ID物語

書きなぐりSF小説

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作者より、その10

2011-12-14 | Weblog
作者より、その10

 作者です。いつもID物語を読んでいただき、ありがとうございます。

 突然の感じですが、奈良部長が記録した設定のID物語はここで絶筆です。

 奈良部長と情報収集部に何が起こったのか…。続きの構想はあったのですが、時間がたってしまいました。こうなってしまうと、番外編にするか、まったく新しい物語にならざるを得ません。つまり、ID物語はここで完結です。いずれにせよ、奈良部長はファミリー牧場でロボット部隊のA31とともに動物の世話をするハッピーエンドです。

 元のDTMの話が原点で、ID物語はその派生の気軽な物語の予定でした。その元の話は、ずっと前に書いたもので、私自身、内容は忘れています。つまり、おぼろげな構想だけが記憶に残っています。したがって、このID物語が、現状では関連する唯一の物語です。

 お気づきの方も多いでしょう。ID物語は、小説としては形式が変です。これは、漫画の原作のつもりで書かれたものです。ただ、絵の好きな人が見ても、ほとんど光景の想像ができないようです。もちろん、各自の想像に任されているのですが、筆者の考えを記しておきましょう。

 救護ロボットの設定の自動人形は、消防の人が着るような服を普段は着ています。防火服みたいな、軽装の鎧の感じ。ヘルメットや手袋は用意されていますが、普段は装着していません。ブーツは履いています。
 奈良部長は普段は普通の紺や灰色のスーツを着ています。伊勢さんの普段の姿も会社の事務職風ですが、色彩のほとんど無いグレー系統が多く、白と黒でコントラストを付けています。志摩や鈴鹿たちは普通の学生風の服ですが、職業柄か、手足を覆うような服を好みます。
 海原博士は、工場で着るような作業服がお気に入りです。正式な格好をするときは、ばしっと決めます。大江山教授共々、だらしない格好はしません。
 物語の舞台は、現在の東京です。外見上、特に変わったところはありません。少し変わったところがあるとすれば、自衛隊ではなく、本来の意味の軍が存在することです。でも、外国の軍であるA国軍の基地がある点は、本物の日本と大差ありません。
 SFなのは、志摩たちの持つアナライザーやシリーズBなどのメカが主体です。しかし、外見は偽装しているので、見慣れた装置に見えます。

 ID物語は、一見、自動人形が何の目的で作られ、将来、どのように使われるのかの謎解きが主軸の話に見えます。しかし、このロボットたちは脇役です。書き手の設定の奈良部長が、尋常ならぬ愛情を注いでいるだけです。
 それでは、何がこのID物語のテーマなのか。それは、地下組織DTMの深部にあり、物語では清水亜有が知りたがっていたものです。ID物語は、その深部を指し示しているだけで、近づいてはいません。近づくには、別の物語が必要です。ID物語は、志摩や鈴鹿たちの、地上に咲いた、あだ花の物語なのです。 

 終

第51話。東京サイボーグ農園、始動。8. 怪しい出資者

2011-12-14 | Weblog
 (そんなことで、東京サイボーグ農園には少しずつ、人が集まり始めた。面白い企画があると客が来るし、しないとすぐに減る。まったく正直に数字が動く。客の出入りで倒産する心配は無いから、楽と言えば楽だが、それでも一喜一憂するから面白い。
 そんなある日、園長に呼ばれた。)

奈良。来ました。ご用件を伺います。

御船。どう?、牧場は。

奈良。めだった事故も無く、ほっとしています。自動人形は慣れてきたし、そろそろ飼育係や大学院生に研究課題を考えてもらおうかと思っていました。

御船。順調ということ。ありがとうございます。

奈良。用件は、報告。

御船。今のは前座の挨拶よ。実は、ちょっと動きの怪しい業者がいて、調べて欲しいの。

奈良。私たちは、企業活動を調査すると言っても、合法的な範囲に限られている。

御船。張り込みまではする。

奈良。現地調査は基本中の基本です。

御船。じゃあ、その現地調査までをお願いする。どれくらい費用がかかるのかしら。

奈良。外部からの調査依頼となると、かなり高額。私たちだけでも1000万円近くかかることがあるし、自動人形を投入した例では上限1億円として、全額を請求した。交通費などの経費は、それに追加する形になる。でも、ここなら内部扱いにできそうだ。ならば、必要経費以外は無料。こちらの業務時間は割きますけど。

御船。それでいい。

奈良。非合法活動に関与しそうなら、最初から警察か政府担当機関に知らせるべきです。

御船。もうやった。らちが明かないとは、このこと。

奈良。優先度の低い案件かな。

御船。そういうこと。

 (話を聞く。かなり資金を投入してくれる企業がいくつかあるのだと。政府や自治体からの補助金が巨額なので、それに比べたらはるかに少ないのだけど、それでも目的を限らず、自由に使えるお金なのでありがたい。だから、最低限の下調べはしたそうだ。
 ところが、どうやら申告がかなり嘘に近い企業が1社あるのだと。怪しいので、手当たり次第に公的機関に聞きまわったのだが、ほとんどが門前払いで、話を聞いても記録するだけ。なので、こちらに依頼が来たのだ。情報収集部の全員に相談したら、キャシーが乗ってきたので、虎之介とペアを組ませる。)

