ID物語

書きなぐりSF小説

第50話。海の自動人形。14. 消えた自動人形

2011-12-01 | Weblog
 (施設に行って、少佐と共にビル内で収集したデータを検討する。でも、自動人形のコントローラの記録は、もちろん妨害される直前までしかない。ID社の通信記録も同様。A国軍のおぼろげな追跡データは、破壊されたところでストップしている。その直前を検討する。)

少佐。約1分前から、反応がない。

奈良。死角は。

少佐。最初にミサイルで破壊したからな。ある。

奈良。逃げたのかもしれない。周りはどうなっている。

 (地図を見せてくれた。模擬ビルの周囲は土がむき出しだけど、50m程先からは草がぼうぼうに茂っていて、自動人形の派手な服でも簡単に隠れられそうだ。それが300m程も続き、その奥は林になっていて周囲の森林に続く。山の裾野なので、川が流れている。
 私がじっと地図をながめていたので、少佐は逃走経路を確認しているのだと直感した。)

少佐。まず、ビルから脱出しないといけない。

奈良。ビデオか何か、あるのですか?。

少佐。部下に解析させている。もうすぐ、終了する。

奈良。茂みまで逃げ込んだら、後は逃走できる感じだ。

少佐。二重の柵まではな。センサーが発見する。報告はない。

奈良。じゃあ、この演習場の中のどこかに潜んでいる。捜索に行きます。

少佐。その仕事は、こちらがする。ゆっくり休んでいてくれ。

 (解析が終わったらしく、記録のビデオを見せてくれた。もちろん、何も映っていないとの判断だから見せてくれたのだ。これも、少佐といっしょに分析する。)

少佐。爆発の瞬間だ。

奈良。土煙が、もうもうと上がっている。茂みにまで続いている。

少佐。あそこに逃げた可能性が高いと判断するのか。

奈良。ちょっと巻き戻してくれ。

少佐。何か引っかかる場面があるのか。

奈良。そうだ。

 (ビデオを巻き戻す。かなりの望遠レンズで、広い範囲を撮っているから、画面の端の方は微妙にピントが合っていないしハロもある。そう、見つけた。映像がほんの一部、ゆがんでいるのだ。何かしたに違いない。少なくとも、サムとジャグは分子シンセサイザーを持っている。)

少佐。考えすぎだ。蜃気楼か何かだろう。そんな感じの天気だった。

奈良。こちらがスパイ組織ということはご存じ。

少佐。企業調査の。

奈良。相手がそれなりに武装していることもある。

少佐。承知しているが、考えすぎだ。逃げるとしたら、こちらしかない。爆煙と粉塵に隠れたのだ。

奈良。こちらの可能性は。

少佐。あとで探す。こちらで見つからなければだが。

 (巧妙に時間稼ぎしている。誰のアイデアかと、考えを巡らす。伊勢か、亜有か、鳥羽か、あるいは、キャシーか。特にキャシーは、付き合いが浅く、何を考えているか分からない。
 演習場だから、足跡はあちこちにあって、追跡できない。自動人形だから、匂いは残さない。しかも、軍開発の救護ロボットだ、軍用犬の能力はよく知っている。
 私は不安を紛らわせるために、クロをだっこする。不思議なことに、クロは落ち着いたもの。無邪気にあくびなんかしている。配下の五郎と六郎も、平和そのもの。
 かえって、少佐が焦ってきた。矢継ぎ早に指示を出している。
 ちっともこちらには聞いてこないので、クロとDTM手話(◎)。)

奈良◎。落ち着いているな。

クロ◎。待つしかないだろう。五郎にコーヒーを持って来させようか。

奈良◎。アンが破壊されたかもしれない。

クロ◎。証拠はない。五郎、甘いコーヒーを持ってきてくれ。クリームをたっぷり混ぜて。

奈良◎。逃走したのか。

クロ◎。穴を掘って、隠れている?。まさか。

奈良◎。逃走が最も考えられる。

クロ◎。今ごろ、二重柵を突破しているはずだ。

奈良◎。お前の判断か。

クロ◎。私なら、やる。自動人形の技を当てにしてくれ。

奈良◎。想像でもうれしいよ。ちょっと落ち着いてきた。

 (焦っているのか、私への監視が手薄になった。六郎を呼び寄せ、遊ぶふりして、クロを放つ。施設内の調査だ。モグには、捜索状況を記録し、動きがあったら報告するように指示する。
 クロは別室への侵入に成功。少佐の臨時の部下らしいのが雑談している。)

