ID物語

書きなぐりSF小説

第42話。鈴鹿、オンステージ3。22. カワセミ3号

2011-06-30 | Weblog
 (展示会の3日前。ジャズとロックの楽団がやってきた。同時に、A国ID社に発注していたカワセミ3号の1番機がトカマク基地にやってきた。3座になった分、2号よりも多少大きいが、それでも小型だ。関係者全員で、クレーター地下の駐機場に行く。)

鈴鹿。うん。これで、用途がぐっと増える。

エド。いいだろう。これが究極のカワセミ号と言っていいくらいだ。

鈴鹿。他の設計もあるの?。

エド。ああ。A国に帰ってから注文するつもり。4座のカワセミ号。ずっと大型になる。

鈴鹿。それも見たい。

エド。いつか、ここに表敬訪問に来るよ。

鈴鹿。約束。

エド。うん、約束。

ジーン。私が使っていいのかな。ジョーを使って。

エド。もちろん。これで試して、もう一機を作る。欠点があるのなら、早く見つけた方がいい。

鈴鹿。飛ばそうよ。

エド。用意してくれ。

 (クレーターのエレベータを下げ、カワセミ2号と3号と関係者全員を乗せて地上へ。なぜか、ジョージと楽団まで付いて来ている。)

ジョージ。クレーターの地下から出現。E国のスパイ映画かSF人形劇みたいだ。

伊勢。驚くのはこれからよ。

 (万一のため、イチとレイを飛ばして、空中に待機させる。ジョージも楽団も、前に見ていたはずだが、それでも歓声が沸く。
 2号にはバロンとエドが乗り、3号にはジョーとジーンとジロが乗る。ほぼ同時に発進。蒸気ロケットの轟音と光。そして、霧が晴れたかと思うと、軽いゴーっとした音で急速に上空へ向かう。)

全員。おおおおーっ。

ジョージ。夢でも見ているようだ。

鈴鹿。最近、こんなのばかり。役立つのかな。

伊勢。実績を積まないと。予算が続かない。

ジョージ。任せてください。何とかします。

伊勢。いやあの、そういう意味の実績では…。

 (小型とは言え、まともにジェット機だ。セスナ機程度の300km/hほどで、2機がトカマク基地の上空をすり抜けるのだが、かなりの迫力。)

ジョージ。すごい迫力。

鈴鹿。小さいから、速く見えるのよ。

ジョージ。同時に敵機50機を相手にできるとか。

鈴鹿。計測性能なら、そう。高級な観測機。

芦屋。ぜんぜん強くない。軍に来られたら、即座にひねりつぶされる。

ジョージ。我が軍なら何とかしてしまいそうだ。

芦屋。そんな感じだな。

 (旋回性能を試した後、東京湾のはるか沖、高空に出て、スーパークルーズを試す。戻ってきた。ジーンは、ふらふら。)

ジーン。うぷっ、しばらく御免。

清水。無理するからよ。ジロ、ジーンを抱えて、部屋に連れていってちょうだい。

ジロ。了解。

清水。エドは大丈夫?。

エド。少々きつい。

清水。こっちも無謀。

エド。モグを用意してくれ。確かめたいことがある。

清水。まだやるの?、止めないけど。誰がいいかな。ベル、付いてあげて。

ベル。がってん。エド、行こう。私がいるから、大丈夫。

清水。パイロットはいいとして、乗員は…。

鈴鹿。乗ってみたい。

芦屋。右に同じ。

清水。アン、行け。

アン。承知。

 (パイロットは交代無し。つまり、ジョーとバロンが乗っている。エドが次々に指示を出す。期待通りの性能が安全に出るかどうかを探っているのだ。水中動作も試してみる。)

芦屋。異常はないようだ。乗り心地もよい。

エド。よかった。

鈴鹿。大したもの。

 (カワセミ号2機とイチとレイで編隊を組む。トカマク基地上空を何度も飛ぶ。)

海原。夢を見ているような光景だ。

大江山。エドワード・ベイツ。あんなのをあっと言う間に作るなんて。

海原。良い人材。ロボットに接点があるのなら、獲得したいところ。

大江山。エドくんは、あと1カ月の滞在だな。

海原。そのとおり。カワセミ号とバロンたちを引き連れて、帰る。

大江山。ジーンはずっといるんですか?。

海原。さあて、秘書は楽しんでおる。ずっといてくれると、何かと面白いことが起こりそうなので、いいんだが。

大江山。性格が丸くなった。

海原。性格は変わらん。自分がサイボーグでも、不安がなくなったのだ。ジョーのおかげで。

大江山。A国軍、途方もない得点を稼いだわけだ。

海原。現時点でのサイボーグ技術のすべてがID社に知られた引き換えにな。

大江山。ジーンを送り込んで来た時点で、ID社の検出能力は知っているはず。

海原。そう。取引。エドは今や、自動人形を自由自在に操っている。日本ID社が現有するすべてのノウハウが知られてしまった。

大江山。そのお土産が、カワセミ号の改良。

海原。オトヒメのプログラムも、大幅に改良されたそうだ。

大江山。何かが起こる。

海原。近々。1カ月後か、1年後か、5年後か。

 (カワセミ号に乗せてくれてのリクエストが殺到したので、交代で乗ってもらう。そのあたりをふわりと一周するだけの、遊園地みたいな飛行だ。それでも、面白い経験だったらしい。もともと、計測用の飛行機で、後席の乗り心地はよい。後席の視界は悪いが、モニタは良くできている。
 楽団の総合練習は、整備場で行う。大きめのスクリーンを用意し、作製されたCGを撮影しながら、1シーンずつ確定して行く。会場での練習の機会は、一度きりだ。ジョージも加藤氏もプロなので、結構、注文がきつい。ジーンと鈴鹿は、必死で付いて行く。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。21. ジョージと伊勢と

2011-06-29 | Weblog
 (翌日、猫山スタジオ。海原チームの主要メンバーは、早朝まで及んだ作戦の影響で、爆睡中。ジョージはやってきたが、伊勢とエドと自動人形しかいない。伊勢が説明。)

ジョージ。作戦て何。

伊勢。疑義のある企業や団体の調査。ジーンたちは、早朝まで非合法物質の流通ルートを追いかけていた。

ジョージ。カワセミ号とかで。

伊勢。カワセミ号は出なかったけど、シリーズBは出動。それより、ベルたちが活躍した。お見せしたかったくらい。

ジョージ。実用ロボットなんだ。

エド。ここでは、大活躍。普通は、与えられた指令を淡々とこなすだけのロボット。

ジョージ。ある程度は判断できるはず。

エド。でないと、皿洗い一つできない。

ジョージ。そういう意味の判断か。

エド。通常、ロボット工学ではそのような意味で使う。

ジョージ。でも、ここではまるで意志があるかのように動く。

エド。そう。コントローラの優秀さもさることながら、周囲の人間が慣れている。自動人形がどう反応するか、熟知しているからできる技。こちらが操縦していることを忘れるほど、巧妙に動く。

伊勢。どうします?、練習は。ジーンの代りに、アンを呼びましょうか。

ジョージ。そうしよう。あと、2人。

伊勢。虎之介はジロに代りさせるとして、羽鳥くんの代りがいない。

エド。タロか五郎か。

加藤。私がやろうか。

ジョージ。バク転できる?。

加藤。できません。

ジョージ。タロにしよう。呼べるのか。

伊勢。今すぐ、呼びます。

 (鈴鹿が連れてくるという。待っている間に、伊勢は曲についてジョージと打ち合わせて行く。ジャズバンドの演奏は、当然、録音で届いたわけだが、伊勢はさっさと音楽用ソフトに打ち込んでしまい、キーボードが勝手に演奏している。テンポなどが変えられるからだ。さらに、自動人形に楽器を持たせると、そのとおり弾いてしまう。)

ジョージ。なんか、すごいものを見た。

伊勢。楽譜を見せたのと同じことよ。

ジョージ。理屈は分かる。まてよ、じゃあ、この手の音楽ファイルを入力したら、ロボットが演奏するのか。

伊勢。ええ。演奏可能な範囲で。たいていの人が、面白がる。

ジョージ。さらに、注文したら、アレンジしてくれる。

伊勢。プログラム次第。私なりに調整したから、ある程度は通じる。

ジョージ。やってみていいかな。

伊勢。構わないけど、そちらはサイボーグ研の発表。あまり関係ないのでは。

ジョージ。ジーンとバロンが組になって踊る。その時、使おう。一瞬だけど、ものすごいインパクト。

伊勢。トランペットは吹ける。でも、ロボットに難しい演奏は無理。プロにはかなわない。

ジョージ。こちらの音楽担当者に、うまく説明してくれ。

伊勢。やってみる。

 (鈴鹿が到着。ジョージ、さっそくアンとジロにトランペットを持たせて、演奏させる。普通に演奏する。)

ジョージ。大したもの。まてよ、最初から設計されていたのかな。

伊勢。救護所での慰労用の技。軍楽隊に応援として加わったかも。

ジョージ。じゃあ、最初から狙いの範囲だったわけだ。

伊勢。そうしないと、全く演奏できない。ちょっと凝りすぎ。

ジョージ。設計思想は分かる。

 (代役なので、場面の確認と調整をしただけ。午前の部、終了。伊勢に興味を持ったジョージ、昼食に誘う。特に用事もないので、伊勢はOKした。近所のレストランに入る。)

伊勢。男の人に誘われるなんて、久しぶり。

ジョージ。ご冗談を。

伊勢。こんな大学祭の企画もされるんですか?。

ジョージ。いや、こんなのは初めて。世界的な大学でできるなんて、夢のようです。

伊勢。楽団の方たち、満足していただけるかしら。

ジョージ。自分たちも演奏できるし、面白そうな催し物だからって、興味津々のようです。

伊勢。よかった。わずか10分づつですもの。観光旅行も、飽きただろうし。

ジョージ。そんなことありません。日本は見どころいっぱい。自然も、文化もいい。街を歩くだけでも面白いし、特に東京は何でも手に入る。

伊勢。食事が来た。いただきながら。

ジョージ。はい。

 (伊勢は軽くサンドイッチだ。ジョージは普通にステーキなどを。)

伊勢。加藤さんはいかがですか?。

ジョージ。いい才能だ。ただ、彼はクラシックが心底好きらしい。今回は、少し気の毒な気がする。

伊勢。アニメやゲームの音楽は嫌いではない。ロック音楽は、よく知っているはず。

ジョージ。ええ。でも、プロとしてやる気は無いでしょう?。

伊勢。若いから、勢いでやってる感じかな。本物のプロのロックバンドと付き合うなんて、いい経験になると思う。

ジョージ。彼は、あなたの演奏を絶賛していた。

伊勢。私はクラシックが好きだから。

ジョージ。聞きましたよ。ラジオ放送を。でも、リサイタルすると、全く違うって。

伊勢。そうらしい。

ジョージ。ラジオでは、緊張した音楽に聞こえる。だから、眠気覚ましになるって。

伊勢。あはは。そうなのよ。おもしろいでしょ。

ジョージ。聞く者に緊張を強いる音楽。苦痛を伴うほどの張りつめた感じ。すべての音符が動かされまいと、そこでがんばっているみたいな。だが、生で聞くと、全然違う。精密なだけじゃない。無味乾燥に見えていた音楽の片隅に、暖かさやユーモアがわずかに見える。

