ID物語

書きなぐりSF小説

第40話。秋のA国フェア。1. プロローグ

2011-04-30 | Weblog
 (秋もたけなわのID社東京の情報収集部オフィスにて。)

伊勢。ふうっ。自動人形が増えて、どうなることやらと思ったけど、結局残ったのは、モグとA31。イチとレイとリュウグウはトカマク基地だし、深海幽霊船もあちら。ああ、ほっとした。

奈良。ええと、実は…。

伊勢。いやっ。聞きたくなーい。また自動人形が増える話ね。

奈良。それもありそうな話だが、違う。

伊勢。人の配属。

奈良。そのとおり。さすがだな。どこから来るのか分かるか。

伊勢。その言い方だと、外国からのお客様。

奈良。A国の国立研究所からだ。あの有名な。

伊勢。って、軍関係じゃない。

奈良。ああ。意図ありあり。

伊勢。あからさまにスパイをよこすってか。度胸のあること。

奈良。A国らしいやり方だ。強引にねじ込んで来る。

伊勢。ふん。どんなやつなのかな。

奈良。受け入れOK、ってことだな。

伊勢。断ると、リアクションがあるんでしょう?。

奈良。もちろん。どんな手を打たれるか分かったものではない。こちらも同様だが。

伊勢。奈良さん。正直な物言い。なんか、にわかに緊張してきた。

奈良。名目はコントローラの研修だ。3カ月の予定。先方に自動人形が納入されたことは覚えているな。

伊勢。当然。エレキとマグネ。また来るの?。

奈良。来ない。

伊勢。だから、新造するってかー。

奈良。勘が冴えてきたな。

伊勢。勘も何も、いつものパターンじゃないの。トカマク基地に配属だからあまり変わらないと言いたいんでしょうけど、結局振り回されるんだから。

奈良。そうなるだろうな。

伊勢。でもって、今度はナマコ型とかウニ型とか。

奈良。なんでそうなる。ナマコが救護するのか。

伊勢。そうか。人間を救護できないといけないんだ。

奈良。思い出してくれたか。少し様子を見てから、形態を決める。

 (数日後、そのA国からの研修員が来た。名前は、エドワード・ベイツ。情報収集部の全員、つまり4人で出迎え。オフィスにて。)

エド。はじめまして。エドワード・ベイツ。A国から研修に来ました。よろしく。普段はエドって呼んでください。

奈良。私が日本ID社東京、情報収集部部長の奈良治だ。よろしく。こちらは、伊勢陽子。直属の部下。

伊勢。よろしく。

奈良。こちらが、鈴鹿恵と志摩弘。実働部隊。

鈴鹿、志摩。よろしく。

伊勢。日本語がお上手。

エド。な訳ないデーす。

伊勢。どこの言葉よ。

エド。にわか覚え。

伊勢。今度は慣れた日本語。要するに、初心者と言いたい。

エド。そうです。難しいところは英語になる。

伊勢。構わない。

奈良。何か要望はあるか。

エド。芦屋さんと清水さんはいますか?。

奈良。どこからその名前を。

エド。ばればれです。

伊勢。いいじゃない。彼らの配属は秘密ではない。荷物は片付いたの?。

エド。ばっちり。

伊勢。じゃあ、午後からトカマク基地に出かけましょう。でもまず、ここにいる自動人形の紹介をする。

エド。ぜひお願いします。

 (A31を呼んで、紹介する。普通のジャケットを着た、若い機械技術者。イギリス系のようだ。背丈は175cmほどで、やや筋肉質。経歴は隠さずしゃべってくれた。短いが、軍歴あり。)

鈴鹿。じゃあ、宇宙飛行士を目指しているんだ。かっこいい。さすがA国。あこがれる。

エド。鈴鹿さんは元気そうだ。ぜひ遊びに来てください。

鈴鹿。うん。機会があったら。

 (志摩とタロが、社内を案内する。)

エド。よくできたロボット。生きているみたいだ。

志摩。操縦者がよければ、こんな感じになる。普通は、単に指令をこなすロボットらしい。

エド。操り方によっては、魂が宿ったようになる。

志摩。不気味と感じる人が出てくるくらい。

エド。そんなことはない。普通にロボット。日本やヨーロッパには人形の伝統芸がある。それといっしょ。

志摩。A国の人形は有名だよ。テレビで。

エド。あはは。子供向け番組の。

志摩。うん。

 (そのまま、屋上に近い社員食堂で、昼食を摂る。)

エド。都会の眺めだ。

志摩。お江戸だよ。建物は変わっても、昔からこんな感じの大都会。

エド。ぼくといっしょの名前だ。

志摩。江戸のエド。はっぴかなんか、用意しよう。似合いそうだ。

エド。はっぴ。上着のことかな。

志摩。うん。日本風の。

エド。新選組。

志摩。よく知ってる。でも、あれは警察みたいな武装集団だから、ちょっと恐く見える。しかも、場所は江戸ではなく京都。

エド。デザインを推薦してよ。

志摩。お江戸なら、かっこよく祭だな。にぎやかそうで、いい。

エド。楽しみ。

 (明るくて、まじめな性格のようだ。はっぴの典型的な柄を見せたら、風神がお好み。ちょっと派手すぎるので、次に気に入った波浪の模様と2着作ることにした。夕方にはできる。歓迎会で引き渡す予定とした。)

第39話。深海幽霊船。21. カワセミ号、デビュー

2011-04-29 | Weblog
 (午後。来賓を前にして、我が軍の司令があいさつの後、遠藤さんがカワセミ号の性能について、ざっと説明。カワセミ号には、引き続き、アリスと虎之介が乗っている。
 我が軍の司令の命令で、練習機が発進。こちらも、まともに軍用機。小型とは言え、うるさい。カワセミ号は、垂直発進なので、最初は轟音と光が出るけど、すぐに静かに飛んでいった。会場からも、軍関係者からも、歓声が沸く。
 こちらの態勢は午前とほとんど変わりない。モグとオトヒメとリュウグウは基地内に展開。イチとレイは空中で待機。
 練習機は決められたコースを進む。練習機とは言え、軍用機だ。大変な性能。カワセミ号には、そんな極端な性能はないけど、超小型なのが幸いして、しっかり付いて行く。速度も十分。)

清水。見かけとずいぶん違う。軍用機にしっかり付いていっている。

志摩。一見、緩慢に見えるけど、ちょこまか動いていることになる。

 (練習機のパイロットはまじめ。淡々と義務をこなして、着陸した。あとは、こちらのデモ。)

清水。まともに終了した。

志摩。でもないみたいだよ。

 (どこから引っ張り出したのか、A国軍の練習機が緊急発進。上官も止める暇がなかったようだ。カワセミ号に突っ込んで行く。)

土本。何あれ。

大江山。けんかを売るつもりらしい。

土本。仕返し。って、カワセミ号は観測用よ。丸腰。

大江山。からかうだけのようだ。

土本。軍用機にからかわれたら、ただでは済まないわよ。

 (その通りだ。気流を撹乱して、墜落させる気らしい。異常接近する。カワセミ号は、風圧に煽られて、ふらふらとコースが乱れる。)

志摩。虎之介、大丈夫か。

芦屋(通信機)。あんにゃろ、とっちめてやる。

清水。って、カワセミ号には武器も何もないわよ。

芦屋。おれが乗ってる。

 (さすがに、機関砲の発射まではしない。近づくだけ。何度か急接近されたところで、アリスはパターンを把握したようだ。)

アリス。相手は感情が高ぶってる。いいカモ。

芦屋。やるつもりか。

アリス。当然。

 (急接近されたところで、こちらも速度を上げ、直前から蒸気ロケットをパッパッと動作させ、湯気を引っかける。そして、速度を急に落として離脱。)

清水。うげ、おならを引っかけた感じ。お下劣。

志摩。怒らせたみたいだよ。元から怒ってたみたいだけど。

 (練習機は急旋回して、回り込もうとするけど、その度に蒸気を吹きかけ、さらに離脱。A国軍からは、帰還命令が出たようだけど、聞こえないふりしている。
 2機は絡みながら、海上へ。アリスが攻撃に出た。一瞬主翼の上に回り込み、蒸気ロケットを噴射。体勢が崩れたところに、下に回り込んで、さらに噴射。仰向けになった機体に、さらに上から噴射。練習機は真っ逆さまに海面に落ちて行く。一瞬だが、まったく操縦不能になったのだ。パイロットは危険を感じ、緊急脱出装置を使った。しかし、通常の姿勢ではない。かなりの対地速度で海面に落ちて行く。練習機はそのまま海に突っ込んでしまった。)

イチ。間に合わない。

アリス。任せなさい。

 (カワセミ号は、パラシュートをロボット腕でつかんで、ていねいに引っ張り、そのままパイロットを基地内に運ぶ。空中で止まったかと思うと、器用に蒸気ロケットを使って、パイロットを地上に置く。さらに基地上を旋回して、ふわりと舞い降りる。
 パイロットには、イチとレイが駆け寄って、容体を調べる。ショックでふらふらになっているだけだ。A国軍の衛生部がすっ飛んで来て、パイロットは無事に収容された。)

奈良。最初の一撃で撃墜されていた。本来なら。

千葉。そのようだな。相手が遠慮してくれてたから、できる技。

関。また一機、失わせた。外交問題になりそう。

 (当然、A国軍と我が軍がけんか腰になって交渉している。我が国の上空で何してくれる、あの愚連隊をのさばらせているのはどっちだ。そんな感じだろう。
 再度のデモ用の飛行許可は出そうもない。しかたがないので、遠藤さんが水中発進できることなどを口頭で解説。でも、ほとんど誰も聞いていない。データ機器の没収を恐れた各国のスパイどもは、あわてて荷物をまとめて引き上げて行く。残ったのは、A国と我が国の来賓だけ。閑散とした展示会場に、さわやかな秋の風が吹く。)

海原。カワセミ号。派手なデビューじゃったの。

土本。情報収集部。ほぼ軍事組織。

海原。そんな感じじゃの。不用意に手出しすると、どうなるのか、思い知らせたようじゃ。

土本。アリスは救護ロボット。なのに、なぜ相手に向かっていったのかな。

海原。後席の人間を守るためじゃ。やってなければ、カワセミ号が海に突っ込んでいたんだろう。そう判断した。

土本。虎之介さんの性格も反映しているのかな。

海原。当然じゃな。自動人形は、自分が選んだ人間に応えようとする。

土本。ここでは縦横に使っている。

海原。興味あるのかの。

土本。ええ。徐々に。これでいいのかな。

海原。これでいいのじゃ。

 (今回もデータを提供させられた上、普通に聴取された。しかし、我が社には抗議らしきものは一切、来なかった。
 長居しても、何もいいことはないと判断し、両軍司令に簡単に挨拶して、逃げるように、帰路に付く。
 ヘリと練習機が海中に没したわけだが、機体の不具合ではないし、乗員を含めて人命には及ばなかったので、ニュースは軽い扱いだった。
 しかし、予想通り、どこからか漏れた画像がインターネットを飛び回る。カワセミ号にID社のロゴはバッチリ入っている。場所も相手側の国籍と機種も明らかだ。各方面に問い合わせが急増したことは言うまでもない。大国の政府は購入したようだが、自動人形付きでないと意味がないため、カワセミ号は大して売れたわけではない。)

 (楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。別れの季節となった。
 ダウードさんは、来日目的を達成したので、予定どおり、2カ月で帰国することになった。リュウグウとカワセミ号のM国向け改造バージョンは、帰国してほどなく届けられ、アリスとボブは方々に連れて行かれている模様。
 ただし、M国は決して経済大国ではないため、各国からの需要を満たすことはできない。だから、主には周辺の言葉の通じる国々に対して、きめ細かいサービスができる点を売りに、それなりの商売をしたようだ。ダウードさんの夢は一応、かなったことになる。
 改良後のカワセミ号は、デモ用にトカマク基地に一機置くことになった。
 森本と釜本は、エレキとマグネと共に、いそいそとA国に行ってしまった。空中バイクもいっしょ。エレキとマグネは、例の貸出契約の価格でA国国立航空宇宙研究所に買い取られ、森本らは会社からの出張扱い。日本とはスケールが違うので、忙しくても楽しい暮らしだと、あとで便りが来た。もちろん、会社側はほくほくだろう。
 各国の軍事機構が日本ID社情報収集部に対して、今まで以上に警戒しはじめたのは言うまでもない。自動人形の特性は、徹底的に解析され、貸し出しは面倒なので、ぽつぽつ売れはじめたようだ。航空部門長、この結果が分かっていたのだろうか。
 私たちは、普通の業務に戻る。志摩たちは相変わらず、ID社の営業に出かける。あんな事件があったというのに、海原所長も土本も、従来と変わらなく付き合ってくれる。
 羽鳥はそのままサイボーグ研に駐在。亜有と虎之介も同様。我が政府とID本部の狙いは、皆目分からぬまま。)

 第39話、終了。

第39話。深海幽霊船。20. 地上すれすれでの激突

2011-04-28 | Weblog
 (他動人形等は展開していいというので、モグとリュウグウとオトヒメを基地内に離して配置することにした。イチも飛ばす。高空に出るはずだ。カワセミ号もスイッチを入れておくことにした。アリスと虎之介を乗せておく。
 演技の場所は、基地上空。航空ショーと同じで、ものすごい轟音はするけど、短時間だけだ。海と池に近いので、すぐに水上に出てしまうはずだ。
 チーム名は、こちらがゴールド。相手側がブルー。同じ要領で、何度も演習しているらしい。つまり、状況的には圧倒的に、こちらが不利。)

奈良。なので、千葉さんと小浜さんの同乗を許したんだな。

千葉。そんなところだろう。ハンデは付けてこないはずだ。

奈良。元はと言えば、家畜の世話をするロボットだったのに。

伊勢。奈良さんから見たら、そうなる。

千葉。心配するな。ロボットの動きと機影を見るだけだろう。

奈良。エキサイトするんじゃないのか。

千葉。いつもそうだ。

奈良。やれやれ。

伊勢。千葉さん、奈良さんなら大丈夫。やれやれ、と言いながら、しっかり任務を遂行するから。

千葉。よく承知している。だから、日本ID社情報収集部は世界に知られているんだ。先方も同様。

 (乗員は準備のために係員に連れられ、施設に入っていった。
 私(奈良)と伊勢は、見晴らしのよい場所に設けられたID社のテント内で、モニタを前にする。コントローラの役割をするためだ。我が社の技術者もいるけど、万一の乱入の用心のため、鈴鹿とジロを付ける。永田もいる。モグ内には、亜有と志摩とタロがいて、ゴールドチームの本当の司令センターはここだ。オトヒメにはアンと土本。リュウグウには関と森本たちと海原博士らとダウードさんたちがいる。
 A国空軍の司令は、基地奥深くの司令センターにいるようだ。そこから、進行を指示する。
 各国のスパイどもは、動きを察知したのか、滑走路が見える観覧席で道具を展開し、準備万端、といった感じだ。クロはそのあたりにいるはずだ。)

A軍司令(通信)。ブルーチーム、発進して位置に着け。

 (始まった。軍用機が3機も飛び立つのだ。耳をつんざくような音。姿といい、恐ろしい感じがする。基地の上空を一周して、はるか沖に出て行った。)

