ID物語

書きなぐりSF小説

第32話。アクロニム。8. 試験場の模型ビル

2010-10-31 | Weblog
 (亜有は模型の建物の最上階、3階に駆け上がる。うまく擬装してある。社長らが追いついた。)

社長。はあはあ。どこまで行くのかと思った。

技術部長。中身は空っぽだったはずだ。なぜパーティションがあるんだ。

秘書。入り口はと。

 (外側は回廊みたいになっている。建物表面の窓は本物だけど、ホコリがかぶっていて中がほとんど見えない。それをいい事に、中に区画を作ったようだ。でも、入り口らしきものがない。)

秘書。何かを隠している。

イチ。あそこ、怪しい。ホコリが薄い。

秘書。隠し扉だな。

マグネ。用心した方がいい。仕掛けを警戒すべきだ。

イチ。ええと、何も観測されない。大丈夫だよ。

社長。このロボットは何だ。分析しているのか。

清水。2機とも救護ロボットです。危険の探知に優れている。

秘書。なるほど。どいていて、ぶち破る。

 (秘書は壁を探り、ちょっと後退してから構えて、思いっ切り蹴る。鍵が壊れて、ドアが開いた。)

社長。確かに隠し扉だ。

秘書。中は暗い。

イチ。入るよ。

秘書。こいつら、懐中電灯を持っている。

社長。調べるのが先だ。

 (保存用の食料が置いてあった。飲料水も。鍵の仕掛けが分かったので、他の扉は簡単に開けられる。今度は、部品だの、専用工具だのが置いてある。2階も部品倉庫だった。)

社長。技術部長。内容が分かるか。

技術部長。最新の建設機械の部品だ。ここにある部品を組み立てれば、完成品ができる。

秘書。さっきみたいなの。

技術部長。その通り。エンジンからボディから、こまかな保守用部品まで、ざっと20セット分ほど。

社長。倉庫はここじゃない。誰かが持ち込んだのだ。

技術部長。何パーセントかは不良品が出るから、それと偽って運んだんでしょう。ここにあるのは不良品ではなさそうだ。

社長。横流しだな。

秘書。密輸か。

社長。横流しだけでも犯罪だ。

秘書。密輸だと国際問題。

社長。許さん。どうするか。

清水。とりあえず、永田さんに知らせます。

社長。政府だな。

清水。ええ、調査部門の。指示があるはず。

社長。早期に知らせた方がいい。指示を受けよう。

 (亜有は通信機で永田に連絡。鍵を元に戻して、待機しろ、政府で対応するからと。突然、調査に踏み込むことがあるので了承して欲しいと。)

社長。つまり、誰が来るのかを調査するって事か。

清水。一人、政府からよこすそうです。

秘書。あなた、調査部門の人間。

清水。ええ、そう言ったはずですけど。

社長。1階に行こう。まだ何かあるかも。

 (1階にもパーティションがある。隠し扉から入る。部品を集めるためのカートと、かなり大きなコンテナがある。)

社長。台車付きのコンテナだ。これで運び出すんだな。どこへ。

 (全員外に出る。工場の建物からは、少し離れている。)

清水。あれは何?。

社長。深層水を取るための設備だ。この沖は、少し進むと急に深くなるのだ。

清水。深層水って、ビール作りとか。

社長。はは。そういうのもあったな。ここでは機械洗浄に使っている。

清水。海水を。

社長。ミネラル分は取り除く。それが副産物として売れるのだ。

清水。見学できます?。

社長。どうぞ。

 (回廊が入っている建物に入る。たしかに、2階に海水から真水を分離する装置がある。1階には、水のタンクとミネラル分を回収する装置が置いてある。そして、軽油のタンクも。重機にここで給油するらしい。回廊に向かうパイプも発見した。しかし、コンテナを運べそうなものは無い。)

社長。もういいかな。

清水。ええ。充分。

 (モグ内にて。)

火本。屋根に何かある。覆われていて中身が分からないけど。

芦屋。あとで六郎に探らせよう。

 (それはクレーンだった。コンテナを運んで、回廊上の簡単なレールで運ぶようだ。地上側の設備は明らかになった。
 亜有たちは、いったん引き上げる。)

第32話。アクロニム。7. 最新の建設機械

2010-10-30 | Weblog
 (亜有は機械を降りて、社長たちと合流する。工事現場のコスプレ巫女さんの格好で。)

清水。ふわあ、面白かった。いろんな動きができるみたい。ありがとうございました。

秘書。あんた、わざとらし。最初からこれを狙っていたんでしょう。

清水。何のこと。

技術部長。性能調査だ。何か調べて来いと言われたのか。

清水。もちろん。そのための訪問です。こんな貴重な機会、失敗したらただでは済まない。

社長。仕事か。なるほどな。

秘書。社長、どうなさいます。

社長。面白いじゃないか。我が社の実力を見せつけてやれ。たしか、あれの最新型があったな。

技術部長。開発中です。もろに秘密。

社長。すぐに販売するんだろうが。

技術部長。そりゃそうですけど、まだ調整中の部分がある。リミッターも付けてないし。

社長。構わぬ、持ってこい。

 (ピカピカの最新型が出てきた。形は細かな部分しか変わらない。全員で、内部を見たりする。)

清水。外見はあまり変わらない。

技術部長。ひどく操作性を変えると、誰も操縦できなくなる。でも、とてもよいマシンですよ。また乗ってみます?。

清水。マニュアルは?。

技術部長。そんなのまだできていません。仕様書でいいですか?。

清水。ぜひ。

 (仕様書を亜有が読む。その速度にみんなびっくりしている。)

技術部長。分かるんですか?。

清水。私はこの分野の素人です。分かる部分しか分からない。

技術部長。操縦してみます?。

清水。いいんですか?。ぜひ。

 (技術部長がキーを渡す。亜有は機械に乗り込み、ゆるゆると発進し始めた。各部の動きを慎重に確かめている。)

社長。ふむ。あまりに速く仕様書を読むからびっくりしたけど、実技は伴ってないな。

秘書。そんなの伴ってたら、化け物よ。

 (でも、ひととおり操縦したところで、亜有はマグネを呼ぶ。マグネは操縦席に座って、フルスロットルにする。ものすごい速度で走り出した。)

秘書。あわわわー、キャタピラーってあんなに速度がでるのか。

社長。戦車並みだ。

技術部長。あちゃー、やってしまった。

社長。たしかに、戦車がすっ飛んで行くんだから、できないはずは無い。だな、技術部長!。なんてものを作ってくれるんだ。

技術部長。あれくらいしないと、競争に負けます。市販品には当然、リミッターを付ける。

秘書。どこまで行くのよー。

 (亜有はマグネに操縦させ、試験場を所狭しと駆け巡る。もちろん、地下に何かあるかの音響調査だ。モグと旧車両と自動人形を動員して、地下を探る。)

関。なんてやつ。あんな側面もあったんだ、亜有さん。

鈴鹿。お茶目の範囲よ。志摩っ、何か分かった?。

志摩。何も出ない。地下工場なんか無い。

芦屋。残るはあれか。

志摩。あれだ。クロ、潜入しろ。

水本。どれよ。

関。試験場の模型の建物よ。擬装だ。

 (クロは容易に発見した。部品の倉庫になっている。運搬装置のようなものも。
 試験場をマグネと共に何周かした亜有が戻ってきた。)

清水。ふーっ、少し酔ったみたい。だって、かなりのスピードが出るんですもの。

秘書。かなりではない。最高速度だったみたいよ。

技術主任。さすがに、あそこまで出したことは無い。不必要ですから。

社長。で、何が分かったのかな?。

清水。高性能なこと。

秘書。あのね。もっと言いようがあるでしょうが。

清水。違法に輸出されたら大変。

社長。その件を探っているんだな。何かヒントはあったか。

清水。まだ何も。貴社の機械の潜在能力は分かった。大したもの。

秘書。これで終わり?。

清水。ええと、ちょっと試験場を見てきていいかな。

社長。何かあるのか。

秘書。ああ、待てー。駆けて行く。どこに。

技術部長。模擬建築物だ。張りぼての。危ない。行こう。

秘書。崩れるの?。

技術部長。そんなんじゃなくて、釘とか丸だし。なにせ、模型。

社長。VIPだ。何かあったら大変。行こう。

 (3人が追いかける。イチとマグネも。
 さて、六郎は海上の回廊を調査し終えたばかり。)

