)

軍司令。鈴鹿さん、発進してください。

鈴鹿(通信)。はい。

 (鈴鹿とアンドレの乗ったシリーズBが飛び立つ。あっと言う間にふわっと浮いてそのまま進む。印象的だ。近くなので、時速500km程度で航行する。すぐに着いた。空港に着陸して、記念品を受け取る。シリーズBの計測機の映像で、その模様が送られて来る。)

原田。あっと言う間だった。

奈良。ああ、たいしたものだ。

 (会場の雰囲気もそのようで、あまりにあっけなかったので拍子抜けのようだ。鈴鹿はすぐに飛び立つ。早業だ。こちらからも3機が飛び立つ。
 東京湾から少し沖、他の船舶がいない空域でアクロバット開始。かなりの速度を上げて、ふわふわ舞う。さすがに主力戦闘機にプロのパイロット。格が違う感じ。)

原田。やっぱり、プロのパイロットは大したもの。

奈良。ああ、私が見ても分かる。

 (制服組は安堵しているようだ。でも、シリーズBも優秀な運動性を発揮している。速度を出していないだけで、舞では負けていない。特に、シルビアさんの機体は、戦闘機にぴったりついて行く。あまりに正確だったので、戦闘機のパイロットがちょっと試したくなったようだ。するするっと飛び出して、急旋回してみる。でも、シリーズBは低速度での運動性は抜群。速度を落として切り返す。そんなことが数回起こった。良く見ると、後方からぴったりくっつけている。シルビアさん、悪い冗談だ。)

政府要人。あれじゃあ、ミサイルで狙われたら我が軍の航空機が撃墜されるのではないか。

軍の人。ううむ、シリーズBの極低速度での運動性は怪物的だ。分かっていたことだが。

指揮官。高木(若い方のパイロット)、Q国機を狙え。

 (来た、と誰もが思った。戦闘機1は真剣にQ国機の後ろに回り込もうとする。しかし、シルビアさんは強者で、もう少しのところで、あかんべーするようにするりと抜ける。戦闘機は速度を落とせないから、すぐに後ろに付かれてしまう。とうとう、エキサイトし出したようだ。かなり無理して回り込み、あまり狙いも定めずにミサイル2基を発射した。)

原田。ミサイルをこちらに向けたの?。もろにけんかじゃない。

奈良。まぎれもない、けんかだ。

 (シルビア機は、こんどは、戦闘機1のわずか5m上にこれ見よがしにピタリとつける。撃墜されたら巻き込む気だ。緊急脱出装置も使えない。考える暇などない。ミサイルは超音速で襲ってくる。危険を感じたパイロットはミサイルを自爆させた。攻撃手段は機関砲だけになった。シルビアさんは離脱する。)

原田。シルビアさんが勝ったの?。

奈良。さんざん脅した末にだ。

 (上司に当たるパイロットが許すわけがない。今度は間がある。シルビア機に狙いを定めた。と、シルビア機は急に反転した。)

原田。ジェット機って、後ろ向きにも進むの?。

奈良。進んでいるな。

 (時速300kmほどで後退している。そして、シリーズEを2基発射した。マッハ6の観測装置だ。爆発などしない。わざわざ戦闘機2の窓をかすめるコースを取らせる。もしも、ミサイルなら当然撃墜している。でも、この老練なパイロット、往生際が悪い。)

パイロット2。捕捉した。

 (シルビア機はもう一度反転して、急に速度を落とす。視界どころか、レーダーからも陰影が消えてしまった。)

指揮官。消えた。海面にいるのか。

 (真下。それもわずか2m程度の距離。時速300kmほどだったので、ロボット腕を出して、下から小突く。そして、機体をつかんで1トンの力で下に引っ張り始めた。)

パイロット2。うわあ。操縦不能。

 (シルビアさんは離脱。でも、慌てたパイロットが操縦を間違えたらしく、機体に無理な力がかかって、わずかに変形、戦闘不能になった。帰還コースを取る。
 元のパイロットが黙っていなかった。シルビア機を追いかけるが、すぐに後ろに回られる。アフターバーナーをふかした。意地でも離脱する気だ。よせばいいのに、シルビア機は加速して近づく。そして、音速を超える直前で、垂直方向のスラスタの排気を吹きつける。バランスを崩したまま、戦闘機は音速に突入。機体は瞬間に変形したらしい。目には分からないほどだが。)

パイロット1。帰還します。

指揮官。巡洋艦、Q国機を捕捉せよ。

 (この指揮官、短気らしい。民間機を武装した軍艦で襲う気だ。しかたがない、クロに作戦を開始させる。まず、通信ラインを外す。指揮室のモニターがブラックアウトした。少なくとも、ここからは指揮できなくなった。次に、主電源を切る。非常用電源は動作しない。指揮室が暗くなる。さすがに、軍用機器、内蔵のバッテリーで何とか動作している。でも、指揮室はまともには使えない。)

指揮官。何が起こったのだ。復旧しろ。

 (さすがに軍で、技術者が無線で回線を5分後に復旧させた。でも、シリーズBはレーダーから消えている。回線が遅いので、それ以上の情報は入ってこない。
 シリーズBは川の20mほど上空をさかのぼっていた。そして、基地の近くで急に現れて、着陸許可を求め、そのまま着陸した。)

Q国大使館員。戦闘機の負け。

 (指揮官も含め、制服組は声も出ない、といった感じだ。シリーズBは危険な超低空を飛んでしまったようだが、追い込んだのは軍だ。どうしようもなかったようだ。戦闘機は帰還はできたが、2機とも大修理が必要だ。指揮官は責任を取らされるはずだ。シリーズBのフライトレコーダーは、2機とも押収されてしまい、返してもらえなかった。)

原田。勝ったの?。

奈良。やりすぎ。実戦なら、第一撃で撃墜されている。じゃれただけだ。

原田。相手がなめていたのにつけ込んだ。

奈良。そうだ。

 (制服組の見解も同様だったようで、シリーズBを甘く見るとどんなことになるのかが分かったようだ。
 2人と2機のアンドロイドが帰ってきた。あまりのことに、さすがの鈴鹿もふらふらになっている。シルビアさんとアンドレが抱えるようにして引っ張ってきた。)

鈴鹿。何が起こったのか、訳が分からなかった。

原田。そのわりには、しっかり見ていたようですけど。

鈴鹿。アンドレが操縦していたのよ。

 (本当は、鈴鹿が操縦していたのだが、そういうことにしたいらしい。)

シルビア。帰還しました。

奈良。大丈夫か。傷は無いか。

シルビア。シリーズB、両機とも損傷ありません。

奈良。いや、聞いているのはあなたの身体のことだが。

シルビア。大丈夫です。

 (まじめそうに言いながら、当然、何でもありませんわよ、おほほほほ、って感じだ。我が軍のパイロットは、ほとんど何が起こったのか理解できないまま、ふらふらになって、医務室に休みに行ったらしい。当然、身体的には異常はなかろう。指揮官はカンカンに怒っているが、上司が何とか抑えたようだ。)

Q国大使館員。良いものを見せていただきました。私は続きの仕事がありますので帰ります。

 (今にも大笑いしそうな満面の笑みを残して、タクシーで帰っていった。A国の2名のスパイも、さっきから大笑いを必死で我慢している。永田と関は、またID社がやったか、といった表情だ。)

第15話。自動人形、アンドレ。17. シルビア、来日2日目、夕

2009-09-25 | Weblog
 (午後もテーマパークで遊んだが、シルビアさんは3時過ぎには自粛して、戻ると言い出した。東京ID支社長に面会に行く。支社長はシルビアさんの経歴を調べたようだ。存分に思い通りに操縦してくれと励ましてくれた。
 アンドレの探索に付き合おうとしたら、シルビアさんも付いてきた。屋上に出る。シリーズBは普通のヘリポートには大きい。でも、さすがにID社で、ちゃんとシリーズBに対応した大きさになっている。シルビアさんは機体に触れて、感慨深そう。)

シルビア。シリーズBに出会えてよかった。私、一時期、飛べなくなってたんです。でも、今は大丈夫。シリーズBなら操縦できる。

奈良。飛行機ではなく、ロボットだから?。

シルビア。きっと私の心の中で、そう思っているんだ。私の考えにロボットが反応する。翼を持ち、飛ぶロボット。自由自在に舞ってほしい。そう思うと、シリーズBは応えてくれる。

