(朝食の片付けは鈴鹿がやった。虎之介が用意してくれた器具を点検して、作業開始。
イチとレイが取っかかりとなるロープを張って行く。200m四方ほどの、狭い場所だ。空中サーフボードを使って、うまく木に飛び移る。伊勢が指示している。
こちらは道無き道を行く。鈴鹿とエレキとマグネがいっしょだ。エレキが先頭で、次が鈴鹿。私が3番目で、最後尾がマグネ。
やっとのことで、フィールドに到達する。こちらは観察しながら進む。マグネは先に進めて、危険があるかどうかをチェックする。)
奈良。堆積物を掻き分けた方がいい。
鈴鹿。いっぱいいる。いつも踏んづけているんだ。
奈良。避けるなんて不可能だ。
(昆虫より小さい生物がたくさん居る。中でもダニ類は色がきれいだ。)
鈴鹿。これもダニかな。
奈良。8本足で、糸を出していなければダニだ。
鈴鹿。姿は小さなクモみたい。
(地上の観察は2時間ほどで一巡できた。フィールドの様子が分かったので、モグに帰る。伊勢が出発の用意をしていたので、鈴鹿と行く。私は、モニタでイチたちの監視。ロープをうまく使って、林冠部の木の表面や葉の裏などを調べる。ダニ以外も多いし、あまりに個体数が多く、うまく調べないと、散漫になりそうだ。
伊勢が到着。自分でもフィールド全体を回る気だ。時間をかけて観察している。伊勢と私では注目点がかなり違うらしく、鈴鹿は面白かったそうだ。
帰ってきたのは、正午少し過ぎ。元気な鈴鹿は、昼食の用意。こちらは、作戦会議。何を重点的に見るか、順序はどうするかを決めて行く。文献を調査し、資料を取り寄せる。さすがに伊勢で、特徴的な化学物質によって種を特定する気だ。自然界で彼ら自身が使っている方法だ。ふと、気付くと鈴鹿がじっと見ている。)
鈴鹿。幸せそう。
伊勢。うふふ、まあね。浮世を忘れるってやつ。
奈良。鈴鹿も学者のエリートコースに乗っているはずだ。
鈴鹿。そういわれた。水本さんや土本さんは自覚がある。火本くんですら、自分の興味の赴くままではなくって、政治的意図を隠そうとしない。
伊勢。難しいわね。この調査はID社の指定項目だから、ID社が欲している情報でもある。
鈴鹿。伊勢さんや奈良さんの知恵を借りて、製品戦略の参考にする。
伊勢。だから、資金が出るのよ。タダじゃない。
鈴鹿。資金がなくてもやるんでしょ。
伊勢。あなた、よく分かっているじゃない。そうよ。暇があれば。
鈴鹿。一生かかっても、調査しきれない。
伊勢。それほどの山じゃないと、ちっとも面白くない。あなた、面白く思えるの?。
鈴鹿。微妙。彼らなりの世界があるのは興味がある。
伊勢。うふふ。1/1000になったアン人形。
鈴鹿。不思議の国のアリス。
奈良。とても面白いんだ。人間の目は0.1mmまで分解能があるけど、実際には1mmを下回ると普段は気付かない。
鈴鹿。同じ場所にいるのに、別の世界の住人。
奈良。そう。虫眼鏡の下は、全く別の原理で駆動している。
鈴鹿。素敵。
伊勢。素敵って、サイボーグ計画はそこまでやるんでしょうが。
鈴鹿。ええ。水本さんたち、知っているかな。
伊勢。教えてあげたら?。喜ぶかどうかで、彼らの実力が分かる。
鈴鹿。うん。試してみる。ささ、お昼ご飯をどうぞ。
伊勢。ううむ。おもいっきり主婦ご飯。そばにおむすび。
鈴鹿。てへへ。…、あんにゃろー、こんな食材選びやがって。
奈良。気が張らなくていい。ふつうにおいしいし。
伊勢。あらあ、心やさしい部長。
鈴鹿。特徴のある男ばかり集まってるから、世間の男ってどんなのか想像もつかない。
伊勢。そんな平凡なやつ、ちっとも面白くないわよ。きっとがっかりする。幸運よ。海原博士なんて、よく演技してくださる。って、あんた、営業しているでしょう。それよ、普通の男って。
鈴鹿。仕事で必死だし、こっちが演技してる。でも、何となく分かる。
伊勢。それが正常男よ。
奈良。こっちはヘンタイよいこか。
鈴鹿。何それ。
奈良。昭和は遠くなりにけり。
伊勢。クレージーキャッツとか知ってる?。
鈴鹿。「星よりひそかに」とか。
伊勢。全然違う。もういいわ。
(食事が終わり、得られたデータを検討する。手当たり次第に見るだけだと、散漫になってしまう。テーマを絞らなくては。家畜は出てこないので、伊勢が化学物質中心に課題をまとめて行く。アナライザーで遠隔から分光分析できる利点がある。鈴鹿が目を丸くしている。)