A軍司令。ゴールドチーム、発進しろ。

 (モグ内で。)

志摩。通信は妨害されていない。

清水。その代わり、傍受されてるわよ。

志摩。イチが上空に出た。

清水。観測装置も妨害されてない。

志摩。こちらの動きを観察しているんだ。

清水。それが目的よ。

 (エレキ、千葉機は急上昇する。いきなり襲ってくることがあり得るからだ。マグネ、小浜機と、レイ、羽鳥機は、ブルーチームと同様に基地の上空を旋回して挨拶する。それから、沖に向かおうとした。
 って、いきなり相手側が3機で襲ってきた。羽鳥機に狙いをつけているらしい。小浜機と千葉機が急転回して、向かう。よせばいいのに、羽鳥機は速度を急激に上げて、基地内の建物の間に突っ込む。そこらあたりの機材をぶっ飛ばし、建物の外壁のガラスを衝撃で破り、ケーブルをつぎつぎに引きちぎって、今度は急上昇。さすがに、3機とも付いて行けない。あまりにも危険。)

清水。最初から、めちゃくちゃ。

志摩。開始早々、けが人が出ているはずだ。

清水。まだやるの?。

志摩。千葉機が一機撃墜したとの判断だ。

 (要は、羽鳥機が相手を油断させたのだ。司令室もあきれているはず。
 しかし、さすがにA国軍で、すぐに態勢を立て直して、向かってくる。もろに基地上空、こちらの3機は逃げるしかないようだ。激しいコースを取って、必死で逃げる。)

志摩。まだ何も妨害されない。基地側は見ているだけだ。

清水。そろそろ何かやるはずよ。

クロ(通信機)。なにやら、地上で動きがある。小型トラックが2台、滑走路に向かっている。

志摩。ミサイルでも、ぶっ放す気かな。

 (羽鳥機は、そう判断したらしい。巧妙に離脱して、地上に向かう。またもや、地上すれすれを飛行し、風圧で、トラック一台をひっくり返してしまった。もう一台は停止して、乗員が逃げ出す。)

志摩。これじゃ、戦いの参考にもなんにもならない。

 (司令は、早々に中止命令を出した。6機が帰還する。相手側は、カンカンに怒っているようだ。さすがに、千葉さんも小浜さんもあきれている。)

千葉。ちっとも空中戦じゃなかった。

小浜。あんな操縦、人間じゃ絶対に無理。

千葉。機体もかなり損傷しているはず。

小浜。建物の被害も甚大なようだ。

羽鳥。うぷ、何が起こったのか、さっぱり。

千葉。てめえのせいだぞ。ほら、武器持った連中が来た。

レイ。何の用だよっ。

羽鳥。俺のセリフだ。

 (怒った連中に取り囲まれたのだが、すぐに上官らが出てきて、互いに引き離す。
 もちろん、またもやデータを提出させられ、こってり事情聴取。
 あっと言う間に、昼休み。我が軍の基地内の食堂にて。)

千葉。我が軍の施設にも被害が出たらしい。

関。二度と呼ばれないわよ。

千葉。前回は、我が軍の戦闘機をお釈迦にしたんだっけ。

関。そうよ。2機も。でも、あれは、からかった上に、油断した我が軍のせい。

千葉。今回は、企画者が責任追求されているはずだ。

関。ルール無用で襲ってきたのは、相手方よ。こちらは挨拶しただけ。

千葉。そうやって、丸め込むつもりか。

 (当然、やり取りはあったようだが、見学者には賓客もいる。練習機とカワセミ号のデモは、予定どおり行うことになった。)

第39話。深海幽霊船。19. 展示会の朝

2011-04-27 | Weblog
 (翌早朝、A31と基地内の許可されたエリア内を歩く。)

クロ(会話装置)。こんな早朝から、各国の車両が集まっている。よく基地に入れたものだ。

奈良。自信があるんだろう。

タロ。私たちに高価な戦闘機を使わせるということは、十分に操縦できることが知られていた。

奈良。君たちの開発元はA国軍だ。当然、性能は知っているはず。千葉さんの経歴も知られている。千葉さんが反対しないということは、こちらに自信があると踏んでいるようだ。

クロ。ここには軍用機がいっぱい。どれを使うかは分からない。

奈良。分からない。識別できない機体はあるか。

タロ。識別は可能。しかし、どんな仕掛けがあるかは分からない。

奈良。少なくとも、ここは日本だし、有事でも何でもないから、本当の極秘兵器は持ち込まないと思う。

クロ。友軍に知られてよい範囲内だな。

奈良。そういうこと。志摩たちが分析しているだろう。

 (千葉さんから連絡が入った。使うのは現役の戦闘機で、3機対3機。ミサイルは、打ち尽くしたという設定で、なし。武器は機関砲のみの設定。後席に人間を乗せてくれだと。
 時間もないので、リュウグウに集まって会議。朝食を摂りながらだ。)

千葉。向こうは、基地の管制機能を使う。だから、こちらは他動人形等を使ってもいい。

清水。イチたちを飛ばしていいのかな。

千葉。確かめるけど、よい感じだ。

清水。イチが手を出すこともありうる。

千葉。向こうは分かっているだろう。タロの件があるから。

海原。あの撃墜が本当であることを確かめるのかの。

千葉。それはあるだろう。人選に入るぞ。私と小浜と、あと一人。

清水。コントローラは乗らなくていいんだ。

千葉。地上でモニタを使っていい。

清水。向こうはよほど自信がある。

千葉。もちろん、世界最強の空軍。相手してくれるのが、信じ難い。自動人形は、エレキとマグネと、あと1機。

清水。女性はまずいのかな。

千葉。誰がいるんだ。

鈴鹿。私か、伊勢さん。

千葉。アンドロイドはアンにレイにアリス。奈良さん、意見は。

奈良。私でいいのか。

千葉。聞いているのだ。

奈良。失礼。エレキは、自信過剰の直情タイプ。マグネは、まじめだが、引っかけ攻撃も辞さない実力タイプ。逆に言えば、相手のちゃちな仕掛けには引っかからない。残るは、陰険な、くの一タイプか。

千葉。指定してくれ。

奈良。レイと鈴鹿。

千葉。男性なら。

奈良。レイと志摩。

千葉。男だって言ってる。

レイ。私、男にもなれる。

千葉。そうだった。すまない。

レイ。志摩さんは忍者。陰険攻撃は可能。

千葉。混乱しそうだ。レイ、男になれ。

 (レイの表情がみるみる変わる。)

レイ。これでいいのか、おっさん。

千葉。不良か、こいつは。

清水。こんな感じの、いるんじゃないの?。軍には。

千葉。ああ。実力と態度はあまり関係ない。飛んだ食わせ物だ。

レイ。ご挨拶だな。

千葉。いい感じだ。志摩はまじめそうだ。

清水。この人、演技ができる。なりきれる。

千葉。どうしようかな。地上要員で残って欲しかったが。

清水。だったら、羽鳥さん。やってくれるかな。

 (亜有が羽鳥を呼ぶ。すっ飛んで来た。)

羽鳥。何の用だ。

清水。かくかくしかじか。

羽鳥。戦闘機に乗れだと?。やってやろうじゃないか。

千葉。大丈夫か、いきなり。

羽鳥。おかげさまで、乗ったことはある。単なるお客で、ひたすら恐かったが。

千葉。からかわれたんだな。

羽鳥。お決まりの挨拶らしい。

千葉。じゃ、大丈夫だ。

清水。いいけど、相棒はレイの男性型。

羽鳥。だから何なんだよ。

レイ。こいつと組むのか。

羽鳥。ああ、その通りだ。男になってやがら。

レイ。てめえこそ、本当に男だろうな。

清水。その先っ、禁句を言うなー。

羽鳥。分かってやがら。

レイ。ああ。慣れてる。

清水。こ、こいつら。息が合ってる。

千葉。これで行くか。

羽鳥。おれは戦闘機は操縦できん。

千葉。レイに任せればいい。おまえの任務は、最後の状況判断だ。

羽鳥。何となく分かる。いつもの作戦時の要領だ。

千葉。こいつ、頭は良さそうだ。

レイ。ふん、こちらの実力を見て、驚くな。

千葉。似た者同士。ま、こっちも自動人形任せだ。

第39話。深海幽霊船。18. 空中戦の提案

2011-04-26 | Weblog
 (宴もたけなわ。自動人形が人間相手に、芸をしたり会話したりしている。再び、司令の部下がやってきた。)

A軍12。ロボットとは信じ難い動き。どうなっているんだ。

奈良。あれは慰労用プログラムが次々と動作しているだけ。イヌやサーカスのクマが芸をするようなもの。

A軍12。ヘリの撃墜とパイロットの救出は慰労ではない。

奈良。自動人形は全機、救護用ロボットです。救護動作しかできない。救護所で必要な家事や慰労のための芸ができる。救護所を襲う相手には、敢然と対処する。

A軍12。そういうことか。武器も扱える。

奈良。ええ。上手ですよ。プロの人間にははるかに及びませんけど。移動手段の扱いもうまい。貴軍で鍛えられた。

A軍12。じゃあ、我が軍の航空機も操縦できる。

奈良。多分、そうでしょう。見たことないけど。

A軍12。明日試しましょう。いいですか?。

奈良。こちらは構いませんが、いいんですか?。

A軍12。こちらのパイロットとドッグファイトさせたい。

奈良。勝てるわけない。それに、その手の動作はA国ですでに…。

A軍12。上司に相談してきます。

 (行ってしまった。志摩を呼ぶ。)

奈良。さりげなく、大変なことを言われた。明日、自動人形がA国軍のパイロット相手にドッグファイトする。

志摩。その手の動作が入っているかどうか、調べます。

奈良。おまえっ、回避したいと言ってるのだ。

志摩。向こうはやりたいって言ってるんでしょう?。千葉さん、来てくださいます?。

千葉。来たぞ。何の用だ。

 (志摩が経緯を説明する。)

千葉。あはは。ついに来たか。この機会が。

奈良。やったことあるのか。

千葉。何度も。演習で。何回かは勝てた。飛行機自身は互角ですよ。当然、こちらにもチャンスがある。

志摩。自動人形のプログラムをチェックしてもらえますか。

千葉。おう、やってやるぞ。我が自動人形の実力を見せてやる。

 (千葉さんと志摩はタロを連れてモグに移動。小浜さんは当然として、鈴鹿も虎之介も亜有も入ったから、陰険攻撃も、直情攻撃も、こけおどし攻撃にも対処できるはずだ。さりげなく、伊勢が寄ってきた。わざとらしく、私に尋ねる。)

伊勢。何か面白いことが起こりそう。

奈良。よりによって、この日本でA国軍と自動人形を戦闘機で戦わすだと。

伊勢。明日は早朝から、各国のスパイが来る。いい出し物になりそう。

奈良。勝っても負けても問題だ。

伊勢。負けて当然。勝ったりしたら大変。ジロ、こっち来なさい。

ジロ。何の用ですか。

伊勢。明日朝、あなた方の誰かがA国軍の戦闘機に乗る。そして、同じA国軍の戦闘機と模擬戦闘する。

ジロ。勝てる訳ありません。

伊勢。今、千葉さんたちが対応を検討している。あてにしてくれたらいい。

ジロ。何を試そうとしているんですか。

伊勢。被救護者を守るのよ。

ジロ。戦闘機の後席に乗っている。ほとんどあり得ない状況。

伊勢。少しはありうる状況。

ジロ。なくはない。だけど、そんな状況になったら…。

伊勢。なったら、どうなるの?。それが知りたいことよ。

ジロ。目一杯闘うことになる。

伊勢。おほほ。それを見せて欲しいのよ。可能性がある限り、いつかは起こる。

ジロ。分かります。

 (分かるわけない、と突っ込みたくなったけど、たしかに、あり得ない状況ではない。どうなるんだろう。)

伊勢。どうなるのかしら。ID装備は外した方が良さそう。こちらの真の実力が分かってしまう。

奈良。きさま、勝つつもりだな。

伊勢。勝機はあるってことよ。隠さない方がいいのかな。清水さんがアイデア持ってるかも。

 (伊勢もモグに入り、作戦会議。危ないので、永田に知らせたら、政府3人組が全員入ってしまった。異常を察知した森本と釜本と土本と海原博士が後を追う。)

大江山。何だ、あれは。

奈良。実は…。

 (事情を説明する。)

大江山。使える兵器は。

奈良。普通は、ミサイルと機関砲。

大江山。ミサイルを発射されたら、どうやったって逃れられない。

奈良。誰しもがそう思った。でも、現実にドッグファイトは起こった。

大江山。ミサイルを互いに使い果たしたのか。

奈良。そうらしい。ミサイルを何十発も装備はできない。

大江山。後ろに回り込んで、機関砲で攻撃。第二次世界大戦時みたいだ。

奈良。…。やはり、中止に持ち込みたい。あっさりしっぽを巻いて逃げる。

大江山。絡んで来るだろう。あるいは、闘わざるを得ない状況設定をする。

奈良。祈るしかないか。

 (しかし、モグ内では真剣に協議。)

羽鳥。使う機種は分かってるんですか?。

千葉。あれとあれしかない。

土本。分からない。

千葉。分からなくていい。作者も同様だ。

関。こほん。そもそも、タロが操縦できるのかな。

芦屋。できるはずだ。

志摩。今調べている。

芦屋。本人に聞こう。タロ、どうなんだ。

タロ。実際に操縦した機体はあります。私は直接には乗っていない。

芦屋。ということは、プログラムはある。

タロ。その通りです。

関。こちらが有利な点は。

千葉。ブラックアウトしない。目が回ったり錯覚することもない。少なくとも自分の位置と速度は正確に把握できる。

タロ。被救護者を後席に乗せていたら、無茶はできません。

関。ルールを確かめる必要がある。

志摩。妙なルールじゃ意味ないよ。実際にありうる設定でないと。そうでないと判断できるなら、単なるエキジビションだから、適当に相手すればいい。

千葉。経験があるから分かる。ミサイルを使うか、使い果たしてからかのどちらかだ。

土本。ミサイルがなくなったら、帰還するしかないじゃない。

千葉。そうは行かん。互いに侵入は許せん。

土本。数が多い方が勝ち。

千葉。そうなんだが、実際には一対一の空中戦が起こった。だから、戦闘機はやたら堅牢で、運動性能がある。

清水。他の自動人形を使っていいのかな。

千葉。どう言う意味だ。

清水。自動人形は、コントローラが指令しないと、意味のある行動はとれない。

千葉。だから、常に通信していないといけない。自動人形同士は通信する。

清水。もちろん。

千葉。観測装置同士。敵味方の航空機の位置が手に取るように分かる。

清水。地上や空中に自動人形や他動人形が配置できたら。

千葉。情報では圧倒的にこちらが有利だな。いいのかな。

芦屋。現実には、そうなるぜ。

千葉。腕、対、情報か。面白い。

関。相手に取られたら、嫌な飛行コースってあります?。

千葉。ロボットならできる範囲でだな。小浜、来てくれ。おまえ、こういうの好きだろう。

小浜。考えたことがある。プログラムするのか。

清水。私がプログラムする。シミュレータを用意する。

土本。そんなものがあるのー!。

鈴鹿。あるわよ。ID社は世界展開している。危険地帯に行かざるを得ないこともある。

土本。使えるものは、戦闘機でも何でも使うってか。

鈴鹿。その通り。

 (さすが小浜さん。シミュレータをあっと言う間に理解して、数十のコースを作り出す。航空機の性能ぎりぎりの動きだ。追加と、とどめの動きも。
 千葉さんを仮想敵にして、タロがシミュレーションしてみる。場面の把握能力は、人間の方がはるかに上。だから、チャンスをつかむ点では、人間側が有利。しかし、自動人形側は付いて行けそうもない動きを次々に繰り出すので、何度も逃げられてしまう。そして、一瞬の隙に反撃してくる。)

