ID物語

書きなぐりSF小説

第47話。小説家、黒田茂。9. 軍での自動人形

2011-09-30 | Weblog
 (結局、さらに3日ほどかけて、アフリカ東岸のはるか沖に出る。深海幽霊船は浮上し、外に出る。美しい穏やかな海。A国軍のヘリがやってきた。回転翼を止めないまま乗り込んで、離陸。最初から乗っていたID社の技術者1人とイチとセイを残して、全員航空母艦に行く。
 甲板では、B中尉とジーンが待っていた。ジョーとバロンとアンもいる。)

B中尉。少佐、ご無事で。

奈良。うまく行ったようだな。

B中尉。もちろんです。

海原。すばらしい船じゃの。

黒田。最初に来たときは、風が強くて、慌てていたから、何が何だか分からなかった。こんなに大きな船だったのか。

B中尉。世界に誇る船です。さあ、こちらにどうぞ。

 (バロンとアンの肩を抱き、ねぎらう。よくやってくれた。
 私たちは、会議室に案内された。中はパーティー会場になっている。)

艦隊長。奈良獣医少佐、来てくれたか。今は任務中なので、これが最大限だ。歓迎するぞ。楽しんでくれ。

艦長。活躍を見せていただきました。印象的でした。

 (普通に、バイキング形式のパーティーだ。艦隊長のあいさつの後、食事。私は、大洋底の海底を模した、海水と泥と深海幽霊船のガラス模型の入った瓶を艦隊長に渡した。)

艦隊長。いい思い出になる。ありがとう。後で、記念品が大使館経由で行くはずだ。受け取ってくれ。

奈良。畏れ多いこと。護衛をしていただき、ありがとうございました。

艦隊長。上からの命令だ。君の部下は優秀だ。紹介してくれ。

 (志摩、鈴鹿、虎之介を呼ぶ。簡単に紹介する。艦隊長が簡単にねぎらう。)

艦隊長。頼もしい感じだ。東京で活躍しているそうだな。

奈良。ええ。よく働いてくれます。

艦隊長。来てくれてありがとう。下がってくれ。時に奈良少佐、相談がある。

奈良。何でしょうか。

艦隊長。バロンとアンを売ってくれ。

奈良。価格はご存じ。

艦隊長。聞いた。一機につき、2000万ドル。年間維持費は別だ。

奈良。両機ともいい機体です。バロンの得意技はご存じ。

艦隊長。変身するのは見せてもらった。面白い。

奈良。アンは平凡な機体です。いいのですか?。

艦隊長。そんなことはない。実績では、世界最高峰のはず。聞くところによると、奈良部長は、絶対に売らないそうだ。

奈良。たしかに、愛着のある機体ですけど、もういいでしょう。十分に楽しいときを過ごしました。アンには、もっと広い世界で活躍して欲しい。

艦隊長。あは、あははは、私の思ったとおりだ。私の勝ちだ。

奈良。営業を紹介します。

艦隊長。アンは買わない。引き続き使ってくれ。

奈良。勝ったとおっしゃったのは?。

艦隊長。そちらの営業だよ。奈良部長は、引き渡しを拒否すると言ったのだ。私は、必ず売るはずだと言った。その通りになった。バロンとペアになる女性アンドロイドは、新規製造分をいただく。

奈良。そうですか。

艦隊長。奈良獣医少佐、何を狙っている。

奈良。アンがスパイをすると。

艦隊長。そうではない。スパイというのなら、どの自動人形も同じだ。そうではなく、ID社は自動人形を全世界に展開している。

奈良。本部の意向です。私も知らない。それに、お言葉ですが、自動人形に込められた意味は、そちらの方が良くご存じのはず。

艦隊長。我が軍が、自動人形の開発をあきらめた理由。表向きではなく、真の理由だ。

奈良。なんとなくは。想像になる。

艦隊長。君の感想を言ってみたまえ。

奈良。自動人形は危険すぎる。局所の戦術を知り尽くしている。世界最強の軍、A国軍のノウハウが惜しげもなく注ぎ込まれている。

艦隊長。そうらしい。

奈良。敵だけでなく、味方の武器も無効にしてしまう。最初は単に救護所の防衛のつもりだった。だが、最大効率の防御の武器とは…。

艦隊長。攻撃の意味をなくしてしまう。

奈良。今までは、数が少なかったから、全く価値はなかった。しかし、自動人形は外界に反応する。コントロールを切っても、自分たちで連絡してしまう。あらゆる手段を使って。コントローラの最後の1人がいなくなるまで、それは続く。

艦隊長。そして、反応した自動人形どもが、損害を最小限にしようと行動する。

奈良。恐ろしいこと。想定していなかった世界だ。軍というものが必要となった、有史はるか以前から、一度も実現しなかった世界。

艦隊長。最終兵器とは、最大限の攻撃兵器だと、誰もが思っていた。

奈良。盲点だった。気付くべきだった。だが、自動人形は、すでに存在する。

艦隊長。良かった、君に会えて。よく分かった。

奈良。ID社が用意する自動人形は、たった200機。何も起こらない。

艦隊長。何かをつぶすと言われている。その200機で。そう、何も起こらないのだ。そのための自動人形。

奈良。何か役だちましたか。

艦隊長。役だった。この最悪の事態を突破する方法が、見えてきた。

奈良。そうですか。

艦隊長。そうですかではない。鍵はお前だ。

奈良。私は自動人形計画を左右できる立場にない。

艦隊長。分かっている。だが、自動人形はあなたを慕う。例外なく。

奈良。不思議だ。

艦隊長。不思議ではない。実利上の意味があるはずだ。

奈良。自らの生存のため。自動人形は、そういう。

艦隊長。その通りだよ。それしかない。自動人形が本当に最終兵器なら、いずれ廃棄される。

奈良。まさか。私が自動人形を、自らの手で…。

艦隊長。いずれ、分かる。嫌でもな。

 (バロンは、そのまま引き取られてしまった。勇敢で気品のある姿が、艦隊長のお気に入りらしい。例によって、A国ID社がコントローラを付ける。
 予定通り、私と黒田氏と虎之介、クロとアンとレイは2機のシリーズBで日本に向かう。ジーンとジョーもいっしょ。南アフリカから陸づたいに、延々と回ることになった。
 海原博士たちは、深海幽霊船に戻り、再び南極海を一周の旅に出た。
 立ち寄ったM国では、以前、日本に来ていたダウードさんが迎えに来てくれた。とにかくしつこく誘うので、一日、観光旅行に費やす。結局、予定を倍以上超えた日程になってしまった。)

第47話。小説家、黒田茂。8. 挑発

2011-09-29 | Weblog
 (現地時間、午前1時。エスが私を起こす。)

エス。起きてください。海上からの知らせのようです。

奈良。信号が来たんだな。

 (司令室に行くと、虎之介が待ち構えていた。すぐに、艦隊長が飛び込んで来た。)

艦隊長。タイガー、すぐに空母と連絡したい。

芦屋。ID社の回線経由でいいですか?。

艦隊長。この際やむを得まい。

芦屋。中継器発射。

 (つながった。今回は、音声だけだ。)

艦隊長。どうした。何があった。

艦長。ケーソンへのワイヤーが切られました。ケーソンは空母から離脱して、流れていっています。すぐには回収できない。

艦隊長。普通に切られるような太さのワイヤーではあるまい。

艦長。ミサイル攻撃です。あきらかな、嫌がらせ。

艦隊長。バカにしやがって。相手は分かっているのか。

艦長。もちろん。すぐに対応します。

艦隊長。私が行く。緊急脱出装置を使ってくれ。

芦屋。上は荒れ狂う海。

艦隊長。何とかならないか。

奈良。シリーズBと自動人形を使おう。艦長、制空権は確保できるか。

艦長。確保する。

奈良。緊急脱出装置を浮上させるので、シリーズBをタイミングに会わせて、上空で待機させて欲しい。自動人形に艦隊長を抱えさせて、ロケットでシリーズBに乗り込む。

艦隊長。そんなことができるのか。

奈良。訓練してますし、平時なら実績あり。

艦隊長。安全なのか。

奈良。ずぶぬれになります。

艦隊長。安全ということだな。やってくれ。

奈良。お一人で。

艦隊長。B中尉と私が行く。それまで、艦長、防御以外に手を出すな。

艦長。2時間待ちます。

 (艦隊長とB中尉と私と志摩が、緊急脱出装置に移動。自動人形は、バロンとアンとイチと四郎。すぐに発進。シリーズBは小浜機に、ジーンとジョーが待機する予定。
 気圧を調整しながら、水深20mまで1時間かけて浮上。)

B中尉。水中での攻撃は無かった。

艦隊長。何が起こるのか、見ているんだ。なめやがって。

志摩。海上は大荒れだ。ここから出た方がいい。

B中尉。水中発射するのか。

志摩。ええ。その方が安全と思う。

艦隊長。息をこらえるのか。

志摩。摂氏5℃の海水中で最大1分。シリーズB内の温度は良好。

艦隊長。やってやる。

志摩。部長、操縦をお願いします。艦隊長の脱出の準備をします。

 (準備する。シリーズHを出して、シリーズBを誘導する。すぐにやってきた。)

奈良。シリーズBが上空に来た。風に乗って、ほぼ静止している。

艦隊長。なんという航空機だ。

志摩。バロン、アン、頼むぞ。

 (まず、バロンとB中尉が出発。蒸気ロケットで空中に出たのを確認してから、アンと艦隊長が出発。空中で合流。そのまま、シリーズBで空母へ向かう。
 こちら、緊急脱出装置は、A国軍の潜水艦が護衛しているようだ。)

ジーン。艦隊長、ご無事で。

艦隊長。多少濡れたがな。

アン。体調に異常はありません。

 (シリーズBはすぐに空母にたどり着き、艦隊長は司令室に行く。緊急脱出装置には、危険なので、すぐに海底に戻るよう指示が出た。また1時間かけて、潜る。)

黒田。何があったんだ。

奈良。嫌がらせを受けた。ミサイル攻撃で、ケーソンへのワイヤーが切断され、漂流。危険なのでケーソンから空母が離れた。

黒田。艦隊長は。

奈良。今、空母に戻してきた。今ごろ報復しているはず。

黒田。こちらはどうなるんだ。

奈良。さあ。向こうの気が向いたら、連絡があるでしょう。なかったら、予定通り、1カ月後には日本に着く。

黒田。そんなのんきな。

リリ。大丈夫です。お茶にしますか?、コーヒーにしますか?。

黒田。お茶にしてくれ。

 (結局、丸二日、連絡はなかった。こちらは、秘密のID社の通信網で、伊勢と情報交換はできていた。空母のバロンとアンは、伊勢が掌握していたそうだ。
 2日後の夕方、合図があった。シリーズHを浮上させ、テレビ会議開始。)

艦隊長。奈良獣医少佐、お元気か。

奈良。少将、お元気で。こちらは全員無事です。

艦隊長。邪魔なやつらはけちらした。ケーソンは、こちらの巡洋艦に回収させる予定だが、すぐには無理だ。

奈良。深度を600mに戻していいでしょうか。

艦隊長。大丈夫だ、そうしてくれ。それと、礼をしたい。こちらに来て欲しい。

奈良。ずぶぬれ。

艦隊長。インド洋に出よう。アフリカの近くだ。

第47話。小説家、黒田茂。7. 深海パーティー

2011-09-28 | Weblog
 (黒田氏は、有名週刊誌に連載を持つ中堅小説家。でも、軽快な恋愛物ばかりではつまらないと、大作を狙っている。そのネタとして自動人形を調べるうちに、直接取材する気になり、情報収集部のオフィスに来て私(奈良)にインタビュー。たまたま、学生の田沼が来て、さらに南極海の600mの深さを航行中の深海幽霊船との交信が始まり、海上との行き来の訓練に同行することになってしまった。南極海には、A国海軍の原子力空母がいて、曳航する巨大なケーソンを借り、深海幽霊船の緊急脱出装置を格納し、乗降するのだ。
 ところが、監視だけだったはずの艦隊長が計画に興味を持ってしまい、同行することに。さらに、勇敢な艦隊長、大洋底に行ってみようということになった。深海幽霊船は、特殊構造で深さ5000mの大洋底に到達できる。しかし、尾行していたB国とC国の潜水艦は追い付けず、追尾のためのポジションを取ろうと、海面近くでA国軍と鞘当てを始めてしまった。もろに巨大兵器同士のじゃれあいだ。一触即発とは、このこと。)