鈴鹿。すごい。何でそんなにアイデアが出てくるの?。
伊勢。アイデアなんて大したことない。現実に使える形にするのが大変なのよ。
鈴鹿。そうなの?、奈良さん。
奈良。伊勢だからできるような気がする。
伊勢。奈良さんとは見方が違うから。何か入れたいテーマがある?。
奈良。大形動物が出てきたら、ダニの行動が変わるかどうかは、多少興味がある。
伊勢。なるほど。自動人形に注意するように言っておく。ウサギ以上の大きさの動物。
奈良。ムササビとかヘビとかか。どうしようかな。
伊勢。自動人形は、マウス以上の動物と、少数の危険動物に反応する。やっておく。
奈良。そっちは植物との対応か。
伊勢。当然。あとは日光とか温度とか湿度とか。
鈴鹿。化学物質って、分かってるの?。
伊勢。分かってるのもあるけど、ほとんどが未知。昆虫レベルでも、わずかな種類の刺激に反応しているだけ。ダニはさらに簡単なはず。
鈴鹿。よく生きられる。
伊勢。彼らなりの進化の頂点よ。興味あるの?。
鈴鹿。あまりないけど、話を聞くのは面白そう。
伊勢。それでいいわ。いつでも聞いてちょうだい。
鈴鹿。うん。
(伊勢はさっさと手順を仕上げて行く。イチにアナライザーを調整させ、観察しては手順を考えて行く。しつこいので、イチは泣きそうになるが、レイが慰めている。)
鈴鹿。自動人形同士でもあんなことするのね。
奈良。会話は反応だ。そばにいるだけでいい。それを知らせるための仕草だ。
鈴鹿。いいコンビ。
奈良。イチとレイは、そばにいることが多いからな。役割ができているんだろう。
鈴鹿。だろう、って、奈良さんにも分からないんですか?。
奈良。そう見える。私の素直な感想を言っただけだ。本当のところは本人に聞かないと分からない。
鈴鹿。でも、聞いたところで、目の前の事実を解析してくれるだけ。
奈良。それだけだ。何も分からない。どれ、決まったようだな。エレキで試してみるか。
伊勢。ええ、やってみて。感想を聞かせて欲しい。
鈴鹿。こちらもいいコンビ。あうんの呼吸ってやつ。
イチとレイが取っかかりとなるロープを張って行く。200m四方ほどの、狭い場所だ。空中サーフボードを使って、うまく木に飛び移る。伊勢が指示している。
こちらは道無き道を行く。鈴鹿とエレキとマグネがいっしょだ。エレキが先頭で、次が鈴鹿。私が3番目で、最後尾がマグネ。
やっとのことで、フィールドに到達する。こちらは観察しながら進む。マグネは先に進めて、危険があるかどうかをチェックする。)
奈良。堆積物を掻き分けた方がいい。
鈴鹿。いっぱいいる。いつも踏んづけているんだ。
奈良。避けるなんて不可能だ。
(昆虫より小さい生物がたくさん居る。中でもダニ類は色がきれいだ。)
鈴鹿。これもダニかな。
奈良。8本足で、糸を出していなければダニだ。
鈴鹿。姿は小さなクモみたい。
(地上の観察は2時間ほどで一巡できた。フィールドの様子が分かったので、モグに帰る。伊勢が出発の用意をしていたので、鈴鹿と行く。私は、モニタでイチたちの監視。ロープをうまく使って、林冠部の木の表面や葉の裏などを調べる。ダニ以外も多いし、あまりに個体数が多く、うまく調べないと、散漫になりそうだ。
伊勢が到着。自分でもフィールド全体を回る気だ。時間をかけて観察している。伊勢と私では注目点がかなり違うらしく、鈴鹿は面白かったそうだ。
帰ってきたのは、正午少し過ぎ。元気な鈴鹿は、昼食の用意。こちらは、作戦会議。何を重点的に見るか、順序はどうするかを決めて行く。文献を調査し、資料を取り寄せる。さすがに伊勢で、特徴的な化学物質によって種を特定する気だ。自然界で彼ら自身が使っている方法だ。ふと、気付くと鈴鹿がじっと見ている。)
鈴鹿。幸せそう。
伊勢。うふふ、まあね。浮世を忘れるってやつ。
奈良。鈴鹿も学者のエリートコースに乗っているはずだ。
鈴鹿。そういわれた。水本さんや土本さんは自覚がある。火本くんですら、自分の興味の赴くままではなくって、政治的意図を隠そうとしない。
伊勢。難しいわね。この調査はID社の指定項目だから、ID社が欲している情報でもある。