鈴鹿。こっちはただの通路だったみたい。

関。人が行き来できる大きさ。

火本。メンテのためかな。

鈴鹿。風雨は凌げる。理屈には合う。

関。海水のパイプ以外に何かあった?。

芦屋。電気は当然として、水と燃料のパイプがある。

関。船に補給するんだ。

芦屋。多分な。

関。密輸用だと、うわさの根拠にはなる。

火本。つながってきた。

芦屋。社長らの中に、密輸団が入っていたら亜有が危ない。備えるぞ。

鈴鹿。こっちも用意する。

第32話。アクロニム。6. コスプレ

2010-10-29 | Weblog
 (昼食を終え、全員社に戻る。亜有は秘書の部屋におじゃま。)

清水。ふわあ、広い。スイートルームみたいだ。

秘書。あなたに譲ってもいいわよ。

清水。それって、あの社長の秘書に成れって事。

秘書。三食昼寝付き。

清水。夜のお仕事は。

秘書。おほほ。そんなのあるわけないじゃない。三文小説の読みすぎよ。

清水。ある種のゲームでも。

秘書。あなたって、お嬢様なのに、意外にいろいろと知ってるわね。

清水。耳学問です。たいしたことない。

秘書。衣裳はこれよ。

清水。ふうむ。普通に紅白。あれ、何でニーソが。

秘書。着てみてよ。

清水。うんしょっと。…、何これ、ふとももが涼しい。若干、胸元も。

秘書。最先端の流行よ。

清水。んな訳無い。誰の趣味よ。

秘書。一人しかいない。

清水。あの社長、コスプレファンか。

秘書。単なるゲームファン。でも、だからこちらはコスプレし放題。

清水。いまいちつながりが分からないけど、まあいいか。

秘書。ほら、あんたたち、ほめるのよ。

イチ。清水さん、かっこいい。

マグネ。適当に色っぽいぞ。

清水。無理して言わなくて良い。

秘書。おっほほ、よく訓練されていること。午後はどうするの?。

清水。研究所と、狙っていたラインは見せてもらったし。午前の解説だと、あとは普通の工場みたい。

秘書。重機に乗ってみる?。

清水。めったにない機会。やってみたい。

秘書。連絡する。

 (敷地内の試験場で、模擬工事をすることになった。雨水管の設置工事と、模擬建物屋上に小さなプレハブ倉庫を設置するのと。)

清水。大きいのも小さいのもある。

社長。住宅地などでは、小型で応用が利く機械が求められる。場所があったら、大型の方が、もちろん効率がいい。大は小を兼ねるだ。

技術部長。じゃあ、やってみましょう。

 (部下に命じて、機械のデモをする。亜有は巫女のコスプレをしたまま、ヘルメットと軍手をして長靴を履いた格好で、乗り込む。技術者は手際よく、さっさと溝を掘って行く。)

社長。地鎮しながら工事の感じだな。

秘書。何が出てくるか分かりませんもの。

社長。熱心に観察している。面白いのかな。

技術部長。機械のことはある程度分かるようです。

 (掘り終わったけど、なにやら重機が体操のようなことしている。亜有が動きを確かめるために、操縦者に尋ねながら、あれこれ注文しているようだ。)

秘書。何してるの?、あれ。

技術部長。実性能を確かめている。なんてやつだ。

社長。秘密なのか?。

技術部長。実際には必要だけど、カタログで表されない性能がある。

社長。社外秘か?。

技術部長。市販しているのですから、性能を確かめること自体は秘密ではない。測定方法や製造法のノウハウは、とうぜん秘密。

社長。勉強してきたんだ。本国からの指令だな。

技術部長。他に考えられません。うかうかできない。当社の技術水準が分かってしまう。

秘書。スパイだ。そんな感じだった。

技術部長。計測機の世界企業から派遣された精鋭。そんなところでしょう。

社長。あれがか。

第32話。アクロニム。5. 昼食

2010-10-28 | Weblog
 (社用車で出かける。でかいセダン、いわゆるリムジン。でも、5人と2機が入っているから、ちょっと狭い。
 海岸の料理店に着いた。太平洋を臨む2階の広間にて食事を待つ。田舎だ。客は他にはいない。ゆったりくつろぐ。)

社長。面白い格好だな。

秘書。これですか?。たびたび着てるじゃありませんか。

清水。ボディラインがもろに出るスーツにスカート。かっこいい。うらやましいわ。

秘書。おほほ。あなただって、いいもの持ってる。

清水。え、何が。

秘書。ふん。わざとらし。

社長。で、そちらのロボットは着せ替えたのか。

秘書。あり合わせだけど、よくできたわ。

清水。イチは女装か。ネコ耳が似合っているのが面白い。

秘書。あらあ、意見が合うわ。

清水。マグネのタキシードなんて、粋な趣味。映画みたい。その銃は本物かしら。

マグネ。本物だ。

社長。こほん。まあ、ほどほどに。

秘書。そうだ、あなた、巫女さんの格好してみる?。似合いそう。

清水。私、普段は宗教には冷淡。そんな罰当たりなことできません。

秘書。まじめに考えなくていいのよ。コスプレよ。

清水。なんてストレートな。

秘書。で、どう?。する?。

清水。どうって、どうしようかな。

秘書。迷っているのなら、やってみれば?。

清水。そうしよっか。

社長。意外にお茶目だな。

秘書。すぐに分かりました。

清水。料理が来た。うわあ、豪華。でっかいカニがまるごと入っている。

社長。普通だ。ここは大衆食堂だからな。

秘書。あなた、どこ生まれよ。

清水。生まれも育ちも神田よ。

秘書。貴重。絶滅危惧種。

社長。江戸前か。あれもいい。

秘書。どうぞ召し上がれ。

清水。いただきます。うわあ、おいしい。来てよかった。

秘書。いい娘ね。

 (モグ内にて。)

関。展開が全く読めない。

志摩(通信機)。おれにも分からないよ。物を探す方が手っ取り早そうだ。

芦屋。六郎からは報告が入った。海水採取用のパイプはある。

鈴鹿。カモフラージュかも。

芦屋。通路に潜入させよう。レイ、外には仕掛けがあるか。

レイ。無いけど、ちょっと不思議な傷がある。何か引っかいたような。一回や二回ではない。

芦屋。外表面にか。

レイ。上面に。

芦屋。ふむ。何か運んだとか。

鈴鹿。真っ昼間だと、目立ってしようがない。夜に運ぶとか。

志摩。どこから。

鈴鹿。レイ、通路の元はどうなっているの?。

レイ。建物に入っている。試験場近くの。

鈴鹿。そりゃそうか。

志摩。クロに潜入させよう。

関。クロはどこにいるの?。

鈴鹿。建物を重点的に回らせている。広いから、まだ半分程。でも、普通の工場とか福利厚生施設とか。期待の地下工場は無い。

水本。ここには無いのかな。

関。巧妙。

志摩。うまく隠す。

水本。だから、隠し工場が無いって可能性は。

志摩。あるよ。火のないところに何とやら。少なくとも、うわさを説明できるものがあるはずだ。

火本。その海上の通路が工場だとか。

芦屋。それなら、六郎が発見するだろう。頼むぞ。

六郎。やってみる。

第32話。アクロニム。4. 工場見学

2010-10-27 | Weblog
社長。邪魔者は消えた。さあ、視察を続けよう。見たいところはあるか。

清水。たくさん。研究所からお願いできますか。

社長。技術主任、やってくれ。

 (技術主任が先導して、解説して行く。社長と総務部長が付いて行く。クロは余裕で間に合った。さりげなく一行に付いて行く。開発部は当然入り口のチェックがあるが、クロはするりと入ってしまう。いっしょに見学。とくに怪しいところはない。
 一方の秘書。自分の部屋に戻って、イチに女装させる。強烈にかわいい。)

秘書。きゃー、かわいい。似合う。抜群。

イチ。女の服に見える。

秘書。女の子の服よ。どう?。鏡で見てみなさい。

イチ。きれいな服。似合っているの?。

秘書。何度も言わせないで。これ、付けてくれる?。

イチ。猫耳かな。

秘書。わくわく。

イチ。角度、これでいい?。

秘書。キャー、キャー、キャー。…、はあはあ。

イチ。いいみたいだ。

秘書。次はお前。

マグネ。かっこよく頼むぞ。

秘書。もちろん。このタキシードに着替えて。

 (なんでそんなもの持っているかは謎。うすらでかいマグネにも合う。)