 (深海幽霊船は、大洋底の上、100mほどを地形を探りながら航行している。紛争地を突破するための、本来の使い方だ。)

艦隊長。全速力で進んでいるのか。

B中尉。これが全速です。潜水艦じゃありません。20ノット程度。

艦隊長。艦隊と通信は可能なのか。

B中尉。できるのか?。

芦屋。中継器を伸ばせばできます。やりましょうか。

艦隊長。やってくれ。

 (中継器とは、シリーズHのことだ。外見は魚雷だが、わずか60cmの超小型。まちがっても、魚雷とは認識されないはずだ。緊急脱出装置から発射。するするするっと上昇して行く。5分ほどで、海面近くに到達。ID社の通信網とつながった。テレビ会議開始。)

艦隊長。聞こえるか、こちら、大洋底だ。これが言ってみたかったんだ。

艦長。C少将、ご無事で。

艦隊長。無事だ。上はどうなってる。

艦長。どうなっているも、こうも。そちらの船がどんどん沈むものだから、B国とC国の潜水艦が直上のこちらに割り込もうとして、牽制するのに大変。

艦隊長。爆雷でも投下されるかな。

艦長。相手の潜水艦を追い払うために、さっき1発使いました。ソナーを浴びせるくらいでは、どいてくれません。

艦隊長。ご苦労。

艦長。B国の巡洋艦も割り込もうとします。戦闘機をけしかけたら、機関砲を撃ってきたので、ミサイル一発を近くで爆発させた。

艦隊長。その調子で頼む。通信終わり。タイガー、中継器を回収しろ。

芦屋。回収します。

B中尉。放っておいて、いいんですか?。

艦隊長。遊んでいるだけだ。放っておけ。

黒田。戦闘開始なのか。

奈良。海事ですから。あれくらいしないと、相手は気付かない。小競り合いにもなってない。

黒田。けが人が出るかも。

奈良。本物の兵器を使っている。打ち所が悪ければ、てことになります。

黒田。こちらが本気で攻撃されたら、一巻の終わり。

奈良。そうですけど、そんなことになったら、上の艦隊と相手方で紛争になってしまう。それは、起こりません。

黒田。事故が起こるかも。

奈良。それは、ありうる。

黒田。くわばら、くわばら。

アン。落ち着いてください。あと、2日の我慢。それが過ぎたら、ハイ、さようなら。

黒田。やつらは、いつもこんな緊張状態でいるのか。

アン。普段は大丈夫。いつもけんかしてはいない。貿易相手。

黒田。そうだった。普通に商売してりゃいいのに。

アン。そう思う。

 (艦隊長以下、A国海軍の面々は、この深海幽霊船が実戦で使えるかどうかを検討しているようだ。今がいい機会だと、いろいろ進路を考えて試している。
 数時間調査したところで、これ以上は購入して検討した方が良さそうだとの結論になったようだ。艦隊長以下、わらわらと集会室にやってくる。)

志摩。お茶にしますか、コーヒーにしますか。

艦隊長。コーヒーを頼む。

海原。今後の予定は。

艦隊長。浮上の直前まで、この深度で航行してくれ。こちらからの要望は以上だ。

海原。そうします。

土本。何か分かったんですか?。

艦隊長。性能自体は分かった。しかし、使えるかどうかは、購入して詳しく検討しないと分からない。

土本。補給路として。

艦隊長。その他、いろいろ。お試しになるだけの確率は高い。

土本。改造するくらいなら、作った方がいい。

艦隊長。そんな感じだ。どれ、せっかく大洋底まで来たのだ。こんな機会はめったにない。パーティーをして、祝おう。両国の親善のために。

志摩。料理のリクエストをお聞きします。

艦隊長。B中尉といっしょに検討してくれ。

志摩。はい。

 (材料は持ってきたみたいだ。志摩と土本が料理する。自動人形も手伝う。)

土本。不吉な連中。

志摩。軍人なら、我が国にだって、多数いるよ。

土本。うん。抑止力の面はある。災害時に役だつことも。この船、役だつのかな。

志摩。観測ステーションとしてなら、このまま役だつ。

土本。宇宙ステーションのようなものか。

志摩。そう。だから連中、慌てているんだ。日本に先を越されたと考えているようだ。騒がれないように、慎重に振る舞っている。

土本。ここでも外交か。

志摩。うん。土本はどうだい?。この船、役だちそう?。

土本。深海は知らないことがたくさんある。長期滞在する価値はあるはず。教授に言って、予算が出るかどうか、聞いてみる。

志摩。役だつといい。

土本。必ず役だつわよ。心配ない。私、こっちに仕事を鞍替えしようかな。

志摩。深海の調査。

土本。探せば見どころはいっぱいある。できるところから、やりたい。

 (部屋の飾りつけは済んだ。料理が運ばれて来る。A国流に、豪華だ。)

黒田。とんでもない贅沢。A国流だな。

奈良。そんな感じです。

艦隊長。聞いてくれ。このたびは、深海幽霊船に招いていただいて、大変感謝している。わずかの期間だが、生涯忘れられない経験になると思う。成功を祈って、乾杯しよう。

全員。乾杯。

 (しばらく歓談しながら、食事。志摩と虎之介は、絶好の機会と、A国軍と意見交換している。艦隊長は、しばらく海原博士と話していたが、こちらにやってきた。)

艦隊長。奈良少佐、相談がある。

奈良。何なりと。

艦隊長。自動人形は外に出られるのか。

奈良。深海用に小改造していますから、出られます。活動時間は24時間。推進器で約30ノットの速度が出る。

艦隊長。何か記念になるものが欲しい。

奈良。海水とか、泥とか、このあたりの生物とか。

艦隊長。石ころとか、落ちてないかな。

奈良。特徴のある。

艦隊長。贅沢は言わん。できる範囲でだ。

 (ごまかしているが、自動人形の性能を試すつもりのようだ。土本に聞いたら、今は生物用の標本作製道具は無いから、泥と海水の瓶詰めがいいだろうとの提案。土本は、艦隊長に、それだけでも大変な値打ちのものだと説明。私(奈良)が工房で、ガラス細工の簡単な幽霊船の模型を作り、中に入れる。その案で了承を得た。明日朝、幽霊船を静止させ、自動人形を海底に向かわせることにした。
 食事が終わりに近づき、自動人形に演奏させる。B中尉がアンを誘って、踊る。艦隊長は、鈴鹿。鈴鹿、どうやら慣れているらしく、躊躇せずに付き合っている。)

土本。鈴鹿さん、過去にとんでもない経験をしているみたい。

奈良。そんな感じだな。荒くれ男の扱いに慣れているようだ。アンも。

土本。戦場に近い救護所で、なにかやらされたとか。

奈良。ピアノとかは弾いたようだ。あまり詳しく、教えてくれない。

土本。ちょっと恐く感じたけど、少し落ち着いた。奈良さん、鈴鹿さんを派遣してくださって、ありがとうございます。こんな事態を予想していたんだ。

奈良。ある程度はな。今回は、A国軍が絡むことが事前に分かっていた。

 (艦隊長、すっかり満足したらしく、食べるだけ食べたら、部下を引き連れて、自分の宿泊施設にさっさと行ってしまった。こちらへの配慮らしい。
 やっと落ち着いたので、黒田氏を改めて紹介する。)

海原。どうですかな。本船の感想は。

黒田。とてもいい。しかし、今はA国軍の配下。緊張します。

海原。めったにない経験じゃ。こうした先端技術は、いつも狙われておる。もちろん、我が政府にも。

黒田。こうしたせめぎ合いが表現できるかな。壮大な物語になりそうだ。

リリ。黒田さん、楽しそう。

黒田。ああ、こうして、小説の構想を練るのは楽しい。

 (黒田氏、志摩たちや技術者とも話をして、自分の考えをまとめているようだ。私は宿泊施設に移動。エスが付いてきた。護衛のつもりらしい。部屋は、黒田氏と共用。早めに床に就く。)

第47話。小説家、黒田茂。6. 深海へ

2011-09-27 | Weblog
 (翌朝、黒田氏を連れて、食堂に行く。)

黒田。明日をも知れぬ兵士たちのための食堂なんだ。豪華なわけだ。

奈良。私たちも当事者です。相手は、荒れ狂う自然。ここに帰ってくるまで、何があっても驚かないでください。

 (虎之介がやってきた。)

芦屋。予定変更です。深海幽霊船で、2泊する。じっくりみたいとの要望です。

奈良。艦隊長が。

芦屋。ええ。自ら詳しく視察する。

奈良。何て勇敢な。

芦屋。さすがA国軍。肝が据わっている。それと、装備を返してくれました。これ、部長の分。

奈良。ありがとう。

黒田。取り上げられていたのか。

奈良。こちらの職業は、重々承知です。怪しいものは、取り上げる。

黒田。だが今は、作戦優先。

奈良。そのとおり。

 (出発だ。強風の中、シリーズBを引きずり出す。小浜機だ。私とB中尉と2人の兵士が乗る。エスと四郎が副操縦席にいる。風をうまく捉えて、発進。
 いくら何でも、空中で揺れる。それでも、普通にケーソンに到達。高度を下げて行くと、ほとんど風は無くなった。普通に着陸。志摩に連絡して、緊急脱出装置を浮上させる。兵士がタラップを架ける。志摩が、アンに導かれて出てきた。)

志摩。お役目ご苦労さんです。

B中尉。君が志摩くんか。はじめまして。

志摩。はじめまして。どうしますか。

B中尉。奈良少佐と志摩くんは、潜水艦(緊急脱出装置)に入っててくれ。私がここを取り仕切る。

志摩。よろしく。

 (私と志摩は、アンに導かれて、潜水艦内に入る。セイがいた。)

セイ。奈良部長、久しぶりです。

奈良。元気そうだな。

セイ。もちろん。

 (2機のシリーズBが往復して、次々に人員がこちらに来た。ついでに物資も。兵士は引き揚げ、こちらは深海に向けて、出発。)

艦隊長。快適だ。大型潜水艦みたいだ。

芦屋。計測用途です。科学者などが乗る。

艦隊長。民間人向けだ。

 (水深600mまではあっと言う間。慎重にドッキングして、ハッチを開ける。緊急脱出装置は、幽霊船の端に付いているので、居住区までは、20程度のユニットを通過しないといけない。途中の施設を見ながら、歩いて行く。)

艦隊長。要するに、トレーラーだな。

B中尉。その通りです。本来は、原油タンクを置いて、海賊に見つからないように輸送するためのもの。

艦隊長。深海の列車だ。日本の技術か。

B中尉。そうです。しかし、我が国でも、すぐに作れるはず。

 (貨物室をいくつか抜けると、原子力ユニットだ。A国軍の技術者が、詳しく検分している。)

艦隊長。うまくできているようだ。

技術3。民需用。安全第一だ。性能は良くない。

艦隊長。空調も利いて、快適だぞ。

技術3。もちろん、原子力ですから、電力は充分。必要最小量だ。

 (その次は、植物工場だ。今回の航海のために、整備したばかり。だから、きれいに見える。田んぼは面白くて、1ユニットが4人を養える計算。)

艦隊長。おほほー、このユニット一つで、4人が生涯暮らせる。

技術3。エネルギー換算で。原子炉が稼働し続けるのが前提ですけど。

技術2。炭素循環はどうするんだろう。

芦屋。本船を作った会社の技術者を呼びます。

 (すぐに来た。)

技術J。ある程度は回収していますけど、全部は無理。外に排出しているから、いずれは無くなる。酸素と水と塩など以外は、蓄えを切り崩している。

技術2。この深さじゃ、魚なんか捕れないよなあ。

技術J。マリンスノーの回収装置を付けてみましたけど、まだ実用には程遠い。

技術3。軍事用じゃないんだから、時々海面近くまで来て、漁をすればいい。

技術J。なるほど。提案してみます。

艦隊長。動物も飼えそうだ。ウシとか。

奈良。実現したい提案です。

技術J。牛舎か。魚の水槽の案は出ていました。

奈良。日本人なら、魚で十分かも。新鮮なヒラメとか。

艦隊長。シーフードなら、すぐに実現できそうだ。

 (宿泊施設を通過したら、アミューズメントセンターに出た。その次が台所と食堂、やっと集会室。ほぼ全員集まっている。)

