ID物語

書きなぐりSF小説

第33話。夏立つ頃。1. プロローグ

2010-11-17 | Weblog
 (志摩たちは、自動人形の展示会のリハーサル前日夕に大阪入りした。新車両と旧車両に乗って。来たのは志摩、虎之介、亜有、火本、水本、海原博士、A31。なぜか土本(五香)もいたりする。大江山教授やサイボーグ研の選抜メンバーは、永田や関とともにID社のバスで本番前日夕に大阪にやってくる手はずだ。
 私(奈良)たちと落ち合うつもりだったのだが、私たちは小鹿氏の家に招かれている。この有名喜劇俳優のコントと歌が加わるとの連絡を受けて、志摩たちは作戦会議をする。クラシック作曲家、猫山園太氏の懐刀、若手音楽プロデューサの加藤元理氏も合流した。)

清水。急な展開。何が何だか分からない。

加藤。喜劇俳優の高橋小鹿さんが加わっただけだよ。

清水。あなたが一番大変じゃない。港清門って、シナリオライター、知っているの?。

加藤。知らないけど、シナリオライターなる人物と打ち合わせたことは何度もある。

志摩。高橋子鹿は、ここでは有名。ゆめゆめおろそかにはできない。

 (志摩はお笑いのファンで、業界に詳しいのだ。)

加藤。承知した。

志摩。港清門は劇団の専属ライター。この人の書いたものだけをやっているわけじゃないけど、9割方は書いてる。劇団率いる小鹿さんの信頼が厚いんだ。

加藤。もちろんプロだよ。それも上級の。将来は近松門左衛門に例えられるかもしれない。

清水。そんなに大変な人なの?。

加藤。知っているのは、さっきもらったプロットだけ。とてもいい。いわゆる世話物だ。独特の浪花節の人情のパンチが効いている。そう、この業界は人気がすべて。歴史に残る前に、大衆に受けないとどうしようも無い。

清水。そりゃそうか。厳しいわね。

加藤。厳しいよ。ぼくだって…。

芦屋。「ぼく」はいいから、おれたちは何をすればいいんだ。

加藤。進行はこちらに任せてくれればいい。芦屋さんはだな…。

清水。それは、明日決まってから詳しく言って。

加藤。ええと、何の話だったか。

アン。港さんのお話がとってもいいって事。

加藤。そう。こんな浪花節、関東じゃ絶対に受けない。ここ、大阪だから拍手喝采。

清水。ご当地ものなの?。

加藤。関東の人が理解できないだけだ。ぼくも。

クロ(会話装置)。「ぼく」はいいから、どんな話なんだ。

加藤。時は享保、1720年代。将軍吉宗の時代。所はもちろん、ここ大坂。船場の成金問屋の一人息子が酔って悲惨な事故を起こす。

清水。もう、どうしようもない情けない男。

加藤。よく分かる。その通り。事件に巻き込まれた側は大変な悲しみと怒り。でも、その息子は自覚が無いどころか、自分の降って湧いた災難に戸惑うだけ。

清水。そこで、大岡裁き。

加藤。それは江戸だよ。でも、そのとおり。江戸ではお上だけど、大坂では民衆が裁く。

志摩。ええと、大坂は幕府の直轄領。そんな勝手なことは…。

加藤。ちっちっち、それは大江戸の発想だよ。こちらでは、そうはならない。

清水。ええと、ねずみ小僧のようなのが出てくるとか。

加藤。それが子鹿先生の役。かっこいい。

清水。犯罪は犯罪よ。

加藤。当然。裁きが待っている。それが一層、大衆にアピールするんだ。

清水。反社会的劇。

加藤。あのね、単に音楽のネタだよ。売春宿の話と、どっちがいい?。

清水。どっちもだめ。

加藤。あなた、バイオリンが弾けるのと、弾けないのとどっちがいい。

清水。言うわね、あんた。

加藤。要は、港先生の話なんか、どうでもいいんだ。音楽さえ楽しめれば。

清水。言い切ったわね。

加藤。向こうもこっちの音楽なんか気に留めてない。何なら、確認すればいい。

芦屋。芸術はどうにも分からん。いいぜ、とことん付き合ってやる。

加藤。頼む。お願いだ。やってくれ。

清水。心配しないで。必ず成功させる。

クロ。まとまったようだな。

水本。どうなることかと思った。

火本。何となく分かる。

清水。あなたたちも音楽してるから。

火本。不思議な感覚。理性では理解できない。

水本。うん。何となく不本意。

清水。でも、確かにそれ言ってたら、クラシックなんかできない。

志摩。そんな危ないのがあるのか。

加藤。お上の逆鱗に触れて、上演禁止になった音楽は数知れず。政治的、宗教的、退廃的、なんでもござれ。

志摩。どぎついギャグといっしょだ。

加藤。その理解で良い。

清水。よくないと思うけど、まあ、いいか。

土本。ふわわー、もう寝ようよ。

加藤。それでは。

 (さっさと出ていった。)

土本。変なやつ。

水本。でしょう?。芸術家ってあんなのかな。

清水。あれは作者がデフォルメしているのよ。

土本。そうとも言い切れない。学者にだって変なのいる。

火本。あれとか、それとか、あんなのとか。

海原。禁句じゃ。

水本。バカかそうでないかはすぐに分かる。こっちも眠ろう。

火本。うん。

 (部屋に別れて休む。海原博士にはジロを付ける。残りのA31は亜有といっしょだ。私たちとは翌朝会うことになる。)