ID物語

書きなぐりSF小説

第30話。春の嵐。9. 仕掛け

2010-08-31 | Weblog
 (こちらにもすぐに要請が来た。クロとイチとレイを飛ばす。クロはロボットネコ専用オートジャイロだ。私(奈良)はオフィスで調査結果を受ける。志摩と鈴鹿をモグで現場に向かわせる。六郎と五郎も同乗。モグは水中モードで現場に向かう。)

奈良。クロ、何か分かったか。

クロ(通信機)。ごく微量の放射性ヨウ素検出。確かに放射性物質だ。

レイ。潜ります。

奈良。無理するな。

イチ。任せてください。

 (大した威力。たちまち放射性物質の分布図ができあがる。)

芦屋。核爆発ではないな。

清水。当たり前です。規模が小さすぎる。

芦屋。直接の被害もゼロ。不自然だ。

清水。どこかの集団の威嚇に違いない。

芦屋。断定しちゃいかんよ。

清水。仮説です。あんた、何か代案でも。

芦屋。無い。

水本。漫才、終われ。何が起こったの?。

清水。いわゆる汚い爆弾。放射能をばらまいただけ。

水本。悪質。

芦屋。環境に影響のない微量。攻撃の意図は無いみたいだ。試験かな。

清水。そうでしょう。でも、次の爆弾は脅しとは限らない。

火本。放射能の分布は分かったけど、これからどうするの?。

清水。痕跡探し。4時間も経っているから、絶望的。

 (でも、発見した。潜水艇がいて、特有の放射線検出。)

芦屋。普通逃げるだろうが。何やってんだ?。

清水。海上保安庁に知らせて終わり。

火本。本当に犯人なの?。

清水。状況証拠がはっきりしているときに、別の可能性を探るのは野暮。

芦屋。怪しい。

志摩。怪しいよ。発見してくださいと言わんばかり。拡大捜査しよう。

清水。潜水艇の特徴はと。母船が必要。確かに。

志摩。シリーズE、シリーズH、発射。イチとレイは、いったん空中に出て。水中には六郎を投入する。

 (上空の政府チャーターのヘリで。)

関。うわわわー、今度は水中発射ミサイル。

清水(通信機)。すみません、シリーズEです。モグから発射した。

永田。肝が冷えた。まだ捜査するのか。

清水。虎之介さんと志摩さんが怪しいとにらんでいる。たしかに、よく分かりすぎ。

 (シリーズEは東京湾の海岸を調査するために4基とも発射した。四方に向けて。ところが、南に向かったシリーズEめがけて、機関砲発射。)

関。弾幕だ。どの船からよ。

鈴鹿。背の低い貨物船に擬装している。

関。機関砲の機種は分かるかな。

鈴鹿。ええ。分析した。

 (シリーズEはレーダーにははっきり映るが小さい。弾は当たらず、そのまま通過して、さらに南へ。永田らの乗ったヘリコプターは、上空から近づく。射程外から観察する。)

イチ。ヘリが貨物船からレーダー照射されている。こっちの動きを探っているんだ。

芦屋。もう一つ仕掛けが欲しいな。

志摩。潜水艦か、航空機か。

 (航空機だった。2機のステルス機。)

鈴鹿。ステルス機が2機、南方にいる。こっちに来る。ヘリを狙うのかな。志摩、シリーズEで脅してやりなさい。

志摩。オーケー。

関(通信機)。オーケーじゃないっ。あんたたち、どうやって検出したのよ。

鈴鹿。ええと。

火本。後方散乱だ。ターゲットを囲んだら、いくらステルス機でも検出可能。しかし、原理はともかく、そんな技術、あったのか。

関。どの軍も持ってないわよ。そんな…、実用だったの?。

鈴鹿。我が社のカタログ、あとで送る。

関。インターネットで調べるわよ。

水本。これじゃ、各国政府からマークされるわけだ。ID社の計測機。隠せるものは何もない。

 (シリーズEを至近距離まで差し向ける。かなりショックだったらしい。それまで悠々と飛んでいたのに、急に向きを変えて北方に逃げだす。)

鈴鹿。イチ、レイ、クロ、追いかけて。

レイ。了解。

芦屋。普通に通信している。もう、ステルスなんかどうでもよくなったようだ。

志摩。地上の通信波の発射場所特定。急行する。

伊勢。こっちも出動。虎之介、アン、ジロ、行くよ。

関。誘導してください。

清水。了解。コースは…。

 (伊勢は旧車両で出発。
 ステルス機は地方の廃棄された空港に着陸し、大慌てで格納庫に隠された。クロが上空から観察。2機のパイロットと地上要員は何かを待っている。
 しばらくして、黒いクルマが現れた。パイロットが手を振っている。しかし、近づいたクルマは、自動小銃を乱射。そのまま逃げる。弾はパイロットたちには当たらず、全員着の身着のまま逃げる。)

芦屋。おまえたちは、もう用無しってことだな。連絡したら、殺す。

鈴鹿。イチ。そのクルマを追いかけて。

イチ。がってん。

 (クルマはある屋敷に入り、車庫に格納された。3機がはるか上空から観察。)

関。その空港に集合しよう。

鈴鹿。了解。

 (潜水艇と擬装貨物船は、海上保安庁と軍が対応。永田は軍に、空港を差し押さえるように要請した。
 ところが、永田と関がヘリで到着した途端に、こちらには退去命令。きわめて強い調子だ。)

伊勢。何よ、もうこっちはいらないって?。

志摩(通信機)。そうらしい。

水本。理由は明らかよ。軍事機密のかたまりが、私企業にやすやすと破られた。これ以上解析されるのを防ぐため。

火本。下手すると国際問題。軍事バランスも微妙だ。

清水。公開された性能の装置しか使ってない。

水本。うまく組み合わせるとどうなるか、まざまざと見せつけた。潜水艇、擬装貨物船、ステルス機。すべて一瞬にして行動が明らかになった。もしも、これが実戦なら、おおごと。

芦屋。実戦の一部かもよ。

清水。あるいは味方の研究とか。

伊勢。すべて、お芝居だって?。うーん、そうなのか。

奈良(通信機)。こちらの上からも退去命令だ。やりすぎたようだ。

伊勢。しかたない。全員、引き返せ。

 (構えていたが、その日は何も起こらなかった。永田からは連絡があって、明日事情聴取に来ると。かなりの大事だったらしい。)

第30話。春の嵐。8. 水中爆発

2010-08-30 | Weblog
 (第二機動隊本部はすっかり若者の駐在所になっている。)

鈴鹿。火本くんの家って、お寺なんだって?。

火本。そう。父さんが住職。兄さんが跡を継ぐ。姉さんとぼくは自由。

芦屋。次男なのに名前が一極(かずきわ)なのか。

火本。兄が千載。

清水。数の単位か。塵劫記。「いっきょく」じゃなく「いちごく」。

鈴鹿。ちょっと響きが仏教っぽい。

清水。素敵。私の名前なんか、意味がない。

鈴鹿。私もよ。音の響きで決めたみたい。

火本。亜有は意味深だよ。虚数を想像させる。英語ではimaginary numberだから、虚でも何でもない。確かにあるんだけど、普通では届かない数。高嶺の花。

清水。あなた、お上手。

芦屋。鈴鹿は破壊神なのに恵み。

鈴鹿。なによ、それ。

火本。たとえば、ナイル川の氾濫はすべてを破壊する。でも、土地は肥沃になって、よい作物が取れる。破壊は恵みをもたらす。破壊がなければ、再生もない。仏教でも、そうだよ。

鈴鹿。シバ神。

火本。うん。そんな感じ。

鈴鹿。こいつ、もてそう。

水本。なのに、実際にはさっぱりなのよね。

レイ。奥手すぎるのよ。

鈴鹿。でも、積極的だとなんかやらしそう。

水本。口先巧みに女をたぶらかす。

火本。さんざんな言われ様だ。

鈴鹿。志摩は?。

志摩。ここにいる。

水本。本物語の一番のもて役。

芦屋。おれを差し置いて。

水本。あなたには関さんがいるじゃない。あんないい女、大切にしなさい。

鈴鹿。最近でないわね。

水本。話のペースが速すぎるのよ。出てくる頻度は落ちていないはず。

鈴鹿。それだけか。

水本。それだけ。あら、何か忘れているような。

 (財務省地下の専門情報調査課。)

永田。はっくしょん。花粉症か。

関。うわさよ。それにしても、あなたとコンビ組んでから、何年経つのかしら。ちっとも状況が変わらない。

永田。3年も経ってないぞ。そろそろ配置転換か。

関。物語のペースが速いせいか、出番が少ない。全国のファンに申し訳ないわ。

永田。おれたちの上司は交代したな。

関。紹介するまでもないから、出てこなかったけど。

永田。サイボーグ研にトカマク基地か。だんだんエスカレートしている。

関。お笑いの方向に。

永田。物語としては、大江山教授のイチたちの操縦に失敗したから、火本たちが出てきた。

関。失敗じゃない、時間がなかっただけ。私たちに任せてくれたらいいのに。

永田。財務省がロリショタ自動人形か。

上司。話があるんだが。

関。いま、忙しいんです。

永田。指令とか。

上司。そうだ。

関。こほん、遠慮しないで命令しなさいっ。あなた、不良校の先生ですか!。

上司。おまえら軍人か。

関。わざわざ断らなくても分かるはず。何ですか、背広組ならしゃきっとしなさい。

上司。実はだな。

関。あー、イライラする。用件から入ってください。いつどこで何が。

上司。今朝、6時。東京湾入り口で、水中爆発、巡視船が駆けつけると、放射性物質検出。

関。大事です。内閣は何してるの。今10時よ。

永田。関、文句は後だ。現場に直行するぞ。情報収集部に出動を要請しよう。

関。あー、まったくなっさけない。この物語、政府をバカにしてるわ。

永田。バカにしてない。分かる読者なら分かるはず。

関。出動!、ヘリ要請。

永田。関、行くぞ。

関。行ってやるー。

第30話。春の嵐。7. 推進委員会、初回会合

2010-08-29 | Weblog
 (なんだかばたばたと決まったので、サイボーグ研の推進委員会招集。みんな忙しいから、金曜の夜。東京駅に近い会議室。すぐに帰る人を見越して、場所を決めた。博士と教授はもちろんだが、虎之介と鈴鹿と火本とレイが同行する。星野さんもいっしょ。)

芦屋。なんでおれが指名されたんだ。

鈴鹿。私と同じ。ボディーガードよ。

芦屋。何かあったら、あちょー、とか言って闘うのか。

レイ。そうよ。火本さんは発表。

火本。緊張する。お偉方ばかり。

鈴鹿。計画推進本部代表。

火本。いきなり。

鈴鹿。当てにされているのよ。いい事じゃない。

火本。もちろんそうだ。張り切らなきゃ。

鈴鹿。そうして。

 (定時になった。推進委員会の開始。夕食の弁当を摂りながらだ。大江山教授がサイボーグ研スタート成功の感謝の意を表する。海原教授が予算と組織の概要説明。火本が現在の業務内容の説明。)

委員1。うまく行っているようだな。

火本。おかげさまで。研究員が優秀です。

委員1。大江山教授、ご苦労だった。

大江山。懸案はありますが、何とか来年度につなぐことはできそうです。

委員2。ずいぶん露出しているようだ。大丈夫か。

委員1。そうだったか?。何も聞かんぞ。

委員2。学会、政治周りでしょう?。そちらは反応が鈍い。オタク周りのこと。

委員1。そっちか。

委員3。私の家でも子供が騒いでいる。エクササイザーを見たいとか。まだできていないんだろう?。いつできる予定だ。

火本。トカマク基地が使えるようになるのが夏。どうやったって、組み立てはそれ以降。年度末に完成させる予定。それより何より、スポンサーに逃げられたらおしまい。

委員1。トカマク基地ってなんだ。

大江山。来年度から使う研究所の施設の候補です。東京湾東岸にある。副都心の少し南。

委員1。いい立地だな。高いんだろう。

委員2。訳ありです。

委員1。説明してくれ。

 (火本が説明する。)

委員1。国立サイボーグ研究所が地下秘密基地。SFアニメそのまま。出来すぎ。

委員3。その原子炉って危険じゃないのか。

火本。ごく安全なタイプ。動作が不安定になり出したら、何もしなくても自然に止まってしまう。

委員3。実用なのか。

火本。電気を買わなくて済む。使わないと、排熱するだけで、かえって無駄。

委員1。自治体と近隣は。

火本。今のところ、反対運動はない。今、停止して解体すると、かえって危険。

委員1。そりゃ分かるが、人々の感情ってものがあるだろう。

大江山。電力公園を作ります。風車と太陽光パネルを設置する。原子力発電と言っても、電力会社のものとは桁違いに小規模。同様のものだと説明する。

委員1。それで説得できたらいいのだが。

委員2。やるしかないだろう。他の物件は高価か、あるいは遠方か。

大江山。参加企業が多いので、都心にほどよく近いトカマク基地の立地は理想的。できれば今のまま承認をいただきたい。

委員1。代替案を考えてみるが、出なければ、それで行こう。

大江山。ありがとうございます。

委員2。オタク周りの説明をしてくれ。

 (火本が概要を説明する。)

委員2。子供番組か。エクササイザーが登場するのは。

火本。はい、そうです。

委員2。イチとレイは、サイボーグ研には直接は関係ないだろう。

大江山。ええ。いつもいますけど。

委員3。ID社が協賛。その共同研究項目に関連している。

委員2。調査対象か。まあ、いいだろう。

 (鈴鹿の提案したエンブレムを紹介し、承認されて委員会終了。雑談に入る。何人かはすぐに帰った。)