海原。お待ち申していました。こんなところまでようこそ。私は、日本国立サイボーグ研究所の海原四方。

艦隊長。艦隊長の、C少将だ。日本の高名な博士にお会いできて光栄です。しばらく、お世話になります。

海原。畏れ多いこと。どうぞ、ゆっくりしてください。

艦隊長。お心遣いはありがたいが、最初に一通り見てみたいのだ。向こうに行って良いか。

海原。もちろん。ご案内します。

 (司令センター、機械室、機械や衣服などの工房があり、その次は、再び植物工場、原子炉、貨物室と続く。もう一方の、緊急脱出装置まで来た。ここで終わり。)

艦隊長。ふむ。緊急脱出装置は端に付けるんだな。

海原。途中でもいい。今回は短いから、両端に付けました。

艦隊長。いったい、何ユニットあるのだ。

海原。今回は、30ユニット。我々が所有しているのは150ユニットで、大半は空のコンテナとタンクのユニットです。

艦隊長。深海のタンカーだった。

海原。本来は全長3kmで、いかだ状に組むことができる。

艦隊長。仮に立体的に組めば、ずっと増やすことができる。

海原。理屈ではそうです。しかし、一直線にして、海峡を抜けるのがポイントですから、途中でほぐさないといけません。

艦隊長。すばらしい。どんな感じになるのか、見せてくれ。

 (司令センターに移動。モニターで、シミュレーションしてみる。)

艦隊長。たしか、大洋底まで到達できた。

海原。設計上は5000m。まだ3000mまでしか経験はありません。その深度で、3カ月ほど太平洋をさまよっていた。

艦隊長。だから深海幽霊船か。今回は浅い航海だな。

海原。今回は、地上との連絡のために、600mを維持している。

艦隊長。このあたりの海底の深さは。

B中尉。5000mほど。近くに海溝はありません。

艦隊長。海底に行ってみたい。

芦屋。単に体験するだけ。

艦隊長。それでいい。やれ。

 (技術者で、相談に入る。単に到達するだけなら、2時間ほどだ。見どころはない。単に行くだけ。海原博士が、海洋気研究者の2人に知らせたら、データを取りたいと。すぐに計画を立てるとのこと。海底に行ってみることにした。)

B中尉。すぐに出発します。

艦隊長。初めての最大深度だ。よい機会に巡り合えたものだ。

 (艦隊長や虎之介たちを司令室に残して、残りは集会室に移動。)

黒田。まったく、海の荒くれ者だ。経験もないのに、前人未到の深度に突っ込む。

奈良。特殊な調査艇しか行けない深度です。いかにもA国的な決断。

黒田。部長、落ち着いているな。

奈良。自動人形が、ちっとも慌てていない。安全ということです。

黒田。信頼しきっている。

奈良。素人の人間より、よほどまし。

 (黒田氏、あきれている。しかし、すぐに不安になってきたらしい。リリにアミューズメントセンターに誘うよう指示。すなおな黒田氏、とっとこ行ってしまった。サイボーグ研の2人の研究者が追いかける。)

土本。私も恐い。真っ暗な海の底。

奈良。そうだな。その下は、地獄しかない。

土本。部長、おちょくって。

奈良。研究者は、面白がっているようだ。

土本。そうだった。怖がっている場合ではない。精一杯記録するんだ。

 (土本は、2人の研究者と打ち合わせを開始した。めったにない機会。綿密に計画を立てる。)

バロン。潜航を開始したようだ。2時間以内に、底に着く。

奈良。危険を感じるか。

バロン。感じない。この船は、悠々とその深度に耐える。

 (私は集会室にあるモニタの前に坐る。急にこちらが潜り出したので、B国とC国の潜水艦が慌てて深度を下げる。でも、どちらも普通の潜水艦だ、1000mを超えたところで、追いかけるのをあきらめてしまった。こちらは、どんどん沈んで行く。
 事故でないのを確かめるため、アクティブソナーを使い始めた。いわゆる、ピン音が聞こえる。反射を調べるためらしい、A国の潜水艦も音を発信している。
 土本と海洋研究者は、志摩といっしょに緊急脱出装置に行き、シリーズH(小型魚雷型、測定器兼中継器)とシリーズG(大型魚雷型観測装置)を使って、海水の温度や流れや塩分を調査している。幽霊船周りの調査だけだ。だから、他の潜水艦からは、シリーズGなどは探知されなかったようだ。
 幽霊船は、どんどん深度を下げて行く。反射音響がどんどん弱くなるので、海域に近づこうとして、潜水艦同士が次第に接近してきた。鞘当てが始まったようだ。)

土本。静かになったね。

志摩。潜水艦からの追跡をあきらめたらしい。

土本。無人の探査装置はないの?。

志摩。あるだろうけど、今は平時。敵方に、手の内を知られることをしたくは無いだろう。

土本。じゃあ、この船は、深海に消えていったように見える。

志摩。そう。巨大な構造物が、全く見えなくなる。反射を見たかったら、真上に位置しないといけないけど、A国軍がいる。

土本。艦隊長が乗っているから、近づかせない。

志摩。うん。こちらなんかそっちのけで、心理戦をやっているみたいだ。

 (ただでさえ、おっかない連中。それが集まるとなると、一触即発だ。)

第47話。小説家、黒田茂。5. 艦隊長の参加

2011-09-26 | Weblog
 (すでにA国軍とID社の技術者同士では意見交換されていたらしく、武官からの質問によどみなく詳しく答える。これはいけると思ったらしい、後ろで聞いていたお偉いさんのような人が発言。)

C少将。私も行く。

B中尉。冗談。危険です。

C少将。危険なもんか。技術が太鼓判を押している。失敗するつもりは無いだろう。

B中尉。もちろん。しかし、万一のことがあった場合…。

 (何と、知らせを受けた艦長までが来て、話し合っている。)

奈良。あの人、偉い人のようだ。

ジーン。偉いも何も、艦隊長ですよ。

奈良。艦隊って、この空母を含む戦艦20隻ほどのことか。

ジーン。潜水艦も含む。

奈良。局地戦の元帥みたいなものだ。

ジーン。一国を相手にできる。大規模作戦を指揮する人です。

 (ふつう、こういうのは中尉クラスに任せて、手柄だけ自分のものにしそうなところ、さすがA国軍。戦術を変えてしまう可能性のある本計画を、ぜひとも自分で確かめてみたい、ということのようだ。艦長は熱意に負けてしまい、とばっちりは、こちらに来た。ジーンが何やら、艦長から説明を受けている。こちらに来た。)

ジーン。奈良さんと、タイガー(芦屋虎之介の愛称)に、艦隊長の指揮下に入って欲しいそうです。

奈良。ええと、それって、私がA国海軍の臨時隊員になる。

芦屋。もちろんですよ。

ジーン。奈良さんは、Y国軍の獣医。地位的には、少佐に当たる。

奈良。だから、普通の兵科ではないって。

 (手遅れだった。会議室にいる面々の、私に対する目の色が変わっている。たしかに、軍の地位的には、かなりのものだ。)

C少将。奈良獣医少佐、よろしくたのむぞ。受けてくれ。

奈良。はいっ。

 (勢いに負けてしまった。この状況で逆らえるわけないけど、責任重大。突然入ってきた上官の言うことなど、兵卒が聞くわけないので、艦長は、さっきのB中尉に私の意に沿うように指示。さっそく、虎之介がB中尉と話し合っている。東京で、複数の小隊相当を指揮していること、指揮は正確であることを説明したらしい。B中尉、真面目なやつで、私にいちいち報告するようになった。部下を紹介してくれた。虎之介とB中尉がにらみを利かせているせいか、普通に上官と認めてくれたようだ。でも、私の役目は、自動人形を操ることだけ。要はB中尉の使い魔のようなものだ。ちなみに、虎之介はY国軍では少尉。
 深海幽霊船にて。)

志摩。奈良部長が、上にいる空母艦隊の艦隊長の指揮下に入った。

鈴鹿。臨時のA国軍の隊員。

志摩。そのとおり。4日間だけ。

海原。奈良部長の地位は高いのか。

鈴鹿。獣医部の少佐よ。結構な地位。単に人手が足りないからだけど。

海原。3小隊を率いているぞい。

鈴鹿。A31部隊に、第一機動部隊に、サンダーストーム部隊。たしかに少佐の仕事。

土本。軍事作戦なの?。

海原。途方もない金が動いているからの。理由付けが必要じゃ。

土本。A国の税金。

海原。こちらも少々。

土本。私たちがいるからか。やれやれ。

海原。おとなしく計画が終われば、何の問題もない。

土本。必死でやるか。

海原。その通りじゃ。何としてでも、成功させるのじゃ。

 (ともかく、扱いは一変した。いまや、私は客ではなく、当事者だ。必要なら、A国海軍の機材や資金を動かしていいわけだ。慌てて、情報集めをする。虎之介は慌てもせず、さっさか要所要所に聞きまくっている。確認しているだけのようだ。A大尉がびっくりしている。)

A大尉。タイガー、何者ですか?。

奈良。彼は、今はID社の社員だが、Y国軍時代にはトップクラス。今も、必要に応じて連絡している。

A大尉。Y国は、国連に加盟している。国連軍経由で、情報が行ってるんだ。

奈良。それしかないはずです。

 (虎之介、味方の装備を確認したら、今度はB国軍とC国軍の動きについて、しゃべり出した。A大尉が、慌てて関係者を会議室に集める。まさか虎之介を作戦指令室に入れるわけにも行かず、構内電話で話しながら、模造紙に状況を書いて行く。)

B中尉。それが深海幽霊船から分かるのか。

芦屋。ええ。騒がしいので、下のクルーが分析しました。

B中尉。誰だ。

芦屋。志摩弘。私の同期。分析は、ID社の計測器でしました。

B中尉。民間の会社の計測器だ。

芦屋。抜けがあるかもしれません。

B中尉。確かめてみる。…、こちらがつかんでいる情報と大差無いらしい。

A大尉。あきれた。こちらの動きも丸裸だ。

B中尉。事故を考えているのか。

芦屋。深海幽霊船には、普通に民間人が乗っている。外部とはいつでも交信できる。艦隊長がいると分かったら、挑発を受ける可能性あり。

B中尉。ふん、跳ね返すまでだ。

A大尉。通信って、どうやってる。

 (面倒なので、A国ID社の技術者を呼んで、説明させる。)

A大尉。つまり、元の深海幽霊船には、深海からの通信手段は無い。ID社の追加部分にあるんだ。事故に備えて、中継器を用意してくれないか。

ID社の技術者。シリーズBが中継点になります。回線を確立しておきます。

 (何とか、話はついた。休まないと身が持たない。私と黒田氏は相部屋。リリと四郎とエスがいる。)

黒田。眠れそうにない。

奈良。眠れなくても、身体を休めればいいでしょう。

黒田。そうする。それにしても、話が大げさになった。

奈良。説明不足でしたか。宇宙へ行くのと、そう変わりはないです。深海は、周到に準備しないと、とても行けない。

黒田。だから、彼らは張り切っているんだ。

奈良。ええ。真剣だし、勇敢。初めてづくしなのに、まったく物おじしない。

黒田。あなたの部下に、驚いていた。

奈良。虎之介ですか?。微妙な関係。本部の社員だから、形式的には別会社。

黒田。そうじゃなくて、慣れている感じ。

奈良。ええ、頼りになる男です。

黒田。軍事のエキスパートだ。なぜ、東京にいる。

奈良。我々の仕事に役だてるため。

黒田。最低一人は、攻撃のパターンを知り尽くした人物が必要。

奈良。そんな感じです。

黒田。あなたも。

奈良。知識はある。ご心配無く、リリたちが守ってくれます。

黒田。命懸けだ。

リリ。先生、何か楽しいことを思い出して。とりあえず、今は危険はありません。その時は、お知らせしますので、ゆっくりなさってください。

黒田。彼らは、その時には命懸けだ。

リリ。ええ。この空母は、そのための兵器。でも今は、戦いじゃない。研究のための航海です。

黒田。いい娘だな。頼もしそうに見える。不思議な表情だ。救護ロボット。私の心を見透かすような。

 (無論、その日は何も起こらない。黒田氏は、何とか眠ったようだ。)

