(学生だけでは限界がある。それなりに知識はあっても、歴戦ではないからだ。案の定、何か足らないと思った久保田教授がこっちに来てくださった。食堂にて。)
久保田。やはり機械系に強い人がいないと、どうにもならないみたいです。
奈良。鈴鹿は機械好きだし、志摩は勉強家。まだだめですか。
久保田。どう表現したらいいんでしょうか。近くまでは行けるけど、詰めの一手が出ない。
奈良。清水くんを参加させようか。下手したら烏合の衆だけど、うまくしたら役立つ。
久保田。理学部数学科の学生だった。
奈良。担当教授は森口繁。現代幾何学の肩書きだけど、応用数学にやたら強かったはず。コネクションがいろいろあるんじゃないかな。
久保田。そうだった。森口教授。変な数学者。この大学の教授では最優秀集団の一人。おまけに、清水くんは計測機会社でなんだかたいそうな部門にいた。
奈良。我が社のヨーロッパ本部の航空部門。宇宙開発までやってしまう強者揃いの部署。その部門長が名物部門長で、とんでもない性能の航空機を開発するものだから、各国の関係者が注目している。
久保田。そんなところで通用する学生か。優秀そうだ。説得してみます。
奈良。一つお聞きしてよいですか?。
久保田。はい。何でしょうか。
奈良。本研究に力を入れてくださる理由が質問です。卒論って、こんなに大げさなものでしたか。
久保田。そうですよ。学問ですから、どんなに大げさでも良い。望むところです。そうですね、私の意見としては、この計画から何か産物ができたら儲け物。世の中に役立つ原理とか、装置とか。
奈良。通常の大学の研究と思えばいいんだ。
久保田。差なんてありませんよ。学生の程度によりますけど。トップクラスの卒論研究が世の中を変えることはある。いまじゃ、想像もつかなくなりましたけど、本来はそうあるべきです。
(実際、ID社としては本計画からプロダクツは出て来ている。サイボーグと調査用潜水艇だ。さて、大学の方はどうなるのか。)
清水。来ました。用件をうかがいます。
奈良。単刀直入に言う。本計画に参加してほしい。
清水。連絡係じゃなくって、直接に実験計画に加わる。私を加えると5人。まだばらばらになりそうな人数ではない。構いませんけど、理由をお教え願いますか?。
久保田。機械系に強い人物に加わってほしいのだ。
清水。私は機械系はだめです。理論は何となく分かりますけど。
久保田。それでいい。鈴鹿くんや志摩くんは実際の機械の扱いはうまいようだが、理論までは到達していないようだ。補ってほしい。
清水。大がかりです。大学に対して、何か要望していいですか?。
久保田。そのためにも、参加してほしいのだ。
清水。動きやすくなるか。奈良さん、こんなの許されるんですか?。
奈良。大学との共同研究のことか?。普通の業務内だ。
清水。そうだった。ふたたび志摩くんや鈴鹿さんとタッグが組めるチャンス。ありがとうございます、教授。できるかぎりの努力をしてみます。
久保田。森口教授には連絡しておく。君の卒業論文にもなるように話を付けておく。
清水。理学部数学科の。うーん、成立するかな。
奈良。教授に任せよう。
清水。そうします。
(森口教授とは連絡がついた。久保田教授はさっそく会いに行きたいと言い出した。久保田教授とギンと亜有を乗せ、志摩が運転する旧車両でキャンパスに行くことになった。自動人形はあった方がいいというので、ケイコとジロを乗せる。高速道に入って、都心を目指す。)
久保田。これもID社のクルマか。
清水。そうです。同型が売り出されている。後ろのモニターは別の商品ですけど。
久保田。ヨーロッパ製だな。そんな感じ。
清水。本部航空部門の設計、製作。輸入品です。
久保田。ガソリンエンジン車じゃない。
清水。ハイブリッドカー。モーターで動いている。エンジンはたしか…。
志摩。ガスタービン。燃料は灯油。ジェットエンジンみたいなの。やたらと高出力。
久保田。スピードメーターが260km/hまである。
清水。本当は、もっと出るそうです。
久保田。出さなくていい。
(ギンは亜有と話をする。)
原田銀。清水さんはケイマの将棋の先輩。
清水。そうです。亜有って呼んでください。同学年。
原田銀。私はギンって呼んでください。妹とややこしいから。