鈴鹿。こうやって研究所の方針が決まって行くのか。

芦屋。そのようだな。

火本。大江山教授、さすが、運営がうまい。何とかしてしまった。

鈴鹿。反対意見が出だしたら、紛糾しそう。

火本。厳しいよ。なにせ、国家計画。研究成果が出たら出たで、国際発表が必要。そちらの目もある。

芦屋。怪しまれないために。

火本。それはある。秘密基地でサイボーグ研究、たしかに出来すぎ。

鈴鹿。日本政府は何を画策しているのか、って?。

芦屋。その通りだ。

火本。名前は物々しいけど、秘密にするような技術など無い。

レイ。こちらがそう思っていても、先方は別よ。

芦屋。ああ。誤解は避けたい。アニメも絡んで、ややこしくなる予感がする。

火本。あんな兵器を開発する部隊とか。

芦屋。そう。誰もが冗談と思うだろう。しかし、スパイ部門から見ると、ひょっとしたらカモフラージュかと。

火本。思いっ切り目立てば、かえってやっていることが目立たない。

鈴鹿。そう。たしかに、警戒する。何の確証も無しに、まさか、と言う人がいれば、しっかり怪しい。

火本。言動には注意するよ。

芦屋。こちらもだ。

第30話。春の嵐。6. ケイコ型の模索

2010-08-28 | Weblog
 (サイボーグ研にて。モグ型と三郎型は早くも具体的作業に入っている。
 コクウ型の構想は最初からあったから、骨格とか、部品の選定とか、次々に課題をこなして行けばよい状態。試作品を作らないことには、何が問題かが分からないので、とにかく、入浴介助用の装置を作ってみることになった。
 意外に難しいのがケイコ型のコンセプト作り。簡単な協議では目標が拡散してしまって、定まらない。大江山教授が考え込んでしまうような、くだらないアイデアなら湯水のように出るのだけど。)

火本。単にロボットというのが汎用過ぎる。

水本。救護ロボットのアンたちも、やたらに高度。何でもさせようとしたからよ。

火本。ある程度の水準に達しないと、その先に進めないのかな。

 (火本はレイをじっと見る。レイが反応してしまった。)

レイ。何よ、さっきから私をじっと見て。なんでしょうか、用件をうかがいます。

火本。ケイコ型、つまり自律動作型ロボットのコンセプトのアイデアが降臨しない。

レイ。で、私を見つめていたら、そのアイデアとかがやってくる。

火本。そうだったら、ありがたいよな。

レイ。うふふ、一緒に散歩してみる?。

火本。何か企んでいるのか。

レイ。さあて、それも楽しみじゃない?。

水本。行ってきたら?。どうせ暇なんでしょう?。

火本。行こうか。

レイ。うん。

 (素直だ。かえって怪しい。でも、めぼしいアイデアがあるわけでなく、火本はレイに連れられて、都心部をとぼとぼと歩く。小さな公園に入った。ブランコに腰掛ける。)

火本。レイはブランコに立って漕げる?。

レイ。バカにしてるわね。こうかな。

 (器用に膝を曲げたりして漕ぐ。当然、どこかでプログラムされていたわけだ。)

火本。驚異のロボット。いったい、いくつ技を仕込まれたんだ。

レイ。知っているくせに。

火本。大項目だけで10万件に近い。細分類になると、その100倍に達するかも。この規模にするためには、プログラムだけで数千人の手を経ていると考えられる。

レイ。すばらしいわ。頼りがいのあるご主人に巡り会えて、レイ、幸せ。

火本。軍事コードは入念に調整されているけど、他は品質がバラバラ。伊勢さんや亜有さんが必死で調整したものも多い。感謝するなら、彼女らにだな。

レイ。うん、分かっている。

 (日用品を売っている店に入る。火本は何か仕掛けのある品物が好きだ。圧力釜なんかを見ている。)

レイ。お料理作るの?。

火本。いくつかは。でも、いまこの鍋を見ているのは、仕掛けに興味があるから。圧力を調整する部分と、緊急用の圧逃し弁と、ふたを開ける前に圧力を下げるためのコック。

レイ。私も圧力釜。

火本。とても高度な。…、料理をするロボットなど、大変だ。人間でもプロがいるほどだ。

レイ。料理を手伝う機械だったら、ここにいっぱいある。

火本。そう。うまく反応する。適当に答えているにしては、できすぎ。

レイ。入浴介助サイボーグ作っているんだから、風呂用品のコーナーに行こうよ。

火本。行ってみよう。

 (別の階に行く。)

火本。介助用の道具もある。少し動けるようだったら、何もサイボーグに頼ることは無い。

レイ。役立たないの?。

火本。業者に納入かな。一家に一台なんて、ちょっと無理っぽい。目的を絞らず、人間の動作を解析した方がいいのかも。

 (歩き疲れたので、階上の喫茶コーナーでジュースを飲んだりする。レイも付き合う。)

レイ。うふふ。恋人同士みたい。

火本。水本とイチのコンビでも、こんな展開になるのかな。

レイ。気になるの?。

火本。水本に恋人ができたら、か。バイオリン奏者同士とか。

レイ。水本さん、うらやましい。火本さんに気にされている。

火本。仲間だからな。適当に。

レイ。私はどうかな。

火本。よくできている。かわいくって、ちょっぴり女っぽい。よくこんな雰囲気を出せたものだ。見れば見るほど、巧妙にできている。

レイ。デザインの話か。

火本。そう。筋肉も適度にあって、救護ロボットとして活躍できる。こんなロボットが作れたらなあ。

レイ。今がチャンスよ。

火本。まあね。すてきなお手伝いさんロボットか。散歩に付き合ってくれるだけでいいのかも。今みたいに。

レイ。歩いたり、座ったり。

火本。息をして、瞬きして、ちょっとかわいい仕草をしたりして。やりすぎ。

レイ。何か降臨した?。

火本。全然。これじゃだめだ。戻ろう。水本もいるし。

レイ。はいはい。結局、最後は水本さんか。

第30話。春の嵐。5. 取材2

2010-08-27 | Weblog
 (やれやれと思って、サイボーグ研に戻ったら、今度はアニメ雑誌の取材だと。いつまでも続くわけがないと思って、こちらも丁寧に対応する。業界では、A31もそこそこ知られているので、サイボーグ研に全機を集める。)

報道11。ロブはA国に戻ったのか。惜しかった。

伊勢。とてもいい自動人形だった。

水本。名残惜しかった。

報道12。絵になったのに。

報道11。でも、クロとアンに会えたのは収穫。写真で見るより、ずっと高級感が出ている。

アン。ほめられたのかな。

報道11。もちろん。って、これが反応。

アン。はい。そうです。状況を分析して、反応する。組み込みプログラム多数。

報道11。自分で言ってる。声もいい。甘えたな感じ。

レイ。だまされちゃだめよ。いいように操縦される。

報道11。そんな技ができるのか。って、これも反応。会話になっている。

伊勢。こちらが合せるからですよ。どうします?。何かさせましょうか。

報道11。イチとレイが飛ぶところを見たかったけど、A31もいる。

伊勢。資料を見せますから、考えてください。タロ、ジロ、お茶とお菓子を用意して。

 (手をつないで出ていった。)

報道12。仲良し。

伊勢。ええ、とっても。互いに腰に手を回したり。

報道12。うわあ。その気があるとか。

水本。ありません。ふつうですよ、世界的には。日本がべたべたしないだけ。

報道12。スポ根もので喜んだり悲しんだりして抱き合うシーンがあるけど、あんな感じか。

 (画像を見せる。贅沢に自動人形を使ったものだと、我ながら感心する。その感想は先方も同じだったようで、喰い入るように見つめている。)

報道11。よく動かす。一機20億円だから、ここにいるだけで200億円近い。

水本。今の値段はそうです。量産したら、同じものがずっと安くできる。

伊勢。軍時代には壊れるのを覚悟で、いろんな訓練をさせたようです。今は、それほど激しい動作はさせない。

報道11。でも、見たら迫力ありそうだ。

報道12。全機、飛ばしてもらえます?。

 (ぞろぞろと屋上に行く。今度はA31も五郎も飛ばす。ふわふわと飛ぶようなものではない。想像するより、ずっと速い。)

報道12。うわわわー、恐いほどだ。さすが軍用。

伊勢。軍時代には飛べなかったわ。

報道12。そうなんですか。

伊勢。飛行したり、泳いだりできるのは、ID社が改良したから。それまでは比重3程度。アンなら200kg近い。

報道11。アンがずっこけて、その下敷きになったら、重傷だ。

伊勢。その手の事故はあったでしょう。ねえ、奈良さん。

奈良。理解できる。

 (サイボーグ研に戻る。さっきと違って、今度のクルーは研究所内を熱心に見ている。模型の巨大ロボもトースター号も写真に撮っている。)

報道11。楽しみだな。アニメと関係ないのが、残念。

イチ。エクササイザーはアニメになっているよ。

報道12。知らない。って、大変。どこのアニメだ。アニメ雑誌社とあろうものが、情報が入らないなんて。

 (亜有が説明する。トカマク基地に巨大ロボ。絶好のネタを提供してしまったようだ。)

報道11。そのトカマク第二基地、見られないかな。

報道12。ラットルズか。お子様向けにはこけたやつ。

報道11。大流行にならなかっただけで、儲かっているはず。それに、コアなファンがいる。その一人が作ってしまったのか。

火本。そうらしい。

報道11。あとで、その社長に突撃取材だ。

 (海原博士に尋ねたら、いいけど、忙しいからそちらで勝手にやってくれとのこと。)

レイ。こちらが暇なこと、ばれてる。

イチ。またラットルズの格好するの?。

芦屋。言っちゃだめ。

報道12。何かあったの?。

 (あとでばれると心証が悪いので、権利関係を言ってから、説明する。)

報道12。じゃあ、インターネットに流れている、あの画像は冗談じゃなかったんだ。

報道11。待って、今、プロダクションに許可をもらう。…、OKだって。それじゃあ、お願いします。

清水。コスプレを。

報道11。やってくれないかな。とても絵になる。

清水。どうかな、伊勢さん、やってくださるかな。

 (案の定、ムカッとしたらしく、条件をつけてきた。サイボーグ研に協賛しろと。)

報道11。総務に連絡します。…、OK。おもしろおかしく書かれると思ったのかな。そんな心配ないのに。

レイ。なんでよ。

報道12。伊勢陽子ファンや鈴鹿恵ファンとアニメファンは微妙に重なる。敵に回したら、大変。

清水。行きましょう。

 (モグと旧車両で出発。)

清水。お時間は大丈夫なんですか?。

報道11。こんな大きい山、外したらクビ。くわばらくわばら。

 (あっと言う間に着いた。広い土地に驚いている。ついでなので、前回と同じく、ヘリポートから入る。)

報道11。すばらしい。本物そっくり、って、元のもお話だけど。

報道12。何というか、日本でもこれだけの趣味を持てる人がいる。

伊勢。違法行為よ。

報道12。そんなのはるかに超越してますよ。裁判官も、きっとあきれていたはず。

伊勢。でしょう。

 (基地内をじっくり見る。さすがプロだけあって、しっかりチェック。誰に記事を執筆させようか、なんて相談している。ラットルズ・フリークなら彼しかない、ということで、さっそく呼ぶ。すっ飛んで来るという。さすがだ。)

報道11。一人、知り合いのマニアを呼びました。すぐ来ると思います。

 (ものの15分だった。大型バイクに乗っているのだが、法定速度で来れるわけがない。だれも、どうやって来たか尋ねない。)

マニア。すごいすごいすごーい、すごすぎる。

伊勢。まだヘリポートに立っただけ。これから降ろします。

 (感動して、ただただぼうぜんとしている。気に入ったらしい。建てた社長に見せたいくらいだ。そして、念入りに基地内をチェック。写真を撮り、ノートを取り、巻き尺で各部の長さを測り、あげくの果てには虫眼鏡を出して、細部をチェック。)

マニア。ふむ、細部は違うな。

伊勢。当たり前です。

マニア。で、これを本物に近づけろと。

伊勢。誰もそんなこと…。

水本。近づけてくださったら、うれしい。

マニア。任せてください。今、誰がメンテしているんですか?。

水本。責任者は国立サイボーグ研究所。実管理しているのは、ID社。

報道11。我が社が協賛を申し出た。協力して欲しい。伊勢さん、まだ手を入れるのでしょう?。

伊勢。そのままだと使っているうちに壊れる個所が多数ある。大幅な改良が必要。その折に、こまかな寸法や表面の加工などは注文できるはず。

マニア。ああ、何てチャンスなんだ。一生恩にきますよ。これで、アルファとか出てきたら死んでもいい。

伊勢。言ったわね。

マニア。いるんですか?。

伊勢。目の前に。着替えてくる。

 (さっさと着替えてくる。オリジナルとはちょっと違うけど、ID社の筋金入りオタクの作った作品だ。当然、決まっている。)

マニア。だれか殺してくれー。

伊勢。何て無駄なことを。

マニア。本当か、夢か。夢なら醒めるな。すばらしすぎる。アルファなんか、できすぎ。本物は、こんなに美人だったのか。

伊勢。おほほ、お上手。

マニア。オリジナルとは違うが、実写するなら、こちらの方が断然いい。

報道11。オフレコだが、計画があるらしい。実写のラットルズ未来板。ただし、伊勢さんではなく、本物の俳優を使う。

マニア。何てもったいないことを。こちらがいい、断然いい。反対運動、勃発。

伊勢。言いすぎよ。我慢しなさい。プロダクションが、すばらしいストーリを作ってくれるはず。

マニア。ストーリを送りつけてみる。ラットルズ未来板。トカマク第二基地が主力に昇格した世界だ。

伊勢。大丈夫なんですか。

マニア。送りつけるだけですよ。採用されるかどうかはどうでもいい。基地改良の気合いを入れるだけ。

 (サービスで、ちょっと演技する。さすがマニア氏、注文を付ける。改良になっているのかは別として、マニア受けするようだ。雑誌社の人がさかんに拍手する。)

マニア。こりゃ力が入る。ふむ、他も見てきます。

 (案内に亜有と火本とレイをつける。衣裳のまま。行ってしまった。)