奈良。白鳥になった王子かな。

シルビア。うん。話しかけると動いてくれる感じ。

奈良。明日は戦闘機と勝負か。

シルビア。そうなるかもしれません。

奈良。挑発は十分にありうる。

シルビア。やってくれたら、お返ししてやろうと思います。

奈良。ああ、こちらの意地を見せてやれ。でも、無理はするな。

シルビア。分かっています。危険は冒しません。

奈良。相手次第だな。けんかでは負けないと思っているはずだ。鈴鹿に支援させよう。

シルビア。私だけで十分と思います。

奈良。ああ、でも、万一の場合と思ったら、勝手に支援に回るはずだ。悪く思わないでくれ。

シルビア。はい。

奈良。鈴鹿にはアンドレを付けるから、大丈夫。アンドレが鈴鹿を助けるだろう。

シルビア。私にも自動人形を付けるのですか?。

奈良。ジロを付けようと思っている。自動人形は軍事的脅威には敏感。不測の事態にも、冷静に事実を報告し、最善と思われる提案をするはずだ。志摩とタロが地上から支援する。軍の管制室やレーダー室には入れないから、ID社の観測網と追跡システムを使う。

シルビア。念入り。

奈良。本物の攻撃兵器を使われることはないと思う。使ったら最後、志摩たちは容赦しないだろう。伊勢は軍の管制システムの破壊にかかると思う。

シルビア。まさか。そこまで。

奈良。だから、そんなことは起こらないって。単に準備するだけだ。

シルビア。鈴鹿さんから何か聞いたんですか?。

奈良。想像に任せる。あなたは自分の思うとおりに働けばよい。

シルビア。思ったとおり。IFF相当の組織。あなた方が真の力を発揮しないように、がんばります。

奈良。そうしてくれ。

 (永田経由で軍から飛行計画が着ていた。全員オフィスに集めて、説明する。
 明日午前は、ID社からの資料説明の後、最初はお偉方の遊覧飛行で、上空から関東平野を一巡するだけ。シリーズBを2機とも使う。副操縦席にはID社のパイロットを同席させる。
 午後は、お偉方は軍の作戦指揮室に集まって、モニターで見学。私も同席。シルビアさんのQ国仕様シリーズBが三宅島空港に着陸して、記念品を手渡され、持ち帰る。副操縦席にはジロ。その途中で、戦闘機2機と鈴鹿の日本仕様シリーズBが合流して空中演舞する。副操縦席にはアンドレ。空中演舞の手順は決まっていて、こなすだけ。あとはそのまま4機で編隊を組んで帰ってきて、おしまい。)

伊勢。じゃあ、原田さんには作戦指揮室に行ってもらいましょう。永田さんと関さんもそこかな。

奈良。永田と関は、当日判断させよう。

伊勢。私は新車両でモニタを見る。三羽烏といっしょ。不穏な動きがあったら、行動する。

奈良。ああ、そうしてくれ。

シルビア。行動って、軍への攻撃ですか?。

伊勢。適切な処置としか言えない。

シルビア。分かりました。

伊勢。何が分かったのよ。

シルビア。こちらを支援してくださるってこと。

伊勢。その解釈で十分。旧車両には志摩とタロ。司令センターになってちょうだい。

志摩。はい。

伊勢。クロとアンは、奈良さんの護衛と記録。

アン。がんばる。

クロ(アン)。任せろ。

シルビア。空中演舞の手順を見せてください。

伊勢。図が届いている。これで分かるの?。

シルビア。分かります。うん。踊るだけ。撮影するんですか?。

伊勢。そうみたい。巡洋艦からテレビ中継するらしい。

シルビア。大げさ。日本の税金を使う。

伊勢。シリーズBの重要度が分かるってもの。

志摩。巡洋艦って、本当に巡洋艦なの?。

伊勢。ええと、間抜けにも艦名が書いてある。

シルビア。駆逐艦よ、これ。

鈴鹿。ミサイル装備してそう。レーダーも高性能。

シルビア。艦対空ミサイル。

志摩。こっちも準備させてもらおう。巡航ミサイル型観測機と小型ミサイル型観測機を十分に用意しておくよ。

シルビア。その観測機で、迎撃するの?。

志摩。悪いけど、戦術は秘密。

シルビア。迎撃するのね。戦術に使えるとバレたら大変。

志摩。そうだね。小型ミサイル型観測機は、4機ずつシリーズBにも装着しておく。

シルビア。軍の戦闘機にもミサイルを装着するのかしら。

伊勢。模擬弾頭のミサイルを2機ずつ装備するらしい。攻撃兵器はそれだけ。機関砲は空砲のみ。

シルビア。戦争じゃない。

伊勢。意図は知らない。挑発がエスカレートしたら、使いそうよ。当たれば、傷は付く。

シルビア。まったく。油断できないってこと。

志摩。相手は本物の軍人。用心に越したことはない。

シルビア。覚悟しておく。

奈良。そうしてくれ。万一の事故を防ぐのだ。

シルビア。はい。

 (その後、いくつかの机上演習をした。シリーズBへのプログラムは導入しておく。自動人形の軍事コードを確認したら、しっかり対応プログラムがあった。必要時に起動するはずだ。)

第15話。自動人形、アンドレ。16. シルビア、来日2日目、朝~午後

2009-09-24 | Weblog
 (翌朝、社の食堂にて。志摩と鈴鹿が朝食を摂っていたら、シルビアさんが来た。シルビアさんの方から声がかかる。)

シルビア。おはよう、ケイ、志摩。

鈴鹿。おはよう、シルビア。名前で呼ばれたのは久しぶりよ。

シルビア。そうなの。

志摩。ここに来るまでは、鈴鹿はケイって呼ばれることが多かった。

シルビア。名前で呼んでいい?。

鈴鹿。もちろん不具合は無い。で、何の用?。

シルビア。原田さんはいるの?。

鈴鹿。さっき食事を済ませて大学へ直行。ケータイで確かめてみようか?。

シルビア。いいえ、不要。ケイ、単刀直入に聞く。あなた方はIFFの精鋭。

 (シルビアさんがDTMに属していることは、社員証で分かる。アナライザーでやっと分かる程度の違いなのだが、鈴鹿と志摩はセンサーを着けているから、すぐに分かる。)

鈴鹿。IFFで訓練は受けた。志摩も。二人ともトップ集団にいたのは事実。奈良さんと伊勢さんは科学者だけど、IFFの経験があるし、階級もある。

シルビア。調べた。伊勢さんは生物・化学戦の専門家。作戦時には化学兵器の合成装置を携帯。奈良さんは獣医で自動人形使い。その自動人形は軍事コードを擁し、奈良さんに忠誠を尽くす。日本ID社情報収集部門。日本ID社のスパイ組織。

鈴鹿。そうよ。ふつうに営業もするけど。

シルビア。でも、時には危険な仕事。今回も、日本の軍の動向の調査。

鈴鹿。もちろんそれはある。でも、日常業務の範囲内。特別ではない。公開された情報しか使わない。

シルビア。挑発される可能性は。

志摩。それが知りたかったのかい?。ありうるよ。いつでも。

シルビア。今回はどうなの?。

志摩。相手は本物の我が軍のパイロット。シリーズBの力量を探りに、挑発される可能性は十分にある。当方だって同じだろう?。

シルビア。そうね。相手の航空機は、A国以外では珍しい高性能なもの。実戦で負けた経験がない。からかってくる可能性は十分にある。こちらの態度次第ってことか。

鈴鹿。戦うの?。

シルビア。来たら来たで、願ってもないチャンスと言える。

鈴鹿。こちらも単刀直入に聞く。シリーズBって強いの?。

シルビア。強い。わざわざステルス性を隠しているから、今はミサイルなんかで十分に対応可能だけど、改造は簡単らしい。

志摩。ステルス性に関しては、こちらの政府もそう思っているよ。直接聞いた。

シルビア。ふふ、それじゃあ、話が早い。けんかを売られたら応じる。

鈴鹿。ご苦労なこと。逃げる方が楽じゃない。

シルビア。ふん。騒ぎを起こす方が、軍の体質が分かっていいのよ。

志摩。好きにしてよ。本部がシルビアを送ったってことは、君の判断で良い、ということだ。支援するよ。

シルビア。分かった。あなた方の考えは。頼りにしているわよ。

鈴鹿。無論、何かあったらとことん対応する。何が起こっても。任せて。

シルビア。うん。当てにしている。

 (一応、鈴鹿から報告は受けた。止めようがない。もう決まったことだ。彼らの判断に任せることとする。
 二台の社用車でテーマパークに行く。自動人形はアンドレと三羽烏。さすがに、三羽烏は入り口で問題になった。結局、四郎と五郎の分を払って入場する。シルビアさんは通信機を持っているから、志摩と鈴鹿が着かず離れず護衛する。三羽烏は伊勢が、アンドレは私が率いる。)

アンドレ。週日というのに、にぎやかです。

奈良。ああ、そうだな。会社をわざわざ休んで来るのだろう。

 (A31と同様、アンドレには周囲の目に付く物を分析させる。得意になって解説する。感じとしては、タロに近くて、生物よりも機械により反応するようだ。救護服を着ていて、ちょっと珍しい格好だから、子供が寄ってくる。そして、ロボットであることが分かると、驚いて確認してくる。アンドレは救護ロボット。だから、子供の扱いはうまい。上手に応えている。おふざけはしない。
 一方の伊勢。志摩と鈴鹿を連れて、わざわざアイテムショップに入る。自分は悪役の魔法使いの格好にし、四郎と五郎にもそれっぽい装備をさせる。鈴鹿と志摩は、王女と王子。)