キャシー。ロボットの商社のようなところか。農業分野に進出するつもり。

芦屋。そのようだ。政府は何かつかんでいるのか。

関。資本金が小さい割には、商売が大きい。順調なうちはいいけど、何かあったら問題。

芦屋。関係者の損害が大きいってことか。

関。単純に言うと、そう。商売相手の損害がね。担保が小さいと表現できるかな。

キャシー。小さな先端企業って、そんな感じじゃないの?。

関。ええ。だから、規模が小さいのに大きな商売しているだけでは、怪しいってことにはならない。特に先端分野はそう。魅力ある分野なら、成功したらいくらでも出資してくれるところはある。

キャシー。どこが怪しいのよ。

関。工業関係のロボットの商社なのに、突然農業分野に多額の投資。しかも、一人しか人を送り込んでいない。研究者じゃなくて、単に連絡しているだけ。

キャシー。変よ。

関。でしょう?。でも、しっぽを出さない。

芦屋。ええと、転ばぬ先の杖ってことか。

関。わずかな疑義がある。政府としても、資金の出所に興味がある。

芦屋。乗り込むか、張り込むか。

キャシー。とにかく行ってみようよ。関さんは、どうする?。

関。道路脇までは行く。入ると厄介なことになりそう。

芦屋。そうしてくれ。

 (キャシーの日本語は、物事を簡単に説明できる程度だ。だから、虎之介を付けるということにする。訪問の目的は、ずばり、御船園長の疑問をはらすための見学。新車両で乗り付ける。自動人形は、ケイコとサムとジョーンズ。関が運転。
 ビルの一角の小さな商社だ。近くの駐車場に止める。関とサムとジョーンズは車内で留守番。ちょうど、ビルの裏口が見える位置だ。
 キャシー、虎之介、ケイコが訪問する。小さな会社なので、専務格の人が案内してくれる。)

専務。そうですか。ご心配をおかけしました。

キャシー。御船園長は下積みが長かったためか、慎重なところがある。お許しください。

専務。お気持ちは、よく分かります。どうぞ、何なりとお聞きください。

 (政府の監査ではないから、取引先や金額は教えてくれない。でも、単に外から見るだけなら、見放題。キャシーは、商品について詳しく聞いて行く。虎之介は、ちょっと持て余しはじめた。周囲を観察する。
 どうってこと無いビルの一角。10m四方ほどの空間に仕切りをしている。床はいわゆるアクセスフロアで、10cmほど、本来の床から離れている。季節が良いためか、暖房も冷房も使っていない。壁には時計と、海中を描いた大きな絵が飾ってある。天井はオフィス用のまぶしくない照明。
 ふと、ケイコが手を握ってくる。DTM手話の開始だ。)

ケイコ◎。監視されている。

芦屋◎。その雰囲気だな。監視カメラは見つかったか。

ケイコ◎。あの絵が怪しい。壁の向こうに何かありそう。

芦屋◎。ぼけたふりして、隠し戸から入ろう。仕掛けが分かるか。

ケイコ◎。ここから分かるわけないでしょ。

芦屋◎。じゃあ、強引に入るしかないか。ええと、ネタはと…。

ケイコ◎。相手はプロよ。よほどボケないと。

芦屋◎。きさま、慣れてるな。

ケイコ◎。おかげさまで。

 (くさい芝居を打つ。ケイコがすすっと立つ。絵に近づいて、眺める。さすがに、関係者が気付く。)

キャシー。面白い絵。日本風なのかしら。

専務。そう見えますか?。たしかに、日本製です。海中の風景だ。

キャシー。それにしては、アールヌーボー風。

専務。ええと、あなた、大正デモクラシーって知ってる…。

キャシー。知らない。

専務。日本が世界から注目されたのはつい最近のこと。今から約100年前…。

 (ケイコが絵をまさぐりだす。虎之介がそばによって、わざとらしく質問。)

芦屋。ケイコ、何かあるのか。

ケイコ。面白い絵柄。吸い込まれそう。

芦屋。きさま、ロボットだろうが。意識は無いはず。

ケイコ。そうだけど、反応はする。ああ、いい感じ。

芦屋。芸術作品だ。触るな。

ケイコ。あれ、何かある。ここのところ。ちょっと光った。

芦屋。そんなはずはない。電源がつながっているのかな。

ケイコ。向こうに何かある。

芦屋。絵の向こうって、海中だよ。

ケイコ。そのずっと奥。

芦屋。だから、触っているのか。

ケイコ。行きたい。

芦屋。ここが四次元の入り口になってるとか。

ケイコ。確かめないと分からない。あれ取って。

芦屋。傘立てか。下の方が重そうだ。

ケイコ。あれで、思いっ切りぶん殴る。

芦屋。待ってろ、やってやる。

 (他全員、あっけに取られている。虎之介は傘立てをつかんで、振りかぶって絵にぶつける。ばこんと言って跳ね返った。)

ケイコ。普通の絵じゃない。

芦屋。その様だな。それじゃあ、思いっ切り…。

 (今度は思いっ切り、重い傘立てを絵にぶつける。でも、がん、といって跳ね返された。)