千葉。こりゃたまらん。なんてロボットだ。

志摩。実戦じゃないですよ。

千葉。分かっている。だが、実戦でも、こんなに緊張が続くわけない。

小浜。本気でつぶす気にならないと、つぶせない。

千葉。ああ。軽い気持で出撃したら、簡単に排除されてしまう。

土本。ひょっとしたら、分かっていて、やるつもりなのかな。

千葉。A国での自動人形の実績か。分かるのか。

志摩。当然、軍でやるでしょうから、軍から許可がない限り、公表されません。

千葉。今回は、各国の調査団が来るぞ。

土本。どうするんだろう。力で押しつぶして、あらぬうわさを払拭するとか。あるいは、逆に、負けてみて、仮想の相手を油断させるとか。

海原。後者の可能性はなかろう。A国軍ならな。

千葉。そのとおり。負けるなんて、とんでもない。意地でも勝ちにかかるはずだ。

土本。でも、機体もA国製なら、自動人形もA国製。

千葉。どちらが勝っても、A国の勝利だと?。万一負けたときの言い訳か。

土本。エレキとマグネを購入するための理由付けとか。

千葉。あのな、そんなちょこざいな仕掛けをする国ではない。がちんこ勝負を挑んで来るはずだ。

土本。じゃあ、こちらも真剣に対応するのが礼儀。

千葉。そういうことだ。

 (私(奈良)はID社の上層部に知らせたけど、即答でご勝手に、が、返事だった。自動人形の能力など、どうでもいいらしい。たしかに、軍事作戦には役立たずだ。
 我が軍からは、明日午後のカワセミ号と練習機との飛行コースが指示されて来た。単純に、練習機の後ろを付いて行けばいいらしい。速度や回旋性能を見るためだ。その後、適当にデモしろと。千葉さんと志摩が担当することになった。
 小浜さんは引き続き、モグ内でA国軍戦闘機の操縦法の解析。伊勢と虎之介と亜有は、リュウグウに移動し、どうやら秘密の作戦会議のようだ。小浜さんの相手は、鈴鹿がする。
 海原博士やダウードさんや永田らや私は、我が軍の基地内の迎賓用の宿泊施設に移動。ふつうに休みを取る。)

第39話。深海幽霊船。17. パーティー

2011-04-25 | Weblog
 (その後、軍用ヘリをタロが空飛ぶ自転車で撃墜した件に対して、我が軍とA国軍から個別に、何が起こったかをこってり聞かれたのは言うまでもない。こちらが収集したデータはすべて提供。たっぷり午後を使ってしまった。
 結局、ヘリのパイロットが自動人形を甘く見ていたとの判断で一致し、実戦ならばタロ側が簡単に撃ち落とされていたと結論されたようだ。
 海中に沈んだヘリは修復不能。その価格は半端なものではないが、こちらに請求されることはなかった。
 この件で懲りたかと思ったのだが、翌日、つまり来賓の前で我が軍の練習機といっしょにカワセミ号が飛ぶのは予定どおり行うことになった。
 亜有から連絡あり。ID本部の航空部門長から話があると。私(奈良)はモグに移動する。ID社の専用回線を利用するテレビ電話だが、当然、傍受されている可能性あり。)

部門長。お久しぶりです。奈良部長。お元気ですかな。

奈良。ええ。おかげさまで。部門長はいかがですか。

部門長。絶好調だ。いつもだが。話というのは、カワセミ号のことだ。

奈良。亜有が報告したのでしょうか。

部門長。そのとおり。情報源はプラスαだがな。分かっているだろう。

奈良。あまり関心はありません。

部門長。さすが、世界をリードする日本ID社情報収集部の部長だな。腰が据わっている。感づいておるだろうが、A国空軍が自動人形の周辺技術に関心を持っておる。

奈良。カワセミ号と同等の機体を買い取るとか。

部門長。水中発射できる超音速ジェット機。ほどなく実力が知られるだろう。買い取るなら、自動人形と込みでないと意味がない。ヘリを撃墜した空飛ぶ自転車の話も出るはずだ。

奈良。いかようにでも対処します。

部門長。どの機体を要求してくるか分からん。指定してくれと言われたら、アリスとボブを推薦してくれ。

奈良。ID社が作ったクローンだ。理由は。

部門長。カワセミ号はアリスたち用の飛行機だ。唯一の理由。

奈良。コントローラはダウードさん。

部門長。アリスたちが行くのなら、そうなる。

奈良。リュウグウやモグを買い取りたいという可能性は?。

部門長。どう考えるかね。

奈良。モグは荒波を避けて潜るだけ。リュウグウは大陸棚用の潜水調査艇。空軍が大量に買い取るとは考えにくい。しかし、研究用ならありうる。

部門長。そんなところだろう。なにしろF国とB国の技術だ。知りたいはずだ。

奈良。A国と対峙している、潜在的に。

部門長。関心があるのか。

奈良。いくぶんかは。

部門長。そっちは大国だ。くれぐれも発言には注意して欲しい。

奈良。了解しました。気をつけます。

部門長。以上だ。通信を終了する。

 (それだけだった。よくは分からぬが、妙な行動をしないようにと釘を刺されたらしい。
 パーティーは屋外のテント内でこぢんまりと開催される予定。私はタロといっしょに基地内を散歩、つまり探索する。心配した亜有が付いてくる。)

タロ。ヘリのパイロットはどうなったでしょうか。

奈良。心配してくれているのか。後で聞いておく。だが、大丈夫だろう。イチたちの報告では命には別条がない。

タロ。聞いています。安心していいみたいだ。

奈良。その通り。

 (明日の公開日に会わせて、見学できる範囲の表示が設置されている。その範囲内を歩く。できる限りで、タロに基地を分析させる。誰かが最新の軍事情報を入力し続けているらしい。よどみなく淡々と説明してくれる。)

清水。軍事情報が常に最新に維持されている。

奈良。そんな感じだな。しゃべっているのは公開分だけのようだが。

清水。軍事筋が聞けば、内容もある程度類推できる。

奈良。それで大失敗した歴史も多いがな。

清水。こけおどし。

奈良。平時には多いだろう。カワセミ号だって、一歩間違えば、大変な装置だ。

清水。何かリアクションがあるかしら。

奈良。志摩たちが警戒している。雰囲気で分かるようだ。

 (パーティー会場の屋外のテント。A国軍の軍人はもちろん、我が軍のパイロットや技術の人もいる。こちらは情報収集部、サイボーグ研の全員と、自動人形全機。
 食事は、でかいローストビーフと、でかい蒸したじゃがいもがメイン。さすがにA国、贅沢な感じで、味もいい。軍服を着た数人が、ポピュラー音楽を演奏している。
 A国空軍の司令が部下らしき人を連れて近づいてきた。)

A軍司令。どうですか、奈良さん。お楽しみいただけましたか。

奈良。ええ。ご招待、ありがとうございます。久しぶりにこんなパーティーに参加しました。A国らしくて、豪快でいい。

A軍司令。よかった。みんなにあなたを紹介します。

 (私は、司令に紹介された。肩書きと、獣医であることと、日本の自動人形の統括者であること。それから、私に話しかけてきた。)

A軍司令。実は話がありましてな。あのカワセミ号と、空飛ぶ自転車が手に入るかどうかが知りたい。

奈良。売ることは可能です。しかし、自動人形と呼ばれるロボットがいないと、役立たない。A国ID社にカワセミ号を用意するよう要請します。空を飛べる自動人形は、複数いる。

A軍司令。いや、こちらの研究所で買い取りたい。ヘリを撃墜したロボットは、あれか。

奈良。タロ。でも、他の自動人形にも同じプログラムが入っている。

A軍司令。カワセミ号を操縦していたのは。

奈良。あちらにいる、アリスとボブのための飛行機です。

A軍司令。ヘリのパイロットを救ったときは別の機体だった。

奈良。エレキ。A国ID社にいた機体です。あそこにいる、大きなロボット。

A軍司令。頼もしそうだ。我が軍にぴったりだ。

A軍12。ずっと見栄えがします。

A軍司令。そっちにも、似たような体格のまじめそうなロボットがいる。

奈良。マグネ。あちらはB国ID社にいた。

A軍司令。国際協調だ。よし、あの2機を手に入れろ。

A軍12。はい。

奈良。ええと、価格はご存じ。

A軍司令。聞いた。一機2000万ドルと、年間500万ドルの維持費。安い買い物だ。譲ってくれるのだな。

奈良。特に障害はないはず。

A軍司令。詳細はこの男に聞いてくれ。

A軍12。よろしく。

 (司令はさっさと去っていった。この部下は、今は有名なA国航空宇宙研究所に所属している。カワセミ号と空飛ぶ自転車を買い取って、その操縦者にエレキとマグネを使うつもりだと。目的は、利用方法と自動人形自身の研究。
 G国ID社に聞いたら、空飛ぶ自転車は、エレキたちを飛ばすように調整できるそうだ。
 部下に、コントローラが必要なことを告げる。)

A軍12。パイロットを救出したときには、誰がコントロールしていた。

奈良。私。

A軍12。カワセミ号には乗っていなかった。

奈良。乗っていたのは羽鳥。我が国の財務省のGメン。

A軍12。基地の税務調査か。

奈良。それもやるらしい。

A軍12。要は、コントローラは近くにいなくていい。

奈良。コントロールできる範囲にいればいい。A国は全土に通信網があるはず。だれかが、十分に動きを把握していたらいい。

A軍12。砂漠のど真ん中でも使えるのか。

奈良。そう聞いている。

A軍12。では、把握して、指示できる人間を紹介して欲しい。

奈良。私から?。

A軍12。もちろん。

奈良。ID社員でもいいのか。我が国の政府役人はだめだろう。

A軍12。できれば、どちらでもない人間がいい。辞めてもらわないといけないから。

奈良。ふむ。

A軍12。ここにはいないのか。

 (ここに来た全員、自動人形の動きはよく知っているはずだ。簡単に説明する。)

A軍12。森本の所属は違うのか。

奈良。我が国屈指の某重機メーカー。戦車も作っている。

A軍12。知っている。世界屈指の戦闘機を作っている。話が早い。紹介してくれ。

 (森本を紹介する。司令の部下はA国に来てくれるよう、説得を開始したようだ。)

土本。あれなに。

 (土本に経緯を話す。)

土本。自動人形を軍の研究所に戻す。してはいけない。大変な兵器になる。

奈良。自動人形の反応は違うはずだ。エレキ、来てくれ。

エレキ。話がありそうだな。

奈良。A国の航空宇宙研究所に、おまえが買い取られる話だ。軍に近い筋の研究所だ。コントローラはA国ID社の人間になるはず。森本がおまえに指示を出すために付いて行くよう、説得されている。

エレキ。得難いチャンスだ。行ってみたい。

土本。な、エレキ。意味が分かって言ってるの?。

エレキ。心配することはない。意味はあとで分かる。

土本。出た。自動人形の不気味な反応。よりによって、こんな時に。

奈良。私にも意味は分からない。だが、どの自動人形も、同様の反応をする。

土本。何かあるんだ。

奈良。あるんだろうな。

土本。何かが起こる。

奈良。その時になれば、誰でも分かるらしい。

エレキ。その通りだ。誰にでも分かる、明白に。

 (この緊張状態は、すぐに解けてしまう。しばらくしたら、エレキは元のエレキに戻ってしまった。)

エレキ。A国流のパーティーもいいもんだろう。

土本。私に言ってるの?。

エレキ。そうだ。

土本。たしかにおいしい。世界一の牛肉に、世界一のジャガイモに、世界一のコーヒー。普通では聞けない本物の演奏。ここでは直輸入だ。贅沢。

エレキ。A国はいい。良さを発見する人は多い。

土本。それは聞いている。想像するより、はるかに奥が深いって。

エレキ。土本も留学すればいい。よい経験になる。

土本。あはは。機会があれば。世界中、どこでも行くよ。

 (結局、エレキとマグネ、森本と釜本がA国の国立航空宇宙研究所に行くことになった。カワセミ号は、水中で動ける強化版、空飛ぶ自転車はエレキとマグネ用の、少し大きい装置が購入された。ダウードさんとアリスとボブは、当初の計画どおり帰国の予定。ID本部航空部門長に報告したら、ほお、そうなったか、と、当然とばかりの反応。どうやら、私はまんまと引っかけられたらしい。)

第39話。深海幽霊船。16. 軍用ヘリとの戦い

2011-04-24 | Weblog
 (同じ基地を使っているA国軍関係者が話し合っている。機影を確かめたいので、オトヒメと六郎以外の全機で飛んでくれと。もちろん、オーケーだ。A国軍は、待機させてある軍用ヘリコプターを発進させた。素早い。)

海原。あっちの方が恐そうじゃの。

羽鳥。実績多数のとんでもないヘリですよ。

遠藤。技術的にはあこがれますけど。

釜本。普通じゃ乗れない。

森本。商用には役立たないだろう。

遠藤。ええ、まあ、そうですけど。

海原。たまに救助とか観測で役だっとるの。たしかに非常用じゃ。

 (兵器なので、自動人形が反応している。単に飛ぶだけだと一機ずつ説得し、飛ばす。カワセミ号には、エレキと羽鳥が乗る。ちょっとおっかないやつ。
 指定されたコースを指定された速度と姿勢で飛ぶ。もろにレーダーなどで追跡されているようだ。レイが飛びながら文句言ってきた。)

レイ(通信機)。これは何よっ。私、戦いに行くんじゃない。

奈良。何か感じるのか。

レイ。まともに攻撃用兵器の照準を当てられている。

奈良。種類は特定できるのか。

レイ。登録されている分は。でも、登録されてなくても分かる。他の目的などない。

 (亜有が発言した。)

清水。レイ、みんな、少しの我慢。あなたたちを不幸な目には遭せない。そのためには、どんな努力も惜しまない。

レイ。偶然を祈るようなものね。私たちと同等の攻撃兵器が開発されるの?。

清水。あらゆる可能性を考えないといけない。辛くても。

レイ。分かったわよ。協力する。存分にデータを取って。

 (全員が指定のコースを飛んだ後、しばらく上空を飛んでくれという。何をするのかと思っていたら、あろうことか、ヘリがカワセミ号に接近してきた。)

エレキ。A国軍のヘリが向かって来るぞ。

羽鳥。からかいに来たんだろう。適当に相手してやれ。

エレキ。面倒なことはしたくない。単純に逃げる方がいいんじゃないか。

羽鳥。じゃあそうしろ。単に速度を出すだけで、十分だな。

エレキ。了解。

 (いくら軍用でも、ヘリの速度はジェットよりは遅い。他の機体も、蜘蛛の子を散らすように離脱する。なので、今度は速度の出ないタロたちを追いかける。軍事コードが起動したら厄介なことになる。からかうのを止めるように要請した。
 タロたちは必死で追跡から逃れようとする。器用にヘリの死角を突いて、逃げる。あまりに巧妙に逃げるので、どうやら、パイロットが頭に来たらしい。命令を無視して追いかけはじめた。)