水本。大丈夫なんですか?、あの人。

報道11。ごくまともな人ですよ。見て分かるとおり、自分で作品も書く。セミプロと言っていい。だから、他人の作品も大切にする。

水本。仕事はすっ飛ばしてきた。

報道11。当然。上司に断って、臨時の休暇を取ったんでしょう。

水本。クビ覚悟で。

報道11。そうなるな。

報道12。そうでしょう。趣味に打ち込めるのなら、幸せ。

水本。私が奥さんなら、許さん。

報道11。彼はこの世界でも食って行ける。どちらをメインにするかの違い。

水本。プロの目から見てそうなら、いいのか。

伊勢。どうしようかな。全部お見せしたし、おなかもすいてきた。

報道11。ここでお昼にできませんか。

伊勢。そうするか。鈴鹿、志摩、また買い出し、お願い。

志摩。行ってきます。

 (食堂ではなく、司令室で昼食。雰囲気をぶち壊さないよう、元の服に戻る。)

マニア。このスクリーンは高精彩テレビか。

伊勢。そうです。上物ですけど、おそらく当社のものに入れ替える。

マニア。ID社のモニタか。いいな。家電とは違う。

伊勢。原理は同じなんですけどね。精度の違いかな。

マニア。そうでしょう。家電とするには、妥協が必要。それも技術。ID社のとは目的が違う。

水本。いいかしら。

伊勢。どうぞ。

水本。ここは来年度からサイボーグ研の研究所になる。少なくとも、4年間。

マニア。活用されるのか。うれしいことだ。

水本。でも、基地として利用するわけではないから、ホテルのような態勢を取る必要がある。

マニア。そりゃそうだ。生活するのが快適なように。

水本。妥協可能ですか?。

マニア。しかたがないな。話し合いだ。そもそも、トカマク第二基地はおとぎ話、リアルではない。いまの段階では、ホテルにした方がむしろリアル。

水本。よかった。話の分かる人で。

マニア。妙なオタクに突っ込まれないようにするだけ。それでも、大変。渾身の努力がいる。

水本。そういうことか。

マニア。あなたが責任者?。

水本。サイボーグ研の活動を統括する計画推進室の一員です。伊勢さんも。

マニア。じゃあ、ここに移り住むことになるんだ。

水本。すくなくとも、職場にはなる。

第30話。春の嵐。4. 取材

2010-08-26 | Weblog
 (週明け、月曜の朝。伊勢がスクリーンに例の子供番組を映している。)

奈良。おはよう。

伊勢。おはようございます。

奈良。熱心だな。

伊勢。まあね。亜有さんがいるから任せていたけど、私にも操縦できるかなと思って。

奈良。どれどれ。楽しそうに体操している。その気にさせるのは難しいかも。あの後、どうなっているのかな。子供たちと遊んでいるとか。

伊勢。ええ。そうらしい。もちろん、歌のお兄さんとかが取り囲まれるのだけど、レイも人気らしい。だって、かわいい人形だもの。

奈良。どんな振るまいか、見たい。

レイ。こーんな感じ。ちょっとぎこちなく動作するのがコツよ。

奈良。おわーっ、音もなく近づいて。

レイ。油断も隙もない。私たちのうわさして。何がその気にさせる、よ。

奈良。複雑な反応だな。

イチ。衣裳が毎週変わるらしい。今はテスト的に、撮影ごとに変えている。

奈良。さっきの放映ではスポーツ着だった。さすが亜有だ。ツボを押さえている。

伊勢。私からの提案だけど。

奈良。伊勢、よくやった。

伊勢。そうか、ヒットしたか。

星野。ヒットですよ。取材の申し込みが来ている。

奈良。星野さん、おはようございます。

星野。おはようございます。こちらには来なかったから安心していたけど、局にはファンレターやら問い合わせがいっぱい来ているそうです。だから、番組を紹介する週刊誌が関心を持った。受けますか?。

奈良。こちらは構わない。場所はサイボーグ研がいいかな。

伊勢。研究員がたくさんいるわよ。

星野。どっちがいいかな。所長と相談して上司に伺います。

奈良。そうしてくれ。

 (海原博士はOK。上からも許諾。サイボーグ研で面会することになった。週刊誌だ、素早い。その日の10時。)

報道1。それじゃあ、イチとレイは1機20億円もする機械。

奈良。そうです。技術の粋を集めて作られた機体。

伊勢。量産効果で、4年後には1/10の値段になるはず。

報道1。それでも、2億円。簡単な仕掛けじゃなかったんだ。

奈良。状況を判断して、行動を選択する。膨大な行動がプログラムされている。慎重に調整されている。たとえば、イチ、お茶をお持ちして。

イチ。はい。

報道1。お茶くみ人形。わざとらしいが、ちゃんと動く。

レイ。別の動きもできます。

報道1。資料か何かありますか。

伊勢。ええ、たくさん。こちらのモニタで。

 (でも、研究員もわらわらと集まってきたので、スクリーンに資料を映す。これまでの録画だ。ケイコやキキもでてくる。)

報道1。空を飛んだり、楽器を演奏したり。

奈良。人間のすることは、ことごとく試されたみたいです。

報道1。自動車が運転できる。

奈良。馬にも乗れる。

報道1。まさか泳いだりとか。

奈良。水深600mまで潜れる。

報道1。掃除ができるとか。

奈良。料理もできる。山菜を採ってきて、山菜カレーとか。

報道1。なぜ普及しないんだ。

伊勢。20億円。買います?。

報道1。考えてみます。なるほど。普通じゃ買えないか。

海原。その値段で何機か売れたが、納入先は外国の政府などだ。ここではずっと安く作り上げる方法を研究しておる。

報道1。だから、サイボーグ研にいるのか。…、あちらに面白い人形がある。

 (アンの1/2公比の人形だ。他の自動人形もいる。見に行く。)

報道1。こんな小さなロボットも作るんですか?。吹けば飛ぶような大きさだ。

海原。目標じゃな。さらに小さい模型も作成中。

報道1。研究所だから、目標は高く掲げるか。なるほど。あれ、こっちはアニメに出てくる巨大ロボだ。

海原。エクササイザー99。作成中だ。

報道1。身長18mの巨大ロボを。

海原。18mが実物大じゃ。体操もする。

報道1。国立サイボーグ研が巨大ロボットを作る。何のために。

海原。ディスプレイじゃ。象徴。どうじゃ、かっこいいだろ。それだけ。

報道1。国民の税金を使って。

海原。技術はな。製作にはスポンサーがいたの。

火本。ええ。まだ開発中ですから、公開はしていません。

報道1。空想じゃなくて、実物の模写だったんだ。これはスクープ。いいぞ。…、ところで、イチたちをスタジオで操縦なさっているのは?。

清水。私です。

報道1。いつも付いて来ている。

清水。連れていっている感覚ですけど。

報道1。失礼。今も操縦しているんですか?。

奈良。もちろん。私が。

報道1。操縦しているようには見えない。

 (やっと自動人形の説明に移る。六郎の各モードとか、空中サーフィンとか。)

報道1。ふう、盛りだくさん。申し訳ないけど、3ページほどの記事なので、要約します。

報道2。空中を飛んだり、車輪を出しているところが見られるかな。

 (屋上のヘリポートに行く。もちろん、研究員のギャラリー付き。イチとレイはローラースケートを履く。
 まず、ヘリポートをスケートリンクに見立てて、イチとレイと六郎が走る。六郎は車輪でだ。器用に格好付けたりする。
 次は空中サーフィン。ビルの上空を旋回する。時速300kmも試す。間近だから、すさまじい迫力。立ちポーズもしてから、着陸。六郎の蒸気ロケットを試して、終わり。)

報道1。高度なロボットであることが分かった。その紹介で行きます。みなさん、ありがとうございました。

第30話。春の嵐。3. アニメ開始

2010-08-25 | Weblog
 (土曜の午前1時。ロブとイチとレイのアニメ、初回開始。オフィスのスクリーンにテレビ画像を出す。自動人形に見せて、反応を見るためだ。人間組も全員いる。伊勢どころか、火本と水本まで。サイボーグ研で徹夜する気だ。さすがに、海原博士と大江山教授はいない。
 番組開始。試写会で見せてもらったアニメとは若干違う。我々の感想などで、調整したようだ。)

清水。改めて見ると、大変な内容。こんな巨大な組織、恐くて相手にできない。

芦屋。やり様なんだけどな。

清水。あなた、だんだん工作班の根性が植わってきたでしょう。

鈴鹿。大丈夫かなあ。こいつ、ストレートだから、元に戻らなかったりして。

芦屋。元の巣に帰れば、元に戻るさ。

鈴鹿。ロブが大活躍している。

清水。うん、あり得ない武器使って。

芦屋。娯楽作品になっている。あれ、水本、おとなしいな。

水本。現実と違いすぎる。不安がよぎる。

芦屋。誤解されるってことか。

水本。もちろん。幸いロブが主人公格で、そのロブはA国に戻ったからいいけど。

イチ。ぼくたちもあり得ない武器使っている。

水本。ロボットでも分かる。

火本。やたらに切れ味のいい剣と、銃みたいなのはLS砲だな。想像で性能を決めたみたいだ。

 (こちらはちょっとギクッとしている。IFFの装備とそっくりだからだ。形も性能も違うけど、ぱっと見たら、こんな感じ。案の定、虎之介が戦闘シーンで乗っている、そこだ、ちがう、そうだ、最初からそうしろよ、なんて。)

水本。虎之介さん、アニメ好きだったの?。

芦屋。参考にはならんが、面白い。

水本。戦術上。

芦屋。あんなに弾薬使ったら、補給が持たない。でも、お話ならいい。

水本。好きなんだ。

芦屋。好きなもんか。死ぬかもしれない。

水本。ごめんなさい。雰囲気ぶち壊したかしら。

芦屋。いいよ。そのほうがいい。好きでやったら、おしまい。

伊勢。ふうー、終わった。よかったじゃない。あれだけロボットが動くなんて、あり得ないから。アニメの世界よ。

水本。レイは現実にも一見あのように動いてしまうのよね。

伊勢。ええ。すかさず人間がフォローしないと目も当てられない事態に陥る。

水本。失敗したら大変。

伊勢。だから亜有さんと虎之介がいるのよ。何とかするというだけなら、自動人形単独でもできるけど。亜有さん、今はどんな感じなの?。

清水。その場つなぎしかできない。

水本。じゃあ、この前、レイが理事長室に踏み込んだときも、志摩さんが直後に対応しないと倒されていた。

清水。その可能性はある。

水本。レイが震えていたのは、そのためか。

伊勢。自動人形には軍事コードが入っている。相手が武器を使おうとした途端に起動する。倒されるのはレイとは限らない。

水本。いずれにしても、救護ロボットにとっては最悪の結果か。

伊勢。そうね。ふーあ、もう寝ない?。

水本。そうしようか。

鈴鹿。水本さん、私の部屋に泊まらない?。ベッドが余ってるし。

水本。2人用の部屋なの?。

鈴鹿。そう。

志摩。火本はこちらに来ないか。

火本。2人用の部屋。

志摩。同じだよ。

火本。じゃあ、お言葉に甘える。

 (伊勢は亜有の部屋に泊まる。宿泊施設は、上の方の階にある。)

水本。広い。そうね、2人用といっても、リゾート地のホテルみたい。

鈴鹿。大学の宿泊施設もこんな感じだった。

水本。えらくこぎれいだわ。洗面用具とか取り置きの食料以外は、スーツケース3コ。

鈴鹿。VIPが来たりしたら、一時的に退去しないといけないから。

水本。そういうことか。鈴鹿さんにとっては、旅行で長期滞在しているようなものだ。

鈴鹿。もう2年以上になる。来たころは、1年くらいで別部門に行く考えだったけど、意外に延びた。

水本。大学院にも入ってしまったし。

鈴鹿。予定外。

水本。シャワー使っていい?。

鈴鹿。どうぞ、ご自由に。

 (その夜は何も起こらなかった。翌朝、最上階の食堂に行く。)

水本。純和風のメニューは助かる。外資系だからか、洋食メニューも本格的に見えるけど。

火本。うん、おいしい。アニメはよかった。テレビといえば、お子様番組の体操はどうなったの?。

鈴鹿。さあ。レイに聞いてみよう。

 (通信機で尋ねる。午後から3回目の収録に行くらしい。)

水本。もう始まっていたのか。ということは、あまり問い合わせは無いようね。

鈴鹿。少なくとも、騒ぎにはなっていない。

 (そう、今回は騒ぎになってない。というのも、イチとレイは遠くからだと人間に見えてしまうし、メカカメは特撮か何かで、まさか高度なロボットだとは思われなかったのだ。「協力: ID社」の表示は小さくて、ほとんど気付かれていない。もっとも、それは最初だけだったのだが。
 オフィスのスクリーンでイチとレイと六郎の体操が出ているテレビ番組を見る。最初の収録だから、救護服だ。2回目は、バスケットボール風のユニフォームで撮ったらしい。3回目以降も、衣裳を次々に変えるのだそうだ。
 総務からの問い合わせは来ない。深夜のアニメなど、さほど気にされなかったようだ。ロゴもID社のじゃなかったし。)

伊勢。ふう、電話がかかってこない。よかった。

奈良。アニメと体操か。

伊勢。そう。気付かれにくいもの。

奈良。土曜日だしな。

 (サイボーグ研に遊びに行く。土曜というのに、星野さんが郵便物を仕分けしている。月野さんまでいる。)

奈良。ご苦労さんです。何しているのですか。

星野。週明けだったら大変かと思って、郵便物などのチェックをしています。

奈良。サイボーグ研への。

星野。そうですよ。サイボーグってだけでインパクトあるのに、マスコット格のイチたちに関する問い合わせ。殺到というほどではないけど、徐々に立ち上がっています。今のところ、困るほどの量ではありません。