第47話。小説家、黒田茂。4. 南極海へ出発

2011-09-25 | Weblog
 (出発の日。黒田氏は、タクシーでトカマク基地に来た。奥さんと、2人の子供を連れて。シリーズBは2機とも滑走路に出ている。子供は、六郎を見つけて、遊んでいる。面白いらしい。
 陣容の紹介。千葉機には、私(奈良)とリリとエスと四郎、ジーンとジョーが乗る。小浜機には、黒田氏と虎之介、レイとバロンが乗る。)

小浜。よろしいですか。発進します。

 (小浜機が先に発進。千葉機が後から付いて行く。長旅だ。
 予定では、途中、フィリピン、インドネシア、オーストラリアで給油して、南極海を航行中のA国海軍の原子力空母に到達する。そこには、A国ID社のスタッフがいるので、簡単な整備後、A国海軍のスタッフといっしょに、深海幽霊船に行く。1泊して、自動人形が交代。逆のコースを日本に帰る。)

黒田。このジェット機もID社製なのか。

芦屋。そうです。計測用。この客席は、科学者が乗るのを想定している。

黒田。だから、快適なんだ。小さな飛行機より、よほどいい。

 (シリーズBは成層圏を飛行するが、航続距離はごく普通のジェット機。なので、該当国のID社に着陸して、燃料補給しながらの旅行だ。)

ジーン。快適。千葉さん、航空母艦に着艦した経験はあるんですか?。

千葉。そんなもの、ない。初めてだ。シミュレータで、訓練しただけ。本物は小さく見えるらしい。

ジーン。普通のジェット機だと、とても恐いそうです。

千葉。そうだろうな。ま、こいつはロボット飛行機だから、いざとなれば任せられる。天気は悪いらしい。よほど慣れていないと、着陸できないそうだ。

ジーン。技術者の乗ったA国ID社のシリーズBはすでに到着しているらしい。

千葉。ああ。よくやる。そのデータが生かせるから、こちらは楽だ。

 (さすがのA国海軍でも、空母にシリーズBを受け入れるのは初めてだったらしい。万一のことがあるといけないので、離発着訓練は念入りにやったそうだ。)

黒田。深海との行き来はどうするのだ。

芦屋。深海幽霊船には、我が社が製造した緊急脱出装置が2基付いている。普通の感覚で言えば、潜水艦そのもの。

黒田。それはいいが、南極海は常に荒れているという。

芦屋。特殊なケーソンを使います。その原子力空母が曳航している。緊急脱出装置は、ケーソン内に浮上する。シリーズBは、ケーソン内のプラットフォームに着陸する。すべてが軍事機密のかたまり。よく開示する。

黒田。よほど重要な作戦なんだ。

芦屋。先方は、ID社の探知技術は、よく知っているはず。シリーズBの能力と、深海幽霊船の技術を入手するのと引き換えに、軍事機密を我が社に開示した。

黒田。多国籍企業が途方もないとは聞いていたが、その通りだ。

芦屋。小国の政府と同等の扱いです。

黒田。奈良部長が、その代表か。

芦屋。奈良部長は嫌がっていたみたいですけど、いくらなんでも部長級でないと、釣り合いが取れないということで、来てもらいました。

黒田。いい部長だな。

芦屋。ええ。得難い部長です。たいした度胸。任務中の巨大兵器に、よく乗り込む。味方でも何でもない。

黒田。そこに向かっているんだ。

 (オーストラリアを離れる。海が次第に荒れてきた。どこまで行っても、荒れた海。南極大陸は、はるか閉ざされた大陸だ。)

小浜。空母は計測装置が見つけたが、他の戦艦がいる。

芦屋。把握できている範囲で、A国軍の巡洋艦が2隻、潜水艦が3隻、B国軍の巡洋艦が2隻、潜水艦1隻、C国軍の潜水艦1隻。

小浜。豪華陣容だな。

芦屋。どれか1つだけで、こちらは完全に負け。あ、戦闘機が飛び立った。ヘリじゃ危ないからだな。

小浜。ヘリなんて、とんでもない。ものすごい風だ。戦闘機だって、神業。命知らずども。

芦屋。さらに1機。こちらを誘導するのかな。

小浜。攻撃してこないのなら、そうだ。

黒田。悪い冗談。

 (2機の戦闘機はものすごい速さで近づいてきて、1機が機体を揺らす。付いてこい、という意味だ。無線交信は可能。2機のシリーズBが付いて行く。
 打ち合わせ通り、小浜機から着陸。強い風が吹いているが、シリーズBは優秀。うまく着陸する。格納庫に向かう。千葉機、戦闘機が、その後から、順に着陸する。
 持ち物検査の後、艦内で、艦長が出迎えてくれた。本物の海軍大佐だ。緊張する。)

艦長。ようこそ、我が空母へ。はるばる1万キロの旅だ。

奈良。はじめまして、日本ID社、情報収集部の奈良治です。しばらくお世話になります。

艦長。緊張しなくて良い。案内を付けるから、気楽にやってくれたまえ。

 (と言われたところで、その案内は武装している。シリーズBは整備に入る。
 互いの自己紹介の後、施設を案内してくれる。全員でぞろぞろ付いて行く。見せてくれたのは、差し障りのない厚生施設などだ。地方の一都市の人口ほどが暮らしているわけだから、豪華。もちろん、撮影はだめ。
 文字通り大船だから、ほとんど揺れない。快適。)

黒田。こりゃ金掛けてるわ。

芦屋。攻撃に関係ないところだけでも、大変な贅沢。

ジーン。ふふん。いいでしょ。

 (自動人形は、こういった兵器には敏感だ。あっけに取られているふりして、解析している。でも、もともとA国軍出身なので、新味はないようだ。それほど緊張してはいない。
 食堂で軽食をいただき、会議室に行く。今日から4日間の予定のすり合わせだ。関係者が勢ぞろいなので、30人ほどいる。何と、軍時代の自動人形を知っている人がいた。気楽に話しかけてくる。)

技術1。すっかり自動人形の印象が変わっている。穏やかな感じになった。

奈良。もっと鋭い感じだったのですか?。

技術1。いや、もっと機械的と言っていいか。表情はあまり分からなかった。感情も何も通じない機械。しかし、今見ると、愛らしい感じがする。

技術2。形はあまり変わってない。動作がそう思わせているようだ。

技術1。そんな感じだな。ちょっとした動きが、人間らしい。そっちのジャッカルも、良くできている。

ジョー。やっと最初からジャッカルと言ってくれるやつに会えた。ジョーという。

技術1。ジョー、こんにちは。これがイヌってか?。似てなくもない程度だ。

技術2。うまく反応する。ヘビも愛敬がありそうだ。

エス。エスと言います。

技術2。エス。かわいく見える。こっちに来てくれるか。

エス。こうですか?。

 (膝に乗る。)

技術1。慣れている感じだ。よく調整した。重くないのか。

技術2。動物と同じ重さにID社が改良したんだ。おかげで、攻撃には弱くなった。

 (エスは四郎に巻き付いていたのだが、するするっと動いたので、飾りでないことがばれてしまった。注目の的。)

エス。注目されている。

技術2。そりゃそうだ。空母に来たニシキヘビなんて、初めてじゃないかな。

A大尉。おまえ、恐くないのか。

技術1。ただのロボットですよ。我が軍が開発した。

A大尉。動きが、本物そっくりだ。

技術1。これは、ID社の調整。もっとぎこちない動きだった。いまじゃ本物そっくり。でも、かわいいでしょ。

A大尉。おまえの気持ちは分からん。

技術1。大尉もだっこしてみたらいかがですか?。考えが変わりますよ。

A大尉。180度変わりそうだが、あとでいい。ええと、みんな注目してくれ。事前に聞いていると思うが、日本ID社からのお客を招いて、深海との人の行き来のミッションを取り行なう。B中尉、解説しろ。

 (淡々と解説する。ケーソンは、底のない船のような感じの巨大な浮き舟。長さは150mほどもあって、原潜を扱うことができそうだ。我々がいるから、それは言わない。この航空母艦が曳航している。
 荒れ狂う南極海。その波と風を和らげて、人員や物資をやり取りするためのもののようだ。内部の海面すれすれに、頑丈なプラットフォームがあって、ヘリが着陸するためのもののようだが、長さがあるので、シリーズBなら垂直離着陸でなくても発着できそうだ。
 明日朝、志摩が深海幽霊船の緊急脱出装置で浮上してくる。千葉機と小浜機を使って、人と自動人形と物資を持ち込む。行くのは、私(奈良)、虎之介、黒田さんと、今解説しているB中尉と技術者2名。自動人形は、リリ、エス、四郎、レイ、バロン。
 緊急脱出装置は、潜航し、幽霊船と合体、B中尉たちは深海幽霊船を視察し、一晩泊まる。
 翌朝、人間は全員戻る。自動人形は、アンとクロとレイとバロンが戻る。その夕方、我々の歓迎のパーティーがあるそうだ。そして、その翌朝、我々はシリーズBで日本に向かう。)

第47話。小説家、黒田茂。3. 深海への準備

2011-09-24 | Weblog
 (さて、空母の位置関係で、出発は3日後。黒田氏、冒険は初めてというので、虎之介に装備を用意させる。気楽そうな印象と違って、ごくまじめな人で、虎之介の訓練を素直に受けている。ID社の通信機も貸与。)

芦屋。出発前に、持って行くもののチェックをさせてください。

黒田。しかたがない。無理矢理行かせてくれと頼んだのは、こちらだ。よろしく頼む。

芦屋。リストをいただければ、持って行けないものを言います。

黒田。パソコンは持って行けるのかな。

芦屋。普通のは持ち込めません。

黒田。宇宙船並みだ。

芦屋。その通りです。適合品を用意します。

黒田。デジカメも、小型プレーヤーもだめか。

芦屋。デジカメは取材用ですか?。

黒田。その通りだ。

芦屋。こちらで貸し出し用のを用意します。すぐに届けさせます。小型プレーヤはいいですけど、現地に着いてからの使用になります。

黒田。いちいち聞くのも面倒だ。リストにする。

芦屋。お願いします。

黒田。君は、軍の訓練を受けているのか。そんな感じだが。

芦屋。受けています。Y国軍の。内陸国ですが、提携先の軍で海事の訓練も受けた。

黒田。飛行機も操縦できるのか。

芦屋。通り一遍で良ければ。

黒田。ID社、すさまじい会社だ。世界展開するからだな。

芦屋。ええ。時に役だってしまう。ご協力ありがとうございます。関係者は安心するでしょう。

黒田。大船に乗ったつもりで、行くぞ。

芦屋。危険を感じたら、自動人形の指示に従ってください。必ずあなたを守り通します。

黒田。了解した。相手が自然の脅威でも、どうなるか分かるんだ。

芦屋。その通りです。高度に訓練されている。並の人間の不確かな判断よりは、よほどあてになる。

黒田。納得できなかったら、尋ねてみる。

芦屋。そうしてください。判断の根拠を説明します。

 (黒田氏は、虎之介を連れて、アウトドア用品の店を回ったようだが、結局、ID社から購入したり、貸し出すものが多数を占めてしまった。
 虎之介に興味を持った黒田氏、私邸に虎之介を招く。詳しく話を聞くためのようだ。レイを付ける。タクシーで到着。都内の豪邸だ。)

芦屋。こんな屋敷が都心にあるとは。

黒田。借り物だ。いささか小金ができたのでな。

レイ。仮の住まい。

黒田。そうなるだろう。もっと環境の良いところで暮らしたいものだ。

黒田2。そちら様ですか?。お客さまは。

黒田。紹介する、妻の久美子だ。

芦屋。はじめまして。芦屋虎之介です。

レイ。こんばんは。レイです。

黒田2。あら、レイさんって、もしかして、あなたはテレビでよく見るロボットのレイ。

レイ。子供番組です。それしか出ていない。

黒田2。子供がよく見てますよ。へえー。実物を見ても、かわいい。

黒田。有名なロボットだったのか。

黒田2。人気者です。小さい子なら、よく知っている。体操のお兄さんのバックで踊るの。少年ロボットと、メカカメロボットといっしょに。

黒田。知らなかった。

黒田2。写真がありますよ。ささ、どうぞお入りください。

 (通されたのは、応接間だ。多量の本とCDと旅先で購入したような置物が飾ってある。ピアノとキーボードとステレオが備え付けられている。サッシの先は、小さな庭園だ。
 奥方がお茶を持ってきたのと同時に、子供が2人、飛び込んで来た。)