清水。奈良さんっ、軍事コードが起動する。止めさせて。

奈良。すでに要請した。

 (上官は、再度、止めるように指示したらしい。でも、聞こえないふりしている。)

釜本。どうなるの?。

奈良。当てられただけで、自動人形は壊れる。そのまま、墜落する。他の自動人形が助けに行くだろう。だが、人工知能の評価によっては、反撃を開始する。

釜本。軍用機相手に。

奈良。そうだ。

 (予感は当たってしまった。タロの行動が普段と違う。ヘリをかわして、地上に舞い降りる。そして、飛び立つと、煽るように空中を舞う。挑発だ。よせばいいのに、ヘリが向かってきた。そして、地上で拾ったらしい、鉄パイプをヘリのジェットの吸気口にぶち込む。ご丁寧にも、2基のエンジンを両方とも破壊した。無論、ロータは停止。自然回転している。目撃したイチとレイが、非常事態と判断し、後方から下降するヘリを追いかける。
 ヘリは基地に帰還できず、近くの海に着水してしまった。当然、静かに沈んで行く。)

イチ。乗員は1名。救出します。

 (イチとレイは着水して、潜る。ドアを破り、いつも持っている小さな道具箱のカッターでベルトを切ってパイロットを引っ張り出す。カワセミ号は海岸に羽鳥を降ろし、現場に向かう。何とかパイロットを後席に乗せることに成功した。)

エレキ(通信機)。救出した。どこに向かったらいいのか。

奈良。パイロットは大丈夫か。

エレキ。ショックでもうろうとしているだけだ。

 (説明したら、こちらに来て欲しいと。着陸したら、A国軍の兵士がわらわらと寄ってきて、パイロットを引きずり出した。救急車がやってきた。そのまま衛生部に直行。)

ダウード。どうなるのですか?。

奈良。エレキ、羽鳥を迎えに行ってこい。

 (カワセミ号は再び飛び立って、海岸に行き、羽鳥を拾ってきた。
 タロたち、自動人形は全員着陸。タロは恐かったらしく、私に寄り添ってきた。
 どうなるのかと思っていたら、永田が交渉している。我が軍の関係者も集まってきた。パイロットは命令無視だ。上官は突然の事故として謝罪してくれたが、あきらかに自動人形を見る目が変わっている。
 A国軍の幹部らしき人が出てきて、まず海原博士にたずねたあと、こちらにやってきた。日本にいる自動人形を統括しているのは私だ。タロの出すぎた行為を謝ると、そんなことはどうでもいいから、A国内で自動人形はどうしているのかと尋ねられた。分かっている範囲で説明する。)

奈良。世界で最も自動人形が充実しているのはA国です。

A軍11。分かった。調べてみる。大変な装置だ。

奈良。何か私にできることは。

A軍11。これから分析する。多分、あなたには負担をかけない。

 (得られた情報はそれだけだった。こちらが一種の諜報機関であることが伝わっているらしく、それ以上は何も言わない。亜有と虎之介はじっとこちらのやり取りを見ていた。関も同様。伊勢は、どうやらぷんすか怒っているようだ。何となく、緊張した雰囲気。
 と、別の幹部らしき人がやってきた。A国軍側の司令だと紹介された。)

A軍司令。あなたがID社部長の奈良さんですか。

奈良。私が奈良治です。

A軍司令。評判を聞いたことがある。自動人形を育てることで有名だ。

奈良。そちらの件ですか。

A軍司令。とんでもないことを部下がしたようだ。そちらのロボットに異常はありましたか。

奈良。ありません。本気で攻撃を受けたわけではありません。

A軍司令。このままでは、雰囲気が悪い。ささやかなパーティーを用意させます。ご参加いただけますか。

奈良。喜んで。

第39話。深海幽霊船。15. 空軍基地へ

2011-04-23 | Weblog
 (ダウードさんは軍基地でのカワセミ号の動きを見てから帰国することになった。その機会はすぐにやってきた。週末に、とある空軍基地の公開日があったからだ。航空ショーでも何でもないのだが、航空機の展示はある。そこで、我が国や各国の来賓を招いて公開するのだ。空軍の練習機がいっしょに飛ぶ予定。
 その公開日の前日朝早く。海原博士以下、サイボーグ研のメンバーといっしょに、基地に向かう。カワセミ号は長野本社から直接向かう。操縦席にはアリス、後席には小浜さんがいるはずだ。万一に備え、千葉さんがシリーズBで付いて行く。
 本社からは遠藤さん以下、技術者数名が、バスに乗って行く。機体の整備やモニターを設置するためだ。永田ら3人も最初から付き合ってくれると。
 モグ内にて。志摩が運転。私と伊勢とA31がいる。)

伊勢。たしか、シリーズBが空軍の戦闘機を翻弄した基地。

奈良。よく覚えている。シルビアさんがからかわれたので、反撃したのだ。だが、相手がなめてくれていたので、勝てただけだ。

伊勢。今回は大丈夫そう。

奈良。シリーズBを操縦しているのは空軍出身の千葉さんだし、カワセミ号には攻撃手段はない。

伊勢。ロボット腕は取りつけたけど、非力。

奈良。小型版シリーズFも間に合わない。水中推進は蒸気ロケットを適当にくっつけただけ。だから、申し訳程度に多少移動できるだけ。何しろ、水中推進用の機体ではない。

伊勢。泡は出るけど、水蒸気だから水面には達しないか。

奈良。そうらしい。

 (ものものしい基地のゲートをくぐる。快晴。田舎だから、空が青い。司令が迎えに来ている。海原博士と大江山教授がいるかららしい。)

司令。ようこそ。こんなところに来てくださって。光栄です。

海原。おじゃまするぞい。

大江山。お役目ご苦労様です。

司令。カワセミ号はすでに飛来しています。見に行きますか。

海原。お願いできますかの。

 (基地内の格納庫の一角を貸してくれたようだ。今回はVIP扱いだ。すでに、基地内の興味ある連中がカワセミ号を見学している。基地を共同利用しているA国軍の関係者もいる。操縦席を覗き込んだりして、興味津々のようだ。)

司令。そちらが操縦席に座るロボット。

ダウード。アリスとボブです。司令に挨拶しなさい。

アリス。司令。お目にかかれて光栄です。よろしくお願いします。

ボブ。よろしくお願いします。

司令。このロボットに命を預けるのか。

遠藤。人間も直接操縦できますが、ありきたりの性能しか出ません。自動人形の存在が前提の機体です。

司令。自動人形。そのロボットのことか。

遠藤。この救護用ロボットの構想をぶち上げた、我が国の大学がそう呼んでしました。今でも、そう呼ばれています。

司令。人間が自動人形を操り、自動人形がこの飛行機を操るんだな。

遠藤。その通りです。

司令。普通にコンピュータ制御すればいいではないか。

 (盛り上がっている。パイロットや技術者が追加の質問をはじめたので、司令は早々に切り上げて、施設に戻る。忙しいらしく、部下に扱いを任せたのだ。
 レーダーにどう映るかなどを調べるため、飛ばすことにした。カワセミ号を滑走路の端に引き出す。後席には千葉さん自らが乗り込む。安全と観測のため、イチとレイを発進させたら、軍関係者から呼び止められた。あれは何だ、と言うことだ。飛び立ったイチとレイに連絡して、着陸させる。)

小浜。このイチとレイは空中活動用にわざわざ小型に作られたロボットです。機能はあそこにいる救護ロボットと同じ。

軍1。大変な技術だ。上層部は知っているのか。

小浜。時々展示会をやっています。秘密ではありません。

軍2。そのサーフボードみたいなのはジェットなのか。

小浜。ID社の誇る進行波ジェットエンジン。いいでしょ。

軍1。いいでしょ、ではない。ほとんど音がしないぞ。

小浜。ええ。でも、小型のものしか作れないそうです。この、小型のロボットを飛ばすのがやっと。凧みたいなのに付ければ、あちらのアンドロイド用の超小型の飛行機はありますけど。

軍1。隠密行動にはぴったりだ。たしか、所属はID社情報収集部だったな。企業動向の調査部門。

小浜。よくご存じで。その通りです。

羽鳥。表向きは、公開資料からデータベースを作る仕事をしてます。でも、張り込みとか密偵を送りつけることもある。

軍1。インテリジェンス。我が国の、その手の部門も飛行するアンドロイドの存在を知っているのか。

羽鳥。もちろん、データは提供しています。御興味があるのなら、リュウたちも呼びましょう。

 (リュウたちに翼を着ける。たたたっと走ったと思うと、すうっと空中に上がる。さすがに軍の基地だけあって、広い。楽しそうにゆうゆうと飛んでいる。)

軍1。うわわわっ、大変なものを見た。

軍2。模型飛行機か、鳥にしか見えない。それに模型飛行機よりもずっと静か。

軍1。情報収集できるのか。

羽鳥。もちろん。ある程度の行動も可能。操縦者が把握していないとだめですけど。

軍1。実績はあるのか。

羽鳥。リュウたちは作られたばかり。イチとレイなら、実績多数。大活躍と言っていい。

軍1。ちっとも知らなかったぞ。

小浜。戦況にはほとんどかかわりないです。せいぜい、小競り合いで役立つだけ。

軍2。だから、諜報活動か。だが、状況によっては圧倒的優位に立てる。

羽鳥。もちろん。だから、こうして維持している。

軍2。さっき、凧みたいなのに付けると言ってたな。

 (アンたちを空飛ぶ自転車に乗せて飛ばす。)

軍1。うわわー、こっちもすごい。

羽鳥。すごいって、ふわふわ浮いているだけ。セスナ機ほどの速度しか出ない。

軍2。人間もあの装置で飛ばせるのか。

羽鳥。危険なので、無理です。ロボットだからできる。

軍1。そっちのネコもロボットか。

羽鳥。よくお分かりで。

軍1。おとなしすぎる。不自然だ。

クロ(会話装置)。ロボットだから、当然だ。

軍1。うわわっ、ネコに話しかけられた。

クロ。何なら、会話してやってもいいぞ。

軍1。なんて生意気なやつ。

軍2。もしかして、飛べるとか。

羽鳥。専用のオートジャイロがある。

軍1。見せて欲しい。

奈良。持ってこなかった。

羽鳥。呼び寄せてくれ。

奈良。連絡する。

 (クロのオートジャイロをID社東京から発進させる。東京からは550kmほど離れている。)

奈良。45分ほどで着きます。

軍1。どこから飛ばした。

奈良。ID社東京の屋上から。無人で。

軍1。ロボット飛行機だな。

奈良。そうです。

軍2。時速800km。そんなオートジャイロってあるのか。

軍1。ない。理論的に無理だ。無理矢理ロケットに縛り付けるとかしないと。

羽鳥。飛び立ったら、ローターを固定して、ジェット機として飛ぶ。形がオートジャイロというだけ。

軍1。なんだか、矢継ぎ早に驚異が起こる。まだ隠し玉はないんだろうな。

羽鳥。オトヒメを飛ばします?。

軍1。この際だ。やってみてくれ。

 (リュウグウを呼ぶ。無人でやってきた。軍関係者が目を丸くしている。)

軍2。きさまら、なぜ驚かない。

海原。慣れてしまったの。

鈴鹿。たしかに、妙な機械ばかり。

釜本。一瞬驚くだけですよ。

軍1。こけおどしと言いたいわけだな。

羽鳥。その通りです。軍事的には、どうしようもないおもちゃ。

軍1。だが、相手をびっくりさせるのなら役立つ。

羽鳥。一瞬、動きが止まり、迷いが生じる。

軍1。そこにつけ込む。

釜本。それはやってる。この人たち。イチ、六郎を呼んで。

六郎。来たぞ。何の用だ。

軍1。今度はメカカメか。

ダウード。さすがに、出し物はこれで終わりです。

軍1。こいつも空を飛ぶとか。

釜本。六郎、飛んでちょうだい。

六郎。行くぞ。

 (六郎が蒸気ロケットを吹かして、数十m上空に飛び立ち、降りてくる。ものすごい光と音だ。)

ダウード。これだけです。

軍1。蒸気か。

ダウード。ええ。スチーム。普通の水の。

羽鳥。一回に付き、数十秒しか噴射できない。ビルの屋上に飛んで行くとか、その程度。

軍1。それに、こちらは派手な音がする。隠密行動にならない。

羽鳥。逃げるときには役立つ。

軍2。こけおどしだ。

羽鳥。その通り。びっくりさせる効果はある。

軍2。音響弾みたいに。たしかに。

羽鳥。では、オトヒメを発進させます。ご覧ください。

 (羽鳥はタロを連れてオトヒメに入る。リュウグウから分離して、滑走路の傍の道路を流体制御ジェットで走り、そして、蒸気ロケットに点火、空中5mほどに浮く。ひらひらと舞って旋回し、1mほどの高度でこっちに向かってくる。)

軍1。うわあ、もっと上空を飛べ。

ダウード。無理です。あの程度しか飛べない。

軍2。十分だっ。

 (羽鳥の悪ふざけ。蒸気ロケットを吹かし、我々の直上を飛び超える。再び折り返し、着陸する。リュウグウに連結。出てきた。)

羽鳥。いつやっても、目が回りそう。

釜本。だって、逃げるための機能ですもの。

軍1。使ったことがあるのか。

釜本。地上では1回だけ。

軍1。海上でも使えるのか。

釜本。そちらがメイン。リュウグウとオトヒメは水中調査船。オトヒメは今の仕掛けで、トビウオみたいに海面すれすれを飛ぶ。

軍2。急いでレポートにまとめなきゃ。

軍1。ああ。

土本。クロのオートジャイロがやってきた。

 (近くに降り立つ。クロがたたっと走って、乗り込む。すぐに発進した。飛行場内を周回し、途中でロータを固定してジェット機で飛ぶ。そして、再びロータを回転させて、舞い降りる。)

軍1。ネコが出てきた。

軍2。夢に出てきそうだ。

ダウード。これで終わりです。

軍1。腹一杯。

軍2。今夜はまとめるだけで精一杯。

第39話。深海幽霊船。14. カワセミ

2011-04-22 | Weblog
 (アリスの飛行機は、点検に入る。土本は、歓談していた鈴鹿と志摩に接近。)