伊勢。ええ。猫山先生も同じ感想。

ジョージ。意味が逆転する。砂漠に見えていた情景が、突然鮮やかな色彩に包まれる。

伊勢。何を言いたい。

ジョージ。リサイタルしてください。我が国で。あなたの音楽を理解する者が必ずいる。

伊勢。儲かったためしがない。それに、私はプロではない。さらにあなたは、クラシックの興行をしたことがあるのか。

ジョージ。私はイベント屋だ。冒険になる。

伊勢。インターネットは調べたの?。ろくな感想がない。面白がっているだけ。あるいは、気味悪がるだけ。

ジョージ。我が国でも同じだ。不思議な音楽として、紹介される。

伊勢。そうでしょう。加藤氏もあきらめている。どうやったって弘まらないと。たまたま聞けた者、そして、気付いた者だけの宝物。

ジョージ。その機会を、我が国にも。

伊勢。いいわよ。話の種にはなる。

ジョージ。じゃあ、話を進めます。OKでいいんですね。

伊勢。ええ。上司につぶされないことを祈っている。

 (伊勢はあまり期待していなかったようだ。だが、ともかく、演奏旅行はすることになる。その話をこの物語で述べることは無いだろう。
 ジョージの言ったとおり、少数だが、伊勢の音楽を理解する者はいた。だが、あくまで少数だった。さすがにA国で、その後もしばしば演奏旅行に行ったようだ。伊勢には良い思い出になったはずだ。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。20. 密売ルート

2011-06-28 | Weblog
 (羽鳥と虎之介とジーンとジョーとベルは、シリーズBに乗り込む。)

小浜。派手だな。

芦屋。小浜さん、お世話になります。

小浜。任せなよ。ヘリを追いかける。

ジーン。これが世界最強のジェット機。

小浜。低速ならな。攻撃ヘリと互角か、それ以上。

ジーン。相手は2機だ。

小浜。イチとレイが来る。あいつらは、兵器を熟知している。

 (ヘリは南西に向かう。)

ジーン。何でこんなに念入りに狙われたのよ。

羽鳥。さあな。非合法物質の量は少ない。流通ルートが解明されるのが、嫌だったんだろう。

ジーン。この航空機はレーダーに映るの?。

小浜。そりゃもう、ばっちり。

ジーン。このあたりは民間機が多そうだけど、海上に出たらまるわかり。

小浜。そりゃそうだ。

ジーン。恐い。

小浜。手遅れ。付き合ってもらう。

 (でも、ヘリは海からははるか手前で降下。山手の草地に着陸。イチとレイはほとんど飛行音がしないし、シリーズBは旅客機よりも静か。気付かれない。
 パイロットは、ヘリにカバーを掛けている。近くに小さな研修施設のような建物がある。そこに入った。イチとレイは、近くに着陸して動きを監視。シリーズBからはベルを放つ。)

志摩。調べたよ。見かけどおり、民間の研修施設だ。2年ほど前に閉鎖されたらしい。

羽鳥。違法占拠。近くに着陸できるかな。

小浜。尾根のこちら側に広場がある。着陸するぞ。

 (着陸。研修施設までは、歩いて10分ほどだ。ジョーを偵察に出す。)

ジョー。あちこちにセンサーがある。罠も。

羽鳥。警戒厳重。

ジーン。やはり、かなり大きな組織。

羽鳥。だろうな。証拠をつかんだら、さっさと所轄官庁に任せよう。

 (レイから報告。動きあり。ヘリ一機のカバーが外され、パイロットと、他に2人が乗り込む。ベルが忍び込む。聞き耳を立てる。)

幹部。やってくれ。

パイロット。はい。

 (ヘリは発進。東に進んで行く。イチが追いかける。レイは、もう一機が飛び立てないように細工してから発進。シリーズBも、ジョーを回収して、発進。はるか後から、付いて行く。)

幹部。探りを入れてきたのは、財務省か。

部下15。そうです。売り上げが急増したかららしい。

幹部。帳簿がチェックされたんだな。

部下15。それで、社長への資金流入が確認された。工場もくまなく捜索された。

幹部。こちらに結びつく証拠は。

部下15。気付かれる前に、隠滅しました。

 (シリーズB内で。)

ジーン。だから、社長室を破壊したのか。

羽鳥。そうらしい。コースは。

小浜。東京都心に向かっている。

ジーン。機関砲とミサイルは。

羽鳥。しっかり付いているようだ。

清水(通信機)。外しておこうか。

羽鳥。やってくれ。

 (イチを差し向ける。空中サーフボードに立って、携帯している工具を使う。機関砲が発射できないように細工し、ミサイルを器用に外す。ミサイルは、証拠品として、シリーズBに運ぶ。)

ジーン。エドが空中動作では世界一の自動人形と言ってたけど、納得できた。これじゃ、軍でないと相手できない。

羽鳥。彼らの実力が分かったか。

ジーン。どおりで、自信満々なこと。

 (ヘリは、東京下町の、古いビルの屋上に着陸、停止した。3人が中に入る。ベルも外に出る。イチとレイも到達。周囲からビルを観察。)

羽鳥。それは、疑義のあるビルだ。もういい。当局が踏み込む。離れろ。

 (シリーズBはベルを回収し、トカマク基地に戻る。深夜だ。1時間後、警察と軍がビルに突入した。ヘリは大慌てで幹部を乗せて発進。こちらも、警察と軍のヘリが追いかけていった。見届けて、イチとレイをトカマク基地に戻す。モグが帰ってきたのは、早朝になった。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。19. ヘリの攻撃

2011-06-27 | Weblog
 (いったん、外に出る。モグに集合。)

羽鳥。社長室が怪しかったのか。踏み込んだら良かったのに。

芦屋。非合法物質だろう?。向こうも悪いことをしている自覚があるはずだ。

ジーン。襲ってくる。

芦屋。十分に可能性がある。少なくとも、拳銃の一丁くらい、置いてあるだろう。

羽鳥。普通に踏み込むか。

ジーン。夜中に。

羽鳥。午前1時に、突入。関係部署に知らせる。

 (監視のため、ベルとジョーと六郎を配置。ベルは、社長室の窓の見える場所。ジョーは駐車場の片隅。六郎は社長室の直上の屋上。人間は、食事して、仮眠する。)

ジーン。あんたも、よく付いてくる。

清水。慣れちゃった。悲しいことだけど。

ジーン。よく、あんな猛者たちといっしょにいると思ってさ。

清水。あなたもでしょ。

ジーン。あれは、経緯があって、しかたなくよ。

清水。ジーン、落ち着いてきた。変わったよ。

ジーン。自分でもそう思う。ちょっと異常だった。そんな気がする。

清水。落ち着いたのは、ジョーがいるから?。

ジーン。一番大きいのはそれ。みんな、機械のことばかり心配していたもの。ジョーは違う。私のことを心配してくれる。

清水。救護ロボットだから。

ジーン。それもあるんでしょうけど、少し違う。ああ、ジョーがロボットだなんて、信じたくない。

清水。うん、よく分かる。要因は分からない。これだけ分析しても。

ジーン。秘密のままにしておいて欲しい。魂を宿した人形。人間よりも、ずっと純粋。

清水。ある意味では。

ジーン。そう、何もない。心配してくれる存在以外は、何もない。

モグ。動きがある。航空機がこちらに向かっているようだ。

羽鳥。(モニタを見て、)これか。

志摩。ヘリコプターだ。2機。

芦屋。大がかりだな。イチとレイを要請しよう。

 (トカマク基地から、イチとレイを発進させる。15分もあれば到着する。)

ジーン。何か起こりそうなの?。

志摩。悪い予感がする。

芦屋。十分に予想できる。

ベル(通信機)。社長室に明かりが点いた。

ジーン。画像を送れるの?。

ベル。送る。

ジーン。ん、エレベータか。

芦屋。小さいな。食事か何か、運ぶためのものだろう。

ジーン。男が出てきた。社長か。かばんを持って。外に出るのかな。

ベル。出た。廊下を歩いている。また消えた。

六郎。屋上に出てきたぞ。

志摩。イチとレイは間に合わない。急行しよう。

 (モグは急発進。会社の傍に止め、五郎が虎之介を抱えて蒸気ロケットで、屋上に運ぶ。)

ジーン。こんな仕掛けがあったのかー。

 (もちろん、蒸気ロケットだから轟音と光。社長は五郎と虎之介に気付く。虎之介が、社長に向かって走る。五郎も追いかける。)

芦屋。伏せろー。

社長(著者12)。何者だ、近づくな。

芦屋。ぐずぐずするなー。伏せろと言ってるんだ。

社長。来るな。

 (社長が拳銃を抜く。しかし、ヘリが投光してきたので、ためらった。虎之介が飛びかかって、押し倒す。ヘリは機関砲で銃撃してきた。幸い、当たらなかった。最初の一撃は凌いだ。)

社長。うわわわー。味方だぞ。何してくれるー。

芦屋。物陰に隠れるんだ、走れ。

社長。腰が抜けて、走れん。

五郎。そらっ。

 (五郎がおんぶして、屋上への出口に逃げ込む。暗かったので、ヘリは見失ったようだ。サーチライトで探している。見つからないので、上空に行く。)

志摩。変だ。警戒しろ。

芦屋。分かってらい。

 (ヘリは100mほど離れた場所から、ミサイル発射。屋上への出口が破壊される。虎之介たちは、階段から降りていた。)

社長。殺す気だ。

芦屋。分かったようだな。

 (制裁のためなのか、今度は、社長室にミサイルをぶち込む。)

社長。やめてくれー。

芦屋。つけあがってる。イチたちはどうした。

志摩(通信機)。あと、2分ほどだ。

芦屋。攻撃するか。

志摩。シリーズEで陽動するか。

 (何と、羽鳥が攻撃。モグから飛び出し、警棒に擬態した擲弾発射器で手前のヘリを攻撃。ほとんど損害を与えることはできなかったが、ものすごい音と光。どうやら、ヘリのパイロット、本物のプロではないらしい。ミサイル攻撃か何かと勘違いして、逃げて行く。)

ジーン。何が起こったー。

清水。知らない方がいい。(通信機)イチ、レイ、逃げたヘリを追いかけろ。

イチ(通信機)。がってん。

 (腰が抜けて歩けない社長はその場に置いて、全員をモグに回収。爆発などがあったから、警察に連絡。社長は保護されるはずだ。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。18. 執筆者を追いかけて

2011-06-26 | Weblog
 (担当者を放ったらかしにして、トースター号に乗り、入口傍で張り込み。念のため、ベルは裏口を監視。)

ジョー。出てきた。

ジーン。タクシーを拾っている。

志摩。ベルに追跡させる。ベル、頼むぞ。

ベル(通信機)。承知。

 (タクシーは首都高に入り、北へ向かう。)