鈴鹿。伊勢さんや奈良さんの知恵を借りて、製品戦略の参考にする。
伊勢。だから、資金が出るのよ。タダじゃない。
鈴鹿。資金がなくてもやるんでしょ。
伊勢。あなた、よく分かっているじゃない。そうよ。暇があれば。
鈴鹿。一生かかっても、調査しきれない。
伊勢。それほどの山じゃないと、ちっとも面白くない。あなた、面白く思えるの?。
鈴鹿。微妙。彼らなりの世界があるのは興味がある。
伊勢。うふふ。1/1000になったアン人形。
鈴鹿。不思議の国のアリス。
奈良。とても面白いんだ。人間の目は0.1mmまで分解能があるけど、実際には1mmを下回ると普段は気付かない。
鈴鹿。同じ場所にいるのに、別の世界の住人。
奈良。そう。虫眼鏡の下は、全く別の原理で駆動している。
鈴鹿。素敵。
伊勢。素敵って、サイボーグ計画はそこまでやるんでしょうが。
鈴鹿。ええ。水本さんたち、知っているかな。
伊勢。教えてあげたら?。喜ぶかどうかで、彼らの実力が分かる。
鈴鹿。うん。試してみる。ささ、お昼ご飯をどうぞ。
伊勢。ううむ。おもいっきり主婦ご飯。そばにおむすび。
鈴鹿。てへへ。…、あんにゃろー、こんな食材選びやがって。
奈良。気が張らなくていい。ふつうにおいしいし。
伊勢。あらあ、心やさしい部長。
鈴鹿。特徴のある男ばかり集まってるから、世間の男ってどんなのか想像もつかない。
伊勢。そんな平凡なやつ、ちっとも面白くないわよ。きっとがっかりする。幸運よ。海原博士なんて、よく演技してくださる。って、あんた、営業しているでしょう。それよ、普通の男って。
鈴鹿。仕事で必死だし、こっちが演技してる。でも、何となく分かる。
伊勢。それが正常男よ。
奈良。こっちはヘンタイよいこか。
鈴鹿。何それ。
奈良。昭和は遠くなりにけり。
伊勢。クレージーキャッツとか知ってる?。
鈴鹿。「星よりひそかに」とか。
伊勢。全然違う。もういいわ。
(食事が終わり、得られたデータを検討する。手当たり次第に見るだけだと、散漫になってしまう。テーマを絞らなくては。家畜は出てこないので、伊勢が化学物質中心に課題をまとめて行く。アナライザーで遠隔から分光分析できる利点がある。鈴鹿が目を丸くしている。)
鈴鹿。すごい。何でそんなにアイデアが出てくるの?。
伊勢。アイデアなんて大したことない。現実に使える形にするのが大変なのよ。
鈴鹿。そうなの?、奈良さん。
奈良。伊勢だからできるような気がする。
伊勢。奈良さんとは見方が違うから。何か入れたいテーマがある?。
奈良。大形動物が出てきたら、ダニの行動が変わるかどうかは、多少興味がある。
伊勢。なるほど。自動人形に注意するように言っておく。ウサギ以上の大きさの動物。
奈良。ムササビとかヘビとかか。どうしようかな。
伊勢。自動人形は、マウス以上の動物と、少数の危険動物に反応する。やっておく。
奈良。そっちは植物との対応か。
伊勢。当然。あとは日光とか温度とか湿度とか。
鈴鹿。化学物質って、分かってるの?。
伊勢。分かってるのもあるけど、ほとんどが未知。昆虫レベルでも、わずかな種類の刺激に反応しているだけ。ダニはさらに簡単なはず。
鈴鹿。よく生きられる。
伊勢。彼らなりの進化の頂点よ。興味あるの?。
鈴鹿。あまりないけど、話を聞くのは面白そう。
伊勢。それでいいわ。いつでも聞いてちょうだい。
鈴鹿。うん。
(伊勢はさっさと手順を仕上げて行く。イチにアナライザーを調整させ、観察しては手順を考えて行く。しつこいので、イチは泣きそうになるが、レイが慰めている。)
鈴鹿。自動人形同士でもあんなことするのね。
奈良。会話は反応だ。そばにいるだけでいい。それを知らせるための仕草だ。
鈴鹿。いいコンビ。
奈良。イチとレイは、そばにいることが多いからな。役割ができているんだろう。
鈴鹿。だろう、って、奈良さんにも分からないんですか?。
奈良。そう見える。私の素直な感想を言っただけだ。本当のところは本人に聞かないと分からない。
鈴鹿。でも、聞いたところで、目の前の事実を解析してくれるだけ。
奈良。それだけだ。何も分からない。どれ、決まったようだな。エレキで試してみるか。
伊勢。ええ、やってみて。感想を聞かせて欲しい。
鈴鹿。こちらもいいコンビ。あうんの呼吸ってやつ。