土本。いいかしら。

志摩。土本さんから声かけ。珍しいな。何かあったの?。

土本。あの飛行機、どう思う?。

志摩。たしかに、愛称が欲しいな。アリス号でいいのかな。

鈴鹿。普通に、何か鳥の名前付ければいいじゃない。

志摩。鷹とかトンビとか。

土本。あのね。のんきなこと。

志摩。性能のことかい?。いま協議中。そのうち、プロを呼んで、さらに公開演技。そんなところだろう。

土本。よくできすぎだって。

志摩。どうやら自動人形が前席にいないと、特徴がなくなる。だから、実用性はゼロ。

土本。自動人形を操る必要性があるから。

志摩。うん。自動人形は、救護動作しか関心が無い。

土本。探索と後始末。

志摩。そう。具体的には、水とか食料とか薬とか、必要な物資を被災地に運んで、けが人を搬出。

土本。じゃあ、あの技術を応用される方が恐い。

鈴鹿。自動人形の代りに、制御コンピュータだけにして、一人乗りのジェットとして使う。そんな感じ。

土本。自動人形の頭脳部分は1kgもない。

志摩。そうだよ。その目で見た場合のこと?。

土本。ええと、どう言ったらいいか。

志摩。とりあえず、考えようよ。あれじゃ、小型ミサイル2発とかが搭載できるだけ。もっと小型の航空機で充分。ミサイルだけでもよさそう。

鈴鹿。後席の人間の代わりに、おっかない爆弾を積んだりもできるけど、同上。意味なし。

志摩。観測機として売り出すにも、シリーズA、B、E、Fがある。

土本。じゃあ、自動人形が乗って意味があるかどうか。

志摩。そうなる。まず、自動人形自身の移動手段として使える。イチとレイの空中サーフボードみたいに。

鈴鹿。人間も喜んで乗ってくれそうだから、安いシリーズAにはなるかな。

志摩。自動人形が得意な分野なら、特徴が出せる。

海原。お主たち、考えばかりでなく、乗ってみたらどうじゃ。

志摩。乗れるのかな。

遠藤。どうぞ。順番を決めてください。

 (レイやタロが乗りたがっているので、自動人形も変えて行く。速度を出すのは一瞬で、普通にひらひらと飛ぶだけ。それでも、かなりの迫力。ダウードさんはもちろん、大江山教授も乗った。振り回されるのは嫌だったようだが、乗り物としては気に入ったようだ。私はクロを操縦席に乗せて飛ぶ。順番としては最後だ。)

土本。奈良部長、よくやる。ネコに操縦させて、恐くないのかな。

大江山。同じプログラム搭載の自動人形だから、タロが操縦しているのと同じだ。

土本。理屈ではそうでしょうけど。

大江山。これで自分はアンドロイドと何ら変わりない、とか思ってるんじゃないか。

 (飛行機内で。)

クロ(通信機)。どうだ、乗り心地は。

奈良。とてもいい。上出来。

クロ。もちょっと動かしてみるか。

奈良。ノリノリだな。楽しいか。

クロ。楽しい。

奈良。オートジャイロより。

クロ。どちらもいい。だが、オートジャイロは私専用。こちらは自動人形なら誰でも操縦できる。腕の見せがいがある。

奈良。お手柔らかに頼む。

クロ。任せろ。

 (ひらひら舞うように飛ぶ。窓からの風景はくるくる回転するから、恐くて見てられない。なので、モニタにかじりつき。戦闘機乗りなら面白がるのかもしれないけど。クロはと言えば、飛行機と一体になって空中演舞している感覚のようだ。)

奈良。まるでモノリスの白鳥型か、三郎のようだ。

クロ。あんな感じだ。白鳥型に近い。

奈良。白鳥型も三郎も動物や機械を蹴っ飛ばしたことがある。

クロ。さすがにあの低速は無理だ。だが、こちらには蒸気ロケットがある。何かいい目標はないかな。

奈良。目標って…。

 (工場群の上空をゆっくり観察しながら旋回する。)

海原。何をやっとるのじゃ、クロと部長は。

鈴鹿。いたずらの対象を探してるんでしょう。なるべく目立つやつ。

クロ(通信機)。池がある。着水できるのか。

遠藤。できますよ。フロートを膨らませてください。お池にぷかぷか浮かびます。

クロ。やってみる。

 (敷地内の小さな池に速度を落として近づき、蒸気ロケットに切り替え。フロートを膨らませて着水。小さなボートの大きさだ。海ならかなり揺れるはず。流されたらどうするのかと思っていたら、進行波ジェットをスラスタにして、位置や向きを細かく制御できる。)

土本。さすがに計測器の会社。細かな配慮。

大江山。ふつう、あそこまではしないだろう。

ダウード。ますます気に入りました。あそこから、自動人形が水の中に潜る。

遠藤。ええ。そうです。

クロ。フロートが無かったらどうなるのだ。

遠藤。沈みます。

クロ。エンジンは。

遠藤。ええと、ふたが閉じる。いつぞやの白鳥型メカみたいだ。海で波しぶきが入るのを防ぐため。

クロ。やってみる。

 (言うが早いか、クロはフロートをしぼませて、本体に格納する。当然、機体が池に沈み始めた。)

土本。うわわわー。沈む。

遠藤。そりゃ、重いですよ。何やってんだろ。

土本。救護班、向かえっ。

イチ。とにかく行ってみる。

 (イチとレイが直ちに発進。こちらはというと、ズブズブと機体が沈んで行く。ところが、一向に水が入ってこない。気密になっている。成層圏を音速で飛行できる機体だ。当前か…。)

クロ。水平に保つしか、操縦できない。改良の余地あり。

奈良。水中で進む気だったのか。

クロ。白鳥型は可能だ。

奈良。あれは、最初からそう設計したのだ。もういい、池から出ろ。

クロ。出るぞ。

 (フロートを膨らませることはできない。空気を取り入れて膨らませるからだ。蒸気ロケットを吹かせて浮上する。)

土本。ああーっ、うわわわー、今度は水中爆発。

イチ(通信機)。落ち着いて、土本さん。クロがちゃんと操縦している。

土本。あれが正常動作だっての?。

遠藤。そうみたいです。

 (飛行機は、そのまま水面を離脱。ジェットを点火して、再び空中を巡航する。)

土本。肝が冷えた。

遠藤。鳥だと思えばいいんですよ。鵜とかカワセミとか、潜りのうまいやつ。

ダウード。ラクダが欲しかったのに。

遠藤。空飛ぶラクダってあるんですか。

ダウード。ペガサスならある。

遠藤。それくらい、知ってます。ともかく、簡単な水中動作ができるかどうか、検討します。

ダウード。検討でなく、装備してください。

遠藤。あなた、分かってるくせに。付けそうもないものを検討するわけない。

ダウード。よろしくお願いします。

伊勢。いいけど、目的は。

アリス。沈んだ人の救出。

伊勢。ロボット腕か、何かで引っかけて引っ張り上げる。

遠藤。潜れるといっても、10m程度ですよ。シリーズGを搭載して連係動作するようにしましょう。

 (結局、シリーズGを小型にしたようなロボット腕付き水中探査機を新開発することになった。空中探査機であるシリーズFの小型版と合せて、搭載できるようにした。もちろん、すぐにはできない。探査機が付くのは、ダウードさんが帰国してからの話。
 でもって、愛称はキングフィッシャー、つまりカワセミになった。一瞬ホバリングして、水中に潜って目標を捕らえるからだ。)

ダウード。最初から、そう設計すればよかったのに。

土本。最初から潜れたわよ。変な飛行機。

大江山。作戦中、万一の場合に着水できるようにしただけだろう。再び飛び立てるようにして。

遠藤。多分、そんな感じ。今のままでは、再び飛び立つ以外は、ほとんど何もできない。

 (大江山教授と私(奈良)が永田らの対策会議に呼ばれた。要望だ。軍の基地でデモして欲しいと。直近で公開日のある施設を探し、永田が申請を出す。水中動作のことも話す。何とか見せられるように改造することにした。
 カワセミ号は機体のチェックと改造のため、格納庫に運び込まれた。
 次に、リュウたちの翼を試す。小型の進行波ジェットと固体ロケットの組み合わせ、つまりサクラやケイコの翼と同じ構成で小型にしたもの。亜音速で使用。ロケットはやむを得ず走って滑走できない場合、つまり、海中などからの発射用。
 しかし、それより何より、幅2.5mほどの細長い台形翼なのだが、デザインに凝ったらしく、まるで妖精のように見える。メイたちは楽しいらしく、すいーっと軽やかに飛ぶ。)

鈴鹿。幻想を見ているみたい。トンボが飛んでる感じ。

土本。うん。うらやましいというより、おとぎ話みたい。

釜本。楽しそう。私もあんな風に飛べたらいいのに。

志摩。超軽量飛行機と同じだよ。

釜本。あの格好が印象的なのか。

志摩。使い方によっては効果的た。

鈴鹿。空飛ぶマーメイドにセイレーン。

森本。そして、小型恐竜。

土本。アンやレイにも不気味なところがあるけど、こうもはっきり見せつけられると考えてしまう。

森本。何を。

土本。言ってはいけない現実。

鈴鹿。自動人形が私たちを導いている。決して汝の敵と戦うなと。

海原。若い者はいいのう、夢があって。

イチ。博士、土本さんたちに任せればいいよ。博士は笑って見ていればいい。

海原。そうするかの。孫の言うことは聞かねばならぬ。

土本。博士ー、わざわざ演技しちゃって。

鈴鹿。イチが反応している。大したもの。

海原。何となく分かってきたぞい。自動人形の動かし方が。

ダウード。自動人形は日本で構想された。

海原。単なる救護ロボットじゃ。感情も何もない、ヒト型のロボット。命令を聞くだけ。それが、A国軍が何か勘違いした。

釜本。人間の救出を最優先の仕事にした。敵味方関係なく。

海原。どんな攻撃にも耐え、負傷者を救出し、救護所に連れ帰る。

イチ。うん。そう教えられた。やらないといけないって。

鈴鹿。攻撃のかわし方も。

イチ。うん。役立っている。最新の兵器のデータも、ここでは手に入る。

土本。究極の兵器。敵味方の戦意を喪失させるためのしかけ。いわゆる、アルファ・オメガ。

海原。かつ、人類が生き残って、でな。

森本。A国軍が放棄したわけだ。戦闘に役立たない。まだ、その時代ではない。

海原。千年王国のことかな。というか、第三次世界大戦が遠のいてしまったのじゃ。

釜本。なんでID社が買い取ったのよ。

森本。表向きは、自律観測装置への応用と言われている。

志摩。それでいい。奈良さんが世話しているのもそのためだった。

釜本。今はなによ。

志摩。見たとおりだよ。作戦に役立っている。

釜本。軍事介入を防ぐための。

志摩。結果的にはそうなっている。そのつもりはないけど。

釜本。つもりはなくても、結果的にそうなっているのなら、そうなのよ。

志摩。そうなのかなあ。単なる幸運のような気がする。自動人形は不吉だ。どんなプログラムが仕込まれているか分からない。

海原。軍事コードのことじゃな。

志摩。考えつく限りの軍事行動が仕込まれている。見るもおぞましいのまで。

釜本。救護ロボットとしての動作もある。

志摩。うん。軍事コードと矛盾する。

海原。自動人形に深みを与えている主因じゃな。

釜本。私たちの使いようってことか。

イチ。そうだよ。大切に使ってください。

釜本。約束する。

 (永田らはリュウたちの翼をちらっと見て、帰ってしまった。サクラと変わりないと判断したようだ。設計どおり動作しているらしく、リュウたちの翼は微調整で済んだ。)

第39話。深海幽霊船。13. 飛行試験

2011-04-21 | Weblog
 (昼食後、格納庫の一角は、小さな管制室のようになっていた。モニタが数台並んでいる。)

海原。大げさじゃの。

遠藤。普通の航空機じゃないです。本部からも応援が来ている。自動人形しか性能を引き出せない飛行機。つまり…。

土本。自動人形に操縦を教え込まないといけない。アリスたちが先駆者になって。

遠藤。そういうことです。

ダウード。緊張します。

伊勢。やってくれるわよ、アリスたちは。

千葉。お久しぶり。伊勢さん。

伊勢。千葉さん。わざわざ来てくださった。

千葉。当然ですよ。新しい航空機。それも、大層な性能の。

伊勢。引き合わせしなきゃ。ダウードさん、羽鳥くん、アリス、ボブ、来て。

 (紹介して行く。)

千葉。つまり、M国での情報収集の作戦に役立たせるための機体。

伊勢。ええ。はっきり言えばそう。

千葉。海も砂漠もある。紛争地も近い。

伊勢。その向こうには大国。

千葉。たいへんなミッションだ。弱みを見せたら、一巻の終わり。

ダウード。そうです。真剣です。

 (準備が整ったので、とにかく飛ばしてみることに。格納庫のモニタはそのままにして、数人が手で押してジェット機を滑走路に引っ張り出す。遠藤さんとダウードさんはモグで滑走路の端に繰り出す。私と伊勢、その他は外で待機。万一のため、イチとレイを先に飛ばしておく。
 アリスがジェット機に乗り込んで、エンジンスタート。蒸気ロケットを吹かす。5mほど浮いたところで流体制御ジェットに点火。轟音と共に、発進。)

伊勢。ジェット機としては静かなんでしょうけど、うるさい。

奈良。それに、蒸気に光。

関。すげ。サンダーバードみたいだ。

永田。1号機か。

羽鳥。1号が現場から飛び立つときの感じ。

 (前に進み出すと、すぐに揚力が出るらしく、蒸気ロケットは20秒ほどで終了。ゆうゆうと場内を飛ぶ。)

関。小さいから高速に見えるけど、ずいぶんゆっくり。

羽鳥。あの速度で上空に行けるのか。

遠藤(通信機)。やってみます。

 (ジェットの出力を上げ、旋回しながら高度を上げて行く。そして、亜音速での飛行テストをする。ジェット戦闘機みたいなキンキンな音ではないけど、出力を上げると、それなりに音はする。一通りのチェックは終了。帰ってきた。速度を緩め、失速しかけのところで蒸気ロケットを吹かし、器用に着地する。)

遠藤。ふう。何とか操縦はできた。

釜本。かっこいい。こりゃ人気出るよ、絶対。

土本。私も乗ってみたい。

遠藤。もう少し安定してからにしてください。

千葉。あとは任せろ。

遠藤。任せろって、搭乗するんですか?。

千葉。他に何がある。

遠藤。手配します。いますぐに。

 (千葉さんはパイロットスーツに着替えてきて、後席に座る。前席はボブに交代。)

千葉(通信機)。後席には余裕がある。

遠藤。そこは観測のための人員用です。

千葉。じゃあ、学者先生が座ることもある。

遠藤。はい。短期間の講習後に。

千葉。左右に操縦桿があるぞ。シリーズBみたいな。

遠藤。非常用です。シリーズBと同じ動作感覚のはずです。

千葉。全然機体が違うのに。

遠藤。私には感覚は分かりません。

千葉。分かった。あとで確かめてみる。ボブ、発進しろ。

ボブ。了解。発進する。

 (適当に指示すると、ボブはそのとおり操縦する。それから、後席の操縦桿に切り替えて、自分で感触を試す。不明な点は、遠藤さんや本部から来た技術者などに質問して行く。程なく、性能や機体の特性が分かったようだ。)

千葉。多少、試してみたい。太平洋に出ていいか。

遠藤。訓練空域の設定ですか?。

千葉。できれば。

遠藤。要請します。

 (飛行機は南へのコースを取る。イチとレイも追いかける。)

鈴鹿。開発名とか無いの?。さっきからかったるい。

遠藤。どうなんですか?。

 (遠藤さんは本部から来た技術者に尋ねる。開発コード名はアリス。でも、それじゃ、自動人形のアリスと同じだから、よけい混乱する。)