秘書。よし。これ抱えてみて。

マグネ。自動小銃だな。本物のようだ。実弾まで入っている。

秘書。いいでしょ。

イチ。所持しているだけで、法律違反だよ。

秘書。普通の人には分かんないわよ。

イチ。しーらない。

秘書。あまり工夫するより、それでいいかな。構えてよ。

 (もちろん、しっかり構える。)

秘書。うほほ。よくやる。よし、当面、あんたたちは私に付いて行動するのよ。

イチ。いいけど、何か起こるの?。けんかとか。

秘書。飾りよ。ええと、あれだ。魔女何とかと、その部下。

イチ。メカが必要。

秘書。いっぱいある。乗りに行こうか。

イチ。建築機械のこと?。

秘書。そうよ。武器っぽくていいでしょ。

イチ。うん。そんな気もする。

 (よく分からんが、おとなしく人形で遊んでいる。衝突すると、厄介な女のようだ。
 一方の亜有。社長に気に入られたらしく、並行して歩く。)

清水。一代でここまで築かれたんですか?。

社長。まさか。創業は第一次世界大戦頃。

清水。じゃあ、軍に納入も。

社長。建築機械なら。お宅もそうでしょう?。計測機なら納入する。

清水。そうです。計測機を計測機として使用するなら納入先が軍でも差し支えない。もちろん、当地の政府や国際機関が合法とした範囲で。

社長。こちらもそうだ。軍事転用しているといううわさがあるが、けしからん。

清水。永田さんから聞きました。政府が調査中だと。

社長。迷惑な話だ。ふん、調べるだけ調べたらいい。潔白なことが分かるだけだ。

 (よほどの自信があるのか、知らないのか。亜有はブラフを使わないので、それ以上は突っ込まなかった。
 製造ラインを見学。細かな部品まで自社で作っている。技術部長の説明を熱心に聞く。その姿が、社長の心の琴線に触れたようだ。)

社長。若いからどうかと思っていたが、さすが、Y国が日本にまで送り込むだけある。大した玉じゃないか。

総務部長。普通じゃありません。かなりの教育を受けている。

社長。お嬢様育ちのようだ。会話や仕草で分かる。それに、美人と言うかかわいいというか。お昼はそうだな、この地自慢の魚料理にしよう。総務部長、予約を取ってこい。

総務部長。ええと、何人。

社長。おまえたち二人と、私。秘書とだから…。

総務部長。了解しました。連絡します。

第32話。アクロニム。3. 海岸の工場

2010-10-26 | Weblog
 (私(奈良)に相談がきた。亜有はVIP扱いだ。ちょっと迷ったが、その武器とやらをさっさとマグネが解析すればいいと考え、送り込むことにした。もちろん、外で永田や志摩たちが待機。妙な動きがあったら、侵攻する。
 その重機の工場は関東東北部の太平洋岸に面している。高速道が近くまで来ているので、本社機能もすべてここにある。東京支社は、営業と連絡のみ。
 設定は、永田からの申し入れで、Y国の政府調査団の1メンバーの非公式訪問。亜有は、車両航空市場の研究者の設定だ。ほぼ、そのまんま。永田が亜有を連れて行く。自動人形はマグネのみを考えていたが、志摩のアイデアで、イチも付ける。
 約束の時間。工場の門をくぐり、事務棟に行く。広い会議室に総務部長が案内しくれた。担当技術部長と、その部下がぽつりと2人待ち構えていた。)

永田。おはようございます。突然の申し入れで申し訳ありません。我が政府にとって大切な調査団なのです。

総務部長。大変です。ええと、調査団はそちらの女性ですか?。Y国はドイツ語でしたか。グーテンモルゲン。マイネ、ナーメ、イスト、ヘア、タツロウ、セガワ。キャン、ユー、スピーク、イン、イングリッシュ?。

清水。あの、日本語で大丈夫です。Y国に赴任して1年ほどですから。おはようございます。清水亜有と申します。ID本部、航空部門長秘書。開発企画担当です。

 (日本語の名刺を渡す。)

総務部長。ふー、助かった。一応、ドイツ語は大学でやったんだが。

技術部長。そちらはロボット。大きいのと小さいの。

清水。はい、そうです。我が社が世界に誇るアンドロイド。自動人形です。小さいのがイチ、大きいのがマグネ。日本ID社にいるのを付けてくれました。私の知識を補うため。いろいろ分析をしてくれます。

イチ、マグネ。よろしく。

技術部長。どこかで見たことがある。どこだったか。

清水。イチは幼児番組と深夜アニメに出ています。

技術部長。体操するロボットだ。メカカメといっしょに。

清水。よくご存じ。

総務部長。実用か。よくできている。

技術部長。よくできているなんて水準ではない。芸術品だ。我が国が追い付こうと、国立サイボーグ研究所を作った。

総務部長。先端技術か。それじゃあ、こちらはお役に立つかどうか。

清水。貴社の名は、Y国でも知っている人が多い。世界企業ですよ。

技術部長。どういった場所をご覧になりたいのですか?。

清水。見られる範囲で、研究所と製造ラインを。

技術部長。それでも、いろいろある。概要のビデオを見せますから、選んでください。

 (社員教育用らしいビデオを部下がスクリーンに映す。亜有は、ノートを取り出して、メモして行く。40分ほどもある長大なものだった。さすが、日本を代表する企業。)

永田。じゃあ、私はこれで。

総務部長。慌ただしいですな。せめて昼食まででも。

永田。夕方、迎えに来ます。

総務部長。じゃあ、夕食をご一緒に。

永田。申し訳ありません。この時節、その手の行動は控えろと申しつけられていまして。

総務部長。残念です。

清水。永田さん、私はタクシーで帰りますから、お構いなく。

永田。そうですか。必要なら、お呼びください。

 (永田はそそくさと退室。駐車場の政府専用車で外に出る。
 モグ内にて。)

火本。普通に始まった。社長とかは出てこない。

関。すぐに出てくるらしい。エサに引っかかったらだけど。

火本。亜有さんはほんわかしていて、鋭さはしばらく話さないと分からない。

関。普通の男性なら引っかかるわよ。少なくとも、牽制をかけてくる。

芦屋。どれ、こちらも準備するか。レイ、上空から工場を観察してくれ。地図を作る。エレキ、一緒に来い。工場の周りを巡ってみる。

 (レイは出発。旧車両の志摩と鈴鹿がレイから送られて来るデータを解析する。虎之介は、海岸からチェック。)

虎之介。海岸ぎりぎりまで敷地だな。砂浜には自由に入れるけど。

エレキ。あの海に延びている通路は何だろう。

虎之介。きれいな海水でも採取するのかな。ずいぶん沖まで続いている。

鈴鹿(通信機)。六郎で水中を調査させよう。六郎、出発。

 (六郎はモグから出て、海に入る。通路は敷地内から出ていて、橋脚がいくつかあって、2000mほども先まで続いている。
 敷地は広く、1km四方ほどもある。というのも、建設機械などの実物大試験場があるからだ。全体を見るために、事務棟から突き出している展望台みたいなところに行く。)

清水。展望台だ。面白い建物。

総務部長。大型客船のデッキに見立てているんですよ。ここが操舵室。

清水。面舵一杯ってやつ。船長はどこよ。

社長。私だ。社長の原建土(はら たつど)だ。

総務部長。社長、こんなところに。

社長。それが外国からの視察団員か。ずいぶん若いじゃないか。

技術部長。知識は豊富なようです。政府担当者が、くれぐれもよろしくと。

清水。清水亜有と言います。Y国の視察団メンバーの一人。今日は非公式にやってきました。

社長。時間はあるのか。

秘書。おやおや、お好きなこと。あなた、気に入られたようよ。

社長。ここは自慢の展望台だ。ほら、よく見えるだろう。あちらが我が社自慢の実物大試験場だ。

清水。山あり谷あり。簡易建物まで。

 (社長は中肉中背の親父風。普通に紳士の感じ。社長らしく、適度に横柄だ。で、横にいる秘書が、やたらと色っぽい。しかし、亜有も決して負けていない。女の戦いの開始だ…、と思ったら。)

秘書。ああらかわいい…、ロボットかしら。

イチ。救護ロボットだよ。イチという。よろしく。

秘書。社長秘書の鈴木御影(すずき みかげ)、よろしく。

イチ。お姉さん、色っぽい。素敵だ。

秘書。よく分かっている子。

清水。分かっていません。単に周囲の状況に反応しているだけ。

秘書。私に反応したのね。

清水。そりゃそうですけど。

 (ことごとく、自分のいい方に理解している。)

