(翌日、火曜日。午前6時。目が覚めた。建物の周りを散歩する。どういうわけか、エスとばったり会う。突然ニシキヘビと出会うと、エスには気の毒だが、本能的にぎくっとする。次の瞬間、エスと分かって声をかける。会釈してくれる。すぐに、かわいく見えてくるのが不思議だ。
私は通信機を握り、DTM手話でエスと会話しながら歩く。エスは20kgほどあるので、ずっと抱えるわけには行かない。横で這っている。)
奈良◎。差し迫った危険はあるか。
エス◎。危険は検出されません。大量の燃料などはあります。
(ふと見ると、戦闘機のようなものが見える。最新鋭の戦闘機のようだが、識別マークは国軍のもの。なんで民間の航空部門の工場の敷地に。)
奈良◎。あの戦闘機は危険ではないのか。
エス◎。友軍機です。いまは兵器を搭載していないようですが、不吉です。
奈良◎。いや、たしか私の知識では、この国には配備されていなかったはずだ。
エス◎。混乱してきました。もしかして、A国の最新戦闘機と似ているから、そうおっしゃったのですか?。
奈良◎。その最新戦闘機、そのものではないのか。
エス◎。良く似ています。外見のコピーのようです。ID社がわざわざ何かの目的で作った機体のようです。見た目でいきなり攻撃されてはたまらないので、国軍のマークが付いているのでしょう。
奈良◎。要は偽物だな。資料にはアクセスできるのか。
エス◎。できます。なになに。やはり識別訓練用の機体で、公表されている性能はビジネス用小型ジェットクラスです。機体そのものの強度は本物に近く、改造したら大変な性能を持っているようです。
奈良◎。そんなことだろうと思った。やりすぎだ。
エス◎。そのままでは攻撃用兵器を搭載できません。遊園地の幼児用乗り物の高級版みたいなものです。
奈良◎。それは言い過ぎだろう。近づけるのか。
エス◎。なんの警備もしていません。近づいていいようです。
奈良◎。近づいて、解析せよ。
エス◎。了解。
(要は、実際に飛べる実物大模型だ。エンジンはID社のもので、リミッターをかけて出力を押さえているらしい。実性能がばれたら、冗談では済まないようだ。
その奥に、これまた攻撃用ヘリの飛べる模型がある。こちらは、速度等は本物に近いらしい。伊勢とリリもいた。エスはリリに近づいて、巻き付く。いつものセットだ。)
伊勢。奈良さん、おはようございます。
リリ。おはようございます。
奈良。おはよう。
伊勢。これ、実働する模型らしい。
奈良。ああ。リリに解析させたのか?。
伊勢。そう。そちらはエスに解析させた。
奈良。そうだ。
伊勢。目的は何かしら。オートジャイロと関係があるのかな。
奈良。そう考えるのが自然。しかし、内容はさっぱり思いつかない。大きさがまるで違うし、速度も違う。
伊勢。ヘリコプターの方は速度は均衡している。
奈良。そうだった。変なオートジャイロ。
(主任が走ってきた。その内容とやらを聞けるようだ。)
主任。おはようございます。みなさん揃っているとは話が早い。本日午後に、この2機と空中戦をします。
伊勢。空中戦って、エスとリリのオートジャイロには武器はありません。よほど地形が有利でなければ、逃げきれるわけありません。
主任。模擬の小型ミサイルを搭載します。模擬と言っても、本物と同じ速度で飛翔するもの。エスのジャイロには2基、リリのジャイロには4基搭載できます。運動性能は若干犠牲になります。
伊勢。できますって、そりゃ理屈では搭載できるんでしょうけど、まずもって自動人形が非実用。それに、その気があるのなら、なんでわざわざオートジャイロに設計を。
(こいつ伊勢、真剣に兵器応用を考えている。それに、本物と同じ性能の飛翔物体を模擬とは言わない。強引だ。)
主任。最終目的なんて分かりません。とにかく、受けるデモができるかどうかを探れ、というのが当面の指示内容です。
奈良。いやまあ。それはそれとして、兵器応用そのものが引っかかります。
伊勢。ちゃんと確かめておかないと。万一、兵器応用が可能なのなら、他の誰かが開発してしまうのは時間の問題。それからやおら対策を考えるのでは、あまりに遅い。