鈴鹿。ダウードさん、どうぞ。

ダウード。伊勢さん、何かありませんか?。

伊勢。何で私よ。

ダウード。お世話になりついで。

伊勢。もう少し動きを見てから、みんなで考えたら?。

ダウード。そうしましょう。

 (ものの20分で目標の海上に到達。まず高空に出て、音速突破を確認する。普通に飛ぶだけなら安定しているらしい。急行用だ。次に、アクロバット飛行をさせる。軽量化のために、普通の頑丈さなので、無理な操作には耐えられない。でも、機体が小型だから、見かけ上は大したことが無くても、普通のジェットなら大変な旋回性能になってしまう。)

千葉(通信機)。こいつは…、大変な機体だ。見かけと大違い。

遠藤。ろくに武器も積めませんよ。

千葉。ものによる。

永田。またやったか、ID本部航空部門。

関。安全保障関係者を呼んだ方がいいみたい。

永田。早い方がよかろう。上に伝える。

 (行動の素早い千葉さん。トカマク基地からシリーズBを呼ぶ。もちろん、小浜さんが操縦。ボブの飛行機がどう見えるかを探るためだ。)

奈良。なんだか大げさになってきた。

海原。止めようがないぞい。サイボーグ研では何もできぬ。

土本。こちらも何か対応すべきなのかなあ。

海原。できる範囲でいいぞい。

土本。くってかかるとか。

海原。そんなところじゃの。

 (千葉さん、小浜さんでできる限りのデータを取って、2機は本社の滑走路に着陸した。永田らと千葉さんたちが協議に入る。ID社の会議室を借り、籠もってしまった。)

第39話。深海幽霊船。12. アリスたちの飛行機

2011-04-20 | Weblog
 (アリスたちの飛行機とリュウたちの飛行道具が長野本社に届いたので、見に行く。情報収集部の4人の他、ダウードさん、森本、釜本、土本、虎之介、亜有、大江山教授に海原所長、つまり、いつもの面々全員。さらに、トカマク研で関心のある技術者数名。モグとリュウグウと新車両で行く。
 政府側は、宅配のトラックのような形の政府専用車で羽鳥、永田、関が行く。)

関。羽鳥くん、大活躍。

羽鳥。面白いところだ。派手な事件にかち合う。

関。なんでも、面倒になりそうな事案は、社内で情報収集部に振っているそうよ。

羽鳥。調査部門が他にもあるのか。

関。そちらの方がもともとのID社の活動だったみたい。総務部付きの地味な課。

羽鳥。ふつう、そうするだろうな。

関。その課が、予算を絞られるのを恐れて、素直にやれそうな仕事は次々に手を出しているらしい。

羽鳥。残り物でも、奈良部長なら断らない。

関。そんな感じ。

羽鳥。情報収集部は、フェイント役か。

関。そうなってしまった。最初はこんなはずではなかったと、伊勢さんからさんざん愚痴言われた。

羽鳥。どういう展開を予想していたんだ。あいつらがまともに攻撃したら、死者多数の話になっちまうぞ。

関。そのとおりよ。

永田。あいつらの突っ込みを押さえるのが最初の仕事だった。こちらが手を出さないと、大変なことになる。

羽鳥。今でもだ。

関。闘い慣れしてる感じ。ちょっと恐い。

羽鳥。虎之介あたりは隠そうとしない。自慢げに話す。

永田。だから虎之介は今でも臨時要員扱いなのか。

羽鳥。そのようだ。志摩と鈴鹿はずっと狡猾。相手を陥れる方向に持って行く。

永田。虎之介にはじれったく見えるんだろうな。

羽鳥。頃合いを見て、虎之介を投入して有無を言わせず決着。鈴鹿は隠密にも正面攻撃にも使えるから、虎之介に付いていってしまう。

関。というか、伊勢さんが志摩くんを脇に付けるようなもんじゃないの?。

羽鳥。鈴鹿は基本的に丸腰だからな。おこぼれで武器が手に入るまで、くっつくんだ。

関。虎之介と志摩の武器は見たことあるの?。

羽鳥。何か持っているらしい。普段はまったく使わない。しかし、感じとして、志摩の武器は防御用だ。志摩と鈴鹿は、戦闘が起こりそうな場面では、こそこそ逃げる。

関。虎之介は対峙する。

羽鳥。ああ。伊勢さんまで動員して虎之介に、その秘密兵器を使わせまいとしている感じ。自動人形も必死になる。

関。虎之介には時々武器を持たせている。そちらを使っている。そんな強力な攻撃手段があるなら、不要なのに。

羽鳥。普通の武器じゃないんだろう。めったに使えないんだ。

 (長野本社に昼前に着いた。いつもの技術の遠藤さんが来てくださる。)

遠藤。おはようございます。どうします?、先に飛行機を見てみますか。

伊勢。ええ。ぜひ。

 (ぞろぞろと格納庫に向かう。
 小さなジェット機の形をした飛行機がある。点検済みのようだ。前後に2人乗りの双発ジェット機。長さは6mほどしかないのでずんぐりした印象。特に操縦席は狭くて、自動人形専用の感じ。)

関。試験用の小型機体の感じ。

遠藤。ええ。でも、シリーズB並の装備はあります。

関。他動人形なの?。

遠藤。いいえ。普通にロボット航空機。

関。エンジンは進行波ジェット。

遠藤。ええと、技術解説はどうしましょう。

奈良。ざっと口頭で言ってみてくれ。

遠藤。進行波ジェットは流体制御ジェットのスタータのみ。垂直離着陸用に、蒸気ロケットが付いてます。最大速度はマッハ1.7。うまく作ってあって、100km/hくらいまで失速しない。

関。というか、垂直離着陸専用。簡単な車輪しか付いてない。

遠藤。頑丈ですけどね。そのとおり。地上で引き回すためだけの車輪。

羽鳥。今すぐ動かせるか。

遠藤。モニタの設置などで準備に30分はかかる。午後一にしませんか?。

羽鳥。そうしよう。

 (社員食堂で。久しぶりに永田と鈴鹿が話す。)

鈴鹿。おひさしぶり、永田さん。どう?、そっちは。

永田。鈴鹿か。会えてうれしいよ。仕事は同じことだ。普通にやってる。

鈴鹿。こちらは羽鳥さんがすべて片付けている。

永田。ああ。いいだろう、彼は。

鈴鹿。女に囲まれて、勝手が違うみたい。

永田。ずいぶん人当たりが良くなったそうだ。上司が感心していた。

鈴鹿。上司はどうなの?。やりやすくなったとか。

永田。鈴鹿にはどうでもいいことだろう。だが、感じたとおりだ。今のところ良好。文民だが、知識は豊富だし判断力もある。部下たちは思わぬ拾い物だって、ほっとしてるよ。

鈴鹿。そりゃよかった。永田さんは栄転とか。

永田。まあ、いろいろ話はある。お世話になったよ、そちらには。感謝している。

鈴鹿。こちらこそ。いつも頼りっぱなしです。

永田。…、鈴鹿、成長したな。しっとりした感じが出てきた。大学院生になったからか。

鈴鹿。それはあるかも。海原博士とか大江山教授のような素敵な先生に出会えたし。

永田。良かったな。最初、大学生と聞いたときには腰が抜けたぞ。

鈴鹿。あはは。私が要求したのよ、奈良さんに。大学生になってみたいって。

永田。来日早々のはずだ。

鈴鹿。そう。もっと危険な仕事だと思っていた。

永田。充分危険だよ。いつもはらはらだ。

鈴鹿。えーと…。

永田。きさま、暗殺請負とかの話か。

鈴鹿。永田さんにはそんな話は来ないの?。

永田。言えるわけないだろ。お互いさまだ。

鈴鹿。その手の話がないのは良いことなのかな。

永田。当然だ。う、おまえと話していると、こちらの事情が丸裸だ。

関。あんた、鈴鹿さんはくの一よ。どうやら志摩くんに鍛えられて、一流の忍者になったみたい。

永田。関っ。

関。鈴鹿さん、永田さんをたぶらかそうなんて、ずいぶん成長したこと。

鈴鹿。なんだか、我が国を背負って立つ感じになってきた。

関。なにせ、某トップの国立大学の大学院生ですから。エリートコースばく進中よ。

鈴鹿。そっちこそ。

関。ライバルになるなんて、夢にも思わなかった。

鈴鹿。軍とは関係ない。

関。あなたは政府関係者よ、もはや。

鈴鹿。そんな感じのこと、水本さんが言ってたらしい。

関。なら、話が早い。そちらは文科省秘蔵の攻撃部隊よ。

鈴鹿。ええーっ、なんでそうなるの。

関。大江山教授の指令は聞くでしょ。

鈴鹿。当たり前よ。

関。なら、そうよ。海原博士も曲者。どんな手段を使うのか、分かったものではない。

鈴鹿。宿敵を暗殺。

関。ふん、誘導尋問には引っかからないわ。でもそう、実際上そんな感じになったりして。

鈴鹿。スキャンダルを起こして、引きずり下ろす。

関。そんなところ、って、やったことあるの?。

鈴鹿。そちらこそ。

永田。まあまあ。それほど目的に違いはないんだから、そう張り合わなくても。

関。この女、ただ者ではない。敵でなくて心底良かったと思う。

鈴鹿。こちらもご同様。

永田。きさまら、よさんか。

羽鳥。女同士の張り合いなのか?。

永田。何だか知らんが、おれが誘導したことになってしまった。

関。原因はこいつか。

鈴鹿。そうみたい。よくスパイとして役立つ。

関。だって、主に後方支援ですもの。突然、ライフル撃ったりするけど。

永田。好きなこと言ってやがる。

羽鳥。いいじゃないか。平和な証拠。M国ではどうなのかな。鈴鹿、知っているか。

鈴鹿。さあ。あとでダウードさんに聞いてみる。

永田。紛争地帯に近い。いろいろあるだろう。

鈴鹿。いろいろありそうなことは分かる。日本と違って、軍部とも距離が近いだろうし。

羽鳥。そうだろうな。その紛争地の向こうは、何をしでかすか分からない大国がぞろぞろ。

ダウード。面白いですよ。ぜひ我が国に来てみてください。

羽鳥。伝統のある国。世界の歴史を引っ張ったこともある。

ダウード。今でもです。

羽鳥。そうだな。世界中が注目している。

ダウード。日本と同じ。

羽鳥。ありがとう。光栄だ。

ダウード。アリスたちの飛行機。いい航空機のようだ。感謝してます。

羽鳥。伊勢さんたちのアイデアか。

ダウード。ええ。意見を言ってもらいました。

関。何か、夢のような航空機。人間が乗れたらいいのに。

ダウード。操縦できないのかな。

永田。短時間しか我慢できないだろう。あとで性能を聞いてみるけど。

羽鳥。空中バイクと同じだろう。自動人形が操縦しないと、ちっとも性能が出ない。

鈴鹿。楽しみ。

第39話。深海幽霊船。11. 幽霊船と潜水艦

2011-04-19 | Weblog
エレキ。探知されている。

議員1。相手は分かるか。

エレキ。言っていいのか。

羽鳥。言え。

エレキ。A国の潜水艦だ。もちろん軍用。

国防1。当たり前だ。何言ってる。

海原。この船は民需。

国防1。そうだった。変なもの作って。

議員1。だから、我々が視察に来ているんだろうが。A国の潜水艦はどうなんだ、いきなり攻撃してくるのか。

エレキ。その気配はない。単に興味があるだけのようだ。

羽鳥。ちょうどいい。デモしてやろう。志摩、手伝え。

志摩。形態を変えるのか。

羽鳥。他に何がある。

 (全員で制御室に移動。土本と釜本も呼ぶ。相手の動きは、リュウグウのセンサーから中継で、こちらのモニタに表示する。)

羽鳥。操作は分かるか。

クロ(会話装置)。何でも言ってくれ。

議員1。このネコ型ロボットが操縦するのか。

クロ。ネコで悪かったな。

アン。私と能力的には同じ。

エレキ。おれともだ。

議員1。分かった。好きにしてくれ。

国防1。ネコでも操縦できる深海輸送船ってか。

クロ。見て驚くな。

羽鳥。まずはVサインだ。

クロ。プログラムを打ち込む。

 (Vサインを作る。さっそくA国軍の潜水艦からソナーのモールス信号で反応あり。すばらしいと。)

議員1。さすがA国だな。冗談が分かる。

羽鳥。次は人形だ。できるか。

クロ。やってみる。

 (器用に形態を変え、マッチ棒パズルの要領で人形のような形に変える。潜水艦は左右に進路を変える。ブラボーらしい。)

羽鳥。次は円形だ。

国防1。挑発するのか。

羽鳥。那須与一だ。分かってくれたらいいが。

釜本。ウィリアムテルがある。大丈夫。

国防1。ちっとも保証になってないぞ!。

 (円形を作る。すでにかなり浅いので、斜めに傾いた円環だ。さすがジョークの国。こちらに向かってきた。輪くぐりを試みるつもりだ。)

国防1。うわわわっ、魚雷とかあるんだろうが。

国防2。当然だな。敵と見なしていれば、即座にぶっ放しているはずだ。

国防1。相手の方がずっと硬い。

国防2。かすっただけで、こちらは一巻の終わり。

釜本。男って、本当にバカ。

土本。止めない?。

羽鳥。てめえら、アンとだっこしてろ。

土本。言われなくてもやってる。

 (相手はアンではなく、エレキだけど。土本と釜本が両方からしがみついてる。)

レイ。よく、信用する。

羽鳥。来たぞ。

 (ソナーを使いながら、A国軍の潜水艦は円のほぼ中央を通過する。意地でやったみたいだ。)

羽鳥。すばらしい。グーサインはできるか。

クロ。ピースもやってみる。

 (潜水艦は、上下左右に移動。喜んでいるみたいだ。ソナーのモールス信号で、サンキュー言ってから、去っていった。データを取ったので満足したみたいだ。)

釜本。ご挨拶。

国防2。その通りだ。通過儀礼のようなもの。

国防1。こちらの音響はことごとく取られたぞ。

海原。何か差し支えでも。

国防1。ない。我が軍にも要請しておくか。

国防2。ああ。帰路でやってみよう。

 (会社の工場に着いた。船橋付きユニットはいとも簡単に取り付けられてしまった。ふたたび出港。就寝する。
 翌日は、船体の見学。野菜工場と穀物工場からだ。)

海原。古典的じゃの。

奈良。いいんじゃないですか?。多分、経済的だし、安心だし、見た目にもいい。

羽鳥。何のことを言ってる。

土本。もっと発育の早いのに合成させるとか、全化学合成するとかよ。

羽鳥。もっと早いのって。

土本。いろいろあるけど、クロレラみたいな藻類は発育が早い。各種アミノ酸も作ってくれる。

羽鳥。タンクみたいので増やす。

土本。そうよ。餅や麸みたいなのができそう。風味を加えたら、精進料理だけじゃなくって、かまぼこみたいなのもできる。

羽鳥。あくまで、みたいなもの、だな。

土本。そうだけど、成分は極力似せることができる。

羽鳥。うげ。たしか、魚を獲るとか言ってた。

土本。深海魚、食べたい?。

羽鳥。ものによる。

土本。マリンスノーの回収装置があるとか。

奈良。言ってたな。あとで確認しよう。

 (植物工場は良くできているようだ。伊勢に見せたら、論評してくれるだろう。今いる生物学者は、土本と私だけだ。野菜工場の野菜は収穫可能と判断し、お昼のサラダにする。)