芦屋。かなり厚いアクリルでできている。普通に破壊するのは無理だ。

ケイコ。どうすればいいの?。

芦屋。順当には、熱で破壊…。

専務。もしもし、あなた方、何やってるんですか。

キャシー。ええと、あの絵の奥に行きたいみたい。

専務。海底に。

キャシー。オーストラリアみたいな、どこまでも青い海。ああ、憧れます。

ケイコ。でも変な絵。あれだけなぐってもびくともしない。

社員1。それは、監視用の絵ですよ。あそこのところがカメラになっている。

専務。言うなーっ。

キャシー。そうなの。用心深い。

ケイコ。その奥がありそう。あちらの壁が怪しい。

芦屋。こっちか。

社員1。よく分かった。そこが隠し扉ですよ。

専務。黙ってろ。

キャシー。奥に案内していただけるかしら。

専務。隠し扉というくらいだから、当然、秘密だ。

キャシー。園長が知りたかったものがあるかも。

専務。帰っていただけますか。

 (その時、隠し扉が開いた。中にいた男が、でてくる。)

男1。きさまら、何しに来た。

芦屋。だから、東京サイボーグ農園の園長からの依頼。ここを調査しろと。

男1。とっとと消え失せな。

芦屋。証拠隠滅か、そうはいかん。今から政府に知らせる。

男1。何の容疑だ。

キャシー。武器がある。ほら、ケイコ、装備しなさい。

ケイコ。うん。

 (隙を見て、中に入ったキャシーが発見。軍用ライフルをキャシーとケイコが装備する。)

男1。勝手に取るな。

キャシー。本物かな。

ケイコ。本物みたいよ。撃っていいかな。

男1。勝手に触るなと言ってる。

ケイコ。ええと、的はと。

 (ガラス製のウォータークーラーだ。安全装置を外して、ばばばっ、と3発撃つ。あっと言う間の早業。もちろん、ウォータークーラーは破壊された。)

ケイコ。本物だった。

 (当然、オフィス内は騒然。キャシーが、逃げろー、と叫んだので、ほとんどの人が逃げた。)

専務。お前ら、ただで済むと思うなよ。

ケイコ。動かない方がいい。こっちは武器を持ってる。

男1。そんな感じだ。嵌められた。

 (男がすっと懐に腕を入れる。プロのようだ。隣にいた虎之介が即座に殴り倒す。小型の自動拳銃を持っていた。虎之介が取り上げる。)

専務。どうするつもりだ。

芦屋。警察に任せよう。すぐに来るはずだ。

 (警察といっしょに、関が乗り込んで来た。キャシーとケイコから武器を取り上げる。
 専務は事情を聞くために、隠し扉から出てきた男共々、警察に連行された。出過ぎた行為に、虎之介とキャシーは、関からたっぷりとお説教を受けた。とぼとぼと新車両で帰る。運転は虎之介。)

キャシー。なんか、こんな話ばっかり。聞いていたのとは大違い。

芦屋。そりゃそうだ。志摩と鈴鹿なら、全然別の展開だろう。きさま、手を出すのが早い。

キャシー。タイガーも。

芦屋。部長、こうなることを見込んでたのかな。

キャシー。話が拡大する前に、つぶせるやつ。

芦屋。ケイコ、どう考える。

ケイコ。明らか。尻尾を出すのをじっと待つんじゃなくって、無理矢理叩き出す人選。

芦屋。それにしても、キャシーの仕事は、こちらの監視ではなかったのか。これじゃあ、役には立つまい。

キャシー。どうするかな。志摩さんといっしょに動くか、伊勢さんところに行くか。

芦屋。そうしたくても、A国軍のいる農園から離れるわけには行くまい。おれが交代したらいいのかな。

キャシー。もうしばらく、この態勢を見極めたい。タイガーだって、伊勢さんや志摩さんの行動はよく知っているはず。

芦屋。ああ、いやほどな。

キャシー。チームの一員。

芦屋。少なくとも、奈良部長はそう考えている。だから、そのように行動する。

キャシー。十分。あなた、分かりやすい。この方がいい。

 (キャシーは、虎之介を最初から気に入っていたのだが、この件で頼れる男と思ったらしい。情報収集部関係者では、唯一本心を言うようになった。虎之介も虎之介で、こういった感じの心意気はすぐに分かる。すぐにキャシーを仲間と認めたようだ。)

第51話。東京サイボーグ農園、始動。7. 西部劇

2011-12-13 | Weblog
 (数日後、そのオーディション当日。A国海軍の兵士と、その関係者が20人ほども集まった。よせばいいのに、カウボーイや南北戦争の兵士のコスプレしているやつまでいる。本物ではないから、かっこよくて、ピカピカ。)

ジーン。農園で採用するんですか?。

奈良。ボランティアだ。交通費や食事代は出す。保険も。

土本。恐いほど決まっている。本物の国だから、当然か。

エド。日本の時代劇といっしょだよ。あれを日本人以外がやると、どこか変。

軍関係者1。空き缶に当たればいいんですか?。

奈良。親子連れに受けないと意味がない。かっこよく頼む。

軍関係者1。聞いたか、者ども。やるぞ。

 (馬に乗る組と、乗らない組に別れる。
 仮設の柵の上に、所狭しと空き缶が並んでいる。2mほどの幅の柵が5つ用意されている。空き缶にはレーザーの受信装置があって、空き缶のどこかに当たると、音がして、派手に光る。とにかく、25個ほどの空き缶のどれかに当たらないと、全然様にならない。
 拳銃とライフルは5セットずつしかないから、交代で撃って行く。小さな発射音はするけど、撃った瞬間の衝撃はない。次第に、離れた位置から撃つ。
 さすがに軍関係者で、しかも、ウエスタンに関心のある奴等、急速に慣れて行く。自分たちで話し合って、効果的な距離だとか、的の配置を決めて行く。
 だいたい分かったので、キャシーがジョーンズとトーキョーでデモ。ジョーンズは救護服のまま、2丁拳銃のホルダ付きのベルトを付けている。トーキョーは、古風なライフルを抱えて、馬に乗っている。)