主任。それはあるでしょう。今の設計では、これ以上重い兵器は搭載できません。機関砲も無理。小型のロケット弾は実用ぎりぎり。対地攻撃用には…。
(二人で考え出した。私はエスとリリを見る。
自動人形は、初期構想こそ救護用だが、軍では兵器として役立つかどうかを確かめるために、実際に作られたのだ。40体も。そして、そのためのプログラムが多数搭載されている。結果は経済的理由から非実用で、難を逃れたわけだ。しかし、自動小銃などは軽々と扱い、並の人間が装備するよりも、はるかに恐ろしい武器となる。リリにも小火器を持たせてみたが、確かめるまでもなく、タロたちと性能は変わらなかった。
完全な自律行動ができないので、今のところ、いくらでも対策を立てることができる。要点さえ知っていれば、簡単に破壊できるので、まるで怖くなく、つまり、兵器としては役立たない。しかし、万一、実用例が見つかると、状況が一変することはありうる。
必死の主任は、素人のはずの伊勢の意見を一所懸命に聞いている。スタッフからは聞き尽くしたらしい。デモ内容と、本日のデータ取りの要点を考えているのだ。案の定、大型爆弾一発くらいは搭載できるかな、なんて議論している。伊勢は生物・化学戦の専門家だ。てきぱきと、要求される性能を述べている。主任が覚えきれずに、メモし出した。)
伊勢。あら、あらかじめ言ってくだされば、こちらで考えてメールで送りましたのに。
主任。そうでしたか、大変失礼しました。
伊勢。まだ実験は数時間後ですし、さっさとまとめてきます。では、失礼。
(といって、そそくさと部屋に戻ってしまった。うむ、内容を言わなければ、商談か何かに聞こえるが、その内容というのが怖い。伊勢はこうした内容には全く平気だ。普通、怖がると思うが、主任は逆に感謝してきた。)
主任。あなたの部下はじつにすばらしい。うらやましい。才気にあふれている。
(喜んでいいのか。)
奈良。食事に行きましょうか。
主任。ええ。できれば、そちらもご一緒に。
奈良。エス、リリ、食堂に純エタノールを持って集合せよ。
エス、リリ。了解。
(伊勢も誘ったが、食堂であっと言う間に朝食を済ませたらしく、邪魔するな、との返事。好きなようにしてよろしい。)
(工場内、食堂にて。)
主任。本日の午前9時から調整後のオートジャイロのデータを取ります。問題なければ、そのまま使用。戦闘機と戦闘ヘリを飛ばして、飛んでいるオートジャイロがどのように見えるかを実測します。午後、準備できしだい空中戦。その後はこちらは展示会に向けての会議に入りますから、そちらは暇になります。明日は宇宙訓練で、オートジャイロは展示に向けた最終調整に入ります。原子力電池に切り替えるのは、明日朝になります。
奈良。何かおすすめの観光コースなどありますか。
主任。史跡めぐりをしますか。どちらも2時間程度しか飛べませんが、行動半径は100kmはありますから、担当者をひとり付けます。お二人はコンソールで風景をお楽しみください。
(エスとリリに説明する。リリが話しかけてくる。私たちが航空機に乗って戦闘機と戦うの?。その通り、どうなるのか誰も知らないから実験するのだ。オートジャイロもろとも壊れないんでしょうね。その可能性はある、ならないよう努力する。努力するって、なったら終わりじゃない。機体がきしみくらいはするだろう、そこで実験終わり。パラシュートくらい用意してよ。そりゃもっともな要求だ。)
主任。パラシュートは用意させます。本当は自分でたたむものですが、どうします?。
リリ。私がエスの分もたたむ。準備できたら教えてください。
(ヘビ用パラシュートといっしょに午後までに急遽作ってくれるそうだ。オートジャイロは一機ずつ作ったのか、と聞いたら、デモ用に万全を期して、二機目も用意したとのこと。用意が良すぎる。)
(午前9時。データ収集開始。昨日と同様の動作をさせながら、解析する。模擬ミサイルや、急遽作った爆弾や散布器の模型を付けて飛ばしても見る。散布器と言っても、散布するのは農薬とは限らないはずだ。伊勢があれこれ注文して、飛び方を指定している。)