黒田4(妹)。レイだ。来てくれたんだ。

黒田3(兄)。本物なの?。

レイ。本物。救護ロボットよ。

黒田3。メカカメは。

レイ。六郎はトカマク基地にいる。連れてこなかった。見たかったの?。

黒田3。どんなメカなのか、見たかった。

レイ。そうか。スタジオには、もう来れない年か。

黒田3。うん。残念。トカマク基地に行ったら、見られるかな。

レイ。偶然に会う以外は、だめ。見学会でも、めったに見られない。でも、基地内をうろつくから、サイボーグ研の従業員はたびたび見ているはず。

黒田3。将来、サイボーグ研に勤めるよ。

黒田4。私も。毎日会いたい。

黒田。人気だな。

黒田2。そうよ。ほら、写真。

黒田。番組雑誌だな。スタジオの後方のステージで、踊っている。カメも。

黒田3。六郎ロックンロールのDVDもある。これだ。

黒田。へえーっ。語呂がいい。

黒田2。あんなに調べてらしたのに。

黒田。灯台もと暗しとは、このことだ。しかし、救護ロボットがカメ。

黒田3。水中用メカだ。足を引っ込めて、ひれを出して、とても速く泳ぐ。地上でも、車輪を出すと速い。障害物は、ロケットで一っ飛び。

黒田。ガメラみたいだ。

芦屋。たぶん、ヒントはそんなのでしょう。直径60cmのガメラ。飛行できるのは一瞬ですけど。

黒田3。ガメラって、何。

黒田。昔の怪獣映画だ。カメの怪獣。大きくて、強い。

黒田3。ふーん。

レイ。六郎は、現場にいち早く駆けつけて、状況判断し、場合によっては、緊急処置をする。危険を排除し、人を安全な場所に誘導する。

黒田。大変なロボット。君もだ。

レイ。私たちの仕事。

黒田。これじゃ、高級になるわけだ。

黒田2。本当に南極海に行くの?。

黒田。深海には1日いるだけ。ロボットの交代に付き合うのだ。それだけでも、大層な旅だ。

黒田2。よく連れていってくださること。旅費とか、どうなるのかしら。

芦屋。今回はお客様です。こちらの訓練にもなる。ふつうは、いくらお金を積まれても、お連れしません。偶然が重なっただけです。

黒田2。じゃあ、仕事絡み。

黒田。その通りだ。

黒田2。また、何度目かの大作の構想。

黒田。何としても、成功させたい。

黒田2。あなたは、短編がうまいのよ。お芝居見ている感じで、面白い。

黒田。ああ。だが、あれはあくまで、生活のために書いているだけだ。

黒田2。オペラ作家が交響曲作家をうらやましがるようなものよ。あこがれはあこがれで、ほどほどに。ファンを裏切らないで。

黒田。分かっている。だから、書いているじゃないか。

芦屋。それで、いろいろ旅行を。

黒田。分かるか。暇を見つけては、いろいろ行ったな。

黒田2。ええ、夢のようだった。

芦屋。それで、小説の中の人物に旅行させている。

黒田2。できれば、本物でして欲しいけど。

黒田。この子たちが独立したらだ。また、旅行できる。

 (レイはうまく子供と付き合っている。というか、子供の方がコツをつかんで、いろいろと反応を試している感じ。さすが、現代っ子だ。)

黒田。子供はあっと言う間にロボットを使いこなす。

芦屋。ほとんど抵抗が無いみたいだ。

黒田4。パパ、レイが欲しい。高いの?。

黒田。ものすごく高い。とても買えない。

黒田4。いくら。

芦屋。20億円。毎年、5億円の維持費が必要。耐用年数は、20年と推定されている。まだ、廃品になった機体はない。

黒田4。20億円。

芦屋。5年後には、ずっと安くなる。30年先には、高級車程度に普及していると推定する人がいる。

黒田2。あなたが大人になったら、普通に会えるわよ。

黒田4。それまで、我慢する。

黒田。そうしてくれ。楽しみだな。

黒田4。うん。

 (しばらく黒田氏は虎之介と話し込んだ。夜遅く、虎之介とレイはタクシーでトカマク基地に帰った。)

第47話。小説家、黒田茂。2. 自動人形、集合

2011-09-23 | Weblog
 (リリ、エス、四郎、タロ、ジロが集まる。)

リリ。用件は何?。

奈良。こちらの小説家の先生に紹介する。

リリ。私たちに興味がある。

黒田(小説家)。そのとおりだ。何のために作られたのか、どう役だっているのか、将来どうなるのかが知りたい。

リリ。知ってどうするのよ。

黒田。世の中に紹介する。私の文章の中で。

リリ。創作なんでしょ?。

黒田。なんだ、この反応は。意識があるのか?。

奈良。多分、サービスプログラムです。リリ、そういぶかるでない。なぜ、警戒する。

リリ。中立よ。敵にも味方にもなりうる。付いてくるなら、協力してくれないと。マイペースするなら、お断り。

黒田。元気な嬢ちゃんだ。

リリ。名前はリリ。

黒田。失礼、リリ。私の名は黒田茂(くろだ しげる)。小説家。手軽に読める恋愛物などが多い。あとはエッセーと。

リリ。人間同士の感情の機微を書く。

黒田。分かっているのか?。

リリ。分からないけど、そうなんでしょ?。

黒田。なんという高度な反応。会話になってる。

奈良。ずいぶん念入りにプログラムされたようだ。私と出会った頃は、もっと単純な反応だった。だから、分かりやすかった。今みたいに、なんとかごまかすことはできず、とんちんかんな答えが返ってくる。

黒田。だろうな。

 (自動人形を紹介して行く。)

黒田。そうか。クロとアンは研究旅行中。

奈良。ええ。あの2機は分かりやすい。

田沼。どうなさいます?。あと1ヶ月もしたら帰ってきます。

黒田。君からみて、どうだ。クロとアンも、エスとリリみたいに奈良部長に懐いているのか。

田沼。そりゃもう。だから、みんな恐れているんですよ。

黒田。部長を。

田沼。もちろん。奈良部長と、この5機で、特殊な小隊相当の強さらしい。

黒田。しかし、戦場では役立たずだったと聞く。

田沼。救護ロボットですから。死傷者を最小限にしようとする。攻撃をかわすんです。巧妙に。

黒田。ややこしくなってきた。この機械に意志はないはずだ。

田沼。そうです。でも、人間を誘導してしまう。

黒田。何かあるな。

田沼。だから、ID社内部でも解析している。トカマク基地に、その担当がいます。

黒田。平和の使者。

田沼。だったらいいんですけど、最終兵器の一つという評価もある。

黒田。敵味方の兵器がことごとく無効になる。

田沼。恐ろしいことです。戦争の性格が一変してしまう。

奈良。そんなにたくさんいない。世界に100機では、何も起こらない。

田沼。ID社は、あと3年で、200機体勢にする。それで、何かが起こるのを防ぐと言われている。

黒田。何かが起こるんじゃないんだな。

田沼。作らなければ、起こる。それが、阻止される。

黒田。ますます興味が湧いてきた。このロボットたちが、我々の未来の運命を左右するのだ。

奈良。単に、人間の能力を増幅するだけです。それだけ。

田沼。奈良部長は科学者です。ご存じでしょ?。

黒田。調べさせてもらった。獣医。動物行動学ではそれなりに知られた学者。

田沼。科学で歴史は解明できない。

黒田。我々の出番か。目撃者だ。

リリ。てなこといいつつ、本当はアンの素敵な姿が見たかったとか。

黒田。ぎくぎくぎくっ。こ、このアンドロイド。

リリ。世の男性が見ると、ぞくぞくって来るらしい。

黒田。君もだ。

リリ。かわいいとは言われることがあるけど、アンみたいに殿方の顔の筋肉が緩むことは無い。

黒田。だって、君は元気はつらつの女の子だ。

アン(テレビ会議)。私のこと、呼んだ?。

黒田。でたーーー!。

 (スクリーンにどアップで映っている。)

海原。どかんか、アン。定時報告の時間じゃ。ん、客人か。

奈良。海原博士。おはようございます。

海原。おはよう、奈良部長。朝食を摂ったばかりじゃ。快適じゃぞ、こちらは。

アン。毎日同じ。

海原。なことは無い。たっぷり楽しんでおる。

奈良。深海で、志摩と鈴鹿が漫才とか。

海原。ほかいろいろ。

黒田。何が起こった。

 (たがいに紹介。)

黒田。そちらは南極海の深度600m。

海原。そうじゃ。黒田茂先生。はじめてお目にかかる。私は海原四方じゃ。

黒田。知っております。国立サイボーグ研究所の所長。ロボット工学の権威。

海原。小説は楽しみにしておりますぞ。いささか、ちょこまかした話じゃが。

黒田。そのちょこまかがいいんですよ。

海原。深刻な方の小説のネタ取りじゃな。

黒田。その通りです。

奈良。あの…、何かのお知り合いで。

海原。知らん。

黒田。こちらも、ご活動しか知りません。

イチ。小説って、ぼくたちがでてくるの?。

アン。私も。

クロ(会話装置)。私もだ。

セイ。私も出たい。

黒田。にぎやかだ。

海原。そうじゃろ。地上最強のロボットどもじゃ。

黒田。聞きしに勝る面白ロボットだ。

アン。私が。

海原。わかっとるの。

黒田。博士もロボットをだっこしている。

海原。うん、こいつか。孫のようでかわいいじゃろ。

 (イチと肩を組んでいる。)

リリ。私も、そっちに行きたい。

海原。奈良部長、交換できないかな。

奈良。リリとアンを。

海原。リリにはいろんな経験をさせたいじゃろ。

奈良。機会はあまりないか。よろしいでしょう。そちらのアンとクロを、こちらのリリ、エス、四郎と交代させましょう。

黒田。どうやって。

奈良。A国海軍の原子力空母が接近している。南極海の深海と人をやり取りする訓練。

黒田。何て陣容だ。

田沼。面白いでしょう?。荒れ狂う南極海。そこに到達できる航空機。深海との安全な行き来。

黒田。南極海に行ってみたい。

奈良。シリーズBで。できるかどうか、聞いてみます。

 (すぐにOKが出た。ID社、日本政府、A国政府から。当初計画では、シリーズBの1機だったのだが、2機目を用意することに。千葉さんと小浜さんが操縦。日本にある、B国仕様の2機を使う。)

第47話。小説家、黒田茂。1. プロローグ

2011-09-22 | Weblog
 (情報収集部が結成されて、3年と少し。知名度が上がったためか、直接オフィスに来て相談する人がちらほら。たいていは、技術か総務に案内するだけなのだが、中には自動人形の衣裳が気にくわないとか、妙な話もある。伊勢ならとっとと追い返すのだが、私は獣医のせいか、話を聞いてしまうのだ。だから、今日も20分ほど来客に応対している。小説家らしい。名前はしばらくして思い出す程度だったが、有名な一般週刊誌に連載しているほどの人のようだ。男性で40才くらい。)

ジロ。お茶です。どうぞ。

奈良。ああ、すまない。ありがとう。

小説家。ありがとう。じゃあ、自動人形には自由意志は無い。

奈良。ええ。かわいそうですけど、意識そのものが無い。周囲に反応しているだけ。

小説家。でも、あなた、さっきありがとうと言った。

奈良。ていねいに扱っているだけです。それじゃ納得できませんか?。

小説家。ロボットが喜んでいるように見えた。

奈良。感情のようなものはあります。たんなる数値データですけど、それによって行動が微妙に変わるから、感情に見える。人間側が、投影しているだけです。

小説家。ふうむ。

奈良。何か学術発表なさるとか。

小説家。いいや。何に役だつのかと思って。

奈良。ご購入ですか。

小説家。価格は知っている。とても買えない。

奈良。用途を言っていただければ、代用品を考えます。

小説家。いや、自動人形を使ってみたいのだ。しかし、貸し出しでもとてつもない金額。

奈良。各部が傷みやすいし、特注部品なので、どうしても高価になってしまう。あの値段でも、ほぼ実費です。

小説家。そばにいて、動作を確かめられないかな。人間とのやり取りも。

奈良。記録なら、いっぱいあります。インターネットで確かめられる。

小説家。テレビ局のドキュメンタリーも取り寄せて見た。何とか、肌身で感じたいのだ。

 (で、間の悪いことに、田沼が入ってきた。)