キャシー。開始!。

 (映画で研究したらしく、両機とも格好付けて撃つ。外れもあるけど、まずまず当たる。観客から、拍手。オーディションの面々も目を見開いている。)

軍関係者2。なんか、すごいものを見た。

軍関係者1。だが、あれは軍事ロボットのはず。愛敬で外したのかな。

キャシー。あれで精一杯です。トップクラスの人間には、絶対に追い付けない。

軍関係者2。最低限、あの線は必要って事だ。やるぞ。

 (まあとにかく、小火器のプロが必死になっているわけだ。様になっているし、すさまじい命中率。3名ほど、格好だけのふざけたやつがいたが、たちまち仲間に排除されてしまった。結局、ほとんどが合格。休暇を互いに取り合って来るので、人数は必要だろう、ということで、全員採用。
 合格祝いに、不合格者も含めてセイリュウで東京湾クルーズ。中でバーベキューを楽しむ。台所が狭いから、少しずつ作っては配る。操縦しているのは、赤に身を包んだつよし。料理人は鳥羽と志摩。キャシーとジーンがお相手。ケントもいる。自動人形は、ジョーンズたちとケイコとジョー。)

軍関係者2。狭いな。

軍関係者1。だが、快適だ。この密室内でバーベキューしても、びくともしない。

軍関係者2。こんな用途を考えていたとか。

ジーン。そうでしょうね。ケント、どうなの?。

ムーア。この船は、外洋に出ることを考えている。何もない海原だ。食事は数少ない楽しみの一つ。

キャシー。よく考えた。

ムーア。A国ID社に強く要望したのだ。うまく作られている。

軍関係者2。このモニタはよくできている。軍艦並みだ。

軍関係者1。どれどれ。ヨーロッパ系の感じだ。要約が激しい。

軍関係者2。しかし、言いたいことはよく分かるぞ。さすがに計測器のID社。

軍関係者1。やりすぎだ。…、不審船だぞ、こいつは。

軍関係者2。よく操作した。

軍関係者1。すぐ分かるって。何か脅す手段はないか。

志摩。ミサイル型観測機を飛ばすか、小型航空機を向かわせるか。

軍関係者1。後者だ。

志摩。ジョーンズはホワイトに、トーキョーはブラックに乗ってくれ。

ムーア。水中モーターを農園基地から発信させる。

志摩。全速でこちらに合流させて。

ムーア。了解。

ジーン。何が始まるのよ。

ムーア。調査だ。多分、相手は逃げると思う。

志摩。ホワイト、ブラック、発進。怪しい船の上空を3回突っ切ってくれ。

ジョーンズ(通信機)。了解。

 (轟音と共にホワイトとブラックがほぼ同時に発進。比較的静かとは言え、民間ジェット機並みの音はする。)

軍関係者1。うわわわっ、垂直発進したのか。

ムーア。その通りだ。蒸気ロケットだから、こちらにほとんど影響はない。

軍関係者1。肝が冷えた。

軍関係者2。向こうもそうらしい。ミサイルを発射したぞ。

志摩。ホワイト、ブラック、すんででかわして水中に逃げろ。

 (ホワイトとブラックは、改良型のカワセミ号で、しかもケントの念入りな調整が入ったらしい。どうやら、A国海軍の軍事技術をたっぷり仕込んでいる。海面付近でほぼ停止し、ふわりとコースを変え、ミサイルを海中に沈めてから、自分も沈む。)

軍関係者1。今度はどうなってるんだー。

ムーア。ミサイルをかわして、水中に逃げた。

軍関係者1。解説してもらわないと、訳が分からん。

軍関係者2。向こうもそのようだ。こちらに向かってくる。

ムーア。対戦車砲のようなものを持ち出した。セイリュウ、水中モーターを接続。潜れ。

セイリュウ。了解。

 (セイリュウはずぶずぶと沈んで行く。代りに、ホワイトとブラックが、怪しい船の目の前から空中に飛び出す。さすがに、逃げ出した。一目散に、東京湾の出口を目指す。)

志摩。ホワイトとブラックを回収。ケイコ、飛んでくれ。

ケイコ。了解。

 (セイリュウは浮上し、ホワイトとブラックが着艦。代りにケイコが飛び出して、怪しい船を追跡。)