店員1。あの、抜群にお似合いです。何か映画の演出とか。

伊勢。さるVIPの警護よ。

店員1。だから、ここではかえって目立たない格好に。

伊勢。あら、そうかもしれないわね。

 (でも、目立つ。頻繁に親子連れにつかまり、記念写真を撮る。ううむ。なりきっている。途中で合流したシルビアさんが驚いてしまい、再びショップに。)

シルビア。ケイ、ずるい。なんで誘ってくれなかったのよ。

伊勢。シルビアさん、ごめん、私のアイデアだったから。

シルビア。そうね。どの格好にしようかな。こんなのが日本では受けるかな。

 (不思議の国のアリスだ。英語はどことなく英国風。ちょっと精悍だが、とても似合う。歳を聞くのは禁忌だ。で、見せびらかしたいらしく、私とアンドレ以外の全員を引き連れて、場内を練り歩く。途中で、本物のテーマパークの扮装した職員とも出会ったが、そんなの気にしない。結構受ける。)

シルビア。ふむ。面白い。結構受けている。

鈴鹿。そりゃ、目立つわよ。

 (運の悪いことに、こちらもつかまってしまった。みたび、アイテムショップに入る。アンドレは簡単に決まった。三銃士。決まりすぎて怖い。で、私は…。)

シルビア。あら、お似合い。情報収集部の上司って、悪役が似合っている。

鈴鹿。ケイマが聞いたら、腹を抱えて笑いそう。

 (物語の海賊船の船長だ。18世紀中頃のファッションか。たしかに、自動人形が野郎どもだ。うむ、季節外れのハロウィーン。
 昼食にレストランに入る。ちっとも排除されない。若い連中は、明日があるせいか、夕食を抑えるために、今のうちに食べておくようだ。でかいハンバーグだの、カツレツだの食べている。豪快で、悪魔の宴に見えなくもない。自動人形はソフトドリンクを注文して、ついでに持ち込みの純エタノールも飲む。人間が飲んだら一大事だから、容器にはドクロのマークが付いている。だから、余計にそれっぽい。レストランの人に、記念撮影されてしまった。)

第15話。自動人形、アンドレ。15. シルビアさん来日

2009-09-23 | Weblog
 (試乗会の2日前。ID本部に頼んでいたプロのパイロットが日本にやってきた。よく知っている人だった。シルビアさん。本物のパイロットだったわけだ。Q国仕様のシリーズBに乗って、海を越えて。最新式のシリーズBだ。私と鈴鹿とジロが同じくシリーズBでID社十勝に迎えに行く。)

鈴鹿。びっくりした。本物のパイロットだったんだ。先日は失礼しました。

シルビア。いいのよ。あの時は本当に飛べなかったの。今は飛べる。だから、こうしてやってきた。

 (もともと優秀だったらしい。そして、心の障害が取れたので、すぐに申し出て、自分で特訓したのだそうだ。パイロットであることを本部のリストにQ国ID社が乗せたところ、すぐに今回の話の打診が来て、即座にOKしたらしい。アンドレも運んで来た。理由は出来事の記録だろう。今は私のコントローラ支配下だ。)

アンドレ。再び会えました。うれしいです。

奈良。ああ、よろしく頼む。

 (ジロとかるく抱き合っている。自動人形同士で安心するらしい。すぐに離れた。
 最新鋭のシリーズBはID社の整備士が整備している。日本のパイロットの2人も来ている。シルビアさんの希望で、すぐにデモ飛行の打ち合わせに入った。1時間ほどで済んだ。)

奈良。東京ID社に行きましょう。鉄道でも、クルマでも。

シルビア。日本仕様のシリーズBに乗れるかしら。

奈良。連絡してみます。

 (東京ID社の屋上のヘリポートに着陸することになった。都会のど真ん中だ。しかも、夕方。アンドレを副操縦席に座らせて、発進する。)

シルビア。こちらの方がオリジナルに近いと聞いています。うん、いい機体。

奈良。少し軽いのかな。

シルビア。そうです。だから、操作性がほんのわずかに違う。体験できて良かった。

 (楽しんでいる。淡々とした感じは、彼女の元の感じらしい。山岳地帯を抜けて、関東平野に。)

シルビア。日本もいい景色。見どころがたくさんある。

奈良。世界有数の火山地帯ですから、地形は複雑。

シルビア。大変な人口密集地。東京ID社はその中心にある。

奈良。そうです。アンドレ、東京ID社は見えたか。

アンドレ。方向は分かります。もうすぐ視界に入るはず。

 (何とも繊細に、屋上のヘリポートに着陸した。むろん、ジェット機だから、ヘリよりずっと重さがあるはずだ。名人のようだ。)

奈良。快適でした。ありがとうございます。

シルビア。ふう。ちょっと緊張した。周囲の明かりがものすごい。

奈良。これから、そこに行きます。

 (シリーズBはそのまま明後日の朝まで駐機するらしい。ID社東京の支社長へのあいさつは明日。情報収集部全員とケイマと三羽烏でデパートのレストラン街に繰り出す。展示の仕方が面白いらしく、シルビアさんはウィンドウショッピングしている。しばらくぞろぞろと歩く。)

ケイマ。珍しいのかしら。

伊勢。食品の模型をこれみよがしに展示する国は日本くらいかな。

シルビア。ここにしたい。

 (なんとも庶民的なカレーショップ。日本に来たら、忘れないうちに入りたかったんだと。全員が入れる区画を用意してもらった。シルビアさんとアンドレは、ふつうにビーフカレー。志摩たちは、ここぞとばかりに好きなの選んでいる。)

シルビア。おいしい。これだけは本場日本で食べてこいと、日本に行った友人に言われたの。

鈴鹿。うん。おいしい。この店のカレーはおいしい方よ。でも、安くてもおいしい店はある。間違いがない。

シルビア。あちらも、おいしそうね。

 (志摩とケイマがせっせとおいしそうに食べている。)

伊勢。カレーが嫌いな日本人っているのかしら。

奈良。アジア系の人にはまちがいなく受ける。

 (いっしょにワインを飲んでいるのが多少違和感があるが、まあ、いいだろう。
 食事が終わったら、秋葉原に行きたいだと。)

奈良。こんなに遅くまでやっているのか。

原田。午後10時くらいまではどこかに入れます。

 (速攻で行く。去年、鈴鹿がふらふらと入ったらしい、オタクショップに入る。シルビアさんが感動している。)

シルビア。わあ、日本らしい。すばらしいです。

奈良。いや、感動されても…。

シルビア。あそこ、鈴鹿さんの写真かな。

奈良。おわっ。まだ飾ってあったのか。

 (旧RPG 3人組の写真だ。当然、鈴鹿の名前に近くの客が反応する。キーワードの一つらしい。)

客1。鈴鹿恵が来ているのか。

客2。こちらだ。本物かな。

鈴鹿。はいはい、本物。鈴鹿恵。本名。本日は、外国からのお客様のご案内。

客1。本物らしい。ID社のカタログ見せてよ。

鈴鹿。今は営業中でない。

原田。私、持ってます。はいどうぞ。

店員1。何かお探しで。

奈良。こちらの客人の案内…。

シルビア(英語)。コスプレしたい。

店員1。どうぞこちらへ。

 (確信的にやってきたようだ。ギャラリーが吸引されたようにやってくる。シルビアさん、当然、仮装空軍の服など、すさまじく似合っている。それで、Q国空軍のパイロットであったことを鈴鹿がバラしてしまったので、さあ、大変。)

客1。ID社の本物のパイロットなんだ。元Q国空軍の軍人、本物だ。

客2。どうりで似合っている。来日の目的はあるの?。

 (で、よせばいいのに、週末の計画を言ってしまったのだ。たしかに、基地の公開日だ。秘密でも何でもない。)

客1。必ず行くよ。

客2。インターネットでみんなに知らせなきゃ。

 (その必要はなかった。たまたま、地域誌の記者がいたのだ。シルビアさんもアンドレも、新RPG 3人組も、三羽烏も、ついでにコスプレした伊勢も、ホームページに堂々と載ってしまった。アンドレと四郎は、剣劇まで披露。
 シルビアさんはコスプレ衣裳を3着も購入。帰って見せびらかす魂胆らしい。こちらも、私以外はコスプレ衣裳を購入。どこで使うんだ、おまえら。
 ううむ、淡々とした口調と裏腹に、このシルビアさん、なかなかの曲者。
 ID社に帰る。ここで宿泊するのだ。でも、シルビアさん、まだやりたいことがあった。)

シルビア。射撃場、使えるかしら。

原田。そんなもの、あるんですか?。

 (もうやけだ。ケイマにも開示する。ID社内でも少数の者しか知らないと念を押して。)