清水。そうさせてもらいます。あなたの評判は志摩さんから聞いています。わざわざ海洋学部があるというので、この大学を選んだ。理学部生物学科でなく。
原田銀。そうです。海の全体像が知りたかった。ぴったりの学部は他にない。ここは理学部と農学部と工学部を合せた感じ。
清水。私は理学部数学科だけど、数学がどのように使われているかに関心があった。だから、ID社の資料が魅力的だった。純粋な数学にも惹かれるけど。
原田銀。ID社の製品は世界的に有名。特に計測機器。
清水。ええ。でも、プログラムやデータベースも製品にあるし、航空機などの観測装置を移動させる手段も売る。
原田銀。そうか。海洋での観測もID社の関心事なんだ。
清水。そうです。ID社の本部としては、海洋学部と久保田教授の活動に関心があったみたい。ぜひ何か獲得して来いとの指示です。
久保田。私の活動。地味な仕事なのに。
清水。ヨーロッパ本部の航空部門長は久保田先生の名前を知っていた。何か雑誌の解説記事で知っていたみたい。
久保田。欧米には研究者が多いというのに。なぜ私が。
清水。海洋学部におられるからですよ。しかも、捕鯨国日本のクジラの研究者。
久保田。もう、捕鯨などほとんどしていない。鯨肉など、一般には手に入らない。
清水。昔は、日本では貴重な蛋白源の一つだった。私はそう説明しています。今や、その必要はない。
久保田。現に必要はない。捕鯨するかどうかとは関係ないけど。
清水。不思議です。なぜ哺乳類が海洋を目指したか。
久保田。同意見だ。その研究をしている。何のニッチなのか。だれか先駆者がいるのか。
原田銀。いいなあ、そんな話が聞きたかったんだ。
清水。生々しい世界です。私の住んでいる世界とはちょっと違う。
原田銀。どんなの?。
(亜有は、自分の考えている数学の世界を披露する。ギンも教授も、興味深そうに聞いていた。)
原田銀。おとぎ話みたい。
久保田。おとぎ話だって、元は何かの伝承だろう。いまや全く理解できない、何かの事実の。
清水。数学は不思議。法則の法則性の研究のはずだけど、本当はどこかで、この世に生きている。だから、現実にもどこかにいるはず。私の教授の考え。
原田銀。今から会いに行く森口教授。
清水。そうです。
久保田。やはり機械系に強い人がいないと、どうにもならないみたいです。
奈良。鈴鹿は機械好きだし、志摩は勉強家。まだだめですか。
久保田。どう表現したらいいんでしょうか。近くまでは行けるけど、詰めの一手が出ない。
奈良。清水くんを参加させようか。下手したら烏合の衆だけど、うまくしたら役立つ。
久保田。理学部数学科の学生だった。
奈良。担当教授は森口繁。現代幾何学の肩書きだけど、応用数学にやたら強かったはず。コネクションがいろいろあるんじゃないかな。
久保田。そうだった。森口教授。変な数学者。この大学の教授では最優秀集団の一人。おまけに、清水くんは計測機会社でなんだかたいそうな部門にいた。
奈良。我が社のヨーロッパ本部の航空部門。宇宙開発までやってしまう強者揃いの部署。その部門長が名物部門長で、とんでもない性能の航空機を開発するものだから、各国の関係者が注目している。
久保田。そんなところで通用する学生か。優秀そうだ。説得してみます。
奈良。一つお聞きしてよいですか?。
久保田。はい。何でしょうか。
奈良。本研究に力を入れてくださる理由が質問です。卒論って、こんなに大げさなものでしたか。
久保田。そうですよ。学問ですから、どんなに大げさでも良い。望むところです。そうですね、私の意見としては、この計画から何か産物ができたら儲け物。世の中に役立つ原理とか、装置とか。
奈良。通常の大学の研究と思えばいいんだ。
久保田。差なんてありませんよ。学生の程度によりますけど。トップクラスの卒論研究が世の中を変えることはある。いまじゃ、想像もつかなくなりましたけど、本来はそうあるべきです。
(実際、ID社としては本計画からプロダクツは出て来ている。サイボーグと調査用潜水艇だ。さて、大学の方はどうなるのか。)
清水。来ました。用件をうかがいます。
奈良。単刀直入に言う。本計画に参加してほしい。
清水。連絡係じゃなくって、直接に実験計画に加わる。私を加えると5人。まだばらばらになりそうな人数ではない。構いませんけど、理由をお教え願いますか?。