軍関係者1。夢でも見ているようだ。ロボットが翼を出して飛んでいる。

キャシー。ケイコは世界最強の自動人形よ。あれを凌駕する自動人形は、存在しない。

ムーア。我が軍の開発したロボットだ。とくと威力を見ろ。

軍関係者2。ああ。追跡する。

キャシー。こちらを破壊する気だった。

志摩。一発目は、脅しだろう。東京湾で、よくやる。

ジーン。政府の反応があったみたい。そちらの空軍機が現れた。

ムーア。勇敢だな。ミサイル持った相手に。

志摩。ん、通信機だ。はいはい、志摩です。…、羽鳥からだ。何やってんだよーって。

キャシー。ミサイル戦よ。

志摩。説明する。…、余計なことしやがって。そいつは、こちらも追いかけているんだと。撤退しろって。

軍関係者1。ここで、撤退しろだと?。無視しろ。

志摩。困ったな。さる事情で、無視するわけには行かない。みなさんをそちらの基地に送るから、それでいいかい?。

軍関係者1。そうしてくれ。

志摩。基地に直行する。

ムーア。蒸気ロケットを使おう。艦艇を要請する。

志摩。雷電、水中モーターを切り離して、水中翼で進んでくれ。

雷電。了解。

 (向こうは高速艇とは言え、普通の船だ。セイリュウの方がずっと速い。)

軍関係者2。追越しちまったぞ。

軍関係者1。早い方がいいだろう。ほら、迎えが来た。

 (全員、ジョーンズとトーキョーにだっこされて哨戒艇に飛び乗る。セイリュウは離脱。)

鳥羽。結局、何したんだ、おれたち。

雷電。言われるがままに挑発した。

ジーン。ありがとう。多分、役だってる。こちらにも、そちらにも。

志摩。そう祈るよ。

 (A国軍が追い付いたのを確認して、ケイコを帰還させる。農園に向かう。)

ケイコ。いきなり作戦だったの?。

志摩。それに近い。相手の正体や目的は知らない。

ケイコ。ミサイルを撃ってきた。交戦よ。

志摩。単なるテロ集団かもしれない。あるいは、ただの密輸とか。

ケイコ。証拠が少なすぎるか。

志摩。うん。少ない。憶測するしかない。

第51話。東京サイボーグ農園、始動。6. 自動人形と家畜

2011-12-12 | Weblog
 (ということで、東京港ファミリー牧場は、ゆるゆるスタート。家畜とはいえ、不機嫌になったら蹴ったり頭突きしたりするから、性格が穏やかなのを選んでも、人の前に出す場合は慎重にならないといけない。だから、自動人形の訓練は必死。キャシーは、ジョーンズの調整中。A31は訓練したので、微調整のはずだが…。)

キャシー。あーん、操縦が難しい。触れた途端に羊が逃げた。ジョーンズ、ごめんなさい。

ジョーンズ。複雑な動きだ。何度でもトライしろ。

松井。いまでも、驚異の動きだよ。よくやる。

キャシー。奈良部長は、どうなのかしら。

松井。多分、必死。ほら、あっちで動物型の調整に難航しているようだ。

 (だって、ワシとジャガーだ。猛禽類に猛獣。家畜だから、嫌な思い出はなさそうだけど、直感で警戒する。自動人形は、まさか、軍事コードは起動しないと思うけど、得体の知れないところがあるのは、動物といっしょ。サムは翼を広げると大きく、近くで見ると恐ろしいほどだ。ジャグは高速で走って、引っかいて噛みつくことができる。)

キャシー。なにしているのかな。

松井。ジャグにウマを扱わせようとしているようだ。不自然だよ。

キャシー。鞍に坐らせ、手綱を前足に持たせている。たしかに。

松井。サーカスなんかでは、人間が合図するんだよね。

キャシー。ウマは賢いから、合図は分かる。うん、絶対にそうしているはず。

松井。後ろ足は鞍をつかんでいるから、使えない。

キャシー。それも不自然。

松井。試しているだけかな。

キャシー。そちらの調整はどうなのよ。

松井。必死だ。でも、レベルがまるで違う。牧羊犬と言いながら、ヒツジを扱うなんて、とんでもない。この牧場を安全に歩き回るだけで満点の出来。

キャシー。撫でられたりしたら、止まる。

松井。うん。そんな感じの。少し甘えた格好をする。

キャシー。かわいい動く人形か。

松井。不審者の発見くらいはする。ただし、知らせるだけ。

キャシー。大したもの。売れるかも。

松井。それが目標。

 (園長室のあるホール棟は広場ではなく、東壁付近に並ぶ工場や維持施設の建物群の一つにある。広場からは遠いけど、園全体を見渡すことができるのだ。海原博士が訪問中。)