月野。新しい層を開拓してしまった。若いお母さん方。

奈良。体操のお兄さんはかなりの人気とお聞きします。

月野。もちろん。それと同じ。なにせ、男の子ロボット。六郎も人気。あれは何だって、放送局に問い合わせがあって、正直に自律ロボットと答えているそうです。

奈良。あれだけの動きをするロボットなんて、めったにない。

月野。そうですよ。画像を見せてもらった。たしかに、ちょっと不自然だけど、もしかしたら人間かな、といった感じ。

 (その時は、それで済んだのだ。だが、次の週明け、びっくりするのだ。)

第30話。春の嵐。2. トースター号

2010-08-24 | Weblog
 (火本は、新しく来る自動人形の乗るメカのスケッチに余念がない。水本があきれている。)

水本。アメ車みたい。

火本。1960年ころの。フルシチョフが揶揄したやつ。

水本。あまり知らない。

海原。アメリカが絶頂だった時代じゃな。誰も付いて行けなかった。

芦屋。でも、外見はレジャー用と言うには武骨。

火本。ランドローバーを参考にしているから。

芦屋。オープンカーか。

火本。ドアもない。水上車にするため。

芦屋。旧車両の感じかな。

火本。ええと。小型トラックだから、ステーションワゴンと同じか。

 (自動車メーカーから来た人が声をかける。)

所員11。オフロードで水陸両用車でトラック。ウィンドブレーカーは前に倒せる。座席は幌で覆うのか。

火本。あまり考えてなかった。

所員11。何に使うのだ。

火本。新しい自動人形が来る。A国とB国から1カ月後に。それぞれ、屈強な青年の姿。日本人になじむ顔に改造されて。いつまでいるのかな。

清水。不定期よ。スカウトされるまで、ずっと。

火本。イチたちと同じ。

清水。そう。でも、予想だけど、数カ月でどこかの国に引っ張られると思う。トカマク基地に引っ越すまでに。

火本。その自動人形の専用メカを作るんです。思いっ切りかっこいいやつ。

所員11。我が社に任せてくれないか。いくら出す。

火本。自動人形の予算だから、上限無し。

所員11。それはないだろう。1億円とか。

火本。軍用車の値段だ。相談しないと。

 (私(奈良)経由で本部に相談したら、即答。それが上限ならOKと。)

火本。1億円より多くは払えないとのことです。

所員11。冗談で言ったのに…。

海原。やってくれるかな。

所員11。もちろん。おーい、おまえたち、さっそく仕事だ。クルマを作るぞ。

火本。モグ型の参考にする。

海原。当然じゃ。しっかり注文するのだ。

火本。あい分かりました。

清水。それじゃあ、新しく来る自動人形は、屈強な青年のままで良い。

火本。水本、賛成してくれる?。

水本。他にどうしろというのよ。

清水。奈良さんに伝えます。自律歩行式マッチョ人形2機。身長190cmだっ。

水本。シュワルツェネッガーみたいな。

清水。そうよ。あなた、お好き?。

水本。亜有さんはどうなのよ。

清水。うふん、共演したいわ。

水本。同感。

火本。おれと対極。

水本。あなたの肉体なんか、ちっとも期待してない。

火本。えらく浮世趣味だな。お前らしくない。

清水。浮世絵か。そんなのがいたわね。本部に伝えておく。うん、いい日本趣味のができそう。

水本。火消しとか。

清水。火事と喧嘩は江戸の華よ。

芦屋。先陣争いのことか。

清水。当然。戦場でも起こるの?。

芦屋。しょっちゅう。みんな見境が無くなっている。

清水。あなたの役目は。

芦屋。さりげなく、探ろうとしてるな。だが、無駄。秘密だ、当然。

水本。急に正気に戻るのよね、この男。

芦屋。悪く思うな。

水本。それでいいわよ。ええと、何の話だったか。

清水。屈強な青年型自動人形の話よ。愛称は考えた?。

火本。エレキとマグネ。

水本。で、クルマの名前がトロンとか。エレクトロンとマグネトロン。全然概念が違うじゃない。

清水。電気と磁気か。

火本。そう。トロンは考えてなかった。

水本。エレキマンとマグネマン。どっちもアニメなんかにありそう。

火本。あるよ。そのままじゃだめだ。

水本。空を飛ぶの?。

火本。蒸気ロケットは用意したい。それより、クルマから偵察機を飛ばす。ジェット機みたいなのを装備する。

清水。シリーズEならすぐに用意できる。

火本。最後はそれか。でも、モグにもある。

大江山。カラス型だな。どんなのを考えたんだ。

火本。まだ漠然としている。単に模型飛行機とかヘリコプターでもいい。

大江山。モニタ機能だけじゃなく、位置が分かって、危険回避ができる。

火本。ええ。

海原。それだけじゃ面白くないな。

芦屋。まだ凧の方がましだ。模型飛行機じゃ、かなりのエンジン音がする。

水本。室内用の発砲スチロールでできたヘリコプターはある。あれは静か。

清水。意見がバラバラよ。専門家を呼ぼう。

大江山。三郎班、誰か来てくれるか。

 (時速100kmで走るクルマから離発着させたいわけで、それなりの仕掛けがいる。用途が説明しきれなかったのを察知されてしまい、それらしきものを作るから、動作を見てから意見をくれと言われてしまった。研究スタート。)

水本。決まりそうにない三郎型とモグ型が先に決まった。

海原。まだスタート地点じゃ。

清水。クルマの開発名はトロンでいいの?。

大江山。あっちでトースターみたいな形とか言ってる。

清水。トースター号。

水本。電磁調理器。

清水。あはは。一応、話はつながる。おれたちは熱いんだっ、とか。

火本。偵察機は?。

大江山。モノができるまでは、三郎型1号機でいいだろう。見てから考えよう。

清水。トースター号でいいんですか?。

海原。上からしか出入りできんからのう。言い得て妙じゃ。

清水。しーらないっと。

第30話。春の嵐。1. プロローグ

2010-08-23 | Weblog
 (四月。国立サイボーグ研究所のスタート。所長は、前評判通り、海原四方博士。大江山教授は、所長直下の意思決定機関である推進委員会の委員長と、すべての活動を把握し、コントロールする計画推進本部の本部長を兼ねる。
 全所員40人ほどが東京ID社二階の仮サイボーグ研に集まってきた。まだ機材が運ばれていないので、広い空間がある。パイプイスを並べて、所長から訓示。次に、具体的手順を大江山教授が説明して行く。情報収集部も、全員がいる。報道関係も数名。)

伊勢。企業によって、ほとんど連絡だけの所と、実働隊の所とがあるのね。

火本。ええ。トカマク基地はともかく、ここでは大きな作業はできない。何とか試作品を作る態勢には持って行きたいけど、部品は各企業に発注することになる。

伊勢。5班に別れるのか。三郎型、ケイコ型、コクウ型、モグ型。最後が、トカマク基地と巨大ロボット。トカマク基地はいつ整備するの?。

火本。すぐに整備に取りかかる。一部稼働は、夏の終わりを目指している。来年4月には、すべてをあちらに移動。

伊勢。各企業のパーティションがあって、各班の作業ステーションがあって、それとは別に、共同作業所があるのか。モグ型も。

火本。一応、ここでスタートしてみる。大型になるのなら、トカマク基地に作業スペースを移さなきゃ。

伊勢。下の階だから、天井は高いわね。モグでも入りそう。

火本。入れるはず。大型エレベータにはびっくりした。

伊勢。国際コンテナのトラックがまるごと2台入るやつでしょ?。必要なのよ。各階で荷物を出し入れするだけだけど。

火本。モグなんか、楽々入る。

伊勢。担当部署に頼んだら、意地でも入れてくれるわよ。

 (伊勢以下、計画推進本部のメンバー紹介。伊勢や鈴鹿の名前が飛び交う。しっかりオタクがいるらしい。ついでに、自動人形が見たいコール。あまりに要望が強いので、モグ以外の全機を集める。普段、サイボーグ研をうろうろしているのは、イチとレイだけ。クロは勝手に入りそうだけど…。私が紹介して行く。
 これで済むかと思ったら逆で、質問攻め。効率が悪いので、大江山教授が私をさえぎって、長野本社でのデモを提案。総務に確認したらOKと。サイボーグ研のための展示会を臨時で開催することになる。伊勢はどうするかと思ったのだが、さっきの紹介で声援を受けたのに気を良くしたらしく、やる気満々。トカマク基地での披露を逆提案してきた。協議の結果、全員、トカマク基地に移動することになった。ID社のバスとモグと新車両で行く。)

芦屋。この道路は空いている。

清水。ええ、いいでしょ?。適度に閑散としているし、適度に都心に近い。あの社長に感謝しなくちゃ。

芦屋。社長は収監されるのかな。

清水。奈良さん、聞いています?。

奈良。大江山教授が知っているはずだ。

 (大江山教授に通信機で聞く。何と、来てくれるそうだ。恥ずかしいから、脇で見ていると。)

奈良。実際には収監されなくて済むようだ。詳しい内容は教えてもらってないと。

清水。そりゃそうね。

 (バスは敷地の海岸側に停める。東京湾の眺めがよい。江戸前の海だ。社長も自分のクルマから降りてきた。秘書らしき、女性のお付きがいる。
 志摩たちを先に入れ、電源などを入れる。こちらは、ヘリポートのあるクレーターに歩いて行く。担当のグループが話し合っている。この広い土地をどうするか、検討しているようだ。クレーターに着いた。自動人形が所員を安全な場所に誘導する。)

大江山。降ろしてくれ。

 (通信機で志摩に連絡。ヘリポートが地下に降りて行く。歓声が沸く。30mもの地下だ。ヘリポートのあった穴が、恐いほど上に見える。周りは、照明がついていて、よく見える。整備場が8つ。使用中は一つだけで、ヘリコプターが置いてある。目立つから、全員で見学。)

火本。使うことあるのかな。

大江山。社長が使いたいそうだ。置いておくことになる。

火本。じゃあ、たまに発着する。

大江山。そうなる。だから、こんな臨時の感じじゃなくて、ヘリポートとして整備しなくちゃ。

水本。いろいろ許可とかあるんでしょう?。

大江山。もちろん。ID社に頼んだ。割高だけど、こんな特殊なケースにも対応できる。

火本。本物か。何だかうれしい。

水本。うふふ、子供ね。

 (あとからばれると厄介なので、先に原子炉を見せる。技術者が多いので、へえ、これが原子炉なんだ、といった反応。土地に余裕があるので、うまく他の施設と分離している。
 倉庫と宿泊施設を簡単に見学してから本部へ。地下の5階建ての建物で、がらんとした会議室や食堂があり、最深部に司令室がある。上の階から、見て回る。)

火本。トイレとかは使えるんですか。

大江山。とりあえず、使えるようにした。全部ではない。使えるかどうか、張り紙をしてあるはずだ。

水本。基地内で循環しているとか。

大江山。その通り。本当に籠城できる。その代わり、機器のメンテは必要だ。

水本。それもID社に頼んだ。

大江山。ああ。いずれ、どこかに引き継ぐだろうけど。

 (でも、特殊な構造物。使い物にならない設備などは入れ替える必要がある。だから、しばらくはID社が基地ごとまとめて面倒を見ることになった。
 司令部に入る。ここも、大部分は機能しない、単なる趣味のセット。スクリーンが高解像度テレビというだけ。でも、凝っている。好きな人が多いようで、念入りに見学している。
 基地内を自由に見させてくれという意見が圧倒的なので、午後までいることにする。志摩と鈴鹿がモグで弁当などを買い出しに行く。五郎と六郎も一緒。自動人形はイチ。)

鈴鹿。人気だわ。早く使えるようにした方がいいわね。

志摩。ああ、そう思う。オードブルは電話で注文した。あとはおにぎりとか、お茶とか。

 (少し離れたところに、いわゆる副都心がある。弁当屋でオードブルを受け取り、普通のスーパーで買い物をする。)

鈴鹿。普通のスーパーで買った食材を秘密基地に運ぶ、か。なんか、間が抜けている。

志摩。今のところ、救護班はいないから、無難な食事にしないと。

鈴鹿。そうか。しっかり整備しないといけない。

 (志摩と鈴鹿は、本部の食堂に食料を運び込む。とりあえず、ここ以外での飲食は原則禁止。持ち出したら、ここに持ち帰らないといけないルールとする。)

海原。本物の基地じゃないんだから、もう少し自由にならんかの。

大江山。それをするなら、ホテル並に態勢を整える必要がある。

海原。大学の宿泊施設並みか。

大江山。そのとおり。食堂や清掃も。いずれにせよ、建物は建てるつもりでいたから、さほど手間は変わらない。検討する。

 (トカマク基地は急いで整備されることになった。そして、秋には目を見張るような施設に衣替えする。当然、それなりに費用を要したようだ。)

登場人物3

2010-08-22 | Weblog
登場人物3

● 物語の背景
● 日本ID社、情報収集部
● シリーズx
● 自動人形
● 政府関係者
● 民間人

※ 本ID物語はフィクションです。実在する国、団体、人物などとは、無関係です。登場人物は好き放題やっていますが、この通りのことを実際にやると、各国の法律などの規範に反することがあります。物理法則なども、作者が勝手に解釈している部分があります。架空の物語として、お楽しみください。

● 物語の背景

 ID社は実験機材を製造販売する巨大多国籍企業。しかし、その実体は150年前に結成された平和のための秘密結社DTMの窓口組織だった。
 19世紀の世紀末。世の中を変える発明をした科学者2人は、その成果を平和のために使うことを誓い、有志を集め、DTMと呼ばれる結社を組織した。しかし、第一次大戦を回避することに失敗し、地下組織化する。そして、第二次世界大戦を防げなかった反省から、独自の軍事組織、IFFを結成した。
 ID社の本部はヨーロッパの架空の小国、Y国にある。架空の国「日本」にも拠点がいくつかある。
 本ID物語の主な舞台は、日本の首都、東京の一等地にある一棟借りのID社東京である。奈良部長のいる情報収集部のオフィスは、1階正面にあり、直接顧客に対応する唯一の部門である。