志摩。ベルの燃料じゃ足りなさそうだ。観測用飛行船を出す。

ジーン。それなによ。

志摩。ID社東京の屋上にある、気象観測用の小さな飛行船。定時に観測している。

ジーン。調査にも使うとか。

志摩。そのとおり。タクシーを追跡する。

ジーン。本格的。そうか、ID社が本腰を入れているんだ。あなたも、その一員。

志摩。秘密ではない。

 (タクシーは、高速を早々に降り、地方都市郊外の、2階建てビルの前に停まる。さっきの人物は、そのビルに入った。)

ジーン。会社。工場かな。名前はと。九字精力丸本舗。意味分からん。

志摩。絶大な神秘の力が入った錠剤ってことだよ。

ジーン。いかがわしい名前。

志摩。伝統薬ではありがちな感じ。よく似た名前で、まともなのもある。

ジーン。侵入するの?。

志摩。きっかけを作らないと。

ジーン。測定器の売り込み。

志摩。突入時に取っておこう。まずは外見の調査から。ベルとジョーを使う。

 (トースター号には、普通のモニタしかない。虎之介と亜有をモグで派遣する。1時間程度で、着くはずだ。)

清水(通信機)。志摩くん、ご苦労さん。その企業は、疑義の対象でない。主力商品の九字精力丸は、ちゃんと厚生省の認可を得ている。他の商品には競争力は無い。

志摩。じゃあ、個人の仕業か。

ジーン。警察に通報して終わり。

志摩。そんな感じだ。

清水。伊勢さんが、念のために、実物を手に入れて分析するそうです。成分的には、長期間にわたって大量に服用しない限り、副作用は出ない。

ジーン。大量に飲んだら、副作用が出るの?。

清水。もちろん。ちゃんと効く薬よ。

ジーン。何に効くの。

清水。滋養強壮。ただし、長期間の服用は勧められていない。疲れたときに、飲む薬よ。成分は生薬がほとんどで、ビタミンのような差し支えのない成分が添加されている。

ジーン。その生薬が怪しい。

清水。だから、厚生省の認可が出てるって。量は違うけど、医薬品の処方にもある。

羽鳥(通信機)。いいか、志摩くん、ちょっと調べてくれ。軽い疑義があるそうだ。厚生省に問い合わせた。副作用報告が最近になって相次いでいるらしい。

清水。昔からある薬なのに?。

羽鳥。社長が交代してから、急に売れ出したんだ。大量服用による副作用だ。

ジーン。本が出たからかな。いい事ばっかり書いてあるんでしょう。

羽鳥。そんなことは無いと思うけど、調べてみる。

清水。伊勢さんから連絡が入った。認可時と同じ成分だって。

羽鳥。厚生省が調べていた。問題になるほど、本は流通していない。ほとんどが、その会社に問い合わせたら送られて来る分だそうだ。

清水。つまり、会社が自分で買い上げた分。

羽鳥。そう。

志摩。やはり、乗り込もう。ええと、理由は。

羽鳥。財務省の臨検だ。そっちへ行く。

 (羽鳥は、トカマク基地からシリーズBに乗って出発。近くのヘリポートに着陸。モグが迎えに行った。
 志摩は、ベルとジョーを会社の敷地に送って、地図を作製して行く。
 モグが来た。会社は終業時間らしく、社員が三々五々出て行く。入れ替わりに、羽鳥とジーンと志摩とバロンとジョーが入る。事務員が対応。)

事務13。こんな時間に、ご苦労さんです。帳簿のチェックでしょうか。最近、急に売れ出したから、大丈夫かと。

羽鳥。いいえ。申し訳ありませんが、捜索です。この会社が非合法物質に関与しているとの情報が入った。

事務13。そんなまさか。麻薬とか。

羽鳥。そうです。まだはっきりした証拠ではありません。

事務13。とんだ非常識なうわさ、心外です。どうぞ、十分に検分してください。お手伝いします。

羽鳥。ありがとうございます。

 (2班に分かれる。羽鳥、バロン組と、志摩、ジーン、ジョー組。羽鳥組は、事務棟からくまなく見て行く。書類調査は、羽鳥はプロだ。)

事務13。あの、それ、ロボット。

羽鳥。ええ。本来は救護ロボットですけど、化学物質の検出ができるから連れてきました。

バロン。バロンという。よろしく。

事務13。あはは…、よろしく。これでいいんでしょうか。

バロン。よい。ありがとう。

 (金の流れに、不透明な点は無い。ただ、社長にかなり資金が流れている。たしか、タクシーで帰ったはずだ。運転手付きのロールスロイスに乗っててもよいくらいの感じ。)

羽鳥。ふむ。しっかりした会計。

事務13。恐れ入ります。

羽鳥。社長に趣味はあるのか。飛行機操縦とか、クルーザー持ってるとか、愛人に貢いでいるとか。

事務13。そんな贅沢しているようには見えません。仕事一筋ですよ。そうですね。何に使っているのかな。過去に借金があったとか。

羽鳥。外部から来た社長なのか?。

事務13。創業者の子孫の知り合い。売り上げは伸びたから、オーナーである創業者一族は喜んでいる。

羽鳥。だが、副作用報告も増えた。

事務13。不思議ですよね。今まで、そんなこと無かったのに。名前は派手だけど、穏やかな薬ですよ。飲んでみます?。

羽鳥。いや、結構。

バロン。ひとつ、頼む。

羽鳥。分析か。やれ。

 (事務の人が、薬を取りに別室に行く。)

羽鳥。あれも薬じゃないのか。

バロン。郵送用みたいだ。

羽鳥。袋詰めの試供品か。本といっしょに送るんだな。50錠入り。多いな。開けるぞ。

バロン。これだ、非合法物質入り。

羽鳥。何だと!。

事務13。持ってきました。ああ、それを開けましたか。

羽鳥。そっちもくれ。

バロン。これには非合法物質は入ってない。

事務13。何を言ってるんですか?。

羽鳥。試供品は、どこが作っている。

事務13。もちろん、ここの工場。

羽鳥。外部に一旦出て、袋詰めするとか。

事務13。瓶詰めの製品といっしょですよ。工場を見てみます?。

羽鳥。案内してくれ。

 (志摩組は、終業で停止している工場を念入りに見学。町工場みたいな感じだ。)

ジーン。薬品メーカーって、もっと大規模かと思っていた。

事務14。そりゃあ、大メーカーのラインはものすごいですよ。ここは、小規模。昔は手作りだった。

ジーン。隠しているところが無い。

事務14。だって、伝統の処方ですよ。新しいのは、ビタミンが少量入ったくらい。パッケージに成分として書けますから。

ジーン。効く感じがする。

事務14。伝統があって、しかもモダンな感じがする。

ジョー。怪しいところは無い。

志摩。見た感じもそうだ。

 (羽鳥がやってきた。)

志摩。羽鳥、調べたけど、怪しいところは無い。

羽鳥。どこで瓶詰めしている。

事務13。こっちです。

ジーン。どうしたの?。

バロン。非合法物質を発見した。

ジーン。ここには無いのに。

バロン。今、探している。

 (瓶詰め工程の機械を見る。)

羽鳥。瓶詰めだけだ。袋詰めはどこでやっている。

事務13。本当だ。瓶詰めだけだ。おまえ、試供品の袋詰め、どこでやっているか知ってるか。

事務14。知らない。技術の連中は、帰ってしまったな。

羽鳥。探していいか。

事務13。もちろんです。

 (志摩とジーンは、羽鳥から説明を受ける。再び2班に分かれ、今度は敷地内をくまなく調べる。)

ジーン。じゃあ、試供品で中毒にしておいて、市販品を買わせる。

志摩。うん。でも、市販品には非合法物質は入ってないから…。

ジーン。いくらでも飲む。副作用が現れるまで。何てことを。

ジョー。場当たり的に探しても無駄だ。

志摩。ここにはないのかな。

ジーン。手がかりは、社長の服か。

志摩。社長室に行きたい。

事務14。開いてますかね。

 (事務棟2階の社長室に行くが、鍵が閉まっている。)

事務14。閉まってしまったか。

 (バロンが志摩にDTM手話で伝える。)

バロン◎。人の気配がする。中から鍵をかけているだけだ。

志摩◎。いったん、引き下がろう。

ジーン。明日、また来るしかないのか。

志摩。うん。緊急事態でもなし。

 (他に手がかりはなかった。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。17. 怪しい健康出版社

2011-06-25 | Weblog
 (ジーンと志摩とチーム・トーキョーがやってきたのは、ビルの一角にある健康関係の出版社だ。しかし、どう見ても、まとも路線からは外れている。見るからに怪しい。近くの駐車場から、ビルに向かう。壁面のショーウィンドウの宣伝ポスターが、派手。)

ジーン。超怪しいじゃない。こんなところにID社の計測機を売りに。

志摩。何とか理屈をこねなくちゃ。

ジーン。あなたの健康状態が分かります。

志摩。おれも考えたけど、ちょっと陳腐。

ジーン。オーラの測定装置。

志摩。こっちが怪しいよ。

ジーン。まともに、血流の測定とか。

志摩。そんなの、いつかあったな。怪しい団体の調査に行ったときに。

ジーン。相手が引っかってくれるかも。

志摩。シンプル・イズ・ベスト。それで行くか。

 (会社に入る。受付から、入り口付近の仕切りのある応接セットに案内される。担当者がやってきた。名刺を見せる。)

担当11。ID社。聞いたことない。

ジーン。測定装置の会社です。産業界では、それなりに知られている世界企業。

担当11。それが、なぜここに。

志摩。健康産業は成長分野。何とか接点を得たい。

担当11。生物関係の測定器か。

志摩。そうです。物理、化学、遺伝子。何でも任せてください。

担当11。そうは言っても、ここは出版社。分かりやすい測定項目でないと。肌のつやとか。

ジーン。肌の皺とか、弾力とか。

担当11。ああ、なるほど。ようやく分かりました。広告に乗せるとか。

ジーン。違います。貴社の販売促進ですよ。ほーら、こんなによくなりました。ビフォー・エンド・アフター。

担当11。雑誌を読んだだけでよくなるはずはない。何か実践しないと。

ジーン。ノウハウ本も、あるでしょ。

担当11。そういえば、外れもあるから、非難を受けることがある。科学的根拠が無いとか。

志摩。実績を積めばいい。科学理論は、所詮は理由付けです。

担当11。その理由を付けてくれる装置か。近づいてきた。

ジーン。たとえば、こちらの測定器など、血流がすぐに分かります。

担当11。角度に関係なく。

志摩。ええ。いいでしょ。高級機でしかできない技。

 (ケータイが振動したようだ。)

担当11。失礼。呼ばれてしまった。小さな出版社ですから。すぐに済むと思います。

 (隣の仕切りで、話をしている。内容が丸分かり。かなり、けんか腰。)

担当11。苦情が殺到している。でたらめだって。

著者12。そんなことはない。こちらの測定では、効果があった。

担当11。副作用がある。そちらの薬は。

著者12。副作用のない薬なんて、ただの粉砂糖ですよ。伝統的な処方を少しアレンジしただけだ。

担当11。とにかく、効果が証明されない限り、出版中止。こちらにも、信用というものがあります。

著者12。効かない治療法で大儲け。

担当11。そのかわり、副作用は無し。いいですか、気は心。うじうじしてたら、症状は悪化。心が晴れると、身体もよくなる。

著者12。占いか手品だ。

 (その隣で、ひそひそ話。)