秘書。そちらもロボット。筋肉ムキムキ、背が高くて男前。ぞくぞくしちゃう。

マグネ。マグネという。よろしく。

秘書。こっちも捨てがたい。某国の映画俳優みたい。ショタもいいし。迷っちゃう。

マグネ。あなたは映画のヒロインのようだ。全世界にファンがいるような。他にたとえようもない。

秘書。よくできているわ。あなたが操縦しているの?。

清水。そうですけど、いちいち発言や動きまで指定していません。ロボットの人工知能の判断です。

秘書。よくできた人工知能だこと。ちょっと借りていいかしら。

清水。どちらを。

秘書。どっちも。

清水。どうぞ。

秘書。じゃあ、いくわよ。付いてきなさい。

イチ。行く。

 (秘書は脱落。亜有の不戦勝。モグ内にて。)

関。何よー、この展開は。武器はどうなったのよ。

鈴鹿(通信機)。持っているみたいだ。スタンガンの一種。

関。自動人形に効くの?。

志摩。効くけど、一部の人工筋肉がひきつるだけ。人間みたいに、痛みで行動不能になることはない。それに、救護服の上からでは効果はゼロ。

関。じゃあ、いつでも倒せる。

志摩。大丈夫かなあ、自律パラメータ、どこまで有効なんだ。

鈴鹿。こっちで誘導する。任せなさい。

志摩。亜有にはクロをつけよう。

 (東京ID社の屋上から、クロを専用オートジャイロで発進させる。すぐに到着するはずだ。)

第32話。アクロニム。2. 潜入依頼

2010-10-25 | Weblog
 (永田が仕切りの中から出てきた。)

永田。関、いいか。

清水。外しましょうか?。

永田。聞いてくれても差し支えない。調査だ。とある工場の。

関。どんな疑義なの?。

永田。非合法の兵器製造。かなり大型のも含む。装甲車とか航空機とか。

関。ご大層な。

永田。ああ、多分な。普通に立ち入っただけではしっぽを出さない。

関。日本でやるとなると、地下工場とか。この物語、ワンパターン。アニメの見すぎよ。

永田。どうとでも言え。潜入しないと分からない。

関。行政監査、見学、パート、何でもやるわよ。

永田。ずばり、色仕掛けだ。

関。一降りた。なによそれ。ふざけてる。スパイ映画中毒。そんなの、調査で通用するもんですか。

永田。政治的にしか役立たんという意見だな。

関。そう。スキャンダル起こして、相手を引きずり下ろす。

清水。経験あるんですか?。

関。こほん。とある部局ではやっているらしい。あくまで伝聞。

清水。対抗上。

関。そう。醜い争いよ。って、なにしゃべらすのよ。そっちだって、スパイ部門でしょうが。

清水。やったことない。

永田。論点が外れてるぞ。ええと、社長が…。

関。あの、やらないと言ってます。他に振ってよ。

永田。話も聞いてくれないのか。

清水。危険なの?。

永田。調査だけだ。

清水。きっかけをつかむだけなら、水本さんを使おうか。演技すれば超美人。普段はあんなの。すさまじいインパクト。

関。素人を巻き込む気なの?。

清水。被害が発生しているんでしょう?。

永田。被害なんてものではない。国際問題だ。我が国の大恥。

清水。イチかレイか、あるいは他の自動人形を張り付けられるなら。

永田。そうだな…。

関。いいわよ。話は聞く。

 (つまり、大手重機メーカーの特殊車両部門で兵器転用可能、というか、それを狙ったとしか思えない機械を作っているのだ。ただ、うわさだけで、踏み込んでも痕跡はなく、外から監視していても、それらしき機械の搬出はない。それで、永田らに調査依頼が来たのだ。)

関。で、その社長が美人に目がない。

永田。選り好みが激しい。関のようなさっそうとした感じがお気に入りだ。

関。ちょっとー。まさかあの手の趣味とか。

永田。それはないはずだ。

清水。何の話。

関。ひっぱたくと、よけい言うことを聞くとか。

永田。だから、違うって言ってるだろ。

清水。ますます分かんない。

関。亜有さん、いいかげんにしなさい。

永田。だからだな、秘書がそんな感じなのだ。そいつをとりあえずやっつければ合格。懇切丁寧に社内を案内してくれる。

関。やっぱり。

永田。だから違うって。

清水。2人とも、奥歯に物がはさまったような言い方をするでない。要するに、その秘書の普段の様子を解説すればいいのよ。

永田。文武両道、才色兼備。武器を持っているらしいが、詳細不明。

清水。どれで勝ったらいいのよ。

永田。全部。

清水。こちらで対抗できるの、伊勢さんしかいない。でも、いきなり化学兵器で攻撃するから、だめよ。

関。それ、秘密じゃないの?。

清水。極秘。

永田。こほん。だから関に話が来たのだ。

関。勝つところまでやったとしても、その後が何やらありそう。

清水。自動人形を常時付けていいのなら、水本さんとマグネのペアかな。

関。それなら、あなたとアンのペアでもいいじゃない。

清水。攻撃をかわすのはアン。

関。マグネならできると考えたんでしょう?。

清水。アンには自律パラメータがない。付加するのは簡単だけど。マグネで行くか。

第32話。アクロニム。1. プロローグ

2010-10-24 | Weblog
 (情報収集部のオフィスにて。志摩と鈴鹿は営業中。社内の探索を終えたA31がソファに座っている。いつものクロ、アン、タロ、ジロの順だ。どうってことない風景。伊勢が話しかけてきた。)

伊勢。最近、何だかバタバタしている。しっとりした話が無いわ。

奈良。サイボーグ周りで風雲急を告げているからな。

伊勢。私たちに直接関係ない。

奈良。振り回されている。たしかに。

伊勢。赴任したばかりの頃、あなたといっしょに仕事で海外旅行したわ。なつかし。

奈良。A31もろともあの世に一歩踏み込んだ記憶がある。

伊勢。こちらはロボット部隊に消されかけたような気がする。

奈良。どこがしっとりだ。

伊勢。のんびりした土地で、自分の技能が生かせる。今は自動人形の世話ばかり。

奈良。過激に増強したな。

伊勢。獣医の仕事、あるの?。

奈良。つまらない仕事ならたびたびある。単調だから、話に出て来ないだけ。

伊勢。計測機の設置とか調整とかアドバイスとか。

奈良。家畜の健康状態を確かめたりしながらだ。

伊勢。素敵な仕事。なんでここに来たのよ。

奈良。人選の詳細までは知らん。たまたま、遂行できる技能があったと思われたんだろう。

伊勢。自動人形の世話をしていたから。

奈良。他には考えにくい。獣医はカモフラージュになってしまった。伊勢こそ楽しいか?。

伊勢。楽しいわよ。満足している。

奈良。他からの引き合いはあるだろう。

伊勢。ええ、おかげさまで。オファーはいくつか。

奈良。検討したらどうだ。

伊勢。しているけど、適当なのが無い。だから、奈良さんに知らせてないのよ。

奈良。ここにいると、当面バタバタだ。

伊勢。しかたないか。自ら選んでいるんだから。

 (向かいの第二機動隊本部にて。)

関。ID社が抱えている事案ってあるの?。

清水。情報収集部周りの。

関。ええ。

清水。いくつかある。優先度も決められている。でも、上から指令が来ないことには動けない。こちらで適当に手をつけるとかはできない。

関。突発的な事象が起こったら別。

清水。当然。緊急対応はいつでもありうる。

関。こちらと同じか。いずこも対応はいっしょ。

清水。あーあ、のんびりした任務とかないかな。

関。どんなのよ。

清水。時間がゆっくり過ぎる土地で、自分の技能が生かせて。

関。数学の。

清水。直接でなくてもいい。

関。海洋気象研究所で、データ解析。

清水。えらく具体的。

関。素敵な上司がいて、必要十分な予算が使えて。

清水。理想的だわ。そんなのよ。

関。目下の任務は何?。

清水。現実の?。

関。気に触った?。

清水。いいえ。日本にいる理由は、イチとレイとエレキとマグネの動きの調査。

関。暴走したら破壊とか。

清水。それは虎之介さんの役目。志摩さんと鈴鹿さんも、そのための要員。

関。またはっきりと。

清水。秘密じゃないもの。自動人形の軍事コードでは、彼らには勝てない。

関。集団で襲ってこない限り。

清水。それができるのは奈良さんだけ。伊勢さんでも無理。もちろん、私も。一機ずつ助けてくれるだけだから、次々に破壊される。

関。イチとレイは共同作業しているように見える。

清水。二人で荷物を運ぶとか。それと、作戦上のチームワークは別よ。

関。何となく分かる。組織的動きができないんだ。

清水。プログラムはできるけど、ワンパターン。恐くない。

関。程度問題なのかな。

清水。それを解析するのも、私の役目。

関。なんとなくサイボーグ研の仕事とつながる。

清水。そうね。説明には役立つかも。決して脅威ではないと。関さんはどうなの?、今の仕事。

関。何というか、正義感というと格好付けているようだけど、そういうのがある。

清水。私のはまだ、それほど強固ではない。

関。それでいいのよ。普通の人よ。何の因果でこうなってしまったのか。

清水。永田さんも。

関。変なやつ。何が面白いんだか。頼りになるけど。

第31話。春のあけぼの。39. 出動

2010-10-23 | Weblog
 (私に知らせが来た。ただちに、志摩と鈴鹿を向かわす。ジロ付きで。新車両で出発。クロはオートジャイロで発進。)