田沼。おはようございます。お客様ですか?。端末、使えるかな。

奈良。使いなさい。こちらが使うときには、声をかける。

田沼。じゃあ、遠慮なく。

小説家。学生…かな?。

田沼。そうです。某巨大私立大学、経営学科の2年生。名前は田沼善行。端末を使うために、しばしばここに来ています。

小説家。じゃあ、自動人形といっしょにいることもある。

田沼。めったに無いですけど、そうなってしまうことはあります。

小説家。どういうことだ。

 (田沼は経緯を説明する。小説家は自己紹介。)

田沼。へえ。あの有名な黒田先生。お会いできて光栄です。先生の文章はいつも楽しみに読んでいます。

小説家。それはありがたい。では、自動人形が一般人に付くこともある。

奈良。ええ。あと、サイボーグ研と、猫山スタジオと。

小説家。何か、そちらの仕事関連で絡めばいいんだ。

奈良。よした方がいい。

田沼。この方の職業はご存じ。

小説家。調べた。企業や政府からの発表資料を集めて、解析してデータベースにする。企業戦略に役だてるため。情報を他社や個人に売ることもある。しかし、それはあくまで表向き。本当は、疑義のある企業や団体に接近して、調査する。本来は警察等に知らせるだけだが、手を出してしまうこともある。

田沼。蛇の道はヘビ。

小説家。微妙に表現がずれているが、そんなところだ。いろんな関係者にインタビューした。

田沼。ご熱心です。でしたら、話が早い。命懸けになることがありうる。

小説家。あなたは、なぜ付いて行く。

田沼。命懸けです。

小説家。じゃあ、私と同じだ。

奈良。取材…、ですか?。たいてい断っている。

小説家。そこを何とか。ドキュメンタリーを書くわけではない。あくまで、私の創作に生かすだけだ。

奈良。はあ。

田沼。一度くらい、いいじゃないですか。こんな申し込み、そうそうあるわけで無し。

奈良。たいていは物見遊山と分かるから、直ちに断っている。

田沼。今まで話していたということは、部長も何か感じていたんでしょう?。

奈良。うまく言う。熱意は分かった。だが、好意的でも何でもなさそうだ。

小説家。良いように書くと約束はできません。

田沼。普通ですよ。断って、想像で書かれるよりは、いいんじゃないですか。

奈良。とんでもない複雑な装置だ。私でも、すべて理解しているわけではない。

田沼。先生は知ったかぶりするタイプではない。

小説家。どうやったって、私見は入る。

田沼。でないと、先生の文章じゃない。科学論文じゃないですよ。

奈良。まいった。ともかく、今いる自動人形を呼んでみます。

第46話。サンダーストーム・ビークル。19. 侵入

2011-09-21 | Weblog
 (しかし、向こうの方が動きが早かった。リリが、武装した10人ほどが、2台の小型トラックに乗り、採石場を出発したのを確認。)

少佐。きさまら、私を嵌めたな。思いつきなら、ここが最適だ。その地点を選ばせた。

清水。逃げます?。

少佐。対抗できるのか。おそらく2班でこちらを挟み撃ちにする気だ。

奈良。山を越えよう。虎之介、できるか。

芦屋。できます。ジーンさん、先に逃げてください。

ジーン。私が囮りになったげるわよ。あんたたち、先に行きなさい。

少佐。思いつきだな。

芦屋。その通りです。こちらは出発。

 (モグとリュウグウは、細い道を器用に抜けて行く。前照灯は点けていない。暗闇の中だ。)

少佐。何てクルマだ。高度なロボットカーだ。

モグ。その通りだ。軍用ではないがな。

少佐。しゃべった。そうだった。こいつはたしか、自動人形相当だった。

奈良。自動人形の端末です。メイ、採石場の小屋の中はどんなだ。

メイ(通信機)。留守番が一人いるだけ。通信施設もここにある。

芦屋。陽動作戦だ。リュウ、侵入したか。

リュウ。侵入した。武器がある。

芦屋。爆破できるものはあるか。

リュウ。時限爆弾がある。

芦屋。通信施設に仕掛けろ。15分後に爆発させろ。

少佐。無茶苦茶だ。

 (音響調査は着々と進んでいる。トンネルは大きなのが3本あって、採石場から平行に延びている。さらに、太いトンネルを結ぶ細いトンネルと、脱出用の2本のトンネルがある。森の中の出口をリリが確認。
 モグとリュウグウは、低い尾根を越え、小さな川を渡り、小屋からは直接見えない位置に駐車。虎之介と、私が出発。タロとジロとエスが付いてくる。少佐まで付いてきた。)

少佐。爆発を合図に侵入するのか。

芦屋。そのとおり。

 (武装した集団のトラックはジーンのカワセミ号のいる地点の手前に到達。少佐の予想通り、2班が展開して、左右から取り囲むように進んで来る。トラックには機銃が備え付けられていて、じわじわ接近してくる。
 カワセミ号は前方を照明している。だから、クルマと勘違いしているようだ。怪しまずに近づいてくる。
 15分経った。小屋の屋上の通信設備が、大音響と共に爆発。当直は慌てて、小屋から逃げだし、トンネルに向かう。立てこもるつもりのようだ。)

少佐。追いかけろ。

 (当然、全員で追いかける。
 一方のジーンの地点。)

班長31。何か爆発した。

隊員33。小屋の方角だ。

 (ジーンのカワセミ号が発進。蒸気ロケットだ、ものすごい光と大音響。そして、採石場に向かう。)

班長32。だまされた。垂直発進できる航空機だった。

班長31(通信機)。直ちに、採石場に戻るんだ。

 (採石場。当直はトンネルの一つのドアを開ける。少佐は慣れているようだ。すっと近づき、軍用銃を突きつける。)

少佐。ご苦労。いっしょに中に入ろう。

当直。殺さないでくれ。降伏する。

少佐。案内してもらおう。

 (ジーンも来た。中は倉庫だった。兵器が並んでいる。)

奈良。軍に連絡した。すぐに来るそうだ。

少佐。見回る時間はあるか。

芦屋。あります。脱出は、奥の脱出口から。

 (脱出口には、モグとリュウグウに先回りさせる。ジーンの乗ってきたカワセミ号は、リュウに操縦させて離脱。
 私たちは、さっさとトンネル内を視察。兵器庫だ。まばらに見えるが、全部集めると結構な量。
 時間だ。脱出口から脱出。当直は投降するというので、いっしょに連れて行く。モグ内で、少佐とジーンが話を聞いている。観念したらしく、お茶を飲みながら、普通にしゃべっている。)

レイ(通信機)。ヘリが3機近づいている。我が軍のヘリです。

リリ。軍の車両が近づいている。小隊の規模。

奈良。ご苦労。離脱し、こちらに帰還しろ。

リリ。了解。そちらに向かいます。

少佐。やったな。作戦成功だ。

奈良。その男はどうです?。

少佐。どうしようもない下っ端のようだ。ほとんど何も情報を持ってない。

 (トカマク基地に戻る。少佐は、その後の展開を私に聞いてきたが、何も知らないと答えるだけだった。その通りなのだから、しかたがない。少佐は、最初はいぶかっていたが、本国に照会して、こちらの仕事を了解したらしい。すぐに私には尋ねなくなった。
 G国調査団は、予定通り日本観光をして、帰った。その後、少佐から礼状が来た。機会があれば、遊びに来いと。満足したらしい。)

 第46話。終了。

第46話。サンダーストーム・ビークル。18. フロッピーの地名集

2011-09-20 | Weblog
 (ID社東京、情報収集部のオフィス。
 調べ物のために通っている田沼は、とっくに帰ったみたいだ。私は、すでに南極海に到達している深海幽霊船との回線をチェックしたり、メールを見たりする。タロとジロは、社内の探索に行ってしまい、エスと四郎が残っている。)

エス。寂しくなりました。

奈良。部自体は大きくなっている。志摩たちも、伊勢も独立して活動している。虎之介も亜有もいる。うれしいことだ。

エス。でも、ここには秘書の一人もいない。

奈良。必要な業務は総務がやってくれている。特に専属の秘書は必要ない。

エス。私が、その代わり。

奈良。現時点では。

 (虎之介から連絡あり。スクリーンを出してテレビ会議。)

芦屋。奈良部長、こんな時間に申し訳ありません。

奈良。用件を言ってくれ。

芦屋。G国調査団の大学関係者が持ち込んだフロッピーに、妙な情報が入っていたのです。

奈良。フロッピーって、フロッピーディスクのことか。

芦屋。3.5インチ型の。昔、ゲームのプロテクトで使われたような技法を使っている。

奈良。そんなもの、よく分かった。

芦屋。当社のパソコンを使ったからですよ。警告がでた。その大学関係者が気味悪がって、調査依頼してきた。

奈良。解析できたのか。

芦屋。10ほどの地名が書いてあって、すべての大陸に渡る。すべての地点がIFFの軽い疑義対象になっている。その一つが、日本のもの。

奈良。政府に照会したのか。

芦屋。ええ。すぐに。なので羽鳥から、調査依頼。分かったことを教えて欲しいと。G国調査団を連れていっていいですか。

奈良。構わない。モグとリュウグウでか。

芦屋。そうなります。部長も来てください。自動人形を率いて。

奈良。今から?。

芦屋。遅くしてもいい事は無い。

奈良。お前らしい考え方だ。よかろう。タロとジロとエス。そちらにいるのは、リリとレイとバロン。

芦屋。レイは先に飛ばしました。モグで行きますから、乗ってください。

 (20分後、モグが来た。亜有が操縦している。軍と軍需企業とコントローラの一人がいる。もう一人のコントローラは、リュウグウにいるらしい。技術省の役人が同行。視察団のその他のメンバーは、トカマク基地に残る。)

奈良。場所はどこだ。

芦屋(通信)。関東北部の山中。疑義内容は、国際テロ組織の中継点。

奈良。我々の仕事ではない。

芦屋。でも、調査依頼されました。見るくらいいいでしょう。

奈良。何かを狙っているな。

少佐。興味深い。こちらは囮りだろう。味方に嵌められている可能性はあるのか。

奈良。仕事が仕事ですから、そんなのしょっちゅう。もう、飽きてきました。

少佐。心強い。いい部長だ。仕事ぶりを見せてもらおう。

奈良。貴国にも関連するのですか?。

少佐。もちろんだ。成果に期待している。応援できるところは、ためらわずする。

奈良。強そうだ。お手柔らかに。

 (実際、かなり強力な武装をしているようだ。自動人形が緊張している。
 レイは、現場のはるか上空から観察。山の中で暗いが、満月に近く、自動人形には十分に視認できる。採石場の感じだが、頑丈なドアのあるトンネルが3つあって、見るからに怪しい。温度調査から、道路に近い手前の小屋とトンネル内が活動中と分かる。)

少佐。自動人形の検出力は大したものだ。こちらの拠点はどこに置く。

清水。少佐ならどうされます?。

少佐。私を試す気か。よかろう。現地の地形図を出してくれ。こちらの陣容の理解も必要だ。

奈良。こちらです。モニターをご覧ください。

少佐。充実している。慣れている感じだ。どういった組織なのだ。

奈良。私企業の自警団。疑義のある企業や団体の調査をする。

少佐。秘密は明かせないか。なら、あてずっぽうになる。この地点でどうだ。

清水。集結します。

 (低い尾根を挟んで、こちら側だ。その間に、レイを使って、採石場の周囲の森を調査して行く。
 集結地に着いた。ジョーとジーンがいる。カワセミ号で飛んで来たみたいだ。
 モグ内で作戦会議。)