伊勢。十分実用になりそう。怖いわ。
(それをしかけたのは誰だ?。まあでも、実際に使われることはないだろう。自動人形自体が非実用で、単なるロボット航空機で十分に間に合うからだ。)
主任。ヘリと戦闘機を飛ばしてください。
(予想はしていたが、どちらもものすごい騒音だ。進行波ジェットのオートジャイロがあまりに静かだったので、その対比が鮮明。
模擬のミサイル付きのオートジャイロを様々に飛行させて、ヘリと戦闘機からデータ収集させる。エスもリリも慣れてきて、こちらの指示通り速度を出したり、ひらひら舞ったりする。低速時にはオートジャイロだから、運動性能は抜群で、十分に2機を翻弄させることができそう。もっとも、逃げ切れる感じはしない。ステルス性など微塵もないから、狙われればひとたまりもなさそう。高速時には、ヘリは振り切れるようだ。さすがジェット機。)
主任。予想通りかな。空中戦はできそうですか。
伊勢。何とかやってみます。
(全機戻ってきた。オートジャイロには、エンジンも機体にも異状はないらしく、午後は予定通り空中戦に挑むことにした。
伊勢とエスとリリで食堂に行き、午前の成果をまとめる。やはり、エスとリリにとっては不愉快な経験だったようだ。レーダーの電波が分かるからだ。)
エス(リリ)。模擬空中戦はやるのですか。戦闘機やヘリに狙われるのはあまり愉快ではありません。
リリ。もう、どうしようもないわね。とっととデータを取りなさい。
伊勢。頼むから、もう少し耐えて。その通り、データを取ったらおしまい。実戦で使われる可能性は全くないから。
奈良。我々は職務上、あらゆる可能性を探らないといけない。もしも、エスやリリと同じ自動人形が、実戦で使われてしまったら、どうなるのか、誰も知らない。あらゆるチャンスを利用しないといけないのだ。その時が今なのだ。
エス(リリ)。分かりましたから、手早くお願いします。
(理解した、というより、こちらの熱意が伝わったということ。これだけでも優れた機体だと思うが、午後にはさらに度肝抜くことになる。)
私は通信機を握り、DTM手話でエスと会話しながら歩く。エスは20kgほどあるので、ずっと抱えるわけには行かない。横で這っている。)
奈良◎。差し迫った危険はあるか。
エス◎。危険は検出されません。大量の燃料などはあります。
(ふと見ると、戦闘機のようなものが見える。最新鋭の戦闘機のようだが、識別マークは国軍のもの。なんで民間の航空部門の工場の敷地に。)
奈良◎。あの戦闘機は危険ではないのか。
エス◎。友軍機です。いまは兵器を搭載していないようですが、不吉です。
奈良◎。いや、たしか私の知識では、この国には配備されていなかったはずだ。
エス◎。混乱してきました。もしかして、A国の最新戦闘機と似ているから、そうおっしゃったのですか?。
奈良◎。その最新戦闘機、そのものではないのか。
エス◎。良く似ています。外見のコピーのようです。ID社がわざわざ何かの目的で作った機体のようです。見た目でいきなり攻撃されてはたまらないので、国軍のマークが付いているのでしょう。
奈良◎。要は偽物だな。資料にはアクセスできるのか。
エス◎。できます。なになに。やはり識別訓練用の機体で、公表されている性能はビジネス用小型ジェットクラスです。機体そのものの強度は本物に近く、改造したら大変な性能を持っているようです。
奈良◎。そんなことだろうと思った。やりすぎだ。
エス◎。そのままでは攻撃用兵器を搭載できません。遊園地の幼児用乗り物の高級版みたいなものです。
奈良◎。それは言い過ぎだろう。近づけるのか。
エス◎。なんの警備もしていません。近づいていいようです。
奈良◎。近づいて、解析せよ。
エス◎。了解。
(要は、実際に飛べる実物大模型だ。エンジンはID社のもので、リミッターをかけて出力を押さえているらしい。実性能がばれたら、冗談では済まないようだ。