鈴鹿。間に合うかな。

志摩。行くだけ行こう。

 (犯人のセダンは、速度を上げ、警察を振りきる。トンネルに入った。イチとレイも入る。
 小型のトラックが近づき、魚をすくう網を差し出す。セダンの窓から手が出て、メモリが入れられた。トラックはそのまま進む。イチが追いかける。
 トンネルから出たところで、セダンは路肩に停車。二人が出て、簡易塗装をはがす。そして、プレートを付け替える。中には運転手と人質の社員。止せばいいのに、レイが近づく。)

レイ。うわあ、すごーい。スパイ映画みたい。どうなってるのよ。近づいていい?。

男1。何だこいつは、中学生か。派手な服着て。どこから来たんだ。

男2。お嬢ちゃん、こいつはな、映画用のクルマだ。今ばらしたら、ファンをがっかりさせる。秘密だぞ。

レイ。えーと、なんていう名の映画かな。

男2。「成功の報酬」という、スパイ映画だ。E国の。有名だぞ。

レイ。知らない。

男1。だから、秘密だって言っているだろう。さあさ、子供は帰った、帰った。

レイ。乗せてよ、面白そう。

男1。おまえ、バカか。自分から乗ってくるなんて、何が起こっても知らんぞ。

レイ。何が起こるのかな?。

男1。だからだな。

 (我が国の基幹高速道だ。交通量は多い。下手なことをすると発見されて、たちまち通報されてしまう。犯人は慎重に行動している。
 レイが漫才している間に、クロが着いた。自動車に入り、運転手の手を思いっ切り噛む。)

男3。うわあ、何しやがる、この猫は。いででで、思いっ切り噛んでやがる。

 (はたこうとすると、逃げて、また噛む、引っかく。たまらず、男は外に出た。レイは隙を見て、ボードを持ってクルマに入り、急発進。クロはオートジャイロに戻って、発進。)

男1。まちやがれー。

男2。まんまと逃走されたぞ。手際よすぎる。何かある。

男3。逃げた方がいい。

 (3人の男は着の身着のまま逃げる。)

関。なんちゅーロボット。誰が操縦しているのよ。

清水。私。

関。あとで説明してもらいます。

清水。詳しく。

関。あなた、伊勢さんに似てきた。

清水。おかげさまで。

 (セダンの中で。レイが運転している。)

レイ。安心してください。もう大丈夫です。

社員1。安心って、あなた、無免許でしょう?。

レイ。アンドロイドだから安心です。

社員1。もしかして、親父ギャグ。

レイ。おとなしくしろ。でないと、鎮静剤を打つ。

社員1。分かりましたよ。なんとなく状況が。

レイ。冷静な判断。あなた、技術者。

社員1。組み込みシステムの。

レイ。さっき犯人が渡した記憶装置は何。

社員1。知らない。社長に呼び出されて、申しつけられた。

 (第二機動隊本部。)

関。黒幕が分かった。

永田。もういい。状況を警察に知らせろ。撤退していい。

土本(通信機)。追いかけても良い。

永田。きさま、お役所言葉を知らないな。撤退しろ。国家命令だ。

芦屋。撤退する。レイ、聞いたな。

レイ。分かった。

鈴鹿(通信機)。直近の待機所に入って。後処理する。

レイ。了解。

 (モグ内にて。)

土本。みなさんの仕事が分かった。自動人形の仕事も。

芦屋。見たとおりだ。

土本。ありがとう、虎之介さん。

芦屋。礼を言うことは無い。こちらの仕事に付き合わせて済まない。

土本。これからも末永くよろしく。

芦屋。ああ、お手柔らかに。

 (レイと虎之介と志摩は、直近のサービスエリアで合流した。高速隊が来るまで待って引き渡し。東京ID社に戻る。そして、水本と土本を家まで送り届ける。ついでに火本も。
 例によって、事件の詳細は教えてもらえなかった。だいたいは想像できるが…。
 土本は翌日帰った。どうするか、興味があったが、結局、自分が言ったとおりサイボーグ研に入り浸ることになる。結構、意地っ張りだ。)

 第31話。終了。

第31話。春のあけぼの。38. 湾岸線の攻防

2010-10-22 | Weblog
 (モグで東京ID社に行く。でも、第二機動隊本部に戻ったら、疲れ果てた永田と関が居た。)

清水。大丈夫?。何があったの?。

関。言うわけないじゃない。仕事よ。それだけ。

イチ。怪我とかはしてない。疲れているだけ。

芦屋。もう終わったのか。

永田。外された。深追いしすぎだと。

水本。調査部門なのに、突っ込んだんでしょう。

永田。想像に任せる。

イチ。じゃあ、さっきの。

レイ。何よ。

イチ。パトカーが湾岸線でクルマを追いかけていた。

レイ。単なる速度違反。

イチ。物々しかったよ。

清水。こちらの情報網に引っかかっているかな。

レイ。私、行く。

イチ。ぼくも。

清水。ああ、まてー。って、聞くわけないか。

永田。操縦できないのか。

清水。こちらの意志を汲んでくれているのよ。強くは止めてない。

芦屋。こちらが絡んでる事案ではなさそうだな。モグで待機しよう。エレキ、マグネ、来い。

エレキ。行く。

関。私も行く。

芦屋。無理すんな。

清水。一人じゃ無理よ。

火本。ぼくが行く。

芦屋。てめえ、藤四郎のくせに。来るな。

清水。自動人形の操作で役立つかも。

芦屋。モグ内にいろよ。エレキとマグネを誘導するんだ。

火本。分かった。

土本。私も行く。

芦屋。邪魔するな。

土本。邪魔しない。

芦屋。頑固なお嬢さん。いいだろう。腰抜かすな。

土本。そっちこそ。

芦屋。行くぞ。

 (レイとイチは容易に発見した。東京湾岸を離れ、西に進んでいる。モグが出発。五郎と六郎もいる。)

レイ(通信)。見つけた。まだカーチェイスしている。

イチ。でも、交通量が減ってきた。逃げているセダンは速そうだ。

芦屋。ヘリくらい追いかけているだろう。

レイ。いるよ。警察のヘリだ。

イチ。トンネルとか、この先にいっぱいある。

レイ。警察が離されている。私、接近する。

清水。気をつけて。

関。勝手に追いかけて。余計なことを。

永田。関、もういいだろう。そのクルマを追いかけていたのだ。

清水。当たったの?。

関。設計書らしきものが入った記憶装置よ。その引き渡し。ご丁寧にも人質を取った。

清水。だから、こちらからは派手な攻撃なしか。

関。何も知らない企業の社員よ。卑怯だわ。

清水。許さん。虎之介、聞いた?。

土本。聞いた。とっちめてやる。

永田。警察に任せろ。君たちはサポートだけでいい。

土本。承りました。

関。危ない。志摩くんとか、要請できないかな。

清水。奈良さんに知らせる。

第31話。春のあけぼの。37. 東京湾の夕

2010-10-21 | Weblog
 (トカマク基地にモグで出かける。土本と火本と水本、虎之介と亜有。イチとレイと五郎と六郎。
 小一時間で基地に着いた。日は沈んだばかり。月が明るい。普通に入り口から入る。)

土本。地下基地。こんなの税金で作ったの?。

火本。作れると思う?。

土本。じゃあ、誰かが作ったのか。持て余したから寄付したとか。

水本。そんなところ。とある金持ちが、違法に建設したのよ。それを暴いたのが情報収集部。こんなの売れるわけないから、基地を壊さない約束で、こちらが使っていいことになった。