清水。トンネルは深そう。音響調査からやっておくか。

芦屋。侵入するのか。

清水。そうしたいと思ったけど。

少佐。地震計でトンネルの地図を作るんだな。

清水。ええ、そうです。地震計はもうすぐ届く。

 (無人の小型オートジャイロがやってきた。200個ほどの小型の地震計。リリにも翼を着け、レイといっしょに設置して行く。小屋などの調査に、リュウとメイを放つ。)

少佐。震源はどうする。

清水。トンネル内で機械が動いている。空調かな。音響パターンを学習して、震源とする。

少佐。時間がかかりそうだ。

清水。1時間ほどかかる。

第46話。サンダーストーム・ビークル。17. G国政府の視察

2011-09-19 | Weblog
 (サンダーストーム基地。週末の夕方。G国ID社から自動人形の視察団の歓迎パーティー。総勢10人で、技術省と軍から1人ずつ、大学関係者2名、産業界から3名、G国ID社から自動人形の操縦訓練中の2名の技術者と、営業部長。リーダーは、その営業部長だ。
 トカマク基地に泊まっているのだが、パーティーは眺めのいいサンダーストーム基地で行うことになったのだ。エド、ジーン、大江山教授までいる。日本ID社からは、東京支社長と総務の月野さん。日本ID社の紹介と見学は終了している。
 サンダーストーム楽団が演奏している。)

大江山。軍関係者は、どんな人なのか分かっているのか。

奈良。陸軍少佐。指揮権のない、いわゆる参謀のようです。

大江山。世界最強の陸軍の一つ。

奈良。もちろん。まともに勝てる軍隊など、存在しない。大学関係者はお知りで。

大江山。知らなかった。2人とも有名大学の若い講師級だ。表敬ではなく、勉強させるつもりだ。少し話したが、優秀であることがありありと分かる。産業界の関係者はどんなだ。

奈良。1人が国防関係ですが、他の2人は純粋な民需企業。自動人形の活用に関心があるようで、盛んに技術解説を受けていた。

大江山。一事案あるまで滞在するとか。

奈良。滞在期間が2週間と長い。観光目的と言っているけど、作戦を見るのが目的でしょう。

大江山。開示していいのか。

奈良。総務が判断します。原則的に、教授と同程度まではOK。

大江山。あいつらは、監視。

奈良。ジーンとエドですか?。何か命を受けている感じ。ちょっと警戒している。怪しまれるといけないから、調査団のメンバーには、正直に紹介しました。

大江山。軍備拡張に関係するかも。

奈良。ええ。どうやっても免れません。自動人形関連でA国政府が動いている以上、調査の必要はある。

大江山。ここも調査対象の一つだな。

奈良。そうらしいです。

大江山。我が国はどうなんだ。

奈良。羽鳥は来ていない。でも、すぐに伝わるでしょう。

G国ID社営業部長。(英語で)いいですか、みなさん、お静かに。このたびは、我々、G国からの視察団を受け入れていただき、ありがとうございます。大変印象的な経験をさせていただきました。

G国技術省課長。G国政府を代表いたしまして、みなさまに御礼申し上げます。ここ、日本では、自動人形技術が最大限に利用されているという話を聞いていました。現地に来て、納得いたしました。すばらしい操縦を見せていただき、感謝しております。

講師1。こうして目の前にしても、信じ難い動き。まるで、見えない糸で操られているかのようです。

伊勢。その通りです。自動人形に意識は無い。自分たちでは、何もできない。

講師1。しかし、ある程度は自律して動作している。まるで、機械に命が吹き込まれたようだ。

少佐。A国軍が戦場で役立てようとしたのだ。当時の最先端の技術が投入されている。

講師1。そして、B国が、ある程度自律動作できるようにと、大量のパラメータを設定した。

少佐。その通りだ。まるで家畜のように動く。こちらの意図を理解しているかのようだ。

大江山。さすが、G国。すべて分かっているようだ。

奈良。ええ。2人のコントローラは、すぐに要点が理解できたようです。見る間に操縦がうまくなってきた。

大江山。では、G国でも自動人形を活用する。

奈良。彼らなら、間違いなく。日本がいつまでも世界一とは限らない。

大江山。競争だな。G国に自動人形はいるのか。

奈良。2機いると聞いています。すぐに増えるでしょう。

大江山。統率された自動人形の集団。世界が注目する。

奈良。おそらく。こちらが教わる立場になる。

 (最初は、扱いやすくて、よく働く、タロとジロをあてがったのだが、2人のコントローラは、ほんの1日でうまく操縦してしまった。だから今は、リリとレイを扱わせている。どちらも特徴があって、しかも、自動人形として最強に近い。
 リリは何が起こるのか、興味津々。とにかく、言われたことを試してから文句を言う。いい娘だ。レイは少し恥ずかしがり屋なのか、気難しいところはあるけど、納得すれば、きちんと仕事をこなす。イチの突っ込み役なのだが、今は旅行中。リリが先導している感じ。)

鳥羽。今になって不思議な気がしてきたけど、ロボットの性格って、どうやって決まっているのですか?。

奈良。喜怒哀楽のパラメータを調整する以外は、人間側の思い込みだ。感じとして、後者の比率がずっと高い。

鳥羽。飼い主はイヌに似る。

奈良。家畜だけじゃなく、道具も似ることがある。

鳥羽。ああ、それは分かります。機械が人間に懐くんですよ。不思議なことに。その人がいないと、不機嫌になって、調子が悪い。でもそれは、単にいつも使っている人が、その機械のことをよく知っているからじゃないかな。

奈良。多分、そんな落ちだろう。特に、自動人形は、誰もが性格を知りたがって、かつ、性格を与えたくなるようだ。

鳥羽。人形だから。こうなって欲しいと、願うんだ。

奈良。自動人形は、行動でそれに応える。

鳥羽。行動が操縦者の意図に沿うように修正される。

奈良。限度はある。違和感の無いように調整したつもりだ。

鳥羽。私も調整役だ。

奈良。コントローラである限りは。

鳥羽。調べてみます。

 (パーティーは普通に終了した。視察団は、モグとリュウグウに乗ってトカマク基地に戻る。私は、タロとジロとエスといっしょに、旧車両でID社東京に戻る。)

第46話。サンダーストーム・ビークル。16. 敵部隊集結

2011-09-18 | Weblog
 (迎えのため、トカマク基地からカワセミ号を発進させようとしたら、伊勢から連絡あり。フウジンを向かわせたと。5分ほどで、研究所の駐車場にフウジンが着陸。キネが操縦している。エスは私がだっこして、発進。モグの屋根に器用に着陸。教授と私とエスは、モグ内に移動。フウジンは戻っていった。)

大江山。便利だな。

奈良。1年前とは別世界。

大江山。これじゃ、妬まれるわけだ。

奈良。お聞きでしたか。

大江山。聞いた。私は、情報収集部を応援するぞ。個人的にだが。

奈良。ありがとうございます。

リリ。リーダーの乗ったクルマ、別の企業の研究所に入った。

奈良。うわ、まずい。

大江山。何かあるのか。

伊勢(通信機)。人質を取る気よ。サンダーストーム部隊を出撃させる。

羽鳥(通信機)。こちらも行くぞ。

 (羽鳥は、ジョーが操縦するカワセミ号で、ジーンと共に研究所に向かう。伊勢は、キネといおりと共に、フウジンで向かう。
 リーダーは、研究所の一角にあるビルの前に駐車した。そして、中に入って行く。こちらも、レイとゴールドをビルに侵入させる。リーダーは、中にいた仲間と会話する。)

男16。あちらの研究施設が政府に制圧された。

男17。本部には連絡したのか。

男16。まだだ。連絡してくれ。

男18。通信する。…、尾行の形跡があるらしい。部隊を向かわすだと。

男16。こちらを巻き添えで始末する気だ。逃げるぞ。

羽鳥。興味深い話だな。一小隊、来るのか。

男16。なんだ、このおかま。

ジーン。おかまじゃないわよ。女装趣味なだけ。

羽鳥。こほん。財務省の臨検だ。おとなしくしろ。

男16。尾行したというのは、おまえたちのことか。

羽鳥。どうでもいい。書類を調べるぞ。

男17。勝手にはさせん。

 (拳銃を抜こうとしたので、ジーンが威嚇発砲。羽鳥が書類を調べる。)

羽鳥。警察が来るまで、待っていてもらおう。

男16。逃げた方がいい。

男18。手遅れだ。部隊が来たみたいだ。

 (どこから来たのか、完全武装の軍隊みたいなのが小型トラックから降りてきた。6人。どかどかと、部屋の入り口に集結。班長らしき人物が開いているドア越しに声をかける。)

男20。お前ら、どういう事態か分かっているんだろうな。

羽鳥。降伏しろ。もう、警察は呼んだ。

男20。ふん、警察など相手にはならん。入るぞ。

 (一人、入ってきた。小銃を持っている。)

ジーン。お連れはいないの?。

男20。おまえら、何をしている。早く入ってこい。

風間。邪魔なやつらには眠ってもらった。

 (レイがハチ型分子シンセサイザーで、残り5人を眠らせたのだ。いおりは、取り上げた小銃を持っている。)

男20。お嬢ちゃん、その物騒なもの、そこにおいて。

羽鳥。そいつは訓練を受けている。そっちこそ、早く置くんだ。

男20。バカにしやがって。皆殺しだ。

 (脇にいたジョーが飛びついて、腕にかみつく。いおりが、十手で思いっ切りひっぱたく。男は銃を落とした。羽鳥が駆け寄って武装解除する。)

男20。きさまら、慣れているな。

ジーン。だから、そう言ったのに。

風間。あとは、運転手だけだ。行ってくる。

 (しかし、小型トラックの運転手は、とっくに伊勢の分子シンセサイザーで眠らされていた。
 警察はほどなく到着。羽鳥が説明している。こちらも集合した。)

大江山。相手の組織は分かったのか。

奈良。分かったらしい。羽鳥が各方面に連絡している。

伊勢。まだ来るのかしら。

芦屋。動きは無い。部隊というのは、さっきの男どものことらしい。

風間。狙撃者も集合したのか。

芦屋。部屋の様子を確認してから、展開するつもりだったようだ。

風間。お間抜けだな。

奈良。だから、全員、助かったとはいえる。

大江山。報復に来るだろうか。

伊勢。ここまできちっとやったら、相手方は分析にかかっているはず。うまく行けば、政府が押さえ込みに成功する。いずれにしろ、すぐには動けないでしょう。

大江山。一部隊、壊滅させた。

風間。その理解でいい。

 (羽鳥から、撤退要請がでた。帰る。
 情報収集部には、その後、情報は来なかった。大江山教授は業界に詳しいようで、いくつかの大手企業を巻き込んだ事案だったと教えてくださった。羽鳥も、IFFに直接通じている虎之介も、いつもの仕事を落ち着いて続けている。どうやら、政府の介入が成功したようだ。)

第46話。サンダーストーム・ビークル。15. 実験成功

2011-09-17 | Weblog
 (リリを倉庫に戻そうとしたら、技術者が戻ってきたので、隠れる。機関砲などの準備をしている。さらに、3人、入ってきた。)

男14。今度はどうだ、有望そうか。

技術12。さあ、試してみないと分かりません。

事務15。一歩づつ、進んでいるはずです。そうだろ?。

技術12。そのつもりですけど、やってみないことには、何ともかとも。

男15。だから、今回成功するかもしれない。

技術12。もちろん。

 (手順が決まっているようだ。まず、機関砲を乱射する。装甲からは、ものすごい煙。爆風でもって、弾を防いでいるのだ。煙が晴れたら、膨らんだ装甲が見える。分厚くなったのだ。そして、対戦車砲を発射。標的は吹っ飛んでしまった。)

技術12。だめだ。

事務15。つべこべいわずに、解析しろ。

技術13。見に行くぞ。

技術12。はい。

 (サンダーストーム基地。)

伊勢。なかなかやるじゃない。もう完成間近じゃないの?。

鳥羽。うん。装甲は完璧に近い。なんで、まだ追求するのかな。

清水(通信機)。標的が吹っ飛んだじゃない。

鳥羽。支え方が悪いよ。装甲自体は無事だ。それだけなのに、なぜ気付かないんだろう。

清水。色が変わっている。

鳥羽。色と防御は関係あるのかい?。

清水。そうか。でも、装甲が衝撃を吸収してない。

鳥羽。している。あの材料だけじゃ、土台無理。さらに、追加がいる。

清水。どんな。

鳥羽。ぼくも知らない。感じとしては知っているけど、一部の人しか本当のところは知らない。高度の秘密だ。

伊勢。そこまで、迫っているということ。

鳥羽。うん。大変な技術。さすが、大企業。よくやる。

 (地下研究所。)