ジーン。要するに、詐欺。

志摩。声が大きい。出版事業自体は合法。ちゃんと取引しているから、詐欺じゃないよ。

ジーン。その内容が大問題。

志摩。ああ、そのとおり。

ジーン。頼った人は、とんだ災難。

志摩。まったくもって。

ジーン。やっつけてやる。

志摩。あのね、さっきの人が言ってたろう?。占いか手品かだって。そういった需要もあるの。

ジーン。それに加担するつもり?。

志摩。売るのはまともな測定器だよ。妙な軍事転用される心配も無し。

バロン。非合法物質の反応あり。

ジーン。何ですって!。

志摩。どこから。

バロン。隣で激昂している人物の服に付着しているらしい。ジョーが検出した。

志摩。嗅覚の感度を上げているからだな。調査する。出よう。

第42話。鈴鹿、オンステージ3。16. 志摩と営業

2011-06-24 | Weblog
 (ジーンは志摩とID社の営業に出掛けることにした。バロンとジョーとベルを伴って、トースター号で。)

志摩。結局、チーム・トーキョーを連れてきたのか。

ジーン。ジョーだけというのも寂しいかと思ったの。

志摩。先方がびっくりしそうだ。

ジーン。どこに売り込みに行くの?。

志摩。飲料メーカー。

ジーン。日本の。

志摩。日本では大メーカー。世界規模ではない。

ジーン。アルコール飲料も作っている。

志摩。そう。炭酸飲料や缶コーヒーも。

ジーン。缶コーヒーって、どんな味なの?。

志摩。試飲させてくれるかな。させてくれなかったら、帰りに1本買おう。

ジーン。楽しみ。

志摩。ID社の製品については調べた?。

ジーン。カタログは一通り見た。でも、仕様とか、ほとんど理解できない。

志摩。じゃあ、営業1年生。勉強に来ました、ってことにする。

 (買う必要はなかった。応接室に案内され、飲料が選べたからだ。飲んでみる。)

ジーン。コーヒー味のキャンディーみたいなものか。

志摩。そう。大人の男性が堂々と飲めるから、人気なんだ。

ジーン。キャンディーなめるよりは、かっこいいか。こちらは、お茶。砂糖無しの。

志摩。カロリー、ゼロ。本当に、お茶が入っている。

総務1。そのままの缶詰めではありませんけどね。

志摩。こんにちは。(名刺を渡しながら、)私、こういうものです。こちらは、営業の勉強をしているジーン。

ジーン。よろしく。

総務1。よろしく。そちらは、ロボット。

志摩。アンドロイドに、ロボットジャッカルに、小型の女性アンドロイド。

総務1。妖精みたいだ。

志摩。その効果を狙ったようです。

ジーン。空をうまく飛ぶのよ。

総務1。そりゃ大変。あとでぜひ見せてください。

ベル。今できる。

 (バロンから飛行装置を受け取り、狭い部屋の中をスイーっと滑空する。)

総務1。夢を見ているようだ。すばらしい。

ベル。ずっと速くも飛べる。

総務1。どんな役立ち方をするんですか?。

志摩。3機とも救護ロボットです。ベルは、安全確認や、被災者の発見に使う。応急処置もできる。

総務1。宣伝企画部が知っているかな。ちょっと待ってください。

 (さっさと出て行ってしまった。)

ジーン。あーあ、何も言い出せなかったね。

志摩。計測機を売り込みに来たのに。これじゃ、我が社の名前を連呼するだけで終わりそうだ。毎度のことだけど。

ジーン。もっと強気で行こう。何とか、ID社の製品を売りつけるのよ。

志摩。うん。努力する。

 (わらわらと男女4人が入ってきた。興味津々の様子。こちらからの出し物を期待してるようだ。簡単な紹介の後、リーダー格の女性が口火を切った。)

宣伝1(女性)。自動人形。初めて間近で見た。かっこいい。うーん、いい男。

ジーン。バロンか。たしかに、自動人形の中では屈指の色男。

バロン。お嬢さん、私に近づくのは危険だ。やめた方がいい。

宣伝1。うわー、キザー。バロンって、男爵。

ジーン。直訳です。

宣伝2(男性)。こちらのイヌはやたらと目つきが鋭い。野生なのか。

ジョー。イヌではない。ジャッカルだ。飽きてきたぞ、その手の質問。

宣伝3(女性)。生意気。でも、かわいい。

ジーン。どこがよ。

宣伝3。全部。

ジーン。意味分からん。

志摩。分からなくてもいいようにできている。

ジーン。続けて。

宣伝1。これが飛ぶ妖精。

ベル。ベルよ。探索が仕事。よろしく。

宣伝1。飛んでみてよ。

ベル。しかたないわね。それっ。

 (ちょっとサービスして、3回上空を回った後、テーブルの下などをスイーっとすり抜ける。)

宣伝1。聞いたとおり。ものすごい技術。売り物なの?。

ジーン。10億円で買える。でも、ベルは周辺装置だから、バロンかジョーが必要。こちらは、一機20億円。年間維持費5億円。

志摩。よく知ってる。

ジーン。こちらが買いたいわよ。クビになったけど。

総務1。こほん。我が社では無理。ライバルも採用してないから、借り賃も高いようだ。

ジーン。一機1週間で3億円。オーバーホールが必要だから。

志摩。ロボットを売りに来たんじゃないけど。

ジーン。あなた、何しに来たのよ。

志摩。売ってもいい。世話してくれるなら。

宣伝1。バロンは変身できるとか。

ジーン。よく分かる。

宣伝1。そんな感じだもん。野獣になるんだ。

ジーン。あんた、何者。

志摩。いいから、変身してみてよ、バロン。ハルクに。

バロン。インフレーション。

宣伝3。きゃー、これいい。新製品の宣伝に使おうよ。

宣伝4(男性)。あれか。持ってくる。

 (持ってきたのは、開発中のコーラだ。「激爆刺激」が商品名。)

ジーン。まず、私に飲ませてよ。

宣伝4。どうぞ。

ジーン。う、何これ、刺激的。ハーブ入りか。

宣伝4。山椒を入れてみたんだ。秘密だけど。

ジーン。胡椒なんか入れるなー。なんてことする、我が国の文化に。

宣伝4。胡椒じゃないよ、山椒だ。

志摩。ほとんど同じだよ。中華風フライドチキンに使うから。

ジーン。でもって、こいつを飲んだら、変身。

宣伝4。良いと思った。

ジーン。やってみてよ、バロン。

 (ごくっと一口のみ、インフレーション。決まったぜ、ポーズ。ベルが飛んで来て、キッス。)

宣伝4。採用。

ジーン。3億円と少し。

宣伝4。やっぱりやめ。CGを使おう。

 (結局それだけ。トースター号で、すごすごと帰る。)

ジーン。何しに行ったのよー。

志摩。我が社の売名行為に行っただけ。カタログは置いてきたから、一応は成功。

ジーン。営業は厳しい。

志摩。たまには売れる。

ジーン。よくそれで、会社が持つ。

志摩。普通は代理店経由で売る。情報収集部は特別。

ジーン。潜入調査が専門だった。

志摩。そう。やってみる?。

ジーン。興味ある。

志摩。じゃあ、次はちょっと疑義のある企業に。

第42話。鈴鹿、オンステージ3。15. 両チーム、始動

2011-06-23 | Weblog
 (都心にある猫山スタジオ。音楽がうるさいというので、トカマク基地での練習をあきらめ、猫山スタジオの音楽室を借りることにしたのだ。午前が海原チーム、午後が大江山チーム。
 午前。ジョージが、ジーンと虎之介のトランペットが使い物になるかどうか、調べている。)

ジョージ。音が出てるだけ。だが、音質は悪くない。

ジーン。役立つかな。

ジョージ。バンドには2人のペット奏者がいる。4基だと、ものすごく豪華に見えるから、ぜひやりたい。マーチングバンドの経験は。

芦屋。ある。曲は簡単だった。

ジーン。ないけど、ぜひやってみたい。

ジョージ。作曲家に連絡する。

ジーン。六郎ロックンロールはできるかな。

ジョージ。相談してみる。

芦屋。ジャズバンドだろう?。

ジョージ。いまどき、ロックのメロディーを嫌がるジャズバンドなんか、ほとんどない。アレンジはするから、お上品になってしまうけど。

ジーン。バロンと踊れそう。

ジョージ。いいんじゃないかな。

 (イチとレイと六郎はいるので、伊勢の伴奏で、その場で本物の六郎ロックンロールを踊る。2回目は、エドたちも加わる。)

ジョージ。効果的な振り付けを考えてみる。中盤の山場だ。後半は大きな世界。エクササイザーを飛ばす計画はあるのか。

伊勢。旅客機にまたがらせるという話は出た。

ジョージ。うははは。こりゃ面白い。やろう。そのまま宇宙に出よう。

伊勢。水素ラムジェット機か何かで。振り落とされそうだけど。

ジョージ。可能かどうかは技術者に考えてもらおう。

エド。何とかできそうな気がする。そのまま、またがるんじゃないけど。

ジョージ。いい話になりそうだ。

エド。せっかくだから、現実味を持たせよう。ちょっと考えてみる。

伊勢。本気なの?。

エド。今は考えるだけ。本当にできたら、大変なことだよ。自分で動くクレーンが周回軌道に出て、また帰還できる。

伊勢。宇宙ステーションの大きさに制限がなくなる。

エド。そんな感じ。

ジョージ。デス・スターみたいなのが作れるんだな。素敵じゃないか。ぜひやろう。

エド。インパクトが強い。いいみやげ話になる。日本に来て、よかった。

伊勢。あとは小さい世界。

エド。妖精を使おう。

ジョージ。ベルだな。デビューだ。林の中。赤いキノコがあって。

エド。今いる動物型は、ジョー、クロ、リュウ、六郎。クロとリュウに友情出演してもらえないかな。

伊勢。問題ないはず。

エド。森で遊んでいて、オリヅル号が通過。ベルといっしょに空へ。

ジョージ。うん。案としてはいい。考える。

 (この日は、ジーンの声の質などの確認で終了した。
 その日の午後。大江山チームが猫山スタジオに集合。)

