ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。2. セッティング

2010-11-18 | Weblog
 (展示会場は、ホテルから歩いて行ける。早朝から、舞台セットの組み立て。総務が急がせたのだ。大御所は午後から来る。港氏があせっている。陣容の把握に努めているのだ。加藤氏は落ち着いた顔して、次々に指令して行く。結構厳しい。伊勢が必死で踏ん張っている。)

土本。加藤さんって、落ち着いているのか慌てているのか、さっぱり分からない。

清水。慌てているみたい。必死の感じ。というか、律儀だから、港先生に合わせているのよ。

土本。いい人なんだ。

清水。日本を代表する作曲家、猫山園太の懐刀よ。ただ者ではない。

土本。猫山園太って、有名。お笑いのお芝居に付き合ってくださるのかしら。

清水。さあ。多分、小鹿氏とは話はまったくすれ違うでしょう。お互いに芸能だから、バカにはしないでしょうけど。

土本。クラシックって、芸能だったかしら。

清水。西洋の芸能。技芸、アートよ。

土本。チントンシャンとはずいぶん違うような気がする。

清水。猫山さんの作品には、日本の楽器がよく出てくる。通俗楽器が、たちまちにしてクラシックに色取りを添える。

土本。すごい。ただ者ではない。

清水。そうよ。あ、加藤さんが三味線弾き出した。器用。

 (普通に聞いたらうまいと思うのだが、プロの演奏を知っている港氏には不評のようだ。お互い、必死になっているから、けんか腰。)

港。音が鳴っているだけだ。

加藤。すみません。素人です。

港。ギターじゃないぞ。困ったな。こっちにも三味線弾きはいるけど、頑固な芸人だ。猫山氏の音楽など、理解しっこない。

加藤。猫に小判。

港。微妙にずれてるな。

加藤。誰かー、三味線弾けませんかー?。

港。何やってんだ、お前。

土本。弾けるよ。やってみようか。

 (土本が加藤氏から三味線を受け取る。小唄の一節らしい。かなりうまい。)

港。ずっといい。プロ級ではないけど、合いの手くらいならごまかせそうだ。

加藤。やってくれるかな。曲のさびの部分で弾く。

土本。やってみる。

水本。すごい、土本さん。流派とかあるんでしょう?。

土本。あるけど、私のはめちゃくちゃ。だって大学のサークルだもの。

港。じゃあ、我流か。

加藤。音はいいような気がする。

港。いいよ。器用なんだ。かえっていいかも。

 (しばらくしたら、猫山氏とスタイリストの松武氏がやってきた。東京から大あわてできたらしい。いい人たちだ。)

猫山。はじめまして。あなたが港さん。有名ですよ。

港。まさか。この界隈だけです。そちらは全国区。こんな技芸に付き合ってくださって、恐縮です。

猫山。皮肉ですかな。精一杯がんばりますぞ。

港。お手柔らかに。

 (猫山氏は加藤氏から事情を聞いている。土本に三味線を弾かせてみる。ちょっと考えている。と思ったら、モグに入ってしまった。曲のアイデアが湧いたらしい。勝手知ったるモグのモニタにすっ飛んでいったのだ。慌てて加藤氏が入る。港氏も興味が湧いたらしく、モグに入る。こちらからは、サポートに志摩をモグに入れる。)

松武。じゃあ、持ってきた衣裳を合わせてみますか。

 (とりあえず、A31とU4(イチ、レイ、エレキ、マグネ)にあり合わせの和服を着せる。A31は町人風。エレキとマグネはお役人風。イチとレイは町人風に擬装した少年・少女忍者だ。)

松武。我ながら良くできている。すばらしい。

水本。びっくり。マグネなんか、決まりすぎている。

松武。あとの配役は、まだみたいなので、持ってきませんでした。

伊勢。どうするの?。

松武。大阪で調達します。

伊勢。デパートとか。

松武。一報を入れてある。…、おや、そこに新しい美人がいる。

伊勢。目ざといこと。ほら、あなた、土本さん。

土本。え、私?。土本五香と言います。大学院生。火本くんと同じ大学の。

松武。不思議だ。どこかで会ったような。デジャヴってやつか。

伊勢。あはは。私もそう思った。似てるんですよ。アンに、体形が。

松武。なあんだ。それだけか。アン、来てくれるか。

土本。また並ぶの?。やだな、超絶美人ロボットにかないっこない。

アン。そんなことない。美人同士。

松武。うむむ、できすぎ。顔は全く違うけど。

土本。もういいかな。

松武。ふむ。

 (水本の時といっしょ。近づいたと思うと、いきなり髪をつかむ。)

土本。きゃーっ。あんたっ、何するのよー。

アン。落ち着いて。あなたは美女になる。

松武。その通り。小野小町もびっくり。なんか、ここ、美女ばっかり。

アン。例外もいる。

松武。そっ、それは…。

レイ。誰のことを言ってるのかな。

清水。ふん。悪かったわね。

松武。あのね、男性受けするあなたたちが言うセリフではない。

土本。あの、私の髪、離してくださいます?。

松武。失礼。見とれてしまった。

土本。全然見てなかったけど。

松武。でき上がり想像図ですよ。すばらしくなる。保証付き。カツラ付けてくれる?。

土本。演技ならいい。

松武。もちろん、演技です。来てくれたお客に一時の夢を売る。あなたが。

土本。できるのならうれしいわ。やってみる。

 (松武氏も打ち合わせのために、モグに入っていった。展示会場は、屋根付きの小さめの競技場のような形をしている。前回と同じく、巨大スクリーンを設置し、その前に舞台をしつらえる。)


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