原田。プラスチックの模擬銃。数発しか撃てない。でも、殺傷能力はある。

奈良。その通りだ。

シルビア。これ、使ってもいいかしら。

奈良。どうぞ。リクエストがあれば、言ってください。

シルビア。じゃあ、2つほど。

 (にわかに復帰したので、銃器の扱いを思い出しているようだ。正確に的をねらっている。)

志摩。訓練を受けている。普通のみたいだけど。

鈴鹿。ええ、顔色が変わらない。ちょっと印象的。

原田。すぐに分かるんだ。

 (調整のためにアンドレにも撃たせる。)

原田。自動人形も撃てるんだ。しかも、正確。

奈良。もともとの能力。軍時代に訓練されている。いまも微調整しているだけ。

原田。直接見ると、自動人形の不吉な面が納得できる。たしかに、兵器相当。

 (遅くなったので、ケイマもID社内の宿泊施設に泊まることにした。シルビアさん、明日は、近くのテーマパークに行くんだと。東京旅行を満喫するらしい。一人で行くと言っていたが、ほぼVIP。万一のことがあったら大変なので、情報収集部も行くことにする。)

第15話。自動人形、アンドレ。14. シリーズB試乗会

2009-09-22 | Weblog
 (自動人形がようやく脚光を浴び出したある日、私(奈良)はQ国ID社から開発中のサイボーグ計画、パワードスーツの勉強会に招待された。サイボーグと自動人形の闘いが始まるのかと思いきや、先方の予算の先細りのための調査だった。パワードスーツは完成していたが、用途が見つからなかったとのこと。伊勢の発案で、パワードスーツに頭脳を持たせることになった。具体的には、自動人形化しよう、ということ。さらに莫大な予算が投入されることになったのだ。)

 (Q国旅行から帰ったら、永田から相談が来ていた。政府の複数の航空関係者がシリーズBに関心を持ったので、前回のノリで紹介してくれ、だとのこと。ついでに、関連産業のお偉方や現場技術者が来るのだと。)

奈良。ふむ。営業の話か。

原田。たしか、政府系の研究所に一機売れたんではなかったっけ。

奈良。そうなんだが、そちらでは普通に飛ばしているだけ。主に、航空機自体の研究に使われている。今回は、実運用に近い場面を見せてほしいんだと。

伊勢。前回は本部航空部門伝説のおふざけデモしたけど、そんなの普通の日本人にやったら、一言もいわずに帰ってしまいそうよ。

鈴鹿。こちらのノリを知っている関さんたちだから通用した。今度は真剣に見えそうなデモンストレーションが必要。

原田。消防とか、救出とか。

志摩。ヘリコプターでもできそうだが。

伊勢。それに、ヘリコプターの方がずっと経済的。日本列島は広くないから、遭難現場にはヘリコプターであっと言う間。

原田。ヘリコプターよりも有利な点は?。

志摩。もちろん、ジェット機だから高速性が一番。日本向け仕様の機体でも、ヘリコプターの3倍は速い。計測機はヘリコプターにも積めるけど、こちらはID社の高度な計測機が簡単に取りつけられる。計測機の実力はケイマが知っているとおり、抜群。ロボット腕もヘリコプターに着けられるけど、安定性はシリーズBの方が良い。

原田。操縦も簡単。

志摩。ヘリコプターの事故は頻繁に起きている。普通に使えば安全な装置だけど、使い方が多彩だからだ。それに対応できない。

鈴鹿。シリーズBはロボットジェット機。安定性は抜群。私でも楽々操縦できた。

原田。鈴鹿さんを素人というにはちょっと。

伊勢。鈴鹿は練習はしたけど、プロのパイロットではない。その上、ID社の製品らしく、プロの腕にどこまでも応えてくれるはず。

原田。それじゃ、こちらもプロのパイロットを呼ぶとか。

奈良。そうしよう。本社経由で本部に依頼を出そう。腕利きのパイロットを一人と、素人代表は、鈴鹿。

鈴鹿。むかっ。でも、否定できないか。シリーズBの優位性を示すには良いかも。

伊勢。私にも飛ばせます、って。デモする場所は長野本社なの?。

奈良。関東にある軍の基地でやってくれと。

原田。外資系企業に入らせるの?。

奈良。よく分からん。兵器にならないことを知っているから、シリーズBを参考に、独自の航空機を開発しようとしているのかも。

原田。当然、そういう色目はあるか。

伊勢。しかたないわよ。ある程度の計測はされるでしょう。レーダーにどう映るとか。軍の技術者に見せて、細かい弱点をあぶり出すとか。

 (伊勢の直感は当たっていて、軍の戦闘機といっしょに飛ばしてみるとのこと。指示された空中演技もやってほしいだと。日時は、来週の週末。)

伊勢。なんで週末なのよ。

奈良。基地の公開日に合わせたらしい。警備に都合がよいからだろう。軍事機密は目立たない場所に隠されるから。

原田。その戦闘機も見られるし。

志摩。やたらうるさいだけだよ。

原田。シリーズBも結構うるさかった。

鈴鹿。戦闘機のうるささは桁違い。最先端の航空機がどんなものか、よく分かるよ。

原田。じゃあ、その体験もできるか。

 (日本ID社にもパイロットは何人かいる。でも、やはりシリーズBに慣れ親しんでいるという点から、海外から呼ぶことになった。本部の依頼で一人、機体ごとよこすとのこと。ついでに、日本のパイロットも慣れさせるために本社から2人来ると。)

原田。はあ。いつものように大げさになってきた。

伊勢。内容も大げさ。離島まで飛んで、模擬作業して、資料を収集して帰ってくるんだって。

原田。そういえば、我が国土も結構大きかったんだっけ。

伊勢。日本の領土が狭いって言ったら、ヨーロッパの人が困惑するわよ。

原田。広い国に囲まれているからそう感じるだけか。

奈良。平野部が狭いのはそのとおり。離島や山間部は厳しい。

原田。じゃあ、シリーズBにも多少の活躍の余地はあるんだ。

伊勢。だとすると、まっとうな営業。離島ってどこよ。

奈良。三宅島。空港がある。

伊勢。なんだ。普通に空港に着陸するのか。

鈴鹿。軍用機が着陸するの?。

奈良。シリーズBだけ。それも短時間。戦闘機はシリーズBが離陸後に空中で合流して帰る。演技するのは海上。

伊勢。まさかドッグファイトとか。

奈良。それに近いようだ。じゃれる程度。

伊勢。じゃれる程度ったって、パイロットがエキサイトしてしまったら、無茶な動きも出るわよ。

奈良。本部やA国やB国では、しばしばやらされているようだ。結果が極秘なのを考えると、シリーズBは大した性能のようだ。

原田。何と。攻撃手段を持っていないだけ。

奈良。相手の検出能力は負けていないはずだ。運動性も、軍用機のような滅茶苦茶な性能は無いけど、ちょこまか動くのは得意。

鈴鹿。そういえば、リリのオートジャイロが最新鋭戦闘機の模型を撃墜したっけ。

伊勢。相手がなめてくれれば勝機もあるってこと。油断しなければ、勝敗は最初から着いていてる。全く軍用ではない。乗っ取られて悪用されたりの、偶発的な事故対策よ。

原田。そうか。だから、性能確認する。

伊勢。シリーズAみたいな騒ぎはなかったから、シリーズBは敵にはならないってこと。ただ、不意に出てくるなり超音速まで加速できる航空機だから、用心はされる。

原田。迷い込んた民間旅客機を穏便に追い返すことができなかった事件もある。

伊勢。時速900kmで十分に相手を慌てさせる。シリーズBはレーダーにまともに映るから、相手にとっては恐怖を感じさせるに十分。

原田。自動人形は連れて行くんですか?。

奈良。そうしようと思ったけど、何か?。

原田。聞いてみただけ。私も付いていっていい?。

伊勢。いいわよ。その夕方、お偉いさんの接待があるんだけど、行く?。

原田。なにそれ。企業癒着?。

伊勢。なわけないじゃない。シリーズBが20機とか売れたら別でしょうけど、絶対にないと断言できる。むしろ、腹の探り合いとにらんだけど。

原田。向こうから、のこのこやってくるとは。それで、スパイ部門の暗躍の勉強にと。

奈良。そこまで言ってない。上層部の考えることは分からん。こちらは東京ID社長までは出る。本社社長は、昼だけ。

原田。永田さんたちは。

奈良。永田は昼だけ。関は夕にも来るだろう。単なる予想だけど。

原田。そっちこそ、接待じゃない。

伊勢。さあ、どういうからくりになっているのかしら?。財務省というのがヒントとか。

原田。むっ、監視目的。ありうる。関さんなら、相手におかまいなしで、平気で警察呼びそう。変な役人、いるんですけどって。

伊勢。そうね。緊張感は高まる。財務省のくそまじめな公務員がご同席します。国民の税金の適正使用を死守するでしょうから、くれぐれもご用心を、って牽制になる。

 (うむ。妄想は広がる。シリーズBは高価だ。一機売れただけで社内ではニュース。当然、財務省内でも話題になっていた。)