鈴鹿。志摩はどうしたの?。

芦屋。ジーンと営業に行った。だから、おれが代理。

鈴鹿。体型が似ているからか。それにしても、元からのメンバー。メイたちが増えただけ。

土本。私は初参加よ、この手の催し物は。

加藤。仲良しこよしか。この雰囲気、いいな。RPGの出発シーンって、こんなのが多そう。どう?、亜有さん。

清水。なんで私。

鈴鹿。最近、RPGしないの?。

清水。回数は減った。そう、RPGでも、アドベンチャーでも、こんな感じ。村から始まったり、学園の昼休みから始まったり。でも、音楽はロックでしょ?。

加藤。ゲームにロックは似合う。オープニングテーマに、挿入歌に、エンディング。

清水。せいぜい3曲ほどかな。

加藤。短いのを混ぜたら別。でも、たしかにその程度。派手なアドリブはできない。

土本。大江山教室の雰囲気を知ってる人がいないね。

鈴鹿。火本と水本がいたら、分かってたんだけど。

土本。他に大学院生、いないの?。

鈴鹿。あなたと同性の超変人男ならいる。ロボットオタクよ。今は、アンのクローンを妄想しているはず。

土本。聞かなきゃよかった。

鈴鹿。サイボーグ研の雰囲気でいいじゃない。機械がいっぱいあって、測定器があって、マニュアルいっぱいの図書館があって、そんな感じで。

加藤。トカマク基地の感じか。昔の博士の研究室。

鈴鹿。漫画っぽくか。それでも良さそう。

加藤。実験室で、実験に失敗して、爆発。

鈴鹿。そりゃ、ケミカルかアルケミー。

加藤。機械だって燃料は使うだろう。

鈴鹿。電気とか、もっと強力なエネルギーも。

加藤。エネルギーで、機械が動いて。

土本。それが、一方の軸。もう一方は、入力があって、処理して、出力になる。

加藤。シンセサイザーみたいなものだな。

土本。それでいいの?。

清水。いいと思う。典型的な機械よ。機構でなく、電子だけど。

加藤。機構のある楽器だったら、いっぱいある。

清水。そちらが本来の姿よ。それを電子で真似するから、アナログ。

加藤。そういう意味だったのか。

清水。そうよ。連続値のことじゃないわよ。

加藤。アナロジー。なるほど。真似するんだ。クロもネコの真似。

清水。ミミックとはちょっと違うけど、理解の助けにはなるかも。日本語で言えば、相似だから。

加藤。比例のことだな。

清水。あなた、それが分かっていれば、数学者になれるわよ。技術者にも。

加藤。惜しかった。じゃあ、機械でも計算できるんだ。

清水。もちろん。蒸気と歯車があれば。そんな話があった。産業革命があまりにすばらしかったので、蒸気エネルギーとねじ止めした機械さえあれば、どんな理想の世界でも実現できる、と。

加藤。そうか。陳腐だったか。

鈴鹿。そのわざとらしい感じ、ロックする人には受けるんじゃないかな。

芦屋。蒸気ロケットなら、あるぜ。

加藤。その映像を先方に送ろう。前に見たはずだけど。

鈴鹿。六郎と、五郎と、カワセミ号。

芦屋。オトヒメも。リュウたちもか。

加藤。平和な村に、ある日蒸気がやってきた。でも、それが発展して、自動人形になった。大きな大きな夢だったのが、現実には身近にいた。

芦屋。どこをどう考えたら、そうなる。

清水。芸術よ。

 (霊感が降臨したらしい。加藤氏は、さっさと自室に引きこもる。しかたがないので、亜有と土本で音楽演奏し、鈴鹿が適当に歌ったりして、その日はおしまい。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。14. バンド選び

2011-06-22 | Weblog
 (ジーンと鈴鹿は、某大大学祭主催のミズコンの予選を突破。2週間後の本選を目指して、本格的な練習が始まった。海原チームはさっそくA国からエキスパートを呼び、打ち合わせ開始。楽団が2つだし、加藤氏も参加するので、分担をどうするかを決めるためだ。)

加藤。豪華。よく来てくださった。

ジョージ。猫山さんは、世界的に有名。あなたは、そこでプロデューサをやっている。

加藤。手駒の一人。猫山さんは忙しい。数人がかりで支えている。

ジョージ。楽団の来日は、本番3日前。それまでに、しっかり練習しなきゃ。

加藤。ジーン以外は素人です。伊勢さんは、プロ級だけど。

ジョージ。ジーンだって、プロとは言い難い。A国軍内で通用していただけ。伊勢陽子は知っています。A国にも少数だが、ファンがいる。

加藤。さすが、A国。趣味がいい。

 (ジョージは演出家と舞台装置担当を連れてきている。今度は、サイボーグ研の展示だから、エクササイザーだけでなく、トースター号やオリヅル号などを見て回る。伊勢が案内。)

ジョージ。巨大ロボから、ミクロの決死圏まで。

伊勢。ミクロの方は、まだまだ基礎技術が追い付かない。

ジョージ。でも、夢があっていい。大きい世界、普通の世界、小さい世界に分けよう。それぞれに、加藤さん、ロックバンド、ジャズバンドを割り当てる。

加藤。それって、伊勢さんのロボット楽団を使うってこと。

ジョージ。そう連想したけど、内容はお好きになさってください。

伊勢。誰がどれで、どの順序よ。

ジョージ。それを今から決めます。

加藤。わずか3分ずつになってしまう。ロックとジャズで5分づつじゃ、だめなのか。

ジョージ。伊勢ファンが黙ってないでしょう。

加藤。たった3分のために、来日。あんまりだ。

ジョージ。うまいけど、そんな有名な楽団じゃない。日本でデビューできたら、ラッキー。

加藤。そういうことか。こちらは2分でいい。そちらは4分づつ。

ジョージ。ありがたい提案です。

伊勢。ロックかジャズを大江山チームで使ったらどう?。お金はサイボーグ研に出させて。

加藤。んな、滅茶苦茶な。

伊勢。10分ずつ。すっきりする。

加藤。伊勢さんは。

伊勢。効果音とかでいい。鈴鹿は何でもできるから、というか、何にもできないから、ジーンが選んだらいい。

ジョージ。そちらで決めてください。

 (伊勢は加藤と協議。ジーンに連絡したら、ジャズバンドを選択。いつも、それでショーをやっているかららしい。ロックバンドは、大江山チームの演奏に。)

ジョージ。いいですけど、ロックの方の演出はしませんよ。

加藤。私がやる。

ジョージ。面白い。競争だ。

加藤。連絡はお願いします。

ジョージ。もちろん。それは契約範囲。好きなだけ私を使ってください。

 (結局、海原チームは、ジョージが舞台指揮、中堅ジャズバンドが演奏。バンドが来るまでは、加藤氏がジーンの歌を指導して、伊勢が演奏。大江山チームは、加藤氏が舞台指揮、中堅ロックバンドが演奏。バンドが来るまでは、亜有と土本が音楽担当。)

海原。何とかなりそうじゃの。

伊勢。ええ。ジョージは本物のプロ。任せていればいい。

海原。伊勢陽子の出番がなくなったの。委員会に、エキジビションに推薦してみるぞい。

伊勢。露出しすぎです。今でも、冷や冷や。

海原。良いものは弘めんとな。推薦くらいさせてくれい。

伊勢。お願いします。ジーンはどうですか?、落ち着きました?。

海原。いい娘じゃ。一皮むけた、というやつじゃな。期待と現実にギャップがありすぎたのじゃ。いま、それが近づいている。ある意味、恐いがの。

伊勢。ええ。サイボーグ技術と、自動人形技術が接近している。博士は、あの手のサイボーグに関心がおあり。

海原。ちょいと気味が悪い。奈良部長は平気なのか。

伊勢。奈良さん。信頼に足る機械があったら、埋め込みたいみたい。でも、現実はね。

海原。元の器官よりも性能が悪い。

伊勢。そうです。ジーンの機械だって、未完成と言えば未完成。

海原。義足としてはいいぞい。

伊勢。逆に、あそこまでやる必要があったか。

海原。それは、平凡な感想じゃ。そなたらしくない。

伊勢。インプラント技術は珍しくない。その延長か。

海原。植物にはあるのかの。

伊勢。えーと。ごく基礎的な動きならある。

海原。樹木が、ずしんずしんと動くとか。

伊勢。それは、仰々しいファンタジー映画です。実現したとして、あまり意味はなさそう。そうではなくて、植物工場の発展系の感じ。タンクの中に浮遊する、高等植物の細胞とか。

海原。先は長いの。

伊勢。で、ジーンはどうなさりたいのですか?。

海原。秘書だけではもったいないの。どうするかな。彼女しだいだがの。

伊勢。そんなの分かっている。先生の推薦ですよ。

海原。そうじゃの。普通に幸せになってくれればの。

伊勢。孫じゃない。活躍できる分野を考えてください。

海原。サイボーグが役立つ分野か。すぐには思いつかぬ。だが、考えておく。

伊勢。ありがとうございます。

第42話。鈴鹿、オンステージ3。13. ジョーのお供

2011-06-21 | Weblog
 (志摩が第二機動隊本部に帰ったら、鈴鹿がいた。当然だけど。)

鈴鹿。志摩ーっ、ジーンと2人でどこに行ってたのよ。

志摩。海岸。歩き具合と、義足の感触を見ていた。

鈴鹿。妙齢の婦人の脚を触りまくったわけ。

志摩。そんな格好。鈴鹿も触ってみる?。

鈴鹿。ごまかすなー。いい気分になって。志摩っ、私にも同じことをしなさい。

志摩。鈴鹿の脚を触るの?。やだなー。何かされそう。

鈴鹿。とーぜんよ。歩きだけでいい。

 (とにかく、観察にはなるかと、同じコースを鈴鹿と歩く。ジーンも付いてきた。)

鈴鹿。よくできた義足。軽快に歩いている。

ジーン。そうらしい。これほど完成度の高い義足は、他にないと言われた。

志摩。開発目的は、福祉なのかな。

ジーン。いいえ、あからさまに軍事目的。

鈴鹿。四肢に障害を受けた兵士を、再び戦場に送る。何てこと。

ジーン。それ以上のことよ。

鈴鹿。自動人形も、人間よりはやや運動性能が高い。でも、自動人形は、自分で行動することは不可能。

志摩。腐食性のあるものを直接つかむことができる。

ジーン。そんな感じ。

鈴鹿。手袋か、マジックハンド使えばおしまい。

ジーン。そう。だから、応用例が遅々として進まない。

志摩。奈良さんが出会う前の、自動人形と同じ。

鈴鹿。だから、ジーンをここに送り込んだって?。考えすぎよ。

ジーン。詳しくは言えないけど、そう。考えすぎ。でも、今となっては、その可能性を誰かが考えていたとして、つじつまが合う。私のサイボーグ技術は、ID社が全貌を知ることとなった。

鈴鹿。使えるものなら、使ってみなさい、ってか。

志摩。伊勢さんあたりが、興味持ちそう。

ジーン。不思議な組織。何か、大きな目的がありそう。

鈴鹿。亜有と虎之介の動きは不気味。なぜ、ここに配属されたのか、いまいち分からない。

ジーン。やっぱり。

鈴鹿。そのうえ、私たちのはるか上と、日本政府の上層部は通通らしい。

ジーン。そんなことだと思った。

志摩。日本とA国は軍事同盟の仲。密約があっても、ちっとも不思議ではない。

鈴鹿。いっしょに見届けよう。何が起こるのかを。

ジーン。そうしたい。

 (エドは、別のことを考えていたようだ。伊勢に相談する。)