その奥に、これまた攻撃用ヘリの飛べる模型がある。こちらは、速度等は本物に近いらしい。伊勢とリリもいた。エスはリリに近づいて、巻き付く。いつものセットだ。)
伊勢。奈良さん、おはようございます。
リリ。おはようございます。
奈良。おはよう。
伊勢。これ、実働する模型らしい。
奈良。ああ。リリに解析させたのか?。
伊勢。そう。そちらはエスに解析させた。
奈良。そうだ。
伊勢。目的は何かしら。オートジャイロと関係があるのかな。
奈良。そう考えるのが自然。しかし、内容はさっぱり思いつかない。大きさがまるで違うし、速度も違う。
伊勢。ヘリコプターの方は速度は均衡している。
奈良。そうだった。変なオートジャイロ。
(主任が走ってきた。その内容とやらを聞けるようだ。)
主任。おはようございます。みなさん揃っているとは話が早い。本日午後に、この2機と空中戦をします。
伊勢。空中戦って、エスとリリのオートジャイロには武器はありません。よほど地形が有利でなければ、逃げきれるわけありません。
主任。模擬の小型ミサイルを搭載します。模擬と言っても、本物と同じ速度で飛翔するもの。エスのジャイロには2基、リリのジャイロには4基搭載できます。運動性能は若干犠牲になります。
伊勢。できますって、そりゃ理屈では搭載できるんでしょうけど、まずもって自動人形が非実用。それに、その気があるのなら、なんでわざわざオートジャイロに設計を。
(こいつ伊勢、真剣に兵器応用を考えている。それに、本物と同じ性能の飛翔物体を模擬とは言わない。強引だ。)
主任。最終目的なんて分かりません。とにかく、受けるデモができるかどうかを探れ、というのが当面の指示内容です。
奈良。いやまあ。それはそれとして、兵器応用そのものが引っかかります。
伊勢。ちゃんと確かめておかないと。万一、兵器応用が可能なのなら、他の誰かが開発してしまうのは時間の問題。それからやおら対策を考えるのでは、あまりに遅い。
主任。それはあるでしょう。今の設計では、これ以上重い兵器は搭載できません。機関砲も無理。小型のロケット弾は実用ぎりぎり。対地攻撃用には…。
(二人で考え出した。私はエスとリリを見る。
自動人形は、初期構想こそ救護用だが、軍では兵器として役立つかどうかを確かめるために、実際に作られたのだ。40体も。そして、そのためのプログラムが多数搭載されている。結果は経済的理由から非実用で、難を逃れたわけだ。しかし、自動小銃などは軽々と扱い、並の人間が装備するよりも、はるかに恐ろしい武器となる。リリにも小火器を持たせてみたが、確かめるまでもなく、タロたちと性能は変わらなかった。
完全な自律行動ができないので、今のところ、いくらでも対策を立てることができる。要点さえ知っていれば、簡単に破壊できるので、まるで怖くなく、つまり、兵器としては役立たない。しかし、万一、実用例が見つかると、状況が一変することはありうる。
必死の主任は、素人のはずの伊勢の意見を一所懸命に聞いている。スタッフからは聞き尽くしたらしい。デモ内容と、本日のデータ取りの要点を考えているのだ。案の定、大型爆弾一発くらいは搭載できるかな、なんて議論している。伊勢は生物・化学戦の専門家だ。てきぱきと、要求される性能を述べている。主任が覚えきれずに、メモし出した。)
伊勢。あら、あらかじめ言ってくだされば、こちらで考えてメールで送りましたのに。
主任。そうでしたか、大変失礼しました。
伊勢。まだ実験は数時間後ですし、さっさとまとめてきます。では、失礼。
(といって、そそくさと部屋に戻ってしまった。うむ、内容を言わなければ、商談か何かに聞こえるが、その内容というのが怖い。伊勢はこうした内容には全く平気だ。普通、怖がると思うが、主任は逆に感謝してきた。)
主任。あなたの部下はじつにすばらしい。うらやましい。才気にあふれている。
(喜んでいいのか。)
奈良。食事に行きましょうか。
主任。ええ。できれば、そちらもご一緒に。
奈良。エス、リリ、食堂に純エタノールを持って集合せよ。
エス、リリ。了解。