● 日本ID社、情報収集部

▽ 奈良治 (なら おさむ)
 ID物語の語り手の設定。男性。30代後半。日本ID社東京、情報収集部の部長。おしどり夫婦で子持ち。今は単身赴任状態。ID社内の宿泊施設を利用している。
 獣医。専門は動物行動学。日本ID社に所属する4機の自律ロボット ―自動人形、A31部隊― の操縦装置を持っている。

▽ 伊勢陽子 (いせ ようこ)
 奈良の直属の部下。女性。30代前半。音響工学と楽器演奏が得意。しかし、元は理学部生物学科の逸材で、専門は何と生物・化学兵器。大学院時代の事故で恋人を失い、自らも大きなけがをしている。切れ者だが、途中からリミッターが外れてしまい、周囲への破壊力はID社最大と言われている。
 作戦時には、分子シンセサイザーと呼ばれる、化学物質による攻撃兵器を携帯する。

▽ 志摩弘 (しま ひろし)
 奈良の部下。男性。20代前半。ID社は原則として販売店を通じての商売をしているが、情報収集部は例外で、個別の測定装置などを売っている。その営業部隊の一人。ひょんなことから大学院生でもある。
 正体は情報部員で、疑義のある企業や団体に潜入調査する。しかし、調査しろとしか言ってないのに、疑義のある方向にふらふらと進んで手を出してしまう。
 強力なヒートポンプ機能のある如意棒を携帯している。シャッターを破壊するときなどに使う。

▽ 鈴鹿恵 (すずか けい)
 奈良の部下。女性。志摩と同期。こちらも正体は情報部員。好奇心が破壊的に強く、志摩を引き継いで騒ぎを拡大する。志摩と同じく、大学院生でもある。
 175cmと背が高い上に、筋肉による横幅もあり、威圧感のある大女。全然おっとりしたところは無く、行動は素早く、身のこなしもよい。武器を持たせてもうまく、クルマなど機械の扱いも大好き。演技が壊滅的に下手なのに、何とかつじつまを合せてしまう強烈なくの一。

▽ 芦屋虎之介 (あしや とらのすけ)
 志摩の同期の一人で、同期ではトップのエリート戦士。本来は、情報収集部が窮地に陥ったときに、要請したら本部から派遣される強力な助っ人。なのだが、志摩を一方的にライバル視するため、必要そうなときには自分からのこのこ出てくる殊勝なやつ。実力抜群。強力な武器を持っている。身長、体格共に、志摩にそっくり。顔と性格は似ていない。

▽ 清水亜有 (しみず あゆう)
 鈴鹿の友人の一人。女性。理学部数学科の逸材。ID社の観測機器等のマニュアルや設計図を調べるために、情報収集部のオフィスに通いつめていた。そして、次第に情報収集部の活動に深入りして行き、途中から社員になる。
 Y国ID社本部、航空部門長の秘書の一人。しかし、業務は要するにスパイ。情報収集部の活動の重要性が増すにつれ、日本に配属される機会が多くなる。
 こと数学に関しては、伊勢よりも頭の回転速度が速い。一見おっとりした感じだが、作戦をすばやく理解し、協調性もある。趣味は将棋とバイオリン。マッドな設定の多い本物語の中では、ほとんど唯一のまともな人物。

▽ 日本ID社、情報収集部とは
 表向きは、企業や団体の科学技術動向を、公表された資料から分析してY国本部に報告する仕事をしている。作製されたデータベースは商品であり、ついでに、ID社の主力商品である計測器なども売る。
 上層部からの指示により、疑義のある企業や団体に接近し、調査する。合法的、かつ手に負える範囲なら、自ら解決。できないときは、本来なら警察、政府機関、IFFに処理を任せるべきだが、奈良の部下3人、プラス1人は何か誤解している。5人ともIFFの経験がある。
 情報部員としての共通の装備があり、ID物語のSF部分である。真の性能は、極秘。

□ LS砲は、光と音響の発生装置。主として、目くらましに使う。LSはLight-Solitonの略で、音響はLS砲からではなく、当たった先から発生しているように聞こえるので、この名が付いている。多機能懐中電灯としてなら、ID社から市販されている。
 IFFのLS砲は、出力が全く異なり、振動と熱で対象を破壊することができる。虎之介のLS砲は、これを簡略化したもの。

□ 単にアナライザーと呼ばれる装置は、スコープ型の露出計の形をした分析装置。単体で化学分析器として市販されている。小出力のレーザーの反射による分光分析が主。距離計などの、すぐに実現できる機能は取り揃えられている。
 情報収集部員の持っているアナライザーは、通信機能を持っていて、服に付いている高感度センサーと連動して、広範囲の光や音響などの分析ができる。武器管制機能があり、所持するライフルなどの命中精度を格段に高める。
 アナライザーの中には、アストニッシュ探査機と呼ばれる、5cmほどの長さのセンサー付き小型ロケットが5基入っている。風船が内蔵されていて、爆弾などの威力を少し落としてくれる。

□ 通信機は、ID社独自の世界網につながっている。巧妙な通信法により、数百メートルの地中や海中でも何とか交信できる。外見は、携帯電話の形が典型的だが、バッジなどの小物に擬装したものもある。DTM手話と呼ばれる、手を握ってモールス通信する感じの会話方法に対応している。自動人形には内蔵。

□ 時空間計は、時刻と位置と方向が分かる装置で、普通は腕時計型をしている。
 奈良部長と伊勢の時空間計には、自動人形のコントローラが仕込まれている。本来のコントロール範囲は500mだが、日本などでは通信網が利用できて、遠隔操作が可能。

□ 情報収集部員の靴には、特別によく踏ん張れるための仕掛けが仕込まれている。作戦時の服には、ある程度の防弾機能がある。熱や化学物質に強い、特殊な手袋を携帯している。

□ 情報収集部の作戦用に、2台のステーションワゴンがあり、それぞれ、旧車両、新車両と呼ばれている。どちらも6人乗りで、簡易司令部機能がある。簡易な水上車機能があり、川渡り程度は可能。
 ID社の屋上から、気象観測用の飛行船が定時に離発着している。長さ1.5mで、情報収集部は、時に作戦に使っている。

● シリーズx
 ID社は計測器が主力の実験機材メーカー。その移動手段も作っていて、切り札的商品にはシリーズxの名前が付いている。単独の製品を示すわけではなく、多数の型番の機器の総称名。

▽ シリーズA。超高空を極超音速で飛べる観測用ジェット機。前席と後席の2人乗り。
▽ シリーズB。観測用の6人乗り、垂直離着陸ジェット機。背面で静止したり、時速300kmで後退できる。ロボット腕が付いている。ヘリコプターを上回る機動性を誇るが、重くて高価。低空・低速では世界最強の航空機と評価されている。
▽ シリーズC。輸送用の普通の大型ジェット機。
▽ シリーズD。直径10cmほどの、金属ミミズ型地中探査機。
▽ シリーズE。小型ミサイル型の観測装置。超音速で飛ぶ。
▽ シリーズF。巡航ミサイル型の観測装置。亜音速だが、シリーズEよりずっと多くの観測機器を搭載することができる。
▽ シリーズG。魚雷型の水中観測装置。長時間利用できて、ロボット腕でサンプリング可能。6000mまで潜れる。
▽ シリーズH。小型魚雷型の水中観測装置。単独で利用することもあるが、もっぱら有線で使用して、シリーズGなどとの中継器として使う。

● 自動人形

 元は、核事故等の救援のために、日本の大学が構想した自律ロボット。大学が構想したために「自動人形(automaton)」というマニア向けの呼称が付いている。A国軍が注目し、構想に沿って40機ものサンプルが作製された。しかし、通常の機械や簡易なロボットに対して何らの優位性を示せず、開発は5年目に放棄された。その後、ID社がすべての技術とサンプルを買い取り、観測機器の一種として活用しようとした。だが、改良は成功したものの、やはり役立たせることはできなかった。
 技術の継続のため、4機、つまりA31部隊の世話が、まじめな奈良部長に押しつけられている。
 やたらと精密なうえ、しょっちゅうメンテナンスが必要なので、維持費は莫大。ID社の経済的お荷物になっている。しかし、なぜかID社による量産が始まり、5年間で全世界に200機を展開する予定。目的は不明。

▽ A31部隊 (エイ・スリー・ワンが本来の呼び方。日本ではエー・サンイチで通る)
 A01(後にクロと呼ばれる)が雄の黒猫型、A02(アン)が女性アンドロイド、A0P(タロ)とA0N(ジロ)が男性アンドロイドである。A31は、この最初の自動人形Aシリーズ4機の総称、つまり「automaton 3+1」の略である。
 アンドロイドは、普段は派手なデザインの救護服を着ている。A02は、真っ白には見えない明るい灰色の地に深い空色の縁取りを付けている。男性アンドロイドは、薄い黄色が地でA0Pはやや暗い赤、A0Nは黒の縁取りが付いている。
 クロはしゃべることはできない。しかし、会話装置をベストに付けることができる。通信機は内蔵なので、志摩たちが困ることはない。専用の小型オートジャイロを持っている。推進は進行波ジェット(註: 架空)なので、音がほとんど出ない。
 タロとジロのコード名が妙なのは、初期計画ではA03一機の製作だったのが、双子の兄弟の設定で再設計されたから。Pはpositive、Nはnegativeで、性格などではなく、単に表裏一体の意味(半導体のP型、N型の発想)。

□ 救護服はやや分厚く、短時間なら炎を突っ切ることができる。本体だけでもタフで、たとえば、0℃の水中でも活動が落ちることはない。人間よりは強いが、皮膚は柔らかく、刀剣や小火器で簡単に破壊できる。人工筋肉による筋力は鍛えた人間程度。

□ 人間がそばにいるときは、体温を上げ、瞬きする。息は燃料電池の酸素のために必要。無呼吸時には、体内の蓄電器を使うが、通常は10分程度しか活動できない。活動度を下げることはできるし、停止しても壊れるわけではない。

□ 自動人形は、普段はエタノール燃料電池をエネルギー源としている。エタノールの必要量は一日当たり500mlで、普通のアンドロイドは体内に5l蓄積できる。しかし、活動度を上げると、簡単に10倍ほども消費する。その結果、自動人形は、ことある毎にアルコールを飲んでいる感じ。
 しかし、普通の食事を摂ることもできて、その場合は内蔵の変換器がアルコールに変換する。残りかすは、トイレで吐く必要がある。電源があればよいので、たとえば外部蓄電器をかつげば、エタノールも酸素も不要。

□ 視覚や聴覚などのセンサーからのデータは統合された後に人工知能で判断され、基本動作の組み合わせのプログラムのどれかが起動する。それを繰り返す。基本的に救護動作が優先。緊急処置用の小さな薬箱と、緊急脱出用のコンパクトな工具箱を持っている。
 他に、周囲の人間をリラックスさせるための、各種の芸のプログラムが仕込まれている。予告無しに起動するので、気の利いた返事をしているように見えることがある。

□ 軍事コードと呼ばれる一群のプログラムがあり、武器などの危険情報に敏感に反応し、適切な行動をとる。その行動には、武力行使も含まれる。
 自動人形のセンサーは軍事コードのために最適化されていて、人間よりも高度な側面がある。視覚は人間の赤・緑・青に加えて、紫外1バンド、赤外2バンドが追加されていて、普通の夜なら視覚は生きたまま。しかも、水中でもピントが合う。聴覚は、1MHzまでの帯域があるうえ、アクティブソナーの機能がある。嗅覚・味覚の化学センサーの感度は人間並みだが、軍事的に意味のある物質にも反応する。皮膚には人間並みの触覚等のセンサがある。そのほか、レーダー帯域の電波や、放射線や、磁気異常を検出できる。ただし、人間のような立体的な情報処理能力はない。人工知能で、パターン認識されるだけである。本物語では軍事センサーと総称されている。

□ 他に仕事がないときは、救護所の安全確認と、生存者の発見のための、探索動作を行う。この動作は、時に役立つので、救護所以外にいるときも止められることはない。

□ 自動人形は、周囲の状況に対する判断と行動はできても、意志や意識はない。人間の連続指示が無いと、急速に無意味な行動に陥る。つまり、自分では意味のある行動ができない。エネルギー確保と探索動作は例外。内蔵データは豊富で、一見、巧妙な反応をする。

□ 喜怒哀楽の基本的な心理パラメータを持ち、それに応じて行動が変容する。性差や敵味方の判断もこの部分が担っている。相手の武器に反応するのは軍事コード部分で、この「感情」とは関係ない。

□ ID物語は自動人形を溺愛している奈良部長が書いている設定なので、記述が大げさになりがち。しかも、部下たちが面白がって煽っている。ID社や軍の、自動人形に対する評価は高くはない。普通に個々の専用の機械を作ればいいと感じている人が圧倒的な多数派。ただし、奈良部長並のマニアは、世界レベルでは数十人いる。

▽ イチ (F01: ichi)。思春期直前の男の子のアンドロイド。元はF国ID社にいた。
▽ レイ (E02: rei)。思春期直前の女の子のアンドロイド。元はC国ID社にいた。
 この2機の自動人形は、空中活動用に軽くできている。飛ぶときは、進行波ジェット推進の空中サーフボードを使う。性別を変えることが可能。ハチ型の分子シンセサイザーを持っている。
▽ モグ (08W2: mog(潜るから))。簡易な水中調査ができる、キャンピングカー型他動人形(peripheral)。他動人形に頭脳は無く、近くにいる自動人形の支配下で動作する。支配を外れると、普通の高機能調査車になる。
 司令室機能があり、シリーズE 4基、シリーズG 2基、シリーズH 20基を搭載している。発射管があって、自動人形を水中発射できる。表面は2cmの六角形の吸発光素子で覆われていて、色を変えたり発光したりできる。大きいので場所に余裕があるため、センサーはアンドロイドより高度。
▽ 五郎 (08A3: goro)。高校生風の頼もしい男性アンドロイド他動人形。元はゴーレム役だったが、顔つきをおとなしく改造された。
▽ 六郎 (08A4: rokuro)。メカカメ型の他動人形。甲羅の直径は60cmほど。吸発光素子により、色を変えたり、光らせることができる。脚を体内で交換して、リクガメにもウミガメにもなり、さらに車輪やウォータージェットを使うことができる。蒸気ロケット内蔵で、爆音と光と水蒸気と共に数十秒間飛び上がる。
 五郎と六郎は、モグに入っていることが多い。