伊勢。あらあ、珍しい。どうしたの?、エドくん。

エド。ぼくの考えをまとめたい。手伝っていただけませんか?。

伊勢。内容によるけど、たいていOK。

エド。ジーンのこと。なぜ、ここに突然来たのか。不祥事を起こして、呼び戻すのかと思ったら、投げつけてきた。

伊勢。極秘だったサイボーグの資料付きで。

エド。意図はともかく、しばらくはいっしょに行動する必要がある。

伊勢。さすが、天才技術者。前向きな態度。具体案があるの?。

エド。自動人形を付けたい。カワセミ号は、新しいのが来るから、使わせたい。

伊勢。ジョーかバロンじゃだめなの?。

エド。クリスマスが終わったら、ぼくは帰る。ジーンを連れて帰ることができたら、それでおしまいなのか。

伊勢。ああ、そういうことか。どうするかな。選択肢は、と。

 (ジーンのサイボーグ技術に関心がありそうなのは、北米のA国とQ国のID社。でも、2社で綱引きが始まったら、ヨーロッパのB国とE国とF国あたりが、えげつないアタックをかけてくる。そうなれば、いつものこと、Y国本部が引き取ってしまう。
 そうでないケースだと、エドが帰って、ジーンは海原博士の秘書のまま。A31は情報収集部で使うし、イチとレイはサイボーグ研に置いておきたい。やはり、自動人形と他動人形1機ずつが必要となりそうだ。)

エド。分かった。それとなく、A国ID社の動向を調べる。自動人形はどうしよう。

伊勢。そうね。もうこりごりって気もするけど、最近までエレキとマグネがいた。コントロールはできる。

エド。じゃあ、考えてみます。

伊勢。頼もしい技術者。こちらで欲しいくらい。

エド。ようやく慣れてきた。感謝してます。

伊勢。練習のため、自動人形の誰かを付けよう。誰がいいかな…。

エド。ジーン本人に聞いてみます。

伊勢。じゃあ、あなたに任せる。希望は最大限に聞く。

エド。はい。

 (さっそく、エドはジーンに会いに行く。動物型でもいいのかと逆に質問され、伊勢がOKしたら、ジョーを指名した。)

エド。理由を教えてくれる?。

ジーン。くだらないことよ。子供のころ、コヨーテの子供を拾ってきた。

エド。だめだよ、そんなことしたら。

ジーン。両親に激しく怒られた。コヨーテと言っても、子供。ちょっと懐いていた。だから、私は大泣きした。

エド。そうか。ジョーはジャッカルだけど、コヨーテと似ている。

ジーン。うん。あのまま大人になったら、どんなに素敵かと思った。

エド。コヨーテは野生だよ。人間の言うことなんか、聞かない。

ジーン。でも、ジョーは聞く。

エド。分かった。ジーンの心の中のコヨーテ。それが現実になったんだ。

ジーン。そう。

エド。じゃあ、他動人形は五郎かな。

ジーン。考えさせて。

エド。うん。そうして。

 (ジーンは、ジョーの恐いほどの鋭い目つきが、ことのほかお気に入りのようだ。普通のイヌと違って、ほとんど媚びることがなく、ずっとニヒルなのがポイントらしい。
 そして、救護ロボットだから、ジーンの体調が分かるだけでなく、何と、機構部分の状態まで分かるようなのだ。自動人形だから、説明はできないが、評価はできる。走る速度も速く、次第に、ぴったりのペアであることが判明してきた。というのも、ジーンは、身体を鍛えることに、抵抗が無くなってきたのだ。ジョーとのジョギングや、訓練を楽しみにしている。)

志摩。なぜ、この組み合わせを思いつかなかったのかな。

エド。自律ロボット計画とサイボーグ計画はライバル関係だったらしい。予算の奪い合い。協力なんか、考えられない。

志摩。A国だから、競争させた方が良いとの判断。

エド。そう。だが、間違っていた。

志摩。ジーンはジョーを手放しそうにない。

エド。もう一度、バロンの相棒を考える。ジャッカル型は分かったから、別のにしたい。

志摩。考えはあるの?。

エド。イチに対抗できる、強力な空中型アンドロイド。

志摩。カワセミ号のパイロットじゃなかったっけ。

エド。いざとなったら、後席でも操縦できる。工夫を加える。

志摩。エドは飛行物体の技術者だった。失礼。

エド。世界一の、アンドロイドを作ってやる。

第42話。鈴鹿、オンステージ3。12. 志摩と散歩

2011-06-20 | Weblog
 (さて、海原教授秘書はいいとして、こちらも誰か付けることにした。虎之介を提案したのだが、なぜか、ジーンは志摩を希望。そういえば、亜有を鍛えたのは志摩だ。とにかく、試してみる。)

志摩。奈良さんからジーンに付くように依頼された。何をすればいいんだい?。

ジーン。作戦遂行に必要なことを教えてくれればいい。

志摩。A国軍で訓練を受けたんだろう?。

ジーン。受けたけど、なんか形式的だった。

志摩。なぜかな。役立ちそうなのに。

ジーン。そうよね。そう思ってくれたらよかったのに。

志摩。多分、姿が良すぎるからだ。作戦に投入すると、怪我をすることがある。

ジーン。大切にしすぎよ。使わなきゃ。

志摩。同意する。まず、身体作りだ。分析は虎之介に任せて、とにかく走ったりしてみよう。

ジーン。あなたは私に追い付けないわよ。

志摩。じゃあ、散歩から。

 (ともかく、外に出て、トカマク基地の回廊から海岸に出る。東京湾だ。)

ジーン。海洋国、日本。

志摩。うん。海が好きだ。海には入れるの?。

ジーン。もちろん。でも、今は寒いから、だめ。

志摩。本体は人間だから。テレビドラマでは、大活躍なのに。

ジーン。あんな風になれるのかと思っていた。

志摩。工夫しよう。

 (ジーンは靴と靴下を脱いで、渚に出る。サイボーグと言っても、高級な義足。感覚がないから、どことなくぎこちない。ただし、関節は工夫されていて、巧妙に動くので、十分に踏ん張れる。志摩が機構に関心を持ち出した。)

志摩。ジーン、来てくれ。その義足を詳しく見てみたい。

ジーン。行く。

 (両脚の膝上から下が義足になっている。志摩がジーンの義足に触って、機構を確かめて行く。志摩が熱心なので、ジーンが笑い出した。)

ジーン。あはは。なんだか、面白い格好。

志摩。うん。これと同じことを鈴鹿でやったら、滑稽だ。

ジーン。何か分かるの?。

志摩。何も分からない。ただ、感触を試しているだけ。良くできている。

ジーン。ゴムのかたまりに見える。

志摩。つるつる。毛も生えてないし、汗もかかない。

ジーン。そりゃそうよ。機械だから。

志摩。アンの脚を触ったことはないな。確かめなきゃ。

ジーン。奈良さんならよく知っているはず。

志摩。もちろん。柔らかい皮膚。表面はコーティングされていて、かなり強い。皮下組織とあいまって、あの感じを出している。

ジーン。じゃあ、自動人形の技術を使ったら少しはよくなるかも。

志摩。うん。調べてみよう。

 (トカマク基地に設けられた、情報収集部のための部屋で、私(奈良)は伊勢と会話。)

奈良。ジーンは元気になったか。

伊勢。ええ。普通にしている。計測にも付き合ってくれた。

奈良。大サービスだな。大丈夫なのか。

伊勢。もちろん、彼女自身からはサイボーグの性能については、一切言わない。でも、計測するのはかまわないって。

奈良。そんな状況があり得るからだな。

伊勢。で、どうするのよ。作戦を見せるのはいいとして、将来は。

奈良。サイボーグの完成度による。自動人形と同じく、可能性試験のような気がする。

伊勢。この前は、犯人は追い詰めたけど、ジーンは翌朝まで活動できなくなった。

奈良。ああ。作戦中に、動けなくなったら大変。

伊勢。それでも、A国軍は、しつこく可能性を追求していた。

奈良。開発費は半端ではないだろう。あれだけ激しく動ける埋め込み人工物など、他にないはずだ。

伊勢。だから、これで行けると思ったんだ。

奈良。使い様のような気がする。左腕とセンサーの解析は済んだのか。

伊勢。ええ。亜有と虎之介の解析結果は一致している。自動人形の軍事コードとも合致する。

奈良。この手の新兵器のデータが反映されているのか。

伊勢。そうみたい。どおりで、自動人形をいくら解析しても謎の部分が残るはず。

奈良。アンとクロが、やけに落ち着いていた。

伊勢。友軍ということもあるけど、出方が分かっているみたい。

奈良。本部には知らせたのか。

伊勢。もちろん。あますところなく。そうか、反応があるかも。

奈良。ああ、そうだな。

第42話。鈴鹿、オンステージ3。11. 大型食堂での決闘

2011-06-19 | Weblog
 (で、夕方。ジーンといっしょに東京に行く。私が運転する旧車両で。クロとアンと羽鳥が付いてきた。羽鳥は当然のように、機関銃の入った袋を抱えている。)

ジーン。警戒厳重。

羽鳥。原因は、お前だ。

ジーン。何があったか知らないくせに。

羽鳥。備えあれば、憂いなし。それにしても、奈良部長を狙うとは、酔狂な。

ジーン。どこがもの好きなのよ。

アン。奈良部長がどうなろうと、ID社の業績には全く関係ない。

奈良。またはっきりと。

ジーン。警備がずさん。

アン。情報収集部だけが警備陣ではない。代りはいくらもある。

ジーン。ああいえばこういう。

羽鳥。まあそんなところだな。日本の防衛上も、何も変化なし。ご苦労さん、ってことだ。

ジーン。じゃあ、志摩さんたちは何しているのよ。

奈良。早く、めぼしい部門に移籍した方がいい。

アン。暇ならいっぱいあるから、大学院生している。いろいろ経験して、次を狙うには、いいポジション。

奈良。暇がいっぱいって…。

ジーン。そりゃ良さそう。情報収集部で雇ってくれないかな。

奈良。用件って、それか。

ジーン。ええ、そう。もう言っちゃった。

奈良。帰るか。

ジーン。食事はしましょ。いいでしょ。

奈良。別にかまわない。

 (でもって、ジーンが選んだ大型食堂に行く。10人くらいは入れる個室に案内された。オフィスビルの会議室みたいな小部屋にテーブルが1つ。絵が飾ってあって、片隅には食事の準備のための棚があり、カラオケ装置がある。
 もちろん、全員、つまり、ジーン、私(奈良)、羽鳥、アン、クロが入る。適当に注文する。酒はなし。)

ジーン。それで、雇ってくださるの?。

奈良。業務は知ってるのか。

ジーン。暇で、ときどき事件を解決すること。

奈良。全然違う。まず表向きは、公開された資料から、我が国の科学技術動向をまとめて、データベースにし、Y国ID本部に伝えること。

ジーン。だから、サイボーグ研に接近している。

奈良。関係ないといったら、嘘になる。

羽鳥。その程度だ。ID社は出資しているし、志摩たちが大学院生で出入りしているから、それだけで十分。

ジーン。裏商売が、事件に関与すること。

羽鳥。違法な動きのある企業や団体の調査。ID社の製品は高度だ。妙な使い方をされたら、社会に対する恥。対策部門が必要。

奈良。従来は、総務部が秘密裏に動いていたのだが、あからさまに動く部門も必要かと、創設されたのだ。約3年前。

ジーン。鈴鹿さんたちが、調査役。

奈良。そういうこと。営業として乗り込むこともあれば、最初から調査に向かうこともある。証拠をつかんだら、警察か政府の担当部署に通報。

ジーン。奈良さんは。

奈良。ID社の専門家の一人。私は獣医だから、応用生物関係。伊勢は基礎の生物系。

ジーン。じゃあ、私が加わったら、調査隊になる。

奈良。まず、見学からだな。ジーンにはもっと適した部署があるかもしれないから。

 (ジーンは何を思ったか、席を立つ。)