(伊勢も誘ったが、食堂であっと言う間に朝食を済ませたらしく、邪魔するな、との返事。好きなようにしてよろしい。)
(工場内、食堂にて。)
主任。本日の午前9時から調整後のオートジャイロのデータを取ります。問題なければ、そのまま使用。戦闘機と戦闘ヘリを飛ばして、飛んでいるオートジャイロがどのように見えるかを実測します。午後、準備できしだい空中戦。その後はこちらは展示会に向けての会議に入りますから、そちらは暇になります。明日は宇宙訓練で、オートジャイロは展示に向けた最終調整に入ります。原子力電池に切り替えるのは、明日朝になります。
奈良。何かおすすめの観光コースなどありますか。
主任。史跡めぐりをしますか。どちらも2時間程度しか飛べませんが、行動半径は100kmはありますから、担当者をひとり付けます。お二人はコンソールで風景をお楽しみください。
(エスとリリに説明する。リリが話しかけてくる。私たちが航空機に乗って戦闘機と戦うの?。その通り、どうなるのか誰も知らないから実験するのだ。オートジャイロもろとも壊れないんでしょうね。その可能性はある、ならないよう努力する。努力するって、なったら終わりじゃない。機体がきしみくらいはするだろう、そこで実験終わり。パラシュートくらい用意してよ。そりゃもっともな要求だ。)
主任。パラシュートは用意させます。本当は自分でたたむものですが、どうします?。
リリ。私がエスの分もたたむ。準備できたら教えてください。
(ヘビ用パラシュートといっしょに午後までに急遽作ってくれるそうだ。オートジャイロは一機ずつ作ったのか、と聞いたら、デモ用に万全を期して、二機目も用意したとのこと。用意が良すぎる。)
(午前9時。データ収集開始。昨日と同様の動作をさせながら、解析する。模擬ミサイルや、急遽作った爆弾や散布器の模型を付けて飛ばしても見る。散布器と言っても、散布するのは農薬とは限らないはずだ。伊勢があれこれ注文して、飛び方を指定している。)
伊勢。十分実用になりそう。怖いわ。
(それをしかけたのは誰だ?。まあでも、実際に使われることはないだろう。自動人形自体が非実用で、単なるロボット航空機で十分に間に合うからだ。)
主任。ヘリと戦闘機を飛ばしてください。
(予想はしていたが、どちらもものすごい騒音だ。進行波ジェットのオートジャイロがあまりに静かだったので、その対比が鮮明。
模擬のミサイル付きのオートジャイロを様々に飛行させて、ヘリと戦闘機からデータ収集させる。エスもリリも慣れてきて、こちらの指示通り速度を出したり、ひらひら舞ったりする。低速時にはオートジャイロだから、運動性能は抜群で、十分に2機を翻弄させることができそう。もっとも、逃げ切れる感じはしない。ステルス性など微塵もないから、狙われればひとたまりもなさそう。高速時には、ヘリは振り切れるようだ。さすがジェット機。)
主任。予想通りかな。空中戦はできそうですか。
伊勢。何とかやってみます。
(全機戻ってきた。オートジャイロには、エンジンも機体にも異状はないらしく、午後は予定通り空中戦に挑むことにした。
伊勢とエスとリリで食堂に行き、午前の成果をまとめる。やはり、エスとリリにとっては不愉快な経験だったようだ。レーダーの電波が分かるからだ。)
エス(リリ)。模擬空中戦はやるのですか。戦闘機やヘリに狙われるのはあまり愉快ではありません。
リリ。もう、どうしようもないわね。とっととデータを取りなさい。
伊勢。頼むから、もう少し耐えて。その通り、データを取ったらおしまい。実戦で使われる可能性は全くないから。
奈良。我々は職務上、あらゆる可能性を探らないといけない。もしも、エスやリリと同じ自動人形が、実戦で使われてしまったら、どうなるのか、誰も知らない。あらゆるチャンスを利用しないといけないのだ。その時が今なのだ。
エス(リリ)。分かりましたから、手早くお願いします。
(理解した、というより、こちらの熱意が伝わったということ。これだけでも優れた機体だと思うが、午後にはさらに度肝抜くことになる。)