土本。つぶされるのが嫌だったんだ。

水本。そう。元々は、県が公園にするつもりだった場所。公園も作る。

土本。みんなハッピー、ってことか。

火本。今のところは。

 (基地内を見学する。突貫で整備中だ。作業員は帰ってしまっているけど。)

土本。なんだか、すごい趣味。アニメみたい。

火本。SFアニメに出てくる惑星の地下基地。トカマク第二基地に、そっくりに作られている。

土本。やはりそうか。ロケットが飛び出すとか。

火本。ヘリコプターはある。惑星間ミサイルは模型だ。

土本。やりすぎ。

 (一巡して司令部に入る。正面のモニタは整備された。周囲は精巧なモックアップになっている。くつろげる休憩室にするつもりのようだ。モニタの電源を入れる。誰が作ったのか、それっぽい画面が出てくる。)

土本。うん、よくできている。こんなの、子供のころにあこがれたわ。こんな場所で働きたいって。

水本。私も。

火本。女の子もこんなのに興味持つの?。

土本。普通そうよ。

水本。あの頃は、何でもできると思った。

レイ。今でも、何でもできるわよ。イチ、何か意見は。

イチ。なんだよ。なんでボクに聞くの?。

清水。こほん。このわざとらしいインテリアはID社の精鋭オタクの仕業。

芦屋。間違いない。どうにも実用ではない。

水本。瞬時に模型と分かるか。

清水。間違えてその気になったら大変よ。

火本。モニタはいろいろ使えるようだ。ええと…。

 (火本が操作する。地下ヘリポートやら原子炉が映る。ID社の資料画像も検索できる。)

土本。遊び用か。

火本。実用にもなるようだ。ID社の社内回線につながっている。

清水。解析がすばやい。

芦屋。いろいろ連絡に必要なんだろう。

火本。モグに接続できるかな。

芦屋。どれどれ、こうかな。

 (モグのセンサーの画像を出す。東京湾の夜景が見える。)

土本。わあ、きれい。すごい。

イチ。ぼくが飛び立ってくるよ。

 (イチがとててと出ていった。モグから飛び立ち、上空から東京湾沿岸の様子を映し出す。)

土本。気を使ってくれたのかな。

火本。そうだよ。歓迎の挨拶だ。仲間が増えて、うれしいらしい。

 (イチは都心を一周し、さらに東京湾を巡る。それほど時間はかからない。ほんの30分だった。)

イチ。どうだった?。

土本。よかった。ありがとう。飛べるなんてうらやましい。

レイ。五香さんだって飛べるわよ。何か航空機を用意すればいい。

芦屋。ヘリコプターは派手な音がするからな。せいぜいスポーツ用オートジャイロだ。簡単に撃墜されそうだから、使いにくい。

土本。どういう用途を考えているのよ。

水本。調査よ。どうする?、食事は。

清水。モグでファミレスに行こうか。

火本。あるいは買ってきて、ここで食べるか。

水本。またモグ内で食べるか。

土本。モグをID社に置いて、居酒屋に行こう。

水本。みなさん、それでいい?。

第31話。春のあけぼの。36. 土本の上京

2010-10-20 | Weblog
 (早朝、海洋気象研究所に着く。挨拶して、東京に向かって出発。土本はついでだと言って、いっしょに付いてきた。東京ID社に到着したのは、午後5時。海原博士と大江山教授にあいさつした後、こちらにやってきた。)

水本。奈良さん、こんにちは。こちらが、サイボーグ研に合流予定の理学研究科の大学院生、土本さんです。

土本。よろしく。

奈良。奈良治。東京ID社情報収集部の部長だ。よろしく。

伊勢。私が副部長格の伊勢陽子。どちらもサイボーグ研に絡んでいる。

土本。土本五香です。

水本。五香さんは、三陸海岸にある大学の海洋気象研究所で研究していました。

土本。今年の4月からよ。まだ来たばっかり。大学生時代に何回も訪問したけど。

奈良。また引っ越しか。

土本。ええ。地元を離れるから、ちょっと寂しいけど。

伊勢。じゃあ、いったん帰って、また出てくる感じなんだ。

土本。そうです。

アン。大変そう。サイボーグ研に興味あるんだ。

土本。自動人形。超絶美人アンドロイドのアン。

アン。そう、私がアン。よろしく。

土本。どこが似てるのよ。

アン。私が土本さんに似ている。背の高さとか、体重とか。

伊勢。あらあ、どこかで見たことがあると思ったら、体形か。並んでみてよ。

アン。はい。

土本。うわあ、従順なこと。これでいいかな。

伊勢。おほほ、たしかにそっくり。顔は全然似てないけど。

土本。こんな美人じゃないわ。

伊勢。自分で言わないの。あなたも美人の範疇に入るわよ。背中をこっち向けて。

土本。こうかな。

伊勢。カツラかぶって、服を入れ替えたら全く分からない。

奈良。輪郭だけじゃなくて、きりっとした姿勢や、はつらつとした仕草までそっくりだ。

伊勢。さすが動物行動学者。注目点が違う。

土本。こほん。ロボットの仕草を人間に合せたと。

伊勢。奈良さんの仕事よ。

土本。でも、不気味な感じはしない。だって、ここまで近づくと、人間じゃなく、機械に見える。

伊勢。よくできているでしょ?。この感じは軍時代からのものよ。しつこく維持されている。

土本。救護ロボットとして役立つようにか。

伊勢。そう。ええと、用件は挨拶だけかな。

土本。そうです。今日は水本さんの家に泊まって、明日ざっとサイボーグ研を見学して帰る予定。

伊勢。こちらに来る日を楽しみにしているわ。

土本。よろしく。

 (第二機動隊本部に行く。)

土本。こちらもオフィスの感じ。

水本。私たちはこちらにいることが多い。

永田。お客人かな。

水本。いいえ。近々、サイボーグ研に来る、我が大学の理学研究科の大学院生です。土本五香さん。こちら、財務省大臣官房専門情報調査課の永田衛さん。

土本。よろしく。表の表示は冗談じゃなかったんだ。

永田。いや、しばらく駐在しているだけ。

関。いつまでいるのかしら。

永田。さあ、はっきりしない。

水本。こちらは同じく財務省の関霞さん。2人とも財務省の調査部門の方。

関。よろしく。不本意ながら、居候よ。

土本。仕事は脱税の調査とか。

関。そうです。ほかいろいろ。

土本。それがなんでこんなところに。ID社が怪しいとか。

関。たたけばホコリが出てくるほど活動していないと、企業はつぶれる。そんな些末な事案には興味はない。

土本。じゃあ、国際的陰謀とか。

関。派手にやりすぎて、庁舎を追い出された。

永田。こほん。要約すればそういうこと。

土本。で、ID社なら受け入れられると。なんか、とんでもないところに来たみたい。

水本。手遅れよ。

永田。どんな研究をなさってるの?。

土本。三陸海岸にある海洋気象研究所で、海流とそこに集まる資源生物の研究をし始めたばかり。

関。我が国の代表的な産業の支援か。ご苦労さん。

火本。予定としては、トカマク基地が臨海地にあるから、海洋系のロボットやサイボーグの開発に関与してもらう予定。

関。ずいぶん遠回りね。

永田。基礎研究は大切だ。そこが崩れると、上位部分がすべて無駄になる。

土本。モグや六郎は素敵だけど、海洋気象研究所ではとても購入できないほど高価。

関。そうか。それを自治体クラスでも買えるようにするとかか。ずいぶん意欲的な計画なんだ。期待している。

 (永田と関は仕切りの中に入る。例によって、武器の手入れなんかをしている。)

土本。な、あの音って。

火本。拳銃を手入れしているみたいだ。

芦屋。いつも持っているやつ。

土本。調査って、どういう調査よ。

清水。財務省の臨検とかよ。

土本。悪いことしている自覚があるやつら。

清水。組織的に。

火本。逃げ出すなら、今のうち。

土本。逃げないわよ。とことん付き合ってやる。

クロ(会話装置)。邪魔するぞ。お前が土本か。

土本。なっ、なんて生意気な猫。

クロ。奈良部長から挨拶しろと指令された。ロボット猫のクロだ。よろしく。

土本。よろしく。うう、ネコがしゃべっているのが不自然に思えない。だんだん私も変になってきている。

水本。まだ、自覚はあるようね。

クロ。用件はそれだけだ。では。

土本。待ちなさい。あいさつに来たんでしょうが。私の膝に乗るくらいしてよ。

クロ。重いぞ。

土本。確かめさせてよ。

クロ。では。

 (クロは土本の膝に乗って、甘える動作をする。)