ジーン。ふーん。テストがあるってこと。どうやったら合格になるのかな。

奈良。それはだな…。

 (ジーンが照明のスイッチを切る。素早く、羽鳥の袋を奪って、短機関銃を出し、非常灯を壊す。ものすごい銃声。羽鳥がとっさに、護身用拳銃で応戦。真っ暗の中、にらみ合いになった。
 こちらはID装備で、様子が分かる。アンとクロは軍用センサーで十分だ。自動人形がすぐに飛びかからないのは、軍事コードの起動は保留。状況を分析中ってことだ。アンとクロの視覚が生きていることをジーンは知らないのか。
 ジーンは、ゆっくりとあたりを探る姿勢を見せる。ソナーか何かだ。アンとクロに、アナライザーで解析するように指示。解像度は低いらしく、すぐに撃ってこない。
 羽鳥が、醤油の瓶か何かを投げた。そちらに向かって、ジーンが3発撃つ。羽鳥が撃ち返す。ニアミス。よくやる。
 おっと、赤外線照射だ。店側の仕掛けらしい。監視カメラが動作している。アンがドアの方向を向いている。人の気配を検知したらしい。
 ジーンの解析が終わったようだ。)

ジーン。これで終わりだー。

 (その時、ドアを蹴破って、店員が入る。銃を構えているジーンを確認して、すぐに蹴りで一撃。ジーンは気を失ってしまった。)

羽鳥。何て弱いやつ。

クロ(会話装置)。機械に頼りすぎ。

アン。私たちも機械。

店員1。お客さん、怪我はないですか、こいつ、何者。

羽鳥。ええと。どう説明するか。

店員1。警察を呼びます。

羽鳥。呼んでくれ。私から説明する。

店員1。ええと、あなたも警察。

羽鳥。政府の者だ。こんな感じで踏み込むことがある。

店員1。何となく分かる。待っててください。

 (しばらくしたら、警察が来た。羽鳥が説明する。偶発事故と言いくるめたようで、逮捕は免れた。もちろん、検分はしっかりされ、A国軍が部屋の修理代を出したことは言うまでもない。)

 (ジーンは、トカマク基地に連れて帰る。当然、A国軍からジーンは謹慎を言い渡され、翌日、クビになってしまった。反応が素早いところを見ると、本当に厄介者だったようだ。)

清水。あきれた。本当に解雇されてしまった。

 (さすがのジーンも、しょんぼりしている。)

伊勢。まあ、とにかく、A国軍に、メンテ用の資料を請求してみる。

ジーン。なぜ、私に親切にしてくれるの?。

伊勢。海原博士の秘書は解雇になってない。だから、腐れ縁。その後どうするかは、こちらで協議する。

 (伊勢がサイボーグの資料をよこすようA国軍に要求したら、何と、2つ返事でOKだった。そっちで面倒見てくれるならラッキー、てな感じ。届いた資料は、維持管理に必要なものだけだったが、やたら詳しくて、内部機構を類推するには十分。ID社の担当部署に問い合わせると、維持するどころか、何とか我が社の技術で相同物を作ることができるという。ただし、作製費用は莫大だから、理由は必要。)

伊勢。ふう。とにかく、技術的には対応できそう。ジーンさん、安心して。何とかなる。

ジーン。ずっとここにいるわけにもいかない。

エド。就職先を探してみる。海軍以外でも役立ちそうだ。

伊勢。それまで、実績を積んで、アピールすること。それはできる?。

ジーン。そうするしかない感じ。

エド。まずは、ミズコンでデビューだ。

ジーン。うん。チャンスと思って、がんばる。

 (前向きで楽天的なのは、良い点。ジーンはしばらく、練習に励むことになる。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。10. 羽鳥の護衛

2011-06-18 | Weblog
 (伊勢がジーンを所長秘書室に呼ぶ。志摩とジロがいる。)

伊勢。何のつもりよ。亜有さんを襲ったの?。

ジーン。最初は示威のつもりだった。

伊勢。エスカレートして。それで、軍から厄介者扱いに。

ジーン。はっきり言えば、そう。

伊勢。亜有さんから少し話は聞いた。あの程度ですんで、感謝しなさい。

ジーン。亜有、まだ武器を持っている。というか、何か繰り出した。

伊勢。あなたもスパイなら、ちょっとは考えなさい。何もないわけないじゃない。

志摩。普通は、こんな場合はイチあたりが駆けつけるんだけど。

伊勢。丸く収めたくなかったみたいよ。

ジーン。私の武器の確認。

伊勢。少なくとも一つは明らかになった。

ジーン。このままだと、我が軍のサイボーグの全貌が明らかになるのは、時間の問題。

伊勢。余計なことをするからよ。自粛しなさい。

ジーン。そうした方がいいみたい。

 (そして、亜有は、伊勢と志摩をモグに呼ぶ。)

伊勢。ご苦労さん。それにしても、危険行為よ。さっさと自動人形を呼びなさい。

清水。すみませんでした。ええ、次回からは自動人形を使います。

志摩。ジーンはおとなしくするかな。

清水。それよ。みなさんを呼んだ理由。

伊勢。また何かやる。

清水。虎之介で試して通用しないので、私で試そうとした感じ。

伊勢。鈴鹿や志摩は襲わない。私も。てことは。

清水。多分、次は人の良さそうな奈良部長を狙う。

伊勢。ふん。返り討ちよ。

志摩。失敗したら、きつそうだよ。暗殺に3回立て続けで失敗したスパイに対して、A国軍が何もしないわけがない。

伊勢。最低限、放り出される。

清水。ジーンの機械部分は、こちらでメンテできるのかな。

伊勢。調べてみる。

清水。じゃあ、私も。

志摩。部長の護衛は?。

伊勢。どうしようかな。任せるのも一手だけど、いったん自動人形の軍事コードが起動してしまったら、ジーンを殺してしまう。奈良部長の希望ではないでしょう。

清水。羽鳥くんにちくってみるか。

 (羽鳥はさっそく行動開始。って、短機関銃を見せつけるように肩に背負い、私にぴったりくっつく。呼応するように、アンも離れようとしない。)

奈良。それ、本物の短機関銃。

羽鳥。ええ、そうです。よくご存じでしょう、威力は。

奈良。防弾チョッキで防げるタイプだ。

羽鳥。同士討ちを避けるため。狭い場所での戦闘に有効。

奈良。ここでどんぱちをするつもりか。

羽鳥。成り行きによっては。

奈良。やれやれ、私も防弾チョッキを着けておくよ。

羽鳥。よろしくお願いします。

 (ジーン、それを見て、いとも簡単に亜有に話しかける。)

ジーン。ち、警戒が厳重になった。

清水。あなた。次の目標を私に知らせていいの?。

ジーン。奈良部長、誘ったら、食事とかに来てくれるかな。

清水。あのね。今度失敗したら、最悪のケース、あなたはA国軍に消される。

ジーン。すでに危ない。あなたのせいで。

清水。分かってるんだったら、やめとけば?。前回のテロリストを追い詰めた件で、あなたが十分に強力なことは、証明された。評価されているわよ。

ジーン。そちらにも?。ID社に就職できるかな。

清水。部署はいろいろある。って、のんきなこと。

ジーン。奈良部長を誘ってみよっと。

 (ジーンが近づいてきたが、アンは平気。敵と見なしていない。羽鳥はそれに気付いたのか、成り行きを見ている。個人的な話をしたいと、ついては食事をいっしょにと誘ってきた。ま、とにかく、話を聞くだけ聞くことにした。今夕、東京で。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。9. 真昼の牧場での決闘

2011-06-17 | Weblog
 (当面のターゲットを亜有と定めたジーン。聞き出しやすそうな虎之介に接近する。)

ジーン。タイガー、今話できるかな。

芦屋。特に予定はない。いいよ。

ジーン。亜有さんのことよ。何者なの?。

芦屋。ID本部、航空部門長の秘書の一人。受けた訓練は知らん。だが、ほぼアマレベルだ。頭はいいがな。

ジーン。今の指令は?。

芦屋。自動人形の動作を調べているのと、サイボーグ研の活動を本部に伝達する役。なにせ、ID社はサイボーグ研にかなり投資している。ただし、それは表向きの理由だ。ID社の上層部の考えることは分からん。

ジーン。多国籍企業だからね。

芦屋。その通り。本部航空部門長といえば、政治的影響力は理事に次ぐ。その部門長からの派遣。どんな指令を受けているか分からん。妙な思惑の一部、ということもあり得る。なぜ彼女がここにいるのか、奈良部長以下、誰もがいぶかっている。

ジーン。ふーん。

芦屋。亜有をぎゃふんと言わせたいのかい?。やめとけ。今言ったろう、彼女はID社の最重要人物の一人である航空部門長の秘蔵っ子。手を出したら、おれだって妙な指令を受けるかも知れんぜ。

ジーン。私を倒す。

芦屋。一番直接的な手段だな。少なくとも、近づけなくする。

ジーン。いろいろ知りたかったんだけど。

芦屋。その様子だと、個人的興味だな。本人と直接話せばいい。

ジーン。他に亜有さんをよく知っている人物は。

芦屋。伊勢さん、鈴鹿、自動人形。

ジーン。どれも一筋縄ではいかない。

芦屋。やれやれ、なんで亜有を嫌っているんだ?。お嬢様なところか?。あれは本物のお嬢様だ。修正しようがない。

ジーン。はっきり言う。将来、敵対しそうな気がする。

芦屋。だから、早めにつぶしておく。なるほど。そういえば、火本もそんなこと言ってたそうな。

ジーン。ヒモトって誰だ。

芦屋。今、Y国ID本部で、自動人形の操縦の訓練を受けている。大江山教室の大学院生。志摩と同級の男だ。サイボーグ研が開発した主だった機械は、彼のアイデア。とんでもない秀才科学者。

ジーン。それが、将来、亜有と敵対する。

芦屋。単なる直観。何の根拠もない。ただ、彼は亜有を友達と思っている。敵対するのは、組織同士だ。

ジーン。日本政府と多国籍企業のID社が対立する事態になる。

芦屋。そうだとは限らんが、その時になれば、そんな感じに見えるんだろう。

ジーン。それか、なにか引っかかっていたのは。

芦屋。もう一つ、ヒントを教えてやろう。彼女は軍事組織が大嫌いだ。今でもな。だから、おれは好かれていない。仲間だから、しかたなく付き合っている。

ジーン。なーるほど。だんだん分かってきた。あの妙な反応が。

芦屋。分かったら、手を出すな。普通に話をしてたら、面白いだろう?。そこでやめとけ。

ジーン。考えどころだ。

芦屋。好きにしろ。おれは止めん。

 (ジーン、どうしても確かめないと気が済まないらしい。どうやら、A国軍自身から疎んじられた理由のようだ。よせばいいのに、直接、亜有と対峙することにしたようだ。作戦を実行に移す。亜有をトカマク基地の上の、牧場の見学に誘う。白昼堂々。)