▽ ロブ (K05: rob)。小型のオスのロバ型自動人形。空中活動用に進行波ジェットと翼の入った袋を背負っている。元はA国ID社の小型のポニー。3カ月間だけ、情報収集部が借りていた。ロバ型に改造されたまま、帰国。
▽ キキ (S03: kiki(キキーモラから))。サイボーグ、空木/コクウの世話係として配属された女性型自動人形。設定年齢は30才くらいだが、演技が得意で、高校生に化けることもある。B国ID社で開発された、特殊な制御方式を装備しているので、できる技。空飛ぶ自転車(翼を展開して飛ぶ。推進のための進行波ジェットは、キキが直接抱える。)で空中を飛ぶことができる。ケイマといっしょにY国にしばらくいた後、B国の研究所に購入された。
▽ コクウ (08W: kokuu(虚空))。外骨格型自動人形、第一弾4機の中の一つ。他の外骨格型が単純なパワーアシストなのに対して、コクウは四肢の動かない空木一人(うつぎ かずと、IFFで志摩の1年後輩)を動かすので、中身の空木と共にサイボーグと呼ばれる。日本に配属される予定だったが、国際争奪戦が勃発したため、Y国本部航空部門が引き取った。

▽ ジャック (W01: Jack)。南アジア風の家族のお父さん役。
▽ クィーン (W02: Queen)。お母さん役。
▽ リリ (W03: Lily)。娘役。
▽ エス (W04: Es)。メスのインドニシキヘビ型自動人形。ペットかどうかは不明。
 この4機の自動人形は、日本に短期間いて、今はY国ID本部、航空部門にいる。
▽ 四郎 (08A2: shiro)。リリの兄役。髪が腰まである高校の少年風他動人形。最初は三郎支配下の召還された悪魔役だったが、南アジア風に改造されて、ジャック親子の一員になる。

▽ モノリス (J01: Monolith)。黒いビデオカセットのような自動人形。周辺機器(peripheral)に装着して動く。周辺機器には、UFO型、ロケット人間型、メカ白鳥型、メカ恐竜型、武者型、ウマ型、移動メカ型がある。後に小改造され、ロケット人間は正太郎と呼ばれた。
▽ ピナクス (J02: Pinax: ΠΙΝΑΞ)。ビデオカセット型自動人形。周辺機器も同じ。ロケット人間は、サクラ。
 この2機は、日本に短期間いて、今は東海岸のA国ID社にいる。そこでも小改造された。

▽ 三郎 (08A: saburo)。ID社が製作した自動人形、1番機。ワタリガラス型。羽ばたいて飛べる。人語を話す。ロボット腕内蔵。3カ月の貸出期間の後、E国ID社が引き取った。
▽ ケイコ (B04: keiko(圭子))。元はE国ID社にいた、小柄な女性アンドロイド。A31の後続として作られたBシリーズの中の1機。B01からB03は兄役。三郎との交換で、日本にやってきた。小改造され、原田ケイマのドッペルゲンガー役となる。翼と分子シンセサイザーを日本で装備され、一説では世界最強の自動人形となる。優秀なので、ケイマの姉、原田銀と共に、A国の国立研究所に引っこ抜かれた。

▽ アンドレ (Q01: Andre')。Q国ID社が管理している、男性アンドロイド型自動人形。
▽ イブ (08B: Eve)。ID社が製作した2機目の自動人形。女性アンドロイド。Y国本部からケイコといっしょに、誤って日本に届けられた。Q国ID社に移籍。

● 政府関係者

▽ 永田衛 (ながた まもる) 男性
▽ 関霞 (せき かすみ) 女性
 財務省大臣官房下の専門情報調査課(註: フィクション)に所属する政府のスパイ。2人はパートナーを組んで現れることが多い。形式上、海軍にも属している。25才前後の、くそまじめな国家公務員。エリートで実力もある鼻持ちならないやつら。しかし、偶然、ID社情報収集部と目的が一致しているため、いつも強力な仲間になってくれる。上層部はお互いに通通らしい。
 護身用の小型の自動拳銃を常時携帯している。警察や軍と常に連絡を取っていて、必要時にはヘリコプターなどの大型の仕掛けを動かすことができる。
 関は虎之介と遭った途端に、相思相愛の恋人になってしまった。別組織のスパイ同士の禁断の恋になるわけだが、作戦中でない限り、いつでも連絡できるし、現場では協力することの方が多く、結構楽しんでいる。

● 民間人

▽ 火本一極 (ひもと かずきわ: 男性)。
▽ 水本零下(みずもと れいか: 女性)。
 2人は某トップの国立大学工学研究科の大学院生。優秀なので、教授の誘いで国立サイボーグ研究所で活動している。サイボーグ研設立の由来の関係で、情報収集部との付き合いが深い。
▽ 大江山秀範 (おおえやま ひでのり)。男性。某トップの国立大学工学部教授。国立サイボーグ研究所の設立者で、火本、水本、志摩、鈴鹿の責任教授。
▽ 海原四方 (うなばら よも)。男性。大江山教室の前任の教授で、退官後数年経っている。国立サイボーグ研究所の初代所長に抜擢された、生粋のロボット学者。

登場人物2c
http://blog.goo.ne.jp/greencut/e/3952bb75083be64a74f6ea82c12b2f16

第29話。巨大ロボ、エクササイザー99。19. 自動人形コンビ

2010-08-22 | Weblog
 (翌日、火本と水本は第二機動部隊本部で、新しく来るという自動人形の改造について相談。)

火本。来るというのは、どんな自動人形なんですか?。

清水。一機はA国東海岸のID社に昨年配属された機体、08C。もう一機は、B国に昨年配属された機体、08D。どちらも、タロとジロを少し屈強にした感じの美青年。

水本。そのままでもいいかな。

清水。日本人になじむように表情を変えられてしまうから、体育系の威勢のいいコンビに見えるはず。

火本。ピッチャーとキャッチャー。

水本。テニスのダブルスのコンビ。

清水。スポーツマンか。警察や救急隊のイメージだったけど。

火本。そっちか。救護ロボットとして、頼もしい感じ。

清水。そう。一時期日本にいたイブもそうだけど、一度原点に帰ってみようとしたようよ。でも、真似することはない。こちらの思い通りでいい。

芦屋。志摩とおれの感じか。

水本。漫才コンビ。

芦屋。どこがだよっ。

水本。全部よ。自覚なし。

清水。タロとジロの感じにしたら、重複するからもったいない。何か個性が出ないかな。

火本。タロとジロができすぎ。あれを超えるなんて。

海原。お主ら、修行が足りんぞ。途方もないチャンスじゃ。しっかり考えろ。

火本。取っかかりが分からない。

海原。簡単じゃ。たとえばじゃな、火本、そなたがサイボーグになりたいと思ったと考える。

火本。火星に行ったりするため。

海原。よく分かっとるじゃないか。

火本。タロなら火星でも活躍できそうだ。電源を背負えばだけど。

海原。いいぞ、その調子。

火本。空気は薄い。地球の感覚からすると、ゼロに近い。でも、あることはあるから、酸素さえ供給すれば、自動車などの普通の機械が動く。電動なら、全く問題はない。温度は低い。太陽光は少し落ちるけど、人間が行っても明るく感じるはず。

水本。アンを私がサイボーグになった姿と想像するのか。夜でも目が利く。洞穴など、暗黒では無力だけど、ソナーが使える。火星でも風の音はするでしょう。音声会話は厳しいけど、自動人形は通信機内蔵。方向と距離が分かれば、振り向くことだってできる。

火本。もともと、幅広い温度に耐えるし、救護服があるから突発的な事象をかわすこともできる。

海原。地球でやりたいことはあるか。

水本。5000mの山だって、深海だって平気。砂漠でも、アルコールか電気さえあれば活動可能。いろいろ旅行してみたい。誰も行けない森の奥、不毛の土地。

火本。空を飛ぶのも今や可能。

水本。0℃に近い海や川も泳げるし、潜水も可能。

火本。サイボーグ仕立てにするのは無理か。遠隔操縦で。

清水。無理よ。軍事コードを始めとする動作のプログラムが役立たなくなる。自動人形のサイボーグは試験稼働中。空木くんたちが安全と分かれば、展開があるでしょう。でも、かなり先の話。

水本。せめて、一緒にいけたらな。

清水。今でも、モニタ経由でやってる。

水本。亜有さんの仕事。直接の体験はできないけど、自動人形を誘導することはできる。

清水。そうです。奈良さんは、自動人形を信頼しているから、報告があるまで人工知能の判断に任せる。私は、そこまでの勇気はないから、逐一報告を受けて、状況を理解しようとする。

水本。クロやアンの自信たっぷりな態度は、そんなところに由来するのか。

清水。自動人形は、人間の信頼を感じ取る。信頼されれば、応えようとする。そのように動作する。

水本。いきなり聞いたら信じられないけど、アンとしばらくいたから理解できる。

清水。アンは特別な機体。奈良さんの愛情を一身に受けている。

水本。うわあ。ちょっと危ない世界の感じ。

芦屋。要は、難しく考えなくても、どんな動作をさせるかを自由に発想していいってことだな。

水本。あなたがその言葉で理解しているのなら、それでいいわよ。

芦屋。微妙な言いよう。どうだ、ちょっと出かけないか。気分転換になる。

水本。あなた、絶妙のタイミング。うん、出かけよう。火本、来なさい。イチとレイも。

イチ。どこに行くの?。

水本。決めてもいいし、決めなくてもいい。行きたいところ、ある?。

イチ。繁華街をぶらぶら。

水本。東京にはいっぱいあるわ。片っ端から、行ってみるか。

 (虎之介と火本と水本、イチとレイは、山手線周りの繁華街を適当にあるく。)

イチ。人が多い。目が回りそう。

レイ。品物も多い。そっちを見なさい。

火本。この2機は、率先して事に当たる。

水本。この前の作戦でもそうだった。実際に手を出す役は、鈴鹿さんと虎之介さん。

火本。駄目押しで、伊勢さんが志摩さんを連れて登場。

水本。なんとなく、役割ができている。奈良さんは何よ。

火本。部下が暴走し出したときに、上の人に謝る役。

水本。責任者。そういえば、4人で好きなようにビルを破壊していた。亜有さんも加担しているありさま。

火本。LS砲なんか威力無いから、何か別の武器を持ってたんだ。

芦屋。そんなの秘密。知ったときは、ただでは済まんぞ。

水本。はいはい。適当に拾ったものでも、虎之介さんたちなら武器になるものね。知らない方が良さそう。

芦屋。鈴鹿のことだな。あいつは万能だ。普通じゃない。

水本。評価が高いんだ。

火本。芦屋さん、いままで人手が足りないと思ったこと、ある?。

芦屋。ん、自動人形の人手か。

火本。その理解でいい。

芦屋。そうだな。やはり、作戦が始まってしまうと、本部が手薄になる。この前も、奈良部長と亜有を守っていたのは、タロだけ。機材が豊富な社内にいたし、タロだけでも大した威力だから、心配はしてなかったが。

火本。本部はA31で固める方がいい。

芦屋。微妙な線だ。守備という点では、ジロが優れている。しかし、ジロは伊勢さんのお気に入り。志摩が前に出ていて、いないときは、ジロを付ける。

火本。気が利くんだ。

芦屋。自動人形の中でも、最高レベルだろう。

火本。虎之介はどうなんだい?。

芦屋。護衛は不要だ。どちらかというと、攻撃的か、前に出てくれる自動人形がいい。それぞれ、タロとクロが相当する。イチとレイも先に出たがる。

レイ。私でいいの?。

芦屋。レイか。役立ちそうだ。体よく使われそうな気もするが。

水本。よく分かっている。

芦屋。男性アンドロイドは欲しかったところだ。タロとジロみたいに万能でもいいけど、どこかに専用に配置してもいい。

火本。たとえば。

芦屋。作戦内容によって異なるけど、一般の話なら、正面攻撃だ。イチとレイが回り込む間に、真正面で耐える役。

火本。じゃあ、攻撃力が十分でないといけない。

芦屋。頭脳もいるぞ。決して別動隊が強力だと考えさせてはいけない。主力だと思わせるには、十分な実力と知力がいる。相手がなめてかかったら、即座につぶせるくらいの。

火本。目立ってなんぼ。

芦屋。そのとおり。あの看板みたいに。

 (虎之介が指差したのは、映画の看板。もろにアメリカンヒーロー。最近は政治的にうるさいのか、SFの設定だ。勉強のためと称して、入る。うん、単純だけど、サービス満点。面白い。映画館を出る。)