永田。で、夕食に行ってくれるか。

関。ええと、そういうの、もろに接待と言うと思います。いいんですか?、阻止しないで。

永田。どこでどうなっているのかは知らん。族議員まで同席するらしい。

関。おとり捜査に近い。腹にいちもつあるのかどうか、ID社も知りたかった。そこにのこのこと役人どもが。

永田。そのノリで頼む。

関。丸め込まれたような気がするけど、いいわよ。あっちも鈴鹿さんとか来そうだし。

第15話。自動人形、アンドレ。13. Q国、5日目朝~午後、シルビアさんの復帰

2009-09-21 | Weblog
 (遭難の当事者4人と2名の軍関係者は、簡単に朝食を摂って、軍のヘリコプターで行ってしまった。こちらはどうするかシモンさんから尋ねられた。若い連中は元気そのもの。予定通り西海岸まで出たいという。シルビアさんはあきれていたが、疲れも見せず、付き合ってくれるらしい。昨日と同じ構成で出発。)

原田。北極海だ。

シルビア(通信機)。ええ、これから氷が溶ける季節。ほら、あそこで氷が崩れている。

 (はるか上空からモニタ映像で見る。速度を極端に落とせるシリーズBの離れ業。
 絶景の山脈を縦断し、西海岸に達する。そこにあるID社の滑走路に着陸して燃料補給。支社長にあいさつして、社内の食堂で昼食を摂る。)

原田。盛りだくさん。短時間なのがもったいない。

シモン。次の機会には、ゆっくりなさってください。

原田。ええ、ぜひそうしたいです。

 (鈴鹿と志摩も喜んでいるようだ。シリーズBは反転して、国境沿いの街の上空巡り。)

原田。このあたりは見渡す限りの平原。いろんな地形があるんだ。

シモン。我が国土は広いですから。何でも揃っている。無いのは熱帯雨林くらい。

原田。でも、森と湖はある。

シモン。もうすぐ、その光景が開けてきますよ。

 (Q国人が自慢するくらいだから、我々には想像を絶する絶景だ。ケイマはあっけに取られている。)

原田。日本にもちっちゃなのならあるけど、すぐに海か道路に出てしまう。

シモン。はは、日本らしくていいですよ。景勝地でしょう?。ここは人を寄せつけない。こうして遠くから見ているのが良い。

原田。ええ。まったくスケールが異なる。大変な国。

 (ケイマはすっかりQ国が気に入ってしまったようだ。よかったを連発している。ちょっと無理して、ノンストップで燃料ぎりぎりでO市に戻ってきた。夕方だが夏なので、まだ太陽は沈んでいない。元気に市内のレストランに出ることにした。)

原田。よかった。シルビアさん、ありがとうございます。私の無理を聞いていただいて、感謝しています。

シルビア。こちらこそ、いろんな体験をさせていただきました。

鈴鹿。シルビアさんは、Q国軍のパイロットだったらしいわよ。

原田。すごい。だから、あんな上手な解説ができるんだ。空のことなら、誰にも負けない。

シルビア。もう一度、空を目指そうかしら。

原田。何かあったんだ。

シルビア。ええ、ちょっと。シリーズBなら操縦できると思う。計測用に作られたロボットジェット機。私の望みをかなえてくれそう。

 (鈴鹿には経緯を教えてくれたそうだ。つまり、軍で自分のせいではない事故に巻き込まれてしまい、それ以来、飛ぶことに恐怖を感じるようになってしまったので、操縦から外されてしまったのだと。夢破れて、ID社に就職したらしい。でも、シリーズBは初心者の鈴鹿でも、あれだけのことができる。ロボットに命令する感覚だ。航空機を知り尽くした自分ならもっといろいろできる、と思ったらしい。少しあとになって、望みの部署に移れた旨のあいさつの手紙が来た。)

伊勢。どうだった、空の旅は。

原田。伊勢さん。来てくださったの。とてもよかった。シリーズBは広大な国土を持つQ国にこそふさわしい。

伊勢。そうね。ここじゃシリーズBの過剰スペックが目立たない。

原田。大活躍でした。高速で飛んで、器用に着陸。救援では、軍のヘリを追い越してしまった。

伊勢。平時には最強かも。

原田。うん。夢を運んでくれる。ID社の機材の特徴。

伊勢。パワードスーツ型の自動人形の製作が決まった。それを知らせに来たの。

原田。そうですか。あの技術の方々、喜ぶでしょう。

伊勢。4機も作られる。Q国はライバルになる。

原田。それじゃ、Q国にも日本にも配属される。

伊勢。そう。日本は最後になる。どんなに急いでも、2カ月先。

原田。そんなに早くできるの?。

伊勢。Q国ID社の技術蓄積が大きかったってこと。平然と設計していた。

原田。あとの2カ国は?。

伊勢。Y国ID社本部とA国ID社。

原田。何かと対比されるA国にも技術が渡る。

伊勢。そうしないと、実現しなかった。A国がむりやり自動人形の生産計画を自国に有利なように変更させたの。

原田。ははーん、誰かの策略ね。伊勢さんの?。

伊勢。もっとずっと上の偉い人。ID本部の航空部門長。私は知っているけど、原田さんは知らないはず。亜有さんを引っこ抜いた張本人。

原田。知らない。結構ID社内でも駆け引きがあるんだ。

伊勢。超大企業ですもの。政治はあるわよ。無かったら、不気味じゃないかしら。

原田。あははっ。そうですね。その通りです。平和な証拠。

 (翌日朝早く、私たちは帰路についた。自動人形は、ID社の輸送系で送った。)

第15話。自動人形、アンドレ。12. Q国、4日目夕、遭難信号

2009-09-20 | Weblog
 (警報のような音は、基地内の事象ではなく、遭難信号の傍受だった。)

隊員1。探検者からの発信のようです。我が国の範囲内。シリーズBを飛ばしましょう。

シルビア。私が行きます。

奈良。アンドレも行け。鈴鹿が操縦しろ。三郎と五郎も。

鈴鹿ら。はい。

 (すっ飛んでいった。シリーズBは緊急発進。もう一機も志摩に待機させておく。場所は、ここから1000km以上北。氷上だ。Q国軍も向かっているらしい。でも、こちらの方が速いだろう。)

鈴鹿。場所は分かるの?。

シルビア。私が案内する。もっと速くならないの?。

鈴鹿。ええと、リミッターは外れるのかな。

シモン(通信機)。マッハ1.8くらいまで加速できるはず。高空でやってください。

鈴鹿。加速するよー。

 (鈴鹿のシリーズBは上昇して速度を上げて行く。びっくりしたことに、シルビアさんは平気。)

鈴鹿。大丈夫なの?、シルビアさん。

シルビア。平気。慣れてる。

鈴鹿。パイロットだったの?。

シルビア。ええ、Q国軍で。今は離れている。

鈴鹿。悪いけど、他は自動人形のみ。人間が耐えられるGは軽く耐えられるはず。苦しかったら、言って。

シルビア。遠慮なくやってちょうだい。

 (シルビアさんはちょっと苦しげに見えたが、鈴鹿が平気なので、意地になって耐えていたようだ。ほどなく超音速の巡航速度になって、落ち着く。でも、現場には40分ほどかかった。滑走して着陸する。
 現地は晴れていた。風もひどくない。遭難者は一人。雪上バイクで移動していて、氷の裂け目に落ちたみたいだ。他の4人は無事。自動人形を向かわせる。シルビアさんは、防寒服に着替えている。)

三郎。発見した。けがをしている。挟まれているようだ。

 (三郎が声かけする。意識はあるようだ。2分ほどして、アンドレと五郎が到着。壊れたバイクを引き剥がして、遭難者を引き出し、緊急手当てする。ロープがあったので、残りの4人が引き上げる。アンドレと五郎は、器用に氷の裂け目から這い出した。
 遭難者をシリーズBに乗せる。冒険者に付き添いの2人とアンドレとが乗る。シルビアさんと三郎と五郎は、残りの2人と現地に残る。志摩とアンが迎えに出発した。
 私は、基地内の簡易手術室の準備にかかる。緊急用の薬品などはあった。私は獣医で、医師ではないが、緊急対応はできる。担架を用意し、タロとジロに滑走路横に待機させる。鈴鹿のシリーズBは一時間で戻ってきた。遭難者を運ぶ。)

隊員1。来ました。お願いします。

 (遭難者は命には別条はないが、けががひどい。凍傷にもかかりかけ。傷口のとりあえずの処理をして、最寄りの病院の救急医から通信でアドバイスを受ける。同じく、シリーズBに乗せ、その病院に向かった。ここから2000kmも南にある。鈴鹿が操縦して、シモンさんとアンドレがつきっきり。)