久保田。機械系に強い人物に加わってほしいのだ。
清水。私は機械系はだめです。理論は何となく分かりますけど。
久保田。それでいい。鈴鹿くんや志摩くんは実際の機械の扱いはうまいようだが、理論までは到達していないようだ。補ってほしい。
清水。大がかりです。大学に対して、何か要望していいですか?。
久保田。そのためにも、参加してほしいのだ。
清水。動きやすくなるか。奈良さん、こんなの許されるんですか?。
奈良。大学との共同研究のことか?。普通の業務内だ。
清水。そうだった。ふたたび志摩くんや鈴鹿さんとタッグが組めるチャンス。ありがとうございます、教授。できるかぎりの努力をしてみます。
久保田。森口教授には連絡しておく。君の卒業論文にもなるように話を付けておく。
清水。理学部数学科の。うーん、成立するかな。
奈良。教授に任せよう。
清水。そうします。
(森口教授とは連絡がついた。久保田教授はさっそく会いに行きたいと言い出した。久保田教授とギンと亜有を乗せ、志摩が運転する旧車両でキャンパスに行くことになった。自動人形はあった方がいいというので、ケイコとジロを乗せる。高速道に入って、都心を目指す。)
久保田。これもID社のクルマか。
清水。そうです。同型が売り出されている。後ろのモニターは別の商品ですけど。
久保田。ヨーロッパ製だな。そんな感じ。
清水。本部航空部門の設計、製作。輸入品です。
久保田。ガソリンエンジン車じゃない。
清水。ハイブリッドカー。モーターで動いている。エンジンはたしか…。
志摩。ガスタービン。燃料は灯油。ジェットエンジンみたいなの。やたらと高出力。
久保田。スピードメーターが260km/hまである。
清水。本当は、もっと出るそうです。
久保田。出さなくていい。
(ギンは亜有と話をする。)
原田銀。清水さんはケイマの将棋の先輩。
清水。そうです。亜有って呼んでください。同学年。
原田銀。私はギンって呼んでください。妹とややこしいから。
清水。そうさせてもらいます。あなたの評判は志摩さんから聞いています。わざわざ海洋学部があるというので、この大学を選んだ。理学部生物学科でなく。
原田銀。そうです。海の全体像が知りたかった。ぴったりの学部は他にない。ここは理学部と農学部と工学部を合せた感じ。
清水。私は理学部数学科だけど、数学がどのように使われているかに関心があった。だから、ID社の資料が魅力的だった。純粋な数学にも惹かれるけど。
原田銀。ID社の製品は世界的に有名。特に計測機器。
清水。ええ。でも、プログラムやデータベースも製品にあるし、航空機などの観測装置を移動させる手段も売る。
原田銀。そうか。海洋での観測もID社の関心事なんだ。
清水。そうです。ID社の本部としては、海洋学部と久保田教授の活動に関心があったみたい。ぜひ何か獲得して来いとの指示です。
久保田。私の活動。地味な仕事なのに。
清水。ヨーロッパ本部の航空部門長は久保田先生の名前を知っていた。何か雑誌の解説記事で知っていたみたい。
久保田。欧米には研究者が多いというのに。なぜ私が。
清水。海洋学部におられるからですよ。しかも、捕鯨国日本のクジラの研究者。
久保田。もう、捕鯨などほとんどしていない。鯨肉など、一般には手に入らない。
清水。昔は、日本では貴重な蛋白源の一つだった。私はそう説明しています。今や、その必要はない。
久保田。現に必要はない。捕鯨するかどうかとは関係ないけど。
清水。不思議です。なぜ哺乳類が海洋を目指したか。
久保田。同意見だ。その研究をしている。何のニッチなのか。だれか先駆者がいるのか。
原田銀。いいなあ、そんな話が聞きたかったんだ。
清水。生々しい世界です。私の住んでいる世界とはちょっと違う。
原田銀。どんなの?。
(亜有は、自分の考えている数学の世界を披露する。ギンも教授も、興味深そうに聞いていた。)
原田銀。おとぎ話みたい。
久保田。おとぎ話だって、元は何かの伝承だろう。いまや全く理解できない、何かの事実の。
清水。数学は不思議。法則の法則性の研究のはずだけど、本当はどこかで、この世に生きている。だから、現実にもどこかにいるはず。私の教授の考え。
原田銀。今から会いに行く森口教授。
清水。そうです。