水本。あー、面白かった。かっこよくできている。

火本。ヒーローが?。

水本。当たり前じゃない。あんた、どこ見てたのよ。

レイ。愛敬振りまくだけで、ほとんど何もしなかったヒロインとか。

イチ。本部でひたすら右往左往していたロリコン風婦警さんとか。

火本。メカだよっ。何ちゅー反応。油断も隙もないロボット。あの映画監督、日本のアニメの見すぎ。プロットもそれっぽいし。

水本。似たストーリがあるの?。

火本。あるよ。有名。

水本。知らない。

火本。だって…。今日はいい天気だ。

水本。エロゲか。

火本。そうさ。やったことは無い。

水本。わざわざ断らなくても。

レイ。絵くらいは見たことがある。

火本。当然。堂々と公開できる範囲の。

水本。もういい。でも、メカに関してはあまりぱっとしなかったわ。

火本。荒唐無稽。でないと、恐い。

芦屋。やっぱ、アクションだな。チャンバラと同じ。派手でないとつまらない。

火本。参考になったの?。

芦屋。勇敢そうに見える、という点は大事だ。味方の士気にかかわる。

水本。勇敢そう…って。成功、失敗にかかわらず。

芦屋。勝負は時の運。だから、双方、ちゃんとした格好をする。

水本。意匠を凝らした鎧とか。

芦屋。そう。

水本。あきれた。今でもやってるの?。

芦屋。各国の軍服を見れば明らか。でないと、訳の分からないデザイン。儀仗用のが極端だ。

水本。救護班としてかっこいい姿にしなきゃ。

火本。登場時も。なんか、ギラギラのクルマで乗り付けて、わざとらしくポーズする。

水本。ちょっと前の刑事物みたいな。

芦屋。荒れ地をものともしないクルマだな。赤十字をつけたランドローバーとか思いつく。

火本。そいつだ。メカに凝ろう。かっこいいお兄さんなんか、いくらでもいる。

水本。自動人形の話じゃないの?。

火本。ロブの翼、クロのオートジャイロ。あんな感じで。

芦屋。相談してみるか。4台目のクルマ。

 第29話、終了。

第29話。巨大ロボ、エクササイザー99。18. さよなら、ロブ

2010-08-21 | Weblog
 (3カ月の約束期間が過ぎ、ロブは元のA国ID社に戻ることになった。日本に来る前は小型のウマだったが、姿はロバのまま戻る。空飛ぶロバとしてA国で役立つかどうかを見極めるためだ。ささやかなお別れ会をオフィスでする。)

奈良。ロブ、いい機体だ。A国でも活躍してくれ。

伊勢。印象的だったわ。

水本。何とか滞在を延長できないんですか?。

伊勢。もう、調整は終わったし、約束もある。自動人形は、世界で活躍するのよ。

火本。忘れられない、いい機体だ。

ロブ。ありがとう。存分に活躍させてもらった。私はみなさんのことを忘れない。

海原。自動人形は6機になるのか。

伊勢。たまたま亜有さんが配属されていたから何とかなったけど、これ以上増やせないわ。

奈良。そのことで相談があるんだが。

伊勢。何っ、まさか、入れ替わりでクマが来るとか。

火本。トラがいいな。

水本。鳥型、そうね、フクロウなんかが欲しい。

伊勢。あんたたち。この物語の特質を知っている。

海原。言ったもん勝ち。

伊勢。なぜか、作者がこだわるのよ。

奈良。新造の自動人形の動きを確かめたいらしい。A国とB国では確認済み。つぎがここだ。

伊勢。三郎がいたじゃない。イブも。それに、他にも数機がすでに稼働しているはず。

奈良。そうだが、キキのパラメータは入ってなかった。

伊勢。そのうえ、自律性の高いタイプ。

奈良。あとでしゃべるともめそうだから言っておく。2機だ。

伊勢。減るどころか、増える。奈良さーん、何てことをしてくれるのよ。いつものように、断りきれなかったんでしょう。

奈良。押しきられた。

伊勢。弱腰野郎。

奈良。何とでもいってくれ。

火本。楽しみだ。どんな姿なんですか?。

奈良。2機とも男性アンドロイドだ。でも、来る際に改造可能。性別を変えてもいい。

水本。動物型にしてもよい。

奈良。何とか頼んでみる。

伊勢。何とかなるのなら、断ってよ。

奈良。それはどうにも。

火本。ネズミでもいいんですか?。

奈良。小さい方は、500gが限界。今までの軽量記録は三郎の2kg。550gのモノリスは、ほとんど自分では動けない。

水本。それで周辺装置があるんだ。

奈良。あの時の技術蓄積は大きかった。さすが、G国の発想。大したものだ。

火本。じゃあ、大きくてもいい。

奈良。身長18m、体重10tは、無し。そんなのどうするんだ。

火本。ばれたか。救護ロボットでないとだめ。でも、モグは体長6m、重さ6t。

奈良。食い下がる。

水本。いつまでに考えればいいんですか?。

奈良。考えてくれるのか。

水本。喜んで。

奈良。1カ月が限界。超えそうなら、そのまま呼ぶ。日本になじむ顔つきに変えて。でも、できるだけ早く決めてくれ。

火本。一週間で思いつかなければ、それ以上考えても無駄。

奈良。そんな感じで頼む。

鈴鹿。ロブに戻ろうよ。最初の事件は遊園地。

志摩。山の中の、暗黒の遊園地。

芦屋。きっかけは牽引光線だったな。

伊勢。お笑いの。

火本。ロブはメリーゴーラウンドのウマに化ける予定だったんだよ。

水本。そうなの?。陳腐なアイデアだから、やめたってこと?。予定って何よ。

伊勢。こほん。次が港の仕掛けのある倉庫。六郎も活躍。

鈴鹿。ロブが仕掛けを見破ったんだ。

ロブ。撃墜されかけた。

志摩。おかげで、被害の拡大が防げた。それにしても、よく天井に隠れた。経験はないはずだ。

鈴鹿。亜有の誘導かな。

伊勢。たぶん、そう。事件以外では、人形になって、アニメになって。

火本。人気者。ロブと同等以上の動物型を考えるのは容易ではない。

水本。よくできている。

鈴鹿。虎之介は帰らないの?。

芦屋。なんだよ、その言い方。帰って欲しそうだぞ。

鈴鹿。その通りよ。助かるけど、災難も呼び込んでくれる。

奈良。指令は来ないな。サイボーグ研担当で亜有くんが動けないから…。

鈴鹿。しかたなく、いる、と。

水本。私たちが情けないから。

伊勢。そちらが気にすることはないわよ。こっちの都合だから。作戦絡みで攻撃陣の数が必要なの。純粋な研究だけなら、不要なんだけど。

大江山。そんな研究、何の値打ちもない。

海原。その通りじゃ。芦屋くん、いてくれると大助かりじゃ。これからも頼むぞ。

芦屋。はい。全力を尽くします。

ロブ。丸く収まったかな。

伊勢。いまいち腑に落ちない点があるけど、許容範囲。

 (その後も歓談は続いた。翌日、ロブは専用の箱に詰められ、A国ID社に社内の輸送系で返された。再び来る機会はほとんどないはずだ。優秀な機体ほど、そうなるのだ。)

第29話。巨大ロボ、エクササイザー99。17. エクササイザー99、見参

2010-08-20 | Weblog
 (松添氏の動きは速かった。さっそく、エクササイザー99を使いたいと。イチとレイと六郎に出演要請が来たりする。)

伊勢。自動人形がしょっちゅう壊れるってこと、知っているのかな。

奈良。そんなの知らないだろう。

鈴鹿。どんな番組。

奈良。子供番組の中の、体操のコーナーらしい。

鈴鹿。体操のお兄さんがでてくるやつ。

奈良。そのとおり。子供といっしょに体操する。

鈴鹿。番組見てたけど、やったことない。

伊勢。小さい頃にでしょ。あんな体操、だれがするのかな。

奈良。お兄さんの体操がすばらしすぎて、だれも付いて行けないだろう。単に、身体が動いていればいい。

鈴鹿。だったら、お兄さんにはできるだけかっこいい体操をさせる。

奈良。想像だ。

伊勢。そうでしょう。自動人形の信頼性向上の話、どうなったの?。

奈良。そうだな、その話と絡めるか。体操くらいではびくともしない自動人形。必要な気がする。

伊勢。じゃあ、OKの連絡しておく。

奈良。あなたが。

伊勢。ええ。打ち合わせとかあるでしょ。私が担当したい。

奈良。体操のお兄さんを見に行くのか。

伊勢。コントローラよ。うふふ。でも、それもあるかも。

 (何か企んでそうだが、続行を指示する。
 で、どんな内容かと思ったら、エクササイザー99はアニメだ。地下基地からでてきて、かっこよく体操し、地下基地に戻る。イチとレイは、エクササイザーを呼び出して、誘導する役。つまり、体操して、おなじことをさせるのだ。六郎は、もちろんマスコット。3機とも、台のようなところで演技する。スクリーンが後ろにあって、体操のお兄さんは前で演技。子供もいる。週に2回、放送3回分を収録する。作戦時には出られないというと、その時は、イチとレイも撮り置きのアニメにすると。
 最初の収録の日。伊勢と共に、亜有、虎之介、火本、水本も付いて行く。観客席には出演する子供の親がたくさん来るはず。その席から見るのだ。ロブも付いて行く。
 最初だというので、松添氏が来ていた。ディレクターらしき人と話し合っている。本番まではまだ間がある。イチとレイと六郎の訓練があるからだ。)

火本。スタジオって舞台以外は暗いのかと思ったら、ここは明るい。

水本。子供が怖がらないようにでしょう。

 (体操は3分間。まともにやったら、かなり激しい運動。本日は、使えるかどうかの試みのようだ。だめだったら、3回で終わるか、最悪、ボツになる。
 見本だというので、ディレクターが体操する。うーむ、体操というより、踊っているようだ。はっきり言って、いい加減。なので、体操の指示書と録画を見る。虎之介が体操してみる。何とか体操になっている。伊勢と亜有が、自動人形を調整して行く。ほどなく、見られる感じになった。)

ディレクター。じゃあ、音楽に合せてみましょう。

 (体操のお兄さんの代りを虎之介がやって、後ろの台の上で、イチとレイと六郎が演技する。初回は救護服のままだ。できたてのアニメも映し出す。ふと、体操のお兄さんがいる。最初だから心配して、見に来たようだ。)

体操のお兄さん。あれ、誰?。

ディ。ID社の社員。自動人形と一緒に来た。

体操。うまいな。

ディ。そうですね。まじめすぎて、おもしろみがないけど。

体操。後ろのがロボットか。

ディ。そうらしい。小学六年生くらいに見える。うまく演技する。

体操。カメも。

ディ。ロボカメ。どうなるかと思ったけど、超適当にやることにした。いいですか?。

体操。いいも何も、午後には収録。それで行くしかない。絵になるかどうか、試してみていいですか?。

ディ。ええ、やってください。

 (今度は本物の体操のお兄さん。雰囲気を出すために、水本と火本が子供の位置で適当に動く。スタッフが画面をチェック。こんな感じでやってみよう、ということになった。
 体操以外の収録があるので、出番までには間がある。食事して、ふたたび放送局内を見学することにした。
 昼食。)

伊勢。何とかなりそう。自動人形は大丈夫かな。

清水。どうなの?。具合の悪いところはある?。

イチ。とくに故障箇所は無い。レイはどうだい?。

レイ。大丈夫。六郎も平気。

伊勢。あと、少なくとも3回は演技しないといけない。

イチ。何も起こらない。たぶん。

 (先日展示は見てしまったので、放送局内の見学コースを巡る。差し障りのない範囲で、放送活動の実際が見られるのだ。)

清水。プロの雰囲気。真剣。

芦屋。確かに。殺気立っている連中もいる。

清水。競争は激しそう。華やかな表面とは大違い。

 (果たして、監督助手のような人に捕まってしまった。連れてこられたのは、時代劇の撮影現場。)

清水。スタジオ内で撮るんですか?。あの人、有名。

助手。そうですよ。もちろん、ロケもします。

監督。おい、代りの犬は連れてきたか。

助手。これじゃだめですか。

監督。何だそれは。

俳優。ロバだ。

監督。んなもん、使えるかよ。番犬役が病欠だから、何とかしろと言ったのに。

イチ。ロブは留守番できるよ。怪しい人に鳴けばいいんだろう?。ロブ、叫んでみてよ。

ロブ。がひー、がひー、がひーーー。

監督。うるさいっ。ロバって、こんなにうるさいものだったのか。

俳優。ああ、その通り。だが、これは本物ではないな。

ロブ。ロボットだ。

監督。うわわわー、しゃべった。ううむ。江戸時代にロバはいたのか。

俳優。何千年も前から人類に飼われていた。日本では珍しいが、中国ではありきたりの家畜。

監督。分かった。珍しいロバを中国から手に入れ、たまたまこの屋敷に飼われていたことにしよう。操縦しているのは誰だ。

清水。私。でも、そのロボットロバ、ロブって言うんですけど、人語を理解します。頭もいい。指導してくだされば、言うことを聞くはず。

俳優。ロブ、お座り。

 (ロバらしく、かったるそうにお座りする。)

俳優。お手。

 (ちゃんとお手する。だが、おまけ付き。)

ロブ。なめてるな。お巡りといったら、ついでに蹴り飛ばす。

俳優。わかった。使えそうだ。将軍様から貸し出された優秀なロバ。それで行こう。

監督。よーし。ええと、台本の変更個所は、ここだな。3場面ほどか。いきなりロバもまずいから、登場場面を作ろう。シナリオライター、1分の場面を作ってくれ。

 (元々は、主人公を暗殺する刺客が、泊まっていた旗本の屋敷に潜入したところ、番犬に吠えられ、番犬を斬っただけで逃走する場面だった。その忠犬ならぬ、忠ロバの役。
 連れてこられて、俳優に愛想したり、刺客に鳴いたり、斬られて、ばたっと倒れる場面など。犬ではないけど、ロボット。ちゃんと演技する。)

監督。ふうっ。何とか形になった。ええと、あなた。

清水。清水といいます。

監督。清水さん、エキストラの謝礼を払う。助手、対応してくれ。

 (亜有は謝礼をもらった。安い。でも、記念だ。売店で番組のペンダントを買って、ロブの首にぶら下げる。)

清水。たしかにロバは役立つ。大変な機体。

伊勢。もうすぐお別れか。大活躍だった。

水本。きっとA国に戻っても、活躍してくれる。

清水。うん。優秀な自動人形。

 (スタジオに行く。10人ほどの小さな子がお兄さんと一緒に体操するので、スタッフは多い。万全の体勢で望むようだ。しかし、めざとく、ロブが見つけられてしまい、子供たちに取り囲まれてしまった。自動人形だ、人間の扱いはうまい。何とか相手している。
 いつまでたっても離れないので、スタッフが協議した結果、そのまま画面内に出すことにした。
 エクササイザー99の登場だ。スクリーンにアニメが映る。テレビでは、この画像のみがでるはずだ。東京湾を低空で進むヘリコプターの視点。トカマク基地の地下から、巨大ロボが迫り上がり、ポーズ。スタジオのカメラに切り替わり、お兄さんが威勢よく体操開始の合図。音楽スタート、エクササイザーもイチもレイも六郎も踊る。もちろん、お兄さんと一緒に体操している子もいるけど、画面のこっち側では、ほとんど動かずにロブを撫でている子供数名。ロブは身体と頭を軽く揺すって、雰囲気を出す。けなげだ。)