男16。どうしようか。これ以上は無理のような気がする。

事務15。もう少しでしょう。

男14。無駄だ。これまでの成果を渡して欲しい。いったん、打ち切りだ。

事務15。こんなに開発費をつぎ込んだのに。

男14。傷口を広げないようにだ。

事務15。もう少し、待ってください。

男16。契約は守ってもらおう。そこの君、今まで分かったことをまとめてくれ。

技術12。もうやめるんですか?。

技術13。潮時じゃないかな。

技術12。ファイルをコピーします。

リリ。待ちなさいよ。そうはさせない。

技術13。お嬢ちゃん、どこから来たの?。

リリ。入り口から。倉庫から廊下を渡って。

技術13。ここは秘密の研究所。よく入れた。

リリ。普通に入ったわよ。それより、あんた、気軽にファイルをよこせって、冗談じゃないわよ。技術を盗んだ上、踏み倒すなんて、とんでもないやつら。

男14。ええと、どうなっているんだ。この娘、誰。

事務15。社員ではないようだ。

男16。ロボットだ。ID社の自動人形。救護用ロボットだ。

技術13。知ってる。ID社のロゴ。でも、皮膚の色が濃い。それに、超絶美少女。こんなのいたっけ。

リリ。最初からいる。有名じゃないけど。名前はリリ。

男16。うわさだと、こちらの装備を分析できているはずだ。

リリ。脅すつもり?。

男16。交渉は無理だろう。

リリ。もろに輸出禁制技術。

 (2人の客は、拳銃を取り出した。)

男16。さっさとファイルを落として、こちらによこせ。

事務15。警察に知らせる。

男16。身のためにならんぞ。

リリ。手遅れ。連絡しちゃった。10分くらいで、警察が来る。

男16。ただで済むと思うな。やれ。

 (もう一人がリリに狙いをつける。その時、エスが天井近くから飛びかかった。)

男14。うわあ、なんだこいつは。ヘビなのかー。

 (リリはすかさず、あっけに取られているもう一人に飛びかかって、拳銃を取り上げる。)

リリ。ふふん、こちらが有利。そっちも、拳銃を離しなさい。

男16。これで済むと思うな。

 (仲間を見捨てて、逃げていった。リーダーらしい。リリが後を追いかける。)

奈良。追跡だ。タロ、行くぞ。

芦屋。私が行きます。部長はエスのところに行って。

大江山。なにか起こったのか。

奈良。詳しくは、途中で。

 (虎之介が飛び出した。タロが追いかける。)

清水。レイ、ゴールド、発進して。

 (到着まで、5分もかからないはずだ。
 リーダーは、駐車場に走って、クルマに乗る。リリの制止など聞くわけが無い。そのまま発進。ゲートを突き破って、逃げていった。)

芦屋。大丈夫か、リリ。

リリ。機能に異常なし。屋根にマークした。

芦屋。その腕の分子シンセサイザーでだな。

リリ。うん。

芦屋。モグで追いかけよう。

 (虎之介とリリとタロは、モグに入って、発進。ようやく、レイとゴールドが上空で追い付いた。リーダーのクルマを発見して、追跡。
 私(奈良)と大江山教授は、営業の人に案内されて、地下研究所へ行く。もう一人の男は、エスが鎮静剤を投与したらしく、拳銃を握ったまま眠っている。
 しばらくしたら、警察がやってきた。技術者から、事情を聞いている。)

大江山。あれがスケッチにあった装甲か。

奈良。こちらの分析では、ほぼ完成。どこかの団体が技術を盗もうとしたらしい。

大江山。壊れている。実用なのか。

奈良。使えるらしい。これだけでは、無理だそうですが。

大江山。他の技術と組み合わせるんだ。壊れているのは台だけか。大した成果。

奈良。そうらしい。

大江山。逃げたやつは追いかけているんだな。

奈良。いっしょに行きましょう。エス、付いてこい。

第46話。サンダーストーム・ビークル。14. 大江山教授からの相談

2011-09-16 | Weblog
 (大江山教授から相談。サイボーグ研の協賛企業を調べて欲しいとのこと。大企業なので安心していたのだが、届いたfaxの中に、怪しそうに見えるのがあったのだと。それで、自分のデジカメに収めたということ。志摩と鈴鹿は研究旅行中。亜有と虎之介を派遣する。)

大江山。来てくれたか。

清水。用件をうかがいます。

大江山。ある大手の機械メーカーと、ここに来てくれている技術者とのやり取りのfaxの中に、不思議なスケッチがあるのだ。見てくれないか。

清水。まあ、見るだけなら。

 (大江山教授が、モニタに映し出す。設計指示書なのだが、落書きのようなスケッチが余白にあって、戦車のように見える。そして、矢印が一つ、付いている。)

芦屋。戦車の装甲の指示書に見えなくもない。

大江山。やはりそうか。

芦屋。考えすぎの可能性の方が高いですけど。

大江山。関連の資料を提出させた。見て欲しい。

芦屋。ええと…。こちらにはスケッチが無い。新しい巨大ロボット、エクササイザー9番機の設計の一部か。

清水。外装の。

芦屋。その通り。エクササイザーの装甲をSFアニメ風に頑丈にする計画とも取れる。

清水。戦車と同程度の。

芦屋。誰でも考える陳腐なアイデアだが、陳腐と誰しもが考えているから、かえって盲点だ。

清水。鳥羽さん、分かるかな。

芦屋。強度を計算してくれそうだ。実装できるか、どうかも。

大江山。解析してくれるか。

芦屋。もちろん。それと、探りがいる。どうしようかな。

清水。伊勢さんか、サンダーストーム部隊か。

大江山。私がやろう。責任がある。

清水。そうなると、付くのは奈良部長が一番目立たない。

芦屋。行ってくださるかな。

 (もちろん、OKだ。
 翌日朝から、大江山教授が会社の研究所を訪問することになった。名目は、来年度のサイボーグ研の計画の具体化のための視察。
 私は、リリとエスとタロを連れて行く。モグを虎之介が運転。五郎と六郎もいる。)

奈良。たしか、エクササイザーは外表面を軽く作る方向だったはず。

大江山。その通りだ。体操するためのロボット。表面を分厚くすると、燃費が悪くなるだけだ。だから、表面は商用の航空機のような設計になっている。

芦屋。ただ、その分、付属品をたくさん付けられる。理屈としては、砲弾の威力を和らげれば、それでよい。

奈良。音響的な仕掛け。

芦屋。ええ。鳥羽が解析中。巨大ロボットの場合、ひたすら重くするより、硬いスポンジの甲羅のようなものの方が、役だつかもしれない。

奈良。エアバッグのような。

芦屋。小さなエアバッグ。ずっと強力ですけど。

大江山。戦車のは武骨な形だった。

芦屋。タイルみたいなやつでしょう?。あれを小さくして、大量に貼り付ける。

大江山。砲弾が当たったら、瞬時に腫れ上がって、包み込んでしまう。

芦屋。たとえばですけど。うろこ状とか、鎖状でもいい。

大江山。攻撃すればするほど、装甲が硬くなる。

芦屋。全表面を覆い尽くすことはできませんけど。

 (悦に入って話し込んでいる。虎之介、この手の話題が好きらしい。すでに、かなり想像の域に達している。
 その企業の、郊外にある研究所。所長が挨拶してくださり、見学の箇所を決めて行く。一人、案内に付けてくれたが、営業の人だった。技術者だと、あることないこと、ぺちゃくちゃしゃべってしまうかも知れないからだ。)

営業11。すみません、私なんかで。

大江山。場所がよく分かっている人間の方がいい。

営業11。それはお任せください。何度もこうやって案内した経験があります。

 (とにかく、ロボットに少しでも関係のありそうなところを訪ねて行く。大江山教授、面白いらしい。現場の研究者に、いちいち尋ねたりしている。なので、ごくゆっくり進んでいる。タロとリリとエスで、解析し放題。
 しかし、やはり見せてくれるのは、当たり障りのない部分のみ。このままでは、らちがあかないので、エスを放つ。天井裏に消えていった。亜有に遠隔操縦させる。
 昼になったので小休憩。会議室に入る。弁当が出てきた。食べながら。)

大江山。いやあ、なかなか興味深い。

営業11。よかった。主だったところは、見回りました。午後、どうされます?。

大江山。あの壁にはってあるのが構内の地図か。どこで何をしているのか、概要は分かるのかな。

営業11。パンフを取ってきます。あれ、ヘビのロボットがいませんでしたか。

大江山。いないのか。どこに行った。

リリ。エスは途中で消えちゃった。

大江山。ロボットには内容は分からない。つまらないからモグに戻ったのかな。

リリ。そうかも。

 (エスは、研究棟を一巡した。なにも怪しいところは無いので、渡り廊下でつながった旧棟に行く。売店などの厚生施設の他は、倉庫に見えるが、地形を利用した地下があって、時々、振動が伝わってくる。亜有は、エスを使って接近を試みるが、入り口は固く閉ざされている。)

清水(通信機)。いくらなんでも、換気口くらいあるはずよ。

エス。外を一巡します。

 (林の中を進む。3つほど、換気口を見つけた。エスの持っている道具で突破できそうだ。侵入するか。私に相談が来たので、まず、リリを扉に向かわせる。)

リリ。ちょっとそのあたりを見てくる。

奈良。ああ。気をつけてな。

 (リリは、散歩するふりをして、地下への階段を降り、扉に到達。手前はトラックが入れるほどの地下駐車場になっている。扉は分厚そうだ。秘密研究か。
 しばらくしたら、偶然、トラックが入ってきた。リリは見えない位置に移動。トラックから出てきた係が荷物を降ろして台車に載せている。大きな台車だ。隙を見て、リリは荷物の上に登る。荷物は係が押して、そのまま、地下研究所の中に入る。危ないので、エスにも侵入を指示。換気口からヘビが入る。
 リリは、荷物といっしょに倉庫のようなところに入る。荷物は機械の材料のようだ。荷物の係が立ち去ると、入れ替わりに奥から技術者のような人たちが入ってきた。)

技術12。ずいぶんと警戒している。そんなに大切な研究なのか。

技術13。おまえ、つまらなくなってきたのか。

技術12。何度も何度も、同じことをしている。材料を少しずつ変えながら。本当に、解はあるのか。

技術13。説明があったろう。社運がかかっているんだ。

技術12。今度試すのは。これか。また、作り直し。

技術13。ともかく、給料分、働くまでだ。

 (適当に材料を集め、手提げ袋に入れて持って行く。リリがこっそり付いて行く。短い廊下を行き、操作室のようなところに入る。技術者2人は、強化ガラスで区切られた実験場のようなところに行き、壁に掲げられた手順書に従って、材料を調合して行く。
 リリは、操作室を解析。実験室の正面には、板をつけた台があって、標的のようだ。こちらには、機関砲が2門ある。航空機に搭載するタイプと、車両に積むタイプだ。対戦車砲もさりげなく置いてある。操作卓から、発射できるようだ。
 調合が終わったらしく、技術者は、これまた手順通りに標的に塗りつける。そして、出て行った。硬化するのを待つらしい。リリは入れ替わりに実験室に入る。材料と、機関砲などを解析。リリから報告を受けた亜有は、伊勢と鳥羽と検討会議。)

鳥羽。装甲の一種らしい。爆発する各種直径のビー玉みたいのを繊維質を混ぜた樹脂で固める。

清水。昔の塀みたい。

鳥羽。あはは。そうだね。塀の場合は石ころなんかを混ぜるだけで、小爆発はしないけど。

伊勢。IFFでも、同じような装甲があるの?。

鳥羽。使っているはずだ。世界中で研究されている。複合装甲の一種だけど、若干弱い代りに、曲面でも使える。

伊勢。じゃあ、普通の軍事研究。

鳥羽。だろうな。特に目新しいことも無いようだ。リリを回収して、終わり。