土本。あらあ、かわいい猫ちゃんじゃない。

クロ。なめるな。救護ロボットとしては、アンたちと同じ能力を持つ。

土本。分かった分かった。なめてないわよ。役立ちそう。

火本。大活躍だよ。クロはA31部隊のかなめだ。クロがいなかったら、自動人形の開発は早々にあきらめられていた。

土本。A31って何よ。

水本。クロ、アン、タロ、ジロの4機のこと。奈良部長が最初に連れてきたロボット。これよ。

 (スクリーンに映す。)

土本。あと、2機の男性アンドロイドがいたのか。他には。

水本。これで全部。

火本。クロが世界で最初の自動人形なんだ。

土本。で、アンが2機目。最初のアンドロイド。

水本。そう。3機目で小休止する予定だったのが、タロとジロの2機になった。共同作業を試みるため。

土本。なるほど。人間は共同作業をするもの。一人でできることと2人でできることは雲泥の違い。

火本。念入りに調整したのは奈良部長だ。

土本。なーるほど。だから、あなたがた、ここにいるのか。自動人形を間近で見るためだ。

火本。大江山教授の選択。来年度からは、臨海地に引っ越しする。一部は来月末から稼働。

土本。見たかったな。

水本。行けるかな。

芦屋。行ってみよう。こんな遅くでよければ。

土本。夜景が見られる。

第31話。春のあけぼの。35. 陸に向かって

2010-10-19 | Weblog
 (夕方、海域を後にし、水中を研究所に向かう。土本が魚料理を作る。土本が指定して、志摩が研究所の近くの売店で買ったものだけど。イチとレイが燃料などと共に運んで来たのだ。)

鈴鹿。うん、おいしい。漁港だったんだ。

土本。もちろん。昔は他の産業なんか無かった。

鈴鹿。だから研究しているのか。

土本。ええ。教育機関だって、役立たないと。

鈴鹿。暖流と寒流のぶつかるところ。

所長。わざわざそこに立地したのだ。我が研究所は。

鈴鹿。じゃあ、今居るところが主要な調査場所なんだ。

所長。設立当初はな。今は研究員を各国から呼んでいる。

鈴鹿。世界各国の漁業事情か。面白そう。

所長。楽しいぞ、話を聞くのは。しかも、相手側に貢献できる。いい仕事だ。

芦屋。他の産業との関連は?。

所長。漁場の具合によって、他の産業が引きずられる。農業と同じで裾野は広い。観測手段も高度化している。観光や運輸などにも役立つはず。

芦屋。それで、研究所の名前に気象の文字が入っているのか。

所長。その通り。気象や海の観測は我が研究所の主要調査項目。…、このモグの水中機能はついでではなさそうだ。

火本。F国ID社の渾身の作。最初はG国が作ったんだっけ。

鈴鹿。よく調べたわね。そうよ。そちらはモグじゃなくて、モノリスって言うんだけど。それを、日本ID社が本格的な潜水調査艇に改造させたのよ。作業したのはY国本部だけど。今はA国に渡っている。

火本。それに対抗した。モノリス移動メカは、最初はロケット発射機能などがある、日本アニメ趣味のキャンピングカーで、水上車になるだけ。改造後は200mまで潜れる。長さが10mほどもあって、沈めるためにとても重い。地上の走行機能がおまけになってしまった。

水本。外見は岡を走る電車の感じ。

所長。あははは。たしかに、小さな漁船でも、外洋に出られるのは、そんな大きさだな。

土本。どちらかというと、潜水艦よ。

鈴鹿。だから、貸してくれただけのはずのG国ID社は受け取りを拒否。話を聞きつけたA国ID社があっと言う間に持っていった。

土本。A国なら役立つかも。

所長。その経験がモグに生かされているんだ。

鈴鹿。とても便利だったもの。A国に行ってから、何度もモノリスが居てくれたら、と思ったもの。

火本。ロケット人間の後続がイチとレイだ。

土本。そんなのあるの。

火本。見せるよ。

 (火本がモニタを操作する。)

火本。こっちが改造前。こちらが改造後。

土本。アニメ本家の日本の実力を見せてやる。って感じ。

鈴鹿。勝手にそうしたのは、Y国本部のオタク部隊。奈良部長は困惑していた。

土本。どうだ、これでっ。みなさんの欲しかったものでしょう、って。

鈴鹿。ええ。航空部門長が、鼻高々。確かに、自動人形では最高峰よ。

土本。いかつい感じのロケット人間が、ロリ・ショタになっている。イチとレイの原型か。

火本。正太郎とサクラ。発想の原点は違うんだけど、結果は似ている。空中活動用ロボット。

土本。で、このアニメ風武者人形がエレキとマグネの元ネタか。

鈴鹿。なるほど。そうだったんだ。

所長。よほどモノリスとやらがよかったんだな。

水本。竜型とUFO型の後続が六郎か。イチとレイは白鳥型の後続でもある。

鈴鹿。あまりによくできすぎで、他の発想ができなくなったかな。

火本。ぼくたちがいるよ。任せて。

土本。白鳥型か。素敵。これなら飛んで行けたのに。

芦屋。このあたりまで。

土本。うん。

鈴鹿。白鳥型はよくできていた。ジェット推進のメカだけど、本物の鳥のように空中を舞った。

土本。水面を泳ぐ。

鈴鹿。もちろん。さらに、10mくらいなら、潜れたはず。

土本。生物を真似るコンセプトなんだ。凝りすぎに思えるけど。

火本。自動人形はそう。東京へ来たら、黒猫のクロに会える。本物の猫そっくりだ。

土本。楽しみ。

 (夕食が終わり、くつろぐ。気の早い土本は、コンソール画面で、サイボーグ研について水本から説明を受けている。その日は何も起こらず、普通にモグ内で夜を過ごした。)

第31話。春のあけぼの。34. 大洋底の探査

2010-10-18 | Weblog
 (朝御飯を片付け、でき上がっている海底地図を所長と土本が検討する。シリーズGの観測結果で目立つものに六郎を接近させる。直接、六郎に指示を出しているのは鈴鹿。岩石や生物群が多い。結構起伏がある。
 最初は手当たり次第だったが、次第に慣れてきたので、エレキとマグネを発進させる。)

火本。大洋底って、堆積物で平らじゃなかったの?。

所長。だから、ここはプレートが引き込まれ始めている箇所なので、破れ目が多いのだ。

火本。じゃあ、地形がどんどん変わっている。

所長。数万年のスケールで考えれば。

土本。地震の頻度で想像できるでしょ。

火本。しょっちゅう揺れている。

所長。その何割かは、このプレートのせいだ。

水本。よくこんな調査をなさるんですか?。

所長。いや、初めてだ。

水本。慣れた感じ。

所長。想像通りの部分と、そうでない部分がある。

土本。政府系の調査班なら、日常茶飯事でしょう。情報は少しなら入ってくる。

火本。それに想像で補っているんだ。

所長。もちろん。

 (追求し出すときりがないので、さっさと見て行く。2人とも生物に関心があるから、見入ってしまいそうになる。)

土本。やっぱり、計画が必要。面白いから、何時間でも見ていたくなる。

所長。いい経験だ。記録はもらえるのかな。

鈴鹿。どうぞ。データの種類をご指定ください。

所長。あとで項目を見てみる。

清水(通信機)。よければ、その先の反射を調べてくれないかな。

土本。この反射か。箱のようだ。

所長。タンクか何かかな。六郎を接近させてくれ。

鈴鹿。はい。

 (廃棄された大きなタンクだった。中身はとっくに流出していて、空っぽのようだ。)

鈴鹿。エレキたちに調べさせます?。

所長。いや、パスしよう。その先の反射も気になる。

清水。機械か何かみたい。

土本。分かるの?。

清水。何となく。

 (六郎が近づく。エンジンか何かの機械部品だ。周囲200mほどを回らせるが、他に手がかりはない。エレキとマグネが近づき、海底から引っ張り出そうとするが、重くて、とても動かない。ごく一部の表面の塵を払うのが精一杯。)

所長。ディーゼルエンジンか何か、くらいしか分からないな。

土本。船の一部とか、周囲に無いの?。

芦屋。本当はあるんだろうけど、多分、広範囲に散らばっている。少なくとも200m以内に目立った物はない。

土本。機械の特定はできるかな。

芦屋。特徴的な部分を撮影しておこう。エレキ、何かアルファベットや数字が刻まれているか。

エレキ。こちらにはない。そっちはどうだ、マグネ。

マグネ。あるぞ。撮影する。

 (他にもゴミみたいなのはいくつかあったけれど、特定できる情報があったのは、その一件だけだった。
 お昼になり、仕事は一時休止。充電のため、エレキとマグネと六郎を回収する。
 鈴鹿と虎之介は体がなまるのを防ぐため、体操している。土本はやり方を教わり、真似している。火本と水本も、少し身体を動かす。)