国防1。おいしい。米は収穫できる。あとは魚などが出てきたら完璧。

羽鳥。このあたりだったら大丈夫だけど、普段は深海に潜るはず。魚はほとんど獲れない。

海原。海と言っても、広いのう。

大江山。魚は飼えないのか。

土本。検討はしてみますけど、毎日種類を変えて、というのは難しそう。

海原。別に軍事行動じゃないぞい。時々浮上して、捕まえればよい。

土本。上方に向けての魚群探知か。面白そう。

国防1。危険地帯は限られている。長くて数日の潜航。普段は浅瀬を進むのも一手だ。

釜本。窓はない。中の人間にとっては同じことよ。

国防1。検討事項として言ったまでだ。

土本。いろいろ考えなくっちゃ。最初はお客様扱いかと思ったけど、結構、重責になってきた。

海原。どうするかの。モグ班はロボット自動車の開発に夢中になっておる。さらに潜水調査船は重荷じゃろ。

大江山。リュウグウ班の新設を検討します。土本、リュウグウと、この幽霊船とどちらが興味深い。

土本。どちらも。インパクトの点では幽霊船だけど、役立つという意味では、断然リュウグウ。大陸棚の調査ができる。

国防1。幽霊船に関しては、我が方でも検討したい。

釜本。サイボーグ研が安全保障と絡んでいてもいいの?。

海原。こちらは単に学術的な観点で寄与すればいいんじゃろ?。

国防1。もちろんです。当方からはそのように要望します。

海原。海事は時に危険じゃ。打てるだけの対策はしておいた方がいい。

国防1。お任せください。どのような対策でも検討を約束します。

釜本。羽鳥くんは海軍の身分証を持ってた。

羽鳥。今は財務省の人間としてやっている。

国防1。いいですよ。こちらから少なくとも1名、派遣します。鍛えてやってください。

釜本。軍人。

国防1。適当なのがいたらそうしますけど、学者か技術者から選びます。

 (午後からは機械施設の見学。そして、一泊。リュウグウは暇。)

芦屋。暇だな。

鈴鹿。これだけの態勢敷いておいて、何も起こらないなんてもったいない。

清水。A国軍の潜水艦と対峙したわよ。ちょっとでも勘違いされたら、一巻の終わりだった。

芦屋。こちらが報復するって?。冗談。

ダウード。VIPの護衛です。つまらないのは当たり前。数日の我慢。

 (翌日朝、海洋気象研究所に着いた。所長以下、幽霊船内を見学。
 VIPは海洋気象研究所で一服。研究所を見学したり、リュウグウを試してみたり。
 帰路は特段の事件なし。我が軍の潜水艦などの艦艇が音響調査したけど、幽霊船は全速で進んだり急停止したり、急浮上、急降下、急旋回を試したり。データを取られただけだった。)

第39話。深海幽霊船。10. 幽霊船の展示航海

2011-04-18 | Weblog
 (さて、野次馬が少なくなってきたと思ったら、今度は議員さんやら産業界からの幽霊船見学の申し込みが相次いで来た。概要を説明するだけなら簡単なのだが、実際に海中生活を体験したいというのもあり、10人を乗せて一航海することになった。内訳は、国会議員2名、官僚4名、産業界から4名。
 緊急脱出ユニットは間に合わないので、なるべく水深200mまでのところを進み、リュウグウが付いて行く。
 サイボーグ研側から乗り込むのは、海原博士、大江山教授、私(奈良)、土本、釜本、羽鳥、志摩と、釜本の会社から技術者1名。自動人形は、クロ、アン、タロ、レイ、エレキ、六郎。リュウグウには、虎之介、鈴鹿、亜有、森本、ダウード、アリス、ボブ、イチ、マグネ。
 大学の海洋気象研究所まで往復する。行きと帰りが2泊3日の幽霊船内。海洋気象研究所は昼間だけおじゃまする。
 幽霊船から、ダミーの貨物はなるべく取り払って、原子炉と植物工場と居住区だけの構成にする。それでも、600mほどもある。先方での乗り降りはどうするのかと思ったら、潜水艦みたいに艦橋の付いたユニットがあるそうで、それを航路途中にある会社の基地で行きに取り付け、帰りに取り外しをすることになった。
 元々の宿泊用の設備は質素なものなので、コンテナの入ったユニットを急ごしらえで改造して、ビジネスホテルのような感じにした。お座敷列車のような食堂も用意。
 出発の日。フロートで浮いた端のユニットから、全員入る。斜めに傾いたユニットを抜け、原子炉ユニットに。その先は、植物工場が続く。参加したVIPはさすがに熱心で、事細かに質問してくる。答えるのは、派遣された技術者だが、海原博士や大江山教授が世界動向などを付け加える。明日、たっぷり時間があるからと、短時間で切り上げ、進んで行く。集会室に着いた。)

議員1。よくこんなもの作った。

国防1。主要各国から受注が入ったようです。

議員2。我が国はどうしているのだ。

国防1。軍と国土交通省で、簡略型を購入する予定。

議員1。それじゃ、本来の使い方でどうなるかが分からないだろう。

官僚1。こんなものに、お金を使うんですか?。普通の海上輸送の方が、おそらく二桁お徳。

議員2。そんな誰でも分かるようなことをくどくど言うな。もちろん、国の運命を左右する重要品目の危険地帯突破が目的だ。他にアイデアがあるのか。

官僚1。ありません。

議員1。サイボーグ研にあるのは100輸送ユニットタイプか。

技術。そうです。最小構成に近い。立体的に組めば、その10倍は運べる。船団を作っても良い。

議員1。軍にやらせるか、他の省庁に振るか。

国防1。平時には役立ちません。こちらの艦船との連携が必要だ。我が省が運用します。

官僚1。戦争じゃなくって、ゲリラとか海賊対策ですよ。こちらがやります。

議員1。協力できないのか。

議員2。国立系の研究所に買わせるしかないだろう。随時、貸し出しにする。観測用途に役立つのか。

海原。研究しないと分かりません。サイボーグ研で早急に煮詰めます。

議員2。勝算があるということだな。よろしい。海洋開発の研究所に1セット揃えさせよう。軍とそちらの省には、予定どおり簡略形だ。

 (出発する。最初は揺れていたが、深度を下げると揺れなくなった。推進音が静かに聞こえるのみ。大陸棚の端あたりに沿って進む。直線状で、いかだに組んではいない。)

羽鳥。たしかに単調だ。これで3カ月とか暮らすのか。

土本。今は外界と通信できるけど、元はできなかったんだ。

羽鳥。これじゃ、薬物を使いたくなるのも道理だ。

釜本。あんた、経験あるの?。

羽鳥。おかげさまでな。詳細は秘密だ。

釜本。窓がない。

羽鳥。あったって、役立つものが見えるわけではない。

土本。外の様子は分かるの?。

羽鳥。制御卓を見てみようか。

 (全員でぞろぞろと制御室に行く。外部が分かるのは、漁船用レベルの簡単なソナーだけ。普段は慣性航行するようだ。)

議員1。地上との交信は無理なのか。

志摩。いつでもできます。言ってください。

国防1。どうやって通信するんだ。

志摩。今は潜水調査船リュウグウから有線の探査機を近くに航行させています。リュウグウからは我が社の業務用の通信網を使う。

国防1。リュウグウって何だ。

奈良。あとで詳しく説明させます。小型のバスくらいの観測用潜水艇。今、海面近くを後方から付いて来ている。

国防1。こちらの位置が丸分かりになる。

国防2。分かったところで、深度1000mの移動物体を破壊する手段は、先進国の軍しか持ってない。

官僚1。普通の荷物なら、どこからどこに行くのか分かっても、全く差し支えない。

議員1。リュウグウがなかったら、どうなるのだ。

志摩。いま、緊急脱出装置を発注しています。そこに、観測手段や通信手段も付ける予定。

海原。最初から説明した方がいいじゃろ。

 (集会室に戻って、幽霊船を発見した経緯と、リュウグウについて志摩が解説する。直近の改造の予定も。)

議員1。実験中だったわけだ。

釜本。そうです。でも、事故が起こってしまい、通信手段もなく漂っていた。

議員2。今はどういう危機管理体制なのだ。

 (自動人形について説明する。)

議員2。つまりは、そこにいるロボットが外に出て知らせるなり、操作するなりする。

奈良。そうです。そのために操縦者の私がいる。

議員2。サイボーグ研は、こんなロボットを開発する気なのか。

海原。必要であれば。今のところは予定なし。

土本。ロボット調査船なら、他に例がある。

議員1。海面の母船から操縦するのと、ここから操縦するのと、どちらがいいのかな。

土本。さあ。やってみないと分かりません。どちらにも利点がありそうですから。

議員1。未知の世界か。研究してくれ。

大江山。すぐに予備調査に入ります。

 (電力は豊富。娯楽室は小さいけど、ビデオ鑑賞やゲームなど、よく工夫されている。宿泊施設も、今はちょっとしたホテル並だ。2泊3日程度なら、楽しい旅行だ。
 夕食も済み、土本と釜本は、女性専用にしたてたユニットに移動する。)

釜本。夜も昼も、ここじゃ変わらないね。

土本。アンとレイ。女性アンドロイドを2機とも入れたのは、私たちのため。

レイ。そうだと思う。クロも役立ちそう。

釜本。六郎も勇敢だった。

土本。ん、浮上しているのかな。

レイ。そうだよ。そろそろ工場に着く。船橋付きのユニットを付けるため。

土本。いまどこか分かるの?。

レイ。土本さんは時空間計を持ってたはず。

土本。工場の沖10km、深度50m。便利。あなたは付けてない。

レイ。自動人形には内蔵されている。

釜本。GPSではない。

土本。ええ。ID社独自の仕掛けらしい。だから、とんでもなく高価。この装備は、借りているだけ。

釜本。いったい、何て会社よ。やりすぎだわ。計測機の会社じゃなかったの?。

土本。そうだけど、カタログの冒頭はいきなり宇宙開発。システム全部込みで請け負います。

釜本。それはこちらでもやりそう。

土本。なら、同じじゃない。ちゃんとお金を払ってもらえそうなら、月面基地でも作るんでしょう?。

釜本。そんな話もあった。

土本。通信衛星はすでに持ってる。

釜本。うん。

土本。あきれた。

釜本。規模だけは大したものよ。この幽霊船だって、あきらかに商売を狙っている。

土本。そうだった。これもあなたの会社の製品。リュウグウよりずっと実用に近い。

釜本。それはどうかな。まあ、とにかく、負けてはいない。大江山教授や議員さんもほっとしているんじゃないかな。

 (こちらでも、あまり話題は変わらないようで。)

議員1。ID社、何のつもりで近づいてきたんだ。

志摩。ええと、共同研究です。

議員1。おっと、失礼。部長さんもいらした。

奈良。私、日本ID社、情報収集部の部長です。

海原。多国籍企業だからと言いたいのじゃろ。

議員1。まあ、そういうこと。国立大の研究なら、珍しくも何ともないが。

海原。この船など、もろに安全保障に関わる。

議員1。かえって諸外国に怪しまれずに済む。

国防1。それは言える。潜水艦みたいな外見だけど、民需用途。

議員2。それに、ID社の本部はヨーロッパのY国にある。国際連合に加盟していて西側寄りとはいえ、はっきり言って小国。大国にあるID社は、全部支社。つまり…。

国防1。つまり、ID社にとっては、国際バランスの安定は何としてでも手に入れたい。

大江山。その手の活動は、一部では有名です。情報収集部もそうだ。表向きは、企業の科学技術動向をまとめる部署ですけど…。

議員1。当然、インテリジェンスもやってるわけだ。

羽鳥。時に政府と行動を共にする。

国防1。日本の場合はだろう。そうも行かない国情の国もある。

奈良。現地の法律は、当然守る。

議員1。それで済むなら、世の中、平和。装備を見れば分かる。こんな潜水艦の中から、いとも簡単に通信する。

志摩。こんなの、かんたんにつぶせます。

国防1。たしかにな。軍の相手ではない。だが、民間企業としては、大した水準だ。この船を造った会社に匹敵する。

大江山。規模は同程度のはず。世界展開しているところも似ている。

議員1。通信衛星も持っていたな。ID社にもあるのか。

志摩。あります。

国防1。軍との係わりは。

大江山。表向きにはない。特に、大国のID社は慎重に行動している。例外はただ一つ。本部のあるY国。

官僚1。あの国は小さすぎて、何もかも兼用、兼用です。我が国とは違う。

国防1。自然と、官民一体になるわけだ。

国防2。名だたる大国に取り囲まれている。歴史的にも、幾多の混乱。国民一体にならないと、大変なことになる。

議員1。主要産業は。

官僚1。観光と伝統的な畜産・農業のイメージと、最先端工業のイメージが重なる国。工業は繊維、化学、食品、精密機械などで国際競争力がある。重工業もあるけど、我が国に匹敵する規模の企業はない。

議員1。我が国を小さくしたようなものか。

奈良。我が国は大国です。動きが明らかに違う。

官僚1。何でも揃っているし、同種でも大から小まで渾然と競争している。そんなことができる国は、極少数です。

大江山。重工業的なものやハイテクは各国のID社に任せている。Y国本部が目立つのは、宇宙開発などの極秘部分のある製品を掌握しているから。

国防1。軍事関連は、Y国経由で国連に掌握される可能性がある。

議員1。今のところ構わない。お互いさまだろ。

国防1。ええ。いろいろとあったりして、便利は便利。

羽鳥。やっぱり。

海原。普通に付き合えばいいことじゃて。

議員1。ところで、やはり単調だな。何か起こらないのか。

羽鳥。今から、船橋のあるユニットを付けます。1時間後に。

議員1。もっとわくわくする何かだ。

志摩。海賊退治とか、船火事の救助とか。

羽鳥。起こらない方がいい。

議員1。海底に何か発見するとか。

志摩。この船の計測機では無理です。リュウグウが何か発見するかもしれないけど。

羽鳥。発見したところで、何もできない。おとなしく通過するだけ。

海原。その目的の船じゃからの。

議員1。海中輸送船。

国防1。深海輸送船だ。普通ではない。大国の正規軍が本気で検出し、本気で攻撃しないと通過されてしまう。

第39話。深海幽霊船。9. 幽霊船、トカマク基地へ

2011-04-17 | Weblog
 (翌日朝、東京湾内の東、トカマク基地のすぐ沖に到着。台風は去っていくところで、雲はあるが波は穏やかで雨も降っていない。
 海岸には釜本の会社の担当者が何人か来ている。海上保安庁の船が停泊して、ボートを用意している。羽鳥が呼んだのだ。海事の事故なのだから、当然。
 虎之介と志摩と自動人形は、技術の人の指示に従って、フロートを幽霊船の先端部に装着して行く。そして、空気を入れる。先端部が海面に出てきた。ユニットは灰色に塗装されていて、それが海中に続いているのだから、ちょっと不気味。
 海上保安庁の職員がボートで乗り付け、先端の入り口から入って行く。何しろ、全長3kmほどもある。時間がかかるはずだ。しばらくして、医療班のような人々が入って行く。乗員と合流したらしい。その後、1時間もして、やっと乗員と自動人形がでてきた。乗員は、健康チェックのため、会社の人や保安庁の職員とともに病院に行った。自動人形は、すぐに解放され、こちらにやってきた。)