原田。なんか、想像を絶する距離。航空機が無いと、どうにもならない。

隊員1。ヘリでも大変な距離。シリーズBがたまたまあったから良かった。

 (この事件がきっかけの一つとなり、後に数機のシリーズBがQ国の国境警備隊と軍に売れたとか。そして、ほんの短期間だが、シリーズBの各国への導入ラッシュが続いたのである。
 志摩は現場に残っていた全員を回収して、戻ってきた。一方の病院に行った遭難者は、何とか助かったとのこと。やれやれ、よかった。しばらくして、軍関係者がヘリコプターで事情聴取にやってきた。鈴鹿とシモンさんとアンドレも戻ってきた。)

シモン。自動人形が活躍した、夢を見ているみたい。アンドレ、みんな、よくやった。

アンドレ。ご期待に添えたようです。私もうれしい。

原田。本来の働きです。自動人形は極限環境における救護ロボット。

シモン。我が国の領土は広い。まだまだ自動人形の活躍の余地はありそう。

原田。海にも潜れるし、宇宙にも出られる。

シモン。ええ、そうですね。アンドレ、何かあったら、また頼む。

アンドレ。全力でご期待にお応えします。

 (人数が増えた。幸い、我々の歓迎用の食料は届いている。工夫して、全員に行き渡るようにした。北極圏の夕のパーティーだ。基地には電子ピアノとギターがあった。アンに電子ピアノを、アンドレにギターを持たせ、ケイマは持ってきたクラリネットを吹く。楽譜はあった。軍関係者2人を含め、人間組が驚いている。)

隊員1。豪勢になった。

シモン。大変な活躍。いったいあなた方は。

奈良。私と鈴鹿と志摩はID本部でY国軍の経験がある。特に、鈴鹿と志摩はID社の誇る精鋭。当然の働きをしたまで。

 (電子ピアノとギターはタロとジロに交代し、音楽に合せてアンドレとアンが救護服で踊る。楽しそうだ。驚く探検家と軍関係者には、シモンさんが解説している。)

原田。たしかに白夜。太陽が沈まない。

隊員1。ええ。ここではあたりまえ。北極圏の風景。

原田。本来は人はすめない。

隊員1。いいえ、先住民がいます。

原田。そうだった。私たちの大先輩がいる。

隊員1。不屈の人間たち。私たちは高度技術を背景に、はいつくばって付いていっている。

原田。私たちは変な哺乳類。

四郎。そして、私たちが続く。

 (全員、観測所の宿泊施設で眠る。もともとその機能があったわけで、楽々収容できた。朝食は無人の輸送系が運ぶはず。自動人形は、しっかり探索を要求してきた。観測所内と、その周辺を見回る。)

第15話。自動人形、アンドレ。11. Q国、4日目夕、北極圏の観測基地にて

2009-09-19 | Weblog
 (お互いの自己紹介の後、基地の紹介と、現在進行中の研究計画の話があった。目下の課題は、さらに北方に基地を作ること。1000kmほど北らしい。)

原田。なんか、距離感覚が日本と違う。東京の隣が札幌って感じ。

鈴鹿。燃料を入れてくる。志摩っ、用意するのよ。

原田。私も手伝う。

鈴鹿。もう、邪魔しないでよ。あんたは見学で十分。

奈良。自動人形も連れて行こう。

隊員1。じゃあ、案内します。ついでに、施設の外見も見学しましょう。

 (人間組は厳重な防寒具に着替える。事故が起こったら、洒落にならない。自動人形は普通に救護服だ。零下30℃くらいまでなら薄着でも平気。人工皮膚を傷つけないよう、薄い手袋はする。三郎もクロも、今は大丈夫だとのこと。隊員が乗った給油車に付いて、ぞろぞろ歩く。
 滑走路脇に到着した。燃料は鈴鹿と志摩が入れている。タロがマニュアルを検索して、指示している。)

原田。ふはあ、やっぱり寒い。身に染みてくる独特の寒さ。アン、その格好で寒くないの?。

アン。寒いけど、平気。この温度なら、この服で大丈夫。体内で発熱している。みなさんと同じ。

隊員1。便利。普段着でしょう?。

アンドレ。そうです。救護のための服。私たちのいつもの服。

隊員1。ロボットか。操縦しないといけないけど、緊急時には役立ちそう。そのうち、一台欲しくなるかも。

シモン。やっと値段が付いたところです。価格はあそこに見える航空機の2倍はする。

隊員1。そうか。買えないほどではない価格。ID社らしい。

原田。たしかに、こんな極限環境では役立つかも。燃料はどれくらいいるの?。

タロ。ふつうに活動するだけで、一日に純エタノール500ml。激しい運動をすると、優に10倍は必要。

原田。ええと、ふつうだと、1年にドラム缶1本程度のアルコールでいいのか。

奈良。だいたい、2~3倍用意しておけば安心。ここだと、もう少し要りそう。でも、それよりも、今の機体は一ヶ月に一度くらいの頻度で、軽い修理が必要。

原田。超高級車並みか。大衆車並みに、ふつうにさんざん使っても、6カ月点検で済まないと普及は無理そう。

奈良。いまや緊急の課題だろう。単に、いままではその必要が無かったので耐久性が問題にならなかったのだから、急速に改善されると思う。

 (燃料補給は終り、施設を一周する。一面まっ平らな土地で、風が強いときは激しいらしく、建物も半分地下になっている。その下に、さらにトンネルがあって、倉庫や緊急用のシェルターもあるらしい。)

原田。雪に埋まることは無いの?。

奈良。降雪量は少ないだろう。

隊員1。そのとおりです。凍て付くだけ。

奈良。日本の日本海側は、世界有数の降雪量で、あれが世界標準ではない。

原田。そうなんですか。じゃあ、この風景がずっとそのまま。

隊員1。そう思っていただいて、間違いではありません。

原田。単調な生活なの?。

隊員1。気象や高空のようすはダイナミックです。あとで記録を見てみますか。

原田。ええ、ぜひ。

タロ。音がする。観測機器の稼働ですか。

隊員1。交代の高空観測用の飛行船が出発するみたいです。あちら。

 (ハッチが開いて、飛行船がすうっと上空を目指す。気象条件によるので、交代は不定期に近いとのこと。)

アンドレ。別の航空機が近づいてくる。

隊員1。確かめてみます。

 (物資の輸送の、無人のオートジャイロだった。普通にプロペラ推進のもの。コンテナを積んでいて、自動で交換して去っていった。1000kmほど彼方から飛んで来るそうで、1tくらいなら運べるとのこと。)

原田。なんかすごい。

隊員1。あの輸送系のおかげで、ここの暮らしは快適。20人くらいの調査隊でも、楽々維持できます。

原田。じゃあ、あれを使えば、砂漠の真ん中でも暮らせる。

志摩。原理的には。でも、紛争地帯を越えるのは危険そうだ。

シモン。格好の標的でしょう。時速200kmほどしか出なかったはず。使える気象条件も広くない。でも、ここではたいてい使えます。

原田。日本にいると、想像も付かない世界。来てよかった。シモンさん、ありがとうございます。

シモン。はは。こんなのでよければ、いつでも来てください。

原田。勉強になる。奈良さん、感謝しきれません。ありがとうございます。

奈良。原田くんの関心事か。

原田。ええ、もちろん。政治が肝心とは言え、資本や技術で克服できる困難も多いはず。

鈴鹿。ケイマの戦略なんだ。なんか、夢があって楽しそう。

原田。うん。ID社の活動は幅広い。参考になる。

 (施設に戻る。中を案内してもらう。結構広い。)

原田。研究施設。将来の月面基地もこんなのかな。

隊員1。その手の研究は、A国とB国が進んでますけど、こちらもやっているみたいです。政府系の研究者が調査に来られたことは何度かある。

原田。さすが、Q国。抜け目ない。

隊員1。さっき言っていた、上空の様子を見てみましょう。

 (北極を中心とした地図が出てきて、気圧分布などが表示される。)

隊員1。北極圏内のID社の基地はここを含めて3カ所。北極を取り囲むID社の無人の観測点は10カ所程度ありますけど、あとはさっき見た飛行船が北極点付近まで観測に行きます。

