ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。6. 大阪会場の展示会

2010-11-22 | Weblog
 (翌日。本番当日。朝9時。航空管制システムを含む機器の調整のあと、小鹿氏は、五郎に抱えられて、蒸気ロケットの体験。最初は怖がっていたけど、さすがにプロで、余裕の表情ができるようになった。六郎といっしょに飛び上がって、巨大スクリーンの後ろに隠れ、着替えて出てくることにした。
 次に、寸劇の最終稽古。じっくり、1時間もかけて調整する。その後、音楽の試奏をする。お昼になった。開場する。展示会は午後3時から2時間の予定。
 ステージ脇のモグ内にて。)

高橋。妙な連中がいる。

海原。後席の連中は外国や企業のスパイどもじゃ。自動人形とサイボーグ研の動きを探りに来た。

高橋。国際スパイ。

海原。そして、産業スパイ。本物。

高橋。我が国も。

海原。当然じゃの。主催格の通商産業省だけでなく、外務省や軍も来ているだろう。

高橋。武器を持って。

海原。そうだとの、もっぱらのうわさじゃ。

高橋。ははーん、だから鈴鹿さんたちがいる。変だと思った。

海原。分かるのか。

高橋。用心棒。自警団といったらいいか。何かあったら闘う気だ。私たちのために。

海原。そうらしい。まだ見たことはないがの。

高橋。あの男2人はプロかな。やけにそれっぽい。

海原。志摩と虎之介。隠してはいない。軍事訓練を受けておる。鈴鹿と同期。

高橋。統率している奈良と、軍曹格の伊勢。まだ何かある。

海原。一つは明らかじゃろう。自動人形そのもの。奈良部長の号令一下、およそ何でもする。どんな過酷な任務であろうと。

高橋。やはりそうか。伊勢さんは。

海原。高度の機密じゃ。決して明かしてはいけない。国際問題になる。

高橋。やっぱり。秘密兵器を駆使する、悪魔の女。

海原。じゃろうな。自動人形が飛べるようになったのも、これほど自由に跳び回れるのも、すべてあ奴の仕掛けじゃ。

高橋。そうなの、天才なんだ。

海原。あれに対抗できるのは、清水くんしかいない。

高橋。彼女は本部から派遣されている。こちらの監視をすると共に、手に負えなかったら通報するんだ。隠密。

海原。そんなところじゃろう。清水くんも自動人形使いじゃ。

高橋。それで、志摩くんたちに混じっていても平気なんだ。前の方は、猫山さんファンかしら。それにしては、ちょっと若いかな。

海原。猫山ファンと鈴鹿ファンが入り交じっているのじゃろ。

高橋。鈴鹿ファンなんかいるの?。

海原。全国に推定50人。ねちっこいオタクファンじゃ。

高橋。熱心なこと。

海原。あと大勢は、子鹿ファンじゃな。

高橋。ええ。よかった。誰も来なかったら、どうしようかと思っていた。だって、宣伝してすぐだもの。あっちは高校生風なのと親子連れ。自動人形とサイボーグ目当て。

海原。親子連れは、イチとレイと六郎目当てじゃろう。テレビの幼児番組に出ている。

高橋。知ってる。一部の層にはよく知られている。ここに来れば、体操専用のロボットじゃないことが分かる。

 (資料映像が流れ出す。体操の画面が出たら、あちこちで小さな子供が合わせて体操している。アニメのテーマ曲も出した。会場は次第に学生優位になり、それらしい雰囲気が出てきた。
 展示会の開始。いつものように、自動人形が前半、サイボーグ研が後半。
 技術解説のあと、モグが動き出す。屋根からイチとレイが発進。A31はステージから発進。狭い展示会場を派手に飛び回る。エレキとマグネと五郎と六郎は蒸気ロケットで参加。
 着陸して、楽器を持ち、数曲合奏する。人間組が加わり、歌は鈴鹿。伊勢や鈴鹿への声援が飛ぶ。曲はすべて猫山氏の作曲だ。
 小休憩に入る。ふたたび、モグ内にて。)

高橋。よかったわ。かっこよくって。声援も飛んでいた。

鈴鹿。一部から。でも、大変なプレッシャー。早く子鹿さんを出せ、って雰囲気。

高橋。本番の興行でも、最初から出るわけではない。

鈴鹿。それか。待ちわびている。

高橋。いつもより楽だわ。こんな雰囲気もいい。リラックスして出演できる。

鈴鹿。これでもお遊びか。大変。

高橋。そっちは今がメインだからよ。最後は任せなさい。

鈴鹿。よろしくお願いします。

 (後半が始まった。大江山教授が解説する。さすがに、うまく解説する。小鹿氏目当てで来た連中も、ついでに観ている。もちろん、メカ好きな連中は喰い入るように見つめている。女性も少なからずいる。小鹿氏が目を丸くしている。)

高橋。この内容で、観客が乗っている。何てこと。

伊勢。びっくりしました?。

高橋。あなたは科学者。面白いの?。

伊勢。もちろん。あれもできる、これもできる。夢が広がる。

高橋。あなた、なぜ機械好きなのよ。

伊勢。必要だから。花を育てたり、小麦を伸ばしたり。

高橋。畑を守るのは本来、女の仕事。男どもは狩に出かけている。女にも生物学は必要。そして、ある一線を超えると、移植ごてでは無理。

伊勢。ええ、鍬や鎌ではとても無理。機械が助けてくれる。

高橋。コンピュータまで駆使して。

伊勢。何でも使う。機械でも、化学物質でも、自動人形でも。

高橋。魔女。

伊勢。あはは、そうなのかも。…、失礼。

高橋。本物は初めて見た。

伊勢。なぜかしら。私を魔女とか悪魔とか言う。不公平だわ。

高橋。神に従わないものは、みんなそう言われるのよ。

伊勢。別に逆らってない。

高橋。どこかしら一途すぎるのよ。どこで運命が別れるのか、知らないけど。

伊勢。今は突っ走るしかない。

奈良。伊勢、会場の反応が面白い。回ってみないか。

伊勢。行ってみようか。

高橋。あなた、アンを連れて。不気味な人。

奈良。ん、アン、付いてきたのか。

アン。心配だから。

奈良。そうか。なるほど。

高橋。なるほどじゃない。操縦しているのは誰よ。

奈良。私。

高橋。付いて来させたんじゃないの?。

奈良。別に、頼んでない。

アン。頼まれてない。

高橋。うう、頭が混乱してきた。奈良さんがロボットを操縦していて、ロボットが付いてきて、勝手に付いてきたような口ぶりで、ロボットが否定しない。

伊勢。理屈はつけられるんだけど、一般的に言って、深く考えると混乱する。今の状況は、アンが付いていった方がいいと判断して、付いてきたのよ。

高橋。不気味。

伊勢。この程度で不気味と思っていたら、身が持たない。失礼、会場を見てきます。

 (伊勢といっしょに学生が多い会場を巡回する。今は火本が解説している。画面に表示された映像やグラフを熱心に見ているのが多い。)


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