兵士14。少佐、焦っているな。

兵士15。さっきから無茶な指示出しているけど、少佐って何者だ。

兵士14。さあ、知らない方がいいんじゃないの?。思いっ切り怪しいぜ。

兵士15。CIAとか。

兵士14。そんなところだろう。いつまで捜索を続けるのかな。

兵士15。おっと、連絡だ。もう一部隊、投入しろと。

兵士14。豪勢だな。本日の演習項目は、ことごとく中止だ。

兵士15。そんなに大切なことなのか。

兵士14。そうとしか、考えられない。ロボットども、とっくに逃げたんじゃないの?。捜索は無駄足のような気がする。

兵士15。この基地からは脱出できん。

兵士14。演習場だ。収容所でも、基地でもないぜ。駐屯地内は警戒厳重だが、ここはそれほどでもない。二重柵は、ふらふら入ってくる山岳マニアなんかを防げれば、それでいい。

兵士15。木を伝うだけでいい。

兵士14。そうだな。おれならそうするかな。ムササビみたいに、ぴょーん、だ。はい、さようなら。

 (サムとジャグがいる。警戒が手薄なところを探すのはお手のものだ。そして、誰かが導いているに違いない。通常の通信方法とは違う方法で。
 指示が細かくなってきたので、私はモグに帰ることを許された。一晩いて欲しいと。食料はどうするのだと聞いたら、ジーンを伴って駐屯地内の売店に行ってよいと。私だってスパイのはしくれだ、いいのか、こんな警戒で。
 空は暗くなった。駐屯地内をジーンとジョーといっしょにとぼとぼと歩く。)

ジーン。ご心配でしょう。

奈良。破壊された自動人形を見たら、泣くかも。

ジーン。なんて事をするのかしら。もうこりごり。今後は断ってください。

奈良。今後って、機会があるのかな。破壊が確認できたら、ミッション終わり。逃げられたことが分かれば、解析に入る。意識のない自動人形に問い詰めても無駄だ。とんちんかんな答えが返ってくる。通信が途絶えたから、データベースには記録されていない。

ジーン。誰かが導いたのは確実よ。あなたの部下か、あるいは…。

奈良。増援部隊。ひょっとして、ジーンなのか。

ジーン。外れです。ごめんなさい、おちからになれなくて。

奈良。気遣ってくれるだけで、うれしい。

 (食料はジーンが選んでくれた。付き合いは少しある。私の好みをうまく選んでくれた。監視らしく、モグに付いてきた。五郎が料理する。ジーンが食事に付き合ってくれる。)

ジーン。少佐、きっとおとがめを受ける。いい気味よ。

奈良。あなたの上司だ。

ジーン。失敗は失敗。もう、この時点で、上層部があきれているはず。

奈良。自動人形をやっつけたいのなら、本気にならないとだめだ。

ジーン。そう申し上げたのに、一瞬の隙を自ら作ってしまった。

奈良。何か、類似した作戦があったのかな。

ジーン。多分、そうでしょう。で、その時も何人かテロリストに逃げられた。それを確かめたかったのが、さらに失敗。穴だらけの作戦であったことを自動人形が明らかにしてしまった。

奈良。建物は類似させたとしても、場所も中身も違う。自動人形には、演習であることは分かる。

ジーン。さらに、冷静に状況分析したのよ。我が軍のコードで。

奈良。そうだろうな。

ジーン。奈良部長が分からないって事は、軍事コードが起動したんだ。

奈良。まず、間違いない。でなければ、すぐさま報告してくるはずだ。いつもと動きが違う。

ジーン。自動人形の不吉な側面。

奈良。そのとおり。誰も制御できない。こうなってしまうと。

 (軍の演習場だ。自動人形を最優先にするわけには行かない。未明に捜索は打ちきり。ご丁寧にも、捜索が無駄だと分かると、軍は完全に痕跡を消してしまった。少佐は何も言わないが、破壊は確認できなかったみたいだ。私はジーンといっしょに東京オフィスに帰った。失われた5機の代償として、1億ドルが即座にID社に振り込まれた。)


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