御船。やっと動き出した。客入りは少ない。少しずつ増えてはいる。

海原。どっと来たら困るじゃろうが。

御船。まだロボットの調整中らしい。

海原。一通りの動きはできるはずじゃ。念には念を入れてだろう。農園の準備はどうなんじゃ。

御船。着々と進んでいる。

海原。普通の農園じゃの。

御船。工場みたいなのを想像して、がっかりした人はいる。でも、一気に跳躍なんて無理よ。人の動きをよく観察して、できるところから機械化。体系が分かったら、統合する。

海原。お主、学問に関しては慎重じゃの。

御船。所長譲りです。

海原。わしがそうなのか?。

御船。絶対に成功すると確信してから行動している。

海原。果敢に攻めているつもりじゃが。

御船。ところで、園への要望で変なのが来ている。

海原。メールとかか。

御船。ええ、そうです。A国風のグッズを増やしてくれとか、派手な西部劇アトラクションが見たいとか。どこをどう見たら、そんな結論になるのかしら。

海原。多分、テレビじゃろう。西部の牧場が東京湾に出現したとして紹介されていたぞい。

御船。この前、取材に来ていた。そんな紹介のされ方をしたのか。

海原。A国風のグッズは置いてあるじゃろ。

御船。商売になるからです。A国軍の人たちが、よく来るから。

海原。キャシーやジーンもいる。要望を出したんじゃろ。

御船。でもって、西洋風の牧場。

海原。G国風だが、A国風に見えなくもない。それに、A国風の自動人形のジョーンズやトーキョーがいる。

御船。白人、黒人も。少ないけど、目立つ。

海原。軍関係者じゃの。武器は持っとらんじゃろ。

御船。もちろん。

海原。じゃまあ、いいか。

御船。いいか、って、くいの上の空き缶を拳銃で撃つとか。

海原。流鏑馬じゃの。光線銃で、当たったら光が走るとか。

御船。来た人にもやってもらう。

海原。だめかな?。

 (私に相談が来た。訓練が必要だ。妙な動きと勘違いしてウマがパニックになっても困る。空き缶の仕掛けは、松井ら大学院生の初めての仕事になった。農園にある、工房のようなところで、楽しく作っている。たまたま来た土本が驚いている。)

土本。松井くん、プロ並み。

松井。プロの技は感じが違うよ。これは秋葉で手に入る部品で組み立てただけ。

土本。それにしても、きちんとしている。

松井。学生時代に衝撃を受けたんだ。こちらで作ったバラックを見せたら、共同研究の企業が完成度の高い装置に仕上げてしまった。

土本。これなら売り物になりそうよ。

松井。それくらいの気合いを入れないと。土本さんは、漁港の整備?。

土本。知っているのが私しかいない。何とかなりそうだけど。

松井。自動人形に、世話させるの?。

土本。私のいない間は。でも、今、忙しいみたい。

松井。はて、何かあったのかな。

土本。その空き缶の件よ。

 (キャシーから、ジョーンズとトーキョーの制御を取り上げて、走るウマの上から昔風の拳銃とライフルで、牧場の柵の上の空き缶を狙わせているのだ。キャシー、チームワークはできるらしく、私といっしょになって細かな調整をする。)

キャシー。うわさに聞く、信じ難い動き。

奈良。どうやら、軍時代に徹底的にチューニングされていたらしい。

キャシー。A31やゴールドたちで。

奈良。そう。こちらでは微調整するだけだ。

キャシー。微調整なんて物じゃないわ。単に、それらしい動きができていた、それだけ。

奈良。でも、別の解を探す必要はない。調整の範囲に思えるけど。

キャシー。そう表現したら、そうなるか。

 (持っている銃は、小出力のレーザーを発射する銃だ。今は可視光の波長なので、当たると缶に緑の点が光る。一瞬なので、人間では見逃すことがあるので、サムとジャグに追跡させる。
 キャシー、頭がよく、若いだけあって、のみ込みが早い。慎重な私の操縦がのったりと見えるらしく、途中から、よこしなさいよ、てな感じになってきた。なので、ほとんど任せる。
 自動人形はと言えば、最初は拳銃とライフルなので緊張していたのだが、明らかに軍事コードとは違う動きに気付いたようで、楽しく訓練に参加している。)

キャシー。面白い。ここまでやって、初めて分かる。

奈良。自動人形が乗ってきたぞ。

キャシー。うん、そんな感じ。

 (何とか、様にはなってきたので、キャシー、映画などでどんな演技をしているのか、調べてくると言い出した。ID社のビルに行く。こちらは、ジョーンズたちを引き連れて、休憩。)

ジョーンズ。西部劇だ。

トーキョー。そう感じる。それでいいんですか?。

奈良。そのとおり。要望があるのだ。アトラクションだ。かっこよく決めてくれ。

ジョーンズ。相手は、空き缶。

奈良。実際には、盗賊とか詐欺師が相手だろう。護身用の技、それを演技にしたんだ。

軍関係者1。面白そうだ。新しい演目ですか?。

奈良。ええ。客寄せのための。

軍関係者2。模擬銃で。

奈良。小出力のレーザー銃。本物は変調した赤外線だから、目には見えない。当たれば、仕掛けをした空き缶が光って、煙を出す。今は練習なので、緑の光。

軍関係者1。あはは。当時も、そんな賭があったかも。

奈良。空き缶に当たるかどうか、見物客が賭ける。

軍関係者2。その通り。空き缶は嘘っぽくてよい。その方がいい。

軍関係者1。やらせてもらえるか。

奈良。どうぞ。

 (拳銃とライフルを点検して、まずは地面に向かって発射。緑の点が光る。そして、空き缶に向かって、撃つ。でも、なかなか当たらない。ライフルでも、当たったり当たらなかったり。)

軍関係者1。難しいな。

軍関係者2。1世紀以上前の銃だ。プラスチック製だがバランスはそっくり。よく真似ている。

軍関係者1。本物を撃ったことがあるのか。

軍関係者2。ああ。多少は。いまさら、使えない。

奈良。当たったら、賞品を出してもいい。当たらなくても、粗品。

軍関係者2。素人と確認してからの方がいい。マニアがいそうだ。

軍関係者1。西部劇マニアを探してみようか。

軍関係者2。参加させてもらえるのか。

奈良。願ってもない。歓迎する。

 (応募してきた人たちは、案外多かった。なので、オーディションをすることに。)

