ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。5. 衣装合わせ

2010-11-21 | Weblog
 (2台のトースター号と旧車両にてデパートに行く。旧車両にて。)

芦屋。トースター号が売れた。あっと言う間に。信じられん。

伊勢。あら、かっこいいクルマよ。さすが自動車メーカーだわ。マニアの琴線に触れるみたい。

芦屋。我が社のクルマが負けている。

伊勢。あらあ、我が社って言ってくれるの?。ありがと。

芦屋。いつのまにか、社員並みだ。

伊勢。そろそろ営業でもしてみるか。

芦屋。おれが営業…。破談ばかりだろう。

伊勢。そんなことないわよ。正直に性能をぺらぺらしゃべりそう。いざとなったら、必死で勉強しそうだし。

芦屋。志摩…、負けんぞ。

伊勢。その意気よ。

 (トースター0号にて。)

志摩。ふぁっくしょん。…、失礼。

猫山。うわさだな。誰だ。

志摩。虎之介あたりかな。どうせ、差し障りのない話。

猫山。君たちはどういう仲なんだ。

志摩。同期です。同じ訓練を受けた。虎之介と鈴鹿と私。

猫山。清水くんは違う。

志摩。彼女は普通のお嬢さんです。大学のクラブで知り合った。

猫山。見たまんまだ。

志摩。でも、今は仲間。いっしょに行動している。

猫山。ID社の総本部の所属だった。Y国の。

志摩。優秀なのは引っこ抜かれる。亜有がいい例だ。途方もない頭脳と、まともな性格の持ち主。

猫山。分かる。何かあったんだ。あんな商売しているなんて。

志摩。おれには分かりません。

猫山。それでいい。ところで、自動人形って何者なのだ。ロボットだろう?。あまりにスムーズに動作している。

志摩。普通は、あんなにうまく動作しないようです。単に指示を淡々とこなすだけ。ここには奈良さんと伊勢さんがいるから、まるで…。

猫山。まるでペットか家畜みたいに動いている。見慣れたけど、考えてみれば不気味だ。

志摩。魂を持ったような。

猫山。はは、引っかからんぞ。でも、そう表現しても良いくらいだ。

志摩。一般の人が描くより、はるかに複雑にできたロボット。

猫山。あれだ。いつの世にも、時代をはるかに超越した機械が存在する。そして、それを使いこなしてしまう人がいる。いいテーマだ。サイボーグ研にも希有な頭脳が結集している。

志摩。このクルマのことですか?。

猫山。それもある。だが、それよりも、さっきのロケット付きグライダーで分かる。技術者が驚いていた。それでいて、誰でも分かる。

志摩。火本と水本の仕事だ。

猫山。あの2人は面白そうだ。

 (デパートに着く。小鹿氏は鈴鹿や伊勢と楽しく話している。どちらとも話しやすいらしい。港氏が慎重に服を選んでは、松武氏に確認を求めている。松武氏は意見は言うけど、判断は港氏に任せている。)

高橋。いつも専門家に相談しているんだけど、今回はあの東京から来た人。

伊勢。松武さん。着物のことが分かるのかな。ちょっと聞いてくる。

高橋。行っちゃった。律儀な人。

鈴鹿。伊勢さんでしょう?。心配りができる。

高橋。疲れないのかな。

鈴鹿。私には真似できそうにない。

伊勢。歌舞伎とかには詳しいんだって。

高橋。時代考証ってやつか。

伊勢。ええ。それと、東京風のアレンジと。

高橋。ふーん。港先生、どうするのかな。

 (港氏は、松武氏の意見を聞いて、取り入れるべきところは取り入れているようだ。次々に舞台衣装を決めて行く。)

土本。費用はどうなるのかな。

清水。聞いてくる。

 (亜有は総務の星野さんに相談。)

清水。半分補助するって。出さなければ、社で使い回しする。

土本。他に役立つのかな。

清水。アンにはぴったり。

土本。そうだった。どうしようかな。手放したら後悔しそう。買う方向で考える。

 (小鹿氏とエレキとマグネ以外は町人の設定なので、普通の値段。小鹿氏は自分のコレクションを利用。お役人役のエレキとマグネは紋付羽織袴で、やや高価だ。ID社のロゴを紋にする。もともとベンゼンの構造式を図案化したものなので、亀甲紋に近い。似合っている。)

高橋。こんなものかな。上出来。

イチ。飛べるかな、この格好で。

レイ。伊勢さん、どうかな。

伊勢。あとでいつものように強化する。

高橋。いいわね、この子たち、飛べて。私も飛んでみたいな。

 (痛いところを突いてきた。関係者は知らんぷりを決め込む。しかし、加藤氏がバラしてしまった。)

加藤。飛べますよ。自動人形が被災者を助ける際に、ロケットを使う。

高橋。飛べるの?。

加藤。ロケットを装備したアンドロイド型の自動人形に掴まって飛ぶんです。うまく支えてくれる。

高橋。なんで今まで黙ってたのよ。

海原。危険じゃ。いちかばちかの救出劇で使う。

高橋。でも、この子たちは救護班。日頃から訓練している。

海原。それと安全は別次元の問題じゃ。その場にいた方がより危険な場合に限って…。

高橋。決めた。そのロケットを使って、笑いながら立ち去って、歌の会場に移動。

奈良。蒸気ロケットは1回に数十秒しか使えません。着陸できないヘリコプターに飛び乗るとか、そんな用途。

高橋。どれくらいの高さまで使えるの?。

奈良。そっ、それは…。

高橋。そのうろたえ様だと、軽く50mは飛べる。

鈴鹿。理論上は、その10倍ほどは飛べる。実用上は、その半分以下。

高橋。摩天楼もひとっ飛びじゃない。ビル火災とかで役立つはず。なぜ普及してないのよ。

海原。ただでさえ危険な仕掛け。それに、自動人形しか扱えぬ。人間は装備できないのじゃ。

高橋。そんな…。あなたたち、サイボーグを作るんでしょうが。さっさと救護ロケットの付いたサイボーグを作るのよ。

火本。ケイコ型の目標が決まった。

水本。一つのアイデアよ。蒸気ロケット技術は、ID社から買わないといけない。安くはないはず。

高橋。人命がかかっている。私、スポンサーになろうか。いくらよ。

 (星野さんを呼ぶ。本当の開発費は10億円ほどらしい。でも、今や技術の蓄積はあるから、役立つ改良ならはるかに安い価格で提供できるらしい。)

高橋。要するに、ギャンブル代。

星野。ありていにいうと。突拍子も無い開発ですから。

高橋。よし、乗った。

星野。大江山教授などと協議して、正式の見積もりを取りますから、それからお考えください。

高橋。必要な仁義ね。分かった。待つ。

 (もちろん、小鹿氏の厚意による資金援助では全然足りない。大江山教授は、またも資金集めに奔走することになるのである。)

火本。プロトタイプなんてもんじゃない。最初から実用狙いだ。

海原。光陰矢のごとし。急いだ方がいい。5年など、あっと言う間じゃ。

火本。大学院に入るなり、真剣勝負。

海原。あきらめい。しっかりやるのじゃ。

火本。はい。

 (衣装を持って、ホテルに帰る。)