清水。ふーん。牧場に興味あるなんて、面白い趣向。

ジーン。日本の首都の近くに、こんな土地があるなんて、珍しいもの。

清水。日本の首都といっても、1時間も高速を走ったら、田舎よ。

ジーン。庭園か。

清水。そんなところ。かなり整備が終わってるみたい。ちょっと手入れしたら、使えそうな感じ。って、ジーン、どこに行ったの?。

 (ジーンが姿を消す。いつも所持している強力な拳銃を手にして、薮から亜有の行動を伺う。)

清水。おーい。隠れん坊なの?。出てきてよ。

 (ジーンが一発撃つ。わざと外してだ。亜有は、とっさに伏せる。草がぼうぼう、何とか身は隠した。)

清水。な、攻撃してきた。わざと外して。

 (このままでは危険。しかし、最寄りの薮までは少し距離がある。亜有の服にもID装備は着いている。アナライザーで分析。ジーンの位置は分かった。どうやら、ジーンもこちらの位置が分かっているようで、飛び出して仕留める機会を狙っているようだ。)

清水。ジーン、やめてよ。こちらは有効な武器を持ってない。

ジーン。手を上げて、出てこい。

清水。どうしたいのよ。

ジーン。つへこべいうな。

 (2発目、3発目と撃ってくる。ふと、ちょっと重そうな石ころに手が届いた。狙って投げる。放物線を描いて、ジーンの頭部を直撃。)

ジーン。痛てー。宣戦布告か。何て女。後悔するなー。

 (ジーンが飛び出し、銃を発射しながら近づく。亜有と対峙した。)

ジーン。手加減していたら、とんでもないことしやがって。

清水。やめてよ。今なら冗談で済む。

ジーン。こっちが済まないわよ。

清水。このばか。

 (何と、亜有は頭突きをジーンに喰らわす。逃げようとした亜有に、ジーンは拳銃を撃った…、つもりだが、弾が出ない。弾切れだ。)

ジーン。な、ことごとくバカにしてー。

 (亜有は逃げるが、相手はサイボーグ。すぐに追い付かれてしまった。)

ジーン。面倒かけやがって。これで最後だ。

 (ジーンが左手を前に出す。やはり武器のようだ。槍の穂先のようなものが、手首に相当する部分から飛び出し、亜有の胸を突く。)

ジーン。うわー、痛てー。

 (ジーンが転がって痛がる。だって、左腕の元は、自分の本来の肉体だ。衝撃がそのまま伝わったのだ。亜有が、ジーンの左腕を踏んづける。)

清水。どういうつもりよ。殺す気だったの?。

ジーン。何が起きた。

清水。言うわけないじゃない。次はどうして欲しいわけ。

ジーン。離せ。

清水。ふん。

 (亜有は脚を離す。形勢不利と見たらしい。ジーンは攻撃をやめる。)

ジーン。これで、素人ってか。

清水。最低限の危機管理は習っている。

ジーン。プロ並。

清水。こっちがプロだったら、あなた、死んでる。はるか以前に。

ジーン。それもそうか。

志摩。おーい、どうしたんだ。銃声が聞こえたって。

清水。志摩くん。ジーンが撃ってきたのよ。私をからかうつもりだったらしい。本気じゃなかった。

志摩。怪我は無いか。

清水。ない。ジーンは打撃を受けた模様。

志摩。ジーンは大丈夫なのか。

ジーン。頭のこぶと、左腕の痛み。大したことない。

志摩。警察が来る前に、銃弾と薬莢を処理しなきゃ。自動人形を呼ぶぞ。

 (イチとレイが来て、証拠隠滅する。)

第42話。鈴鹿、オンステージ3。8. ジーンと芸術家

2011-06-16 | Weblog
 (夕方、加藤氏はトカマク基地に来て、亜有と土本と打ち合わせ。それぞれバイオリンと三味線を弾くので、演奏可能かどうか、確かめに来たのだ。私(奈良)も呼ばれて、背景画の調整をして行く。で、よせばいいのにジーンが途中で加藤氏に声をかけるから、ものすごい形相で追い返されたりするのだ。さっきから3回ほど。不思議なことに、加藤氏、毎回律儀に追い返す。)

ジーン。変なやつ。

伊勢。ええ。おもしろいでしょ?。

ジーン。日本人からみても変わって見える。

伊勢。軽いコミュニケーション障害があるようだから、さらに変に見える。

ジーン。亜有は平気だったみたい。

伊勢。あなた、亜有さんをライバル視しているの?。彼女、素人よ。単に頭の回転が速いだけ。そう血相変えなくても。

ジーン。あの手の女は腹が立つ。

伊勢。ぶりっこしてるんじゃなくて、天然よ。困ったわね。現場でトラブル起こされちゃ、大変。

ジーン。そんな感じの時は、たいてい、自動人形がとりなしてしまう。

伊勢。彼女は攻撃力も防衛力もほとんどないから、護衛として付けているのよ。

ジーン。隙をねらうしかないか。

伊勢。自動人形は、8機もある。周辺装置も多数。目を離した隙になんて、あり得ない。それにあなた、自動人形からマークされているから、離れていても好きにさせてくれないわよ。

ジーン。それか、不気味な感じは。

伊勢。奈良部長ほどでもないけどね。

加藤。終わったよ。ジーンさん、用件は何?。

ジーン。ジーン、って呼び捨てでいいよ。あなたは元理でいい?。

加藤。こっぱずかしいな。加藤くん、じゃだめ?。

ジーン。じゃあ、カトー、これで行く。

加藤。うん。そうして。で、何の用。

ジーン。あなた、雰囲気というものを考えなさいよ。女にもてないわよ。

加藤。とりあえず、必要ない。

ジーン。女に振られたことは。

加藤。数知れず。

ジーン。自慢してるな?。

加藤。用件がないのなら、帰る。

ジーン。待ちなさいよ。女の子が声かけているのに、無視するの?。

加藤。女の子って、誰。

ジーン。私よ。

加藤。そうか。失礼しました。

ジーン。やりにくー。

加藤。夕食おごるから、話を聞くよ。

ジーン。誘っているつもり?。

加藤。もちろん。受けるの?。

ジーン。乗ってやる。

 (加藤氏とジーンはタクシーに乗って、都心に向かう。)

ジーン。ふむふむ。やっとそれらしくなった。

加藤。何がいい?。洋食?、中華?、和食?。

ジーン。天ぷらかな。

加藤。分かった。運転手さん、この店に行ってください。

 (ちょっと高級そうな和食店に到着。係りに案内され、席に着く。)

加藤。ビール頼む?。

ジーン。何でよ。

加藤。じゃあ、日本酒だな。

ジーン。何でよ。

加藤。酒は嫌いなのか。

ジーン。食事だけでいい。

加藤。じゃあ、ぼくも。このてんぷら定食でいいかな。ちょっと高級そうに見えるし。

ジーン。メニュー見せてよ。

加藤。どうぞ。

 (でも、結局、そのてんぷら定食を注文する。)

加藤。ジーンって、面白い。

ジーン。どこがよ。

加藤。雰囲気。それに、面白そうな機械を付けている。

ジーン。こっ、こいつ。なぜ分かった。

加藤。だって、歩き方が独特。両脚の義足と、左腕の義手。それとあと何か。

ジーン。左腕が歩き方で分かるのか。

加藤。説明不足だった。仕草で分かる。あと何かも。

ジーン。何よ。

加藤。サイボーグなの?。

ジーン。殺す。

加藤。ここで?。

ジーン。脅す気?。

加藤。サイボーグ研が開発したのかな?。大したものだ。海原博士と、奈良部長のタッグだな。

ジーン。ぴーろりろるー。完全な不正解。

加藤。じゃあ、A国軍か。自動人形みたいに。

ジーン。そういうこと。って、秘密だったのに。

加藤。普通、分かるよ。

ジーン。普通、分からないと思う。ふむ、天才音楽プロデューサ。感覚の鋭さが違う。

加藤。そうか。音だな。なんか変だと思っていた。

ジーン。あんた。私が恐くないの?。

加藤。恐い。軍にいたんだろ?。幹部の秘書だ。役立ってくれないと。

ジーン。こんなやつがいたとは。

加藤。料理が来た。早い。いただこう。

ジーン。うん。

 (少し食べてみる。庶民的レベルだけど、うまく作ってある。おいしい。)

加藤。うん。よかった。ここの料理は間違いがない。どう?。

ジーン。普通の少し上ってとこかな。

加藤。いい女。

ジーン。やっと気付いたの?。

加藤。最初からだよ。

ジーン。ふーん。はぐらかされたような気もするけど、とりあえず、ありがと。

加藤。で、用件って…。

ジーン。当ててみてよ。

加藤。歌手デビューしたいとか。

ジーン。ちょっと違うけど、その用件ならどう答えるの?。

加藤。音楽の仕事ったって、いろいろある。地方巡業には役立つ。

ジーン。その程度ってこと。

加藤。だって、いろんな国に行くんだろ?。ついでに破壊工作とかしに。

ジーン。想像しすぎ。

加藤。歌姫だから、相手は油断する。いろんな話が聞ける。

ジーン。この話、やめ。

加藤。じゃあ、こちらがミズコンでどんな発表するかを知りたい。

ジーン。それもある。

加藤。あとで、シナリオ渡すよ。

ジーン。そんなことして、いいのか。

加藤。あのメンバーだ。お互いに真似したくてもできない。ましてや、他の研究所には無理。

ジーン。自信満々。正解を言う。私の歌を指導してよ。

加藤。A国からプロが来ると聞いている。本場に勝てるわけない。

ジーン。あなたの感覚を試したい。

加藤。じゃあ、ぼくがA国デビューするってこと?。それは光栄な話。通用するかどうか、試してみたい。

ジーン。お金は取るんでしょ?。

加藤。当然だよ。ぼくはプロ。正規の料金を要求する。でも、駆け出しだから、格安。

ジーン。自分で言って、どうするのよ。

加藤。止める?。

ジーン。やってくれって、言ってる。

加藤。どんな歌が好きなの?。

ジーン。あなたは?。

加藤。ぼくの?。日本の昔の唱歌。メロディは単純。意味が分からないと聞いても面白くないよ。

ジーン。オペラは?。

加藤。いいのがある。フランス風がいい。

ジーン。カントリーは。

加藤。いいけど、どんなところで演奏されたのか、よく知らない。本当に田舎で弾いたの?。

ジーン。嫌いな人はいない。

加藤。そうか。レストランとか、パーティーなんかで。素敵だ。

ジーン。あんた、話が分かる。曲を選ぶから、そちらで気に入ったのを指導してよ。

加藤。テストかい?。そちらの企画があるんだろう?。本番まで、そんなに時間がない。

ジーン。さっき言ったじゃない。世界中を公演旅行するのよ。我が軍の兵士の慰安のために。

加藤。ジーンのワンマンショーか。やりがいがある。

 (結局、加藤氏、海原チームの演出にも加担することになる。)