第51話。東京サイボーグ農園、始動。5. 一般公開

2011-12-11 | Weblog
 (東京港ファミリー牧場の一般公開は、静かなスタートだった。最初は、売店や食堂が撤退しないかと、はらはらするほど閑散だったが、都心に近いこともあり、1ヶ月もしたら、普通に人が入るようになった。土日は、賑わっていると主張できるほどの入りになった。週日も、小学校などからの団体客が入る。客層は、老夫婦と親子連れが主体だ。)

 (さて、開園直後に時を戻そう。まだ、どれくらいの人が来て、どんなところが人気になるのかさっぱり分からなかったので、臨時でいおりたちに手伝わせる。ライジンに乗って、エドも来ている。キャシーを見つけて、話しかける。)

エド。どうだい?、調子は。

キャシー。絶好調!。

エド。ファミリー牧場のことだよ。

キャシー。ご覧の通り、閑散としている。でも、少しずつお客が増えている感じはする。

エド。そんなに宣伝とかしてないから。

キャシー。公立の施設で、入園料は安い。来場者数は、あまり経営には関係ないらしい。主体は研究よ。

エド。怪しい連中とか、来ないかい?。

キャシー。来るけど、A国軍の関与があるから、びびって逃げ帰ってる。ギャングどもも、入る前に撤退している。

エド。真正面に我が海軍の艦艇があるから。

キャシー。SF戦艦の隣だから、最初は本物とは信じないみたい。でも、近づけば、あっちもプロだから機関銃などが本物と分かるみたい。

エド。そりゃ恐いだろう。内部の警戒もするのかい?。

キャシー。仕事ではないけど、部隊の人間は暇だから入ってくる。出資者だから、身分証で入場は無料。屈強な白人、黒人がうろついている施設は珍しいらしい。

エド。東京でも珍しいよ。

キャシー。おかげで、食堂や売店にA国の品々が揃ってきた。行ってみようか、くつろげるよ。

 (コーナーは小さいけど、うまく揃えてあって、充実している。)

エド。こりゃいいや。ピンバッジがある。フットボールって、日本じゃ受けないんだよね。

キャシー。一部の日本人には受けてる。だから、ちょっとした評判のスポット。

エド。冷蔵庫の中には、本物のルートビール。これがなかなか手に入らない。ん、音楽だ。

キャシー。ジョーンズたちのアトラクションよ。

エド。見に行こう。

 (小さなステージで、ジョーンズ、トーキョーとゴールドたちが演奏している。A国風と、E国風とごちゃまぜ。)