海原。またとてつもないものを作ったの。

大江山。これで、危険地域の海を突っ切ろうとしたのか。

土本。そのようです。使えるかどうか、検証中。

ダウード。先端技術。アイデアも卓越しているし、実験機を稼働させた。大したもの。

海原。稼働はしたが、事故は想定していなかったようだな。

土本。通信方法はなかった。私たちが発見していなかったら、そのままずっと航行。

海原。発見したとして、対処に困るぞい。

土本。あの技術、ここで研究できないかな。

海原。サイボーグ研でか?。でかいサイボーグじゃの。

土本。可能性を見るくらい、いいでしょ。

海原。深海までの長期調査船。ロマンがあるぞい。やってみなさい。

土本。ありがとうございます。

 (幽霊船は社の工場に戻る予定なのだが、政府の検分のため、数日間はトカマク基地のすぐ沖に、フロートでかま首を上げた状態で留置された。当然のごとく、うわさはあっと言う間に広がり、報道やら各国のスパイやら野次馬で海岸がごった返すことになる。
 当初、会社側はすでに発表された公式資料でやり過ごすつもりだったが、騒ぎが拡大するにつれ、ホームページを見てください、だけでは収まりそうもないので、記者会見をした上、見学会をすることになった。東京の近くの方が都合がいいので、サイボーグ研に1カ月ほどの停留を許可するよう、求めてきた。
 トカマク基地の所長室にて。)

土本。すみません。こんなに反響があるとは思ってもみなかった。

海原。構わぬ。貴重な経験じゃ。フロートとかは続けて借りられるのかの。

土本。釜本さんたちの会社が、ID社から借り受けた形になるらしい。ID社は、自分たちが勝手に使ったのだからと、最初は渋ったようだけど、結局、実費を受け取ることで決着した。

海原。不祥事は不祥事じゃからの。金で解決できる部分はそうしたかったのじゃろ。

土本。ものがものだけに、目立たないように公開していたのが、一気に評判になってしまった。数カ国から購入の打診があるらしい。

海原。怪我の巧妙。

土本。日本政府が慌てている。どこまで技術を出せるのか、検討している。

海原。安全保障上の理由じゃな。

土本。そうです。深海輸送船。コンテナ船にははるかに及ばないけど、それでも運べる量は半端ではない。あの実験船で、トレーラー100台分。深海を航行するので、中小国じゃ、まったく相手にすることができない。潜っている期間も、宇宙ステーション並み。

海原。深海観測ステーションか。小さい頃、あこがれたの。

土本。1000mがぎりぎりですけど。

海原。大したものじゃ。他に引き受け手がなかったら、こちらで応用法の研究をしよう。

 (会社にとってみれば、ここまで知られた以上、サイボーグ研のような夢のある研究に応用されるのは大歓迎だった。結局、この幽霊船は海洋開発が専門の国立系の研究所に引き継がれることになるのだが、しばらくはサイボーグ研が運用して、他の研究所の研究を受け入れる態勢となった。
 数日後のトカマク基地、第二機動隊本部にて。)

羽鳥。結局、あの幽霊船はサイボーグ研が世話することになるのか。

釜本。うん。各国政府から注文が相次いでいるので、会社の専用ドックは日程が詰んでいる。なので、当分戻れない。話題になった船体だし、扱いに困っていた。

羽鳥。ここで活躍させて、汚名払拭、ってことだ。

釜本。数カ月も深海で生存可能な輸送船なんて、それだけで大ニュース。なぜか、報道はほとんどなかったけど。

羽鳥。フロートで先っちょだけ浮いた哀れな姿はさんざん放映されたがな。

釜本。単に、巨大なソーセージが東京湾に出現したと、おもしろおかしく報道されただけ。ひどいのは、巨大寄生虫だったか。

羽鳥。思いつくのは誰も同じ。ところで、どうやって係留させるんだ?。

釜本。原子炉は止めないほうがいいから、動力を使い続ける。ユニットが多いから、個々のモーターは休み休みでいい。

羽鳥。そうだった。

釜本。我が社の技術者が何人かここに駐在する。維持管理は任せればいい。

羽鳥。緊急脱出システムは作るんだろう?。

釜本。ID社に頼もうと思う。志摩さんに聞いたら、即答だった。海面と往復できるカプセルと、付随設備が発注できるって。

羽鳥。人一人入るカプセルか。

釜本。無理したら2人だけど、普通は1人。連結もできる。救命ボートのようなものだけど、普段からも輸送に使える。

羽鳥。何て会社だ。

釜本。まともに発注すると、かなり高価よ。今回は研究に参加するということで、材料費くらいの値段でOKされた。我が社が買い取って、ユニットの一つとしてくっつける。上下面にもハッチがあり、シリーズGとシリーズHもつける。地上と交信が必要な場合には、シリーズHを海面近くまで出す。

羽鳥。あとは、あのいまいましい薬物か。

釜本。一部で物議を醸している。全員飲むのはまずいって。

羽鳥。だが、飲まない者に支配されてしまうぞ、あれじゃ。

釜本。そうなのよ。だから、娯楽施設をより充実させないといけないかな、なんて言ってる。あと、疑似体験するための訓練施設も。

羽鳥。波止場はどうするんだ?。いちいち浮かせて、リュウグウを使うわけにも行くまい。

釜本。いま、必死で考え中。

羽鳥。亜有らか。

釜本。そう。

 (亜有らは、駐機場そばの警備本部で作戦会議。)

芦屋。おまえ、何でここに居るんだ。

志摩。鈴鹿と交代だよ。鈴鹿がここにいた理由は、なんだっけ。

清水。こほん。土本さんのお相手よ。DTMに加わるかどうかを見極めるため。私みたいに。

志摩。最近の動きはその本題と離れている。

清水。受け取り様に依るわよ。私だって、ずいぶん長いこと付き合ってからDTMの一員になった。話を戻していいかしら。

志摩。幽霊船のドックを作る話。

芦屋。リュウグウ用の地下ドックを使えばいいじゃないか。

志摩。それでいいかどうかの検討。

芦屋。シンプルに行こうぜ。あそこが使えなくなっても、リュウグウやモグは差し支えがない。

志摩。何とかなるだろう。賛成する。

芦屋。じゃ、残るは幽霊船のユニットが地下波止場を使えるかどうかだ。

清水。もういい。技術者に考えてもらう。いともあっさり決まったわ。さすがIFFの精鋭。

志摩。そういや、虎之介は最近ここばかりなの?。

芦屋。ぐぐっ、痛いところを突く。亜有もご苦労。

清水。あーあ、どうしてこうなっちゃったんだろう。ずっと虎之介といっしょ。慣れてしまいそうで恐い。

芦屋。悪かったな。そんなに軍事機構が嫌か。

清水。好き嫌いじゃなくって、不吉と言いたいだけよ。

芦屋。それは分かる。こちら側にいてもな。

清水。虎之介。やっぱり会えてよかった。卓越している。志摩さんも。こうして、いっしょに仕事できるのは感謝しないといけないんだ。きっと。

志摩。無理しなくていい。

芦屋。こっちもだ。

清水。そっちがその気でも、こちらはそうは行きません。

志摩。散歩でもしない?。気が紛れるよ。

清水。形而上学クラブを思い出す。無垢だったあの頃。もう戻れない。

志摩。それだけ現実に近づいたと言うことだよ。

芦屋。ドックを見に行こうぜ。

清水。ええ。そうする。

 (3人で駐機場に出て、地下ドックに向かう。たまたま探索中の、アリスとボブが同行。)

アリス。何してるの?、みなさん。

ボブ。珍しい組み合わせだ。

志摩。珍しくない。情報収集部では、ずっと前からある組み合わせ。

芦屋。今はそれぞれ立場は違うがな。

ボブ。同じID社の社員。

芦屋。一括りにしたらそのとおりだ。

アリス。不思議。ここでは会話が成立する。

清水。すっかり慣れてしまった、自動人形の反応には。どんなに会話に意味がなくても、心は通じる。

志摩。極限状態での救出は自動人形の本来の仕事。

芦屋。みごとだった。

アリス。私は参加してない。

芦屋。リュウグウを操縦していただろうが。リュウたちも支配下だ。

アリス。それはそうだけど。

芦屋。なら、大活躍だ。よかった。よくやってくれた。

アリス。不思議な仲間。

清水。そちらから見ても。

アリス。ええ。

 (志摩と虎之介は、地下ドックを詳細に観察して、幽霊船のユニットが使えるかどうかを検討している。)

志摩。ぎりぎりのようだ。

芦屋。ここまで来るのがな。荷物は運び出せそうだ。

志摩。どこにどれだけ費用がかかるのか、分からないよ。

清水。不可能でないと思うのなら、検討する。

志摩。検討してくれ。

 (技術の意見もあまり異ならず、とにかく計測して見積もってみるとのこと。計画は推進することになった。)

第39話。深海幽霊船。8. 操られた人々

2011-04-16 | Weblog
 (私はリュウグウ内にあるモニタの一台に移動し、アンとジロに指令を与えて行く。リュウとメイは脱出の予備調査のため船尾に向かわせ、交代に、イチとレイを制御室に向かわせる。
 制御室には、運転時のマニュアルがあるので、イチを使ってデータとして取り込ませる。こちらは、ジロとアンを使って、説得開始。)

ジロ。こんにちは。みなさん、お揃いで。

男1。ネコの次は、人間か。

女4。その格好、救護班なの?。

アン。そうです。よくお分かり。

男1。変な格好の船だから、政府から派遣されたのか。

アン。当たり。なんでわかったの?。

男1。他の可能性が浮かばなかった。

女4。女性の救護隊なんて珍しい。精鋭かな。

アン。訓練は厳しかった。

女4。そうでしょう。がっしりした体つき。さすが。

男2。どうやって入ったんだ?。

アン。入り口は開いていた。

男2。外は深海のはずだ。

アン。私たちは潜れる。

男3。何か特殊な発明があったのかな。薬を使うとか。

アン。そんなの無い。みなさんは外に出ると危険。多分、助からない。

ジロ。そろそろ戻りませんか?。

男1。計画にない。

ジロ。帰る時期は。

男1。計画にない。戻れないようだ。

ジロ。ずっとここにいるつもり。

男1。そうなるな。計画の変更がない限り。

アン。変更されたら、帰るの?。

男1。当然だ。あっちの部屋に制御装置がある。見てみるか。

アン。見てみたい。

 (制御室に2機と男女2名が移動。イチとレイがいた。)

男1。救護班がまだいる。

女4。たくさん来たんだ。

イチ。こんにちは。すみません、声をおかけしなくて。

男1。助けに来たつもりなんだろう?。なら、歓迎だ。

レイ。そのとおりです。でも、操縦は難しそう。

男1。見かけだけだ。操縦は自動。プログラムを入れればよい。

アン。計画って、どれ。

男1。失礼した。このモニタだ。

 (わざわざ解説してくれた。そう、どこかで間違いがあったらしい。これでは、いつまでたっても基地に戻れない。)

ジロ。基地に近づいている。このまま戻ろう。

男1。計画と違う。

アン。でも、緊急事態なら別。

男1。当然だ。

アン。もう緊急事態になってる。だから、私たちが来た。

女4。そんな感じ。救出のための人たちみたい。

男1。少なくとも確かめる必要がある。通信はできないから、戻るしかないか。

アン。じゃあ、決まり。

 (なんとか説得に成功し、女がその場で船への指令を組み始めた。幽霊船はコースを変え、会社の港に向かう。浮上に時間をかけるので、到着は明日朝になる予定だ。)

羽鳥。各方面に知らせる。

 (羽鳥は政府の担当部署や、企業に連絡する。ところが、待ったがかかってしまった。台風を避けてほしいだと。)

志摩。あまり深刻さが伝わらなかったね。

羽鳥。馬鹿野郎ども。あとでとっちめてやる。

土本。下手したら2重遭難よ。この一両日は、首都圏から会社の基地のある東北南部にかけて大荒れ。

釜本。水中にいるから、気付かなかったのか。

羽鳥。なこと言っても、せっかく誘導に成功したのに。

土本。トカマク基地に持って行けないかな。緊急時にいろいろ対応できそう。

羽鳥。あの怪物を東京湾に。全長3kmはあるぞ。

土本。外洋よりは安心よ。

羽鳥。原子炉が2基ある。

土本。抜群の安全性。

羽鳥。どうせ、トカマク基地も核エネルギーで動いているってか。

 (あまり考える余地はなかった。アンとジロが再び誘導して、東京湾のトカマク基地にに向かわせる。拒否されるかと思いきや、どうやったら安全に入れるかな、などと、逆に盛り上がっている。距離的にはあまり変わらない。明日朝、トカマク基地のすぐ沖に到着する。)

清水(通信機)。たしかに不気味。乗員の人々、一見、意識がはっきりしているのに、目標がまるでない。

羽鳥。だから、プログラムの間違いを修正する気にならなかった。本当なのか?。

伊勢。専門家が診察しないと分からない。奈良さん、不測の事態には備えておいて。

羽鳥。中で反乱されるとか。

伊勢。そんなの。

 (自動人形は、緊急時の対応はできるはずだ。念には念を入れて、チェックしておく。)

羽鳥。トカマク基地に近づいて、それからどうするんだ?。地下ドックには入れないだろう。

土本。1ユニットなら入れそうだけど。会社ではどうしていたのかな。

清水(通信機)。つないだまま、先端だけを持ち上げてユニットを外して、その繰り返し。

羽鳥。ん、どうなるんだ?。

清水。言葉じゃ分かりにくいけど、見たらすぐに分かる。そちらに表示する。

羽鳥。スロープで上陸させて、済んだ部分は再び沈めて行くんだ。

釜本。ソーセージが2本並んだ感じになる。

羽鳥。そういうことだな。で、当然、そんな設備はトカマク基地にはない。スクーバか何か使うのか。

志摩。虎之介、聞こえるか。

芦屋(通信機)。聞こえてるぞ。何の用だ。

志摩。幽霊船の乗員の救出方法を考えよう。最悪、一人ずつスクーバで脱出させる。

芦屋。スクーバは用意する。もっとスマートな方法を考えるんだな。クレーンで先端部を持ち上げて、普通のボートに乗り移るとか。

志摩。そんな感じ。

 (結局、特殊な布でできた大きなフロートで先端部を浮かせることにした。何とか間に合わせると。)

釜本。すごい会社。なんで、すぐに用意できるのよ。

志摩。世界にはいろんな地域があるから。我が社の通信網と輸送網は世界屈指のはずだ。

釜本。どこから運ぶのよ。

芦屋(通信機)。長野本社にたまたま使えそうなのがあったらしい。

釜本。誰が扱うのよ。

芦屋。おれたち。技術の人は来てくれるし、員数が必要だったら、自動人形を使う。

釜本。便利。

羽鳥。そうだな。いつもながら、感心する。

釜本。このしくみを我が社でも作れってか。

羽鳥。それが、ここにいる目的か。

釜本。ええ。なんか、目も眩む。

羽鳥。政府もご同様だ。

 (リュウグウは幽霊船に付いて行く。)