清水。何とかなったみたい。どうなることかと思った。

伊勢。ロブが人気。

水本。だって、かわいいもん。優しい顔、たくましい体つき。性格も良い。

 (音楽が終わり、歌のお姉さんとお兄さん、ぬいぐるみなどが加わり、くす玉がわれる。お別れの歌を歌って、おしまい。これが、あと2回続いた。)

水本。よかった。

火本。うーん、かっこよすぎる。あんな激しい運動は無理だ。

水本。エクササイザーのこと?。

火本。アニメだから、しかたがないか。

伊勢。本物ができたとして、見た感じは、あんなのでしょう?。

火本。もちろん。簡単な計算はしている。大きく外れることは無い。印象は保たれると思う。

伊勢。じゃあ、励みになる。

 (しかし、励みどころでは無くなるのである。この巨大ロボが単なるアニメでなく、現実であることがほどなく知られてしまうのだ。その話は、後に。
 イチとレイと六郎は、採用になり、しばらく出演することになった。伊勢から、かわいい衣裳を着せるようにとの注文が付き、次回からは週毎に服装が変わることになる。)

第29話。巨大ロボ、エクササイザー99。16. ID社にて

2010-08-19 | Weblog
 (松添氏と月野さんが話している。著作権とかの打ち合わせだろう。特にID社から注文は無いらしい。短時間で済んだ。月野さんがやってきた。)

月野。アンたちを見たいとのことです。連れてくるのは無理だというと、ID社に来るという。

奈良。オフィスは狭い。会議室ですか?。

月野。サイボーグ研がいいでしょう。博士、いかがですか。

博士。構わぬ。オーケーじゃ。

 (行きたい人を募ると、30人ほどにもなったので、ID社からバスを出す。都内だ、そんなに時間はかからない。ほどなく着いて、正面から入る。二階のサイボーグ研は、すぐだ。大きな機材はなく、まだ閑散としている。総務が用意したらしいテーブルと、休憩用のイスが並べられていた。お茶とお菓子も用意されている。
 伊勢やアンたちを呼ぶ。これで全部だ。)

月野。今、日本にいる自動人形は、この7機。五郎と六郎とモグは周辺機器扱いです。

 (1/2公比のアン人形が届いていた。虫眼鏡で見える、1/8000スケールまでだ。火本の要請で、モノリスたちの人形も持ってくる。スタッフは、自動人形と話したり、人形を手に持って、いろんな角度から見たり。伊勢や志摩たちとも話している。)

松添。アニメもびっくりのロボットたちだ。いったい、この部署は何をする所ですか。

海原。情報収集部かの?。日本の企業の科学技術動向を分析して、本部に報告する部署じゃ。市場調査じゃの。ついでに、怪しい取引先の調査もする。ID社の測定器は高級すぎて、悪用されたら大事だからじゃ。

松添。救護とは関係ない仕事だ。

海原。そう。自動人形は救護ロボットとして開発された。だから、危険の検出は命懸けじゃ。その特性が、怪しい企業や団体での調査に役立つ。自分では何もできないから、そばに人間が必要じゃが。

松添。じゃあ、ここで自動人形は活躍している。

海原。大活躍と言っていい。世界的にも珍しいそうじゃ。救護動作そのものは、人間にはどうしても劣るからのう。

松添。それでも救護ロボット。

海原。こやつらは、人間が近づけないような環境でも動作する。そんな場所に飛び込んで、人間を救助するのだ。応急手当もできる。

松添。人間の代わりに。

海原。そう。人間が動けない環境で、人間の代わりに機械や道具を使う。良い発想じゃろう?。

松添。発想はよくても、そんな機会はめったにない。すぐに逃げているはずだ。

海原。核事故など、めったにない。だから、たいして使い道がなかったのじゃ。見れば分かるじゃろ。大変高度な装置。維持費がバカにならぬ。A国軍は必死で使おうとした。高度にチューニングされているのは、そのため。だが、ついにあきらめた。だから、ここにいる。

松添。ID社が買い取った理由は。

海原。最初は、極地やジャングルなどの悪条件下で観測をするロボットを目指した。だが、失敗。

松添。なぜ。

海原。先に言ったとおり。そばに人間がいないと、意味のある動作ができない。

松添。ロボットだから。当然か。ロボットが耐えても、そばの人間は動けない。なるほど。

海原。大規模な開発は中止。しかし、なぜか維持費は継続した。奈良部長は、そのころに自動人形に出会った。彼は獣医。動物の世話をさせた。軍には馬や犬や伝書鳩がいる。動物の扱いは最初からできたそうじゃ。

松添。人間と一緒にウシやブタを世話するロボットか。面白い。そして、情報収集部に来た。たまたま調査に連れていったら、役立ったということ。

海原。さすがの奈良部長も、最初は半信半疑だったそうじゃ。むしろ、部下の伊勢の方が、自動人形の潜在能力に気付いておった。

 (スタッフの一人が、エクササイザー99の模型を目ざとく見つけた。火本の話を聞いてびっくり。たちまち、評判になる。)

栗川。本当に、身長18mのロボットを作る。それも、置物でない。動くやつ。

火本。まだ、できるかどうか。可能性を探っているところです。

栗川。ガソリンエンジンで動くとか。

火本。立って歩いて、体操するクレーン車と考えればよい。200馬力程度のエンジンで動くはず。ガソリンエンジンが適当かどうかは考察の対象。

栗川。たった200馬力で巨大ロボットがずんずん動く。

火本。動きは鷹揚で、激しくはない。太極拳を見ているような感じになる。

栗川。重さは。

火本。10トン。でないと、地下基地からせり上げることができない。

栗川。何と地下基地。富士山中腹とか。

火本。東京湾東岸ですよ。

栗川。冗談じゃないんだ。

火本。大まじめ。スポンサーに逃げられたらおしまい。

栗川。体操するだけのロボットに金を出す。

火本。そうらしい。まだ資金は来てませんけど。

栗川。基地も作る。

火本。好事家が勝手に他人の土地に作ってしまった。提供してくれるそうです。使ってくれるのならと。どうしても、維持したいらしい。

栗川。あなた、大変な話をしている。ニュースだ。松添さーん。

 (原子炉があるから、話を拡大したくなかったのだ。だが、この手の話題に眼のない連中、たちまち騒ぎになり、解説せざるを得なくなった。)

スタッフ1。トカマク第二基地。そんなもの作った人がいるのか。

清水。違法行為ですよ。金持ちの道楽。

スタッフ2。そんなことはどうでもいい。使えるんですか?。

清水。どうでもいいって…。使えそうです。検討中。我々が調査した資料をお見せします。いいですか?、部長、教授。

大江山。構わない。まだ海の物とも山の物とも。

 (しかし、連中、都合のよいところしか聞いてない。スクリーンにでてきた資料に驚いている。こちらが勝手に作ったラットルズの衣裳にも。)

スタッフ1。あきれた。この格好をした。

清水。見たとおり。ちょっとねじの曲がった社長を説得するため。

スタッフ2。やってよ。

清水。いますぐ。

スタッフ2。できれば。

 (幸い、伊勢の機嫌はよかった。全員、ラットルズの格好して現れる。司令は大江山教授がやってくださった。歓声が飛ぶ。感激して、涙を流しているやつまでいる。)

奈良。そんなに人気だったんですか。

松添。一部では。肝心の子供にはあまり受けない。ここにいるような連中に受けたわけ。

奈良。プロダクションでも、そんなこと言ってた。

松添。見せたんですか?。本物に。

奈良。ええ、良くできているって、笑っていたらしい。ついでに、何とか使おうかと。

松添。何と。こりゃ大変。連絡してみます。大きな山になるかもしれない。

 (さっそくケータイで電話している。かくして、こちらも放送化の俎上に載る。)

松添。すばらしい。サイボーグ研。こちらも協賛できませんか。

奈良。デザインとか。

松添。ええ。できるかぎりのことをします。

 (大江山教授を呼ぶ。今のところ、どんな企業でもウェルカムらしい。星野さんに手続きを勧めるよう指示していた。)

第29話。巨大ロボ、エクササイザー99。15. アニメの試写会

2010-08-18 | Weblog
 (数日後、とある放送局から、ロブとイチとレイのアニメができたので、見に来ないかとお誘いが来た。)

伊勢。そんな話があったわ。

奈良。本当に放映されるのか。

海原。そうじゃろう。どれ、行くか。

 (海原博士と火本と水本、私(奈良)と虎之介と亜有が行く。自動人形はロブ、イチ、レイ、五郎、六郎。総務からは自動人形の展示会でお世話になっている月野さんと星野さん。モグで約束の時間に乗り付ける。
 受付で行き先を聞こうとしたら、担当が待っていた。)

松添。はじめまして、私、プロデューサの松添信と言います。こちら、監督の栗川。

栗川。はじめまして。栗川大洋です。

奈良。はじめまして。日本ID社情報収集部部長の奈良治です。こちらが国立サイボーグ研究所所長の海原四方博士。そちらが総務の…。

松添。試写室に行きましょう。他のスタッフやお偉いさんもいます。そちらで、メンバーの紹介をお願いします。

 (松添氏に連れられて、試写室とやらに行く。小さな映画館みたいなところだ。人数がやたらと多い。なぜだ。)

火本。自動人形を見に来たのかな。

水本。そう。こっちが見せ物よ。

松添。うわあ、よく集まったな。これでほぼ全員か。

栗川。全員プラス知人のようだ。

松添。みなさん、試写会によく集まってくださいました。こちら、自動人形を統合している奈良治部長。

 (なぜか拍手が来たりする。わたしもつられて、手を振ったりする。メンバーが次々に紹介される。五郎と六郎がやたらに受ける。日頃、あまり露出していないからか。
 次に、先方のスタッフ紹介。委託ではなく、内製のアニメのようだ。)

火本。4月からの放映ですか?。

松添。そうです。4月の第一土曜から。

水本。直近じゃない。じゃあ、完成品。

松添。もちろん。最初の3回分は完成しています。

水本。放送時間帯は?。

松添。深夜1時から。

火本。マニア向け。

松添。やや硬派なSFなので、評判を見てから変更が必要なら考えます。みなさんにも、すなおな意見をいただきたい。

 (アニメをスクリーンに映す。メインキャラクタはロブとイチとレイのようだが、主人公格は火本と水本のような感じのメンバー。海原博士と亜有と志摩と虎之介のような人物がいる警察の部署に、自動人形使いの火本と水本が配属された設定。)

奈良。荒唐無稽。

星野。じゃないと、恐い内容ですよ。

 (でもって、初回はとある国際犯罪組織との戦いで、デビュー戦。やたらと派手。それに、ロブとイチとレイは、名前がそのまんま。さすがに、火本以下はアニキャラ風の名前が付いている。)

芦屋。おれは剣を振り回すのか。どちらかというと、普通の小銃の方がいい。

亜有。私、軍用銃を撃ちまくっている。あんな大きなの、片手で撃てない。

松添。その調子でお願いします。

レイ。命綱付けてない。恐い。

イチ。吹っ飛ばされるよ。

ロブ。おれはミサイル搭載か。あっ、雷みたいなの発射した。あれは何だ。

栗川。電磁砲ですよ。

ロブ。訳分からん。

清水。架空の武器よ。あなおそろし。

 (警察の架空の部署だから、デザインは巧妙に変えてある。でも、救護服の雰囲気はよく出ている。)

火本。おれたちは、こそこそ逃げ回って、状況を解説する役だ。

水本。普段から、そうしているじゃない。あっ捕まった。自動人形に助けられている。情けなー。

火本。現実もそうだな。

 (初回が終わる。次回からは、レギュラーの悪のメンバー登場。首謀は私(奈良)。クロを抱えている。眼から光線が出るロボット。)

クロ(会話装置)。あんなのが欲しいぞ。

清水。よけいよ。今でも、充分恐い。

栗川。何か攻撃手段でも。

清水。引っかく、噛む。見かけより、はるかに力がある。ヒトの骨を簡単に砕く。つまり、普通の大型ネコと同様。直径10cmの隙間を抜け、音もなく忍び寄る。センサーや頭脳はアンたちと同じ。むしろ、小回りが利いて、有利。

栗川。A31の強さの秘訣。

清水。そう。アンとタロとジロだけだと、人間の代用でしかない。クロがいると、機動性が飛躍的に高まる。たから、A国軍は自動人形にこだわり続けた。あきらめるまで、40機もの自動人形を作った。

栗川。それいい。そのアイデアちょうだいだ。なぜ、ロブとイチとレイが突如現れたのか、理由が必要。

清水。あきれた。考えてなかったの?。

栗川。陳腐だけど、定番。なぜロブとイチとレイが高度な武器を持っているのか。それは…。

 (伊勢みたいなのが出てきた。ちょっと恐い格好をした、アンとタロとジロを従えている。部下はもう一人いて、将軍と呼ばれている。こちらはくそまじめな軍人風。強力な軍団と装備を擁している。伊勢の変則攻撃を毛嫌いしている。伊勢も伊勢で、功名心だけで動く将軍が大嫌い。だから、いつも将軍と対立している。)

水本。伊勢さんが自動人形を作ったことになってる。

海原。いざとなったら、作れるじゃろ。

水本。ええ、彼女ならやるでしょう。おほほほ、またひとつ、すごいロボットができた。うーん、どこかでご披露したいわね。また、あのでくのぼう将軍を出し抜いてやろうかしら。

栗川。マッドサイエンティスト。よかった、設定通りで。

芦屋。なぜばれたんだ。

清水。こほん。あくまで、アニメの話です。