エド。あはは。面白いや。広場と牧場そのものは、大陸風だし。

キャシー。G国のを参考にしたみたい。Y国と似ている。

エド。日本の中でも、ここは特に日本風だ。いいと思ったら、何でも取り入れる。箱庭みたいに。

キャシー。いつのまにか、日本のものになっている恐さがある。

エド。本物じゃ負けないよ。キャシーは偵察しに日本に来たの?。

キャシー。まあ、そういうこと。特に、情報収集部がA国軍との連携に失敗したら、悲惨。

エド。使命を帯びているんだ。

キャシー。伊勢さんやタイガーの実力は知ってる?。

エド。ジーンが恐れている。たぶん、少佐も。

キャシー。彼らだけで、通常装備の一大隊を相手にできると考えられている。小国の軍なら、壊滅。

エド。武装すればね。ライジンとフウジンの威力はすさまじい。

キャシー。その分じゃ、知らないんだ。いい?、エドやケントは、我が軍がこの国でうまくやって行けるかどうかの鍵を握っている。

エド。ぼくはスパイじゃないよ。

キャシー。本国には報告する。

エド。当然。

キャシー。じゃあ、日本や他国から見たら、スパイよ。

エド。伊勢さんやタイガーが、我が軍を撃退するって?。

キャシー。そのように見える事態はありうる。

エド。まてよ、それじゃあ、A国ID社だって危ないじゃないか。

キャシー。情報収集部に相当する組織はない。

エド。だから、研究するってか。たしかに、鳥羽はともかく、いおりとつよしは不気味だ。

キャシー。現に、我が軍が近づいた。

エド。ええと、きっかけはと。ぼくは情報収集部に派遣されたんだ。自動人形のコントローラになるために。A国内でできるって主張したんだけど、情報収集部に行けって。

キャシー。で、どうだった?。

エド。自動人形が目を見張る動きをしている。何かあると思った。

キャシー。今でも。

エド。キャシーも縦横に自動人形を操縦している。もう、必要ないかも。

キャシー。東京は、自動人形にとっては特別な地。どの自動人形も、東京に行きたがる。そして、全世界に戻る。

エド。巡礼の地。奈良部長がいる。

キャシー。そして、伊勢さんと亜有。

エド。待ってよ。亜有さんはY国本部の秘書のはずだ。

キャシー。ここ、東京の出身。そして、ID社に引き込まれた。

エド。奈良部長か伊勢さんがスカウトした。

キャシー。実質的に、そうなる。自動人形は変貌した。元の自動人形ではない。

エド。それが、ここで起こった。

ジーン。我が軍がつかんでいる情報とは微妙に違う。キャシー、エドをミスリードしようとしたでしょ。

キャシー。あら、あっち、面白そう。行ってくる。さよなら、またね。

エド。行ってしまったぞ。

ジーン。あの女が、一番怪しい。

エド。まあね。伊勢さんたちは、明確な目的を持っている。こちらにもよく分かる。

ジーン。日本政府と組んで、怪しい企業や団体に潜入して調査すること。そして、警察や軍を介入させる。情報収集部の仕事。

エド。うん。派手だけど。

ジーン。それだけなら、何の懸念もなかった。

エド。少佐の出る幕もなかった。

ジーン。その通り。エド、自動人形はどう思う?。

エド。ベルたちのことか。よく働いてくれる、救護ロボット。

ジーン。そうじゃなくて、我が軍にとってどうかよ。

エド。中立。毒にも薬にもなる。操縦者次第。

ジーン。そのとおり。つまり、情報収集部、あるいはID社の壮大なカモフラージュよ。

エド。ID社の目的かい?。それは感じる。私企業としては、明らかに変だ。

ジーン。その目的を隠すための…。

エド。ジーン、今度は、こちらから言わせてもらう。自動人形には秘密がある。我が軍が仕込んだのか、ID社が仕込んだのかは不明。あまりに複雑な装置で、解析を拒んでいる。

ジーン。その線もあるのか。

エド。そうだよ。ややこしいのは、ID社がゴールドたち、我が軍が作ったオリジナルの機体を頑固に維持していること。普通なら、ジョーンズたちのクローンで事足りるはずだ。

ジーン。どこに違いがあるのよ。

エド。基本プログラムの最奥。非効率な起動コードの脇にある、テスト用のコード。

ジーン。それが何か。

エド。クローンには、そのテスト用コードはない。でも、全く同じプログラムが動いている。

ジーン。だから、クローンよ。

エド。我が軍のデータベースには、そのテスト用コードを利用したプログラムが保存されている。クローンでは動作しない。でも今となっては、あまりに稚拙で、全く役だたない。

ジーン。だから、何なのよ。

エド。ID社は、そのテスト用コードを利用したプログラムを持っているはずだ。でないと、オリジナルを温存する意味はない。

ジーン。非常事態の場合にそのプログラムをインストールする。

エド。わずか40機のオリジナルの機体。どんなサイバー攻撃にも耐える。なぜなら、テスト用コードは、書き換えができない。

ジーン。でないと、テストにならないわ。

エド。その40機が、ID社の所有する200機のクローンを次々に修復する。

ジーン。その200機の目標は。

エド。我が軍が開発中の、高度な軍事用アンドロイド。当然、オリジナルの自動人形の技術が流用されている。しかし、救護ロボットではない。

ジーン。軍の作戦に直接に投入可能なロボット。それを無力にする。

エド。それだけで、済むかな。

ジーン。軍のネットワークに穴が開く。

エド。一部にでも突破口を許せば、大変なこと。

ジーン。それが、ID社のもくろみ。

エド。それは、多分、ほんの一部…。

ベル。誰か来る。

報道1。すみません、そちらのイヌと翼の付いた女の子もロボットですか?。

ジョー。イヌではない。ジャッカルだ。

報道1。失礼。やはりロボット。顔つきが鋭くて、かわいくないから分からなかった。

ジーン。失敬な。この精悍な感じがいいんです。強いんだから。びっくりするわよ。

報道1。向こうにいる子供ジャガーと同等のロボット。

ジョー。その通りだ。救護ロボットだ。自動人形と呼ばれている。

報道1。じゃあ、アンドロイドと同じ。この女の子も。

エド。ベルは周辺機器です。センサーなどは同じだけど、頭脳はない。自動人形の手足となって働く。たしかに、見かけはいっしょ。

報道1。あなた方は、牧場の関係者で、A国人。

エド。そうです。それが何か。

報道1。画期的な牧場と聞いてやってきたんだけど、単なるファミリー牧場に見える。

エド。外見はそうでも、大変な技術が投入されている。このベルだって、世界で唯一の逸品。

報道1。そうらしい。でも、普通の人形に見えてしまう。普通の人にすごさが分かるような映像が欲しい。

エド。それは難しいなあ。

報道1。ところが、売店の一部はA国風。客の一部には白人や黒人。そして、ロボットを連れたあなた方。

エド。ここの出資者の一部に、A国海軍がいる。それだけですよ。

報道1。この牧場の雰囲気といい、異国風だ。

エド。G国の牧場に似せたらしい。日本のよりは、A国の牧場と似ている。

報道1。そしたら、あなた方。恋人ですか?。

エド。残念なことに、違う。

ジーン。私はA国海軍所属の秘書。こちらは、A国空軍系の有名な研究所から研修に来ている技術者です。

報道1。そうですか。映像を撮って、放送してもいいですか?。

ジーン。いいけど、ここに座っているだけでいいの?。

報道1。絵になる。西部の男と女。

エド。私は東海岸の研究所の…。

報道1。黙っていれば分かりませんよ。それじゃあ、撮ります。

 (ほんの1分、ハンディカメラで撮る。その人は、とある放送局の取材者であることを明かし、礼をいって去っていった。他の場所も撮るみたいだ。)

ジーン。何だったのよ、あれ。

エド。さあ。いずれにしろ、大した番組ではなさそうだ。バラエティー番組か何かの話題の一つだろう。

ジーン。何の話をしていたんだっけ。

エド。憶測に突入するところまで。もういいかな。

 (エドの直感は当たっていて、映像は、バラエティー番組の穴埋め話題で使われただけだった。大西部の牧場、東京湾に出現、だと。多少ふざけてはいたけど、農園を貶めるものではなかったので、問題にはならなかった。しかし、全国放送の威力はあるもので、全国から問い合わせがあったのだと。)