ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。11. インストラクター、山田

2010-11-27 | Weblog
 (高速を出て、山手に向かう。ゴルフ場を転用した施設だ。平日の昼間なので、客は少ない。更衣室で着替えて、クラブハウス前に集合。虎之介は、いつものスーツに手袋とヘルメットを装着しただけ。自動人形は、救護服に特製ヘルメット。)

清水。ううむ、軍服着てなくても決まりすぎ。ライフル抱えたら、恐い。

芦屋。普段の姿だ。そっちは、やたらとかわいいレース服だな。

清水。絶対にこれがいいって、店員に押しきられた。

芦屋。似合っているし、身体に合ってそうだ。動きやすいだろう。

清水。その観点で選んだのかな。

芦屋。プロのようだ。要点を押さえてる。

 (頼んでもないのに係がやってきた。興味が湧いたらしい。)

山田。おはようございます。私はここのインストラクター、山田司です。何か、撮影のための練習とか。

清水。はじめまして。いいえ、この2機のロボットの訓練です。

山田。ロボット。ヘルメットかぶっているから、ほとんど分からない。こちらも。

芦屋。人間だ。

山田。失礼。なんか、通勤の格好。

芦屋。普通の服ではない。この姿で充分。

清水。こほん。練習です。

山田。いいか、たまにならこういう趣味も。

清水。で、何かご用件でも。

山田。珍しいバイクだ。

清水。我が社の。I国ID社製です。

山田。ID社。聞いたことないな。

清水。我が社は計測機の会社。このバイクは計測機の輸送手段。

山田。ジャングルの奥とかに運ぶ。

清水。そうです。測定しながら走ることもある。

山田。乗せてもらえませんか。

清水。なっ、いきなり。

芦屋。いいじゃないか。あなたは見たところ、プロかベテランのようだ。

山田。ええ、今は体力的に退いています。

芦屋。クラブハウスで見たトロフィーに山田ってあったような。

清水。そう言えば…、30ほどあったわ。スポンサー付きのレース。だから、プロよ。きっと有名な方。

山田。一部ではそうでした。過去形です。

清水。じゃあ、お願いします。私、この型のバイクに乗るの初めて。

芦屋。それでロボットの訓練するつもりだったのか。あきれたやつだ。

山田。はは、私にお任せください。

清水。あの、料金とか。

山田。サービスしますよ。これに乗れるんだったら。

清水。そうは行きません。ええと…、コースがいくつかあったわ。一日一人3万円のコースかな。2人と2機で12万円と。払います。

山田。じゃあ、飛びきり貸しきりの大サービスだ。って、良く覚えてますね。

芦屋。特技を使ったな。

清水。ええ。思い出した?。

芦屋。ああ。

山田。特殊な記憶力。持っている人がいるとは聞いています。レースで役立ちそう。

 (山田氏はバイクの点検。慣れたものだ。さっと乗って、キーを回し、だだだっと飛び出す。オフロードコースを愉快そうに走っている。)

芦屋。いきなり使いこなしている。ただ者ではない。

清水。あんなマイナーな機種を。あっと言う間に性能が分かったんだ。

 (帰ってきた。バイクを降りる。満面の笑みを浮かべている。気に入ったらしい。)

山田。すばらしい。こんなバイクがあったなんて。

清水。全然知られていません。世界に100台あるかないか。高価すぎて、競争力がない。普通は、セット売りの一部です。

山田。調査研究か何かの。

清水。そうです。

山田。いくらですか?。

清水。単体で買うと、たしか、1000万円は超えていた。

山田。やっぱり、その価格帯か。

芦屋。普通のバイクなら2~3台買える。それも、とびっきり上等なやつ。

山田。これは会社のバイク。

清水。そうです。取り置きの2台を借りてきた。長野本社から取り寄せ。

山田。そのロボットが使う。

清水。この子たちは救護ロボット。過酷な環境に突っ込むことがありうる。

山田。だから、このご大層なバイクを用意したのか。ロボットの運転を見せてください。

 (エレキとマグネを乗せる。一周してこいと指令。場内を一周する。)

山田。乗りこなしている。そこまでだが。普通のロボットじゃない。

清水。A国軍が数年前に開発した。あまりに開発費が巨額になったので放棄した。それを我が社が買い取ったのです。

山田。なるほど。普通じゃないわけだ。

 (次に虎之介と亜有が乗る。虎之介は以前、同型に乗ったことがあるらしく、余裕で乗りこなしている。亜有は、何とか乗っている感じ。通勤には使えそうなレベルだ。)

山田。あなた、アマではない。時に使っている感じだ。

芦屋。そんなところだ。

山田。お嬢さんもよくやる。普通、こんな大型、乗ることすらできない。

芦屋。何とか乗っていた感じだ。ロボットの方がうまそうだな。

清水。しかたないわよ。普段、乗ってないもの。

山田。乗るにしたって、もっと軽快なマシンの方がいい。こいつは、その屈強な救護ロボットに似合うマシンだ。じゃあ、いくつか試してみるか。どうしたら訓練できるのかな。

清水。ええと、まず、虎之介さんに教えて、私がコツを聞いて、ロボットに指令します。

山田。要するに、人間、ロボット、ロボットの順だな。

清水。そうしてください。

 (山田氏、すっかり先生稼業が身に付いているようで、虎之介とエレキとマグネを上手に指導する。いろんな技を次々に伝授して行く。面白がって教えるので、あっと言う間に午前が過ぎた。)