原田。そちらも大旅行。

隊員1。3000kmとか飛ぶ。B国などと行き来することもある。

原田。ふーん。それじゃ、世界中にID社の観測網があるわけだ。

隊員1。そうです。ここもその一つというわけ。

原田。私企業としてはやりすぎのような気がする。競合する相手なんかいないでしょう。

奈良。そうだな。常時、これほどの観測体制を敷いている企業など、ありそうにない。必要時に展開する企業はいくつもありそうだが。

隊員1。その手の調査を売ることもありますから。細々とでも維持する必要はあります。

原田。この基地も、普段はたった2人で維持している。

隊員1。そうです。通常は3カ月交代ですけど、何もないことも多い。調査隊が来たときなどは、本社や本部から応援があって、それはにぎやかになりますけど。

原田。今回来たのは自動人形まで入れると14体にもなる。

隊員1。ええ、良い退屈しのぎになります。何か、ちょっと豪勢な食料も来たようですし。

原田。通信について教えてもらえますか?。

隊員1。鋭い質問です。ここは高緯度なので、普通の静止衛星とは一部の周波数帯でしか通信できません。光ファイバーか、特殊な軌道の通信衛星と、低軌道の衛星を使います。

原田。それも自前。

隊員1。ええ。ファイバーは引きました。衛星の一部もID社による通信網。

原田。なんだか、途方もない企業。

隊員1。そうですね。でも、古典的な短波の通信機もありますよ。アマチュア無線が好きな人が駐在したら、喜んでやっているみたい。機材は別の部屋にあります。最後の最後には頼りになります。

原田。電力はどうしているんですか。

隊員1。今は地熱発電。

原田。火山帯ではありません。

隊員1。でも、地表よりは地下の方が温度が高い。発電所を作るわけではなし、この観測所の電力をまかなうだけです。

原田。クリーンなエネルギーを使っているんだ。

隊員1。ゴミも乾燥させた排泄物も、すべて運んでいます。極力、周りの環境を汚さないようにしている。北極圏では、物質の循環は緩慢なので、汚染は一大事なのです。

 (そのとき、警報みたいなのが鳴り出した。)

原田。警報。何か事故なの?。

隊員1。基地内の事象ではありません。コントロールルームに行きましょう。

第15話。自動人形、アンドレ。10. Q国、4日目、東海岸から北極圏へ

2009-09-18 | Weblog
 (鈴鹿のシリーズBを先に飛ばす。副操縦席にはジロが座っている。シルビアさんは、後席でモニターを見ながら解説。O市をゆっくり一周して、M市に飛ぶ。航空機だと、あっと言う間だ。上空から美しい市内を探訪する。川に沿って東海岸へ。有名な島などを上空から散策する。このシルビアさん、シリーズBの特性をよく生かしている。ただ者ではない。ケイマが突っ込みを入れた。)

原田(通信機)。すばらしい眺め。シルビアさん、お上手。いったい、どうしたのかしら。プロなの?。

シルビア。ええ。観光の資格は持っている。でも、こんな軽快な航空機に乗ったのは初めて。よくできている。将来、外国からお客様が来た機会にも、提案できる。

原田。普通の航空機には乗ったの?。

シルビア。何度も。いい思いでもあるし、よくない思いでもある。

原田。そうか。経験豊富なんだ。それで、コツが分かってるんだ。

シルビア。そうかもしれない。ええと、次の都市のID社に着陸します。

 (Q国も東の端。海の隣はヨーロッパだ。社のバスに乗って、丘に登る。海が開けている。)

シルビア。風が強い。すこし散策したら、戻って昼食にしましょう。

原田。大西洋か。見たのは初めて。

鈴鹿。ここからの眺めは絶景。あっちは入り江になってるんだ。

原田。うん。海は荒々しそう。

 (地元のシーフードレストランで遅めの昼食にする。)

原田。めちゃくちゃおいしい。日本人もびっくり。

奈良。日本で普通に買える海産物は、いまや国際見本市。

鈴鹿。うん。普通においしいんだけどね。

原田。自然に関しては、うらやましいほど。

シモン。新しい国ですから。まだまだ開拓できていない。このあたりは人口もまばら。延々と田舎が続いている。

シルビア。今から行くのは、究極の田舎。北緯75度。北極圏の観測所。

 (シリーズBで海岸づたいに北へ向かう。氷河のあとの、複雑な地形だ。鳥や哺乳類がいれば、はるか上空から観察して、ジロに解説させる。人工物の見どころはほとんどない。)

原田(通信機)。便利な飛行機。来てよかった。そのうち、シロクマでも見られるのかな。

シルビア。運がよければ、見られますよ。

原田。自然は豊かでも、他は何もない。地下資源はあるの?。

シモン。豊富にあるはずです。まだまだ開拓されていない。手つかずの土地。

原田。そうか。それで観測所がある。

シモン。気象などの観測所ですけど、資源探査の要請などがあれば応えられるようにできている。

奈良。常駐の職員はいるのですか?。

シモン。最低2名。観測機器は完全自動なので、主に維持の仕事になる。訪問客が来ない限り、孤独な仕事です。

鈴鹿。あれ、オーロラかな。

シモン。太陽が出ているから、ほとんど見えないです。モニタで確かめましょう。高度を上げてもらえますか。

鈴鹿。はい。

 (さすがに、観測用の飛行機で、いろんな波長の電磁波を捉えることができるから、モニターにははっきりとオーロラが写っている。肉眼ではかすかにしか見えない。)

原田。ぼんやりした天使。でも、見られただけでもラッキー。

シルビア。すばらしいです。こんな観測結果、貴重ですよ。記録しておきましょう。

 (Q国人がきゃっきゃ言ってるくらいだから、ラッキーな事象だったらしい。自動人形も視覚センサーで窓越しに確認できた。)

アン。オーロラが見える。

奈良。知っているのか?。

アン。過去に何度か見た記録がある。紫外線が明るいはずだけど、この窓、紫外線を通しにくい。

奈良。人間の目や皮膚を守るためだろう。

アン。その方がいい。

 (観測基地に向かって高度を落とす。土の滑走路に普通に降りるようだ。空は明るい。
 着陸した。燃料は用意されているが、自分で入れるとのこと。滑走路は基地から300mほど離れている。降りたって、小屋みたいなところに入る。)

原田。寒い。

志摩。覚悟していたほどではない。短時間なら普通の服でもいれそう。

シモン。でも、安全を期して、トンネルを行きましょう。

 (荷物を降ろして、トンネルを基地に向かう。しっかりした作りだ。トンネルで各棟がつながっているのだと。会議室に集合する。寒くない。小さな窓があり、外は見える。)

隊員1。ようこそおいでくださいました。今は、研究計画が無く、みなさんだけです。

シモン。一晩おじゃまします。よろしく。

第15話。自動人形、アンドレ。9. Q国、4日目朝、観光計画

2009-09-17 | Weblog
 (Q国の国土は広い。広く見たいのなら、自動車では無理。でも、今回はVIP扱い。何と、シリーズBを2機も使わせてくれるのだ。Q国ID社にはシリーズBが4機もある。ただし、最新式は1機のみ。使うのは、前のバージョンの2機である。パイロットも付けてくれると言われたが、断った。鈴鹿が操縦にやる気満々だからだ。配慮してやらないと、陰険な仕返しを喰らうおそれがある。観光案内のために、総務から1人付けてくれた。自動人形も入れると、これで定員きっちり。
 シリーズBには自動人形の中継器を付けてもらった。シリーズBから100km以内なら、指令できる。Q国には自動人形の中継網があるのだが、さすがに北極圏では観測所の周りだけ。
 郊外のQ国ID社航空部門にシャトルバスで行く。立派な滑走路がある。さすがだ。)

鈴鹿。うれしー。またシリーズBを操縦できる。奈良さん、ご配慮ありがとうございます。感謝してます。

原田。その割には、パイロットの話が出たときに、奈良さんをにらみつけているような気がしたけど、気のせいかしら。

鈴鹿。もちろん、気のせいよ。だって、私のことはよく分かってらっしゃるもの。

 (まあ、たしかにそうだ。もう一機の操縦者は志摩に頼んだ。志摩は迷惑そうだったが、鈴鹿の操縦に対応できるパイロットは、そうそうはいまい。鈴鹿は何をするかが予想できないからだ。志摩でなかったら、妙ないたずらをされる可能性が十分にある。)

シモン。あのう、大丈夫なんでしょうか。

奈良。大丈夫です。二人とも、Y国軍では精鋭で馴らしていた。鈴鹿は機械の扱いは一品。志摩は冷静沈着。今まで間違いはありません。

シモン。アンドレ、脅威は感じるか。

アンドレ。感じません。安心です。

シモン。まあ、おまえがそういうのなら。

 (シリーズBは最終調整中だった。エンジンは結構うるさい。以前の機体なので、通常のタービンエンジンをスタータに使っているからだ。機内は静かなはず。
 案の定、鈴鹿の方には誰も乗りたがらないので、私とA31、何も知らない案内の総務の人(女性。名前はシルビア)に乗ってもらう。一応、鈴鹿の性格についてはそっと言っておいた。志摩の方には、シモンさんとアンドレ、ケイマと三羽烏。北部にも行くので、耐寒装備を用意する。
 出発前の航路確認。)