土本。海面に出られるかな。

芦屋。揺れるぜ。波高は2mほどある。

所長。普通だな。モグ自体は大丈夫なんだろう?。

モグ。平気だ。しかし、虎之介が言うように、私は船としては小型だ。スタビライザーは追い付かない。

芦屋。もう一度経験しておくか。モグ、海面に出ろ。

モグ。やってみる。

 (モグが水面に出る。姿勢を水平に保とうとするが、完全には無理だ。波に揺られて、の感じだ。窓の外に波が見える。車高が低いし、半分程は水面下なので、水平線は見えたり消えたり。)

土本。いい揺れ具合。普通に船だわ。

火本。船酔いしそうだ。

水本。普通の人なら酔うと思う。

土本。外に出たい。

芦屋。危ない。止した方がいい。

土本。せっかく海に来たのに。

芦屋。しようがないな。五郎といっしょなら屋根に出ていい。それでいいか?。

土本。屋根が滑りやすいのね。そうする。

芦屋。一人で間違って転落したら、一巻の終わり。五郎が助けるはずだ。離れないように。

所長。私も出ていいかな。

芦屋。マグネ、行ってくれ。

マグネ。了解。

 (屋根にプラットフォームを展開し、所長と土本が出る。ロボットに抱きかかえられるようにして。時々、プラットフォームに波がかぶるので、出入り口はすぐに閉める。)

所長。おじいさんの見た光景が見たかったのか。

土本。うん。でも、波と空しか見えない。

所長。日本ははるかかなただ。

土本。機械に頼れるから、私は来れた。

 (五郎もマグネもパッシブ・サイバーブーツ(情報収集部員用の特別に踏ん張れる靴)を履いているので、何とかプラットフォームに立っていられる。たまに、波がかぶってくる。土本は、それを手ですくう。感触を確かめている。
 火本と水本も出てきた。2人ともエレキにしがみついている。六郎もお付き合い。ドボンと海に飛び込んで、付近を悠々と泳ぐ。)

火本。こりゃ恐いや。これでも静かな波なんでしょう?。

所長。普通だ。荒れてない。海路の日和、ってやつだ。

水本。まったく…。自動人形がいないと、何もできない。こんな使い方も想定していたのかな。

火本。遭難者を救護所に案内するときと同じ動作だ。もっと激しい動作も教え込まれていると思う。

土本。高度な機械。不気味なほど。だから、あなた方が調べている。

火本。まあね。でも、調べるだけじゃなく、簡易版を作るのが目的。

土本。誰でも使えるような。

所長。ますますサイボーグ研に行きたくなったか。

土本。ええ、しばらく。

所長。連絡しておく。

 (翌日まで海底を調査したが、いくつかの生物群が見つかっただけ。所長も土本も、生物学者だ。遺品探しもさることながら、調査は楽しかったらしい。エレキとマグネも応えるように、大張りきりで働いていた。)

第31話。春のあけぼの。33. 海底の地図

2010-10-17 | Weblog
 (朝、水深20mにも朝日が届く。水本が朝食を用意した。普通にパンとサラダとハムエッグ。)

土本。ホテルみたい。豪華。

水本。よしてよ。普通の日本の朝食よ。

芦屋。ここでこんなのが出てくるのは、確かに豪華だ。

所長。さすがキャンピングカーだ。贅沢といえるくらい。ありがとう。

火本。うん、おいしい。

水本。お粗末様。

火本。海底の地図ができ上がって来ている。

鈴鹿。完成は明日の未明になる。でき上がったところから検討して。

火本。海岸段丘みたいな感じ。

所長。感じはそうだけど、メカニズムは違う。太平洋プレートが、日本に向かって、引っ張り込まれているのだ。

鈴鹿。破れ目なの?。

所長。そんな感じ。

火本。海底の生物を調べるんですか?。

所長。そのつもりだったが、他でもいい。新型の自動人形の性能調査なんだろう?。

清水(通信機)。そうです。

所長。じゃあ、何か未知な物の方が面白い。

鈴鹿。土本さんは、遭難したおじいさんの舟を探したいらしい。

土本。鈴鹿さん…。

芦屋。いい演習になる。もしよければだが。やっていいか。

土本。ええ、できれば。

芦屋。エレキ、マグネ。指令が分かったか。

エレキ。遭難者の発見の演習。全力で応える。

マグネ。我らが実力を見ていてくれ。

芦屋。六郎を先に向かわせよう。行ってくれ。

六郎。発進する。

 (六郎は発射管から出ていった。シリーズHを同行させる。)

土本。本来は、生きている人用のしかけ。

鈴鹿。そうよ。当然。

土本。自動人形の動きで、人の命が左右されるんだ。

芦屋。場合による。とっさの人工知能の判断はある。常に注意深く調整が必要。

土本。それで、こんなに費用をかけてでも実施しているんだ。

芦屋。まあな。だが、今回は単に思いつきで来ただけだ。土本さん、費用は考えなくていい。

土本。これが今生の見納めかも。

鈴鹿。あなた、悲観的。アンみたい。

芦屋。ん、何となくアンと体形がそっくりだ。

鈴鹿。虎之介っ、どこ見ているのよ。

水本。全身。

火本。身長いくら?。

土本。170cm。

鈴鹿ら。おおおーっ。

土本。アンって何よ。

水本。至高の超絶美人アンドロイド。これだっ。

 (モニタにアンの救護服姿を表示する。いつものすました表情だ。スタイルは抜群だけど、細い感じは全くない。がっしりして、頼もしい。)

土本。全然似てない。

水本。ええと、どう説明したらいいものやら。

火本。体形だよ。身長とか。

土本。体重とか。

火本。多分。

 (思わず、土本のパンチが飛んだりする。とっさに虎之介が平手で受け止める。)

芦屋。おお、いててて。力強いな。

土本。余計なお世話よ。あんたこそ、ただ者ではない。要注意人物。

鈴鹿。ふん。いいコンビね。

水本。何の話だったか、忘れたじゃない。

芦屋。ええと、アンが出てきた。

鈴鹿。土本さんのスタイルが抜群って話よ。

芦屋。鈴鹿、並んでくれ。

鈴鹿。きさまっ、さっきから、どこ凝視してるの?。

火本。スタイルに決まってるじゃないか。

鈴鹿。よくぬけぬけと。

芦屋。土本、どこで鍛えた。

水本。ああら、土本さん、虎之介に気に入られたみたい。

土本。役立つってか。

火本。そうだよ。

鈴鹿。私も関心ある。どこで学んだ技よ。

土本。父さんに鍛えられた。目的は不明。いずれ役立つって。

鈴鹿。ふんふん。軍関係者ではないな。

土本。漁師よ。おじいちゃんといっしょ。

鈴鹿。女漁師。そんなのいるのか。

土本。だから、目的不明って。

水本。海賊を撃退するとか。

芦屋。そんなのだろう。危険だがな。

土本。アンは救難隊。その手の知識も知っておかなきゃ。

鈴鹿。海で働くつもりなの?。

土本。ええ。そうしたい。

所長。我が大学の研究所では、長期に渡って海に出る仕事はない。近縁の政府系研究所は派手にやっているが。

鈴鹿。じゃあ、将来は、その政府の研究所に行きたい。

土本。別の省庁のでもいい。

芦屋。国際機関でもいいのか。

土本。望むところ。

芦屋。国防関連は。

土本。環境などの基礎研究に専念できるのなら、こだわらない。

芦屋。なら、選び放題だ。

所長。ID社は大きそうだな。

火本。世界屈指の多国籍企業です。あきれるくらい大きい。

鈴鹿。お手伝いできることが必ずあるはず。

土本。モグの作りを見ただけで分かる。本物の技術を持っている。

所長。余裕の作りがいい。

火本。この設計が日本ではできないんだよなあ。何ともいえない快適な広さ。何気ない小物に一生懸命になる。でも、一本筋が通っていて、頑固な感じもある。

鈴鹿。向こうもそう思っているわよ。

水本。あはは。なんで日本でできて、こっちにできないかって。

清水(通信機)。六郎が海底間近に到達した。こちらで操縦しているけど、そっちで指令してくれる?。

所長。すぐに検討する。