ID物語

書きなぐりSF小説

第32話。アクロニム。21. 迷彩した山城

2010-11-13 | Weblog
五郎。よろしいでしょうか。お取り込み中の所。

奈良。うわわわっ。なんだ、五郎か。用件を言え。

モグ。超低空を飛行する航空機を発見。怪しい。

イチ。追尾する。

レイ。行く。

 (言うが早いか2機が飛び立った。鈴鹿と伊勢はあわててモニターに直行する。山の輪郭の切れ目から一瞬モグに見えたらしい。)

鈴鹿。どんなやつよ。

モグ。これだ。

 (観光用のヘリコプターに見える。)

鈴鹿。飛行コースが異様なだけか。

モグ。断定するのは早い。

鈴鹿。生意気なやつ。

 (モグは生意気な反応に調整しているのだ。イチたちはあっと言う間に尾根を越える。ヘリの音が聞こえるが、姿がない。音を探しながら、2機は谷を飛ぶ。)

イチ。ここだ。木に着陸する。

 (一帯が巨大なテントになっていて、上空からは森に見えるように迷彩している。入り口が見える位置にレイを差し向ける。テントの下がヘリポートになっている。
 永田に知らせたら、しばらく動きを観察せよとのこと。少なくとも、政府系の施設ではないようだ。)

伊勢。山城みたいになっている。

奈良。道路はあるのか。

イチ。人が歩ける程度の細い道しかない。

 (さらに観察しようとしたら、永田から連絡が入った。直ちに避難せよ、速やかに半径5km外にと。モグと施設は3kmほどの距離だ。取る物も取り合えず、モグを発進させる。イチとレイも回収。)

イチ。何が起こったの?。

鈴鹿。永田さんからの避難命令。

レイ。攻撃よ。

イチ。何者の?。

レイ。すぐに分かる。

 (モグの移動速度は伝わっていたらしい。十分に離れたら、尾根の向こうの谷が光った。そして、大変な量の煙。続いて、すさまじい轟音。対地攻撃機がわずかに見え、消え去った。)

鈴鹿。A国軍の兵器だ。いきなりあんな攻撃を。

イチ。ヘリコプターと乗員はどうなったの?。

奈良。無事で済むわけない。

イチ。行こうよ。すぐに行ける。

 (永田に連絡したが、待機しろと。そして、すぐに追加連絡。許可するまで半径5km以内に近づくなと。その許可が得られるのは、ずっと後のことだった。)

モグ。友軍のヘリコプターが飛来している。こちらも観察された。

鈴鹿。普通に考えて、掃討するんだ。

レイ。どこかの軍事拠点か何か。

鈴鹿。少なくとも、それに類したものでしょう。

イチ。研究が継続できない。

鈴鹿。もうここでは無理よ。あからさまに軍事作戦に巻き込まれた。逃げるしかない。

伊勢。いったん帰りましょう。あれこれ余計なことを考えそうだから。

奈良。明後日には大阪入りする必要がある。

伊勢。そうだった。大阪支社に連絡する。

 (ホテルを紹介してくれた。会場の近くだ。広めの2室があてがわれた。
 途中からは高速道だ。夕方早くに着いた。出かけるのも面倒なので、男部屋に集まって、ルームサービスで食事にする。)

鈴鹿。ルームサービスで食事なんて、贅沢。

伊勢。レストランと変わんないわよ。

奈良。いただこう。

 (丸テーブルを囲んで食事。)

鈴鹿。さんざんなことになった。いいアイデアだと思ったのに。ごめんなさい。

伊勢。楽しかった。うれしかったわよ。

奈良。たまにはああいった頭脳の使い方をしなければな。

伊勢。主要データは取ってあるから、報告はできる。

奈良。近くに広い公園がある。都会のダニでも観察するか。

伊勢。やっておこう。あそこで確立した観察法がここでも通用するかどうか。

鈴鹿。転んでも、ただでは起きないわね。

伊勢。はいつくばってでも、納得できる成果を出すのよ。

 (夕食後、近くの公園に3人と4機で行く。六郎も付いてきた。並木は低いので、イチとレイは、それぞれエレキとマグネの肩に器用に乗って、木に近づく。LS砲とアナライザで分析。もちろん、普通に生物群はいる。私も伊勢も、自分の目やアナライザーで観察。鈴鹿も真似てみる。伊勢が要点を教えている。)

鈴鹿。やっぱり興味が続かないことには、何ともかとも。

伊勢。そのわりには、しっかり見ているじゃない。

鈴鹿。何かに役立ちそうだもの。ちょっと不純な動機。

伊勢。それでいいわよ。

鈴鹿。もっと遠くでも分かるかな。

 (さすがに若者は向こう見ずだ。どんどん距離を伸ばして行く。伊勢の計算なんか、関係ない。)

伊勢。何か分かるの?。

鈴鹿。樹木では役立たず。建物の壁面だったら、ある程度分かりそう。

伊勢。生物がまばらだもの。なるほど。

鈴鹿。密度さえ問わなければ、どこにでもいる。あんな高いところにも。猫の背中にも。

伊勢。猫って…。うわ、いっぱいいる。

レイ。猫の集会場だ。かわいい。

イチ。不気味だよ。

奈良。彼らの会話が聞ければな。

鈴鹿。ほとんど無言。

奈良。でも、寄ってきているって事は、何かコミュニケーションしている。

鈴鹿。おしゃべりじゃないだけだ。

イチ。ボクには分かる。安心しているんだ。それを確かめに来ている。

鈴鹿。仲間の状態を確かめているの?。

イチ。うん。今日も来ている、あの個体。元気そうだ。安心。なんて。

レイ。誰でも分かる。

奈良。それが大切なんだ。誰でも分かる。そんな単純な動機が学問になる。

伊勢。自動人形に学問は分からないわ。

イチ。お手伝いはできる。

レイ。使ってください。

伊勢。いとおしい子。うん、活躍して。

イチ。全力を上げて…。

レイ。期待にお応えします。

 (ホテルに戻る。伊勢は女性部屋でせっせとデータを解析しているようだ。こちらの男性部屋、―といっても、人間の男は私だけ、には自動人形が集まっている。六郎までいる。レイは気を利かせてくれたのか何なのか、男になっている。)

レイ。街が見える。ごちゃごちゃしているけど、活気がありそう。

イチ。うん。明るい。

 (永田からは追加の連絡はない。IFFは何か動いたようだが、虎之介はそのまま来るらしい。普通に風呂に入って資料を整理し、眠る。)