ID物語

書きなぐりSF小説

第32話。アクロニム。14. 御影の就職先

2010-11-06 | Weblog
 (工場の会議室にて。)

永田。連絡があった。怪しい船舶を海上保安庁に引き渡す。これで我々は用済み。当局が制圧したら、引き上げるぞ。

秘書。解決したの?。

清水。そうみたい。

秘書。私の活躍の機会がなかった。

清水。いいじゃない。怪我せずに済んだ。

秘書。怪しい船って何よ。

清水。知らないわよ。コンテナの運び先でしょ?。そこで建設機械を組み立てて密輸先に運ぶ。怪しまれないように、大型の漁船とか貨物船に擬装。多分、そんなの。

秘書。すごい。面白そう。あんた、そんな大層な事案に関与しているの?。

清水。面白くないわよ。さっきだって、冗談抜きで死にかけた。それに、普段はちまちました調査ばかり。企業の技術を調べて、レポートに書いて。その繰り返し。

秘書。あーん、どこかにいい仕事ないかな。

清水。今の秘書でいいじゃない。私よりずっと収入多そうだし。

秘書。ちっとも刺激がないわ。

清水。暴徒くらい来るでしょうが。

秘書。ごくまれに来るけど、弱っちいやつばかり。

清水。強かったら、死ぬわよ。

秘書。でも、あんたがた、武装したヘリと突撃部隊を跳ね返した。混ぜてよ。

清水。困ったな。

秘書。あんな仕事にあこがれていたんだ。

清水。あのね。警察といっしょよ。普段はつまんない仕事。いったん事が起こったら、命懸け。軍とか海上保安庁に応募した方がいい。

秘書。公務員はつまらないわ。組織の一員でしょう?。

清水。外国の軍に行くとか。

秘書。だから、公務員はいやだって。

清水。好き嫌いの激しい人ね。

秘書。仕事、紹介してよ。

清水。我が社の。

秘書。そう、我が社、我が社。

清水。待ってて。聞いてみる。

関。こらー、なんて相談しているのよ。お前っ、札付きだから、軍に雇ってもらえないだけよ。

秘書。そういう言い方もできる。

関。だから、民間企業のガードをしている。大きくて、怪しい企業なんか、いっぱいある。そこに行きゃいい。

秘書。どこよ。

関。公務員の守秘義務。

秘書。やれやれ、お役人はこれだ。とにかく、ID社から。決めた。

関。くそまじめな企業よ。

秘書。だったら、繁盛するわけない。いろいろあるわよ。ね、清水さん。

清水。そりゃあ、いろいろ、あれこれ、それこれ、何とやら。

関。清水さーん、何エサぶら下げているのよ。要するに、帳簿のちょっとした間違いなんかよ。そんなの、どんな優良企業にだってある。新聞に載るのは、内紛の足引っ張り合いとか、そんなの。

秘書。つまんない。こっちもそうよ。で、さっき、どこに連絡しようとしたの?。

清水。本部。まだ残っている人がいるかも。

関。Y国。

清水。そうよ。

関。ガードの仕事があるとか。

清水。紛争地とか、それに近い場所の営業所はたくさんある。大国じゃないから、人員は割けない。だから、頭がよくて、実力のある人は引っ張りだこよ。

秘書。外国。

清水。当然。日本人女性は受けがいいわ。特に御影さんは特上美人だし。

関。英語とかできるの?。

秘書。できたりする。

清水。だから、赴任先はそんなの。日本ならぐっと田舎になるけど、世界は広い。いい暮らししながらってのもあるかも。

秘書。私にぴったり。

関。開拓地の用心棒。

清水。ええ。それでいい?。

秘書。うん、やってみたい。

 (そんな赴任先はごろごろしている。御影はあれこれ注文を付けていたが、ほどほどの条件のがあって、そこで妥協してしまった。たしかに、損得勘定はできる女だ。ボーナスが出るのを待って、さっさとその国のID社に行ってしまった。)