シルビア。北部は自然しかありません。今日はせっかくの飛行機ですから、東海岸から西海岸まで国境沿いの都市部を伝いながら、5000mの空からの旅を楽しみましょう。

鈴鹿。ええ、めったにない経験。よろしくお願いします。

シルビア。たしか、この飛行機は低速度で飛べるのでしたか。

奈良。時速100km以下では燃料を急激に消費するはずです。

シルビア。つまり、自動車の速度までは落とせるということ。

奈良。航続距離は2000kmほどだったはず。

シモン。このシリーズBはQ国仕様で、5000kmほど飛べます。

奈良。それでも、何回かは給油が必要。

シモン。各地のID社支部に着陸しましょう。給油は短時間で済むはずです。

鈴鹿。明日の北方旅行でも給油が必要。

シモン。ええ。ID社の観測施設があるので、そこにお世話になる予定です。

原田。そこって、北極圏なの?。

シモン。そうです。極寒の地。

原田。泊まれます?。

シモン。白夜をみたいと。

原田。ええ、ぜひ。

シモン。…命知らず…。

原田。え、何か…。

シモン。いえ、何でもありません。できるかどうか、聞いてみます。

 (研究者や調査隊を泊める部屋はあるとのこと。食料などは、今から運ぶと。大サービスだ。)

志摩。ケイマ、冬の山小屋とか泊まったことあるの?。めちゃくちゃ寒いよ。

シモン。研究者用なので、寒いけど、それなりに快適です。シャワーもありますし。

鈴鹿。日本人とQ国人では、寒さの感覚が違う。部屋の温度は?。

シモン。15℃程度でしょう。

原田。快適。

シモン。外は氷点下20℃くらいにはなるかもしれません。万一、暖房器具が故障したら、その温度になるということ。

鈴鹿。もう、下着から含めて、みつくろってあげるわよ。

原田。ありがとうございます。

鈴鹿。良い経験になるわよ。あんたのような政治家、いつ何時困難にぶちあたるかも知れない。何としてでも生き延びるすべを学ぶのよ。

原田。はい。

シモン。いや、それほどの覚悟は。普通の研究施設です。

鈴鹿。装備をチェックします。リストを見せてください。

 (ふむ。伊勢がいないものだから、鈴鹿が場を取り仕切っている。こいつは経験豊富だ。ただ者ではない。さすがにQ国ID社で、すぐに装備を揃えることができた。一部は商品だ。あとで、請求書が来るのだろう。情報収集部の予算で何とかするか。いずれ必要な訓練にはちがいない。)

シルビア。ええと、じゃあ、本日は東海岸から北極圏に行って、観測施設で泊まり。明日はロッキー山脈を通過して西海岸に出て、国境沿いを戻ることにしましょう。大旅行。

第15話。自動人形、アンドレ。8. Q国、3日目夕、増産計画の変更

2009-09-16 | Weblog
 (パーティーの案内があった。出席者は身内ばかりで、30人くらいしかいないので、会議室に移動。バイキング式に料理を取って、席に持っていって食べる。動物型も含む、すべての自動人形を並べる。一応、伊勢も来た。社長があいさつする。)

社長。うれしいニュースがあります。日本から来られた伊勢氏から、我がパワードスーツに自動人形の技術を導入する提案があり、申請することになりました。詳細を詰めて、計画書を作り、許可されれば、短期間で次世代のパワードスーツが完成するはずです。我々の努力が、認められる日は目前です。みなさん、ありがとう。日本から来ていただいた方々に、感謝します。乾杯。

 (忘れないうちに、Q国のウィスキーを一口含む。ケイマがやってきた。)

原田。狙っていたような結果。

奈良。ああ、Q国のスタッフ連中は、計画続行と受け取って、すでにうれしがっている。伊勢の計画が成功したらいいのだが。

原田。それ、ウィスキーですか?。

奈良。ん、ああ、そうだ。

原田。奈良さんの好物。

奈良。スコッチが好物だが、Q国のウィスキーも良い。

原田。ストレートで飲む。

奈良。この飲み方を覚えると、他に移れない。もともと、ストレートで味わうように設計されているはずだ。

原田。さすが。渋い趣味。

奈良。で、何か用件か?。

原田。さすが。お見通し。伊勢さんは、出来上がったパワードスーツ自動人形の中身は私にしたいらしい。でも、あの宇宙服デザインは何とかして欲しい。

奈良。なんだ。それなら伊勢に直接言った方が良い。

原田。なんだか、うきうきして、取り付く島もない。

奈良。周りには注意している。ぶっきらぼうな返事が来ても、ちゃんと聞いているから大丈夫。

原田。そうなのか。じゃあ、いいです。聞いているようだったけど、何の返事もしないから、分からなかった。

奈良。それは了解のサインだ。反対するつもりなら、思いっ切りリアクションがある。

原田。真剣でした。そんなに面白いのかしら。

奈良。何だろうな、あれ。昔からあんな感じ。何者かに憑り付かれたようになる。

原田。奈良さんにもそう思えるのか。伊勢さんの中にもう一人いる感じ。

奈良。そうだな。お嬢様のモモさんと、もう一人の友達。疲れることのない、真実を追究する意志。

原田。二重人格。表と裏のある伊勢さん。

奈良。ええと、どちらも伊勢。区別はできない。記憶は共有しているみたいだから、医学でいう二重人格ではない。性格の揺れみたいなもの。

原田。どうしてそう断言できるの?。

奈良。ああ、それはだな。最初、伊勢と会ったときには、もっと揺れが激しかったから。ゆったりしているモモさんと、激しく攻撃してくるもう一人が非常にはっきりしていた。だから、いやでも分かった。いまは両者が和解しているみたいで、混在している。どちらかが優位になるだけ。

原田。そうか。だから、時に二面性があるように見える。でも、複雑なだけ。

奈良。そう。完全な二面性ではない。混在していて、分離不能。あのまま伊勢と思わないと、付き合えない。

原田。たしかに、どちらかを取り去ったら、まるで伊勢さんではなくなる。分かったような気がする。

奈良。安心して付き合えばよい。どんなに激しく攻撃しているように見えても、モモさんが消えることはない。しっかりどこかに仕掛けをしている。

原田。それは感じます。結構したたかなお嬢様。その激しい方のもう一人の自分をいいように操っている感じ。

奈良。それはそれで、怖いのだがな。でも、今はその状態だから、普段は付き合いやすい。

原田。伊勢さんは奈良さんのお気に入りなんだ。

奈良。そう、否定はしない。良い部下だ。私には贅沢なほど。

原田。そうか。なぜ、あの能力でこの部署にいるのか、考えてみればもったいないこと。

奈良。それには理由がある。プライバシーにすこし引っかかるから、私からは言えない。ストレートに聞けば、本人から言ってくれるはずだ。

原田。分かった。機会があれば、聞いてみる。

 (伊勢が近づいてきた。)

伊勢。奈良さん、困難が一つ持ち上がった。自動人形の本年度の増産計画は、すべて決まっていて、変更が困難だって。

奈良。まだ生産はされていないんだろう?。

伊勢。今4機目を製作中だとか。

奈良。ここの社長があんなに張り切っているくらいだから、無視されることはあるまい。ただ、急いだ方が良いような気がする。

伊勢。ええ、どんどん担当部署に連絡しなきゃ。

奈良。他動人形なら追加で作ってくれるかもしれない。

伊勢。それでは、中身の人間を守るのに無理がある。自動人形でなきゃ。奈良さん、私、頑張ってみる。明日とあさっての旅行は、私はキャンセルする。

奈良。ああ。好きにしてくれ。私にできることはあるか。

伊勢。必要と思ったら、連絡する。原田さん、デザイン以前の問題なの。作られるか、作られないかの瀬戸際。デザインは日本ID社のオタクどもに任せるつもりだから、間違いないと思うけど、要望があったらまとめて私にメールしてくれる?。

原田。はい、わかりました。考えて、スケッチを送ります。

伊勢。悪いけど、2日以内にして。帰国前に間に合わなかったら、オタクどもにすべてを任す。

原田。はい。そうしてください。

 (伊勢はそそくさとパーティーを切り上げ、社内に作業スペースを作ってもらって、こもり始めた。そして、いつものように、信じ難いスピードで基本デザインをまとめたのだ。そんなことが可能だったのは、Q国ID社の強力なバックアップがあったからだ。外骨格デザインにおいては、Q国ID社の技術は群を抜いていた。だから、モーターを自動人形の人工筋肉に置き換えるのに時間はかからなかった。
 全体の設計デザインを本部に任せたのも良かった。というのも、例の本部航空部門長が一計を案じてくれたのである。部門長は、わざとらしくA国ID社に計画をもらしたのだ。茶目っ気を出して、少々どぎつく。途方もない計画と、あわてたA国ID社は、ロビー活動で自動人形の生産計画を4機で凍結してしまい、自国のためのパワードスーツ自動人形製作を無理矢理ねじ込んだのだ。結局、4機のパワードスーツ型自動人形が作られることになった。Q国ID社、日本ID社、Y国本部、そしてA国ID社に1機ずつである。その間、たった2日。早業だった。)